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Kobe University Repository :...

Date post: 28-Sep-2020
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Kobe University Repository : Kernel タイトル Title MOOCと反転授業 : ICT で変わる大学教育 [FD講演会] 著者 Author(s) 山内, 祐平 掲載誌・巻号・ページ Citation 大學教育研究,23:111-132 刊行日 Issue date 2015-03 資源タイプ Resource Type Departmental Bulletin Paper / 紀要論文 版区分 Resource Version publisher 権利 Rights DOI JaLCDOI 10.24546/81008943 URL http://www.lib.kobe-u.ac.jp/handle_kernel/81008943 PDF issue: 2021-01-31
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Page 1: Kobe University Repository : Kernelット上で公開するというオープンコースウェアと呼ばれている動きはありました。ところ が、今まではあくまでも映像や授業資料を公開しているだけで、教育はキャンパスに来て

Kobe University Repository : Kernel

タイトルTit le MOOCと反転授業 : ICTで変わる大学教育 [FD講演会]

著者Author(s) 山内, 祐平

掲載誌・巻号・ページCitat ion 大學教育研究,23:111-132

刊行日Issue date 2015-03

資源タイプResource Type Departmental Bullet in Paper / 紀要論文

版区分Resource Version publisher

権利Rights

DOI

JaLCDOI 10.24546/81008943

URL http://www.lib.kobe-u.ac.jp/handle_kernel/81008943

PDF issue: 2021-01-31

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「MOOC と反転授業-ICT で変わる大学教育」

講師:山内 祐平(東京大学大学院情報学環 准教授)

司会:本日、MOOC と反転授業(flipped classroom)およびラーニングコモンズについて

ご講演いただきますのは、東京大学大学院情報学環の山内祐平先生です。既にこの分野で

日本を代表する研究者ですので、テレビなどのいろいろな場所で講演等をお聴きになった

方も多いかと思います。

簡単にご紹介させていただきますと、愛媛県にお生まれになり、大学および大学院は大

阪大学の人間科学部および人間科学研究科で学ばれまして、その後大阪大学助手、茨城大

学の助教授を経て、2000 年より東京大学大学院情報学環で准教授をお務めです。研究分野

は学習環境デザインということで、著書には『ワークショップデザイン論』や『学びの空

間が大学を変える』等、多数おありになります。本日は、先生に 1 時間少々お話しいただ

きまして、その後、皆さん方と質疑応答を行いたいと思いますので、よろしくお願いした

いと思います。では、よろしくお願いいたします。

山内氏:今日は、ラーニングコモンズにご関心のある方、大学の授業改善にご関心のある

方など、多様な方がいらっしゃっていると伺っておりますが、その全ての話に影響を与え

る可能性があるオンライン学習の話を最初にしまして、今後、オンライン学習が大学の授

業に与える影響から、逆にアクティブラーニングとかラーニングコモンズがどういう位置

付けになるのかという話をしたいと思います。

MOOC(大規模公開オンライン講座)の概要

MOOC に関しては、お聞き及びの方もいらっしゃるかと思いますが、アメリカではちょ

うど 1 年ぐらい前からものすごい騒ぎになりました。日本ではこの春ごろから報道が始ま

り、最近日経に出たり、この後少し見ていただきますが、一昨日の「クローズアップ現代」

で取り上げられたり、まさに今ちょうど報道が始まっているところです。オンライン学習、

しかも無料で大量の人に学習を提供するというのが世界的に大きな動向になってきていま

す。まず「クローズアップ現代」のイントロをご覧いただいてから、この話の解説を続け

ていきたいと思います。

――ビデオ上映開始――

(ナレーター) 世界の秀才が集まるハーバード大学。理工系の名門、MIT。その人気講

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座をあなたも無料で受けられます。今、世界の名門大学が、次々とインターネットで講座

を配信。無料のオンライン講座の数は 500 を越えました。受講生は延べ 1000 万人。国境や

経済格差を乗り越え、多くの人にチャンスを与えています。

(女性) 学校では教えてくれないことを勉強できます。

(ナレーター) キャリアアップのために講座を利用する人も急増。

(男性) 自分の将来も含めて、考えるきっかけになった。

(ナレーター) アメリカの企業は、オンライン講座で優秀な成績を収めた人材の獲得に

動き出しています。

(男性) 大学の単位や年齢など関係ありません。オンライン講座で優秀なら採用します。

(ナレーター) 急速に広がる大学の無料オンライン講座。その可能性に迫ります。

(国谷) こんばんは、クローズアップ現代です。世界の 100 を超える名門大学が無料で

オンライン講座を提供しているのをご存じでしょうか。住んでいる地域や経済力に関わり

なく、学ぶ意欲さえあれば、自分の目的や興味、関心に沿って、アメリカや中国、シンガ

ポールなど、20 の国と地域の名門大学が提供する授業の中から選んで受講することができ

る新たな時代が始まっています。

提供されている授業も、経営学や哲学、宇宙物理学、美術史、文学、さらには音楽など、

多彩です。日本でも、東京大学が今月から宇宙の成り立ちについての授業を無料で配信し

はじめています。授業を受けテストなどを通れば、修了証が発行されます。このオンライ

ン講座を受けたことによって、留学や就職の機会が広がったといったことも実際に起きて

います。

提供される授業の数は、この 1 年の間に急速に増えているのですが、そもそも名門大学

が無料でオンライン講座を提供するようになるきっかけとなったのは、アメリカ等で授業

料が高騰し、経済的理由から大学に進学することができなくなったことが増え、置かれた

環境に関係なく勉学の機会が与えられるべきだという声が高まったからです。100 を超える

大学がこぞってオンライン講座を配信する、この新たな潮流は、学ぶ側、そして教える側

に大きな変化をもたらそうとしています。

――ビデオ上映終了――

山内氏:このような話がこの 1~2 年間で出てきたわけです。このきっかけになったのは、

2011 年の秋、2 年前ぐらいの話なのですが、スタンフォード大学の二つの教授グループ、

セバスチャン・スランさんという人工知能の研究をしているグループと、ダフニー・コー

ラーさんという機械学習の研究をしているグループが、ほぼ同時に、自分たちの授業をイ

ンターネット上に公開したら世界中から取れるのではないかということで、大学当局の反

対を押し切って公開してしまったのです。

一番多かったのはスランさんの授業で、世界中から 15 万人を超える学生が集まってきま

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した。先ほども少し触れましたが、ハーバードやスタンフォードに行こうとしたら、年間

