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測度と積分 - Hiroshima University › ... › analysisA2006.pdf測度と積分...

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大学 A ノート 2006 7 28 目次 1 概略定義域の分割から値域の分割への転換 2 2 単関数の積分 6 3 非負値可測関数の積分 11 4 可積分関数とその積分 16 5 Lebesgue の収束定理 22 6 測度 0 の集合 26 7 有限加法的測度とそれが誘導する外測度 32 8 Carath´ eodory の外測度と可測集合 37 9 1 次元 Lebesgue 測度の存在 42 10 1 次元 Lebesgue 積分 50 11 拡張の一意性とその応用 62 12 直積測度としての 2 次元 Lebesgue 測度 65 13 Dynkin 族定理と直積測度の構造 72 14 Fubini-Tonelli の定理と単調収束定理 82 15 Fubini の定理とその応用 89 16 部分積分とそれが開く世界 97 1
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測度と積分広島大学理学部数学科解析学A講義ノート

岩田耕一郎

2006 年 7 月 28 日

目 次

1 概略–定義域の分割から値域の分割への転換 2

2 単関数の積分 6

3 非負値可測関数の積分 11

4 可積分関数とその積分 16

5 Lebesgueの収束定理 22

6 測度 0の集合 26

7 有限加法的測度とそれが誘導する外測度 32

8 Caratheodoryの外測度と可測集合 37

9 1次元Lebesgue測度の存在 42

10 1次元Lebesgue積分 50

11 拡張の一意性とその応用 62

12 直積測度としての 2次元Lebesgue測度 65

13 Dynkin族定理と直積測度の構造 72

14 Fubini-Tonelliの定理と単調収束定理 82

15 Fubiniの定理とその応用 89

16 部分積分とそれが開く世界 97

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1 概略–定義域の分割から値域の分割への転換積分とは、大ざっぱに言うと関数の値を長さ、面積、体積などにより重みを付けて連続的に足しあわせる事である。今、“連続的に”という言葉を不用意に使ったが、ここがくせ者である。Riemann積分においては、関数の定義域を部分区間などへ分割し Riemann和を定義し、分割を細かくする極限移行を経由して、連続的な足しあわせを実行していたのである。これでそれなりの世界ができあがるわけで、happy!と言いたいところだが現実は甘くない。例えば次の定理をRiemann積分の世界にとどまって見通しよく証明するのは難しい。

fnを区間 [0, 1]上の連続関数列で次を満たすものとする。

∃M < +∞ s.t. |fn(x)| ≤ M ∀n ∈ N∀x ∈ [0, 1], limn→∞

fn(x) = 0 ∀x ∈ [0, 1]

このとき数列∫ 1

0fn(x) dx は 0に収束する。

記号¶ ³Z 整数全体、N 正の整数全体、R 実数全体、Q 有理数全体µ ´状況を打開するには、視点を転換する必要があった。与えられた関数 f : Rd → Rに応じ

て分割をとるのである。各 n ∈ Nに対して次のような集合全体を考える。

(1.1) {x ∈ Rd : (k − 1)/2n ≤ f(x) < k/2n} k ∈ Z

等分割されているのは、定義域でなくて値域の方である。上にでてきた集合たちは番号 kが異なれば共通部分を持たない。さて長さ、面積、体積などには加法性という共通点がある。即ち、ある領域を共通部分を持たない部分に分けたとき、全体の面積は各部分の面積の和になる等である。この性質を抽象化して測度という概念が生じる。しかしながら、これは一方で数学における闇の世界を露呈させたのである。例えばR2の

すべての部分集合の面積をはかることができるなら話は簡単なのだが、そうではないので面積をはかることができる集合達を規定する必要がでてくる。ところがその規定というのがなかなか正体をつかみにくい代物だから厄介なのである。

1.2 定義. BをRdの部分集合の族とする(全体集合を一つ規定しておくことが必要)。それが次の条件を満たすとき、Bは σ-加法族(σ-field)をなすという。

(i) ∅ ∈ B(ii) A ∈ B ⇒ Ac ∈ B (Acは全体集合Rdに関するAの補集合を表す。)(iii) An ∈ B ∀n ∈ N ⇒

∪∞n=1 An ∈ B

(iii)において合併 (union)の対象となるのは可算無限個(countably infinite)の集合達であることを注意してほしい。以後、“BはRd上の σ-加法族である” という表現を使う。

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既にふれたように面積など内容豊富なもの扱うには量を測る対象としてのBはある程度絞り込む必要がある。そこで開集合や閉集合など重要なものだけを取り込むというスタンスになることを後に第 11節などで解説する。

記号¶ ³R≥0 := {x ∈ R : x ≥ 0}, R := R ∪ {−∞, +∞}.µ ´

1.3 定義. Rdの部分集合の族Bと関数 µ : B → Rについて次の条件が成り立つとき、(B, µ)

(定義域 Bを省略することも多い)はRd上の測度(measure)であるという。

(i) BはRd上の σ-加法族をなす(ii) µ(A) ≥ 0 ∀A ∈ B(+∞も許す)かつ µ(∅) = 0

(iii) An ∈ B ∀n ∈ N, An ∩ Am = ∅ n = m ⇒ µ(∪∞

n=1 An) =∑∞

n=1 µ(An)

(iii)においては+∞に発散する場合も許す。性質 (iii)を σ-加法性(σ-additivity)という。

今の段階では次のことを記憶にとどめて貰いたい。予告¶ ³

R2上でBとしては Jordanの意味で面積確定な集合をすべて含むものが設定できてかつAを長方形とするとき µ(A) = 縦 ×横 となる測度 µが一意的に存在する。これが 2次元ルベーグ測度 (Lebesgue measure)と呼ばれるものである。µ ´前提¶ ³以下、(B, µ)をRd上の測度とする。µ ´披積分関数となるのは (1.1) で提示した各集合が σ-加法族 B に属するものたちである。

1.4 定義. 次の条件を満たす関数 f : Rd → R は B-可測(measurable)であるという。

{x ∈ Rd : f(x) < a} ∈ B ∀a ∈ R.

このとき f をB-可測関数(measurable function)と呼ぶ。一方 σ-加法族Bに属する集合はB-

可測集合(measurable set)と呼ばれる。

1.5 定義. 次の条件を満たす関数 f : Rd → Rを B-単関数(simple function)と呼ぶ。

B-可測、−∞, +∞という値はとらない、像 f(Rd) = {f(x) ; x ∈ Rd} は有限集合

記号¶ ³関数 f : Rd → Rに対し Image f := f(Rd), f−1{y} := {x ∈ Rd : f(x) = y}µ ´集合 f−1{y}は yの gによる逆像 (inverse imageあるいは preimage)と呼ばれる。論理的に

は、先に進む前に次を確かめておく必要がある。

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f : Rd → R B-可測 ⇒ f−1{y} ∈ B ∀y ∈ R

これは量 µ(f−1{y})が定義可能であることにつながるのだが先を急ごう。記号¶ ³関数 f , g : Rd → Rに対し条件 g(x) ≤ f(x) ∀x ∈ Rd を g ≤ f と表記する。µ ´

1.6 定義. 関数 f : Rd → Rを非負値(+∞の値をとることも許す)かつ B-可測なものとする。つぎで定義される量(+∞も許す)を f の µについての積分(integral)と言う。∫

Rd

f µ := sup{∑

y∈Image g

yµ(g−1{y}) ; g非負値 B-単関数, g ≤ f}

g ≤ f なる非負値 B-単関数 gにたいして∑y∈Image g

yµ(g−1{y})

は Riemann積分で言うところの不足和に対応するものである。またそのような gについての上限は、下積分に対応しているのであるが、fのB-可測性とµの σ-加法性によりこれが自動的に積分の定義となってしまうところが測度論的な積分の長所である。先に進む前に次の演習問題を解いておこう。

1.7 演習問題. 単関数の数列版を単純数列と呼ぼう。すなわち bnが単純数列であるとは

bnは−∞, +∞の値はとらない。像 {bn ; n ∈ N}は有限集合。

anを非負値の数列とする。次が成り立つことを示せ。

∞∑n=1

an = sup{∞∑

n=1

bn ; bn非負値の単純数列, bn ≤ an∀n}

数列の話がでたついでに正項級数および級数の絶対収束性について復習をしておこう。

•正項級数に対して∑∞

n=1 an = supn

∑nk=1 ak(+∞も許す)である。

• 絶対収束級数は収束する。• 収束する優級数が存在するなら絶対収束する。

測度論的な積分は絶対収束の世界における産物である。関数 f : Rd → Rに対して 

f(x) = max{f(x), 0} − max{−f(x), 0}, |f(x)| = max{f(x), 0} + max{−f(x), 0} ∀x ∈ Rd.

であることを思い出そう。次を確かめておく必要があるけれどもここは先を急ごう。

f : Rd → R が B-可測 ⇒ max{f, 0}, max{−f, 0}, |f |は非負値 B-可測

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1.8 定義. 関数 f : Rd → Rを B-可測なものとする。それが次の条件を満たすとき、f は µ-

可積分(integrable)であるという。∫Rd

max{f, 0}µ < +∞,

∫Rd

max{−f, 0}µ < +∞.

µ-可積分であるときつぎで定義される量を f の µについての積分と言う。∫Rd

f µ :=

∫Rd

max{f, 0}µ −∫

Rd

max{−f, 0}µ.

実は次が成り立つので次の節以降はこれが可積分性の定義となる。

B-可測関数 f : Rd → Rが µ-可積分であるための必要十分条件は∫Rd

|f |µ < +∞.

(B, µ)を 2次元ルベーグ測度、f : R2 → Rを連続関数とすると

• f は B-可測• f の広義積分が絶対収束する⇔ f が µ-可積分

• µ-可積分なとき、広義積分と∫

R2

f µ は一致

が成り立ち、これまで慣れ親しんできたものと結びつく。測度論的な積分の真価のひとつはルベーグの収束定理と呼ばれるものである。

f をRd上の µ-可積分関数、fnをRd上の µ-可積分関数列で次を満たすものとする。

∃g µ-可積分 s.t. |fn(x)| ≤ g(x)∀n ∈ N ∀x ∈ Rd, limn→∞

fn(x) = f(x)∀x ∈ Rd

このとき数列∫

Rd

fn µ は∫

Rd

f µに収束する。

1.9 例. f : R → Rを有界連続関数とする。このとき∫ +∞

−∞f(x)

n

n2x2 + 1dx は n → ∞の極限で πf(0)に収束する。

証明. 変数変換により与えられた積分は次に等しい。∫ +∞

−∞

f(x/n)

x2 + 1dx

関数 f は連続なので、

limn→∞

f(x/n)/(x2 + 1) = f(0)/(x2 + 1)∀x ∈ R.

関数 f は有界なので、∃M < +∞ s.t. |f(y)| ≤ M ∀y ∈ R. g(x) := M/(x2 + 1)とおくと

関数 gは可積分かつ |f(x/n)/(x2 + 1)| ≤ g(x)∀n ∈ N∀x ∈ R.

従ってルベーグの収束定理が適用できる。極限値は∫ +∞−∞ f(0)/(x2+1) dx = πf(0)である。

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級数の場合に関して演習問題を解いておこう。

1.10 演習問題. amnを数列で次を満たすものとする。

∃bm s.t. |amn| ≤ bm ∀m ∀n ∈ N,∞∑

m=1

bm < +∞, limn→∞

amn = 0∀m ∈ N

このとき∞∑

m=1

amnは n → ∞の極限で 0に収束することを示せ。

2 単関数の積分この節では単関数の積分についていくつか基本的な性質を明らかにしておく。前提¶ ³

(B, µ)をRd上の測度とする。µ ´関数の可測性については定義 1.4 で規定したとおりだが、状況に応じて使いやすい形が違うのでいろいろ言い換えてみよう。

2.1 補題. 関数 f : Rd → Rについて以下の 4条件は同値である。(i) f は B-可測である。(ii) {x ∈ Rd : f(x) ≥ a} ∈ B ∀a ∈ R(iii) {x ∈ Rd : f(x) ≤ a} ∈ B ∀a ∈ R(iv) {x ∈ Rd : f(x) > a} ∈ B ∀a ∈ R

証明. (i)と (ii)の同値性は以下の関係と定義 1.2(ii)から分かる。

{x ∈ Rd : f(x) < a}と {x ∈ Rd : f(x) ≥ a} は互いに他方の補集合

条件 (i)が成り立つなら前者は Bに属し、条件 (ii)が成り立つなら後者は Bに属するからである。(iii)と (iv)の同値性についても同様に議論できる。次に条件 (ii)が成り立つと仮定して、条件 (iv)が成り立つことを導こう。キ-となる以下の関係を示すのは演習問題に委ねる。

(2.2) {x ∈ Rd : f(x) > a} =∞∪

n=1

{x ∈ Rd : f(x) ≥ a + 1/n}

条件 (ii)のもとでは、(2.2)右辺の各集合は Bに属する。それらの可算合併は、定義 1.2(iii)

により、Bに属する。従って、条件 (ii)から条件 (iv)が導かれる。以下の関係

{x ∈ Rd : f(x) < a} =∞∪

n=1

{x ∈ Rd : f(x) ≤ a − 1/n}

を使って、条件 (iii)から条件 (i)を導くことも同様に議論できる。

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(i) ⇔ (ii)

⇑ ⇓(iii) ⇔ (iv)

という論理の循環図式ができあがったので、4条件は同値である。

2.3 演習問題. (2.2)を証明せよ。

ここでちょっとしたトリックにふれる。

2.4 補題. (i) Rd ∈ B.

(ii) A,B ∈ B ⇒ A ∪ B,A ∩ B ∈ B.

(iii) An ∈ B ∀n ∈ N ⇒∩∞

n=1 An ∈ B.

証明. 定義 1.2(i), (ii)によりRd = ∅c ∈ B である。(ii)前半を示すのに使うトリックは

A1 := A, A2 := B, An = ∅ n ≥ 3

とおくことである。このときAn ∈ B ∀n ∈ Nであるから、定義 1.2(iii)により

A ∪ B =∞∪

n=1

An ∈ B.

(iii)を示すには集合演算のルールを使う。

∞∩n=1

An =( ∞∪

n=1

(An)c)c

定義 1.2(ii), (iii)を使うと、An ∈ B ∀n ∈ Nという仮定のもと右辺が Bに属することが導かれる。(ii)後半を (iii)から導くのに使うトリックは

A1 := A, A2 := B, An = Rd n ≥ 3

とおくことである。

2.5 系. 関数 f : Rd → Rが B-可測なら、{x ∈ Rd : a ≤ f(x) < b} ∈ B ∀a < ∀b である。

証明. {x ∈ Rd : a ≤ f(x) < b} = {x ∈ Rd : f(x) < b} ∩ {x ∈ Rd : f(x) ≥ a} を使う。右辺の各集合は補題 2.1により Bに属し、共通部は補題 2.4(ii)により Bに属する。

2.6 補題. A,B ∈ B, A ∩ B = ∅ ⇒ µ(A ∪ B) = µ(A) + µ(B). 有限加法性(finite additivity)

証明. 補題 2.4 の証明と同じトリックを使って、定義 1.3(iii)から結論を引き出す。

約束¶ ³以後、測度の σ-加法性というときは有限加法性も込める。µ ´

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2.7 定義. f : Rd → Rを非負値 B-単関数とする。∫Rd

f µ :=∑

y∈Image f

yµ(f−1{y}) 値としては+∞も許容

もし 0 ∈ Image f かつ µ(f−1{0}) = +∞ の場合にはそれらの積は 0と約束をしておく。

約束および警告¶ ³R≥0 := {x ∈ R : x ≥ 0}における加法および乗法をR≥0 ∪ {+∞} にまで拡張しておこう。問題なのは 0と∞の積であるがこれを 0 と約束する。重要なのは分配則

a(x + y) = ax + ay ∀a∀x∀y ∈ R≥0 ∪ {+∞}

が生き残るところである。だが調子に乗って∞−∞ = (1− 1)∞ = 0∞ = 0 という類の計算をしてはいけない。分配法則の運用は慎重になる必要がある。µ ´

2.8 補題. 非負値B-単関数の積分は非負であり、恒等的に値 0をとる関数の積分は 0である。

証明. 定義 2.7から直ちに分かる。

2.9 補題. g : Rd → Rを Image gが有限集合であるような関数とする。このときそのB-可測性は条件 g−1{y} ∈ B ∀y ∈ Image g と同値である。

証明. 論理図式 g B-可測 ⇒ g−1{y} ∈ B ∀y ∈ Image f を示すには次の関係を使う。

g−1{y} = {x ∈ Rd : g(x) = y} = {x ∈ Rd : g(x) ≤ y} ∩ {x ∈ Rd : g(x) ≥ y}

gの可測性により右辺の各集合はBに属する。それらの共通部としてあらわされる g−1{y}もBに属する。逆向きの論理図式 g−1{y} ∈ B ∀y ∈ Image g ⇒ g B-可測を示すには関係

{x ∈ Rd : g(x) < a} =∪

y∈Image g:y<a

g−1{y}

を使えば良い。Image gは有限集合であるから右辺は有限合併である。

2.10 注意. 補題 2.9 の同値性は Image gが可算無限であるという前提のもとでも成り立つ。

記号¶ ³集合Aに対しその要素の個数を ♯Aと表記する。µ ´

2.11 補題. f, g : Rd → RをB-単関数、φ : R2 → Rを関数(可測性などは要求しない)とする。合成関数 h : Rd → R, x 7→ φ(f(x), g(x)) も B-単関数である。

証明. まず関数 hの像が有限集合であることを確かめる。次の関係が決定的である。

(2.12) Image(f, g) := {(f(x), g(x)) ; x ∈ Rd} ⊂ {(y, z) ; y ∈ Image f, z ∈ Image g}.

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(左辺の方が右辺より真に小さい集合でありうる。具体例を与えてみよ。)従って

♯ Image(f, g) ≤ ♯ Image f ♯ Image g

他方、関数 hの像については

Image h = {φ((f(x), g(x)) ; x ∈ Rd} = {φ(y, z) ; (y, z) ∈ Image(f, g)} = φ(Image(f, g))

という関係が成り立つ。以上により

♯ Image h ≤ ♯ Image(f, g) ≤ ♯ Image f ♯ Image g < +∞

関数の B-可測性のチェックポイントとしては補題 2.9 にあるものを使おう。(2.12)により

(2.13) {x ∈ Rd : φ(f(x), g(x)) = t} =∪

y∈Image f,z∈Image g:φ(y,z)=t

{x ∈ Rd : f(x) = y, g(x) = z}

右辺の各集合は f−1{y} ∩ g−1{z} と表現でき、補題 2.9 と補題 2.4 により、Bに属することがわかる。右辺はそのような集合の有限合併であるからやはり Bに属する。

2.14 系. B-単関数 f, gと a, b ∈ Rに対し 1次結合 af + bgと積 fgも B-単関数である。

証明. φ(y, z) = ay + bzあるいは φ(y, z) = yz として補題 2.11 を適用する。

2.15 補題. h : Rd → Rを非負値 B-単関数、AをR≥0の有限部分集合とする。

Image h ⊂ A ⇒∫

Rd

hµ =∑t∈A

tµ(h−1{t})

証明. 右辺の方が余分に加えていることになるが、実際は t ∈ Image h なら h−1{t} = ∅ である。測度の性質により µ(∅) = 0 だから、余分に足しているところは影響しない。

2.16定理. f, g : Rd → RをB-単関数、φ : R2 → Rを非負値関数とする。合成関数h : Rd → R,

x 7→ φ(f(x), g(x)) は非負値 B-単関数であって∫Rd

φ(f, g) µ =∑

y∈Image f,z∈Image g

φ(y, z)µ(f−1{y} ∩ g−1{z})

証明. hが単関数であることはすでに補題 2.11 で示した。さて (2.13)を書き直すと

h−1{t} =∪

y∈Image f,z∈Image g:φ(y,z)=t

f−1{y} ∩ g−1{z}

次が最大のポイントである。

右辺の集合たちは Bに属しかつ互いに交わらない。

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有限合併であるから補題 2.6を適用できる。したがって

tµ(h−1{t}) =∑

y∈Image f,z∈Image g:φ(y,z)=t

tµ(f−1{y} ∩ g−1{z})

=∑

y∈Image f,z∈Image g:φ(y,z)=t

φ(y, z)µ(f−1{y} ∩ g−1{z})

ただし両辺に tを掛けてある。ここで (2.12)によれば

Image h = φ(Image(f, g)) ⊂ {φ(y, z) ; y ∈ Image f, z ∈ Image g} =: A

補題 2.15を念頭に置いて、tについてA上で足しあわせよう。

(⋆)∑t∈A

tµ(h−1{t}) =∑t∈A

∑y∈Image f,z∈Image g:φ(y,z)=t

φ(y, z)µ(f−1{y} ∩ g−1{z})

有限集合Aの選び方により、右辺は次に一致する。∑y∈Image f,z∈Image g

φ(y, z)µ(f−1{y} ∩ g−1{z})

他方、補題 2.15により (⋆)の左辺は hの積分と等しい。

2.17 系. f, g : Rd → Rを非負値 B-単関数とする。

(i) a, b ∈ R≥0なら∫

Rd

(af + bg) µ = a

∫Rd

f µ + b

∫Rd

g µ. (右辺においては 0∞ = 0)

(ii) g ≤ f なら∫

Rd

g µ ≤∫

Rd

f µ.

(iii) max{∫

Rd

hµ ; h非負値 B-単関数, h ≤ f} =

∫Rd

f µ.

証明. まず φ(y, z) = a max{y, 0}+ b max{z, 0} として定理 2.16 を適用する。非負値B-単関数 af + bgに対してつぎの関係が得られる。∫

Rd

(af + bg) µ =∑

y∈Image f,z∈Image g

(ay + bz)µ(f−1{y} ∩ g−1{z})

右辺を変形するためにさらに φ(y, z) = max{y, 0} として定理 2.16 を適用してみよう。∫Rd

f µ =∑

y∈Image f,z∈Image g

yµ(f−1{y} ∩ g−1{z})

同様にして次も導くことができる。∫Rd

g µ =∑

y∈Image f,z∈Image g

zµ(f−1{y} ∩ g−1{z})

以上を組み合わせると (i)がわかる。さて系 2.14により f − gもB-単関数である。非負値であるからその積分は補題 2.8により非負値である。そこで (i)を適用して∫

Rd

f µ =

∫Rd

(f − g + g) µ =

∫Rd

(f − g) µ +

∫Rd

g µ ≥∫

Rd

g µ

となる。よって (ii)が示せた。(iii)は (ii)から直ちに従う。

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記号¶ ³Rdの部分集合Aに対しその定義関数(indicator function)を 1Aと表記する。

1A(x) :=

{1 x ∈ A

0 x ∈ Ac

µ ´2.18 補題. Rdの部分集合Aに対し、同値性A ∈ B ⇔ 1A B-可測 が成り立つ。

2.19 演習問題. 補題 2.18を証明せよ。

2.20 補題. A1, A2, . . . , An ∈ B, b1, b2, . . . , bn ∈ R≥0とする。このとき∑n

i=1 bi1Aiは非負値

B-単関数であって次が成り立つ。∫Rd

n∑i=1

bi1Aiµ =

n∑i=1

biµ(Ai).

