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Department of · 2020. 7. 31. · 大の関心事を元に映画を作り始めます。...

Date post: 21-Aug-2020
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映像学科 Department of Imaging Arts and Sciences 武蔵野美術大学 造形構想学部 映像学科 Musashino Art University Department of Imaging Arts and Sciences 映像学科 Department of Imaging Arts and Sciences
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武蔵野美術大学

造形構想学部

映像学科

Musashino Art University

Department of

Imaging Arts and Sciences

映像学科Dep a r tme n to fI m a g i n gA r t sa n dS c i e n c e s

武蔵野美術大学

造形構想学部

映像学科

Musashino Art University

Department of

Imaging Arts and Sciences

映像学科Dep a r tme n to fI m a g i n gA r t sa n dS c i e n c e s

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自らの映像領域を築き上げること

映像は先行するメディアや文化と深く関わりあっていて、映像自体で自立している例はきわめて稀です。本来、映像表現者や映像の理解者はそれらと関わっていなければなりません。それゆえ、映像学科では 1990 年の開設時から、< 映像 > < 言語 > < 音 > < 造形 > という武蔵野美術大学だからこそ可能な 4 つのフィールドを 4 方位に位置付け、その「全方位的な教育を目指す」という学科理念を掲げてきました。また、この理念を支える仕組みとして、「多面的」に学習できる科目構成が組まれています。映像において、この学習方法が可能であるのは、一見異なる映像の諸ジャンルが

「時間性」と「情報性」という共通した特徴をもっているからです。この映像の性格は様々な資質からのアプローチも可能にしています。映像学科の入試形態・方式が本学の中で最も多様であるのは、映像という分野が、文章力、デッサン力、集団をまとめる力、造形・デザイン力、英語や数学の力などのどこからでもアプローチできるからです。そして、入学後はそれらの資質からアプローチするだけではなく、不得意な科目や技能を克服して、「多面的」に学習し、自らの映像領域を築き上げてください。その領域こそが専門領域であると、映像学科は考えています。

映像学科主任教授 板屋 緑

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映像とは何か1 年次では、映像とはなにか、その本質を考えることから始めます。前期の実技では、映像の起源から現在に至るまでの映像装置の仕組みを学習し、実際に制作します。その後、写真、ビデオ、アニメーション、コンピュータによる映像技法を学び、映像作品を制作するための基礎的なプロセスに触れます。後期には、絵画、彫刻をとおして造形の基礎を学びます。

メディアに触れて、視野を広げる2 年次は写真、ドラマ、アニメーション、3DCG、メディアアートなど、映像領域の幅広い分野を学ぶ学年となります。影響しあう各分野の専門性に触れ、視野を広げながら映像表現を多面的に習得します。専攻に関係なく必修となる

「デジタルドラマⅠ」では映像制作に必要不可欠なグループワークを通して、一つの作品を完成させます。

専門的な指導3 年次からは明確な専門分野の選択肢が設けられ、高度な制作指導が行われます。1・2 年次で習得した総合的な表現力を、選択した専門分野に応用し展開する学年です。後期には、担当教員の個別指導を受けながら、企画から制作、作品展示まで、全てを自分で実践する映像・写真表現実習Ⅰ(進級制作)が行われます。

ゼミ形式での高度なステージ4 年次では専任教員によるゼミナールが開講されます。ここでは各学生の志向に沿った高度なステージが用意されており、映像の専門領域と応用領域への対応に備えます。後期には、4 年間の学習の成果を結集し、自らテーマを定めて卒業制作を行います。

1 − 4 年次共通選択必修科目映画史概説Ⅰ(日本映画史)/ 映画史概説Ⅱ(世界映画史)/ 映像文化史演習 A・B/表現論Ⅰ / 表現論Ⅱ / イメージングサイエンス論Ⅰ(イメージテクノロジー)/ イメージングサイエンス論Ⅱ(ネットワーク芸術論)/ イメージングサイエンス論Ⅲ(映像理論研究)/ イメージングアーツ論Ⅰ(サウンド・イメージ)/ イメージングアーツ論Ⅱ(音楽概論)/ イメージングアーツ論Ⅲ(現代写真論)/ シナリオ制作演習 / ドキュメントⅠ / ドキュメントⅡ / 映画史 / オーディオアート / 写真テクノロジー A- Ⅰ /写真テクノロジー A- Ⅱ / インスタレーション研究 / デザイン演習 / 映像・写真文化論Ⅰ / 映像・写真文化論Ⅱ / メディアアート研究