数百万円の授業料を払わなければいけません。それはわれわれでも払えないような金額で、

発展途上国の人には絶対不可能な数字です。つまり、優秀ではあるけれどもお金がないか

ら学習する機会がなかった人たちが、実際にキャンパスに行くことはできないけれども世

界中から集まってきた。それだけ優秀な人たちが集まってくるのであれば、また違う形で

それを展開することができるのではないかということで始まったのが、MOOC(Massive

Open Online Course、大規模公開オンライン講座)と呼ばれる動きになります。

もちろん、今までも日本だけでなくて世界中で、講義授業を映像で収録してインターネ

ット上で公開するというオープンコースウェアと呼ばれている動きはありました。ところ

が、今まではあくまでも映像や授業資料を公開しているだけで、教育はキャンパスに来て

やってください、有料ですというモデルだったわけです。ところが、このスタンフォード

大学の教授たちは今までのモデルを破壊してしまったのです。つまり、大学の本義である

教育を無料で世界中に公開するということを始めてしまったのです。教育であるので、ほ

ぼ通常の授業を遠隔の形でシミュレーションした形になっていて、講義映像を見て、宿題

をしっかりやり、小テストがあって最終テストがあり、履修認定(Certificate)が出てくる

というモデルになっています。

今までオンラインでお金を取って履修するタイプの遠隔教育の大学もあったのですが、

それに比べると、複数の大学がいろいろなコースを出しているので、スタンフォードのこ

のコース、プリンストンのこのコース、ハーバードのこのコースというような組み合わせ

方ができるというところで、今までとは全く違う形態になっています。それから、誰でも

無料で履修することができます。かつ、世界中から学習者が集まってくるので、10 万人規

模の履修者がいるというところが非常に大きな違いになります。

2012 年に入るころから、いろいろなニュースサイトをモニターしていて、これはえらい

ことが起きているなという感触を持っていました。私どもの国際担当の理事の江川さんに

よると、いろいろな国際会議でも 2012 年後半から MOOC の話一色になり、国際会議では

「Online Tsunami」と呼ばれているそうです。「ついに大学教育にオンラインの津波が来た。

これから大学はどうなるのだろう」という話で持ちきりになっているという状況です。

なぜ大騒ぎになっているかというと、短期から長期のレイヤーがあります。短期的に見

ると、今まで全くアプローチしていなかった巨大な世界的なトップ層にリーチできるよう

になったことが注目されています。実際、MIT はこのオンラインコースで満点を取ったモ

ンゴルの高校生を、教授推薦という形で入学させました。 世界的な新しいトップ層を囲

い込めば、当然、優秀な学生を囲い込むことができるわけです。ご存じのようにオンライ

ンサービスというのは勝者総取りになるので、ここに参入して勝った者が全部のパイを取

ってしまう。グーグルみたいなものです。ということで、みんな大騒ぎになって、入らな

いとこの市場に全然アクセスできないのではないかということで、ばたばたと大学が動き

始めたというところがあると思います。

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中期的には、大学の授業に影響を与える可能性があります。MOOC というのは教育サー

ビスそのものなので、既に最大手のコーセラの講座に関していうと、5 コースが The

American Council on Education という単位認定団体によって認められています。このオン

ライン講座は十分に単位を出す水準に達しているということで、オンライン講座の修了証

をもって単位を出しても構わないということになっています。

そうすると、例えば、大学の学習のうち 10~20%がオンライン講座の単位をもって認め

るということが、現実的なシナリオとして出てきています。もちろん、全ての授業をオン

ラインで代替することは不可能だということはみんな分かっているわけですが、同時に、

この MOOC のような教材パッケージをオンラインで予習してきて、授業ではより対面的、

対話的、発展的な授業を行う、これが今日の後半でお話しする反転授業もアメリカを中心

に広がってきています。

さらに長期的には、大学の国際的な再編につながる可能性があります。つまり、ハーバ

ードやスタンフォードのような授業を提供する大学と、それを受けて、例えば反転型の授

業をする大学というように分化していく可能性があります。嫌な話をすると、これは実際

にもうアメリカでもめはじめているのですが、アメリカは今、特に州財政が厳しいので、

州立大学は教員コストを減らしたくて仕方がない状況にあります。そのため、一部のコー

スをオンラインにすることによって教員コストが削減されるのではないかという懸念が出

てきています。これが進むと、国際的な系列化にもなるのではないかという話も出てきて

います。いずれにしても、この話は単純に教育方法の話ではなくて、大学そのものの存立

に関わる桁になっている可能性があるということで大騒ぎされているということです。

主な MOOC プラットフォームとしては、登録者数が若干古いのでアップデートしますけ

れども、先ほどお話ししたスタンフォード大学の教授が設立したコーセラという企業が最

大手で、今 80 大学ぐらいが参加していて、登録者数が 480 万人ぐらいです。ものすごい勢

いで増えていて、フェイスブックを超えるスピードで成長しています。これはアメリカ西

海岸のベンチャー企業ですが、ベンチャーキャピタルが成長を見越してお金を出していま

す。

それに対抗する形で、MIT とハーバードが 25 億円ずつ、計 50 億円ぐらい出して半年後

に立ち上げたのが edX で、こちらは非営利になります。登録者数は今 100 万人ぐらいにな

っています。先ほどの番組の中で、コーセラに東大が参加したという話がありましたが、

京大は edX に参加しました。それ以外に、スタンフォードのセバスチャン・スランさんが

いる人工知能のグループはユーダシティというのを立ち上げています。イギリスはこのま

まいくとアメリカに全部教育ポータルを持っていかれてしまうので、国策で、オープンユ

ニバーシティを中心に、フューチャーラーンというサービスを昨日オープンしたばかりで

す。

こういう動きを受けて、日本でも何とかしなければいけないという話は出てきています。

今からお話しすることは事例としては海外のものが中心ですが、来年度あたりには日本で

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山内 祐平

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もこういう話が具体的になってくると思います。

MOOC の学習が具体的にどうやって進められるか。私は東大のコース担当なので、実際

に自分がマネジメントしているものでご説明したいと思います。どういう国から学習者が

来ていて、どれくらい国際的なネットワークになっているかを見てみます。アフリカと中

央アジアからはほとんど来ていませんが、それを除くと、ほぼ世界全てから学習者が来て

います。

参加している大学は、コーセラの場合はスタンフォードやプリンストン、イェールなど

です。これは面白くて、タイムズ・ハイアー・エデュケーションのランキングでは、1 位、

2 位に MIT やハーバードが入ることが多いのですが、MIT とハーバードは edX で連合体を

組んでいるので、それ以外の 3~10 位が全部ここに入っているというイメージです。

東大は 9 月から 2 コースの提供を始めました。今、提供しているのが From the Big Bang

to Dark Energy という講座で、宇宙物理の村山先生の授業です。10 月 15 日からは国際政

治の藤原先生の Conditions of War and Peace という授業が始まります。

実際に学習者になって授業の画面を見てみると、基本的には授業と同じでシラバスがあ

り、東大のコースは短めにしてあって 4 週間なのですが、フルスケールの 12 週や 15 週の

授業もあります。各週にどういうことがあって、どういう学習目標で学んでいくかという

話があって、グレーディングポリシーという、こうやって成績を付けるというのがありま

す。学習者はまずビデオを見ます。例えば、今週のビデオはこんな感じです。

――ビデオ上映開始――

山内氏:ビデオは、スピードを切り替えることができます。速くしたり遅くしたりするこ

とができます。それから、英語の字幕はデフォルトで付いています。ちなみに、edX の調

査で MIT の学生は倍速にしても理解度が下がらないということがあるらしくて、そうする

と今までの授業時間は一体何だったのだという感じなのですが(笑)。それはいいとして、

こういう形で、大体 15 分の区切りの映像ユニットが計 90 分あって、月曜日の夜に一気に

見る人もいれば、毎日 15 分ずつ見ていく人もいて、こういう授業映像を見た後で宿題が出

てきます。

――ビデオ上映終了――

山内氏:これはかなりハードな宿題で、それぞれの大学はそれぞれの大学の授業に準じた

オンライン学習をしているので、ほとんどの授業は全然易しくありません。音声をきちん

と聞いていれば選択肢式のクイズも分かるのですが、クイズに答えていって、一部計算問

題も入っていて、それは計算しないと解けません。このような形で、1 週当たり 1 時間半か

ら 2 時間ぐらい宿題をします。つまり、日本の大学設置基準上の普通の授業と全く変わら

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ないということです。1 時間半音声を聞いて授業をやって、その後 1 時間半宿題をし、テス

