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第1回2008年7月22H...

Date post: 08-Aug-2020
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4 大阪女学院大学国際共生研究所通信 創刊号 社会的公正に基づく共生の研究 一つの研究課題は『社会的公正に基づく共生』であ り、ここでは国際社会における共生の詳細な現状分析 およびあるべき共生の姿を研究する。具体的には、国 際の平和と安全保障、人権の国際的保障、持続可能な 開発の促進、地球環境の保護、多文化共生社会の構築、 人間の安全保障など、国際社会に生起する重要課題を 総合的に研究し、全体としての国際共生の学問的体系 化を志向するものである。これらの研究は個々の研究 者による個別的研究にとどまらず、複数の研究者によ る共同研究をめざすものであり、研究所のプロジェク トとしての総合的な研究を行う。これらの活動は2ヵ 月ごとに定期的に開催される「平和・人権研究会」で の研究発表および討論を中心としつつ、国内のみなら ず国外からの専門家を招待して、随時開催される研究 会あるいは講演会などを通じて実施される。また国内 および海外に存在する同種の研究所等との連携を図り、 対外的にも積極的に研究活動を進める。 黒澤 満 プロジェクト1においては、国際社会におけるさまざ まな主体間における共生の問題を検討しており、本学の 教員を中心として研究会を継続し、また別項にあるよう に、2009年10月16日には外部から講師をお招きして講 演会を開催している。 平和・人権研究会 この研究会は研究所の開設以前から活動を開始してお り、これまで以下のような研究会を実施してきた。ここ においては、各研究員の個別専門研究を報告し議論する ことにより、各研究員の専門分野を相互に理解するとと もに、今後の共同研究のための共通部分の認識を強化す ることを目的としてきた。 第1回2008年7月22H 報告者黒澤満教授 「NP T再検討プロセスと核軍縮」 第2回 2008年9月30日 報告者 香」l1孝三教授 「労働C S Rの世界的潮流とアジア」 第3回 2008年11月18日 報告者 元百合子准教授 「宗教と人権」 第4回 2009年I月13H 報告者 前田美子准教授 r途上国における教員養成の現状と課題」 第5回 2009年4月24日 報告者 馬渕仁教授 r多文化・異文化リテラシーにおける『文化』のとら え方」 第6回 2009年6月26日 報告者 奥本京子准教授 「東北アジアにおける平和共同体創造実現に向けて: 芸術アプローチの導入と、『朗読劇プロジェクト』の 提案」 第7回2009年7月24日 報告者 米田信子大阪大学准教授 rヨーロッパ発『多言語主義』とアフリカの多言語状 況一言語権の視点から一」 第8回 2009年10月16日 報告者 黒澤満教授 「オバマ政権の核軍縮・核不拡散政策の背景 一国際共生の観点から一」 第9回 2009年12月15日 報告者 香川孝三教授 「バングラデシュにおける船舶解体と児童労働」 今後の研究計画 プロジェクト1の今後の研究は、r国際共生による新し い秩序の形成」というテーマのもとに、r国際共生」の意味・ 内容を明確にする作業から開始し、これが新たな秩序形 成のための有益な概念でありうるとして、広い範囲にお いて検討を進めることを計画している。 そこでは、r国際共生」は、国際共存、国際協力、国際協調、 国際共同などこれまでの概念を超えて、「お互いに利益を 得て共に生きる」という意味としてとらえ、国際社会に おけるさまざまな領域における実際的および理論的検討 を行う。 この研究は総論の部分と各論の部分から成り、総論は 研究員全員で議論するが、各論においては各研究員の専 門分野を以上の観点から研究することになる。各論とし ては、平和、人権、環境、開発、文化の5分野が考えら れており、各研究員が分担する。 研究会としては、2ヵ月に1回開催されている「平和・ 人権研究会」における報告と議論をべ一スとして進めて いく。またこれに関連して、外部の専門家を招き、講演 会やシンポジウムを開催するとともに、r国際共生」を研 究課題としているさまざまな研究機関との連携を進めて いくことも予定している。 さらに、中長期的には研究成果を書籍として千1」付する ことを予定している。それはこれからの研究の進捗状況 にも依存するが、一つはr国際共生」に関する一般的な 入門書としての研究成果の発表と、もう一つは国際共生 の個々の側面における高度の専門的な学問的成果として の発表を予定している。
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Page 1: 第1回2008年7月22H 報告者黒澤満教授ir-lib.wilmina.ac.jp/dspace/bitstream/10775/1747/1/20120217.pdf · r看護師・介護士受け入れ一フィリピンと日本を結ぶ視点」