カリキュラム知識を広げながら深め、深めながら広げていく。さまざまな映像表現を総合的、専門的に学ぶ全方位的なカリキュラムが映像学科の特徴です。1・2 年次には写真、ドラマ、アニメーション、メディアアートの各専門領域を学び、基礎技術を習得するとともに、全員必修のドラマ制作を通して、人々の心に作用する映像表現への理解も深めます。続いて映像表現の各専門領域を深化させる専門的な指導が始まります。全方位的、多面的、総合的な学びを実現するために、3 年次の映像・写真表現実習Ⅰや 4 年次の卒業制作・論文では、ジャンルの枠を取り払い、全教員による講評・評価を行います。

ドラマ

写真

アニメーション

メディアアート

イメージフェノメナン

映像学科の「ドラマ」では、演出・技術・美術・俳優が一体となって物語を紡ぐ、映画やドラマの企画、制作から公開までを学びます。1 年次に基礎的なビデオ撮影・編集の実習を経験後、2 年次ではチームによるスタジオワークを通し、他者との創造的な協働のあり方、議論の進め方、双方向的な関係の持ち方を習得。3 年次は個別指導の実習で企画・制作力を高め、進級制作で本格的な実作。海外連携のプロジェクトなどを経て、集大成となる4年次の卒業制作に向かい、国内外に発信できる制作者へと成長していきます。

映像学科の「写真」ではケミカルからデジタルまで、その他の映像領域との連携を図りながら授業を進めて行きます。1年次では、映像メディア全般と写真表現を行う上での基礎的な技術・表現力を学び、2 年次にはそれらを礎に更に高い専門性を意識した授業が行われます。3年次からはより特化し、実践的な創作活動を体験します。4年次では卒業制作をそれまでの集大成と位置づけ、さらに発展、展開するためのゼミ指導が行われます。

映像学科の「アニメーション」では、手描きや 3DCG を中心に、実写映像、マンガ、イラストレーションなどの隣接領域とも連動させながら、それぞれの制作スタイルを学んでいきます。1年次に様々なアニメーションの手法を体験することから始まり、2 年次にはアニメーション、3DCG それぞれの基礎を学ぶ授業が開講されています。3 年次では進級制作にて個人での作品制作のほか、選択科目にて個人制作およびグループによる企画立案から共同制作を行う授業が展開されます。4年次の卒業制作では「プロとしてのスタート」を目標に制作していきます。

映像学科の「メディアアート」は、美学的・哲学的な視点からの実験的なメディアアート制作を進めています。2年次では映像、音響、装置、身体を軸にした個人制作を行います。3年次・4年次では、メディアアート、サウンドアート、インタラクティブアート、パフォーマンスアートの試作を軸に、展覧会やライブイベントという発表の場を数多く設けています。また、海外の教育機関とのコミュニケーションも必要不可欠と考え、欧米のみならずアジア各国とも共同プロジェクトを展開させています。

映像学科の「イメージフェノメナン」は、本学映像学科独自の映像領域です。映像によって創り出される映像の中にしかない現象を表現する新領域の確立を目指しています。1年・2 年次で学ぶ基礎的な映像表現をもとに、3 年次では、現実世界の映像素材を風景に見立てること、変質させること、スケール変換することなどの操作によって映像作品を制作していき、また自分の映像作品のためのスクリーンや提示方法を試行します。4年次の卒業制作では、これまでの映像の役割を超えた新たな可能性の提示を模索していきます。

【1 年次】 【2 年次】

【3 年次】 【4 年次】

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 あなたが観るもの、識ること、触れる人、想う景色、感じる全てが映画の素、あなたの日常にはドラマが溢れている。発見、観察、考察、行動……学生は自身の最大の関心事を元に映画を作り始めます。 1 本の映画が出来上がる過程で、夥しい数の他者とのやりとり、選択と決断を絶え間なく繰り返すのが「監督」。そして、何が大切か面白いかという自分の感性を他者に共有し体感してもらうための吟味や推敲が「編集・仕上げ」。完成作を丁寧に相手に受け渡し、その反応に一喜一憂するのが「上映・公開」。それはまるで私たちの日常生活におけるコミュニケーションと同質のものに思えます。 「人間力」がものをいう、視野を広げ実践的経験を通して「人間力」を磨くことが必要。映画制作は「私を作る=自己をプロデュースする」という作業でもある様です。 美大で映画制作を学ぶ事とは、知識や