2.21 演習問題. 補題 2.20を証明せよ。

3 非負値可測関数の積分この節では非負値可測関数の積分についていくつか基本的な性質を明らかにしておく。前提¶ ³

(B, µ)をRd上の測度とする。µ ´積分を測度論の設定で述べるのはメリットが沢山あるからで、解析の現場で直面する極限の交換操作が柔軟に行え、しかもその判定条件が簡潔であるというはメリットの一つに過ぎない。その中心となるのが単調収束定理であり、定義 1.6の中に最初から組み込まれている。再確認しよう。

関数 f : Rd → Rを非負値かつ B-可測なものとする。∫Rd

f µ := sup{∫

Rd

g µ ; g非負値 B-単関数, g ≤ f} 値としては+∞も許容

系 2.17(iii)により単関数から可測関数への拡張はシ-ムレスである。

3.1 補題. 非負値 B-可測関数の積分は非負値である。

証明. 非負値 B-単関数の積分は非負値であることから従う。

約束および再警告¶ ³0と+∞の積、0と−∞の積はともに 0とする。だが調子に乗って limn→∞

1nn2 = limn→∞

1n

limn→∞ n2 = 0∞ = 0 という類の計算をしてはいけない。極限操作の運用は慎重になる必要がある。µ ´

11

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3.2 補題. B-可測関数 f : Rd → R と a ∈ Rに対して af も B-可測である。

3.3 演習問題. 補題 3.2を示せ。

記号¶ ³R≥0 := {x ∈ R : x ≥ 0}, R>0 := {x ∈ R : x > 0}.µ ´

3.4 補題. f, g : Rd → Rを非負値 B-可測関数とする。

(i) a ∈ R≥0 ⇒∫

Rd

af µ = a

∫Rd

f µ. (ii) g ≤ f ⇒∫

Rd

g µ ≤∫

Rd

f µ. 積分の単調性

(iii) A ∈ B, b ∈ R>0, b ≤ f(x) ∀x ∈ A ⇒ µ(A) ≤ 1

b

∫Rd

f µ. Markovの不等式

証明. (i), (ii)は演習問題とする。補題 2.20によれば、b1Aは非負値 B-可測関数で∫Rd

b1A µ = bµ(A)

がなりたつ。一方 b1A ≤ f が満たされる。よって (ii)を適用して∫Rd

b1A µ ≤∫

Rd

f µ

を得る。b > 0で割ることにより結論 (iii)に至る。

3.5 演習問題. 補題 3.4(i), (ii)を示せ。

3.6 系. f : Rd → Rを非負値 B-可測関数とする。

(i) f−1{+∞} ∈ B. (ii)

∫Rd

f µ < +∞ ⇒ µ(f−1{+∞}) = 0.

証明. (i)は関係 f−1{+∞} =∩∞

n=1{x ∈ Rd : f(x) ≥ n} から導かれる。(ii)を示すにはA = f−1{+∞}として補題 3.4(iii)をを適用する。

単調収束定理を次の命題に帰着させて証明する。そのさい測度の σ-加法性が重要になる。

3.7 補題. an, bn 非負値単調増加列 ⇒ supn∈N(an + bn) = supn∈N an + supn∈N bn.

3.8 演習問題. 補題 3.7を示せ。ただし数列 an, bnは値+∞を取りうることに注意せよ。

記号¶ ³集合A,Bに対しA ⊂ Bの場合にB \ A := {x ∈ B : x ∈ A}と表記する。µ ´

3.9 補題. (i) A,B ∈ B, A ⊂ B ⇒ µ(A) + µ(B \ A) = µ(B), µ(A) ≤ µ(B).

(ii) A,B ∈ B, A ⊂ B, µ(A) < +∞ ⇒ µ(B \ A) = µ(B) − µ(A).

証明. B \ A = B ∩ Ac ∈ B, A ∩ (B \ A) = ∅ なので有限加法性が適用できる。

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3.10 補題. (i) An ∈ B ∀n ∈ N, An ⊂ An+1 ∀n ∈ N ⇒ supn∈N µ(An) = µ(∪∞

n=1 An)

(ii) An ∈ B ∀n ∈ N, An ⊃ An+1 ∀n ∈ N, µ(A1) < +∞ ⇒ infn∈N µ(An) = µ(∩∞

n=1 An)

証明. (i) B1 := A1, Bn := An \ An−1 for n ≥ 2とおく。このとき

n∪k=1

Bk = An ∀n ∈ N,∞∪

k=1

Bk =∞∪

k=1

Ak(3.11)

Bn ∈ B ∀n ∈ N, Bn ∩ Bm = ∅ if n > m(3.12)

(3.11)を示すのは演習問題とする。(3.12)後半はBn ⊂ (An−1)cとBm ⊂ Am ⊂ An−1 を使う

と確かめられる。µの σ-加法性を適用すると次が得られる。

µ(An) = µ(n∪

k=1

Bk) =n∑

k=1

µ(Bk)∀n ∈ N,∞∑

k=1

µ(Bk) = µ(∞∪

k=1

Bk) = µ(∞∪

k=1

Ak)

従って supn∈N µ(An) = µ(∪∞

k=1 Ak) である。(ii) 今度はBn := A1 \ An for n ∈ Nとおく。このとき

(3.13) An = A1 \ Bn,

∞∩n=1

An = A1 \∞∪

n=1

Bn

ここで重要な仮定 µ(A1) < +∞ を使う。補題 3.9(i)により

µ(Bn) ≤ µ(A1) < +∞∀n ∈ N, µ(∞∪

n=1

Bn) ≤ µ(A1) < +∞

である。よって補題 3.9(ii)により

µ(An) = µ(A1) − µ(Bn), µ(∞∩

n=1

An) = µ(A1) − µ(∞∪

n=1

Bn)

さてBn ∈ B ∀n ∈ N, Bn ⊂ Bn+1 ∀n ∈ N なので (i)を適用できる。すなわち supn∈N µ(Bn)

は µ(∪∞

n=1 Bn)に等しい。従って infn∈N µ(An)は µ(∩∞

n=1 An)に一致する。

3.14 演習問題. (3.11), (3.13)を示せ。

3.15 補題. fnを非負値 B-可測関数Rd → R の列、A ∈ B, b ∈ R>0とする。

fn ≤ fn+1 ∀n ∈ N, b ≤ supn∈N

fn(x)∀x ∈ A ⇒ bµ(A) ≤ supn∈N

∫Rd

fn µ.

証明. 0 < r < bとする。条件 fn ≤ fn+1から次が従う。

{x ∈ Rd : fn(x) > r} ⊂ {x ∈ Rd : fn+1(x) > r}.

さて fnたちの B-可測性により、上の各集合は Bに属する。よって補題 3.10(i)が適用でき

supn∈N

µ({x ∈ Rd : fn(x) > r}) = µ(∞∪

n=1

{x ∈ Rd : fn(x) > r}).

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各 x ∈ Aに対して supn∈N fn(x) > r 即ちある番号 nが存在して fn(x) > r であるので

A ⊂∞∪

n=1

{x ∈ Rd : fn(x) > r}

が分かる。従って補題 3.9(i)により

(⋆) µ(A) ≤ µ(∞∪

n=1

{x ∈ Rd : fn(x) > r}) = supn∈N

µ({x ∈ Rd : fn(x) > r}).

集合 {x ∈ Rd : fn(x) > r}と関数 fnの組に補題 3.4(iii)を適用すると

rµ({x ∈ Rd : fn(x) > r}) ≤∫

Rd

fn µ

従って (⋆)とあわせて

rµ(A) ≤ supn∈N

rµ({x ∈ Rd : fn(x) > r}) ≤ supn∈N

∫Rd

fn µ

が導かれる。rは 0 < r < bであれば任意なので結論を得る。

3.16 系. fnを非負値 B-単関数Rd → R の列、g : Rd → R を非負値 B-単関数とする。

fn ≤ fn+1 ∀n ∈ N, g(x) ≤ supn∈N

fn(x)∀x ∈ Rd ⇒∫

Rd

g µ ≤ supn∈N

∫Rd

fn µ.

証明. y ∈ Image g, y > 0とする。記号の煩雑を避けるため適宜 A = g−1{y}とかく。関数1Afn も系 2.14 により B-単関数である。また非負であることは明らか。

1Afn ≤ 1Afn+1 ∀n ∈ N, y = g(x) ≤ supn∈N

1A(x)fn(x)∀x ∈ A

なので補題 3.15を適用できる。従って

yµ(g−1{y}) = yµ(A) ≤ supn∈N

∫Rd

1Afn µ = supn∈N

∫Rd

1g−1{y}fn µ

上は y = 0の場合も成り立つ。ここで 1Afn ≤ 1Afn+1 を再び使う。補題 3.4(ii)により

0 ≤∫

Rd

1g−1{y}fn µ ≤∫

Rd

1g−1{y}fn+1 µ ∀n ∈ N∀y ∈ Image g

よって yについての和に対して補題 3.7を適用できる。∑y∈Image g

yµ(g−1{y}) ≤∑

y∈Image g

supn∈N

∫Rd

1g−1{y}fn µ = supn∈N

∑y∈Image g

 ∫

Rd

1g−1{y}fn µ

左辺は定義より∫

Rd

g µ である。従って∫Rd

g µ ≤ supn∈N

∑y∈Image g

 ∫

Rd

1g−1{y}fn µ

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あとは各 n ∈ Nに対して次の等式の成立を言えば証明が完結する。∑y∈Image g

∫Rd

1g−1{y}fn µ =

∫Rd

fn µ.

各 1g−1{y}fnは非負値 B単関数であり系 2.17(i)の前提条件は満たされている。∑y∈Image g

1g−1{y}(x)fn(x) = fn(x) ∀x ∈ Rd

であるので上の等式が成立することを得る。

記号¶ ³各 n ∈ Nに対して次の関数 φn : R → R を導入する。

φn(y) :=

0 y < 1/2n

(k − 1)/2n (k − 1)/2n ≤ y < k/2n, k = 2, 3, . . . , 2nn

n y ≥ nµ ´3.17 補題. (i) φn(y) ≤ φn+1(y) ≤ y ∀n ∈ N ∀y ∈ R. y < z ⇒ φn(y) ≤ φn(z).

(ii) f : Rd → R を非負値B-可測関数とする。このとき gn : Rd → R, x 7→ φn(f(x)) は非負値B-単関数であり、列 gnは gn ≤ gn+1 ∀n ∈ N, supn∈N gn(x) = f(x) ∀x ∈ Rd を満たす。

証明. (i)のチェックは演習問題とする。(ii) (1.1)で登場した分割を考える。

A(n, k) := {x ∈ Rd : (k − 1)/2n ≤ f(x) < k/2n} k = 2, 3, . . . , 2nn

A(n,∞) := {x ∈ Rd : f(x) ≥ n}

系 2.5 により上にあげた集合はいずれも Bに属する。gnが非負値 B-単関数であるのは

gn =n2n∑k=2

k − 1

2n1A(n,k) + n1A(n,∞)

よりわかる。あとは supn∈N φn(y) = max{y, 0} ∀y ∈ R を使えばよい。

次は単調収束定理(monotone convergence theorem) と呼ばれる。

3.18 定理. fnを非負値B-可測関数Rd → R の列、f : Rd → R を非負値B-可測関数とする。

fn ≤ fn+1 ∀n ∈ N, supn∈N

fn(x) = f(x)∀x ∈ Rd ⇒ supn∈N

∫Rd

fn µ =

∫Rd

f µ.

証明. まず各 fnは非負値 B-可測関数で fn ≤ f を満たすから、補題 3.4(ii)より∫Rd

fn µ ≤∫

Rd

f µ ∀n ∈ N 従って supn∈N

∫Rd

fn µ ≤∫

Rd

f µ.

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他方 fn ≤ fn+1であるから補題 3.17(i)より

φn(fn(x)) ≤ φn+1(fn(x)) ≤ φn+1(fn+1(x)) ∀x ∈ Rd ∀n ∈ N.

k ∈ Nをひとまず固定する。k ≤ nなる番号 n ∈ Nに対して fk ≤ fnであるから

φn(fk(x)) ≤ φn(fn(x)) ∀x ∈ Rd

補題 3.17(ii)より fk(x) = supn∈N φn(fk(x)) ∀x ∈ Rd であるから

fk(x) ≤ supn∈N

φn(fn(x)) ∀x ∈ Rd ∀k ∈ N 従って supk∈N

fk(x) ≤ supn∈N

φn(fn(x)) ∀x ∈ Rd

ここで g : Rd → Rを非負値 B-単関数で g ≤ f を満たすものとしよう。

g(x) ≤ f(x) = supn∈N

fk(x) ≤ supn∈N

φn(fn(x)) ∀x ∈ Rd

合成関数 x 7→ φn(fn(x))は非負値 B-単関数なので系 3.16により∫Rd

g µ ≤ supn∈N

∫Rd

φn ◦ fn µ

が得られる。さて φn(fn(x)) ≤ fn(x) であったので補題 3.4(ii)より∫Rd

g µ ≤ supn∈N

∫Rd

φn ◦ fn µ ≤ supn∈N

∫Rd

fn µ

g : Rd → Rは非負値 B-単関数で g ≤ f であれば任意なので、積分の定義より∫Rd

f µ ≤ supn∈N

∫Rd

fn µ

これと証明冒頭で述べたことを合わせて結論を得る。

4 可積分関数とその積分可積分な可測関数とその積分についていくつか基本的な性質を明らかにする。前提¶ ³

(B, µ)をRd上の測度とする。µ ´積分と呼ばれるには相応しい性質が備わっていなければならぬ。その一つが補題 3.4(ii)で

述べた単調性で、もう一つは線形性である。ただし、関数のとる値として+∞, −∞も許しているので少々注意が必要である。∞−∞を回避するために次のように取り決める。

約束¶ ³関数 f, g : Rd → Rに対して条件 {x ∈ Rd : f(x) = +∞, g(x) = −∞} = ∅,{x ∈ Rd : f(x) = −∞, g(x) = +∞} = ∅ が成立するときに限って和 f + gを考える。µ ´

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次にはっきりさせておくべきは可測性である。

4.1 補題. f, g : Rd → Rを B-可測関数とする。和が定義可能なら f + gも B-可測である。

証明. 次の関係を使えばよいがその検証は演習問題に委ねる。

(4.2) {x ∈ Rd : f(x) + g(x) > a} =∪b∈Q

{x ∈ Rd : f(x) > b, g(x) > a − b}

ここで、有理数全体Qの可算性により、右辺は可算無限合併である。

4.3 演習問題. (4.2)を示せ。

4.4 定理. f, g : Rd → Rを非負値 B-可測関数とする。和 f + gも非負値 B-可測であって∫Rd

(f + g) µ =

∫Rd

f µ +

∫Rd

g µ. 積分の線形性

証明. 関数 f , gに対して補題 3.17(ii)の手続きで構成される非負値B単関数の列をそれぞれfn, gnとする。このとき非負値 B可測関数の列 fn + gn は fn + gn ≤ fn+1 + gn+1 ∀n ∈ N を満たし、さらに補題 3.7により

supn∈N

(fn(x) + gn(x)) = supn∈N

fn(x) + supn∈N

gn(x) = f(x) + g(x)∀x ∈ Rd

従って列 fn + gnに定理 3.18を適用して∫Rd

(f + g) µ = supn∈N

∫Rd

(fn + gn) µ

fn, gnは非負値 B単関数であるから右辺は系 2.17(i)により次に等しい。

supn∈N

(

∫Rd

fn µ +

∫Rd

gn µ) = supn∈N

∫Rd

fn µ + supn∈N

∫Rd

gn µ

ここで再び補題 3.7を適用したわけだが、事前に fn ≤ fn+1なので∫

Rd fn µ ≤∫

Rd fn+1 µ であると確認するのを怠ってはいけない。列 fn, gnそれぞれに定理 3.18を適用して得られる

supn∈N

∫Rd

fn µ =

∫Rd

f µ, supn∈N

∫Rd

gn µ =

∫Rd

g µ

の和をとったものがまさに示そうとしていた等式の右辺である。

4.5 補題. f : Rd → RをB-可測関数とする。このとき |f |, max{f, 0}, max{−f, 0} はいずれも非負値 B-可測関数であって次の同値性が成り立つ。∫

Rd

|f |µ < +∞ ⇔∫

Rd

max{f, 0}µ < +∞,

∫Rd

max{−f, 0}µ < +∞.

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証明. 関数max{f, 0}の B-可測性を確かめる。それは以下の関係から分かる。

{x ∈ Rd : max{f(x), 0} < a} =

{∅ if a ≤ 0

{x ∈ Rd : f(x) < a} if a > 0

同様にしてmax{−f, 0}の可測性も導ける。さて |f | = max{f, 0} + max{−f, 0} である。定理 4.4を使うと |f |の可測性と次の等式を得る。∫

Rd

|f |µ =

∫Rd

max{f, 0}µ +

∫Rd

max{−f, 0}µ.

従って同値性が得られた。

補題 4.5をふまえて定義 1.8を再確認しておこう。

f : Rd → Rを B-可測関数とする。f が µ-可積分であるとは∫Rd

|f |µ < +∞

が成り立つことをいう。このとき f の µについての積分を次で定義する。∫Rd

f µ :=

∫Rd

max{f, 0}µ −∫

Rd

max{−f, 0}µ.

非負値関数についてはmax{−f, 0} = 0であるから、非負値可測関数から一般の可測関数への拡張はやはりシ-ムレスである。

約束¶ ³B-可測かつµ-可積分な関数を今後は (B, µ)-可積分関数(integrable func-

tion)と言うことにする。µ ´次は可積分性判定(integrability criterion)を優関数により行う手順で、非常に有効である。

4.6 演習問題. f, g : Rd → Rを B-可測関数とする。|f | ≤ g (従って gは非負値)でありかつ∫Rd

g µ < +∞ であるなら f は µ-可積分であることを示せ。

以下、可積分な可測関数とその積分について基本的な性質を列挙していくわけだが、とりわけ定理 4.7、定理 4.9 および定理 4.10 に提示される不等式は多くの場面で登場する重要なものである。

約束と再警告¶ ³0と+∞の積、0と−∞の積はともに 0とする。だが調子に乗って∞−∞ = (1 − 1)∞ = 0∞ = 0 という類の計算をしてはいけない。分配法則の運用は慎重になる必要がある。µ ´

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4.7 定理. f : Rd → Rを (B, µ)-可積分関数とする。

(i) a ∈ Rに対して af も (B, µ)-可積分関数であって∫

Rd

af µ = a

∫Rd

f µ.

(ii) 不等式∣∣∣ ∫

Rd

f µ∣∣∣ ≤ ∫

Rd

|f |µ が成り立つ。∫

Rd

|f |µ = 0 ⇒∫

Rd

f µ = 0

4.8 演習問題. 定理 4.7を示せ。

次の定理は積分の単調性を可積分関数について述べている。

4.9 定理. f, g : Rd → Rを (B, µ)-可積分関数とする。g ≤ f ⇒∫

Rd

g µ ≤∫

Rd

f µ.

証明. g ≤ f なので条件

max{g, 0} ≤ max{f, 0}, max{−f, 0} ≤ max{−g, 0}

が成り立ち、補題 3.4(ii) が適用できる。すなわち∫Rd

max{g, 0}µ ≤∫

Rd

max{f, 0}µ,

∫Rd

max{−f, 0}µ ≤∫

Rd

max{−g, 0}µ.

各積分は有限の値であるから、辺々たしあわせて移項すると求める不等式に至る。

次の定理は積分の線形性を可積分関数について述べている。

4.10 定理. f, g : Rd → Rを (B, µ)-可積分関数とする。和が定義可能なら f + gも (B, µ)-可積分であり次が成り立つ。∫

Rd

|f + g|µ ≤∫

Rd

|f |µ +

∫Rd

|g|µ,

∫Rd

(f + g) µ =

∫Rd

f µ +

∫Rd

g µ

証明. 和が定義可能なので f + gもB-可測である。さらに |f + g| ≤ |f |+ |g| であるから、補題 3.4(ii)と定理 4.4を適用して最初の不等式が得られる。従って f + gも µ-可積分である。さて f(x) = +∞, g(x) = −∞となる x ∈ Rdは存在しない。また f(x) = −∞, g(x) = +∞となる x ∈ Rdも存在しない。よって

max{f + g, 0} + max{−f, 0} + max{−g, 0} = max{−f − g, 0} + max{f, 0} + max{g, 0}

という関係が成り立ち、定理 4.4 が適用できる。すなわち∫Rd

max{f + g, 0}µ +

∫Rd

max{−f, 0}µ +

∫Rd

max{−g, 0}µ

=

∫Rd

max{−f − g, 0}µ +

∫Rd

max{f, 0}µ +

∫Rd

max{g, 0}µ

各積分は有限の値であるから、移項して整理すると∫Rd

max{f + g, 0}µ −∫

Rd

max{−f − g, 0}µ

=

∫Rd

max{f, 0}µ −∫

Rd

max{−f, 0}µ +

∫Rd

max{g, 0}µ −∫

Rd

max{−g, 0}µ

左辺は f + gの積分であり、右辺は f , gそれぞれの積分の和である。

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4.11 注意. 定理 4.10ではいちいち和が定義可能ならという前提がつくのが何とも煩わしい。これから逃れるには、測度 0という概念を導入して少し議論する必要がある。

記号¶ ³B-可測関数 f : Rd → R に対し ∥f∥1 :=

∫Rd

|f |µ を f の

L1セミノルム(semi-norm)という。µ ´L1セミノルムは補題 3.4(i)と定理 4.10により以下に述べる性質を持つ。

∥f∥1 ≥ 0, a ∈ Rに対し ∥af∥1 = |a|∥f∥1, f +gが定義可能なら ∥f +g∥1 ≤ ∥f∥1 +∥g∥1

∥ ∥1を L1ノルムではなく L1セミノルムと呼ぶ理由は次の補題で説明される。

4.12 補題. f : Rd → Rを B-可測関数とするとき以下は同値である。∫Rd

|f |µ = 0 ⇔ µ({x ∈ Rd : f(x) = 0}) = 0.

