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熊本大学学術リポジトリ Kumamoto University Repository System Title �5-FU� : 5-FU�clAP2Author(s) �, Citation Issue date 2011-03-25 Type Thesis or Dissertation URL http://hdl.handle.net/2298/25167 Right
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熊本大学学術リポジトリ

Kumamoto University Repository System

Title 口腔扁平上皮癌の5-FU耐性機構についての研究 : 5-FU耐

性と予後におけるclAP2の役割

Author(s) 永田, 将士

Citation

Issue date 2011-03-25

Type Thesis or Dissertation

URL http://hdl.handle.net/2298/25167

Right

学位論文

口腔扁平上皮癌の5-FU耐性機構についての研究 ―5-FU耐性と予後におけるcIAP2の役割―

(Investigation of the mechanism underlying 5-FU resistance in oral squamous cell carcinoma –the role of cIAP2 for 5-FU resistance and prognosis-)

永田 将士

Masashi Nagata

熊本大学大学院医学教育部博士課程臨床医科学専攻 顎口腔病態学

指導教員

篠原 正徳 教授

熊本大学大学院医学教育部博士課程医学専攻顎口腔病態学

目次

1 要旨……………………………………………………………………………………………………. 1

2 参考論文………………………………………………………………………………………………. 2

3 謝辞……………………………………………………………………………………………………. 3

4 略語一覧………………………………………………………………………………………………. 4

5 研究の背景と目的……………………………………………………………………………………. 5

5-1. 口腔扁平上皮癌 (Oral squamous cell carcinoma : OSCC) の臨床的特徴……………………. 5

5-2. 口腔癌治療における 5-FU (5-fluorouracil) の重要性とその作用機序………………………. 6

5-3. 薬剤耐性機構…………………………………………………………………………………….. 8

5-3-1 標的分子 TS と分解酵素 DPD および他の 5-FU 活性化因子

5-3-2 薬剤排泄の機能により多剤耐性を引き起こす ABC トランスポーターファミリー

5-3-3 DNA 修復因子および関連因子による抗がん剤耐性

5-3-4 アポトーシスのメカニズムとアポトーシス調節因子

5-4. 本研究の目的…………………………………………………………………………………… 11

6 実験方法……………………………………………………………………………………………... 12

6-1. 細胞株と細胞培養…………………………………………………………………………….. 12

6-2. 薬剤耐性 OSCC 細胞株の樹立………………………………………………………………. 12

6-3. 細胞増殖試験………………………………………………………………………………….. 12

6-4. 薬剤感受性試験……………………………………………………………………………….. 13

6-5. DNA マイクロアレイ解析…………………………………………………………………… 13

6-6. RNA 抽出および RT-PCR……………………………………………………………………. 13

6-7. タンパク抽出とウェスタンブロット法…………………………………………………….. 14

6-8. 5-FU 処理後の caspase-3、-8、-9 および poly-caspase 活性測定………………………….. 14

6-9. 5-FU 処理後のアポトーシス測定……………………………………………………………. 15

6-10. siRNA による cIAP2 発現抑制実験…………………………………………………………. 15

6-11. 臨床検体の患者背景………………………………………………………………………… 15

6-12. 免疫組織化学的染色………………………………………………………………………… 16

6-13. 免疫組織化学的染色結果の評価法………………………………………………………… 16

6-14. 統計学的解析………………………………………………………………………………… 16

7 結果…………………………………………………………………………………………………... 18

7-1. 薬剤耐性 OSCC 細胞株の樹立………..………………………………………………………… 18

7-1-1. 5-FU 耐性株と CDDP 耐性株の薬剤感受性

7-1-2. 5-FU 耐性株の増殖速度と 5-FU 感受性

7-2. 親株と耐性株を用いたDNAマイクロアレイによる 5-FU耐性関連遺伝子の網羅的検索…22

7-2-1. DNA マイクロアレイ解析と cIAP2 の発現上昇

7-2-2. ウェスタンブロット法による検討

7-3. OSCC の 5-FU 耐性における cIAP2 の in vitro 機能解析…………………………………. 25

7-3-1. 5-FU 投与による caspase-3、-8、-9、poly-caspase 活性、およびアポトーシスの解析

7-3-2. cIAP2 の発現抑制による OSCC の 5-FU 感受性の増加

7-3-3. cIAP2 の抑制は 5-FU 投与による caspase-3、-9、poly-caspase 活性、およびアポトー

シスを増加させる

7-4. OSCC 組織における cIAP2 の発現に関する免疫組織化学的研究………………………31

7-4-1. OSCC 患者における腫瘍内 IAP 発現の臨床的意義

7-4-2. 免疫組織化学的染色の結果と腫瘍の臨床および病理組織学的特徴との関連

7-4-3. IAPs の発現程度と生存分析

7-4-4. 多変量解析による生存分析

8 考察……………………………………………………………………………………………………37

8-1. 5-FU 耐性機構解明のためのアプローチ…………………………………………………..37

8-2. 5-FU 耐性関連因子の選定…………………………………………………………………..37

8-3. IAPs の役割とその調節因子………………………………………………………………38

8-4. cIAP2 による抗アポトーシス作用と 5-FU 耐性…………………………………………38

8-5. 独立した 5-FU 感受性因子および予後因子としての cIAP2…………………………….39

9 結語……………………………………………………………………………………………………40

10 引用…………………………………………………………………………………………………..41

1

1. 要旨

5-fluorouracil (5-FU) 耐性は口腔扁平上皮癌 (Oral squamous cell carcinoma : OSCC) の治療にお

いて大きな障壁となる。しかしながら、OSCC において 5-FU 耐性に寄与するアポトーシス耐性

機構についてはほとんど知られていない。 Ⅰ.OSCC 細胞株を用いた 5-FU 耐性株の樹立および耐性関連遺伝子の探索

我々は OSCC 細胞株 SAS を用いて、持続的に低濃度の 5-FU を投与することにより、5-FU 耐

性株 (SAS/FR2) を樹立した。親株と耐性株の細胞増殖速度には有意な差は認めず、耐性株の

5-FU 投与への耐性度は親株の 8.6 倍であった。 次に、親株と耐性株を用いて DNA マイクロアレイ解析を行い、5-FU 耐性に関連する候補分

子を探索した。 耐性関連遺伝子の選定にあたり、得られた全ての結果の中から、5-FU 代謝、細胞膜の薬剤輸

送、抗アポトーシス、DNA 修復といった 4 つの機能に関与する標的に絞って調査したところ、

耐性株にて有意に発現が上昇していたものは、Thymidylate synthetase (TS) 、Thymidine phosphorylase (TP)、 および cellular inhibitor of apoptosis protein 2 (cIAP2) であった。これらの標

的に対しては、ウェスタンブロット法にてタンパクレベルでの発現上昇も確認することができた。

TS と TP は、現在まで多くの癌で 5-FU 耐性に関与する報告がなされているが、cIAP2 の 5-FU耐性への関与はほとんど知られていない。したがって、本研究ではまず、OSCC の 5-FU 耐性に

おける cIAP2 の機能解析のための in vitro の研究を行った。 Ⅱ.OSCC における cIAP2 の in vitro での機能解析

まず、耐性株 (SAS/FR2) は 5-FU 処理によって親株と比べアポトーシスに耐性を示し、アポ

トーシス制御タンパクである caspase 活性が低下していることを確認した。次に、siRNA を用い

て cIAP2 の発現抑制を行い、5-FU 感受性や caspase の活性およびアポトーシスの変化を調べた。 その結果、cIAP2 の発現抑制は 5-FU 感受性を有意に増加させ、著明な caspase 活性の上昇およ