トが来て、それを 4 週間繰り返して最終テストです。うちのグレーディングポリシーは、

ウイーク 1 からウイーク 4 のクイズとファイナルイグザムに均等に割り振っていて、トー

タルで 60%を超えたら Certificate を出すという形になっています。

これは結構大変なので、学習者がこれを一人でやるとかなりドロップアウトしてしまい

ます。村山先生の話はとても分かりやすくて面白いのですが、計算問題等の数学が入って

きます。世界的に見ると数学が苦手な人が多いということが今回よく分かりました。どう

いう人が登録しているかについては後でもう少し詳しく見ますが、ものすごい数の人が登

録して、掲示板上でいろいろやりとりをしています。面白いことに、グリーティングフロ

ムメキシコとかグリーティングフロムインディアとか、ブラジルとかいろいろ入っていま

す。ものすごい人数が取っているので、最近、掲示板の書き込みが多くて大変なのです。

たくさんの人たちが掲示板で交流しながら、自己紹介みたいなこともしています。宿題

で解き方が分からないときにお互いに助け合っているのです。ここがポイントです。イン

ドの人をブラジルの人が教えているとか、イギリスの人を日本の人が教えているというこ

とが掲示板上で日常的に起きています。オープンコースウェアとだいぶ違うのは、直接学

習に関わるところ、学習者が相互扶助の形である程度やれるような形になっていることで

す。

ただ、村山先生は物理の授業なので選択肢にしやすいのですが、藤原先生の授業は戦争

と平和の条件で、こういう文系の授業だとなかなか選択肢になりにくいのです。そういう

場合、レポートとか、音楽の授業だと作品等もありますが、相互評価になります。3人に

ランダムにアサインして、この基準でお互いに採点してくださいということで、採点が行

われたりします。こういう形で実際に学習が進んでいます。

今の東大のコースには、登録者が 41,375 名います。東京大学の全学生数は 28,000 人な

ので、1 授業で東大の学生数を超える人たちが履修するというスケールになります。性別は、

物理の方はやはり男性の方が若干多めになります。それから、どういう国から来ているか

というと、アメリカが 22.6%でトップ、インドが 8%、ブラジルが 4.5%ということで、ト

ップ 10 の中に日本は入りません。残念ながら、英語の授業だと日本からアクセスする人が

あまりいないのです。

ただ、日本語化されるとまた事情が変わってくると思います。実際に日本に入ってくる

ときには二つの入り方があります。一つは、恐らく日本の中でも MOOC のようなプラット

フォームを持たないといけないという話が秋ごろに出てくると思います。もう一つの動き

としては、コーセラ自体が多言語化を進めていて、スタンフォード大学などの授業に字幕

が付きはじめます。非常に恐ろしいことが今起きようとしています。こういうものが映画

のように字幕付きで流通しはじめるということです。そうすると、数学や物理など、国や

文化に依存しないような授業だと、字幕付きで向こうの授業をそのまま使って、こちらで

判定すればいいではないかという議論が当然出てくるだろうと思います。

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学位取得状況ですが、結構高学歴に偏っています。フルタイムの社会人が約半分の 44.5%

です。ざっくりいうと高校生が 5~6%ぐらい、大学生が 20%ぐらい、大学院生が残りとい

うようなイメージで考えてください。ただ、今、高校生が 5~6%と言いましたが、もとが

4 万人なので、5%でも 2000 人ぐらいになってしまうのです。

実際に掲示板を見ていると恐ろしいことが起こっています。先ほどのクローズアップ現

代でちらっとパキスタンの女の子が出てきたのですが、パキスタンの 12 歳の女の子が東大

のコースを取っているのです。この子は東大のコースだけではなくて、世界中のあらゆる

大学のコースを取りまくっています。つまり、ものすごくよくできる中高生がこの中にか

なり混じっています。実際、東大のコースでも、10 代の子が勝手にティーンフォーラムと

いうものを立ち上げて、最低では 9 歳という子がいて、それはティーンではないだろうと

思ったのですけれども。結構恐ろしいことが起きています。われわれのアンケート調査で

は、最低年齢が 9 歳で最高年齢が 91 歳なのです。ちょっと考えられないようなことです。

今まで大学というのは、体系的に人材を育成するために、試験をしてかなり絞って、そ

の代わりに 4 年間でまとめ上げるみたいなアプローチが大学のビジネスモデルとしてこの

数百年間続いてきたわけですが、全くそうではない形の学習の形態というのが大学を基盤

にして生まれようとしているという気がします。

このようなことが起こっているわけですが、皆さんは、なぜタダでできるのかというこ

とを疑問に思われていると思います。コーセラはベンチャー企業なので、ビジネスモデル

を考えています。まず一番分かりやすいのは、受講はタダなのですが、キーボードを打つ

癖やウェブカメラを利用して、きちんと個人認証をする形でサーティフィケイト

(Certificate)を出す Signature Track というコースが別に用意してあり、そのコースは有

料なのです。ですから、ただ受けるだけならただなのですが、企業の就職に使うときには

公式履修証明書の方が強いので、この場合は 3000 円~1 万円程度の履修証の販売をします。

それでも大学の単位履修よりは全然安いのです。しかも発展途上国の場合は除外するとい

う項目があるので、かなり配慮した金額になっています。先日、コーセラの有料の

Certificate の売上が 1 億円を超えたというニュースが出ていました。

それから、人材紹介です。先ほどのクローズアップ現代でも紹介があったと思いますが、

特に実学に近いデータサイエンス、今はやりのビッグデータ、人工知能のようなところを

このコースで満点を取れるのであればすぐに仕事ができます。その代わり企業がお金を払

うというモデルです。日本だとリクルートがやっていそうなモデルですが、そういうこと

もやっています。つまり、学習そのものは無料なのですが、付加価値サービスで収入を得

て、そちら側に回していくというモデルを考えています。これはグーグルと同じです。グ

ーグルは、検索は無料なのですが、検索の周りの付加価値サービスでもうけてあそこまで

大きくなったので、基本はグーグルのようなモデルを考えているということです。

実は、この MOOC のコースの修了率はそれほど高くありません。5~10%程度です。理

由はいろいろあります。これはやる前から分かっていたのですが、気楽に登録できるので

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すが、実際には授業を受講しない人も相当数いて、1 週目の授業は見るけれどもそれ以上は