ノウハウを効率よく教えてもらうのではなく、知恵の体得をかけた明るいサバイバル?大学の 4 年間は人間スキル獲得のための人生ゲームみたいなものかもしれません。 8週間、志向ジャンルを問わず 2 年全員が協働する集団制作実習は、閉鎖的な自己表現にはとどまれず、社会や他者に照らす自己形成の場となります。苦手意識のある学生も、ぐんぐんコミュニケーション力・人間力を獲得していきます。

 更に、高校生向けのドラマ制作体験ワークショップ、地元の子供達との映画制作ワークショップ、商業映画の現場参加、他大学との交流上映や国内外の映画祭への参加、商業映画の学内プレミア試写会の運営(宣材制作、司会進行、ゲストや観客の対応 他)・・・。授業枠を超え、学生たちが主体的に社会性を獲得する機会は広がります。

 海外との学生交流、地域プロジェクトも良機。ASEAN 4カ国と日本の学生との共同映画制作プロジェクト「And Action Asia#04&#05」への学生参加、武蔵美の提携校ラサール芸術大学 撮影コース(シンガポール)とは共同制作ワークショップを経て、卒制をラサールスタッフとシンガポールで撮影する学生が現れました。 卒業生&在校生有志が長崎県大村の市民と協働で短編映画集の制作を行った『スナメリの詩プロジェクト』では、地元高校生の監督作をサポートした学生が、翌年、市民の協力を得て卒制を大村で撮影。数々の映画祭で入選・受賞し、劇場公開の運びに。 機会を生かし、ご縁をつないで、軽やかに次へのステップへ、まさに「自己プロデュース力」の賜物でしょうか。

映像学科教授 小口詩子

①オープンキャンパス スタジオワークショップ ②③ 2 年次必修科目「デジタルドラマ I」スタジオ授業風景④ idyf! シンポジウム 西安 ⑤シルクロード国際映画祭 レセプション 西安⑥第 13 回アジア国際青少年映画祭 開幕式 ソウル ⑦ And Action Asia # 5 「Starling’s Journey」撮影風景 ジャカルタ⑧スナメリの詩プロジェクト「爆走高校生2」撮影風景 長崎 ⑨ 「貴美子のまち」撮影風景 シンガポール

ドラマ

⑧ ⑨

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写真

Cluster of Dreams

 少年は河原に佇む大きな牛の姿に恐れを抱きながらも、息を潜めてそっと近づき、静かにカメラのシャッターを押した。

 写真好きだった父の影響で、幼少の頃からごく自然に写真を嗜むようになって以来、60 年近くも写真を続けているのだが、あの頃に撮った写真を未だに越せない自分をみつけて唖然とする。無垢で無邪気な少年の撮った写真は、何の目論見も目的もなく、それ故のファインな精神、純粋さに支えられて、かろうじて「写真」として成立している。

 何もかもが眩しく輝いていたあの頃。苦さと甘さが入り交じった無我夢中の日々。かつての写真少年から遙か遠く、初老の私がここにいる。随分と歩いてきてしまったような気もするし、あの頃と同じ場所に立ち続けてきたような気もする。手には相変わらずのカメラがある。 ここに来て、写真家とは悲しい存在なのかも知れないとフッと思う。目の前の現実に加担しているつもりが、実は加担していない。目の前の現実を見ているつもりが、実は見ていない。あくまでもファインダーの中の架空の世界、写真としてフレーミングされた「此処ではない何処か」を夢想しながらずっと生きてきた