びアポトーシスの増加を認めた。 これらのことより、高発現した cIAP2 による抗アポトーシス作用が、OSCC に 5-FU 耐性をも

たらしていることが示唆された。 Ⅲ.OSCC 検体を用いた免疫組織化学的研究

次に、実際の患者検体における cIAP2 発現と 5-FU 感受性の関連性を解析した。5-FU 系の抗

がん剤である TS-1® (S-1) を用いた術前化学放射線療法を施行した 54 例の OSCC 患者の生検標

本を使用し、免疫組織化学的染色にて cIAP2 とその関連分子である cIAP1、X-linked inhibitor of apoptosis protein (XIAP) の発現を評価し、予後や各種臨床パラメータとの関連性を解析した。 その結果、cIAP2 の発現と S-1 併用化学放射線療法の組織学的治療効果との間に有意な負の相

関を認めた。さらに、多変量解析を行なった結果、OSCC 患者において、cIAP2 の発現と化学放

射線療法の治療効果が予後因子となりうることが示唆された。 以上の結果より、腫瘍内の cIAP2 の発現は 5-FU 感受性のバイオマーカーとなりうることが示

唆され、5-FU の効果を増強させ、予後を改善するための治療標的となりうると考えられた。

2

2.参考論文 主論文 1 編 著者名 M Nagata, H Nakaya ma, T Tanaka, R Yoshida, Y Yoshitake, D Fukuma, K Kawahara, Y Nakagawa, K Ota, A Hiraki and M Shinohara 論文題 Overexpression of cIAP2 contributes to 5-FU r esistance and a poor prognosis in oral squam ous cell carcinoma. 雑誌名 British Journal of Cancer 巻・頁・年 105, 1322-30, 2011 その他の論文 2 編 著者名 Takuya Tanaka, Hideki Nakayama, Yoshihiro Yoshitake, Atsushi Irie, Masashi Nagata, Kenta Kawahara, Yasuo Takamune, Ryoji Yoshida, Yoshihiro Nakagawa , Hidenao Ogi, Satoru Shinriki, Kazutoshi Ota, Akimitsu Hiraki, Tetsuro Ikebe, Yasuharu Nishimura and Masanori Shinohara 論文題 Selective inhibition of NF- B by NBD peptide suppresses the m etastasis of highly m etastatic oral squamous cell carcinoma 雑誌名 Cancer Science 巻・頁・年 Impress 著者名 Ryoji Yoshida, Tetsuhiro Fujim oto, Shinji Kudoh, Masashi Nagata, Hideki Nakayam a, Masanori Shinohara and Takaaki Ito 論文題 Nucleostemin affects the proliferation but not differentiation of oral squamous cell carcinoma cells 雑誌名 Cancer Science 巻・頁・年 102, 1418-23, 2011

3

3.謝辞

本研究を行うにあたり、御指導、御支援くださいました熊本大学大学院生命科学研究部総合

医薬科学部門感覚・運動医学講座顎口腔病態学分野 篠原 正徳 教授に深く感謝いたします。

また、研究全般に関して、直接熱いご指導を頂いた中山秀樹助教に深謝いたします。

本研究を行うにあたり、多大なる協力を頂きました共同研究者の田中拓也先生、吉田遼司先生、

川原健太先生、中川純泰先生を始めとする顎口腔病態学分野の皆様に感謝いたしますとともに、

御礼申し上げます。また、研究生活を支えて頂いた皆様に心から感謝申し上げます。

4

4.略語一覧 5-FU:5-fluorouracil

Bcl-2:B-cell CLL/lymphoma 2

Bcl-XL:Bcl2-like 1(Bcl2L1)

CDDP:Cis‐diamminedichloroplatinum

CRT:Chemoradiotherapy

DAB: Diaminobenzidine

DIF :DPD-inhibitory fluoropyrimidine

DISC:Death-inducing signaling complex

DMEM: Dulbecco's modified eagle medium

DPD:Dihydropyrimidine dehydrogenase

FADD:Fas (TNFRSF6)-associated via death domain

IAC:intra arterial infusion chemotherapy

OPRT:Orotate phosphoribosyl transferase

OSCC:Oral squamous cell carcinoma

PBS: Phosphate buffered saline

RT-PCR: Reverse transcription polymerase chainrReaction

SDS-PAGE: Sodium dodecyl sulfate polyacrylamide gel electrophoresis

SMAC:Second mitochondria derived activator of caspase

SMUG1:Single-strand-specific mono-functional uracil-DNA glycosylase 1

TNF-: Tumor necrosis factor-

TP:Thymidine phosphorylase

TS:Thymidylate synthetase

TUNEL:Terminal deoxynucleotidyl transferase (TdT)-mediated deoxyuridine triphosphate (dUTP)

nick end-labeling

UP:Uridine monophosphokinase

XIAP:X-linked inhibitor of apoptosis protein

cIAP1:Cellular inhibitor of apoptosis protein 1

cIAP2:Cellular inhibitor of apoptosis protein 2

5

5.研究の背景と目的

5-1 口腔扁平上皮癌 (Oral squamous cell carcinoma : OSCC) の臨床的特徴

口腔内における主要な悪性腫瘍は扁平上皮に由来する扁平上皮癌 (SCC) であり、全口腔悪

性腫瘍 のうち 80% 以上を占める。全ての癌に対する口腔癌の割合は 1~3% 程度で、頭頸部癌

のうちでは約 35% である。性別では男性に多く、1.5 倍から 2 倍といわれている。発生部位別

では舌が最も多く、次いで歯肉に発生することが多い。OSCC に罹患すると食事や嚥下、発音

などが困難となり、患者の生活の質 (Quality of life : Q.O.L) は著しく低下する。また、OSCC

患者の 5 年累積生存率は stageⅠ、Ⅱにて 80% 以上であるが、stageⅢ、Ⅳでは 60% 前後とな

る。

口腔癌の治療として、外科療法、放射線治療、化学療法、免疫療法があり、主にこれらの治

療法を組み合わせた集学的治療が行われている。しかし、これらの治療法の進歩にかかわらず、

近年の口腔癌の治療成績はほとんど向上していない。その原因として、放射線や抗がん剤に対

する治療抵抗性が問題となっている。

6

5-2 口腔癌治療における 5-FU (5-fluorouracil) の重要性とその作用機序

頭頸部癌領域では主に Cisplatin (CDDP) を含む白金製剤と代謝拮抗剤である 5-FU 系抗がん剤

が汎用されている (Ferrari et al, 2009) 。また、両者を組み合わせた CF 療法やタキサン系抗がん

剤を加えた TPF 療法も、進行 OSCC への治療に用いられている (Posner et al, 2007) 。当科では、

OSCC の進行例に対する治療方針として、2003 年より 5-FU 系抗がん剤である TS-1® (S-1) の 2

週間内服と放射線 30Gy 照射による術前の化学放射線療法 (Chemoradiotherapy:CRT) を採用し

てきた。その結果、当科でそれ以前に行なっていた CDDP の超選択的動注 (intra arterial infusion

chemotherapy:IAC) 併用の術前 CRT 群と比較して、有意に生存率の向上を認めている(図1)。

図 1 CDDP 超選択的動注群(IAC 群)と TS-1®投与群(S-1 群)の 5 年全生存率の比較

IAC 群に対し、S-1 群が有意に生存率の上昇を認めている。生存率は Kaplan-Meier 法により算出し、生存分

析は log-rank 検定にて行った。

5-FU は、さまざま領域の癌治療において汎用されており、口腔癌においても重要な抗がん剤

である。臨床研究において、5-FU を用いた化学療法や化学放射線療法は口腔癌を含む頭頸部癌

患者の生存率向上に寄与することが報告されている (Adelstein et al, 2006; Pignon et al, 2000;

Tsukuda et al, 2010) 。

次に 5-FU の生体内での代謝について述べる。5-FU は DNA の de novo 合成酵素であるチミジ

ル酸合成酵素(Thymidylate synthetase; TS) を分子標的としている。細胞内に取り込まれた 5-FU

は Orotate phosphoribosyl transferase (OPRT) 、Thymidine phosphorylase (TP) 、Thymidine kinase