証明. まず∫

Rd

|f |µ = 0 と仮定しよう。補題 3.4(iii)によれば各 n ∈ Nに対して

µ({x ∈ Rd : |f(x)| ≥ 1/n}) ≤ n

∫Rd

|f |µ = 0

が成り立つ。ところで {x ∈ Rd : |f(x)| ≥ 1/n} ⊂ {x ∈ Rd : |f(x)| ≥ 1/(n + 1)} かつ

∞∪n=1

{x ∈ Rd : |f(x)| ≥ 1/n} = {x ∈ Rd : |f(x)| > 0} = {x ∈ Rd : f(x) = 0}

である。よって補題 3.10(i)により

µ({x ∈ Rd : f(x) = 0}) = supn∈N

µ({x ∈ Rd : |f(x)| ≥ 1/n}) = 0.

次に µ({x ∈ Rd : f(x) = 0}) = 0と仮定する。非負値 B-単関数 gで g ≤ |f |を満たすものをひとまず固定する。y ∈ Image g, y > 0としよう。

0 < y = g(x) ≤ |f(x)| ∀x ∈ g−1{y} 従って g−1{y} ⊂ {x ∈ Rd : f(x) = 0}

即ち g−1{y}は µ-測度 0の集合に包含されるので補題 3.9(i)より、

y ∈ Image g, y > 0 ⇒ µ(g−1{y}) = 0

従って∫

Rd

g µ = 0 となり、積分の定義より∫

Rd

|f |µ = 0 を得る。

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4.13 演習問題. B-可測関数 f : Rd → R (Rでないことに注目)であって条件

µ({x ∈ Rd : f(x) = 0}) = 0

を満たすもの全体は線形空間をなすことを示せ。

4.14 補題. B-可測関数 f, g : Rd → R に対して積 fgも B-可測である。

証明. 関数の値として+∞, −∞も許すので少し面倒である。a > 0とする。

{x ∈ Rd : 0 < f(x)g(x) < a}

=∪

b∈Q:b>0

{x : 0 < f(x) < b, 0 < g(x) < a/b} ∪∪

b∈Q:b<0

{x : b < f(x) < 0, a/b < g(x) < 0}

というように可算無限合併で表わせ、さらに

{x ∈ Rd : f(x)g(x) ≤ 0} = {x : f(x) ≥ 0, g(x) ≤ 0} ∪ {x : f(x) ≤ 0, g(x) ≥ 0}

である。従って a > 0のとき

{x ∈ Rd : f(x)g(x) < a} = {x : 0 < f(x)g(x) < a} ∪ {x : f(x)g(x) ≤ 0} ∈ B.

次に

{x ∈ Rd : f(x)g(x) < 0} = {x : f(x) > 0, g(x) < 0} ∪ {x : f(x) < 0, g(x) > 0} ∈ B.

残っているのは a < 0の場合である。このときは {x ∈ Rd : f(x)g(x) < a}が∪b∈Q:b>0

{x : f(x) > b, g(x) < a/b} ∪∪

b∈Q:b<0

{x : f(x) < b, g(x) > a/b}

に等しいことを使えばよい。

よって B-可測関数 f : Rd → R とA ∈ Bに対して 1Af は B-可測である。

4.15 定義. f : Rd → R をB-可測関数、A ∈ Bとする。1Af が µ-可積分のとき f は可測集合A上で µ-可積分という。f がA上で非負値または µ-可積分のとき∫

A

f µ :=

∫Rd

1Af µ.

を f の可測集合A上での積分という。

4.16 注意. 0と∞の積は 0という約束により 1A(x)f(x) = 0 ∀x ∈ Ac である。

4.17 補題. f : Rd → R を B-可測関数、A ∈ Bとする。(i) f 非負値 ⇒

∫Rd

f µ =

∫A

f µ +

∫Ac

f µ.

(ii) f は µ-可積分 ⇔ f はA上で µ-可積分かつAc上で µ-可積分

(iii) f は µ-可積分 ⇒∫

Rd

f µ =

∫A

f µ +

∫Ac

f µ.

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証明. f = 1Af + 1Acf なので定理 4.4を適用して (i)が導ける。また |f |に (i)を適用して (ii)

を得る。(iii)は定理 4.10と (ii)を適用して導ける。

4.18 系. f : Rd → R を B-可測関数、A ∈ Bとする。(i) µ(A) = 0 ⇒ f はA上で µ-可積分かつ

∫A

f µ = 0.

(ii) f µ-可積分(あるいは非負値)、µ(Ac) = 0 ⇒∫

Rd

f µ =

∫A

f µ.

証明. (i) {x ∈ Rd : 1A(x)f(x) = 0} ⊂ A であるから補題 3.9(i)より、

µ({x ∈ Rd : 1A(x)f(x) = 0}) ≤ µ(A) = 0

である。従って補題 4.12 を適用して ∫Rd

|1Af |µ = 0

を得る。とくに 1Af は µ-可積分である。さらに定理 4.7(ii)より∫

A

f µ = 0 が従う。

(ii) µ(Ac) = 0 なので補題 4.17と (i)を適用して結論を得る。

次は増加集合列により可積分性判定をするもので演習問題 4.6 とセットで効力が強化される。証明のポイントは単調収束定理の使い方にあり、次の節の主題と大いにつながる。

4.19 演習問題. f : Rd → Rを B-可測関数、An ∈ B n ∈ Nを

An ⊂ An+1 ∀n かつ∞∪

n=1

An = Rd

であるような集合列とする。このとき次の同値性を示せ。

f µ-可積分 ⇔ supn∈N

∫An

|f |µ < +∞

5 Lebesgueの収束定理この節では測度論的な積分の長所のひとつである収束定理の明解さを紹介する。その根元にあるのが定理 3.18すなわち単調収束定理である。

前提¶ ³(B, µ)をRd上の測度とする。µ ´

5.1 補題. fnを B-可測関数Rd → R の列とする。以下の関数はすべて B-可測である。

x 7→ supn∈N

fn(x), x 7→ infn∈N

fn(x), x 7→ lim supn→∞

fn(x), x 7→ lim infn→∞

fn(x)

証明. {x ∈ Rd : supn∈N fn(x) > a} =∪∞

n=1{x ∈ Rd : fn(x) > a} などを示せばよい。

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5.2 演習問題. 補題 5.1を示せ。

5.3 演習問題. fnを非負値 B-可測関数Rd → R の列とする。関数 x 7→∑∞

n=1 fn(x) は B-可測であることを示せ。

次は項別積分定理 (term-by-term integration)であるが、非負性に留意せよ。

5.4 補題. fnを非負値 B-可測関数Rd → R の列とする。このとき∞∑

n=1

∫Rd

fn µ =

∫Rd

∞∑n=1

fn µ.

証明. 正項級数については∞∑

n=1

an = supn∈N

n∑k=1

ak であるから定理4.4と定理3.18に帰着する。

5.5 定理. f : Rd → Rを非負値 B-可測関数とする。(i) 関数 ν : B → R, A 7→

∫A

f µ は測度である。積分の σ-加法性(ii) 任意の非負値 B可測関数 g : Rd → R に対して次が成り立つ。∫

Rd

g ν =

∫Rd

gf µ. 絶対連続測度による積分

証明. (i) An ∈ B n ∈ Nかつ An ∩ Am = ∅ n = m とする。A :=∪∞

n=1 An とかくと∑∞n=1 1Anf = 1Af であるから、補題 5.4を適用して

∞∑n=1

ν(An) =∞∑

n=1

∫An

f µ =

∫A

f µ = ν(A)

を得るが、これは σ加法性に他ならない。(ii) まず gが単関数である場合を考える。このとき補題 3.4(i)と定理 4.4により∫

Rd

g ν =∑

y∈Image g

yν(g−1({y})) =∑

y∈Image g

y

∫g−1({y})

f µ =

∫Rd

∑y∈Image g

y1g−1({y})f µ

となるが、右辺の被積分関数はちょうど gfである。一般には補題 3.17(ii)により非負値B-単関数Rd → R の列 gnで gn ≤ gn+1 ∀n ∈ N, supn∈N gn(x) = g(x) ∀x ∈ Rd を満たすものが存在する。各 n ∈ Nに対して

∫Rd gn ν =

∫R gnf µ なので定理 3.18を適用して結論に至る。

次は Fatouの補題と呼ばれるが、事実上は定理と冠されるに相応しい内容を持つ。

5.6 定理. fnを非負値 B-可測関数Rd → R の列とする。∫Rd

lim infn→∞

fn µ ≤ lim infn→∞

∫Rd

fn µ.

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証明. 非負値 B-可測関数列 infk≥n fk に定理 3.18が適用できるので∫Rd

lim infn→∞

fn µ =

∫Rd

supn∈N

infk≥n

fk µ = supn∈N

∫Rd

infk≥n

fk µ

を得る。他方、補題 3.4(ii)より∫Rd

infk≥n

fk µ ≤∫

Rd

fk µ ∀k ≥ n 従って∫

Rd

infk≥n

fk µ ≤ infk≥n

∫Rd

fk µ

以上を組み合わせて結論に至る。

次の定理はLebesgueの優収束定理(Lebesgue dominated convergence theorem) あるいは単に Lebesgueの収束定理と呼ばれ、測度論的な積分に関しては一つの頂点である。

5.7 定理. f : Rd → Rを (B, µ)-可積分関数、fnを (B, µ)-可積分関数Rd → R の列で

∃g (B, µ)-可積分 s.t. |fn(x)| ≤ g(x) ∀n ∈ N ∀x ∈ Rd, limn→∞ fn(x) = f(x) ∀x ∈ Rd

を満たすものとする。このとき数列∫

Rd

fn µ は∫

Rd

f µに収束する。

証明. A := {x ∈ Rd : g(x) < +∞}とおく。系 3.6より A ∈ Bかつ µ(Ac) = 0 である。系 4.18(ii)を適用して次が分かる。

(⋆)

∫Rd

fn µ =

∫Rd

1Afn µ,

∫Rd

f µ =

∫Rd

1Af µ

さて |fn| ≤ gかつ g(x) < +∞ ∀x ∈ Aなので 1Ag + 1Afn は定義可能で、非負値である。1Ag + 1Af についても同様のことがいえる。定理 5.6より∫

Rd

lim infn→∞

(1Ag + 1Afn) µ ≤ lim infn→∞

∫Rd

(1Ag + 1Afn) µ.

仮定より lim infn→∞(1Ag + 1Afn) = 1Ag + 1Af なので定理 4.10も考慮に入れて∫Rd

1Ag µ +

∫Rd

1Af µ ≤ lim infn→∞

( ∫Rd

1Ag µ +

∫Rd

1Afn µ)

を得る。各積分は有限の値であるから移項してさらに (⋆)とあわせて∫Rd

f µ ≤ lim infn→∞

∫Rd

fn µ

が導ける。1Ag − 1Afnについても同様の考察をすることにより

lim supn→∞

∫Rd

fn µ ≤∫

Rd

f µ

が示せるので、∫

Rd

fn µ は∫

Rd

f µに収束する。

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Fatouの補題とLebesgueの収束定理を組み合わせて次の形で利用することも多くLebesgue-

Fatouの補題と呼ばれる。その証明はかなり重複するが、あえて省略せずに述べておく。

5.8 定理. fnを (B, µ)-可積分関数Rd → R の列で次を満たすものとする。

lim infn→∞

∫Rd

fn µ < +∞, ∃g (B, µ)-可積分 s.t. fn(x) ≥ g(x)∀n ∈ N ∀x ∈ Rd.

このとき lim infn→∞ fnは (B, µ)-可積分で、∫

Rd

lim infn→∞

fn µ ≤ lim infn→∞

∫Rd

fn µ が成り立つ。

証明. A := {x ∈ Rd : |g(x)| < +∞}とおく。系 3.6よりA ∈ Bかつ µ(Ac) = 0 である。さて fn ≥ gかつ g(x) = +∞,−∞ ∀x ∈ Aなので 1Afn − 1Ag は定義可能で、非負値である。1A lim infn→∞ fn − 1Ag についても同様である。定理 5.6により次が成り立つ。∫

Rd

lim infn→∞

(1Afn − 1Ag) µ ≤ lim infn→∞

∫Rd

(1Afn − 1Ag) µ

µ(Ac) = 0なので系 4.18(ii) が適用できる。定理 4.10も考慮に入れて次を得る。

(⋆)

∫Rd

(1A lim infn→∞

fn − 1Ag) µ ≤ lim infn→∞

( ∫Rd

1Afn µ −∫

Rd

1Ag µ)

= lim infn→∞

∫Rd

fn µ −∫

Rd

1Ag µ < +∞

これは非負値関数 1A lim infn→∞ fn − 1Ag の (B, µ)-可積分性を意味する。従って

1A lim infn→∞

fn = (1A lim infn→∞

fn − 1Ag) + 1Ag は (B, µ)-可積分である

ことが定理 4.10を適用して導ける。さらに (⋆)から∫Rd

1A lim infn→∞

fn µ ≤ lim infn→∞

∫Rd

fn µ

が導ける。µ(Ac) = 0なので、補題 4.17と系 4.18(i)により lim infn→∞ fn は (B, µ)-可積分でありかつ左辺はその積分に等しいことを得る。

いわゆる極限と積分の順序交換に関しては、以下に述べる命題が手助けとなる。

5.9 補題. Rpの部分集合E = ∅, a ∈ E と関数 f : E → Rに対して次の同値性が成り立つ。

f は aで連続 ⇔ 任意の aに収束するEの点列 anに対して f(an)は f(a)に収束する。

5.10 定理. EをRpの空でない部分集合、f : E × Rd → Rを次のような関数とする。

各 x ∈ Eに対して関数Rd → R, y 7→ f(x, y) は B可測、各 y ∈ Rdに対して関数E → R, x 7→ f(x, y) は連続、∃g (B, µ)-可積分 s.t. |f(x, y)| ≤ g(y) ∀x ∈ E ∀y ∈ Rd

このとき関数E → R, x 7→∫

Rd

f(x, y) µ(dy) は連続である。

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5.11 演習問題. 補題 5.9および定理 5.10 を証明せよ。

5.12 演習問題. f : Rd → Rを B可測関数とする。µ(Rd) < +∞であるなら関数 R → R,

x 7→∫

Rd

cos(xf(y)) µ(dy) は一様連続であることを証明せよ。(議論にひと工夫必要)

5.13注意. うっかりすると見過ごしてしまうが、演習問題5.12を考察する際にy 7→ cos(xf(y))

がB可測であることを検証する必要がある。一般に g : R → Rを連続関数とするとき合成関数 y 7→ g(f(x)) もB可測である。しかしながらこのような一般命題を証明するにはまだ準備不足なので、cosという関数の特殊性を利用した議論を下に与えておく。それは

cos(xf(y)) =∞∑

n=0

(−1)nx2n

(2n)!f2n(y)

という無限級数表示が決め手である。有限和の段階では次の関数が現れる。

y 7→k∑

n=0

(−1)nx2n

(2n)!f2n(y)

この B可測性は補題 3.2、補題 4.1と補題 4.14 により保証される。よって補題 5.1を適用して極限関数であるところの y 7→ cos(xf(y)) が B可測であることを得る。

6 測度 0の集合この節では測度論的な積分においてキーとなるほとんどいたるところという概念を紹介する。また σ加法性から導かれる重要な成果の一つである L1空間の完備性を証明する。

前提¶ ³(B, µ)をRd上の測度とする。µ ´

6.1 補題. fnを非負値 B-可測関数Rd → R の列とする。

fn ≤ fn+1 ∀n ∈ N, supn∈N

∫Rd

fn µ < +∞ ⇒ µ({x ∈ Rd : supn∈N

fn(x) = +∞}) = 0.

証明. 定理 3.18により次が成り立つ。∫Rd

supn∈N

fn µ = supn∈N

∫Rd

fn µ < +∞

ゆえに系 3.6 を適用して結論を得る。

6.2 定義. 次の条件を満たすRdの部分集合Aを (B, µ)零集合(null set)とよぶ。

∃B ∈ B s.t. µ(B) = 0, A ⊂ B

補集合Acの方は (B, µ)-a.e.集合とよぶ。またある性質の成立する集合が (B, µ)-a.e.集合であるとき、その性質は測度 (B, µ)に関しほとんどいたるところ(almost everywhere) 成立するという。通常 µ-a.e.と略記する。

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6.3 例. 補題 4.12 および補題 6.1はそれぞれ次のように表現される。

• B可測関数 f : Rd → Rに対して∫

Rd

|f |µ = 0 は f = 0 µ-a.e.と同値である。

• 非負値 B可測関数Rd → R の列 fnが条件 fn ≤ fn+1 ∀n ∈ N, supn∈N

∫Rd

fn µ < +∞ を満

たすなら supn∈N fn < +∞ µ-a.e. である。

6.4 注意. Bが (B, µ)零集合すべてを含む場合、測度 (B, µ)は完備(complete)であるという。(B, µ)零集合は必ずしも Bに属していないので次の補題が意味を持つ。

6.5 補題. A ∈ Bである場合はAが (B, µ)零集合とは µ(A) = 0に他ならない。

証明. (B, µ)零集合であれば µ(B) = 0, A ⊂ Bを満たすB ∈ Bが存在する。A ∈ Bであるから補題 3.9(i)を適用して 0 ≤ µ(A) ≤ µ(B) = 0 と推論できる。

6.6 補題. f, g : Rd → R を B可測関数とする。このとき以下のいずれの集合もBに属する。

{x ∈ Rd : f(x) < g(x)}, {x ∈ Rd : f(x) ≤ g(x)}, {x ∈ Rd : f(x) = g(x)}.

証明. {x ∈ Rd : f(x) < g(x)} =∪

a∈Q{x ∈ Rd : f(x) < a ≤ g(x)} などを示せばよい。

6.7 演習問題. 補題 6.6を示せ。ただし f − gが定義可能とは限らないので補題 4.1に帰着させようとしてもだめである。

6.8 定理. f, g : Rd → R を B-可測関数とする。

(i) g 非負値かつ |f | ≤ g µ-a.e. ⇒∫

A

|f |µ ≤∫

A

g µ ∀A ∈ B.

(ii) f , g µ-可積分かつ f ≤ g µ-a.e. ⇒∫

A

f µ ≤∫

A

g µ ∀A ∈ B.

証明. (i) B := {x ∈ Rd : |f(x)| ≤ g(x)}とおく。µ(Bc) = 0 なので系 4.18(ii)を適用して∫A

|f |µ =

∫Rd

1A|f |µ =

∫B

1A|f |µ ≤∫

B

1Ag µ =

∫Rd

1Ag µ =

∫A

g µ ∀A ∈ B

を得る。まん中の不等号は集合Bの決め方により |1B1Af | ≤ 1B1Ag だから補題 3.4(ii)を適用して導かれる。(ii)についても同様の議論である。

6.9 演習問題. 定理 6.8(ii)を示せ。

6.10 注意. 定理 6.8(i)は以下の可積分性判定手順を提供する。

f, g : Rd → RをB可測関数とする。gが非負値、|f | ≤ g µ-a.e.かつ∫

Rd

g µ < +∞

であるなら f は µ可積分である。

6.11 系. f, g : Rd → R を B可測関数とする。(i) f , g 非負値かつ f = g µ-a.e. ⇒

∫A

f µ =

∫A

g µ ∀A ∈ B.

(ii) g µ可積分かつ f = g µ-a.e. ⇒ f µ可積分かつ∫

A

f µ =

∫A

g µ ∀A ∈ B.

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6.12 演習問題. 系 6.11を示せ。

次の定理はL1空間の完備性を述べるもので測度論的設定が大成功を納めた典型例である。更に Lp空間と呼ばれる対象まで一般化でき、それはRiesz-Fischerの定理と呼ばれる。

6.13 定理. ∥ ∥1をL1セミノルムとする。fnを (B, µ)可積分関数Rd → R(Rでないことに注目)の列でCauchyの条件 limm,n→∞ ∥fm − fn∥1 = 0 をみたすものとする。このとき (B, µ)

可積分関数 f : Rd → R が存在して limn→∞ ∥f − fn∥1 = 0 が成り立つ。

証明. Cauchyの条件により任意の ε ∈ R>0とK ∈ N に対してあるm ∈ Nでm ≥ K かつ∥fn − fm∥1 < ε ∀n > m を満たすものが存在する。従って帰納的に自然数列 α(k)で

α(k) < α(k + 1)∀k ∈ N, ∥fn − fα(k)∥1 < 1/2k ∀n > α(k)∀k ∈ N

を満たすものが構成できる。非負値 B可測関数 gk :=∑k

i=1 |fα(i+1) − fα(i)| について∫Rd

gk µ =k∑

i=1

∫Rd

|fα(i+1) − fα(i)|µ =k∑

i=1

∥fα(i+1) − fα(i)∥1 ≤k∑

i=1

1/2i ≤ 1

gk ≤ gk+1であるから補題 6.1を適用すると

µ(Ac) = 0 ただし A := {x ∈ Rd :∞∑

k=1

|fα(k+1)(x) − fα(k)(x)| < +∞} ∈ B

x ∈ Aなら級数∑∞

k=1(fα(k+1)(x) − fα(k)(x)) は絶対収束し、その部分和について

第 k部分和 = fα(k+1)(x) − fα(1)(x)

である。Rd全体で対応するため次の B可測関数を導入する。

f : x 7→ 1A(x) lim infk→∞

fα(k)(x)

可測性は補題 4.14と補題 5.1を使って確認できる。∀k ∈ Nをひとまず固定する。x ∈ Aなら級数和は f(x) − fα(1)(x)に等しいので

|f(x) − fα(k)(x)| ≤∞∑

i=k

|fα(i+1)(x) − fα(i)(x)| ∀x ∈ A

µ(Ac) = 0に着目して定理 6.8(ii)と補題 5.4を適用する。∫Rd

|f − fα(k)|µ ≤∫

Rd

∞∑i=k

|fα(i+1) − fα(i)|µ =∞∑

i=k

∫Rd

|fα(i+1) − fα(i)|µ ≤∞∑

i=k

1

2i=

1

2k−1

n ∈ Nかつ n > α(k)とする。∥fn − fα(k)∥1 < 1/2k であったので

∥f − fn∥1 =

∫Rd

|f − fn|µ ≤∫

Rd

|f − fα(k)|µ +

∫Rd

|fα(k) − fn|µ ≤ 1

2k−1+

1

2k=

3

2k

最初の不等号は定理 4.10による。よって ∥f − fn∥1は 0に収束する。

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次は項別積分定理である。以前の補題 5.4と異なり被積分関数に非負値性は要求しないがその代わりとなる条件が付いている点に注意されたい。

6.14 定理. fnをB-可測関数Rd → R(Rでないことに注目)の列で∞∑

n=1

∫Rd

|fn|µ < +∞ を

みたすものとする。このとき以下が成り立つ。

(i)∞∑

n=1

|fn| < +∞ µ-a.e., lim infn→∞

n∑k=1

fkと lim supn→∞

n∑k=1

fk は µ-可積分

(ii)∞∑

n=1

∫Rd

fn µ は絶対収束かつ∫

Rd

lim infn→∞

n∑k=1

fk µ =∞∑

n=1

∫Rd

fn µ =

∫Rd

lim supn→∞

n∑k=1

fk µ.