見ない人もおり、多様な人たちが多様な目的で使っているので、そもそもみんなが修了す

ることを目的にしていないということが主な原因です。かつ、相当にレベルが高いという

ことも、修了率が高くないというところに関係していると思います。

このような動きが出てきて、大学が大きく変わっていく状況の中で、大学の今後に関し

ていろいろな予測がされるようになっています。一番過激な予測をしているのは、ユーダ

シティを立ち上げたセバスチャン・スランです。彼は、「50 年後、世界の大学は 10 校しか

ないだろう。そのうちの 1 校がオンライン大学、ユーダシティだ」と豪語しています。彼

の根拠は、先ほどのジョブマッチングで、今まで大学の学位がないと就職できなかったの

が、シグナリングの部分はこれでできてしまったのだと。つまり、もし大学が実質的な教

育をしないのであれば、これでシグナリングは十分だから、もうここから先は大学は要ら

なくて、オンラインで学んだ優秀な人が就職していけばそれだけでいい。オンラインであ

ればサービスは 10 校もあれはいいというのが彼のロジックです。彼はコンピューターサイ

エンティストだからそういうことを言うのだろうと思っていて、実際に、領域によっては

そういうことが起きる可能性もあると思います。あまり実験装置が必要なかったり、あま

り社会関係資本が利かなそうな領域があって、領域の専門性があると思うので、そういう

ところは大学の再編につながる可能性が実際にあると思います。

ただ、こういう動きはいろいろあって、昔も OCW というのがはやったのですが、今もも

ちろんアクセスはされているけれども、それほど社会的な動きとしては認知されているわ

けではありません。そのことから見て、一番保守的な予測として、留学生は獲得できると

は思うけれども、その手段として一過性のもので終わったと 5 年後に言われるだろうとい

うシナリオを予想する人もいます。

しかし、私は両方とも極端だと思っています。あり得るのは、ちょうど真ん中のシナリ

オです。つまり、MOOC が 5%ぐらいオンラインだけでコース履修がされるようになった

り、反転授業のような形で入ってくるというものです。

反転授業(flipped classroom)の概要

反転授業というのは、もともと MOOC とは全然違う文脈で生まれてきたものです。アカ

デミックな用語というよりは、高校の先生が作ったもので、割と初等・中等教育を中心に

普及してきたものです。

私が今やっているように、先生が基礎的な概念を説明する授業をして、皆さん分かりま

したねということで、来週の授業までに宿題としてこういう応用課題を考えておいてくだ

さい、次の授業の最初に答え合わせをしますというのが普通の授業だった思います。これ

が反転授業だと、私が説明していることを全部映像にして予習にして、基礎的なことを学

んでおいてもらい、従来宿題だった応用的な課題の方を教室で対話的に学ぶというやり方

になります。

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山内 祐平

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この方法は2007年にコロラド州の高校の教室でほぼ偶然に近い出来事から生まれました。

アメリカは単位制高校が多いので、生徒が来たり来なかったりするわけです。「先生、先週

の講義は見てないのですが、どうしたらいいですか」という人が山のように来てうんざり

した先生が、「俺の授業は映像で撮っておくからポッドキャストで見ろ」という感じで見せ

るようになったのです。そうすると、驚いたことに、ポッドキャストで見た群と普通の対

面型で授業を見た群とで成績が変わらないということにその先生が気付いたのです。そん

なに変わらないのであれば、最初から全員ポッドキャストで見てきて、授業でもう少し差

が出ることをやった方がいいのではないかということでやりはじめたのが 2007 年です。

それが結構うまくいくということが分かったので、草の根で広がっていって、教育困難

校で効果を挙げはじめました。ただ、この段階では、自分の講義を自分でビデオカメラで

撮って教材にしてやっていたので結構大変で、見る側も授業をそのまま 90 分見るというの

も大変なのです。そこで、カーンアカデミーという、簡単な授業パッケージが 3000 本くら

い登録されているサイトが出てきて、それで初等・中等教育に一気に広がったのです。初

等・中等教育でやれるのなら大学でもやれるのではないかといって、2011 年ごろからスタ

ンフォード大やカリフォルニア大などの西海岸を中心に大学で始まり、今はアメリカ全土

でやられるようになっています。

伝統的授業では、導入 5 分、宿題の確認 20 分、講義 45 分、応用課題 20 分というような

進め方になりますが、反転授業では導入を 5 分して宿題の確認をしたら、残りは全部応用

課題に持っていくことができるので、授業をより対話的にすることができます。反転授業

に関しては、4 月に TBS で報道された映像があるので、そちらをご覧いただきます。

――ビデオ上映開始――

(ナレーター) アメリカ・カリフォルニア州マウンテンビュー。グーグル本社をはじめ

とする IT 企業の集積地です。その中にあるごく普通のオフィス。ここに今、世界が注目す

る人が働いています。サルマン・カーンさん(36 歳)。去年、雑誌「タイム」で、世界で最

も影響力がある 100 人に選ばれました。カーンさんの日課は、ネットに載せるビデオの収

録です。その内容とは。

これは高校生向けの数学。黒板代わりの画面に数式を書き込みながら解説を収録し、ネ

ットにアップします。

――ビデオ上映中断――

山内氏: 全科目で 3000 本の映像を、この人が一人で作ってしまったのです。とんでもな

いことだと思いますが、これ自体も非常に面白いと思います。アメリカの小中学校の先生

は、宿題でカーンアカデミーのこれを見ておいてと言えるようになったのです。それで、

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実際に学校で行われているところを少し。

――ビデオ上映再開――

(ナレーション) アメリカの学校も、カーンアカデミーを取り入れはじめています。カ

リフォルニア州のマールボロー高校。数学のクラスで、試験的にカーンアカデミーを利用

しています。まず生徒は自宅でネット授業を受け、教室では理解の度合いに応じて教師か

ら個別に指導を受けます。

(女子生徒) 短い時間で簡単に理解できるし、内容もしっかり分かるようになったわ。

自分のペースでできることが一番。前は授業についていけなかったから。

(ナレーション) これまでカーンアカデミーを利用したクラスは、世界で 2 万以上に上

っています。

(男性教師) 生徒が学習方法を自分でコントロールするので、私の役割も完全に変わり

ました。生徒にとってもプラスになっています。

――ビデオ上映終了――

山内氏:このような形で、もう既に高等中等教育で結構こういう動きが出てきていて、そ

の影響を受けて、高等教育でも反転授業の実験から、もう実践に近いものが進みつつある

ということです。

先ほど、困難校で比較的、成果を挙げているとお話ししました。一番成果を挙げている

有名な困難校は、クリントンデール高校という学校です。ここでは落第率が 61.2%から

10.8%に激減するという輝かしい成果を挙げました。このタイプのものは、先ほどの映像に

見えていたように、まず予習で授業をしてきて、実際の教室では個別の学習をしながら、

できる子ができない子を教えたり、先生がサポートをしたりという形で、比較的、個別指

導に特化するタイプの反転授業です。反転授業にもいろいろなタイプがあります。困難校

の利用形態は、割と個別にケアすることを中心とするものが多いです。ただ、スタンフォ

ード大学で行った実験は違うタイプのものです。これは医学部で行ったのですが、医学部

というのは覚えるべき知識が山のようにあって、今まで先生が覚えるべき知識をたくさん

書いてノートを取るという感じだったのですが、その部分を映像で前にやってしまうので

す。スタンフォード大の学生ですから、そういうものは倍速で見て本を読んで覚えて、教

室ではより臨床的なこと、その知識をもとにして、自分が患者と向き合ったときに、学ん

だ知識をどう使うかというタイプの対話的な授業にしたところ、学生評価が大幅に向上し

て、出席率が 30%から 80%に増加したということです。

もちろん、大学にもいろいろなレベルがありますので、割としんどい学生が多いところ

は個別ケアというものも入ってくると思いますが、ある程度以上、例えばクリティカルシ

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山内 祐平

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ンキングスキルを教えなければいけないとすると、むしろより難しい課題を与えることに