7

(TK) 、Uridine monophosphokinase (UP) などの酵素の活性を受け、メチレンテトラヒドロ葉酸と

ともに TS と強固な3量体を形成し、DNA 合成を阻害することで抗腫瘍効果を発揮するといわ

れている (Longley et al, 2003) 。また、5-FU の代謝産物が RNA や DNA に取り込まれることに

より、機能障害を与えることがわかってきた。一方、分解経路は単純であり、主に肝において律

速酵素である DPD (Dihydropyrimidine dehydrogenase) により分解されることが知られている(図

2)。

図 2 5-FU 代謝経路と 3 つの作用分子

生体内に取り込まれた 5-FU は様々な酵素により代謝され、3 つの作用分子、すなわち FUTP、FdUTP およ

び FdUMP を生じる。前 2 者はそれぞれ RNA、DNA に取り込まれ、FdUMP は TS に作用し、ヌクレオチド・

プールに影響を与える

現在、5-FU 系抗がん剤は、静注製剤だけでなく経口投与できる抗がん剤として広く用いられ

ている (Kubota, 2003) 。しかしながら、OSCC の進行例や再発例では予後は不良であり (Bell et al,

2007; Shingaki et al, 2003) 、その原因の一つとしては、進行例や再発例の多くは 5-FU を用いた

化学療法に耐性を示すことが挙げられる (Colevas, 2006; Gibson et al, 2005) 。一方、多くの腫瘍

が 5-FU に感受性を示すものの、持続的な薬剤への暴露により耐性が獲得されると考えられてい

る (Herrmann, 1996; Kang et al, 2004; Yoo et al, 2004) 。このような症例では、薬剤が遺伝子発現

に変化を引き起こし、異常となったシグナル経路を介して耐性を獲得させると考えられている

(Petersen et al, 2010; Wang et al, 2004) 。

8

5-3 薬剤耐性機構

抗がん剤耐性に関して、これまでにも様々な耐性機構が報告されている(Lehne et al, 1998)。そ

の機構と 5-FU における代表的耐性関連分子を図 3 に示した。以下、代表的なメカニズムについ

て述べる。

図 3 薬剤耐性細胞における耐性のメカニズム (Lehne et al, 1998 より引用改変)

5-3-1 標的分子 TS と分解酵素 DPD および他の 5-FU 活性化因子

5-FU に関して、標的分子である TS と分解酵素である DPD の発現と 5-FU 耐性との関連は、

様々な領域の腫瘍で多数報告されており (Kawano et al, 2003; Kubota, 2003; Longley et al, 2003) 、

現在では DPD 阻害剤を含んだ薬剤 (DPD-inhibitory fluoropyrimidine; DIF) である UFT®と TS-1®

が実際の臨床で効果をあげている (Kubota, 2008) 。しかしながら、これらの薬剤に対し耐性を

示す症例もあり、また、TS や DPD の発現と治療効果が相関しない報告も散見される (Ichikawa et

al, 2003; Johnston et al, 2003) 。また、5-FU の活性化酵素である TP や OPRT なども、感受性への

関与が考えられており、多くの研究がなされている (Tsutani et al, 2008; Yao et al, 2002) 。

9

5-3-2 薬剤排泄の機能により多剤耐性を引き起こす ABC トランスポーターファミリー

薬物排出ポンプの代表的なものが ABCB1〔P 糖タンパク質 P-glycoprotein (P-gp) 〕であり、多

剤耐性遺伝子 MDR1 にコードされている (Kimura et al, 2007) 。ABC トランスポーターは ATP

の加水分解エネルギーを利用して薬剤を排泄する。ヒト ABC トランスポーターファミリーには、

48 種類の遺伝子が含まれ、A から G の7つのサブファミリーに区分されている。ABCB1 の他に

も、ABCC1 (multidrug resistance-associated protein1:MRP1) や ABCG2 (breast c ancer resistance

protein:BCRP) などが、耐性因子として報告されている (Burger et al, 2003; Cho & Kim, 2001) 。

これらは様々な領域で抗がん剤耐性に関与しており、多剤耐性の Key Molecule として、古くか

ら研究が進んでいる。現在では阻害剤を用いた多くの臨床試験が行われており、併用による抗が

ん剤感受性の増強を期待されている (Katayama et al, 2009; Shukla et al, 2008) 。

5-3-3 DNA 修復因子および関連因子による抗がん剤耐性

近年、TS と並んで 5-FU 感受性因子として注目されているのが、腫瘍でみられるミスマッチ

修復 (DNA m ismatch repair : MMR) 異常である。一価アルキル化剤は染色体 DNA 上に

O6-methylguane などの有害なメチル化を作り、O6-methylguane methyltransferase (MGMT) により

除去されることから、MGMT はアルキル化剤の感受性予測因子として有用とされてきたが、5-FU

においても感受性との関連が報告されている (Murakami et al, 2007) 。また、MMR 遺伝子発現

が誘導された状態と抑制された状態との間では、5-FU の耐性度は約 2 倍の差を認めたとする報

告もある (Fujita et al, 2007) 。他にも、染色体 DNA に取り込まれたフルオロウラシル残基を除

去し、その殺細胞効果を減弱させる DNA 修復酵素として Single-strand-specific mono-functional

uracil-DNA glycosylase 1 (SMUG1) が注目されている (An et al, 2007) 。

5-3-4 アポトーシスのメカニズムとアポトーシス調節因子

アポトーシスからの回避は癌の重要な特性の一つである (Fulda, 2007) 。アポトーシスは

caspase とよばれるシステインプロテアーゼにより実行され、その実行経路は 2 つの経路に大別

される (Chen & Wang, 2002) 。一つは細胞表面の Death Receptor を介し、caspase-8 が活性化され

る外因系経路であり、もう一つはミトコンドリアからチトクローム c が放出され、caspase-9 の

活性化を介する内因系経路である。どちらの経路もその下流で caspase-3、-6、-7 の活性を引き

起こす(図 4)。化学療法や放射線療法は一般に内因系経路の活性を引き起こすことが知られて

いる (Nachmias et al, 2004; Vucic & Fairbrother, 2007) 。

10

図 4 アポトーシス経路の模式図

内因系経路では、細胞死を引き起こす刺激により、ミトコンドリアからチトクローム c が放出され、3 量体

を形成したのち、caspase-9 が活性化され、アポトーシスが生じる。外因系経路では Death Receptor を通して細

胞死シグナルが細胞内に入り、caspase-8 の活性化ののちに、アポトーシスが生じる。どちらの経路も最終的

には caspase-3 と capsase-7 が活性化される。

抗アポトーシス蛋白である Bcl-2 や Bcl-XL はチトクローム c の放出を抑制することにより、ア

ポトーシスの調節を行っている。これらの発現増加は様々な抗がん剤にて治療抵抗性を引き起こ

すことが知られている。

一方、Inhibitor of apoptosis proteins (IAPs) は、cellular IAP1 (cIAP1) 、cIAP2、X-linked IAP