証明. 非負値関数∑∞

n=1 |fn|は (B, µ)可積分である。なぜなら補題 5.4を適用すると∫Rd

∞∑n=1

|fn|µ =∞∑

n=1

∫Rd

|fn|µ < +∞.

従って系 3.6により関数項級数は µ-a.e.絶対収束している。しかも次が成り立つ。

n∑k=1

fk(x) ≥ −∞∑

k=1

|fk(x)| ∀x ∈ Rd ∀n ∈ N,

∫Rd

n∑k=1

fk µ ≤∞∑

n=1

∫Rd

|fn|µ ∀n ∈ N.

よって定理 5.8 を適用して lim infn→∞∑n

k=1 fk の µ可積分性と∫Rd

lim infn→∞

n∑k=1

fk µ ≤ lim infn→∞

∫Rd

n∑k=1

fk µ = lim infn→∞

n∑k=1

∫Rd

fk µ

を得る。同様の議論により lim supn→∞∑n

k=1 fk の µ可積分性と

lim supn→∞

n∑k=1

∫Rd

fk µ ≤∫

Rd

lim supn→∞

n∑k=1

fk µ

を得る。さて次の包含関係が成り立ち、前者は (B, µ)-a.e.集合である。

{x ∈ Rd :∞∑

n=1

|fn(x)| < +∞} ⊂ {x ∈ Rd : lim infn→∞

n∑k=1

fk(x) = lim supn→∞

n∑k=1

fk(x)}

ゆえに系 6.11(ii) を適用して結論に至る。

6.15 演習問題. 定理 6.14において∞∑

n=1

∫Rd

fn µ は絶対収束することを示せ。

まだ、Lebesgue測度の存在(定理 9.6参照)およびその微積分の基本定理との関係(定理10.1参照)を調べていないので、項別積分定理などを具体例に応用はできないのであるが、それではあまりに味気ないので先取りしておく。次の例で登場する項別積分を Riemann積分の世界にとどまって適用するには煩わしい前提条件をチェックする必要がある。

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6.16 例.

∫ π

−π

1 − r2

1 − 2r cos θ + r2dθ = 2π, 0 ≤ ∀r < 1.

証明. 以後 rは条件を満たすものを固定する。直接計算により

(6.17) 1 +∞∑

n=1

2rn cos nθ =1 − r2

1 − 2r cos θ + r2∀θ ∈ [−π, π],

∫ π

−π

2rn cos nθ dθ = 0 ∀n ∈ N.

0 ≤ r < 1なので左の関数項級数は絶対収束している。一方

∞∑n=1

∫ π

−π

|2rn cos nθ| dθ ≤∞∑

n=1

∫ π

−π

2rn dθ =4πr

1 − r< +∞

が成り立つ。従って定理 6.14により∫ π

−π

∞∑n=1

2rn cos nθ dθ =∞∑

n=1

∫ π

−π

2rn cos nθ dθ.

故に (6.17)を考慮して結論に到達する。

6.18 演習問題. (6.17)を示せ。

この節を閉じるにあたって (B, µ)零集合の重要な性質を述べる。またそれらの典型的な適用例についてもふれる。まずその定義から直ちに分かることは次の通り。

(i) A (B, µ)零集合、B ⊂ A ⇒ B (B, µ)零集合(ii) A (B, µ)-a.e.集合、A ⊂ B ⇒ B (B, µ)-a.e.集合

6.19 補題. An ∈ B ∀n ∈ N ⇒ µ(∪∞

n=1 An) ≤∑∞

n=1 µ(An). 劣加法性(subadditivity)

証明. B :=∪∞

n=1 Anとおくと次の関係が成り立つ。

1B ≤∞∑

n=1

1An

よって補題 3.4(ii)と補題 5.4を適用して結論を得る。

6.20 系. (i) An (B, µ)-零集合 ∀n ∈ N ⇒∪∞

n=1 An (B, µ)-零集合(ii) An (B, µ)-a.e.集合 ∀n ∈ N ⇒

∩∞n=1 An (B, µ)-a.e.集合

6.21 演習問題. 系 6.20を示せ。

6.22 例. 単調収束定理の拡張。fnを非負値 B-可測関数Rd → R の列とする。

fn ≤ fn+1 µ-a.e.∀n ∈ N ⇒∫

Rd

supn∈N

fn µ = supn∈N

∫Rd

fn µ.

30

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証明. A :=∩∞

n=1{x ∈ Rd : fn(x) ≤ fn+1(x)} ∈ B である。関数列 1Afnに対して定理 3.18 が適用できるので ∫

Rd

1A supn∈N

fn µ =

∫Rd

supn∈N

1Afn µ = supn∈N

∫Rd

1Afn µ.

系 6.20(ii)によればAは (B, µ)-a.e.集合である。従って系 4.18 を使って結論を得る。

6.23 補題. f, g, hを B-可測関数Rd → R とする。このとき(i) f ≤ g µ-a.e., g ≤ f µ-a.e. ⇒ f = g µ-a.e. (ii) f ≤ g µ-a.e., g ≤ h µ-a.e. ⇒ f ≤ h µ-a.e.

証明. (i) µ-a.e.集合 {x ∈ Rd : f(x) ≤ g(x)}と {x ∈ Rd : g(x) ≤ f(x)}の共通部で表される{x ∈ Rd : f(x) = g(x)}は系 6.20(ii)により µ-a.e.集合である。

6.24 演習問題. 補題 6.23(ii)を示せ。

6.25 定理. f, g : Rd → R を (B, µ)可積分関数とする。∫A

f µ ≤∫

A

g µ ∀A ∈ B ⇒ f ≤ g µ-a.e.

証明. 仮定されているのは f , gの可積分性と∫

Af µ ≤

∫A

g µ ∀A ∈ B である。系 3.6より

B := {x ∈ Rd : |f(x)| < +∞} ∈ B かつ µ(Bc) = 0

またB ⊂ {x ∈ Rd : 1B(x)f(x) = f(x)} である。従って 1Bf = f µ-a.e. なので系 6.11により∫A

1Bf µ =

∫A

f µ ≤∫

A

g µ ∀A ∈ B.

A = {x ∈ Rd : 1B(x)f(x) > g(x)}とえらぶ。max{1Bf − g, 0} = 1A(1Bf − g) なので、

0 ≤∫

Rd

max{1Bf − g, 0}µ =

∫A

(1Bf − g) µ =

∫A

1Bf µ −∫

A

g µ ≤ 0.

上の2番目の等号では 1Bf , gともに µ可積分であることが重要である。従って補題 4.12によりmax{1Bf − g, 0} = 0 µ-a.e. である。さて

max{1B(x)f(x) − g(x), 0} = 0 ⇔ 1B(x)f(x) ≤ g(x)

であるから、1Bf ≤ g µ-a.e. が得られる。一方すでに確かめたように f = 1Bf µ-a.e. なので補題 6.23を考慮に入れて結論 f ≤ g µ-a.e.を得る。

6.26 系. f, g : Rd → R を (B, µ)可積分関数とする。∫A

f µ =

∫A

g µ ∀A ∈ B ⇒ f = g µ-a.e.

6.27 演習問題. 系 6.26を示せ。

31

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7 有限加法的測度とそれが誘導する外測度区間の長さを有限加法的測度としてとらえて議論を行う。外面積の考えを拡張して外測度を定式化しさらにそれの持つ性質を公理化して測度の構成へとつなげる。

記号¶ ³記号 Iは左半開区間の全体に空集合 ∅ を付加した集合族を表す。ここで左半開区間とはRの部分集合で (a, b], 但し a, b ∈ Rは a < bをみたす、と書けるものをいう。µ ´

7.1 定義. 互いに共通部を持たない部分集合からなる族を非交叉族(disjoint family)という。

7.2 補題. (i) ∅ ∈ I. A,B ∈ IならばA ∩ B ∈ Iである。(ii) A,B ∈ I, B ⊂ A, A = Bならば有限な非交叉族 I1, . . . , In ∈ I で Ik = ∅ ∀k = 1, . . . , n

かつA \ B =∪n

k=1 Ik をみたすものが存在する。

証明. (i) 左半開区間どうしの共通部は左半開区間であるかまたは ∅である。(ii) B = ∅の場合は非交叉族として Aだけからできるものをとればよい。そこで a < b,

B = (a, b]としよう。その補集合は (−∞, a]と (b, +∞) の二つの部分からなる。従って求める非交叉族はこれらと左半開区間Aとの共通部で空でないものから構成される。

約束¶ ³Rdの部分集合の族Cが指定されたときCに属する集合をC-集合とよぶ。µ ´たとえば、Rの部分集合については I-集合とは左半開区間あるいは ∅のことである。

7.3 定義. AをRdの空でない部分集合とする。Aの分割(partition)とはRdの空でない部分集合からなる非交叉族∆であって

∪J∈∆ J = A を満たすものをいう。特に部分集合の族 Cが

指定されている場合 C-集合から構成されているものを C-分割という。

7.4 補題. ∆を空でない I-集合からなる有限な非交叉族としA ∈ Iとする。(i)

∪J∈∆ J ⊂ A,

∪J∈∆ J = A ならA \ (

∪J∈∆ J) の有限な I-分割が存在する。

(ii)∪

J∈∆ J ∪ Aの有限な I-分割Λであって∆ ⊂ Λ を満たすものが存在する。

証明. (i) 数学的帰納法を使う。まず∆がひとつの集合Bからできているときを考える。仮定よりB ∈ Iである。従って補題 7.2(ii)によりA \ B の有限な I-分割が存在する。すなわち ♯∆ = 1のとき (i)は成り立つ。

k ∈ Nかつ ♯∆ ≤ kのとき (i)が成り立つと仮定する。

そこで ♯∆ = k + 1とし、族∆からひとつ集合Bを取り去る。すると ♯(∆ \ {B}) = kなのでA \ (

∪J∈∆:J =B J) の有限な I-分割Φが存在する。Bに含まれるか否かで分類する。

{I ∈ Φ : I ∩ B = I}, Φ0 := {I ∈ Φ : I ∩ B = I}.

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各 I ∈ Φ0に対して I ∩ B ∈ I, I ∩ B ⊂ I, I ∩ B = Iなので補題 7.2(ii)により I \ (I ∩ B) の有限な I-分割Λ(I)が存在する。これらを集めたもの Λ :=

∪I∈Φ0

Λ(I) が求める有限な I-分割である。

(ii) A ⊂∪

J∈∆ J なら∆自身が求める有限な I-分割であり、A = ∅かつ J ∩A = ∅ ∀J ∈ ∆

なら Λ := ∆ ∪ {A} が求めるものである。そうでない場合は∆0 := {J ∈ ∆ : J ∩ A = ∅}とおき (i)を {J ∩ A ; J ∈ ∆0}とAの組に適用することができる。従って

A \∪

J∈∆0(J ∩ A) の有限な I-分割Λ0が存在する。

これと既存の非交叉族∆をあわせたものΛ := Λ0 ∪ ∆ が求める有限な I-分割である。

7.5 系. C1, C2, . . . , Cn ∈ I とする。∪n

i=1 Ci = ∅なら∪n

i=1 Ciの有限な I-分割∆であって∆ =

∪ni=1{J ∈ ∆ : J ⊂ Ci} を満たすものが存在する。

証明. n = 1のときはC1のみからなる族 {C1}が求めるものである。あとは補題 7.4(ii) を随時適用して nに関しての帰納法により証明できる。その実行は演習問題とする。

7.6 演習問題. 系 7.5を示せ。

補題 7.4 および系 7.5は集合族 I に対して補題 7.2の結論 (i), (ii)が成り立つという事実にのみ基づいて証明されている。そこで一般の集合族 Cについて公理化を行う。

補題 7.2の公理化¶ ³(i) ∅ ∈ C. A ∈ C, B ∈ C ⇒ A ∩ B ∈ C.

(ii) A ∈ C, B ∈ C, B ⊂ A, A = B ⇒ A \ Bの有限な C-分割が存在する。µ ´約束¶ ³いちいち断るのも煩わしいので、これから先はAが空集合である場合その分割とは空な族のことと理解する。µ ´

次に面積などの持つ性質を公理化する。

7.7 定義. CをRdの部分集合の族、mを関数 C → Rとする。それが次の条件を満たすとき、(C,m)はRd上の有限加法的測度(finitely additive measure)であるという。

(i) Cに対して補題 7.2の公理化が成り立つ。(ii) m(A) ≥ 0 ∀A ∈ C, m(∅) = 0.

(iii) A ∈ Cとその有限な C-分割∆に対してm(A) =∑

J∈∆ m(J).

性質 (iii)を有限加法性(finite additivity)という。(iii)が任意の可算無限な C-分割についても成り立つときmは σ-加法的(σ-additive)であるという。

7.8 演習問題. Rd上の測度 (B, µ)は σ-加法的な有限加法的測度であることを確認せよ。

逆に有限加法的測度 (C,m)についてその定義域が σ-加法族でありかつ σ-加法的ならそれは測度となる。

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7.9 例. v : R → Rを非減少関数とする。このとき

I → R, J 7→ v(sup J) − v(inf J)

はR上の有限加法的測度である。但し空集合 ∅に対しては値 0を割り当てる。

証明. 左半開区間 (a, b]の有限な I-分割は次のように表現できる。

(ci, ci+1] i = 1, 2, . . . , n. 但し a = c1 < c2 < · · · < cn < cn+1 = b

v(b) − v(a) =∑n

i=1{v(ci+1) − v(ci)} であるから有限加法性が成り立つ。

7.10 定義. 例 7.9で述べた有限加法的測度を非減少関数 vが誘導する有限加法的測度という。

記号¶ ³非減少関数 vが誘導するR上の有限加法的測度を (I, dv)と表す。µ ´前提¶ ³以下 (C,m)をRd上の有限加法的測度とする。µ ´

7.11 補題. A1, . . . , AnおよびB1, . . . , Blはそれぞれ C集合からなり互いに共通部を持たないとする。このとき

∪ni=1 Ai =

∪li=1 Bi であるなら

∑ni=1 m(Ai) =

∑li=1 m(Bi) が成り立つ。

証明. m(∅) = 0であるからAi = ∅ ∀iかつBi = ∅ ∀i と仮定しても差し支えない。そこで

∆ := {Ai ∩ Bj ; i = 1, . . . , n, j = 1, . . . , lただしAi ∩ Bj = ∅}

という集合族を導入する。各 J ∈ ∆はA1, . . . , Anのどれかに含まれ、しかもそのような番号はただ一つである。よって

∑J∈∆

m(J) =n∑

i=1

∑J∈∆:J⊂Ai

m(J)

ここで {J ∈ ∆ : J ⊂ Ai}はAiの有限な C-分割であるからmの有限加法性により∑J∈∆:J⊂Ai

m(J) = m(Ai)

が各 iに対して成り立つ。従って

n∑i=1

m(Ai) =∑J∈∆

m(J) =l∑

i=1

m(Bi)

である。2番目の等号は同様の推論がB1, . . . , Blについても成り立つことによる。

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7.12 補題. ∆を空でない C-集合からなる有限な非交叉族、C1, C2, . . . , Cn ∈ Cとする。(i) A,B ∈ C, B ⊂ Aならm(B) ≤ m(A)が成り立つ。(ii) A ∈ C,

∪J∈∆ J ⊂ Aなら

∑J∈∆ m(J) ≤ m(A)が成り立つ。

(iii) B ∈ C, B ⊂∪n

i=1 Ciならm(B) ≤∑n

i=1 m(Ci) が成り立つ。(iv)

∪J∈∆ J ⊂

∪ni=1 Ciなら

∑J∈∆ m(J) ≤

∑ni=1 m(Ci)が成り立つ。

証明. (i) & (ii) 補題 7.4(i)によればA \ (∪

J∈∆ J) の有限な C-分割Λが存在する。従って∑J∈∆

m(J) ≤∑J∈∆

m(J) +∑I∈Λ

m(I) = m(A)

がmの非負性と有限加法性により導かれる。特に∆ = {B}の場合が (i)である。(iii) 系 7.5によれば

∪ni=1 Ciの有限な C-分割Λであって次を満たすものが存在する。

Λ =n∪

i=1

{J ∈ Λ : J ⊂ Ci}

{J ∈ Λ : J ∩ B = ∅}はBの有限 C分割であるからmの有限加法性により

m(B) =∑J∈Λ

m(J) ≤n∑

i=1

∑J∈Λ:J⊂Ci

m(J)

(ダブルカウント分だけ右辺が大きい)各 iに対して (ii)を使うと∑J∈Λ:J⊂Ci

m(J) ≤ m(Ci)

故に求める不等式が得られる。(iv) J ∈ ∆とする。J ∩ Ci i = 1, 2, . . . , nは J の有限な C-被覆であるから (iii)により

m(J) ≤n∑

i=1

m(J ∩ Ci).

i = 1, 2, . . . , nとする。J ∩Ci J ∈ ∆は C-集合からなる有限な非交叉族であるから (ii)により∑J∈∆

m(J ∩ Ci) =∑

J∈∆:J∩Ci =∅

m(J ∩ Ci) ≤ m(Ci).

従って2重和の順序交換∑

J∈∆

∑ni=1 · · · =

∑ni=1

∑J∈∆ . . . により結論を得る。

7.13定義. Rdの部分集合Aに対して次の量をAの有限加法的測度mが誘導する外測度(outer

measure)という。

γ(m; A) := inf{ ∞∑

n=1

m(Cn) ; Cn ∈ C, A ⊂∞∪

n=1

Cn

}.

但しA ⊂∪∞

n=1 Cnを満たす C-集合列Cnが存在しないときは γ(m; A) = +∞ と約束する。

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記号¶ ³Rdの部分集合全体の族を Sbset(Rd) という記号で表す。µ ´関数 γ(m; ·) : Sbset(Rd) → R の性質を調べる。

7.14 定義. A ⊂∪∞

n=1 Cnを満たす C-集合列Cnを集合Aの可算 C-被覆(covering)と呼ぶ。

7.15 補題. (i) γ(m; A) ≥ 0 ∀A, γ(m; ∅) = 0.

(ii) A ⊂ B ⇒ γ(m; A) ≤ γ(m; B).

(iii) γ(m;∪∞

n=1 An) ≤∑∞

n=1 γ(m; An).

(iv) Aの有限 C-被覆C1, C2, . . . , Cnに対して γ(m; A) ≤∑n

i=1 m(Ci).

(v) A,B ∈ Cとする。B ⊂ Aならm(B) + γ(m; A \ B) ≤ m(A) である。

証明. (i) mの非負値性により γ(m; A) ≥ 0である。次に ∅ ∈ C, m(∅) = 0であるからCn := ∅∀n ∈ N という可算 C-被覆により γ(m; ∅) = 0が実現されることが分かる。

(iii)∑∞

n=1 γ(m; An) = +∞なら自明なので、そうでない場合を考察する。ε > 0とする。各 n ∈ Nについて γ(m; An) < +∞ なのでAnの可算 C-被覆Cnk k ∈ Nであって

∞∑k=1

m(Cnk) ≤ γ(m; An) + ε/2n

を満たすものが存在する。さてN × Nは可算集合であり、∞∪

n=1

An ⊂∞∪

n=1

∞∪k=1

Cnk,

∞∑n=1

∞∑k=1

m(Cnk) ≤∞∑

n=1

γ(m; An) + ε

が成り立つ。集合列Cnk は∪∞

n=1 Anの可算 C-被覆であるから次の不等式が導かれた。

γ(m;∞∪

n=1

An) ≤∞∑

n=1

γ(m; An) + ε.

この段階では ε > 0はまったく任意なので結論を得る。(v) A = Bとして差し支えない。このとき A \ B の有限な C-分割∆が存在する。従って

m(B) + γ(m; A \ B) ≤ m(B) +∑I∈∆

m(I) = m(A)

が (iv)とmの有限加法性により導かれる。

7.16 演習問題. (i) 補題 7.15(ii),(iv)を示せ。(ii) N × Nは可算集合であることを示せ。

7.17 補題. C-集合の列Cn n ∈ Nに対して次を満たす集合族の列∆n n ∈ Nが存在する。

∆nは∪n

k=1 Ckの有限 C-分割、∆n ⊂ ∆n+1 ∀n ∈ N.

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7.18 演習問題. 補題 7.17を示せ。(補題 7.4(ii)を考慮に入れて帰納法を適用せよ。)

7.19 系. 任意のA ∈ Sbset(Rd)に対して次が成り立つ。

γ(m; A) = inf{ ∑

J∈∆

m(J); ∆ 非交叉なAの可算 C-被覆}.

非交叉可算 C-被覆が存在しないなら右辺は+∞と約束する。

証明. Cn n ∈ Nを集合Aの可算 C-被覆とする。それに対し集合族の列∆n n ∈ Nを補題 7.17

で述べられたものとする。このとき補題 7.12(iv)によれば、各 n ∈ Nに対して

∑J∈∆n

m(J) ≤n∑

k=1

m(Ck)

である。さて∆ :=∪∞

n=1 ∆n は非交叉なAの可算 C-被覆である。さらに次が成り立つ。

∑J∈∆

m(J) = supn∈N

∑J∈∆n

m(J) ≤ supn∈N

n∑k=1

m(Ck) =∞∑

k=1

m(Ck).

即ち可算 C-被覆が存在するなら効率を落さずに非交叉可算 C-被覆を選ぶことができる。

inf{∑

J∈Λ

m(J); Λ 非交叉なAの可算 C-被覆}≤

∞∑k=1

m(Ck).