ように思う。それ故に、現実世界から手痛いしっぺ返しを食らうことも覚悟の上で、片意地を張って生きてきたのではなかったか・・・。 スカスカとした風が吹きすさぶ東京郊外の造成地に、高校三年生の私が突っ立っている。1970 年、中心から遠く、周縁の街「百合ヶ丘」で、私は相変わらず「写真」を夢想していた。なぜに私は、私の背中を風景の中に置いて撮ったのか。なぜにセルフィーなのか。あの頃の言葉は、霧の中へ消えたまま戻っては来ない。 少年から青年へ、青年から中年へ、中年から老年へ。一瞬にして過ぎ去る夏のように、人生もまた一瞬である。今、老年を生きようとする私は、相も変わらず此処ではない何処かを夢想しながら写真を撮り続けている。特別な気負いも使命感もなく、ただただ無目的に、何の役にも立たないような写真を撮り続けている私。フッと気がつくと、少年の頃と何一つ変わっていない自分をみつけてため息をつく。全てはあの時のままに、時空を飛び越えて年老いてしまった私がいる。

 還暦を過ぎた辺りから、なぜか雪の有り様に関心を抱くようになった。雪国・秋田に育った私にとって、雪とは冬になれば当たり前のようにそこにあり、何ら

特別な存在ではなかったのだが、春になって陽光を浴び、誰もが気がつかないうちにスーと跡形もなく消えてゆく雪の潔さ、不思議さに惹かれて、雪をモチーフに写真を撮るようになった。花鳥風月としての雪ではなく、雪の存在そのものをトポグラフィックに捉えようと心がけているのだが、真っ白な雪だけに誤魔化しが効かず、悪戦苦闘の日々が続いている。 もしも、少年の頃の私だったら雪をどんな風に撮っただろうか。おそらく、表現するとかしないとか、そんな難しいことは考えるまでもなく、眼に飛び込んでくる光景を無心で受け取って、無我夢中で撮り続けたに違いない。

空っぽの器は 空気で満たされている  これ見よがしに豪華な料理の盛られたお皿より、何もない空っぽの器こそが最も充実し、輝いて見える。いかにも、人生とは、表現とは、空っぽの器そのものである。その極みに向け、一歩踏み出す。

映像学科教授 小林のりお 

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アニメーション

手描きアニメーション アニメーションは、主な工程をコンピュータを活用して制作する“デジタル系(CG 系 ) ”と、主に手で触れる素材を撮影して制作する “アナログ系”に大別されます。 私の専門は後者であり「個人で作る短編アニメーション」を担当しています。テレビや映画館で上映される作品の殆どは大規模なスタッフワークによる長編が主流ですけれど、それに劣らない量で実は個人制作による短編も古今東西たくさん生まれているのです。 短編は長編の為の習作ではなく、むしろ長編では描けない極度に圧縮された濃密な小宇宙といえましょう。 作者の内部から吹き上がる真摯な情念と並外れた作業量は圧倒的な熱量となって観客の心を揺り動かします。たった一人で日夜コツコツ長い年月をかけて完成

させた作品が国際映画祭で受賞したり世界中の観客から愛されている例は珍しくありませんし、技術的には稚拙な作品が所謂“上手い作品”を凌駕する逆転現象だって起こり得るのです。 手法やテーマは作者の数だけ存在するので、それを“共通スキル”として学ぶことは不可能です。では一体何を教えているのかといえば、私は「創造のエッセンス」と考えています。 特定の業種に就職するための職能的な訓練ではなく未知の方向へ多角的に発展し得る表現力、それを自身の専門領域を拠点として教えるより「伝えたい」と願っています。動画サイトに投稿される数多くの短編アニメを見るとき、本来なら何より自由である筈の自主制作なのに、どこか他者の目を気にして本当の気持を隠しているのではと思わせる作品にしば

しば出会います。もちろん単なる“独りよがり”に終わってはプロの表現者と言えません。 しかし、他ならない作者自身も満足できない作品で他者を満足させる事など出来るのでしょうか?ちょっと信じられません。私自身、ひとりの表現者として何が嬉しいかと聞かれれば「個人的な探求が外界と共振する瞬間」と答えます。 授業では、その最高にスリリングな創造の歓喜を一人でも多くの学生に体感して欲しいと願っております。

映像学科教授 黒坂圭太

WEI MAN 「Apple Tree」

可愛らしいキャラクターで一見幼児向けメルヘンに思えるが、優れた童話がそうであるように本作も単にそこだけには留まらない。主要テーマとなる「自分探し」は今や青少年だけでなく定年を目前に控えた壮年期の人間にも共通する普遍的な寓話としての説得力を持つ。内容もさることながら時間軸の造形面に於いても確かな演出力に支えられた映像構成は俊逸だ。マルチ画面を導入した多角的視点は作者が展示形態の映像をも探求してきた成果であろう。