(XIAP) 、survivin などを含み、caspase の活性化を阻害することにより、アポトーシス阻害因子

として働くことが知られている (Schimmer, 2004) 。これらの分子はいずれも直接 caspase-3、-7、

-9 に結合し、アポトーシスを阻害する (Nachmias et al, 2004; Schimmer, 2004) 。アポトーシス経

路の阻害の他に、IAPsは癌化に関わるシグナル伝達経路の活性化とも関係している (Hunter et al,

2007; Mahoney et al, 2008) 。一方、IAPs は様々な機構により調節されており、構造や機能におい

て類似性を認めるものの、それぞれが独自の遺伝子発現パターンをとっている (Nachmias et al,

2004) 。このことは、ファミリーを構成するそれぞれの IAPs がそれぞれに独特な機能を有する

ことを示唆している。しかしながら、OSCC の 5-FU 耐性におけるアポトーシス回避の役割は全

く知られていない。

11

5-4 本研究の目的

本研究の大きな目的は、OSCC の 5-FU 耐性化機構について新たな知見を得ることである。そ

こで、まず OSCC の 5-FU 抵抗性に関連する新規の分子を探索するために、5-FU 耐性 OSCC 細

胞株を樹立した。その後、親株と耐性株に対して行なった DNA マイクロアレイ解析の結果をも

とに、cIAP2 に着目し、OSCC の 5-FU 耐性における cIAP2 の機能解析を行った。

12

6.実験方法

6-1 細胞株と細胞培養

ヒト舌 SCC 細胞株である SAS とヒト歯肉 SCC 細胞株である Ca9-22 細胞は、東北大学加齢医

学研究所付属医用細胞資源センターより入手した。細胞は 10%FBS 添加 DMEM にて、37oC で

CO₂が 5%の条件下で培養を行った。

6-2 薬剤耐性 OSCC 細胞株の樹立

今回、薬剤耐性株の樹立のために、2 種類の薬剤投与パターンによる樹立法を採用した。一

つは低濃度持続投与による樹立法であり、薬剤を添加した培地にて細胞を培養し、徐々に濃度を

上昇させ、2 年以上培養を行った。もう一つの樹立法は、高濃度短時間投与であり、高濃度の抗

がん剤を 2 時間投与し、その後通常の培養液で培養し、生存した細胞にさらに薬剤濃度を上昇さ

せ、反復投与する方法である。2 つの細胞株から 6 種類の細胞株の樹立に成功した。SAS 細胞か

ら樹立したものは、5-FU 持続投与株である SAS/FR2、5-FU 短時間投与株である SAS/FR100、

CDDP 短時間投与株である SAS/CR60 の 3 つであった。Ca9-22 細胞から樹立したものは、5-FU

持続投与株である Ca9-22/FR2、CDDP 短時間投与株である Ca9-22/CR100、CDDP 持続投与株で

ある Ca9-22/CR3 の 3 種類であった。親株に対して最も高い耐性度を示した細胞株は、SAS/FR2

であり、その後の実験は親株である SAS 細胞と SAS/FR2 細胞の比較によって進めた。SAS/FR2

は 2 g/ml の 5-FU 添加下にて生存することができる。耐性を持続させるため、この細胞は 2 g/ml

の 5-FU 添加培地にて培養を続けた。一方、親株との比較実験においては、SAS/FR2 のみに 5-FU

刺激の影響が及ぶのを回避するため、2 週間 5-FU 無添加培地にて培養を行った後に全ての実験

を行った。

6-3 細胞増殖試験

通常の培養における細胞増殖能の差を確認するため、5-FU 無添加培地にてそれぞれの細胞を

13

培養し、24 時間ごとに Cell Counting Kit-8 (Dojindo) を用いて細胞増殖を測定した。

6-4 薬剤感受性試験

2,000 個の細胞を、96 ウェルのプレートにまき、10%の FBS 入りの培養液にて、37℃で培養

した。24 時間培養後、様々な濃度の 5-FU 添加 DMEM (0.05、0.15、0.31、0.63、1.25、2.5、5.0、

10.0 g/ml) を加え、72 時間培養した。それぞれのウェルに WST-8 (Cell Counting Kit-8, Dojindo)

を加え、37℃にて 2 時間反応させた。その後、マイクロプレートリーダーを用いて 450 nm の波

長にて吸光度を測定した。それぞれの濃度において3回試験を行った。50% 阻害濃度 (IC50) は

生存曲線より算出した。

6-5 DNA マイクロアレイ解析

SAS 細胞と SAS/FR2 細胞から抽出した RNA を増幅および標識した後、ヒトで発現している

40,985 種類のプローブ DNA とハイブリダイズさせることにより、遺伝子の発現プロファイリン

グを調査した。どちらの細胞でも発現量がある程度以上存在し(Z-score が 2 以上である)、か

つ、両者のシグナルを比較した結果、1.5 倍以上の変動があるものを有意差がある遺伝子とした。

実際のマイクロアレイ解析はセルイノベーター株式会社へ委託した。

6-6 RNA 抽出および RT-PCR

細胞からの全 RNA 抽出は、カラム上での DNase I (Qiagen ) 処理を行い、RNeasy Mini kit

(Qiagen) を用いて行った。RNA の濃度・純度・精製度はナノドロップにて測定した。RNA か

らの cDNA の精製は、PrimeScript RT reagent kit (Takara Bio Inc.) を使用して行った。バンドの

強度はデンシトメーターを用いて数値化した。プライマー配列とRT-PCRの条件は表1に示す。

14

表 1 プライマーの配列と PCR の条件

6-7 タンパク抽出とウェスタンブロット法

7.5~10%の SDS-PAGE (Sodium dodecyl sulfate pol yacrylamide gel electrophoresis) にてタンパク

を分離し、ニトロセルロースメンブレンへ転写後、1 次抗体を反応させた。それらの希釈倍率は、

ウサギ抗ヒト TS モノクローナル抗体 (1:200;Chemicon International) 、マウス抗ヒト TP モノ

クローナル抗体 (1:50;Abgent)、ウサギ抗ヒト cIAP1 ポリクローナル抗体 (1:100;Santa Cruz) 、

ウサギ抗ヒト cIAP2 ポリクローナル抗体 (1:200;Santa Cruz)、ウサギ抗ヒト XIAP ポリクロー

ナル抗体 (1:100;Santa Cruz)、マウス抗ヒト -actin モノクローナル抗体 (1:5000;Sigma) で

ある。一次抗体に一晩反応させ、ペルオキシダーゼ標識 2 次抗体である ENVISION+ (DAKO

corporation, Carpinteria, CA, USA) にて 1 時間反応後、ECL ウエスタンブロッティング検出システ

ム (Am ersham Pharmacia Biotech) を用いて X 線フィルム RX-U ( 富士写真フィルム、足柄) に

露光して検出反応を行った。

6-8 5-FU 処理後の caspase-3、-8、-9 および poly-caspase 活性測定

それぞれの細胞を 2.0 g/ml の 5-FU 添加培地もしくは無添加培地にて 48 時間、60 時間培養

15

後の caspase-3、-8、-9 の活性を APOPCYTO Colorimetric Assay kit (MBL) を用いて測定した。発

色は 37℃にて overnight で行い、マイクロプレートリーダーの 405 nm の波長で測定した。

Poly-caspase の 活 性 は Poly-Caspases FLICA Apoptosis Detection Kit (Imm unochemistry

Technologies) を使用した。それぞれの細胞を 2.0 g/ml の 5-FU 添加培地もしくは無添加培地に

て 60 時間培養後に測定した。細胞数の確認のためヘキスト染色を行った。

6-9 5-FU 処理後のアポトーシス測定

それぞれの細胞を 2.0 g/ml の 5-FU 添加培地にて 72 時間培養後、4% のパラホルムアルデヒ

ドにて 15 分間固定し、0.3% 過酸化水素添加メタノールを室温にて 30 分反応させ、内因性ペル

オキシダーゼ除去を行った。アポトーシスによる細胞死は in situ apoptosis detection kit (Takara

Bio Inc.) を用いて TUNEL 法による検出を行った。実験は添付書のプロトコールに従い、ラベリ

ング反応は 37℃ 90 分、HRP 反応は 37℃で 30 分行い、核染色は 3%メチルグリーンにて行った。

6-10 siRNA による cIAP2 発現抑制実験

cIAP2 の siRNA は Applied Biosystems から購入した。siRNA の配列は以下のものを使用した。

cIAP2 siRNA-1 : セ ン ス 鎖 5’-GAUUCGUUCAGAGUCUAAAtt-3’, ア ン チ セ ン ス 鎖

5’-UUUAGACUCUGAACGAAUCtg-3’

cIAP2 siRNA-2 : セ ン ス 鎖 5’-CACUCAUUACUUCCGGGUAtt-3’; ア ン チ セ ン ス 鎖

5’-UACCCGGAAGUAAUGAGUGtg-3’