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大阪女学院大学国際共生研究所通信 創刊号

社会的公正に基づく共生の研究

一つの研究課題は『社会的公正に基づく共生』であ

り、ここでは国際社会における共生の詳細な現状分析

およびあるべき共生の姿を研究する。具体的には、国

際の平和と安全保障、人権の国際的保障、持続可能な

開発の促進、地球環境の保護、多文化共生社会の構築、

人間の安全保障など、国際社会に生起する重要課題を

総合的に研究し、全体としての国際共生の学問的体系

化を志向するものである。これらの研究は個々の研究

者による個別的研究にとどまらず、複数の研究者によ

る共同研究をめざすものであり、研究所のプロジェク

トとしての総合的な研究を行う。これらの活動は2ヵ

月ごとに定期的に開催される「平和・人権研究会」で

の研究発表および討論を中心としつつ、国内のみなら

ず国外からの専門家を招待して、随時開催される研究

会あるいは講演会などを通じて実施される。また国内

および海外に存在する同種の研究所等との連携を図り、

対外的にも積極的に研究活動を進める。

黒澤 満

プロジェクト1においては、国際社会におけるさまざ

まな主体間における共生の問題を検討しており、本学の

教員を中心として研究会を継続し、また別項にあるよう

に、2009年10月16日には外部から講師をお招きして講

演会を開催している。

平和・人権研究会

この研究会は研究所の開設以前から活動を開始してお

り、これまで以下のような研究会を実施してきた。ここ

においては、各研究員の個別専門研究を報告し議論する

ことにより、各研究員の専門分野を相互に理解するとと

もに、今後の共同研究のための共通部分の認識を強化す

ることを目的としてきた。

第1回2008年7月22H 報告者黒澤満教授

「NP T再検討プロセスと核軍縮」

第2回 2008年9月30日 報告者 香」l1孝三教授

「労働C S Rの世界的潮流とアジア」

第3回 2008年11月18日 報告者 元百合子准教授

「宗教と人権」

第4回 2009年I月13H 報告者 前田美子准教授

r途上国における教員養成の現状と課題」

第5回 2009年4月24日 報告者 馬渕仁教授

r多文化・異文化リテラシーにおける『文化』のとら

え方」

第6回 2009年6月26日 報告者 奥本京子准教授

「東北アジアにおける平和共同体創造実現に向けて:

芸術アプローチの導入と、『朗読劇プロジェクト』の

提案」

第7回2009年7月24日 報告者 米田信子大阪大学准教授

rヨーロッパ発『多言語主義』とアフリカの多言語状

況一言語権の視点から一」

第8回 2009年10月16日 報告者 黒澤満教授

「オバマ政権の核軍縮・核不拡散政策の背景

一国際共生の観点から一」

第9回 2009年12月15日 報告者 香川孝三教授

「バングラデシュにおける船舶解体と児童労働」

今後の研究計画

プロジェクト1の今後の研究は、r国際共生による新し

い秩序の形成」というテーマのもとに、r国際共生」の意味・

内容を明確にする作業から開始し、これが新たな秩序形

成のための有益な概念でありうるとして、広い範囲にお

いて検討を進めることを計画している。

そこでは、r国際共生」は、国際共存、国際協力、国際協調、

国際共同などこれまでの概念を超えて、「お互いに利益を

得て共に生きる」という意味としてとらえ、国際社会に

おけるさまざまな領域における実際的および理論的検討

を行う。

この研究は総論の部分と各論の部分から成り、総論は

研究員全員で議論するが、各論においては各研究員の専

門分野を以上の観点から研究することになる。各論とし

ては、平和、人権、環境、開発、文化の5分野が考えら

れており、各研究員が分担する。

研究会としては、2ヵ月に1回開催されている「平和・

人権研究会」における報告と議論をべ一スとして進めて

いく。またこれに関連して、外部の専門家を招き、講演

会やシンポジウムを開催するとともに、r国際共生」を研

究課題としているさまざまな研究機関との連携を進めて

いくことも予定している。

さらに、中長期的には研究成果を書籍として千1」付する

ことを予定している。それはこれからの研究の進捗状況

にも依存するが、一つはr国際共生」に関する一般的な

入門書としての研究成果の発表と、もう一つは国際共生

の個々の側面における高度の専門的な学問的成果として

の発表を予定している。

Page 2: 第1回2008年7月22H 報告者黒澤満教授ir-lib.wilmina.ac.jp/dspace/bitstream/10775/1747/1/20120217.pdf · r看護師・介護士受け入れ一フィリピンと日本を結ぶ視点」

大阪女学院大学国際共生研究所通信 創刊号

国際共生研究所第1回講演会

2009年10月16目 於本学

もと報告者 元 百合子

r看護師・介護士受け入れ一フィリピンと日本を結ぶ視点」

講師 小ケ谷千穂 (横浜国立大学)