よって教室空間を違う形の活動にしていくというパターンも多く見られます。

民間団体の調査では、反転学習を導入したクラスの 67%で成績向上が見られて、80%に

学習態度の向上が見られると言われています。もともとこういうことを研究してきた研究

者にとっては、それはそうだという話で、実は反転学習という言葉遣いではなくて、われ

われの領域ではブレンド型学習(blended learning)と呼ばれていたものです。つまり対面

型の授業とオンライン学習を組み合わせてやっていくという方法で、これは 1990 年代後半

から研究がスタートしていて、効果があることは実は既に分かっていたのです。

実際に、アメリカ教育省のさまざまな研究をまとめたメタ分析研究では、対面状況より

も一部または全てオンライン学習を受講した学生の方が成績が高いとなっています。同じ

時間であれば対面の方が成績が高いのですが、オンライン学習の方が時間が長いのです。

カーンアカデミーもコーセラのコースも、何回も見直すので、トータルの学習時間はオン

ライン学習の方が長いのです。学習時間が長ければ学習効果が上がるのは当たり前です。

それから、オンラインと対面を組み合わせた教授は、対面だけ、もしくはオンラインだ

けよりも効果が高い。これがブレンド型学習や flipped learning の話で、これも研究によっ

てある程度分かっているのです。研究によって分かってはいたけれども実際にはあまり広

がってこなかったものが、良いということが現場の先生の肌感覚で分かって、今は燎原の

火のように広がっているという状況になってきています。

今後の展望

もちろんオンライン学習を前提としてということなので、オンライン学習をどのように

していくかということは各大学で対応が迫られてくると思いますが、オンライン学習だけ

新しくして今までのところは全て同じというわけいかないと思います。実際に大学という

のは、今までほとんど形が変わってこなかったわけで、100 年前の東大の薬理学教室の写真

を見ると、着ている服が和服というようなことはありますが、根本的な形式はここと変わ

りません。マイクがあるかないかぐらいの差しかありません。

この 100 年間、基本的な構造を変えなくても生き残ってきたということで、それは大し

たものだと思うのですが、さすがに今回の津波にはこれだけでは耐えられないだろうと思

います。つまり、ある程度の部分はオンラインにいってしまう可能性が高いのです。全部

ではないにしても、こういう形式のものだとかなりの割合がオンラインにいって、しかも

無料になってしまいます。そうすると、もし大学が生き残る価値を上げるとするならば、

こうではない形態のものをより付加価値が高い方向にシフトしていくしかないだろうし、

それは可能だと思っています。

例えば東大でやっているのは、アクティブラーニングスタジオと呼ばれるところで、協

調学習やグループワークを中心とした授業を一定数の割合にしていこうというものです。

これに関しては映像をご覧いただこうと思います。

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大学教育研究

122

――ビデオ上映開始――

(ナレーター) 最後に、KALS を利用した英語によるアカデミックライティングの授業

を紹介しましょう。

この授業では、英語で論文を書くことを通して、自分の考えを論理的に整理し、表現す

る力を養います。そのため、授業では教師が論文を書くテクニックを解説するのではなく、

学生が自分の考えを実際に英語論文として執筆します。教師は、それぞれの学生が書いて

いる文章を、ネットワークを介してリアルタイムに把握することができます。もし、ある

学生の表現法に問題が見つかれば、今まさにそれを書いている学生の文章を教室のスクリ

ーンやインタラクティブボードに投影し、論理的な表現法について指導を行います。

また、アカデミックな方法論に基づく文章表現を学ぶために、授業中にグループを組ん

で文献を調査し、それをもとにグループごとに一つのレポートを共同で作成します。論理

的な表現法を体験的に学ぶとともに、どのように結果をまとめ、論ずればよいかを集団で

議論することによって、お互いの考え方を学びつつ、自分の考え方を見直すことができま

す。

このように、教室の中で、さまざまな形で文章表現や思考過程を見直す機会をつくるこ

とで、アカデミックライティングのテクニックだけでなく、論理的なものの考え方を着実

に身に付けることができます。

――ビデオ上映終了――

山内氏:このような教室を 2007 年に開設して、もう 5 年ぐらい運用してきています。昨年

は、もともとの予定どおりこれをパイロットにする形で、プロジェクトコードは理想の教

育棟というものだったのですが、こういう教室が 8 室入った 21KOMCEE という建物が今

オープンしていて、このようなタイプのアクティブラーニングを体系的にできるようなイ

ンフラの整備を進めています。

ここは、教育改革の拠点のようになっています。ここで今ご覧いただいた英語の授業の

パイロットみたいなものが始まって、もちろんこれだけでやったわけではないのですが、

全学のいろいろな教育改革の動きの中で、あの授業は全学必修になり、今、東大の 1 年生

はみんなあのようなタイプの授業をひいひい言いながら受けています。また、この中の一

部がライティングセンターになっていったりしています。このように、オンラインで学習

することを前提に、よりインタラクティブで密度の濃い対話型の授業ができるような施設

設備と、ハードウエアだけでなく、その上でノウハウをためていくというようなことが、

今ちょうど進んでいるところです。

先ほどのようなアクティブラーニング型の授業は、今日お越しの関西の先生方もいろい

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山内 祐平

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ろとトライアルされていると思いますが、あのような授業でいつも問題になっていたこと