コントロールには Silencer® Select Negative Control #1 siRNA を用いた。

SAS/FR2に10 nmol/LのcIAP2を標的とした siRNAおよびコントロール siRNAを24時間導入し、

培地を通常の培地もしくは 5-FU 添加培地へ交換したのち、実験を行った。

6-11 臨床検体の患者背景

2003 年 10 月から 2009 年 1 月までに熊本大学医学部附属病院・歯科口腔外科を受診し、治療

を行った 54 例の OSCC 患者を対象とした。全ての患者は術前化学放射線療法を施行したのち、

16

根治的手術を行った。術前化学放射線療法は、5-FU 系抗がん剤である S-1 を 2 週間連続投与し、

放射線は 1 日 2 Gy を週 5 日、計 30 Gy 照射した。全ての腫瘍は UICC の TNM 分類に従って病

期分類し、分化度の評価は WHO 分類に基づいて行った。

6-12 免疫組織化学的染色

組織検体は術前化学放射線治療施行前の生検組織を使用した。術前治療の組織学的治療効果判

定は、手術検体を大星・下里の分類 (Shimosato et al, 1971) に基づき評価した。検体は、パラフ

ィン包埋したものを 4 m に薄切し、キシレンにて脱パラフィン後、抗原賦活化のためオートク

レーブにて 121 ℃で 15 分熱処理した。次に、0.3% 過酸化水素を加えたメタノールに 30 分間浸

して内因性ペルオキシダーゼの除去を行い、10% 正常ヤギ血清にて 30 分間ブロッキングした。

その後、それぞれの一次抗体に 4 °C で一晩反応させた。用いた一次抗体とその希釈倍率は以下

の通りである。ウサギ抗ヒト cIAP1 ポリクローナル抗体 (1:100)、ウサギ抗ヒト cIAP2 ポリク

ローナル抗体 (1:500)、ウサギ抗ヒト XIAPポリクローナル抗体 (1:500)。その後、Envision+

System HRP を室温にて 60 分反応させ、続いてペルオキシダーゼ標識ストレプトアビジンでそれ

ぞれ 30 分間反応させた後、DAB を用いて発色反応を行った。核染色にはヘマトキシリンを使用

した。なお、各反応の間はすべて PBS で 5 分間、3 回ずつ洗浄した。

6-13 免疫組織化学的染色結果の評価法

染色結果の評価は、標本に関する臨床データを知らされていない 3 人によってなされ、染色強

度は 0(反応なし)、+1(弱陽性)、+2(陽性)、+3(強陽性) の 4 段階にスコア化し、陽性

率とともに 3 視野の平均値にて評価した。染色の評価は McCarty らの方法に準じ (McCarty et al,

1986) 、陽性率と強度を積算したスコアで評価し、スコアが 20 以上である場合を陽性とした。

6-14 統計学的解析

独立 2 群の検定は Student’s t 検定にて行い、多重比較検定は分散分析法と Tukey のテストを

採用した。cIAP1、cIAP2、XIAP の OSCC 組織での発現と、臨床病理学的項目との関連の検討は

17

2 検定にて行った。生存期間は化学放射線療法を開始した日から死亡した日までとした。生存

率は Kaplan-Meier 法により算出し、生存分析は log-rank 検定にて行った。有意差は P 値が 0.05

未満のとき、“有意差あり”とした。

18

7.実験結果

7-1.薬剤耐性 OSCC 細胞株の樹立

7-1-1 5-FU 耐性株と CDDP 耐性株の薬剤感受性

下記の表に、作成した耐性株名、親株の細胞名、投与した薬剤、投与法、耐性度(IC50)を示

した。

表 2 樹立株の詳細一覧

Parent cells Resistant cells

SAS/FR2 SAS 5-FU contenuous 0.3 2.6

SAS/FR100 SAS 5-FU bolus 3.6 8.4

SAS/CR60 SAS CDDP bolus 13.0 24.3

Ca9-22/FR2 Ca9-22 5-FU contenuous 0.7 4.0

Ca9-22/CR100 Ca9-22 CDDP bolus 20.0 77.1

Ca9-22/CR3 Ca9-22 CDDP contenuous 2.0 3.7

IC50(g/ml)Cell line Parent cells Drug Treatment schedule

また、それぞれの細胞株における親株と耐性株の生存曲線図を作成した(図 5)。感受性試験

は、様々な濃度の薬剤を添加した培養液にて行った。低濃度持続投与株では薬剤刺激下で 72 時

間培養を行った後に細胞の生存率を測定した。一方、高濃度短時間投与株では薬剤刺激下で 2

時間培養後、薬剤無添加培養液にて 72 時間培養した後に解析を行った。

19

20

図 5 耐性株および親株の薬剤感受性曲線

A SAS と SAS/FR2 における 5-FU 感受性曲線(低濃度 5-FU を 72 時間投与)

B SAS と SAS/FR100 における 5-FU 感受性曲線(高濃度 5-FU を 2 時間投与)

C SAS と SAS/CR60 における CDDP 感受性曲線(高濃度 CDDP を 2 時間投与)

D Ca9-22 と Ca9-22/FR2 における 5-FU 感受性曲線(低濃度 5-FU を 72 時間投与)

E Ca9-22 と Ca9-22/CR100 における CDDP 感受性曲線(高濃度 CDDP を 2 時間投与)

F Ca9-22 と Ca9-22/CR3 における CDDP 感受性曲線(低濃度 CDDP を 72 時間投与)

親株との IC50 による比較にて、最も耐性度が高い値を示したのは SAS/FR2 であった。また、

当科(歯科口腔外科)では進行 OSCC に対して、5-FU 系の抗がん剤である S-1 の 14 日間の連続

投与による術前化学放射線療法後の手術を治療の第一選択としており、SAS/FR2 は実際の臨床

における抗がん剤投与と類似した状況で樹立されたことから、研究成果の臨床へのフィードバッ

クを想定し、今回の研究には SAS と SAS/FR2 を用いることとした。

7-1-2 5-FU 耐性株の増殖速度と 5-FU 感受性

5-FU耐性株を 5-FU無添加の状態にて 6日間培養を行い、細胞増殖曲線を作成した。その結果、

親株(SAS)と耐性株(SAS/FR2)の間に有意な差は認められなかった(図 6-A)。このことは

5-FU への耐性が細胞増殖能の増加によって引き起こされているのではないことを示唆している。

一方、様々な濃度の 5-FU 刺激下において、SAS/FR2 に比べ、SAS のアポトーシス様の形態学的

変化が明らかに多く認められた(図 6-B)。

21

A

B

図 6:SAS および SAS/FR2 における増殖曲線と 5-FU 刺激による細胞の形態学的変化

A 増殖曲線にて細胞株間に有意な差は認められない

B 5-FU 投与後の両細胞の形態学的変化(細胞収縮、円形化)を示している。

22

2.親株と耐性株を用いた DNA マイクロアレイによる 5-FU 耐性関連遺伝子の探索

7-2-1 DNA マイクロアレイ解析と cIAP2 の発現上昇

親株と耐性株の mRNA を抽出し、40,985 種類のプローブにて DNA マイクロアレイ解析を行

うことにより、遺伝子の発現プロファイリングを調査した。解析の結果、耐性株にて 801 種の遺

伝子の発現が有意に増加しており、634 種類の遺伝子の発現が有意に低下していた。これらの遺

伝子の中から解析対象を 5-FU 代謝、細胞膜の薬剤輸送、抗アポトーシス、および DNA 修復の

関連分子に絞った(表 3)。その結果、TS、TP、cIAP2 の 3 つの分子が有意に耐性株で上昇して

おり(TS:2.6 倍、TP:2.34 倍、cIAP2:3.78 倍)、5-FU 耐性に関与する候補分子として挙げら

れた。

23

表 3 マイクロアレイ解析による 5-FU 耐性関連分子の比較

NCBI Acc.No. Gene sym bol Gene nam e ratio Z-score

NM_001071 TS* Thymidylate synthetase 2.6 3.35

NM_001953 TP* Thymidine phosphorylase 2.34 2.59

NM_000373 OPRT Orotate phosphoribosyl transferase 0.64 -1.31

NM_016308 UMPK Uridine monophosphokinase 0.85 -0.41

NM_003258 TK1 Thymidine kinase 1 0.89 -0.37

NM_004614 TK2 Thymidine kinase 2 1.41 0.82

NM_000110 DPD Dihydropyrimidine dehydrogenase 0.56 -1.02

NM_000927 MDR1 Multidrug resistance gene 1 - -NM_018850 MDR3 Multidrug resistance gene 3 - -NM_019862 MRP1 Multidrug resistance-associated protein 1 0.88 -0.24