コンピュータグラフィック 映像学科は、「映像」という言葉を、狭いジャンルで自閉するのではなく、つねに新しく刷新し続ける、「イマージュ」=

「見ること」の可能性を切り開いていくようなクリエイティブな精神をもった人を歓迎します。そのため、隣接するアニメーションと CG においてもコースにわかれてはいません。さらに、写真やドラマやメディアアートなどの領域を自由に横断しながら既成の概念にとらわれない制作を目指しています。私たちが高く評価してきた作品群は、名付けようのない映像の可能性の、実験的・革新的な要素をどこかに秘めているのです。 卒業制作では 4 年間で学んだことの集大成として、それぞれ専門とする分野が

松島友恵「ほぼ完全に空洞になった都市」

大戦中のロンドンを彷彿とさせる場所。高みからカメラが下降後退するにつれ、大聖堂の威容と破壊された町の姿が開示されていく。記憶の奥底の光景、描かれない破壊の瞬間、賛美歌 312 番。人物は登場せず、強いストーリーもそこにはない。不在による存在感。緻密に描写された事物の提示によって、その町で営まれていた生の輪郭が逆説的にせり上がってくる。作者の高い造形力が遺憾なく発揮され、時を超えた精神が見る者の心を打つ。

異なる教授陣・講師陣のアドバイスを得、仲間どうしで切磋琢磨し、作品に仕上げていきます。私の担当している CG 分野で制作を行う学生さんたちも、4 年間の間に、実に多様なことを学んでいます。コンピュータは絵筆の一つです。わずか数分であっても感動をもたらす作品には、作者の身体を通した経験が生きています。ストーリーテリングの巧みさ、文学・哲学・美術の素養、自然観察、音に対する感受性、人間感情への洞察など、あらゆる要素が統一された有機体として息づいています。 創造性・革新性は、教育することが難しい要素といわれます。それでも、そのことを追い求める人たちが集う場でありたいと思います。先人たちの築いてきた

分野の伝統に学びつつ、その形式をなぞるのではなく、ジャンルの閉鎖性を内側から食い破っていくような、生命力や批判精神、革新性にあふれた作品や人を輩出し続けていきたいと願っています。

映像学科教授 三浦均

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メディアアート

 「メディアアート」の先駆者として、レオナルド・ダヴィンチ、フランスのマルセル・デュシャン、ドイツのバウハウス等が挙げられますが、「メディアアート」という名称は 1950 年代以降の、メディアテクノロジーを使用した芸術を指します。 「メディアテクノロジー」とは、映像装置(フィルムによる写真や映画、電子映像)、電子音(ラジオ、レコード、テープレコーダー)なども含めて、情報を伝達し、保存するメディアを指しています。その延長で、光学、機械工学や電子工学の装置、情報科学や人工知能もメディアアートに利用されます。作品に最新技術を取り入れることで「ニューメディア」を使用している「メディアアーティスト」たちは、芸術のカテゴリーを常に再定義する必要がありました。写真や映画の技術は 19 世紀から利用されていますが、1920 年代から実験映画、1930年代からキネティックアート(運動)やライトアート(光)、1940 年代から電

吉村尚子「人力発電装置」

アートと福祉マネジメント及びアートセラピーの研究を行い、自転車をベースにした機構が搭載された乗り物で、構内や屋外(公共空間)を走行するパフォーマンス作品である。自転車の動力で機構が動き、同時にダイナモライトが点灯する。

子音楽、1960 年代からビデオアートやコンピュータアート(デジタルアート、インタラクティブアート)、1980 年代からネットワークアート、サテライトアート、ウェブアート、バイオテクノロジーアートなどが展開してきました。

 武蔵野美術大学の映像学科を創立した教員の一人、山本圭吾先生は 1960 年代から「ビデオアート」の中で特にインタラクションを求めて、参加型のインスタレーション作品を発表し続けてきました。

「ネットワーク芸術」の先駆者として、アジア・ヨーロッパ・アメリカの国々と日本を結んで、地球規模のインスタレーションやパフォーマンスを展開してきました。

 2000 年代からインターネット上での、映像と音響の伝達が普及し、武蔵野美術大学では数多くのネットワーク・ライブイベントを開催してきました。授業では、映像と音響のみならず、インタラ