があります。確かにあのタイプの授業をするととても面白いし、先生は大変だけれども学

生の力にはなるのです。ただ、基礎的な知識の習得がおろそかになっているのではないか

という批判をされる先生方もいらっしゃったと思うのです。

ところが、反転学習にすると、基礎的な学習の習得の部分はオンラインに追い出してい

るので、実は両立できてしまうのです。先ほどのように英語で論文を書く場合でも、知識

習得の部分はある程度予習で見てきているものがあって、その上でディスカッションをし

てアウトプットをするということになるので、教室空間が対話的であるとともに、基礎的

な知識の習得も同時にできるということです。学生は負担が増えるから大変は大変なので

すが、教育方法としては、恐らくこれが今後数十年はスタンダードになっていくだろうと

いう感触を持っています。

ラーニングコモンズの必要性

教室だけでいいかというと、私はそれだけでは不十分だと思っています。これは当たり

前といえば当たり前なのですが、こういう教室はグループで作業します。グループで作業

するようになってアクティブになっていったら、例えばグループワークで翌週までにプレ

ゼンを仕上げるというような学習的な作業をこの人たちは一体どこでやるのかという話に

なるのです。これをやるのであれば、必ず対で必要なのがラーニングコモンズになります。

大学での学習において、授業はもちろん非常に重要ですが、大学設置基準ではもともと 1

時間半の授業は 1 時間半の自習を通常伴っているはずです。ところが、今、大学では自習

する空間が図書館しかないのです。しかし、図書館というのは一人で静かに本を読むため

のスペースであり、このような協調学習的なものに対応して、例えばグループでプロジェ

クト的な学習を自学自習でやるというようなことは今の大学にはないのです。そうすると、

学生は仕方ないから街に出て、喫茶店などでやるということになります。

そうすると、せっかく大学という場に集まってきて、ここで出会って知的なスパークが

飛ぶはずだったのがまたばらけてしまうのです。しかも、喫茶店ではお金も掛かってしま

いますし、そのまま遊びにいってしまうこともあるでしょう。せっかく学習の環境として

大学という場があるにもかかわらず、わざわざ逃がしてしまうことになると思うのです。

そこにラーニングコモンズのようなスペースができていくと変わってくるということです。

いろいろなケースがあるのですが、自分が関わっているケースをお話しするのがいいと

思います。私は 2008 年に赤門の隣にある情報学環・福武ホールという建物の担当になりま

した。私の部局は大学院情報学環というところなのですが、そのラーニングコモンズをつ

くるということになって、そういうスペースをつくりました。これも映像で少しだけ様子

を見てみたいと思います。福武ホールには、地下 2 階にアクティブラーニングスタジオも

あります。

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大学教育研究

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――ビデオ上映開始――

山内氏:教員も使える一種のラウンジスペースもあって、本などもそこにあります。飲食

も自由にできます。24 時間 365 日ここで学習ができるようになっています。プロジェクト

型の学習をするときにスペースが用意してあって、三つぐらい島があります。自由に机を

組み合わせられるのですが、ここは全く予約が不要で、いつ来ても使うことができます。

アクティブラーニングスタジオでグループワークをして、その続きはここでやって、さら

に教室に帰って、基礎的な知識習得はオンラインでやるという感じにどんどんなっていき

ます。ですから、ラーニングコモンズ的なスペースだけが単独で動いているというよりも、

いろいろなパーツの中の一つとしてこれが必要になってくるのだと思います。

――ビデオ上映終了――

山内氏:われわれは、空間としてこういうことをやっているのと同時に、大学院組織なの

で、学生が主体的に研究プロジェクトを立ち上げるということを推奨しています。この映

像には映っていないのですが、ロッカーがあります。ロッカーは普通は個人単位で貸し出

しますが、そうすると、その席に行ったら必ずこの人が座っているというような状態にな

ってしまって協調活動が阻害されてしまうので、ロッカーは個人ではなくてグループで貸

し出しています。研究室を越境したプロジェクトをやりたいとか、修士論文に関係してこ

ういう対策プロジェクトをやりたいということで、研究プロジェクトごとで申請書を出し

てもらい、それを審査した上でグループごとにロッカーを貸し出します。この場所の活動

が誘発されるようにということで、グループ活動でロッカーを使ってもらっていて、実際

に腹部ホール発のプロジェクトでうまくいった例もたくさんあります。

また、大学院組織なので、もともとチュータリングのような学習支援はあまり考えてい

なかったのですが、ここに人が集まってくるようになると、いろいろ起こりはじめました。

うちは 5 分の 1 は IT アジアといって、全部英語で授業をしているほぼ外国人だけのコース

があるのですが、日本人のコースと外国人のコースがなかなか混じらないというのが先生

方の悩みでした。そこで、IT アジアの先生方が、せっかくだからライティングサポートを

してあげようと言いはじめて、金曜日のある時間帯は IT アジアの留学生の博士課程の人が、

日本人の学生でも国際会議などで発表しないといけないのでライティングのサポートは必

要なのですが、それをお互いに助け合うような形で、ここのテーブルが学習サポートの拠

点になっているのです。ここにみんな集まってきているということが分かっているので、

ここを使うとお互いにメリットがあるということです。

このように、コミュニティーが集まりながら学習を支えていくようなスペースとして、

ラーニングコモンズは、今後のオンラインで対面型の環境がキャンパスの付加価値にもの

すごくつながりやすくなる時代になったときに、非常に重要な役割を果たしていくだろう

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山内 祐平

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と思います。

この写真には、私と同じ領域で研究されているはこだて未来大学の美馬のゆりさんとい

う方が写っていますが、はこだて未来大学という函館市にある公立大学の様子です。ここ

はとても変わった建築で、円形に掘り込んであります。ここでは、美馬さんともう一人先

生がいて、チームティーチングでプロジェクト学習をしています。はこだて国際科学祭に

関するプロジェクト学習をやるので、自分のコースを取ってくださいと言ってお店を開い

て学生を勧誘しているところです。ここで取った学生が、またプロジェクト学習を経由し

て、最後に発表会をして、地元の学生になっていくということをやっています。

今、授業を変える拠点として、アクティブラーニングスタジオの話をしました、ただ、

それだけでは足りません。それと対になる形で、学生の自学自習スペース、プロジェクト

学習スペース、ラーニングコモンズが必要です。それだけでも足りません。前半で、大学

で単に話をしてノートを取って学習するだけならオンラインでできるという時代がすぐそ

こまで来ているという話をしました。そうすると、より人と人との関係、人と社会との関

係をつなぐハブとして構造体を組み替えないといけません。もちろん知識はわれわれがよ

って立つ基盤であって、知は力です。それがなくなることはないと思いますが、それを基

盤にしながらも、関係性を切り結ぶ場として対面型のキャンパスや対面型の教育を再定義

し、それとオンライン学習の関係をもって、総体として大学でなければできないような教

育をどのように実現していくかということが、今後 10~20 年間の大きな課題になってくる

と思っています。

質疑応答

司会:山内先生、どうもありがとうございました。神戸大学はなかなか厳しい状況がある

かもしれませんけれども、現状と今後の大学の在り方について、非常に示唆深いお話をし

ていただきまして、ありがとうございました。

一つだけ、設置基準上は 2 倍の予習復習となっています。失礼いたしました。それでは、

これから質疑応答の時間に入りたいと思います。どなたか、口火を切っていただける方は

ございませんでしょうか。

質問者 1:国際文化学研究科の西田と申します。ありがとうございました。個人的な質問な

のですが、今、神戸大学がこういうことに舵を切るまでには恐らく時間がかかるというこ

とを踏まえた上で、個人的にこういう反転授業をやりはじめようと思ったときに、例えば、

大学単位であればコーセラに入るとか、そういうことが入ってくると思うのですが、個人

的にやる場合にはこういうものを使った方がいいとか、こういうノウハウがあるというこ

とがあればお聞きしたいのですが。

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大学教育研究

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山内氏:個人でなさっている先生がだいぶ増えてきています。日本の大学でも、島根大の

化学の先生が始められたと聞いています。個人で始められる場合に多いのは、最近はウェ

ブカメラが内蔵されていますから、反転学習を始めるときに自分で作ってしまう人が一番

多いです。フルに講義をするというよりも、まず 30 分ぐらい試しに自分で資料を作ったり

します。それから、完全にコースがパッケージの形になっていなくても関連する資料があ

ったりしますよね。そういうものをリストにして、必ずこれを次回の授業までに見てきて

くださいと。それを前提にグループディスカッションをしますというスタイルが比較的多

いような気がします。

理系の場合はグループディスカッションというよりも、それベースに授業で問題をみん

なで解いて何かするという活動だと思います。コーセラや edX をいきなりやるよりは、ま

ずは自分の授業にフィットしたものを、最近、数が増えてきていますので、ウェブ上のリ

ソースで探したり、オープンコースウェアで日本語の教材等もある程度出ているのでそう

いうものを活用されて、どうしてもないものだけ自分で映像を作ってやるというのが、か

なり敷居が低くできると思います。

もともと高校の先生が始めたものなので、そんなにきれいなものにする必要は特になく

て、学習者が予習でここまでやってきてくれると授業でかなり応用的なことができるとい

うところまで予習教材を用意してあげることで、随分授業が変わるのではないかと思いま

す。楽しみにしています。

質問者 1:実際、資料はもうほとんどアップロードしていて、必要なのは予習してこいと言

う勇気なのです(笑)。学生を見ていると、どうも予習してこいと言っても、予習をしっか

りしてくるグループとそんなにしてこないグループに分かれてしまうのです。今でも既に

よくできるグループの相手とあまりやってこないグループの相手に、自分が分かれてしま

って、中途半端になってしまうことにすごく悩んでいるのです。学習時間が増えたから効

果が上がるという話だったのですが、増えるグループと減るグループに分かれてしまうと

いうことがあって、どうやったらできるのでしょうか。

山内氏:先ほど、アメリカの困難校で成果を挙げているとお話ししましたが、このやり方

をして予習をしてきて、実際にいろいろ個別にケアをしてもらうと、分かるようになった、

できるようになったということが嬉しいので、より予習をしてくるようになるという循環

が起きるのが一番理想的です。

最終的にはそこに持っていくのが王道だと思うのですが、やはり最初は怖いと思うので

す。それはよく分かります。私もやっているのですが、予習をしてこない子がゼロではな

いので。ただ、ゼロでなくても、実際には予習してない子は結構肩身が狭くなるのです。

予習していないとできない授業をしているので、できなくなってくると予習しなくてはと

いうドライブはかかるのです。

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山内 祐平

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ですが、より厳密になさるのであれば、予習してきたことを確認するためのテストを最