NM_000392 MRP2 Multidrug resistance-associated protein 2 1.04 -0.03

NM_003786 MRP3 Multidrug resistance-associated protein 3 2.38 1.79

NM_005845 MRP4 Multidrug resistance-associated protein 4 0.75 -0.5

NM_005688 MRP5 Multidrug resistance-associated protein 5 0.56 -1.03

NM_000352 MRP8 Multidrug resistance-associated protein 8 1.42 0.64

NM_004827 ABCG2 ATP-binding cassette, sub-family G, member 2 1.88 1.3

M13995 BCL2 B-cell leukemia/lymphoma 2 1.18 0.33

NM_138578 BCLXL BCL2-like 1 (BCL2L1) 1.01 0.03

NM_138764 BAX BCL2-associated X protein 1.01 0.04

NM_001166 cIAP1 Cellular inhibitor of apoptosis protein 1 1.29 0.61

NM_001165 cIAP2* Cellular inhibitor of apoptosis protein 2 3.78 2.4

NM_001167 XIAP X-linked inhibitor of apoptosis 0.96 -0.08

NM_001012271 SURVIVIN Baculoviral IAP repeat-containing 5 0.56 -1.76

NM_003925 MBD4 Homo sapiens methyl-CpG binding domain protein 4 1.18 0.41

NM_003211 TDG Homo sapiens thymine-DNA glycosylase 0.82 -0.51

NM_001983 ERCC1 Excision repair cross-complementing rodent repair deficiency, complementation group 1 1.15 0.38

NM_002412 MGMT Homo sapiens O-6-methylguanine-DNA methyltransferase 0.94 -0.12

NM_014311 SMUG1 Single-strand-specific mono-functional uracil-DNA glycosylase 1 0.71 0.43

NCBI Acc. No., National Cancer for Biotechnology Information accession number.

*, up-regulated gene (ratio≥1.5-fold and Z-score≥2.0)

- , not reliable for low expression

5-FU m etabol ism

Drug de l ivery o f ce l l m em brane

Antiapoptotic reaction

DNA repai r

Ratio represents the gene expression ratio of resistant/sensitive with fold change.

24

7-2-2 ウェスタンブロット法による検討

マイクロアレイ解析により RNA レベルでの発現の差を認めた因子に対し、タンパクレベルで

の発現の差を確認するために、ウェスタンブロット法による解析を行った。

cIAP1 と XIAP は、cIAP2 と同様に抗アポトーシス作用を有することが知られており、類似し

た IAP ファミリーのメンバーである。そのため、TS、TP、cIAP1、cIAP2、XIAP のタンパクで

の発現の差をウェスタンブロット法にて確認した(図 7)。その結果、マイクロアレイの結果と

同様に、TS、TP、cIAP2 にて明らかなタンパク発現上昇を認め、cIAP1 と XIAP に関しては、明

らかな差は認められなかった。

図 7 SAS 細胞と SAS/FR2 細胞を比較したウェスタンブロット解析

TS と TP はすでに他領域の多くの癌で 5-FU 耐性との関連が知られていることより、今回われ

われは、cIAP2 の発現と 5-FU 耐性との関連に注目した。

25

7-3.OSCC の 5-FU 耐性における cIAP2 の in vitro 機能解析

7-3-1 5-FU 投与による caspase-3、-8、-9、poly-caspase 活性、およびアポトーシスの解析

親株と耐性株において 5-FU 投与後のアポトーシス耐性能の差を確認するため、5-FU 刺激によ

る caspase-3、-8、-9、poly-caspase 活性を分析した(図 8-A、-B)。5-FU を 2.0 g/ml 添加した培

地にて培養を行い、48 時間後と 60 時間後にて測定した結果、親株の caspase-3、-9 の活性は 60

時間後で有意に上昇し、caspase-8に関しては差がなかった。それに対し、SAS/FR2では caspase-3、

-9 活性の 60 時間後での上昇は認められず、また、5-FU 投与後 60 時間後の時点にて、耐性株の

caspase-3、-9活性は親株に比べ有意に低かった(図8-A)。これに加え、60時間投与後のpoly-caspase

活性を分析すると、有意に耐性株にて活性が低かった(図 8-B)。次に、TUNEL 法にて実際の

アポトーシス細胞の測定を行なった結果、2.0 g/ml の 5-FU を 72 時間投与した時点での TUNEL

陽性率は、SAS で 8.7%、SAS/FR2 にて 1.2%と有意に親株が高く、アポトーシスの割合は 7.3 倍

高かった(図 8-C)。

26

図 8 5-FU による caspase-3、-8、-9 および poly-caspase の活性

A 2.0 g/ml の 5-FU 投与 48 時間、60 時間後の caspase-3、-8、-9 の活性を APOPCYTO Colorimetric Assay を