Cn n ∈ Nは集合Aの可算 C-被覆である限り任意なので

inf{∑

J∈Λ

m(J); Λ 非交叉なAの可算 C-被覆}≤ γ(m; A).

さて Aが可算 C-被覆をもたない場合は γ(m; A) = +∞なので、不等号は自明に成り立つ。逆向きの不等号の理由付けは演習問題とする。

7.20 演習問題. 系 7.19の証明を完成させよ。

8 Caratheodoryの外測度と可測集合この節では補題 7.15で述べられた有限加法的測度が誘導する外測度の性質 (i), (ii), (iii)を

公理化して議論し、それによる測度の構成方法を紹介する。これは単なる一般化ではない。必ずしも有限加法的測度に由来しない外測度も応用上重要だからである。

8.1 定義. Sbset(Rd)を定義域にもつ関数 θ : Sbset(Rd) → R が次の条件を満たすとき、θはRd上のCaratheodory外測度であるという。

(i) θ(A) ≥ 0 ∀A, θ(∅) = 0. 非負性(non-negativity)

(ii) A ⊂ B ⇒ θ(A) ≤ θ(B). 単調性(monotonicity)

(iii) θ(∪∞

n=1 An) ≤∑∞

n=1 θ(An). 可算劣加法性(countable subadditivity)

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前提¶ ³以下 θをRd上のCaratheodory外測度とする。µ ´

8.2 定義. A ∈ Sbset(Rd)が Caratheodory外測度 θに関して可測(measurable)、略して θ可測、であるとは次が成り立つことをいう。

θ(B) = θ(B ∩ A) + θ(B ∩ Ac) ∀B ∈ Sbset(Rd).

記号¶ ³θ可測なRdの部分集合全体の族をMble(θ)とあらわす。µ ´

8.3 補題. A ∈ Mble(θ), B1 ⊂ A, B2 ∩ A = ∅ ⇒ θ(B1 ∪ B2) = θ(B1) + θ(B2).

証明. (B1 ∪ B2) ∩ A = B1, (B1 ∪ B2) ∩ Ac = B2を使う。

8.4 補題. MをRdの部分集合の族とする。次が成り立つならMは σ-加法族である。

(i) ∅ ∈ M. (ii) A ∈ M ⇒ Ac ∈ M. (iii) A,B ∈ M ⇒ A ∪ B ∈ M.

(iv) An ∈ M ∀n ∈ N, An ∩ Am = ∅ n = m ⇒∪∞

n=1 An ∈ M.

8.5 演習問題. 補題 8.4を示せ。

8.6 補題. Mble(θ)は σ-加法族であり、θはMble(θ)上で σ-加法的である。

証明. B ∈ Sbset(Rd)とする。B ∩ ∅ = ∅, B ∩ ∅c = B, θ(∅) = 0 であるから

θ(B ∩ ∅) + θ(B ∩ ∅c) = θ(∅) + θ(B) = θ(B) ∀B ∈ Sbset(Rd).

従って ∅ ∈ Mble(θ)である。A ∈ Mble(θ)とする。(Ac)c = A であるから

θ(B ∩ Ac) + θ(B ∩ (Ac)c) = θ(B ∩ A) + θ(B ∩ Ac) = θ(B) ∀B ∈ Sbset(Rd).

従ってAc ∈ Mble(θ)である。A1, A2 ∈ Mble(θ)とする。次の関係に着目する。

(8.7){B ∩ (A1 ∪ A2)} ∩ A1 = B ∩ A1, {B ∩ (A1 ∪ A2)} ∩ (A1)

c = B ∩ (A1)c ∩ A2,

B ∩ (A1 ∪ A2)c = B ∩ (A1)

c ∩ (A2)c.

まずA1の θ-可測性を適用し次にA2の θ-可測性、再びA1の θ-可測性を使うと

θ(B ∩ (A1 ∪ A2)) + θ(B ∩ (A1 ∪ A2)c)

= θ(B ∩ A1) + θ(B ∩ (A1)c ∩ A2) + θ(B ∩ (A1)

c ∩ (A2)c)

= θ(B ∩ A1) + θ(B ∩ (A1)c) = θ(B)

∀B ∈ Sbset(Rd).

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従ってA1 ∪ A2 ∈ Mble(θ)である。An ∈ Mble(θ) ∀n ∈ N, An ∩ Am = ∅ n = mとする。

B ∩ An+1 ⊂ An+1, B ∩( n∪

k=1

Ak

)∩ An+1 = ∅

であるからAn+1の θ-可測性に着目して補題 8.3を使うと次が得られる。

θ(B ∩( n+1∪

k=1

Ak

)) = θ(B ∩ An+1) + θ(B ∩

( n∪k=1

Ak

)) ∀n ∈ N.

従って帰納法を適用し、その後 θの単調性を使うと

n∑k=1

θ(B ∩ Ak) = θ(B ∩( n∪

k=1

Ak

)) ≤ θ(B ∩

( ∞∪k=1

Ak

)) ∀n ∈ N.

各項は非負値なので

∞∑k=1

θ(B ∩ Ak) = supn∈N

θ(B ∩( n∪

k=1

Ak

)) ≤ θ(B ∩

( ∞∪k=1

Ak

)).

他方、θは可算劣加法性を持つので逆向きの不等号も成立している。よって

(8.8) θ(B ∩( ∞∪

k=1

Ak

)) =

∞∑k=1

θ(B ∩ Ak) = supn∈N

θ(B ∩( n∪

k=1

Ak

)) ∀B ∈ Sbset(Rd).

さてすでに証明されたことにより∪n

k=1 Ak ∈ Mble(θ) である。従って各 n ∈ Nに対して

θ(B) = θ(B ∩( n∪

k=1

Ak

)) + θ(B ∩

( n∪k=1

Ak

)c

) ≥ θ(B ∩( n∪

k=1

Ak

)) + θ(B ∩

( ∞∪k=1

Ak

)c

).

ここで不等号は θの単調性による。(8.8)をつかって

θ(B) ≥ θ(B ∩( ∞∪

k=1

Ak

)) + θ(B ∩

( ∞∪k=1

Ak

)c

) ∀B ∈ Sbset(Rd).

θは劣加法性を持つので逆向きの不等号も成立する。したがって

θ(B) = θ(B ∩( ∞∪

k=1

Ak

)) + θ(B ∩

( ∞∪k=1

Ak

)c

) ∀B ∈ Sbset(Rd)

であるから∪∞

k=1 Ak ∈ Mble(θ) が導かれた。以上で集合族Mble(θ)について補題 8.4の前提条件がすべて確かめられたことになるので、

Mble(θ)は σ-加法族である。また (8.8) においてB = Rdの場合が θのMble(θ)上におけるσ-加法性にほかならない。

8.9 演習問題. (8.7)を確認せよ。

39

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補題 8.6の結論を言い換えてみよう。

8.10 定理. 外測度 θのMble(θ)上への制限はRd上の測度である。

8.11 定義. A ∈ Sbset(Rd)が θ零集合(θ-null set)であるとは θ(A) = 0であることをいう。

記号¶ ³θ零集合全体の族をNull(θ)と書く。µ ´

8.12 定理. (i) ∅ ∈ Null(θ)かつNull(θ) ⊂ Mble(θ)である。(ii) An ∈ Null(θ) ∀n ∈ NかつB ⊂

∪∞n=1 An ⇒ B ∈ Null(θ)

証明. (i) ∅ ∈ Null(θ)はθ(∅) = 0より明らか。A ∈ Null(θ), B ∈ Sbset(Rd)とする。B∩A ⊂ A,

B ∩ Ac ⊂ B, θ(A) = 0であるから θの劣加法性と単調性により

θ(B) ≤ θ(B ∩ A) + θ(B ∩ Ac) ≤ θ(A) + θ(B) = θ(B)

B ∈ Sbset(Rd)は任意であるからこれはA ∈ Mble(θ)を意味する。(ii) An ∈ Null(θ) ∀n ∈ NかつB ⊂

∪∞n=1 Anとする。θの単調性と可算劣加法性により

0 ≤ θ(B) ≤ θ(∞∪

n=1

An) ≤∞∑

n=1

θ(An) = 0

であるから B ∈ Null(θ)が従う。

ここで有限加法的測度が誘導する外測度についての議論に戻る。前提¶ ³以下 (C,m)をRd上の有限加法的測度とする。µ ´記号¶ ³

Mble(γ(m; ·))を単にMble(m)と書き γ(m; ·)のMble(m) への制限をm⋆と書く。またNull(γ(m; ·))を単にNull(m)と書くことにする。µ ´

このとき (Mble(m),m⋆)はRd上の測度である。これと (C,m)との関係を調べる。

8.13 定理. すべての C-集合は γ(m; ·)-可測である。すなわち C ⊂ Mble(m)である。

証明. A ∈ Cとする。B ∈ Sbset(Rd)に対しその可算 C-被覆が存在するならその一つを Cn

n ∈ N とする。Cn ∩ A n ∈ Nは集合B ∩ Aの可算 C-被覆であるから

γ(m; B ∩ A) ≤∞∑

n=1

m(Cn ∩ A).

他方、外測度 γ(m; ·)の単調性と可算劣加法性により

γ(m; B ∩ Ac) ≤ γ(m;∞∪

n=1

(Cn ∩ Ac)) ≤∞∑

n=1

γ(m; Cn ∩ Ac).

さてCn ∩ Ac = Cn \ (Cn ∩ A) であるから補題 7.15(v)によると

40

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m(Cn ∩ A) + γ(m; Cn ∩ Ac) ≤ m(Cn) ∀n ∈ N

が成り立つ。従って以上を組み合わせると

γ(m; B ∩ A) + γ(m; B ∩ Ac) ≤∞∑

n=1

m(Cn).

これがあらゆるBの可算 C-被覆について満たされる。よって

γ(m; B ∩ A) + γ(m; B ∩ Ac) ≤ γ(m; B) ∀B ∈ Sbset(Rd).

さて Bが可算 C-被覆をもたない場合は γ(m; B) = +∞なので、不等号は自明に成り立つ。γ(m; ·)は劣加法性を持つので逆向きの不等号も成立しA ∈ Mble(m) が導かれた。

8.14 演習問題. A ∈ Sbset(Rd)に対して次の同値性が成り立つことを示せ。

Aはm⋆零集合 ⇔ A ∈ Null(m)

また測度 (Mble(m),m⋆)は完備であることを示せ。

8.15 定理. 以下はすべて同値である。(i) γ(m; A) = m(A) ∀A ∈ C.

(ii) mは σ-加法的(iii) A ∈ Cとその可算 C-被覆∆で非交叉族であるものに対してm(A) ≤

∑J∈∆ m(J).

証明. 定理 8.13により C ⊂ Mble(m)である。従って定理 8.10により

C-集合からなる可算非交叉族∆に対して γ(m;∪

J∈∆ J) =∑

J∈∆ γ(m; J).

これは∆が C-集合の可算 C-分割になっている場合も含む。よって論理図式 (i) ⇒ (ii)が成り立つ。次にAおよび∆を (iii)の前提にあるようなものとする。{J ∩ A ; J ∈ ∆, J ∩ A = ∅}はA ∈ Cの可算 C-分割であるから、mが σ-加法的なら

m(A) =∑

J∈∆:J∩A=∅

m(J ∩ A) =∑J∈∆

m(J ∩ A) ≤∑J∈∆

m(J).

ここで不等号は補題 7.12(i)による。よって論理図式 (ii) ⇒ (iii)が成り立つ。系 7.19によれば (iii)が成り立つならm(A) ≤ γ(m; A) ∀A ∈ C. 他方、補題 7.15(iv)によれば逆向きの不等号も成り立っている。よって残りの論理図式 (iii) ⇒ (i)が導かれた。

8.16 定義. 有限加法的測度 (C,m) に対して測度 (B, µ)が存在して C ⊂ B かつ µ(A) = m(A)

∀A ∈ C が成り立つとき (B, µ)は有限加法的測度 (C,m)の測度への拡張という。

mがσ-加法的なら定理 8.13と定理 8.15により測度 (Mble(m),m⋆)は (C,m)の拡張である。その逆も正しいことの確認は演習問題とする。

8.17 演習問題. 測度に拡張可能な有限加法的測度は σ-加法的であることを示せ。

以上は次の形にまとめて表現されHopfの拡張定理と呼ばれる。

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8.18 定理. 有限加法的測度が測度に拡張されるための必要十分条件はそれが σ-加法的なことである。

測度論的構造が別の数学的構造と融合しているとき、それが測度論的性質に反映することが当然期待される。それを引き出すときに、集合族 Cに着目する構造が取り込まれているという状況のもと、次の定理がよく利用される。

8.19 定理. mは σ-加法的であるとする。A ∈ Mble(m)かつm⋆(A) < +∞なら、任意のε ∈ R>0 に対して有限個の C集合C1, C2, . . . , Ckが存在して∫

Rd

|1A −k∑

n=1

1Cn |m⋆ < ε.

証明. Mble(m)可測集合Aに対してその外測度をもってm⋆(A)を決めるというのが定義であった。仮定より外測度m⋆(A)は有限値であるから、C集合列Cnが存在して次を満たす。

A ⊂∞∪

n=1

Cn,∞∑

n=1

m(Cn) < m⋆(A) + ε/2.

定理 8.15よりm(Cn) = m⋆(Cn) である。補題 5.4を考慮して定義関数を使って表現すると

1A(x) ≤∞∑

n=1

1Cn(x)∀x ∈ Rd,

∫Rd

∞∑n=1

1Cn m⋆ =∞∑

n=1

∫Rd

1Cn m⋆ <

∫Rd

1A m⋆ +ε

2.

関数 1A,∑∞

n=1 1Cn はともにm⋆可積分なので定理 4.10を適用して∫Rd

∣∣∣1A −∞∑

n=1

1Cn

∣∣∣m⋆ =

∫Rd

( ∞∑n=1

1Cn − 1A

)m⋆ =

∫Rd

∞∑n=1

1Cn m⋆ −∫

Rd

1A m⋆ <ε

2.

他方∑∞

n=1 m(Cn) < +∞であるから、ある k ∈ Nが存在して∫Rd

∞∑n=k+1

1Cn m⋆ =∞∑

n=k+1

∫Rd

1Cn m⋆ =∞∑

n=k+1

m(Cn) < ε/2.

定理 4.10を適用して以上を組み合わせると∫Rd

∣∣∣1A −k∑

n=1

1Cn

∣∣∣ m⋆ ≤∫

Rd

∣∣∣1A −∞∑

n=1

1Cn

∣∣∣m⋆ +

∫Rd

∞∑n=k+1

1Cn m⋆ < ε.

集合C1, C2, . . . , Ckが求めるものである。

9 1次元Lebesgue測度の存在この節では 1次元 Lebesgue測度の存在を示す。

前提¶ ³以下 Iは左半開区間の全体に空集合 ∅ を付加した集合族を表し、(I,m)をR上の有限加法的測度とする。µ ´

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9.1 補題. mは条件 infδ>0 m((a, a + δ]) = 0 ∀a ∈ R を満たすとする。このとき左半開区間の列 (an, bn] n ∈ N と ε > 0に対して次を満たすような正の実数列 δnが存在する。

∞∑n=1

m((an, bn + δn]) ≤ ε +∞∑

n=1

m((an, bn]).

証明. mに対する条件により

∀n ∈ N∃δn > 0 s.t. m((bn, bn + δn]) < ε/2n.

有限加法性によりm((an, bn + δn]) = m((an, bn]) + m((bn, bn + δn]) であるから

∞∑n=1

m((an, bn + δn]) ≤∞∑

n=1

{m((an, bn]) + ε/2n}.

従って δn n ∈ Nが求めるものである。

9.2補題. Kを有界な閉区間、Jn n ∈ Nを開区間の列とする。K ⊂∪∞

n=1 JnならK ⊂∪k

n=1 Jn

を満たすような k ∈ Nが存在する。

9.3 演習問題. 補題 9.2を示せ。

9.4 補題. 条件 infδ>0 m((a, a + δ]) = 0 ∀a ∈ R が成り立てば、(I,m)は σ-加法的である。

証明. 定理 8.15によれば、A ∈ Iとその可算 I被覆∆に対して

m(A) ≤∑J∈∆

m(J)

が成り立つことを示せばよい。記号の複雑化を避けるために A = (0, 1]として話を進める。また可算 I被覆∆は左半開区間の列 (an, bn] n ∈ N で表されるとしよう。ε > 0とする。補題 9.1の前提は満たされるので、次のような正の実数列 δnを見つけることができる。

∞∑n=1

m((an, bn + δn]) ≤ ε +∞∑

n=1

m((an, bn]).

他方、m((0, δ]) < ε を満たすような δ > 0も存在する。(an, bn] ⊂ (an, bn + δn) であるから

[δ, 1] ⊂ (0, 1] ⊂∞∪

n=1

(an, bn] ⊂∞∪

n=1

(an, bn + δn).

補題 9.2によれば、次を満たす k ∈ Nが存在する。

[δ, 1] ⊂k∪

n=1

(an, bn + δn).

従ってこのような kに対して

(0, 1] = (0, δ) ∪ [δ, 1] ⊂ (0, δ] ∪k∪

n=1

(an, bn + δn].

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右辺は左半開区間の有限合併であるから、補題 7.12(iii)により

m((0, 1]) ≤ m((0, δ]) +k∑

n=1

m((an, bn + δn]).

各項は非負値なので右辺は次でおさえられる。

m((0, δ]) +∞∑

n=1

m((an, bn + δn]).

従って

m((0, 1]) ≤ 2ε +∞∑

n=1

m((an, bn]).

εは ε > 0である限り任意なので求める不等式を得た。

付帯条件を付けると補題 9.4の逆も正しい。

9.5 演習問題. (I,m)は条件 ∀a ∈ R ∃δ > 0 s.t. m((a, a + δ]) < +∞ を満たすとする。このとき (I,m)が σ-加法的なら infδ>0 m((a, a + δ]) = 0 ∀a ∈ R が成り立つことを示せ。

ここでR上の有限加法的測度で重要な例を思い出そう。

再確認¶ ³非減少関数 v : R → Rの誘導するR上の有限加法的測度 dvとは

I → R, J 7→ v(sup J) − v(inf J).

但し空集合 ∅に対しては値 0を割り当てる。

γ(dv; A) := inf{ ∞∑

n=1

(v(bn) − v(an)) ; A ⊂∞∪

n=1

(an, bn]}

A ∈ Sbset(R).

Mble(γ(dv; ·))を単にMble(dv)と書く。µ ´9.6 定理. v : R → Rを右連続な非減少関数とする。このとき

(a, b] ∈ Mble(dv) かつ γ(dv; (a, b]) = v(b) − v(a) ∀a < ∀b.

即ち vの誘導する有限加法的測度 dvは測度に拡張される。

証明. 定理 8.18によれば、vの誘導する有限加法的測度の σ-加法性を確かめればよい。補題9.4に述べられている条件は次のように表せる。

infδ>0

{v(a + δ) − v(a)} = 0 ∀a ∈ R.

これは vの右連続性に他ならない。

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9.7 定義. v : R → Rを右連続な非減少関数とする。このときR上の測度

dv⋆ : Mble(dv) → R, A 7→ γ(dv; A)

を vの誘導する Lebesgue-Stieltjes測度、また γ(dv; ·)を Lebesgue-Stieltjes外測度と呼ぶ。

9.8 例. c, h ∈ R, h > 0に対して次の関数 v : R → Rを導入する。

v(x) :=

{0 x < c

h x ≥ c

このとき右連続な非減少関数 vが誘導する Lebesgue-Stieltjes測度は次をみたす。

dv⋆((a, b]) = v(b) − v(a) =

0 b < c

h a < c ≤ b

0 c ≤ a

=

{h c ∈ (a, b]

0 c ∈ (a, b]

h = 1の場合、上は (点 cに質量を持つ)Dirac測度と呼ばれるものである。測度 dv⋆について少し調べてみる。まずR =

∪∞n=1(c − n, c + n]より補題 3.10(i)を適用して

dv⋆(R) = supn∈N

dv⋆((c − n, c + n]) = h

が分かる。次に {c} =∩∞

n=1(c − 1/n, c] ∈ Mble(dv) である。補題 3.10(ii)を適用して

dv⋆({c}) = infn∈N

dv⋆((c − 1/n, c]) = hかつ dv⋆(R \ {c}) = dv⋆(R) − dv⋆({c}) = 0

を得る。ここでA ⊂ Rかつ c ∈ Aとする。補題 7.15(ii)を適用して

h = dv⋆({c}) = γ(dv; {c}) ≤ γ(dv; A) ≤ γ(dv; R) = dv⋆(R) = h

他方A ⊂ Rかつ c ∈ Aならば ∅ ⊂ A ⊂ R \ {c} であるから

0 = dv⋆(∅) = γ(dv; ∅) ≤ γ(dv; A) ≤ γ(dv; R \ {c}) = dv⋆(R \ {c}) = 0

以上をまとめると任意のA ⊂ Rに対して 

γ(dv; A) =

{h c ∈ A

0 c ∈ A

また上はすべての A ⊂ RがMble(dv)可測であることを意味する。実際B ⊂ Rかつ c ∈ B

ならば c ∈ B ∩ Aかつ c ∈ B ∩ Acであるから

γ(dv; B) = 0 = 0 + 0 = γ(dv; B ∩ A) + γ(dv; B ∩ Ac)

が成り立つ。他方B ⊂ Rかつ c ∈ Bならば「c ∈ B ∩Aかつ c ∈ B ∩Ac」または「c ∈ B ∩A

かつ c ∈ B ∩ Ac」であるからいずれにしても

γ(dv; B) = 1 = 1 + 0 (あるいは 0 + 1) = γ(dv; B ∩ A) + γ(dv; B ∩ Ac)

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が成り立つ。よって Caratheodory外測度に関する可測性の定義との照合ができた。従って任意の関数 f : R → R はMble(dv)可測である。更に f = f(c)1{c} dv⋆-a.e.であることより∫

Rf dv⋆ =

∫R

f(c)1{c} dv⋆ = f(c)dv⋆({c}) = f(c)h

9.9 演習問題. v : R → Rを右連続な非減少関数とする。このとき任意の a ∈ Rに対して {a}が dv⋆零集合であることと vが連続であることは同値であることを示せ。

約束¶ ³関数 v : x 7→ xが誘導する Lebesgue-Stieltjes測度(外測度)を 1次元 Lebesgue測度(外測度)と呼ぶ。またこのときMble(dv)-集合を Lebesgue可測集合といい、σ加法族Mble(dv)に関して可測な関数は Lebesgue可測関数と呼ぶ。µ ´記号¶ ³λは 1次元 Lebesgue測度を表す。また γ(λ; ·)で Lebesgue外測度をMble(λ)で Lebesgue可測集合族を表すことにする。µ ´定理 9.6によりたしかに Lebesgue測度は存在する。しかし Lebesgue可測集合の正体が今

ひとつはっきりしない。はたして連続関数は可測か?