初に入れてしまうのです。小クイズでいいので。今から予習してきたことを確認するテス

トをしますという感じで、5 問ぐらいのクイズをして、それで確認して、それを成績に反映

させると言ったら、多分、みんな予習してくると思います。そこまでやるかどうかという

話はあるのですが、最悪、その方法はあります。ただ、自然に予習をするようになるとは

思いますし、そういうふうに持っていく方が雰囲気はいいので、その辺は先生方のご判断

かと思います。

質問者 2:神戸薬科大学の浅田と申します。先ほどの予習の話で、先生の反転授業のことと、

TBL(Team-Based Learning)に非常に興味があったので、専門ではないのですが、薬学

英語というものを教えていまして、薬学英語なので、専門プラス理系専門知識と英語の知

識が要るということです。TBL なので、予習の個人テストがあって、グループで話をして、

チームでもう一回テストするということを試みてみたのです。グループ内でどういうこと

が起こっているかというピア評価もさせてみたのですが、予習をしてきて授業を受けたか

どうかが非常に分かりやすくなったということと、チームとして話が進んだという学生が

60%以上いたにはいたのですが、グループに入り込めない学生がいたり、いくら予習をし

なさいとピア評価で友達に言われても、断固として予習をしない学生がやはりいるのです。

でもピア評価ですから、むちゃくちゃ書かれて、予習をしてくださいと散々書かれてもし

ないのです。

そのように、自分は一人で勉強する方がいいのだと言い張る学生がいるのです。アメリ

カ人の先生に聞いたところ、toxic behavior という、グループにダメージを与える、グルー

プを破壊していく学生がいると。そういう人が 80 人中 5 人ぐらいいます。そういう学生を

どうすればいいのかと思い、そのあたりで何かアドバイスがあればよろしくお願いします。

山内氏:私は、今でこそ大学の先生に向かってお話ししていますが、大阪大学人間科学部

にいるときは割と小学校・中学校に行っていたのです。当然ですが、小学校や中学校では

グループワークもあり宿題もあり、かつ、問題児がたくさんいるわけです。しかも問題児

の程度はそんなものではなくて、暴れ回るような子もいるわけです。

もちろん王道はないのですが、TBL の場合は責任を持ってという話が出てくると思うの

ですけれども、グループでチームとしての責任を持って、そのチームの中でそういう問題

をケアしていくということを、小学校・中学校のようにやらなければいけないということ

だと思います。小学校や中学校の先生はかなりそこを丁寧にされています。丁寧にやって

いないとか言うつもりは全くないのですが、大学の教員に比べるとかなり手間を掛けない

といけなくなるのです。ただ、それはかなりつらいことですよね。大学の教員にとってそ

こまで授業で手間を掛けるのかということはあると思うのです。

アメリカの場合ですと、そういう問題のある子はラーニングセンターからのサポートが

来るのです。それも含めて学習障害系のサポートというのはセンターのサポート事項にな

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大学教育研究

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っています。そういう場合があるのであれば、教員だけでは対応できない可能性があるの

で、チームでやるという組織レベルの対応が必要なはずです。ただ、それが全部教員の話

になってしまうと重くなり過ぎるので、そんなことはできないという話になる可能性があ

ります。

広げ過ぎてもあれなのですが、結局、大学教育というのは家内制手工業的にやってきて

いると思うのです。教員が自分で私塾を開いているのが商店組合的に連携しているという

ような形式でやってきたのです。それが、例えばアクティブラーニングやオンライン学習

を展開したり、ラーニングコモンズを運営したりしようとすると、一人ではできないので

す。だからチームにならざるを得ない。チームでならいろいろな問題に対して対応できる

のです。その中の一つに今のような問題があるのです。もしそれが一人の教員のレベルで

対応できないとなれば、別のチームから人的資源を出して、そういう子には個別ケアで行

います。

実際に、カーンアカデミーのクラスでも、本当にしんどい子は一人対先生でピアという

ものもあるのです。そこにそういう先生を配置するからです。今のような話だと、厳密に

TBL かというと多分 TBL ではなくなってしまうのですが、TBL ではなくてただの flipped

learning であれば、「予習がしんどいと言うのであれば、特別コースになってしまうけれど、

別の TA の人と個別学習をして。他の人の flipped とは違うけれど、あなたのやり方に合わ

せたコースを一つつくりましょう」と。そういうことが、資源があれば可能だと思います。

そこはケースバイケースだと思いますが、それを教員一人が判断したり抱えたりするよ

りは、いかに組織的に展開していくかということに、だんだんステージが切り替わりつつ

あるという気がします。

質問者 3:海事科学研究科の西尾と申します。非常にポジティブにお話しいただいて良かっ

たと思います。2 点ご質問させていただきます。1 点は、今おっしゃった内容で、大量の受

講生を抱えられるオンライン授業があって、それに対する反転授業がはクリアでなくては

だめだという話の趣旨だったと思うのですが、オンライン授業は 4 万人でも受け入れられ

る。オートマチックにやればいい。ただ、今の話の流れだと、反転授業はどうしても少人

数化しないと効果が上がらないだろうと。そうすると、系列化とおっしゃいましたけれど

も、授業を供給する側と、それをフォローアップするたくさんの組織が要る。そうすると、

人数に対する少人数化、今までわれわれが 200 人の授業でもできると言っていたのが、5

人でないと対話型の授業ができなくなる。そのときのバランス、あるいは説明型授業で浮

いた時間でそれをやるのが理想なのでしょうけれども、もう少し対話型授業の負担が増え

て、バランスが取れるのだろうかという危惧があります。そこの部分についてはどのよう

にお考えでしょうか。

もう一つは、学習時間が長くなって、手間を掛ければ効果が上がるというのは私も賛成

です。また、大学院の研究室の中ではそのようなことをやっていて、大学院で優秀な学生

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山内 祐平

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を育てようと頑張っているのですが、学部のレベルでやった場合に、一人の学生が一つの

授業に対して学習時間が長くなって、頑張って成績が上がる。ただ、マスにした場合、た

くさん授業を受けるときに、お互いにコンフリクトが起こって、学生があっぷあっぷしな

いか。あるいは、その部分をどうやってわれわれ組織として受け入れるのかという問題が

残るかと思うのですが、その点についてのご意見を伺いたい。

山内氏:二つお答えがあります。まず一つは、私は対話型の授業が大事だという話をしま

したが、少人数という言葉はあまり使っていないと思うのです。東大のアクティブラーニ

ングスタジオの定員は確かに 40 人なのですが、MIT で行われている対話型のアクティブラ

ーニングスタジオの定員は 130 人です。私は 100 名規模が適正水準だと思っています。MIT

の人たちも言っていますが、100 名であれば、対話型授業で 300 人くらいの規模のものを 2

回転ぐらいで回します。ただ、これは完全に対面型の授業もレクシャー形式のものも、2 分

割して対話型のアクティブラーニングの授業に回すというモデルだったのですが、これが

知識習得の部分に関してはオンラインに回るというモデルになっていっているので、実際

にはそれでかなり圧が下がっているということです。つまり、必ずしも 10~20 人に割らな

くても対話型授業はできるでしょう。マネージすることができる TA は必要だろうと思いま

すが、先ほどの TBL も含めて、100~200 人程度であればできるでしょう。これが一つの

答えです。

もう一つ、こちらの方が本質的だと思います。はっきり授業を減らすべきだと思います。

授業が多過ぎるからこの問題が起きているので、授業を精選して、オプションの科目をオ

ンラインに回し、教員は過労状態なので教員の資源を集中する。こんなところに来ていら

っしゃる先生方は本当にお疲れになっているだろうと思うので、こんな講演を聴く必要は

ないのではないかと思っているのですが、とにかく大学は、私を含めて雑務が多くてめい

っぱいです。だから授業の数を減らして、その分、対話型授業に集中するというように、

選択と集中をするべき時期に来ていると思います。

その中で、完全になくすといろいろ弊害が出ますから、なくすのではなくてオンライン

に切り替えていくとか、この部分はスタンフォードのこの授業を使おうとか、そういう話

になって、大学のコアになるところに資源を集中して、チームで目玉になる授業をつくる

という方向に、多分、世界中の大学はどんどん舵を切りはじめるだろうと思っています。

質問者 4:情報基盤センターの江木です。今日、情報システムとかの話が出てきた中で、今

までのご質問の中でもキーになると思うがソフトの部分です。学生の学びをどのようにサ

ポートするかという部分だと思うのですが、その中で、先生が今までスタッフや学生も含

めて、チームで今までされてきた経験があって、そういった部分というのは、今までの学

習支援の環境の中で多くを占めていたと思うのですが、その中での経験値からのアドバイ

スやヒントみたいなもの、あるいはこれからそういったチームやスタッフを立ち上げてい

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大学教育研究

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こうというときに、アドバイスがあれば頂きたいと思います。