用いて測定した。

B 2.0 g/ml の 5-FU 投与 60 時間後の poly-caspase 活性を蛍光免染にて確認した。SAS の陽性率は 27.5%であ

り、SAS/FR2 は 6.5%であった。

C 2.0 g/ml の5-FU投与 72時間後のアポトーシスをTUNEL法にて確認した。 SASの陽性率は 8.7%であり、

SAS/FR2 は 1.2%であった。

27

7-3-2 cIAP2 の発現抑制による OSCC の 5-FU 感受性の増加

cIAP2 の発現抑制時の 5-FU 耐性度を評価するために、siRNA を用いて、SAS/FR2 での cIAP2

発現抑制実験を行なった。実験には 2 種類の cIAP2 siRNA を用いたが、同様の実験結果が得ら

れたため、cIAP2 siRNA-1 によるデータのみ提示している。cIAP2 の発現を十分に抑制させるた

め、10 nmol/L の siRNA を導入し、mRNA レベルにおいて 70% 程度の抑制を確認した。また、

このときの cIAP1、 XIAP の発現に変化はなかった(図 9-A)。これに加え、タンパクの発現変

化の確認のため、ウェスタンブロット解析を行い、cIAP2 の有意な低下ならびに cIAP1、XIAP

の変化がないことを確認した(図 9-B)。また、コントロール siRNA 処理後の細胞では、無処

理の細胞に比べて mRNA およびタンパクレベルで cIAP2 の発現に変化がみられなかった。cIAP2

siRNA およびコントロール siRNA を導入した後に 5-FU を投与した結果、cIAP2 を抑制した細胞

の 5-FU 感受性はコントロールに比べ有意に上昇していた。その際の IC50 は、コントロールで

0.4 g/ml であったのに対し、cIAP2 抑制細胞では 1.6 g/ml であった(図 9-C)。これらの結果

により、cIAP2 は OSCC の 5-FU 耐性度に影響を与える重要な因子であることが示唆された。

28

図 9:RNA 干渉による cIAP2 の抑制と 5-FU 生存曲線

A cIAP2 またはコントロール siRNA 導入後の cIAP1、cIAP2、XIAP の mRNA 発現の確認。トランスフェク

ション後 48 時間にて、total RNA を回収し、RT-PCR 法にて発現解析を行った。

B cIAP2 またはコントロール siRNA 導入後のでの cIAP1、cIAP2、XIAP のタンパク発現の確認。トランス

フェクション後 72 時間にて、細胞の全タンパクを回収し、ウェスタンブロット法にて発現解析を行った。

C トランスフェクション 24 時間後、様々な濃度の 5-FU 添加培地に交換し、72 時間培養を行ったのち、細胞

生存分析を行った。cIAP2 を抑制した細胞では、5-FU の効果が有意に増強している。**, P < 0.01

29

7-3-3 cIAP2 の抑制は 5-FU 投与による caspase-3、-9、poly-caspase 活性、およびアポトーシスを

増加させる

cIAP2 抑制による 5-FU に対する感受性増強は、アポトーシスの増加によるものかを確認する

ため、cIAP2 siRNA を導入した後、caspase-3、-8、-9、poly-caspase 活性を測定した。48 時間お

よび 60 時間投与した結果、cIAP2 抑制細胞はコントロールに比べ、caspase-3、-9 の活性が有意

に上昇していた(図 10-A)。加えて、poly-caspase の活性も 4.9 倍上昇していた(図 10-B)。TUNEL

染色の結果、siRNA を導入した後、2.0 g/ml の 5-FU を 72 時間投与した時点では、陽性率はコ

ントロールで 0.8% であったのに対し、cIAP2 抑制細胞では 4.6%であり、5.8 倍であった(図 10-C)。

30

図 10:cIAP2 抑制後の caspase 活性およびアポトーシス解析

A トランスフェクションを 24 時間行った後、2.0 g/ml の 5-FU 投与 48 時間、60 時間後の caspase-3、-8、-9

の活性を APOPCYTO Colorimetric Assay を用いて測定した。

B トランスフェクションを 24 時間行った後、2.0 g/ml の 5-FU 投与 60 時間後の poly-caspase 活性を蛍光免

染にて確認した。コントロールの陽性率は 6.5%であり、cIAP2 抑制細胞は 31.3%であった (P < 0.01)。

C cIAP2 抑制後の TUNEL によるアポトーシス解析。コントロールの陽性率は 0.8%であり、cIAP2 抑制後で

は 4.6%であった (P < 0.01)。**, P < 0.01

31

7-4.OSCC 組織における cIAP2 の発現に関する免疫組織化学的研究

7-4-1 OSCC 患者における腫瘍内 IAP 発現の臨床的意義

次に、術前化学放射線療法を施行した 54 例の OSCC 患者の生検標本における cIAP1、cIAP2、

XIAP の発現を免疫組織化学的染色にて解析した。3 つの分子ともが主に細胞質において発現が

認められた(図 11)。

図 11:OSCC 組織における cIAP1、cIAP2 および XIAP の免疫組織化学的染色

それぞれの分子に関して、免疫組織化学的染色の代表的写真を示している。bar:100 m

A、B:cIAP1 の陽性像、および陰性像

C、D:cIAP2 の陽性像、および陰性像

E、F:XIAP の陽性像、および陰性像

32

7-4-2 免疫組織化学的染色の結果と腫瘍の臨床および病理組織学的特徴との関連

対象症例の平均年齢、腫瘍部位、大きさ、転移の有無、分化度、および術前化学放射線療法の

治療効果と cIAP1、cIAP2、および XIAP 発現の単変量解析の結果を以下に示す(表 4)。

33

表 4:OSCC54 症例の臨床的特徴と IAPs の発現程度に関する単変量解析

Characteristics Total cIAP1-positive

P -value cIAP2-positive

P -value XIAP-positive

P -value

n (%) n (%) n (%)

54 14 (25.9) 19 (35.1) 13 (24.0)

Age, years Median 71.0 73.8 71.0 72.3 Range 51-87 51-85 51-82 51-85 ≤ 65 19 3 (15.7) 0.158 8 (42.1) 0.432 3 (15.7) 0.294 > 65 35 11 (31.4) 11 (31.4) 10 (28.5)

Gender Male 31 5 (16.1) 0.051 11 (35.5) 0.957 5 (16.1) 0.112 Female 23 9 (39.1) 8 (34.8) 8 (34.8)

Primary site Tongue 13 4 (30.7) 0.08 3 (23.1) 0.138 4 (30.7) 0.184 Mandible 10 5 (50.0) 7 (70.0) 4 (40.0) Maxilla 12 4 (33.3) 4 (33.3) 4 (33.3) Oral floor 9 0 (0) 2 (22.2) 0 (0) Buccal mucosa 10 1 (10.0) 3 (30.0) 1 (10.0)

T-stage T1, T2 19 5 (26.3) 0.291 7 (36.8) 0.696 4 (21.0) 0.821 T3 18 3 (16.6) 5 (27.8) 4 (22.2) T4 17 6 (35.3) 7 (41.2) 5 (29.5)

Clinical stage Ⅱ 4 0 (0.0) 0.622 2 (50.0) 0.769 0 (0) 0.41 Ⅲ 19 4 (21.0) 7 (36.8) 4 (21.0) Ⅳ 31 10 (32.2) 10 (32.3) 9 (29.0)

Differentiation Well 40 9 (22.5) 0.379 14 (35.0) 0.961 10 (25.0) 0.787 Moderate 14 5 (35.7) 5 (35.7) 3 (21.4)

Pathological response Grade 0, I, IIa 12 2 (16.7) 0.276 7 (58.3) 0.039* 2 (16.6) 0.173 Grade IIb 17 3 (17.6) 8 (47.1) 2 (11.8) Grade Ⅲ 8 5 (62.5) 2 (25.0) 4 (50.0) Grade Ⅳ 17 4 (23.5) 2 (11.8) 5 (29.4)

*, P <0.05

34

54 例における陽性率は cIAP1 が 14 例(25.9%)、cIAP2 が 19 例(35.1%)、XIAP が 13 例(24.0%)