クティブデバイス(コンピュータやセンサー)などを使った作品を制作し、映像上映やインスタレーション展示、音楽の演奏やパフォーマンス上演などを行っています。

 現在、この地球上では生き残る、そして快適に暮らすために、人間は、社会環境・自然環境・宇宙環境などと、どのように関わるべきか、などの重大な問題に直面しています。「環境」をどう考えるのか、どう対応するのかは、あらゆる意味での

「コミュニケーション」を問う「メディア・アート」の最も重要な課題の一つだと思われます。

映像学科教授 クリストフ・シャルル

2018 年国際交流プロジェクト東京 - マルセイユ - バルセロナ、 聴覚的可視化と視覚的可聴化

武蔵野美術大学[MAU]、フランスのエックス・マルセイユ大学[AMU]とスペインのバルセロナ大学[UB]の三角コラボレーションによって、2018 年 3 月に、10 日間の図形楽譜に基づいた即興音楽ワークショップ及びコンサートをマルセイユとバルセロナで行なった(東京から 8名、マルセイユから 14 名、バルセロナから 14 名)。

マーク・フェル( Mark Fell )訪問教授のワークショップ (2018 年 10 月)

イギリスの作家、マーク・フェル訪問教授のワークショップでは、アートや音楽における「パターン生成システム」(pattern generating systems)を応用することによって、時間と空間を構成し、音や光によって作品制作を行った。

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 イメージフェノメナンの授業が始まる7 号館の 310 は、10 × 6 列をなすデザイン机でぎっしりの共用教室です。四月、二週目の木曜日にはそこに、二十名程度の受講生が前を向いて座っています。映像学科の三年次における選択必修科目として設けられたこの制作実習で、一体何をどうするのか、彼らはその指標が示されるのを待っているに違いありません。また、イメージフェノメナンの内容に着手しようと赴いているはずです。 ビクトル・エリセ監督による『マルメロの陽光』は、アトリエの庭に植えられたマルメロの成長を描くアントニオ・ロペスと数ヶ月をとらえたドキュメンタリー映画です。オリエンテーションでこの作品に話題が及ぶのは、その画家が、日ごとに、モチーフであるマルメロの果実や葉や幹に白線を記していくためです。自分の足の位置を固定し、周囲の変化の過程を認めながらキャンバスに向かう態度には、きわめて形式的な観察がみちびく時間性と、表現をともなわせる手法についての示唆があります。画家の眼のよ

うな意識に、私たちは映像をもって近づくことができます。などと言ってみる時、一体何がどうなるのか、その成果を定めることはできません。彼らがもし、目的とそのための計画をのぞんでいるとすれば、ややもすると無益にさえ思うことでしょう。それでも、身のまわりの何かを撮るようにと促してから数日もたたないうちに、訳もなく心を打つイメージが立ち現れ、何としても価値を付加させなくてはそれこそ無益であると思いはからうのです。 イメージフェノメナンが映像のジャンルとして特異であることに因み、まず授業に取り組むにあたって、ある程度の定義づけを行うべきかと毎年悩みます。具体的なテーマも与えないまま言いよどんでいるうちに気づかされるのは、彼らのカメラに見え隠れする無意識すら現象であるということです。それを見つめることに時間が費やされなければ、映像そのものが私たちのモチーフであると今更に唆してくれる人はいません。 アレクサンドル・ソクーロフ監督によ

る『エルミタージュ幻想』は、制作の途中でたびたび話題にのぼる作品です。90 分ワンカットのファンタジー映画における無編集という驚異を改めて編集のコンセプトであると問い直す時、作業のモチベーションが映像を試みることに向かい始めるのを実感します。ここから先に用いるのがカメラでもそうでなくても、ある種の操作において貫かれる持続性は、自らの視点をも掘り下げてくれると暗示しているのです。私はこの授業にたずさわる身として、また、その後の進級制作や卒業・修了制作に展開された表現を目の当たりにした数年を経て、美術とともに映像を学んでいます。イメージフェノメナンは回りくどい習得の方法ですが、そうでなければ、諸ジャンルにも身のまわりにも関心を募らせることはなかったでしょう。この体験がわずかでもイメージされることを願って寄稿します。