山内氏:私のノウハウは大したことがないので、違う領域からお話ししようと思います。

数年前に全米ラーニングセンター協議会というものに出てきたのですが、そのときに非常

に印象に残ったことがあります。いろいろなラーニングセンターを回ってお話を伺って、

学生チューターや TA をどのように上手に組織するかという話をしたときに、結構そうなの

だなと思ったことがあります。かなり体系的な研修プログラムを学会が提供していて、例

えばチュータリングができるようにするために、アメリカの学会で二つぐらいがチュータ

ー養成コースという認定コースを出していて、そのマニュアルどおりにすればある程度の

チュータリングができるようになっています。そういうところがアメリカらしいと思いま

した。

そういうことをやっていかなくてはいけないというのはもちろんあるのですが、それ以

上に、そういう学習を支援するということ自体が、支援者自身の学びにつながってキャリ

アにつながるということがとても大事です。実際にラーニングセンターでチューターをす

ると、就職が有利になるのだそうです。そこではものすごく優秀な学生を選んでいて、彼

ら自身も言っていましたけれども、教えることによって学ぶことが非常に多いので、それ

によって人間的にも知識的にも磨かれるのです。だから時給が非常に安くて 800 円ぐらい

でやっているのです。日本だと吉野家と同じぐらいじゃないですかみたいな話をしたので

すが、だからお金ではなくて、学習支援をすることがとても良いことであって、優秀な学

生がそのポストに集まっていくというエコシステムをつくるということがとても大事で、

それができると自動的に回りはじめるのです。

今回、教室のハードウエアの話もオンライン学習の話も含めて、全パーツの話で、結局

はパーツが連動して教育を良くしていくという活動の流れみたいなものが動くようにエコ

システムをどう調整するかということが最大のポイントです。個別局所最適解みたいなも

のをつくってしまうとスタックして動かなくなってしまうのです。だから大学の中で人の

流れを良くしていって、そこがきちんと循環的に流れていくようにして、新しいことが起

こるようにしていくということが、先ほどの TA の話も含めて、それも一つのパーツで大事

なのだと思います。

司会:日本の大学はパーツごとに対応しようとするので、結局、負荷がかかってしまうの

ですよね。他にご質問やご意見はありますか。

質問者 5:職員も学生もどんどん変わっていかなくてはいけないのですが、今のこの仕事の

流れといいますか、例えば学習支援なら学習支援に入っていくとか、そういうことがネッ

トでは言われていますけれども、日本においてはその点はいかがでしょうか。

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山内 祐平

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山内氏:図書館の方でしたよね。実は私は今、本郷の総合図書館の方と一緒にラーニング

コモンズの計画をするという仕事をしていています。それも、図書館の人が学習支援を全

てするというのは現実的ではないし、もともとのラーニングコモンズの考え方ではないの

です。ラーニングコモンズの研究者はいろいろなことを言っていますが、むしろ図書館を

学習の拠点として、ハブとして全学に開いていくのだということがはっきり基本的な部分

に書いてあるのです。

大学に高等教育研究センター系のセンターがあったり、他に大学内にいろいろな教育サ

ービスをやっているところはたくさんあるので、そういうところと連携しながらサポート

していく。ですから、もし図書館にラーニングコモンズができたとしても、図書館の人が

ライティングサポートをしたり、教科内容のサポートをしたりすることは現実的ではあり

ませんので、そこがハブになっていろいろな人が力を出せるような環境をつくることが大

事です。そういう意味で、図書館の人はコーディネーターの専門性が必要になります。

もともと知のコーディネーターでコンシェルジュなわけですから、もともとの専門性と

連続していると思います。それをさらに広げて、本などの焼き付けられた知から、知がダ

イナミックに生まれていくプロセスのコーディネートまでやるのです。そうすると、図書

館の専門性はありながら、それがさらに拡張していき、他の教職員と共同して新しい学び

の場に展開していくというイメージなのではないかと考えています。

司会:他にいかがでしょうか。

質問者 6:神戸大学国際交流推進機構の三橋と申します。今、最後に図書館の方からラーニ

ングコモンズのお話も出ましたが、ラーニングコモンズのワーキンググループにオブサー

バーとして参加しているのですが、どうしてもパーツで考える大学がラーニングコモンズ

ということで協働してやりましょうと。その中でも、やはり日本人の学生を主体とした企

画が成功する傾向がどうしてもありまして、そこに何とかして留学生を巻き込むことがで

きないかと考えています。

先ほどの山内先生のお話で、IT アジアの学生さんが自主的にライティングサポートをし

ようと手を挙げてくださったというお話がありましたが、国籍を越えた学生同士の交流と

いうことで、御校において日ごろ何か特にお考えのこと等があればお聞かせください。

山内氏:うちはうまくやっているとはとても思えないので、参考になる情報はあまりなく

て、むしろ勉強させていただきたいくらいです。ただ、面白いことに、アクティブラーニ

ングスタジオとラーニングコモンズを上手に使うのは、明らかに外国人の学生です。いろ

いろなラーニングコモンズを見ていても、APU とかはとてもうまいのです。外国人の教員

や学生はこういうものに慣れているので、むしろそれがモデルになって、あのようにやれ

ばいいのだというように日本人が後からついていくみたいなところはあります。外国人が

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大学教育研究

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すごく生き生きしていて、写真に撮りたいようなシーンがたくさん出てきます。

同志社で春に大型のラーニングコモンズをオープンしました。先日たまたま別件でセン

ター長の山田礼子先生とお話ししていたら、留学生との交流ゾーンが一番うまくいってい

て、使い方がとても良いという話をされていました。ですから、放っておくと企画は日本

人が先行していくように見えるのですが、オープンしたら自然に逆転してしまうのではな

いかと思います。

ですから、そんなに心配されなくても、学習者の力を生かして、そういうことをやりた

いのであればこういう補助線を引いてあげようというように、あまり最初から決め打ちを

しない方がいいと思っています。ラーニングコモンズで一番大事なのは、かちっとつくり

込まないことだと思います。実際には想定外のことが絶対にたくさん起きてくるので、い

ろいろな企画を考えるのはとても大事なことですが、流れに応じてレイアウトを組み替え

たり、企画も変えていったり。うちの場合、ラーニングコモンズは飲食の際の音の問題等

でぎくしゃくしたりするがあるので、ユーザー会のように、運営側と学生側が対話する機

会を設けるなどしており、そのようなソフトな対応がすごく大事です。最初からきちんと

ゾーニングして、ここは 5 年間こうだというような感じとは少し雰囲気が違うだろうとい

う気がしています。あまり十分な答えではなくてすみません。

司会:あとお一人ぐらい。最後に藤田機構長、今のお話を聞いて神戸大はどうすべきか(笑)。

藤田:課題があまりにも多過ぎて困っていますけれども。取りあえずは、先生方がいろい

ろな取り組みをされて、何がネックになっているかという情報を集めるような取り組みか

らやっていきたいと思っています。本当にありがとうございました。

司会:それでは、本日はお忙しい中お越しいただきまして、ありがとうございました。も

う一度拍手を(拍手)。


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