であった。cIAP2 陽性症例において術前化学放射線療法の治療効果は有意に低かったが、cIAP1、

XIAP の発現と治療効果の間に関連はみられなかった。cIAP1、cIAP2、XIAP の発現と、年齢、

性別、原発巣、T-stage、臨床病期、分化度のいずれも相関はみられなかった。

7-4-3 IAPs の発現程度と生存分析

Log-rank 検定にて、cIAP2 陽性患者群のみが、有意に予後が不良であり、全 5 年存率は、cIAP2

陰性群が 81.9%であったのに対し、陽性群では 40.1%であった(P = 0.008)。一方、cIAP1 およ

び XIAP の発現程度と、生存率の間に有意な差はみられなかった(図 12)。

35

図 12 OSCC 患者における cIAP1、cIAP2、XIAP の発現程度と 5 年全生存率

A:cIAP1 発現程度別の生存曲線

B:cIAP2 発現程度別の生存曲線

C:XIAP 発現程度別の生存曲線

36

7-4-4 多変量解析による生存分析

Cox の比例ハザードモデルを用いた多変量解析の結果、cIAP2 の発現(ハザード比 4.91、

P=0.037)と術前化学放射線療法の治療効果(ハザード比 0.418、P=0.016)が、進行 OSCC 患者

において有意な予後因子であることが分かった(表 5)。

表 5 口腔扁平上皮癌 54 症例における多変量解析を用いた生存分析

Variables Assigned score Hazard ratio 95%CI P -value

Age < 65 0 1.694 0.33-9.87 0.524 ≥ 65 1

Gender Male 0 1.704 0.33-10.4 0.523 Female 1

T-stage T1, T2 1 0.962 0.38-2.72 0.936 T3 2 T4 3

Clinical stage II, III 1 4.15 0.81-26.4 0.086 IV 2

Differentiation Well 1 2.134 0.379-10.3 0.37 Moderately 2

Pathological response 0, I, IIa 1 0.418 0.15-0.86 0.016* IIb 2 III 3 IV 4

cIAP1 status Negative 0 0.42 0.05-2.26 0.329 Positive 1

cIAP2 status Negative 0 4.91 1.09-29.9 0.037* Positive 1

XIAP status Negative 0 0.324 0.37-16.7 0.324 Positive 1

*, P <0.05 これらの結果より、OSCC において、cIAP2 の高発現は化学放射線療法への抵抗性に関与してお

り、予後不良因子であることが示された。

37

8.考察

8-1 5-FU 耐性機構解明のためのアプローチ

われわれが渉猟した限りにおいて、OSCC 細胞株にて 5-FU 耐性株を樹立したのはわれわれが

初めてであり、OSCC の 5-FU 耐性機構の解明は十分になされていない。5-FU 耐性獲得細胞の樹

立には大きく分けて 2 つの方法がある。一つは 5-FU 高濃度で短時間投与する方法であり、もう

一つは 5-FU を低濃度で長時間投与する方法である。これまでの報告によると、5-FU 短時間の投

与は RNA 傷害に関与し、持続投与は DNA 傷害に関与するため、それぞれ別のメカニズムで耐

性を獲得するとされている (Aschele et al, 1992) 。今回の実験では、臨床の実態に即し、低濃度・

長時間投与によって樹立した 5-FU 耐性株を使用した。われわれは、2 年以上かけて 5-FU 耐性の

OSCC 細胞株を樹立し、その耐性度は 5-FU 投与を行わずとも、最低 3 か月以上持続することを

確認している(データ未提示)。このことは、われわれが樹立した SAS/FR2 が OSCC における

5-FU 耐性の生物学的特性を解析するのに有用な細胞株であることを示している。

8-2 5-FU 耐性関連因子の同定

今回の解析では、マイクロアレイ解析の結果より、薬剤耐性への関与が示唆される標的分子を

機能的な側面からいくつかに絞り込んで探索した。したがって、われわれは網羅的なデータの中

の一部のデータしか詳細に解析していない。結果的には、TS、TP、cIAP2 の 3 種類の遺伝子を

5-FU 耐性関連因子として特定した。TS と TP はどちらも以前から 5-FU 耐性との関連性を指摘

されており (Kawano et al, 2003; Longley et al, 2003; Metzger et al, 1998) 、様々な癌腫で 5-FU の治

療効果を高めるための標的として注目されている。しかしながら、今回、TS と TP の機能に関

する実験を行っておらず、これらの因子と OSCC の 5-FU 耐性との関連性は不明である。一方、

5-FU 耐性の OSCC において cIAP2 が過剰発現していた所見は cIAP2 が 5-FU 感受性に関わる新

たなターゲットになりうるという点で注目すべき結果である。

38

8-3 IAPs の役割とその調節因子

IAPs は cIAP1、cIAP2、XIAP および survivin を含み、これらは全て caspase を直接阻害し、細

胞をアポトーシスから回避させる。アポトーシス回避には Bcl ファミリーの上昇も関わるが、生

体内における役割は IAP ファミリーがより重要であるという報告もみられる。cIAP1 と cIAP2

は、TNF-Tumor necrosis factor-による NF-B の活性の重要な調節因子であることが知られ

ており、細胞生存に寄与することが広く知られている (Varfolomeev et al, 2008) 。これに加え、

NF-B の活性化によってもたらされる細胞生存効果は、cIAP1、cIAP2、XIAP を含む IAP ファ

ミリーの発現上昇と関連しているとも報告されている (Dai et al, 2009; Karin & Lin, 2002) 。これ

らのことより、IAPs の高発現は抗がん剤耐性やがん患者の予後に関与していることが十分に考

えられる。これまで報告がなされている IAPs の抗がん剤感受性や予後因子への関連は、survivin

と XIAP に注目したものが多い (Duffy et al, 2007; Ferreira et al, 2001; Fulda, 2007; Hu et al, 2003;

Ikeguchi & Kaibara, 2002; Mizutani et al, 2007; Sasaki et al, 2000) 。一方、cIAP1 や cIAP2 の高発現

が、抗がん剤感受性上昇や予後不良に関連するといういくつかの報告がある (Krajewska et al,

2003; Tanimoto et al, 2005) 。抗がん剤耐性に関する報告としては、多発性骨髄腫の報告

(Nakagawa et al, 2006) や、肺癌におけるシスプラチン耐性 (Wu et al, 2010) 、頭頸部癌でのシス

プラチン耐性 (Lee et al, 2005) 、膵臓癌におけるシスプラチン・ドキソルビシン・パクリタキセ

ルへの耐性 (Lopes et al, 2007) が報告されている。Karasawa らの論文が唯一、大腸がんにおいて

cIAP2 の 5-FU 耐性への影響を報告している (Karasawa et al, 2009) 。しかしながらこれまで、

cIAP1 や cIAP2 が 5-FU 耐性と予後の両者に関連するという報告はみられない。

8-4 cIAP2 による抗アポトーシス作用と 5-FU 耐性

今回の in vitro のデータにて、5-FU 耐性細胞は cIAP2 の発現が増加しており、5-FU 暴露によ

るアポトーシスからの回避によって、耐性に寄与していることが示唆された。実際、cIAP2 を高

発現している SAS/FR2 では、5-FU 刺激後の caspase-3 と caspase-9 の活性化やアポトーシスによ

る細胞死が阻害されており、耐性株の cIAP2 を抑制すると、caspase-3 と caspase-9 の活性が上昇

し、5-FU の効果が増強されていた。これらの結果は、cIAP2 がアポトーシスの内因系経路を阻

害することにより抗がん剤耐性をもたらすという過去の報告を支持しており、OSCC においても

5-FU 耐性に対して cIAP2 の発現上昇が重要な役割を果たしていることを示唆している。我々が

39

渉猟した限りでは、本研究は口腔癌においての 5-FU 耐性と cIAP2 の発現上昇との関連を示した

最初の報告である。

8-5 独立した 5-FU 感受性因子および予後因子としての cIAP2

5-FU 耐性株と親株の遺伝子発現を DNA マイクロアレイにて比較した他の報告を検討すると、

cIAP2 の発現が上昇を認めた報告が 1 報だけ存在し、それは大腸がんの細胞株によるものであっ

た。このことを踏まえると、cIAP1 と cIAP2 の機能的な違いはほとんど知られていないが、5-FU

耐性癌細胞株での選択的な cIAP2 の上昇は 5-FU に対する耐性の重要な特徴を示しているのかも

しれない。

しかしながら、本研究で示した in vitro の研究結果は、1 種類の親株とそれに由来する耐性株

によって得られたデータに限られている。したがって、他の 5-FU 耐性株を用いて、5-FU 耐性因

子としての cIAP2 の役割を確認する必要があると思われた。

一方、in vitro のデータに基づいて、OSCC 標本での cIAP2 の役割をさらに明確にするために、

cIAP2 に加え、その関連分子である cIAP1 と XIAP の免疫組織学的染色を、術前治療前の生検組

織にて行った。特筆すべきこととして、5-FU をベースとした化学放射線療法の治療効果と有意

な相関関係を示したものは、cIAP2 の発現レベルのみであり、多変量解析においても治療効果と

cIAP2 のみが予後因子となった。なぜ cIAP2 がそのような効果を示すのか、その詳細な理由は不

明であるが、これらの結果は、腫瘍や細胞の種類によって個々の IAP が、アポトーシス耐性へ

の関わり方や、異常なシグナル経路への関わり方に、それぞれの違いを有することを示唆してい

る。

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9.結語

われわれは OSCC の 5-FU 耐性における cIAP2 の重要性を強調した。われわれの結果は、cIAP2

が 5-FU を用いた化学放射線療法の効果予測因子であると同時に、新規の予後因子であることを

示している。難治性の OSCC 患者において、既存の 5-FU をベースとした化学放射線療法に cIAP2

を標的とした治療を組み合わせることによって効果が増強され、それによって生存率を改善する

ことが可能になるかもしれない。

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