映像学科 非常勤講師 野村叔子

イメージフェノメナン

岡野紗咲「共鳴 〜 groove 〜 」

 通常、複数のスクリーンで映像を提示する目的は、マルチ・スクリーンのように、全体を大きく見せることや、同時に多数の情報を表すことにある。しかし、作者が 21面のスクリーンで実現したいことは、映像の groove 現象だけにある。音楽において groove とは、ブルースやジャズの生演奏時に、一定のリズムの頭を少しずらしたり、アクセントの位置を変えることによって、生命現象と同質のうねり

4 4 4

や波立ちが立ち現れる現象を指している。 映像においては、その動きや速度を操作することによって、スクリーンとスクリーンの間(groove には溝という意味もある)に接するヘリ縁にこの現象が現れる。このようなスクリーンの使用方法は、新しいとか古いとかに括られるものではなく、そこで名演奏が繰り広げられているかに関わっている。つまり、groove の質が問われているのだ。groove を目標にした、この作品の波動の中で、うねり

4 4 4

を体験してほしい。

映像学科教授 板屋 緑

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主な職種

ディレクター / アートディレクター / アシスタントディレクター / エディターCM プランナー / アニメーター / カメラマン / モデラー映画美術 / プロダクションマネージャー / システムエンジニア各種デザイナー:CG デザイナー / インターフェースデザイナー / プログラマー / Webデザイナー総合職 / 企画 / 広報 / 宣伝 / 技術 / 制作 / 営業 / 事務 / 研究職 / 公務員 /

主な就職先 ( 過去4年実績 /2015 〜 2018 年度 )

TV・映画・劇場株式会社NHKエンタープライズ / 株式会社サンライズ /株式会社メディア22世紀 / 東京メトロポリタンテレビジョン株式会社

アニメ・CG・ゲーム1-UPスタジオ株式会社 / コナミホールディングス株式会社 / プラチナゲームズ株式会社株式会社アトラス / 株式会社カプコン / 元気株式会社 / 株式会社コーエーテクモホールディングス株式会社サムライピクチャーズ / 株式会社ジェー・シー・スタッフ / 株式会社白組株式会社セガ・インタラクティブ / 株式会社タツノコプロ / 株式会社デジタル・ガーデン東映アニメーション株式会社 / 株式会社動画工房 / 株式会社バンダイナムコアーツ株式会社バンダイナムコグループ / 株式会社プロダクション・アイジー / 株式会社マッドハウス

印刷・紙・写真株式会社日本コマーシャルフォト / 共同印刷株式会社

広告(代理店・CM制作会社)株式会社 ADK クリエイティブ・ワン / 株式会社AOI Pro./ 株式会社アドブレーン株式会社ギークピクチュアズ / 株式会社ティー・ワイ・オー / 株式会社ピラミッドフィルム株式会社ピラミッドフィルムクアドラ / 株式会社ロボット /株式会社博報堂プロダクツ / 太陽企画株式会社

情報・通信・ネットワークチームラボ株式会社 / 株式会社DMM.com株式会社USEN-NEXT HOLDINGS / 株式会社サイバーエージェント有限会社ビジュアル アンド エコー・ジャパン

出版・新聞株式会社枻出版社 / 株式会社小学館ミュージック&デジタル エンターテイメント

その他サンエックス株式会社 / ソニー株式会社 / パナソニック株式会社株式会社イッセイミヤケ / 株式会社俄 / 株式会社高島屋 / 株式会社昭栄美術 / 株式会社博展株式会社良品計画 / 国立大学法人京都大学 / 田島ルーフィング株式会社独立行政法人日本芸術文化振興会(国立劇場等)

卒業生の進路は映像分野を中心に多業種にわたります。様々な分野で「映像」を学んだことがアドバンテージになり、一見関係のないフィールドにも活躍の場は広がりをみせています。今後も「映像」の制作者であることはもちろんのこと、よき理解者として各ジャンルへ羽ばたくことを期待します。