9.10 補題. v : R → Rを非減少関数とする。(i) a, b ∈ R, a < bとするとき (a, b), [a, b], [a, b) ∈ Mble(dv)である。(ii) 任意の連続関数 f : R → RはMble(dv)-可測である。(iii) 任意のRの閉集合Aに対してA ∈ Mble(dv)である。(iv) 任意のRの開集合Aに対してA ∈ Mble(dv)である。

証明. (i), (iv) 証明は演習問題とする。(ii) x ∈ Rに対して [x] := max{n ∈ Z : n < x} とおく。n ∈ Nとする。関数

fn : R → R, x 7→ f([nx]/n)

について議論する。定理 8.13により I集合は可測であるから次が成り立つ。

Image fn = {f(k/n) ; k ∈ Z}, (fn)−1{y} =∪

k∈Z:f(k/n)=y

(k/n, (k + 1)/n] ∈ Mble(dv).

Image fnは可算集合なので補題 2.9 とその後の注意より fnはMble(dv)可測である。f は連続なので fnは f に各点収束する。よって補題 5.1により f もMble(dv)-可測である。

(iii) 補題 8.6により ∅ ∈ Mble(dv)である。従ってAを空でない閉集合として議論を進める。まず各 x ∈ Rに対して集合 {|x − z|; z ∈ A}は空でなくまた下に有界であることに注意する。さて次の関数が連続であることを示そう。

f : R → R, x 7→ inf{|x − z|; z ∈ A}

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x, y ∈ Rとする。任意の ε > 0に対して z ∈ Aが存在して |x− z| ≤ f(x) + εを満たす。このとき三角不等式より

f(y) ≤ |y − z| ≤ |y − x| + |x − z| ≤ |y − x| + f(x) + ε

従って f(y) ≤ |y − x| + f(x) + ε が成り立つが ε > 0は任意なので

f(y) ≤ |y − x| + f(x)

x, yの役割は対等なので f(x) ≤ |x − y| + f(y)も成り立つ。よって

|f(x) − f(y)| ≤ |x − y| ∀x, y ∈ R

となるので関数 f は連続である。A = {x ∈ R : f(x) = 0} であることを確かめるのは演習問題とする。(ii)によれば任意の連続関数はMble(dv)-可測であるから

A = {x ∈ R : f(x) = 0} ∈ Mble(dv)

であることが導かれた。

9.11 注意. 実は Lebesgue可測でない関数も存在するのであるが、その存在を証明するには選択公理(axiom of choice)が必要である。従って構成的につくられる関数はすべてLebesgue

可測であるといってよく、通常の解析学の範囲で Lebesgue可測でない関数に遭遇することはないのであるが、個々の関数の可測性はその度ごとに証明しないといけない。

9.12 演習問題. (i) 補題 9.10(i), (iv)を示せ。(ii) Aを空でないRの閉集合とする。このとき次が成り立つことを示せ。

A = {x ∈ R : inf{|x − z|; z ∈ A} = 0}

9.13 定義. v : R → Rを右連続な非減少関数、f をMble(dv)可測関数またA ∈ Mble(dv)とする。f (あるいは 1Af)が Lebesgue-Stieltjes測度 dv⋆ に関して可積分であるとき積分∫

Rf dv⋆ あるいは

∫A

f dv⋆

を f の vによる Lebesgue-Stieltjes積分(Lebesgue-Stieltjes integral) と呼ぶ。

次は内容的に第 5節で取り上げるべきものであるが、連続関数の可測性など題材がそろっていなかったのがここに登場する理由である。

9.14 演習問題. 右連続な非減少関数 v : R → Rはある c ∈ Rに対して次を満たすとする。∫[0,+∞)

e−cx dv⋆(x) < +∞.

(i) 各 t > cに対して∫[0,+∞)

e−tx dv⋆(x) < +∞ であることを示せ。(ii) [c, +∞)上の関数 t 7→

∫[0,+∞)

e−tx dv⋆(x) は連続であることを示せ。

(iii)

∫[0,+∞)

e−tx dv⋆(x) = v(0) − supδ>0

v(−δ) +

∫(0,+∞)

e−tx dv⋆(x) を示せ。

(iv) 極限 t → +∞において∫[0,+∞)

e−tx dv⋆(x) は収束することを示せ。

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つぎの補題 9.16 および定理 9.17 は定理 6.13の協力をうけて関数空間論において決定的な役割を果たす。関数解析的な取り扱いでよく登場する空間を導入しておこう。

9.15 定義. 連続関数 f : Rd → Rに対して {x ∈ Rd : f(x) = 0}の閉包を f の台(support)という。台が有界な連続関数全体の集合をC0(Rd) という記号で表すことが多い。

9.16 補題. v : R → Rを右連続な非減少関数、A ∈ Mble(dv)とする。dv⋆(A) < +∞なら、任意の ε ∈ R>0 に対してその台が有界な連続関数 f : R → Rが存在して∫

R|1A − f | dv⋆ < ε.

証明. 関数 vは右連続であるから、定理 9.6が適用できる。Mble(dv)可測集合Aに対してその外測度をもって dv⋆(A)を決めるというのが定義であった。仮定より外測度は有限であるから、定理 8.19により有限個の区間 (an, bn], n = 1, 2, . . . , kが存在して次を満たす。

(⋆)

∫R

∣∣∣1A −k∑

n=1

1(an,bn]

∣∣∣ dv⋆ < ε/2.

関数 vは右連続であったのである δ ∈ R>0が存在して

k∑n=1

(v(an + δ) − v(an) + v(bn + δ) − v(bn)) <ε

2.

必要なら δを取り替えることにより以下も満たすようにできる。

an + δ < bn ∀n = 1, 2, . . . , k.

ここで次の連続関数を導入する。

fn(x) := min{max{x − an, 0}/δ, max{bn + δ − x, 0}/δ, 1} n = 1, 2, . . . , k.

連続関数の可測性は補題 9.10で保証されている。定理 4.10, 補題 3.4(ii)と定理 9.6により∫R

∣∣∣ k∑n=1

1(an,bn] −k∑

n=1

fn

∣∣∣dv⋆

≤k∑

n=1

∫R|1(an,bn] − fn|dv⋆ ≤

k∑n=1

∫R(1(an,an+δ] + 1(bn,bn+δ])dv⋆

=k∑

n=1

(v(an + δ) − v(an) + v(bn + δ) − v(bn)) <ε

2.

従って定理 4.10を適用して (⋆)と組み合わせると∫R

∣∣∣1A −k∑

n=1

fn

∣∣∣ dv⋆ ≤∫

R

∣∣∣1A −k∑

n=1

1(an,bn]

∣∣∣ dv⋆ +

∫R

∣∣∣ k∑n=1

1(an,bn] −k∑

n=1

fn

∣∣∣ dv⋆ < ε.

関数∑k

n=1 fnは区間 [min an, max bn + δ] の外で値 0なので、これが求めるものである。

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次の定理は、通常 L1空間における連続関数の稠密性というキーワードで引用される。

9.17 定理. v : R → Rを右連続な非減少関数、f : R → R をMble(dv)可測かつ dv⋆可積分とする。任意の ε ∈ R>0 に対してその台が有界な連続関数 g : R → Rが存在して∫

R|f − g| dv⋆ < ε.

証明. 補題 3.17によれば、非負値Mble(dv)単関数列 fnが存在して

fn ≤ fn+1 ∀n ∈ N, supn∈N fn(x) = max{f(x), 0} ∀x ∈ Rd

定理 3.18を適用すると

supn∈N

∫R

fn dv⋆ =

∫R

max{f, 0} dv⋆ ≤∫

R|f | dv⋆ < +∞.

よってある k ∈ Nが存在して∫R

max{f, 0} dv⋆ <

∫R

fk dv⋆ + ε/4.

h := fkとおくとこれは dv⋆可積分なMble(dv)単関数で

0 ≤ h ≤ max{f, 0},∫

R(max{f, 0} − h) dv⋆ =

∫R

max{f, 0} dv⋆ −∫

Rh dv⋆ < ε/4.

次の不等式から z ∈ Image hかつ z > 0なら dv⋆(h−1{z}) < +∞ であることがわかる。

zdv⋆(h−1{z}) ≤∫

Rh dv⋆ < +∞.

Image hの要素の個数は有限であるが、それをNとおく。補題 9.16により z ∈ Image h, z > 0

に対してその台が有界な連続関数 gz : R → Rが存在して∫R|1h−1{z} − gz| dv⋆ <

ε

4Nz.

関数 g+ :=∑

z∈Image h,z>0 zgzは連続かつその台は有界である。定理 4.10を適用して∫R

∣∣∣ ∑z∈Image h,z>0

z1h−1{z} −∑

z∈Image h,z>0

zgz

∣∣∣ dv⋆ ≤∑

z∈Image h,z>0

z

∫R|1h−1{z} − gz| dv⋆ <

ε

4.

上の左辺は∫

R |h − g+| dv⋆ に等しいので∫R|max{f, 0} − g+| dv⋆ ≤

∫R(max{f, 0} − h) dv⋆ +

∫R|h − g+| dv⋆ < ε/2.

関数−f に対して以上の議論が適用できる。よって連続関数 g− : R → Rであって∫R|max{−f, 0} − g−| dv⋆ < ε/2

を満たしかつその台が有界なものが存在する。関数 g := g+ − g−が求めるものである。

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10 1次元Lebesgue積分この節では 1次元区間上の連続関数には必ず原始関数が存在することおよび微積分の基本

定理を証明する。それをもとにして応用の鍵となる事実をいくつか紹介する。約束¶ ³f : R → Rを Lebesgue可測関数とする。f が Lebesgue可積分(Lebesgue inte-

grable) とは Lebesgue測度 λに関して可積分であることをいう。このとき∫R

f λ あるいは∫

A

f λ (ただしAは Lebesgue可測集合)

を f の Lebesgue積分(Lebesgue integral) と呼ぶ。µ ´次の定理の応用範囲は、単に具体的にできる積分の評価にとどまらない。

10.1 定理. a, b ∈ R, a < bかつ関数 f : (a, b) → Rは連続かつ Lebesgue可積分とする。

(i) 関数 (a, b) → R, x 7→∫

(a,x]

f λ は f の原始関数である。原始関数の存在

(ii) 関数 f の原始関数の一つを F : (a, b) → Rとすると極限 limx→a F (x), limx→b F (x)が存

在し∫

(a,b)

f λ = limx→b

F (x) − limx→a

F (x) が成り立つ。微積分の基本定理

証明. (i) c ∈ (a, b)における微分可能性を議論しよう。任意に ε > 0が与えられたとする。連続性により ∃δ > 0 s.t. |y − c| < δ ⇒ |f(y) − f(c)| < ε となる。さて c ≤ x < bのとき∫

(a,x]

f λ −∫

(a,c]

f λ − f(c)(x − c) =

∫(c,x]

(f − f(c)) λ

より、定理 4.7(ii)を適用して c ≤ x < min{c + δ, b} なら∣∣∣ ∫(a,x]

f λ −∫

(a,c]

f λ − f(c)(x − c)∣∣∣ ≤ ∫

(c,x]

|f − f(c)|λ ≤ ε|x − c|

が成り立つことを得る。ε|x− c|で抑えるという評価はmax{c− δ, a} < x ≤ c であっても有

効である。よって x 7→∫

(a,x]

f λ は cにおいて微分可能であり、微分係数は f(c)に等しい。

(ii) 開区間上での原始関数は定数の違いをのぞいて一意であるから、K ∈ Rが存在して

F (x) =

∫(a,x]

f λ + K ∀x ∈ (a, b)

が成り立つ。以下 a, bともに有限と仮定するが、a = −∞あるいは b = +∞であっても適宜修正を施せばよいので、その実行は演習問題とする。定理 4.7(ii)より

(⋆) |F (x) − K| =∣∣∣ ∫

(a,x]

f λ∣∣∣ ≤ ∫

(a,x]

|f |λ

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ここで limn→∞ 1(a,a+1/n](y)|f(y)| = 0 ∀y に着目する。優関数を 1(a,b)|f |と選らぶと関数列1(a,a+1/n]|f |に Lebesgueの優収束定理が適用できるので

limn→∞

∫(a,a+1/n]

|f |λ = limn→∞

∫R

1(a,a+1/n]|f |λ = 0

従って与えられた ε > 0に対して n ∈ Nが存在して∫

(a,a+1/n]|f |λ < εが成り立つ。(⋆)より

|F (x) − K| ≤∫

(a,x]

|f |λ ≤∫

(a,a+1/n]

|f |λ < ε ∀x ∈ (a, a + 1/n]

ε > 0は任意なのでこれは limx→a F (x) = Kを意味する。同様に∣∣∣F (x) − K −∫

(a,b)

f λ∣∣∣ =

∣∣∣ ∫(a,b)

f λ −∫

(a,x]

f λ∣∣∣ =

∣∣∣ ∫(x,b)

f λ∣∣∣ ≤ ∫

(x,b)

|f |λ

と評価して Lebesgueの優収束定理を適用すると limx→b F (x) = K +∫

(a,b)f λ が導ける。

記号¶ ³a, b ∈ R, a < bかつ関数 f : (a, b) → Rは連続かつ Lebesgue可積分とする。関数 f の原始関数の一つを F とするとき limx→b F (x) − limx→a F (x) を慣例

に従って F (x)∣∣∣x=b

x=aと略記する。もちろん

∫(a,b)

f λ = F (x)∣∣∣x=b

x=aが成り立つ。

µ ´10.2 演習問題. (i) f : R → Rを Lebesgue可測関数であって区間 (−π, π)上で Lebesgue可積分なものとする。0 ≤ r < 1のとき次の級数が収束すること及び等号の成立を示せ。∫

(−π,π)

f λ +∞∑

n=1

2rn

∫(−π,π)

f(x) cos nxλ(dx) =

∫(−π,π)

f(x)1 − r2

1 − 2r cos x + r2λ(dx)

(ii) 関数 f は区間 (−π, π)上で Lebesgue可積分かつ 0において連続であるとする。r → 1のとき (i)の右辺の積分は 2πf(0)に収束することを示せ。(iii) f(x) = π/2 − |x| ∀x ∈ (−π, π)であるとする。次が成り立つことを示せ。∫

(−π,π)

f(x) cos nx λ(dx) =

{4/n2 n 奇数

0 n 偶数

(iv)∞∑

k=1

8

(2k − 1)2= π2であることを示せ。また

∞∑n=1

1

n2の値を求めよ。

原始関数の正体がよく分かっているときは次の事実に基づいて可積分性判定を行う。その効力は優関数による判定法、演習問題 4.6を見よ、と協調して発揮されることが多い。

10.3 補題. a, b ∈ R, a < bかつ関数 f : (a, b) → Rは連続とする。(i) f は原始関数をもつ。(ii) fは非負値としまたその原始関数の一つをF : (a, b) → Rとする。次の同値性が成り立つ。

f Lebesgue可積分 ⇔ F 有界

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証明. (i) 記号が簡単になるので a = −∞, b = +∞として示す。既知のように有界閉区間上の連続関数は有界である。したがって優関数による判定法を適用して、有界閉区間上で f はLebesgue可積分であることが分かる。そこで次の関数を導入する。

F (x) :=

∫(x,0]

f λ x < 0∫(0,x]

f λ x ≥ 0

これが f の原始関数であることを確かめるには次のように変形すればよい。

F (x) =

∫(−n,x]

f λ −∫

(−n,0]

f λ

但し n ∈ Nは−n < xとなるように十分大きく選んでおく。右辺第1項に定理 10.1(i)を適用すると関数 F は微分可能であってその導関数が f であることが導ける。

(ii) 定理 10.1(ii)より fがLebesgue可積分ならF は有界である。逆にF が有界であると仮定しよう。定理 10.1(ii)より∫

(−n,n)

f λ = F (n) − F (−n) ≤ supx∈R

F (x) − infx∈R

F (x) ∀n ∈ N

さて 0 ≤ 1(−n,n)(x)f(x) ≤ 1(−n−1,n+1)(x)f(x)かつ supn∈N 1(−n,n)(x)f(x) = f(x) ∀x ∈ R であるから単調収束定理が適用でき∫

Rf λ = sup

n∈N

∫(−n,n)

f λ ≤ supx∈R

F (x) − infx∈R

F (x) < +∞

を得る。即ち f は Lebesgue可積分である。

是非次の演習問題を解いてみてほしい。

10.4 演習問題. f : R → Rを連続関数としまたその原始関数の一つを F : R → Rとする。f が非負値でないなら極限 limx→−∞ F (x), limx→+∞ F (x)がともに存在しても f が Lebesgue

可積分とは限らない。そのような関数 f の例をあげよ。

10.5 例. 関数R → R, x 7→ e−x2は Lebesgue可積分である。

証明. そのものの原始関数がよく分からないときは、優関数でなじみのあるものを見つけるというのが常套手段である。さて 2|x| ≤ x2 + 1 ∀xであるから

e−x2 ≤ e−2|x|+1 ∀x ∈ R

x 7→ e−2|x|+1の原始関数の一つは次で与えられ、それは明らかに有界である。

x 7→

{e − e−2x+1/2 x ≥ 0

e2x+1/2 x ≤ 0

補題 10.3(ii)により、関数 x 7→ e−x2は可積分な優関数を持つ。演習問題 4.6 にある判定法に

よりそれ自身も可積分である。

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10.6 演習問題. 関数R → R, x 7→ 1/(1 + |x|3/2)は Lebesgue可積分であることを示せ。

10.7 例. (i) 各 t > 0に対して関数 (0, +∞) → R, x 7→ e−xxt−1は Lebesgue可積分である。(0, +∞)上で定義された次の関数を gamma関数(gamma function)という。

Γ : t 7→∫

(0,+∞)

e−xxt−1 λ(dx)

(ii) 各 s, t > 0に対して関数 (0, 1) → R, x 7→ (1 − x)s−1xt−1 は Lebesgue可積分である。(0, +∞) × (0, +∞)上で定義された次の関数を beta関数(beta function)という。

B : (s, t) 7→∫

(0,1)

(1 − x)s−1xt−1 λ(dx)

証明. (i) まず 0 < t ≤ 1とする。e−xxt−1 ≤ xt−1 ∀x ∈ (0, 1], e−xxt−1 ≤ e−x ∀x ∈ (1, +∞) であるから、積分領域 (0, +∞)を (0, 1]と (1, +∞)に分割することにより∫

(0,+∞)

e−xxt−1 λ(dx) ≤∫

(0,1]

xt−1 λ(dx) +

∫(1,+∞)

e−x λ(dx) =1

t+

1

e< +∞

と評価できる。次に t ≥ 1とする。各 x > 0に対して x/t ≤ ex/tであるから両辺を t− 1乗して比較することにより xt−1 ≤ tt−1e(1−1/t)xを得る。従って∫

(0,+∞)

e−xxt−1 λ(dx) ≤∫

(0,+∞)

e−xtt−1e(1−1/t)x λ(dx) = tt < +∞

(ii) (1 − x)s−1xt−1 ≤ (1 − x)s−1/2 + xt−1/2 ∀x ∈ (0, 1)であるから、∫(0,1)

(1 − x)s−1xt−1 λ(dx) ≤∫

(0,1)

(1 − x)s−1

2+

xt−1

2λ(dx) =

1

2s+

1

2t< +∞

と評価できる。

10.8 演習問題. gamma関数は微分可能であることを示せ。

10.9 例. 右連続な非減少関数 v : R → R, x 7→ x3が誘導する Lebesgue-Stieltjes測度についてMble(dv) = Mble(λ)でありかつ非負値 Lebesgue可測関数 f : R → R に対して∫

Rf dv⋆ =

∫R

f(x)3x2 λ(dx)

証明. まず vは非負値の連続関数 x 7→ 3x2の原始関数である。定理 10.1(ii)より

(⋆1)

∫(a,b]

3x2 λ(dx) = v(b) − v(a) = dv((a, b]) ∀a < ∀b

Aを Lebesgue可測集合とする。Aの可算 I被覆Cnに対して∫R

1A(x)3x2 λ(dx) ≤∫

R

∞∑n=1

1Cn(x)3x2 λ(dx) =∞∑

n=1

∫R

1Cn(x)3x2 λ(dx) =∞∑

n=1

dv(Cn)

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ここで項別積分定理、定理 5.4参照、を適用した。非減少関数が誘導する外測度の定義より

(⋆2)

∫R

1A(x)3x2 λ(dx) ≤ γ(dv; A) ∀A ∈ Mble(λ)

さて各 n ∈ Zに対してA ∩ (n, n + 1]も Lebesgue可測であって、

λ(A ∩ (n, n + 1]) ≤ λ((n, n + 1]) = 1 < +∞

が成り立つ。任意に ε > 0が与えられたとする。Lebesgue測度 λは関数 R → R, x 7→ xが誘導する Lebesgue-Stieltjes測度であったので、各 n ∈ ZごとにA ∩ (n, n + 1]の可算 I被覆(ak, bk] k ∈ Nが存在して次を満たす。

∞∑k=1

(bk − ak) ≤ λ(A ∩ (n, n + 1]) +ε

2|n|(|n| + 1)2

ここで区間列 (ak, bk] ∩ (n, n + 1] k ∈ NもA ∩ (n, n + 1]の可算被覆であるから、最初からn ≤ ak < bk ≤ n + 1であるとしてもかまわない。このとき( ∞∑

k=1

1(ak,bk](x) − 1A∩(n,n+1](x))3x2 ≤

( ∞∑k=1

1(ak,bk](x) − 1A∩(n,n+1](x))3(|n| + 1)2

がすべての x ∈ Rについて成り立つ。従って∫R

( ∞∑k=1

1(ak,bk](x) − 1A∩(n,n+1](x))3x2 λ(dx)

≤ 3(|n| + 1)2

∫R

( ∞∑k=1

1(ak,bk](x) − 1A∩(n,n+1](x))λ(dx)