少子高齢化の進行と医療・介護現

場での労働力不足を背景に、日本は

近年、フィリピンとインドネシアか…

らの看護師と介護士の受け入れに踏

み切った。従来、外国人の就労を認め

てこなかった分野における政策転換である。

以来、メディアではサービスの質や日本語能力を懸念す

る議論、あるいは、試験的に受け入れた施設で働く様子

やサービスを受けた高齢者の感想などが報道されてきた。

それらは概ね日本人の視点からのものであって、当事者

や送り出し国の社会にとっての意味合いや影響が注目さ

れることはほとんどない。

新進気鋭の国際社会学者として労働の国際移動を研究

してこられた小ケ谷先生は、フィリピンを含むアジア諸

国を度々訪問調査して得られた情報に基づく説得力のあ

る分析と考察を展開された。まず問題なのは、r人の移動」

が、他の輸出入品目と同様に「経済連携」の一品目とし

て扱われていることである。労働力を「輸出品目」とす

る送り出し国の国家戦略と日本側の需要が合致したわけ

だが、フィリピンでは看護師協会を含めて、日比EPA(二

国間の経済連携協定)の不平等性を問題にする人々によ

る反発があった。また、「ケアギバー」(介護士)という

職種は、海外労働市場における需要に応じて創出された

ものであって、急ごしらえの養成学校も出現したという。

看護師も含めて、渡航先としては米国や中東諸国など英

語の通じる国が好まれ、日本は敬遠される傾向がある。

日本語習得の難しさに加えて3~4年以内に国家試験に

合格しないと帰国を義務付けられるという制度の厳しさ

がその理由である。

送り出し国社会にとってさらに問題なのは、家事労働

に加えて介護の担い手が海外流出することによる家事、

育児、ケアのr連鎖」である。途上国と先進国では、医

療労働者の人口比率や保健サービスの利用可能性、乳幼

児死亡率について、すでに大きな開きがある。そこに、

国家間の経済格差に沿って一方向で成立する医療・介護

労働者の大量移動(送り出し国の社会にとってはr流出」)

が加わっている。その現実を前提に「公平さ」の確保は

可能なのか、外国人の労働力がダンピングされず、適正

に処遇される「労働市場における共生」の構築は可能か、

日本社会が誠実に向き合うべき課題が投げかけられた。

アジア太平洋人権情報センターのご協力により、学外

からの参加も得てフロアーからの活発な質問や発言もあ

り、時宜を得た刺激的な講演会であった。

高等教育における英語教育の方法研究

本学では、21世紀の社会を担う大学生に対し

て、コンテンツを伴った『考える』英語教育と、言

語の4技能の習得、英語によるプレゼンテーション

や論文作成ができるといったEng1ishforAcademic

Purposes(EAP)に基づく、英語運用能力の習得を目

標に掲げて英語教育を展開してきた。さらに学部専

門教育においては、EAPを土台として、専門分野お

よび職業分野を英語で学ぷEng1ish for Professiona1

Purposes(EPP〕による英語教育に取り組んでいる。本

プロジェクトでは、大阪女学院が長年培ってきた高等

教育における英語教育の実践と手法の分析、国際社会

で必要とされる語学力と専門知識を獲得させる教育方

法の開発、国際共通語としての英語の運用能力を高め

るためのEAP・EPP教授法の研究、ヨーロッバ、アジ

アの各大学と連携を図った高等教育における英語教育

モデルの構築を行う。

智原 哲郎

日本のように英語を母語としない国における外国語学

習過程では、異なった英語教育方法が使われる。中等教

育課程での英語はEGP(E㎎1i.h for General Purpo・os)

と呼ばれ、その教授内容は言語についての一般知識、背

景文化、読み物、日常会話などである。他方、EAP(English

for Academic Purposes)は、EGPを土台として大学レベ

ルでの英語能力の習得を目標とする英語で、英語での討

論、論文作成、プレゼンテーション能力を育成すること

を目標にしている。さらに、国際的な専門職業人として

仕事にかかわるといったような場合には、ESP(Eng1ish

f・rSpecin・Purposes)/EPP(E㎎ユi・hforProfe・・i・n・1

Purposes)が必要とされる。

本来、高等教育機関での英語教育は、EAPやESP/EPPに

貝1」ったものであるべきだが、依然としてEGPを中心とし

た英語カリキュラムが構築される場合も少なからず存在

し、このため、専門学術領域や専門職業領域で要求され

る語学力の習得に十分な成果が見られていない。この現

状に対して、2003年3月の文部科学省による「『仕事で英

語が使える日本人』の育成のための行動計画」を始めと

して、高等教育機関における国際的基準を満たした専門

職業英語指導法の確立がさまざまなところで提言されて

いる。

EAPやESP/EPPによる英語指導法の確立に。-Leami㎎

の役割が注目されている。文部科学省からもe-Leami㎎

の推進が提言され、大学設置基準にもe-Learni㎎の導入

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