映像学科教員

■専任教員○教授○板屋 緑

小林 のりお黒坂 圭太篠原 規行小口 詩子

三浦 均Christophe Charles

○助教○千葉 岳

瀬川 哲朗増山 透

■客員教授足立 光

河合 真也

■非常勤講師青石 太郎浅野 優子安倍 照雄伊藤 時男遠藤 律子

大田 晃岡 太地

岡川 純子小川 明日香

笠間 悠貴金房 邦彦

金村 修紙屋 牧子栗芝 正臣黒澤 誠人黑田 順子GOTO AKI小松 浩子小柳 淳嗣

坂口 トモユキ柴田 康太郎

霜田 誠二JOU

菅沼 比呂志鈴木 昭彦

鈴木 英倫子髙橋 明洋瀧 健太郎竹中 義明谷口 暁彦戸塚 太郎

鳥原 学永井 由美子

中嶋 莞爾根間 太作野村 叔子橋本 直明橋本 典明橋本 典久

畠中 実濱口 幸一

原田 浩比賀 多恵福居 伸宏

福島 可奈子藤田 純夫松野 良則宮下 晃久

村越 としや元木 みゆき

森 浩一郎森田 衣起山倉 一樹山崎 連基

■教務補助員岡野 紗咲

若林 穂乃香湯浅 美丹

造形構想学部入学試験

■一般選抜【一般方式】国語、英語、感覚テスト鉛筆デッサン/数学/小論文 より 1 科目選択計 4 科目

【共通テスト 2 教科 + 専門試験方式】(大学入学共通テスト + 専門試験)国語/地理歴史/公民/数学/理科/外国語 より 2 教科 2 科目選択感覚テスト/鉛筆デッサン/数学/小論文 より 1 科目選択計 3 科目

【共通テスト 3 教科方式】(大学入学共通テストのみ)外国語 より 1 科目選択国語/数学 より 1 科目選択*国語/地理歴史/公民/数学/理科 より 1 科目選択(*で選択した科目を除く)計 3 科目

【学部統一方式】国語/英語/数学より 2 科目選択計 2 科目

■外国人留学生特別選抜感覚テスト、面接

■総合型選抜[前期]【クリエイション資質重視方式】1 次 ポートフォリオ(作品資料ファイル)および自己推薦調書審査2 次 ポートフォリオ(作品資料ファイル)および面接

■総合型選抜[後期]【英語力重視方式】自己推薦調書、英語による発表および面接による審査

【数学力重視方式】自己推薦調書、数学および面接による審査

■学校推薦型選抜【ディレクション資質重視方式】自己推薦調書、構想力テスト、面接

■造形構想学部 編入学(3 年次)選抜提出物審査/面接

■転部・転科試験提出物審査/面接

大学院造形構想研究科入学試験

■大学院修士課程選抜〔造形構想専攻 映像・写真コース〕提出物審査/小論文/面接

■大学院博士後期課程選抜外国語(英語)/小論文/口述試験

研究生の受け入れ学部研究生(修士課程準備教育)・大学院研究生(博士後期課程準備教育)

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映像学科で「映像」を学ぶということ

映像学科では、課題や制作を通して様々な映像表現に出会うことになると思います。しかしながら映像学科で学ぶことは、映像の技術や歴史だけではありません。

技術や歴史を知った上で、「映像」で何ができるのか。あるいは技術や技法ではなく、思想や哲学としての「映像」であること。映像というものが身の回りに当たり前のようにある今だからこそ、その意味を私たちは考えなければなりません。

歴史を知ることや、未来を想像することは、すなわち「現在」のことです。

何かを作り上げるということ、何かを観ること、これらは生産者と消費者の関係ではありません。どちらも作ること、観ること、という現在的な行為です。

私たちはイメージの良き「送り手」であると共に、イメージの良き「受け手」にならなければならない。

そのためには映像を作る力や、言葉や形に出来ないイメージを誰かと共有していく力も必要になるでしょう。

映像学科で学ぶことは、たくさんの「映像」に触れ、その枠を超えて新しいイメージを創造することです。

■お問い合わせ入試に関するお問い合わせは下記までお願いします。 武蔵野美術大学 入学センターTEL:042-342-6995Mail:[email protected]

 大学資料をご希望の方には無料で配布を行っています。大学 web サイトにて資料請求登録を行っていただくと、大学紹介資料セットをお送りするとともに、最新のイベント情報(オープンキャンパス、進学相談会、芸術祭、卒業・修了制作展等)を随時 DM でお知らせいたします。

映像学科紹介パンフレット 2020発行日:2020 年 7 月 20 日発行:武蔵野美術大学映像学科研究室〒 187-8505東京都小平市小川町 1-736

印刷・製本:株式会社グラフィック

冊子編集:千葉 岳Web:横田 泰斗

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