= 3(|n| + 1)2( ∞∑

k=1

(bk − ak) − λ(A ∩ (n, n + 1]))≤ 3ε

2|n|

左辺を項別積分定理と (⋆1)を適用することにより変形して次の評価を得る。

∞∑k=1

dv((ak, bk]) −∫

R1A∩(n,n+1](x)3x2 λ(dx) ≤ 3ε

2|n|

区間列 (ak, bk] k ∈ NはA ∩ (n, n + 1]の可算 I被覆であったから

γ(dv; A ∩ (n, n + 1]) ≤∞∑

k=1

dv((ak, bk]) ≤∫

R1A∩(n,n+1](x)3x2 λ(dx) +

2|n|

これが各 n ∈ Zごとに成り立つ。次に外測度の可算劣加法性、補題 7.15(iii)参照、により

γ(dv; A) = γ(dv;∪n∈Z

(A ∩ (n, n + 1])) ≤∑n∈Z

γ(dv; A ∩ (n, n + 1])

≤∑n∈Z

∫R

1A∩(n,n+1](x)3x2 λ(dx) +∑n∈Z

2|n|=

∫R

1A(x)3x2 λ(dx) + 9ε

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いうまでもないが最後の等式を導くのに項別積分定理を適用している。ε > 0は任意なので(⋆2)も考慮に入れて次が導けた。

γ(dv; A) =

∫R

1A(x)3x2 λ(dx) ∀A ∈ Mble(λ)

B ⊂ RでありCnをBの可算 I被覆とする。このとき

B ∩ A ⊂∞∪

n=1

(Cn ∩ A), B ∩ Ac ⊂∞∪

n=1

(Cn ∩ Ac)

であるから単調性と可算劣加法性、補題 7.15(ii), (iii)参照、により

γ(dv; B ∩ A) + γ(dv; B ∩ Ac) ≤∞∑

n=1

(γ(dv; Cn ∩ A) + γ(dv; Cn ∩ Ac)

)Cn ∩ A, Cn ∩ Ac も Lebesgue可測であるから右辺は次に等しい。

∞∑n=1

( ∫R

1Cn∩A(x)3x2 λ(dx) +

∫R

1Cn∩Ac(x)3x2 λ(dx))

=∞∑

n=1

∫R

1Cn(x)3x2 λ(dx)

右辺は (⋆1)によれば∑∞

n=1 dv(Cn)に等しい。よって

γ(dv; B ∩ A) + γ(dv; B ∩ Ac) ≤∞∑

n=1

dv(Cn)

上の不等式は任意のBの可算 I被覆Cnに対して成り立つので

γ(dv; B ∩ A) + γ(dv; B ∩ Ac) ≤ γ(dv; B) ∀B ⊂ R

γ(dv; ·)は劣加法性を持つので逆向きの不等式はいつでも成立する。ゆえに

A ∈ Mble(λ) ⇒ A ∈ Mble(dv)かつ dv⋆(A) =

∫R

1A(x)3x2 λ(dx)

今の段階では未確認だが実はMble(dv) = Mble(λ) である。これを認めると定理 5.5 により非負値 Lebesgue可測関数 f : R → R に対して次が成り立つ。∫

Rf dv⋆ =

∫R

f(x)3x2 λ(dx)

これ以後はMble(dv) ⊂ Mble(λ) の証明にあてる。一般にA ⊂ Rに対して次が成り立つ。

(⋆3) γ(dv; A) = inf{dv⋆(B) ; B ∈ Mble(λ), A ⊂ B}

既に示したようにMble(λ) ⊂ Mble(dv)である。よって単調性により

B ∈ Mble(λ), A ⊂ B ⇒ γ(dv; A) ≤ γ(dv; B) = dv⋆(B)

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次にAの可算 I被覆Cnに対してB :=∪∞

n=1 Cn ∈ Mble(λ), A ⊂ Bであり

dv⋆(B) = dv⋆(∞∪

n=1

Cn) ≤∞∑

n=1

dv⋆(Cn) =∞∑

n=1

dv(Cn)

以上により (⋆3)が示せた。(⋆3)を適用すると集合列Bnであって

Bn ∈ Mble(λ), A ⊂ Bn, infn∈N

dv⋆(Bn) = γ(dv; A)

を満たすものが存在することがわかる。そこでB :=∩∞

n=1 Bn とおくと

B ∈ Mble(λ), A ⊂ B, dv⋆(B) = γ(dv; A)

が成り立つ。ここでA ∈ Mble(dv)とする。

dv⋆(B) = γ(dv; B) = γ(dv; B ∩ A) + γ(dv; B ∩ Ac) = γ(dv; A) + γ(dv; B \ A)

更に dv⋆(A) < +∞と仮定すると dv⋆(B) = γ(dv; A) = dv⋆(A) < +∞であるから

γ(dv; B \ A) = 0

が導かれる。再び (⋆3)を適用してB \ Aに対して同様に議論すると

N ∈ Mble(λ), B \ A ⊂ N,

∫R

1N(x)3x2 λ(dx) = dv⋆(N) = γ(dv; B \ A) = 0

を満たす集合N が存在することがわかる。測度の劣加法性と補題 4.12より

λ(N) ≤ λ({0}) + λ({x ∈ R : x = 0, x ∈ N}) = λ({x ∈ R : 1N(x)3x2 = 0}) = 0

すなわちN ∈ Null(λ)である。さらにB \ A ⊂ N であるから定理 8.12により

B \ A ∈ Null(λ) ⊂ Mble(λ)

が従う。以上より dv⋆(A) < +∞ならばA = B \ (B \A) ∈ Mble(λ) であることが得られた。一般のA ∈ Mble(dv)に対しては各 n ∈ NごとにA ∩ (−n, n] ∈ Mble(dv)かつ

dv⋆(A ∩ (−n, n]) ≤ dv⋆((−n, n]) = dv((−n, n]) = v(n) − v(−n) = 2n3 < +∞

であるからA ∩ (−n, n] ∈ Mble(λ) さらにA =∪∞

n=1(A ∩ (−n, n]) ∈ Mble(λ) となる。

例 10.9で取り上げた命題は次のように拡張できる。

10.10 定理. v : R → Rは非減少かつ連続微分可能な関数であり、その導関数 v′は

λ({x ∈ R : v′(x) = 0}) = 0

を満たすとする。このときvが誘導するLebesgue-Stieltjes測度についてMble(dv) = Mble(λ)

でありかつ任意の非負値 Lebesgue可測関数 f : R → R に対して次が成り立つ。∫R

f dv⋆ =

∫R

fv′ λ

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10.11 演習問題. 定理 10.10を証明せよ。

10.12 注意. v : R → Rは非増加かつ連続微分可能な関数であり、その導関数 v′は

λ({x ∈ R : v′(x) = 0}) = 0

を満たすとする。このとき非減少関数 −vが誘導する Lebesgue-Stieltjes測度についても定理 10.10と同様のことがいえる。すなわちMble(d(−v)) = Mble(λ)でありかつ任意の非負値Lebesgue可測関数 f : R → R に対して次が成り立つ。∫

Rf d(−v)⋆ =

∫R

f |v′| λ

更に連続微分可能性にとりかえて絶対連続性(absolute continuity) という概念を使って定理 10.10 を拡張することができる。興味ある読者は適当な参考書を見つけて知識を深めよ。

10.13 定理. v : R → Rを狭義増加な連続関数とする。このとき I := v(R)は開区間であり、vが誘導する Lebesgue-Stieltjes測度について

γ(dv; A) = γ(λ; v(A)) ∀A ⊂ R, Mble(dv) = {A ⊂ R : v(A) ∈ Mble(λ)}

でありかつ任意の非負値Mble(dv)可測関数 f : R → R に対して次が成り立つ。∫R

f dv⋆ =

∫I

f ◦ v−1 λ

証明. 像 I := v(R)は開区間であり、関数 vはRから Iへの位相同型(即ち全単射かつ逆関数 v−1も連続であること)を導く。また逆関数 v−1も狭義増加である。以上の証明は今更する必要はないであろう。従って a, b ∈ R, a < bなら v((a, b]) = (v(a), v(b)]であるから

γ(λ; v((a, b])) = γ(λ; (v(a), v(b)]) = v(b) − v(a) = dv((a, b])

が成り立つ。即ち γ(λ; v(C)) = dv(C) ∀C ∈ I である。ここでA ⊂ Rとする。Aの可算 I被覆Cnに対して

v(A) ⊂ v(∞∪

n=1

Cn) =∞∪

n=1

v(Cn)

であるから、外測度の単調性と可算劣加法性を適用して

γ(λ; v(A)) ≤∞∑

n=1

γ(λ; v(Cn)) =∞∑

n=1

dv(Cn)

を得る。ここでCnはAの可算 I被覆なら任意でよいので

γ(λ; v(A)) ≤ γ(dv; A) ∀A ⊂ R

目標は等号成立を示すことである。さて γ(λ; v(A)) = +∞ならもう議論する必要はないので以下 γ(λ; v(A)) < +∞として話を進める。任意に ε ∈ R>0が与えられたとする。v(A)の可算 I被覆CnであってCn ⊂ Iかつ次を満たすものが存在する。

γ(λ; v(A)) + ε ≥∞∑

n=1

λ(Cn) =∞∑

n=1

γ(λ; v(v−1(Cn))) =∞∑

n=1

dv(v−1(Cn))

57

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ここで v−1(Cn) ∈ Iより γ(λ; v(v−1(Cn))) = dv(v−1(Cn))であることを使った。一方 v−1(Cn)

はAの可算 I被覆であるから右辺は γ(dv; A)をおさえる。従って

γ(λ; v(A)) + ε ≥ γ(dv; A)

ε ∈ R>0は任意であるから目標とする γ(λ; v(A)) = γ(dv; A)が得られた。さてA ∈ Mble(dv), B ⊂ Rとする。このとき

γ(dv; v−1(B ∩ I)) = γ(dv; v−1(B ∩ I) ∩ A) + γ(dv; v−1(B ∩ I) \ A)

である。従って v(v−1(B ∩ I) ∩ A) = B ∩ v(A), v(v−1(B ∩ I) \ A) = (B ∩ I) \ v(A) より

γ(λ; B ∩ I) = γ(λ; B ∩ v(A)) + γ(λ; (B ∩ I) \ v(A))

を得る。一方 I = v(R)は開区間なので I ∈ Mble(λ)である。従ってB \ I = (B \ v(A)) \ I

かつ (B \ v(A)) ∩ I = (B ∩ I) \ v(A)であることより

γ(λ; B) = γ(λ; B ∩ I) + γ(λ; (B \ v(A)) \ I)

γ(λ; B \ v(A)) = γ(λ; (B ∩ I) \ v(A)) + γ(λ; (B \ v(A)) \ I)

以上より γ(λ; B) = γ(λ; B ∩ v(A)) + γ(λ; B \ v(A)) が成り立つ。即ち v(A) ∈ Mble(λ)である。逆にA ⊂ R, v(A) ∈ Mble(λ)とする。B ⊂ Rに対して

γ(dv; B) = γ(λ; v(B)) = γ(λ; v(B) ∩ v(A)) + γ(λ; v(B) \ v(A))

が成り立つ。ここで v(B) ∩ v(A) = v(B ∩ A)かつ v(B) \ v(A) = v(B \ A) であるから右辺は γ(dv; B ∩ A) + γ(dv; B \ A) に等しい。即ちA ∈ Mble(dv)である。ここでMble(dv)可測関数 f : R → R に対して合成関数 f ◦ v−1 : I → RはMble(λ)可測であることに注意しておこう。実際 a ∈ Rが与えられたとき {x ∈ R : f(x) < a} ∈ Mble(dv)

であるからMble(dv) = {A ⊂ R : v(A) ∈ Mble(λ)}を適用して

{y ∈ I : f ◦ v−1(y) < a} = v({x ∈ R : f(x) < a}) ∈ Mble(λ) ∀a ∈ R

を得る。f が非負Mble(dv)単関数であるとする。このとき補題 3.4(i)と定理 4.4により∫R

f dv⋆ =∑

y∈Image f

ydv⋆(f−1({y})) =∑

y∈Image f◦v−1

yλ(v(f−1({y}))) =

∫I

f ◦ v−1 λ

となる。一般には補題 3.17(ii)により非負値Mble(dv)-単関数 R → R の列 fnで fn ≤ fn+1

∀n ∈ N, supn∈N fn(x) = f(x) ∀x ∈ R を満たすものが存在する。各 n ∈ Nに対して∫R

fn dv⋆ =

∫I

fn ◦ v−1 λ

なので定理 3.18を適用して結論に至る。

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10.14 注意. v : R → Rを狭義減少な連続関数とする。このとき I := v(R)はやはり開区間であり、非減少関数−vが誘導する Lebesgue-Stieltjes測度について定理 10.13と同様のことがいえる。すなわち

γ(d(−v); A) = γ(λ; v(A)) ∀A ⊂ R, Mble(d(−v)) = {A ⊂ R : v(A) ∈ Mble(λ)}

でありかつ任意の非負値Mble(dv)可測関数 f : R → R に対して次が成り立つ。∫R

f d(−v)⋆ =

∫I

f ◦ v−1 λ

次はいわゆる変数変換公式(change of variable formula)である。

10.15 系. v : R → Rは連続微分可能な非減少関数(または連続微分可能な非増加関数)であり、その導関数 v′は

λ({x ∈ R : v′(x) = 0}) = 0

を満たすとする。このとき I := v(R)は開区間である。任意のLebesgue可測関数 f : R → Rに対して f ◦ v−1 : I → Rも Lebesgue可測であり、f が非負値であるなら次が成り立つ。∫

I

f ◦ v−1 λ =

∫R

f |v′| λ

証明. vは非減少であるとして議論を進める。与えられた条件より v′は連続かつ非負値である。a, b ∈ R, a < bとする。関数 vは狭義増加であることを確かめよう。v′ > 0 λ-a.e.であるから定理 10.1(ii)と補題 4.12より

v(b) − v(a) =

∫(a,b)

v′ λ > 0

f : R → Rを Lebesgue可測関数とする。ここで定理 10.10と定理 10.13により

Mble(λ) = Mble(dv) = {A ⊂ R : v(A) ∈ Mble(λ)}

よって f ◦ v−1 : I → Rも Lebesgue可測であることが導かれる。

10.16 例. (i) α, β ∈ R, α = 0とする。任意のLebesgue可測関数 f : R → Rに対してR → R,

x 7→ f((x − β)/α)も Lebesgue可測であり、f が非負値であるなら次が成り立つ。∫R

f((x − β)/α) λ(dx) = |α|∫

Rf λ

(ii) 任意の Lebesgue可測関数 f : (0, +∞) → R に対して (0, +∞) → R, x 7→ f(√

x)もLebesgue可測であり、f が非負値であるなら次が成り立つ。∫

(0,+∞)

f(√

x) λ(dx) =

∫(0,+∞)

f(x)2x λ(dx)

(iii) 任意の Lebesgue可測関数 f : (0, +∞) → R に対して (0, +∞) → R, x 7→ f(1/x)もLebesgue可測であり、f が非負値であるなら次が成り立つ。∫

(0,+∞)

f(1/x) λ(dx) =

∫(0,+∞)

f(x)

x2λ(dx)

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証明. (i) v : x 7→ αx + βに系 10.15を適用する。(ii) v : (0, +∞) → R, x 7→ x2に系 10.15を適用する。(iii) v : (0, +∞) → R, x 7→ 1/xに系 10.15を適用する。

10.17 例. (i) 各 t, s > 0に対してB(t, s) = B(s, t)が成り立つ。

(ii) 各 s, t > 0に対してB(s, t) = 2

∫(0,1)

(1 − x2)s−1x2t−1 λ(dx) が成り立つ。B(12, 1

2) = π

(iii) 各 t > 0に対して Γ(t) = 2

∫(0,+∞)

e−x2

x2t−1 λ(dx)が成り立つ。

(iv) 各 k ∈ Nに対して∫

Rx2ke−x2

λ(dx) =√

π(2k)!

4kk!,

∫R

x2k−1e−x2

λ(dx) = 0が成り立つ。

証明. (i) α = −1, β = 1として積分∫(0,1)

(1 − x)s−1xt−1 λ(dx)に例 10.16(i)を適用する。(ii), (iii) 例 10.16(ii)を適用する。(iv) z ∈ Rとする。 例 10.5より関数

f : R → R, x 7→ ez2/4e−x2

は可積分である。α = 1, β = z/2として例 10.16(i)を適用して次を得る。∫R

ezxe−x2

λ(dx) = ez2/4

∫R

e−x2

λ(dx)

一方、補題 5.4を適用し、さらに e|zx| ≤ ezx + e−zxを使って評価する。

∞∑n=0

∫R

|zx|n

n!e−x2

λ(dx) =

∫R

∞∑n=0

|zx|n

n!e−x2

λ(dx) =

∫R

e|zx|e−x2

λ(dx)

≤∫

R(ezx + e−zx)e−x2

λ(dx) = 2ez2/4

∫R

e−x2

λ(dx) < +∞

従って定理 6.14が適用でき、次のように変形できる。

∞∑n=0

zn

n!

∫R

xne−x2

λ(dx) =

∫R

ezxe−x2

λ(dx) = ez2/4

∫R

e−x2

λ(dx) ∀z ∈ R

上は zについての整級数であるが、それは全ての z ∈ Rについて収束している。整級数の一意性により右辺を zについて展開したときの係数は左辺のものと一致する。よって

1

n!

∫R

xne−x2

λ(dx) =

1

4kk!

∫R

e−x2

λ(dx) n = 2k

0 n = 2k − 1

が各 n ∈ Nについて成り立つ。あとは∫R

e−x2

λ(dx) =√

π

を示さねばならないが、これは例 14.9 まで先延ばしする。

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10.18 演習問題.

∫R

cos(zx)e−x2

λ(dx) =√

πe−z2/4 ∀z ∈ Rを示せ。Gauss核の cosine変

換(cosine transform of gauss kernel)

10.19 例. limt→+∞Γ(t)

tt−1/2e−t=

√2π が成り立つ。Stirlingの公式(Stirling’s formula)

証明. t > 0をひとまず固定する。連続微分可能な関数 vを導入する。

v : R → R, x 7→ tex/√

t

微分すると v′(x) =√

tex/√

t > 0 ∀x ∈ Rである。また v(R) = (0, +∞)である。次に

f : R → R, x 7→ exp{−t(ex/√

t − 1 − x/√

t)}/v′(x)

という非負値連続関数を導入する。さて

f ◦ v−1(x) = t−t+1/2ete−xxt−1 ∀x ∈ (0, +∞)

である。よって系 10.15 を適用することにより

t−t+1/2etΓ(t) =

∫R

exp{−t(ex/√

t − 1 − x/√

t)} λ(dx)

右辺の被積分関数は t → +∞の極限で関数 x 7→ e−x2/2 に各点収束する。Lebesgueの収束定理を適用したいのであるがそのためには可積分な優関数を見つける必要がある。そこで

c :=

∫(0,1)

(1 − u)e−2u λ(du)

とおくと 0 < c < +∞である。このとき次の評価が成り立つ。

t(ex/√

t − 1 − x/√

t) =

∫ 1

0

(1 − u)eux/√

t λ(du) x2 ≥ cx2 ∀x ∈ R with x ≥ −2√

t

従って 1(−2√

t,+∞)(x) exp{−t(ex/√

t − 1 − x/√

t)} ≤ e−cx2 ∀x ∈ R であるので

limt→+∞

∫(−2

√t,+∞)

exp{−t(ex/√

t − 1 − x/√

t)} λ(dx) =

∫R

e−x2/2 λ(dx) =√

を得る。一方−t(ex/√

t − 1 − x/√

t) ≤ t +√

tx ∀x ∈ Rであるから∫(−∞,−2

√t]

exp{−t(ex/√

t − 1 − x/√

t)} λ(dx) ≤∫

(−∞,−2√

t]

et+√

tx λ(dx) = e−t/√

t

とおさえられるので (−∞,−2√

t]上の積分は 0に収束する。

以下はRiemann積分に拘りたい方向けのものである。

10.20 演習問題. Riemann可積分関数 f : R → R に対して以下を示せ。(i) f は Lebesgue可測である。

(ii)

∫(a,b]

f λ =

∫ b

a

f(x) dx ∀a∀b ∈ R a < b. 但し右辺はRiemann積分である。

(iii) f が Lebesgue可積分⇔ f の広義積分が絶対収束する

(iv) Lebesgue可積分なとき、∫

Rf λ は広義積分に一致する。

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11 拡張の一意性とその応用Hopfの拡張定理によれば、σ-加法的な有限加法的測度は必ず測度に拡張される。この節

では拡張の一意性について議論し、その応用としてLebesgue測度の平行移動不変性を導く。

前提¶ ³(C,m)をRd上の σ-加法的な有限加法的測度とする。µ ´

(Mble(m),m⋆)は Rd上の測度で (C,m)を拡張する。さて Bを Rd上の σ-加法族で Cを含むもの、(B, µ1), (B, µ2)をRd上の測度で (C,m)を拡張するものとする。問題はいつµ1 = µ2

がいえるかである。そのための条件は、(C,m)および B両方に関わることになる。

11.1 定義. (C,m)がσ-有限(σ-finite)であるとはRdの可算 C-被覆Cn n ∈ Nでm(Cn) < +∞∀n ∈ N をみたすものが存在することをいう。

11.2 演習問題. m⋆(Rd) < +∞ であれば、mは σ-有限であることを示せ。

11.3 補題. (C,m)が σ-有限ならRdの可算 C-分割∆ でm(J) < ∞ ∀J ∈ ∆ をみたすものが存在する。

証明. Cn n ∈ Nを σ-有限性の定義にあるもの、それに対し集合族の列∆n n ∈ N を補題 7.17

で述べられたものとする。補題 7.12(iv)によれば、各 n ∈ Nに対して

∑J∈∆n

m(J) ≤n∑

k=1

m(Ck) < +∞.

従ってRdの可算 C-分割∆ :=∪∞

n=1 ∆n はm(J) < ∞ ∀J ∈ ∆ をみたす。

11.4 補題. (B, µ)をRd上の測度で (C,m)を拡張するものとする。即ちA ∈ B, µ(A) = m(A)

∀A ∈ C. このとき (C,m)が σ-有限なら µ(A) = m⋆(A) ∀A ∈ B ∩ Mble(m) が成り立つ。

証明. 先ず次の不等式が成り立つことを示す。

(⋆) µ(A) ≤ γ(m; A) ∀A ∈ B.

Cn n ∈ NをAの可算 C-被覆とする。Cn ∈ B, µ(Cn) = m(Cn)である。補題 6.19により

µ(A) ≤∞∑

n=1

µ(Cn) =∞∑

n=1

m(Cn).

よって不等式 (⋆)が成り立つ。σ-有限性により補題 11.3 にあるようなRdの可算 C-分割∆が存在する。J ∈ ∆としよう。J ∈ B, µ(J) = m(J) < +∞であるから

µ(A ∩ J) = µ(J) − µ(Ac ∩ J) ≥ m(J) − γ(m; Ac ∩ J) ∀A ∈ B.

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ここで不等号は (⋆)をAc ∩ J ∈ B に適用して導かれている。さらにA ∈ Mble(m)も仮定する。定理 8.13と定理 8.15により J ∈ Mble(m), m⋆(J) = m(J) < +∞であるから

m(J) − γ(m; Ac ∩ J) = m⋆(J) − m⋆(Ac ∩ J) = m⋆(A ∩ J).

以上と µ, m⋆双方の σ-加法性により

µ(A) =∑J∈∆

µ(A ∩ J) ≥∑J∈∆

m⋆(A ∩ J) = m⋆(A) ∀A ∈ B ∩ Mble(m).

さてA ∈ B ∩ Mble(m)に対しては (⋆)の右辺はm⋆(A)に等しいので結論を得る。

補題 11.4ではふたつの σ-加法族の共通部 B ∩ Mble(m)が現れた。実はそのようなものはσ-加法族である。例えば有限加法的測度を複数扱うとなるとそれに応じてσ-加法族も複数現れることになるので一般的な定式化を行う。

11.5 補題. Rd上の σ-加法族たち Bα に対してそれらの共通部∩

α Bα も σ-加法族である。

証明. (i) ∅ ∈ Bα ∀α であるから、∅ ∈∩

α Bαである。(ii) A ∈

∩α Bαとする。これはA ∈ Bα ∀αを意味する。各Bαは σ-加法族なので、Ac ∈ Bα

である。これが任意の αについて成り立つのでAc ∈∩

α Bα が導かれる。(iii) An ∈

∩α Bα ∀n ∈ Nとする。これはAn ∈ Bα ∀n ∈ N ∀αを意味する。各 Bαは σ-加

法族なので、∪∞

n=1 An ∈ Bα である。αは任意なので∪∞

n=1 An ∈∩

α Bα が導かれる。

11.6 系. Rdの部分集合の族Aに対して次の条件を満たす集合族がただ一つ存在する。

(i) BはRd上の σ-加法族かつA ⊂ Bである。(ii) 条件 (i)を満たす任意の集合族 B′に対して B ⊂ B′である。最小性

証明. 先ずAを内包する Rd上の σ-加法族は存在する。実際、Sbset(Rd)がそうである。そこで条件 (i)を満たす任意の集合族たちすべての共通部をとれば、それは補題 11.5により σ-

加法族である。しかもそれは条件 (ii)も満たす。一意性の確認は読者にゆだねる。

11.7 定義. Rdの部分集合の族Aに対し系 11.6で規定される σ-加法族を記号 σ(A)で表し、これをAで生成される σ-加法族(σ-field generated by A) と呼ぶ。

次の定理は有限加法的測度の測度への拡張の一意性を述べるもので、考察の対象となる測度の性質を調べたり逆にそれを利用して測度を特定したりするのにきわめて有効である。

11.8 定理. σ-有限な (C, m)の σ(C)への測度としての拡張は一意的である。すなわち Rd上の測度 (σ(C), µ)が (C,m)を拡張するなら µ(A) = m⋆(A) ∀A ∈ σ(C) が成り立つ。

証明. σ(C) ⊂ Mble(m) であるから、補題 11.4より直ちに導かれる。

約束¶ ³以下 Iは左半開区間の全体に空集合 ∅ を付加した集合族を表す。µ ´

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11.9 定義. R上の σ-加法族 σ(I)を Borel集合族(Borel σ-field)と呼び記号 B(R)で表す。B(R)-集合をBorel集合(Borel set)という。B(R)可測な関数はBorel可測関数とも呼ばれる。また B(R)を定義域とする R上の測度を Borel測度(Borel measure)という。さらに R上のBorel測度µで条件µ(J) < +∞ ∀J ∈ Iを満たすものをRadon測度(Radon measure)という。

次の定理は Lebesgue-Stieltjes測度の一意性を主張している。

11.10 定理. v : R → Rを右連続な非減少関数とする。このとき vの誘導する Lebesgue-

Stieltjes測度 dv⋆の B(R)への制限は、次を満たす唯一のR上のBorel測度である。

µ((a, b]) = v(b) − v(a) ∀a < ∀b.

証明. 関数 vの誘導する有限加法的測度は

dv((−n, n]) = v(n) − v(−n) < +∞ ∀n ∈ N

を満たすので σ-有限である。よって定理 9.6と定理 11.8をくみあわせて結論を得る。

Borel集合族の重要性のもう一つの側面は次に述べるものである。

11.11 補題. 連続関数 f : R → Rは B(R)可測である。

証明. 補題 9.10の証明がここでもそのまま通用する。

11.12 補題. µをR上のBorel測度、t ∈ Rとする。(i) A + t ∈ B(R) ∀A ∈ B(R) が成り立つ。ただしA + t := {x + t ; x ∈ A}.(ii) B(R) → R, A 7→ µ(A + t) はR上の測度である。

証明. (i) 次が成り立つから集合族 B := {A ∈ Sbset(R) : A + t ∈ B(R)} は σ-加法族である。

(11.13) ∅ + t = ∅, Ac + t = (A + t)c,( ∞∪

n=1

An

)+ t =

∞∪n=1

(An + t).

また (a, b] + t = (a + t, b + t]であるからB は Iを含む σ-加法族である。B(R)はそのようなものの最小であったので B(R) ⊂ B 即ちA ∈ B(R) ⇒ A + t ∈ B(R) が導かれる。

(ii) σ-加法性を確かめればよいがこれは演習問題とする。

11.14 演習問題. (11.13)を示せ。また補題 11.12(ii)を示せ。

補題 11.12(i)の証明ポイントが理解できたかを試すには次の問題を解くとよいだろう。

11.15 演習問題. BをRd上の σ加法族、f : Rd → Rを B可測関数とする。(i) 集合族 {A ∈ Sbset(R) : f−1(A) ∈ B} は σ-加法族であることを示せ。(ii) f−1(A) ∈ B ∀A ∈ B(R) が成り立つことを示せ。

1次元 Lebesgue測度の著しい特徴は平行移動不変性(translation invariance)である。それだけでなく平行移動不変性なR上の測度は実質上 Lebesgue測度だけなのである。以上が定理 11.16 の内容である。この性質ゆえ Lebesgue測度は解析学において特別な役割を果たす。その典型例が定理 10.1で述べた微積分の基本定理である。

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11.16 定理. λを 1次元 Lebesgue測度、µをR上のRadon測度とする。(i) λ(A + t) = λ(A) ∀A ∈ B(R) ∀t ∈ R.

(ii) µ(A + t) = µ(A) ∀A ∈ I ∀t ∈ R ⇒ µ(A) = µ((0, 1])λ(A) ∀A ∈ B(R).

証明. (i) 補題 11.12で見たように B(R) → R, A 7→ λ(A + t) はR上の測度である。しかも

λ((a, b] + t) = λ((a + t, b + t]) = b − a ∀a < ∀b.

ゆえに定理 11.10を適用して (i)を得る。(ii) (0, +∞)上の関数 t 7→ µ((0, t])は右連続である。さらに有限加法性と仮定により

µ((0, t + s]) = µ((0, t]) + µ((t, t + s]) = µ((0, t]) + µ((0, s]) ∀t > 0∀s > 0.

よって µ((0, t]) = µ((0, 1])t ∀t > 0 が導けるがその実行は演習問題 11.17に委ねる。これを使うと

µ((a, b]) = µ((0, b − a]) = µ((0, 1])(b − a) ∀a < ∀b.

再び定理 11.10を適用して (ii)を得る。

11.17 演習問題. 関数 f : (0, +∞) → Rは条件 f(t + s) = f(t) + f(s) ∀t ∀s を満たしかつ右連続であるとする。このとき f(t) = f(1)t ∀t であることを示せ。

12 直積測度としての 2次元Lebesgue測度この節では測度の直積とその一意性について議論する。その応用として 2次元 Lebesgue

測度の存在を示しさらに Lebesgue測度の平行移動および回転不変性を導く。また直積測度は確率論における独立性の概念と密接に結びついている。

前提¶ ³(C1,m1)をRd(1)上の有限加法的測度、(C2,m2)をRd(2)上の有限加法的測度とする。また d = d(1) + d(2)とする。µ ´記号¶ ³

Rd(1)上の部分集合族 C1 とRd(2)上の部分集合族 C2に対してRd上の部分集合族を以下で導入する。

C1 × C2 := {A × B ; A ∈ C1, B ∈ C2}

集合族 C1 × C2に属する集合を C1, C2長方形集合(rectangular set)という。µ ´12.1 補題. Rd上の集合族 C1 × C2 に対し補題 7.2 の公理化が成り立つ。

証明. まず ∅ = ∅ × ∅ ∈ C1 × C2 である。次にA1, B1 ∈ C1, A2, B2 ∈ C2 とする。このとき

(A1 × A2) ∩ (B1 × B2) = (A1 ∩ B1) × (A2 ∩ B2) ∈ C1 × C2.

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よって集合族 C1 ×C2 に対し補題 7.2の公理化 (i)が成り立つ。他方A1 ×A2 ⊂ B1 ×B2 かつA1 × A2 = ∅ と仮定しよう。このときA1 ⊂ B1, A2 ⊂ B2 および

(B1 × B2) \ (A1 × A2) = (A1 × (B2 \ A2)) ∪ ((B1 \ A1) × B2)

が成り立ち、右辺は非交叉な合併である。さてB1 \ A1の有限な C1-分割∆1 とB2 \ A2の有限な C2-分割∆2 が存在する。

{A1 × J ; J ∈ ∆2} ∪ {I × B2 ; I ∈ ∆1}

が補題 7.2の公理化 (ii) を成立させる有限な C1 × C2-分割である。

記号¶ ³proj1 : Rd → Rd(1), proj2 : Rd → Rd(2) は次で定義される写像を表す。

proj1 : (x1, x2) 7→ x1, proj2 : (x1, x2) 7→ x2.µ ´12.2 補題. A ∈ C1 × C2 ⇒ proj1A ∈ C1, proj2A ∈ C2, A = (proj1A) × (proj2A).

証明. A1 ∈ Sbset(Rd(1)), A2 ∈ Sbset(Rd(2)) とする。このとき次が成り立つ。

proj1(A1 × A2) =

{A1 if A2 = ∅∅ if A2 = ∅

, proj2(A1 × A2) =

{A2 if A1 = ∅∅ if A1 = ∅

.

A1 × ∅ = ∅, ∅ × A2 = ∅ であるから結論を得る。

記号¶ ³m1 ×m2 : C1 × C2 → R は約束 0∞ = 0のもと次で定義される関数を表す。

A 7→ m1(proj1A)m2(proj2A)µ ´12.3 補題. m1, m2ともに σ-加法的なら、関数m1 × m2 : C1 × C2 → R は σ-加法的なRd上の有限加法的測度である。

証明. (i) まず補題 12.1により集合族 C1 × C2 に対し補題 7.2の公理化が成り立つ。(ii) 定義より (m1 × m2)(A) = m1(proj1A)m2(proj2A) ≥ 0 ∀A ∈ C1 × C2 である。また

(m1 × m2)(∅) = m1(∅)m2(∅) = 0 である。(iii) ∆をA ∈ C1 × C2の可算な C1 × C2-分割とする。このとき補題 12.2により

1A(x, y) = 1proj1A(x)1proj2A(y), 1J(x, y) = 1proj1J(x)1proj2J(y) J ∈ ∆

であるから次が成り立つ。

1proj1A(x)1proj2A(y) =∑J∈∆

1proj1J(x)1proj2J(y) ∀x ∈ Rd(1) ∀y ∈ Rd(2).

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σ-加法性によりRd(2)上の測度 (Mble(m2),m⋆2)は (C2,m2)を拡張する。各 x ∈ Rd(1)に対し非

負値なMble(m2)-可測関数

Rd(2) → R, y 7→ 1proj1A(x)1proj2A(y)

のm⋆2についての積分を補題 5.4 を適用して評価すると

1proj1A(x)m⋆2(proj2A) =

∑J∈∆

1proj1J(x)m⋆2(proj2J) ∀x ∈ Rd(1)

を得る。m⋆2(I) = m2(I) ∀I ∈ C2 を使って両辺を次のように書き換える。

m2(proj2A)1proj1A(x) =∑J∈∆

m2(proj2J)1proj1J(x) ∀x ∈ Rd(1).

他方、Rd(1)上の測度 (Mble(m1),m⋆1)は (C1,m1)を拡張する。非負値なMble(m1)-可測関数

Rd(1) → R, x 7→ m2(proj2A)1proj1A(x)

のm⋆1についての積分を再び補題 5.4 を適用して評価すると

m2(proj2A)m⋆1(proj1A) =

∑J∈∆

m2(proj2J)m⋆1(proj1J).

m⋆1(I) = m1(I) ∀I ∈ C1 およびm1 × m2の定義により左辺は (m1 × m2)(A) に等しく右辺は∑J∈∆(m1 × m2)(J) に等しい。よって σ-加法性も確かめられた。

12.4 系. m1, m2ともに σ-加法的なら、Rd上の測度 (Mble(m1 ×m2), (m1 ×m2)⋆) は有限加

法的測度 (C1 × C2,m1 × m2) を拡張する。

証明. 定理 8.18と補題 12.3による。

記号¶ ³λを 1次元Lebesgue測度とする。µ ´一般に測度は σ-加法的な有限加法的測度でもあるので、R2上の σ-加法的な有限加法的測

度 (Mble(λ) × Mble(λ), λ × λ) に対して、系 12.4が適用できる。これをふまえて

12.5 定義. R2上の測度 (Mble(λ × λ), (λ × λ)⋆) を 2次元 Lebesgue測度、Mble(λ × λ)-集合を 2次元 Lebesgue可測集合という。

記号¶ ³λ(2)を 2次元 Lebesgue測度とする。µ ´系 12.4によりたしかに 2次元Lebesgue測度は存在するが、やはりLebesgue可測集合の正

体がつかみきれない。そこで σ-有限性のもとでの一意性を論じる。

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12.6 定理. (C1,m1), (C2, m2)はともに σ-加法的かつ σ-有限とする。このとき σ(C1 × C2)で定義されたRd上の測度 µであって、条件

µ(A) = m1(proj1A)m2(proj2A) ∀A ∈ C1 × C2

を満たすものは (Mble(m1 × m2), (m1 × m2)⋆) の σ(C1 × C2)上への制限に等しい。

証明. (C1 × C2,m1 × m2) は σ-有限となるので定理 11.8より直ちに導かれる。

実用上よく利用される直積測度の一意性(uniqueness of product measure)についてのべる。

12.7 定義. B1をRd(1)上の σ-加法族、B2をRd(2)上の σ-加法族とする。このときRd上の σ-

加法族 σ(B1 × B2) を直積 σ-加法族(product σ-field)と呼び記号 B1 ⊗ B2で表す。また B1を定義域とする Rd(1)上の測度 µ1と B2を定義域とする Rd(2)上の測度 µ2について (µ1 × µ2)

の B1 ⊗ B2 への制限を直積測度(product measure)と呼び µ1 ⊗ µ2で表すことが多い。

12.8 注意. Mble(λ) ⊗ Mble(λ) ⊂ Mble(λ × λ) であることは定義から直ちに分かる。両者は一致しないことが知られている。

12.9 系. (B1, µ1)をRd(1)上の σ-有限な測度、(B2, µ2)をRd(2)上の σ-有限な測度とする。このとき B1 ⊗ B2で定義されたRd上の測度 µであって、条件

µ(A) = µ1(proj1A)µ2(proj2A) ∀A ∈ B1 × B2

を満たすものがただひとつ存在し、それは直積測度 µ1 ⊗ µ2である。

約束¶ ³以下 Iは左半開区間の全体に空集合 ∅ を付加した集合族を表す。µ ´

12.10 定義. R2上の σ-加法族 σ(I × I)を 2次元 Borel集合族(2-dimensional Borel σ-field)

と呼び記号B(R2)で表す。B(R2)-集合を 2次元Borel集合という。B(R2)可測な関数はBorel

可測関数とも呼ばれる。また B(R2)を定義域とする R2上の測度を Borel測度という。さらにR2上の Borel測度 µで条件 µ(J) < +∞ ∀J ∈ I × I を満たすものをRadon測度という。(一般のRdでも同様のものを考えるが詳細は省略する。)

2次元Lebesgue測度の一意性(uniqueness of Lebesgue measure) は次のように表現できる。

12.11 定理. 2次元 Lebesgue測度 λ(2)の B(R2)への制限は、

µ((a1, b1] × (a2, b2]) = (b1 − a1)(b2 − a2) ∀a1 < ∀b1 ∀a2 < ∀b2

を満たす唯一のR2上のBorel測度である。

証明. 系 12.4によれば、2次元 Lebesgue測度 λ(2) は

λ(2)(A) = λ(proj1A)λ(proj2A) ∀A ∈ Mble(λ) × Mble(λ)

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を満たす。I ⊂ Mble(λ) であったので、λ(2) のB(R2)への制限は所定の条件を満たす。従って存在が分かる。次にµを所定の条件を満たすR2上のBorel測度としよう。また、mを 1次元Lebesgue測度 λの Iへの制限で与えられる有限加法的測度としよう。ともにR2上の σ-有限な有限加法的測度 (I × I,m × m) を拡張するので

µ(A) = (m × m)⋆(A) = λ(2)(A) ∀A ∈ σ(I × I) = B(R2).

が定理 12.6 により成り立つ。

Lebesgue測度と平行移動との結びつきは高次元の場合にも強固である。多次元においては回転が重要な役割を果たすのでまとめて議論するために少し一般的に設定する。次の補題は、次節以降で述べる Fubiniの定理の応用に際しても重要である。

12.12 補題. (i) Rd(1)の可算 C1被覆とRd(2)の可算 C2被覆が存在するならRd上の σ加法族σ(C1 × C2)と σ(C1) ⊗ σ(C2) は一致する。(ii) m1, m2はともに σ-加法的かつ σ-有限とする。µ1をm⋆

1の σ(C1)への制限、µ2をm⋆2の

σ(C2)への制限とすると µ1 ⊗ µ2 は (m1 × m2)⋆を σ(C1 × C2) に制限したものである。

証明. (i) まず C1 × C2 ⊂ σ(C1) × σ(C2) ⊂ σ(C1) ⊗ σ(C2) である。右辺は C1 × C2を含む σ-加法族であるがそのようなものの最小が σ(C1 ×C2) なので σ(C1 ×C2) ⊂ σ(C1)⊗ σ(C2) を得る。次の集合族 BがRd(1)上の σ-加法族であることを示すのは演習問題に委ねる。

B := {A ∈ Sbset(Rd(1)) : A × Rd(2) ∈ σ(C1 × C2)}.

A ∈ C1についてA×Rd(2) ∈ C1 ×C2 はいえないかもしれないが、Rd(2)の可算 C2被覆が存在するので、A×Rd(2) ∈ σ(C1 × C2) は真である。従ってBは C1を含む σ-加法族となるが、そのようなものの最小が σ(C1) なので σ(C1) ⊂ Bである。すなわち

A ∈ σ(C1) ⇒ A × Rd(2) ∈ σ(C1 × C2).

同様にB ∈ σ(C2) ⇒ Rd(1) × B ∈ σ(C1 × C2) も成り立つ。以上より

A ∈ σ(C1), B ∈ σ(C2) ⇒ A × B = (A × Rd(2)) ∩ (Rd(1) × B) ∈ σ(C1 × C2).

従って σ(C1)× σ(C2)は σ-加法族 σ(C1 × C2)に含まれる。σ(C1)× σ(C2)で生成される σ-加法族が σ(C1) ⊗ σ(C2) なので σ(C1) ⊗ σ(C2) ⊂ σ(C1 × C2) を得る。

(ii) (i)により µ1 ⊗ µ2は定理 12.6 の条件を満たす。

12.13 演習問題. 補題 12.12の証明に登場した集合族 Bは σ-加法族であることを示せ。

12.14 系. (i) B(R2) = B(R) ⊗ B(R).

(ii) mを λの B(R)への制限とするときm ⊗ m は λ(2)を B(R2) に制限したものである。

証明. 補題 12.12から直ちに分かる。

警告¶ ³A ∈ B(R) × B(R) なら proj1A ∈ B(R), proj2A ∈ B(R) であるが、一般にはA ∈ B(R) ⊗ B(R) から proj1A ∈ B(R) や proj2A ∈ B(R) は従わない。µ ´

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12.15 補題. R2の開部分集合全体で生成される σ-加法族は B(R2)と一致する。

証明. Rの開区間全体を U とあらわす。次に着目する。

(a, b] =∞∩

n=1

(a, b + 1/n) ∈ σ(U), (a, b) =∞∪

n=1

(a, b − 1/n] ∈ σ(I) = B(R)

左から B(R) ⊂ σ(U) が分かり、右から σ(U) ⊂ B(R) が分かる。よって

σ(U) = B(R).

ここで補題 12.12と系 12.14を適用して

σ(U × U) = σ(U) ⊗ σ(U) = B(R) ⊗ B(R) = B(R2).

次にR2の開部分集合全体をOとあらわす。(U × U)-集合はすべてO-集合であるから、

B(R2) = σ(U × U) ⊂ σ(O).

他方、次が成り立つので任意のO-集合は σ-加法族 σ(U × U) に属する。

(12.16) 任意のR2の開部分集合は (U × U)-集合の可算合併である。

したがって σ(O)の定義により σ(O) ⊂ σ(U × U) = B(R2) を得る。

12.17 演習問題. (12.16)を示せ。

12.18 補題. 連続関数 f : R2 → Rは B(R2)可測である。

証明. a ∈ Rとする。連続性より {x ∈ R2 : f(x) < a}は開集合である。従って補題 12.15を適用して {x ∈ R2 : f(x) < a} ∈ B(R2) が導ける。

12.19 補題. µをR2上のBorel測度、ϕ : R2 → R2を連続写像とする。(i) ϕ−1(A) ∈ B(R2) ∀A ∈ B(R2) が成り立つ。任意の B(R2)可測関数 f : R2 → R に対して合成関数 f ◦ ϕ : R2 → R も B(R2)可測である。(ii) B(R2) → R, A 7→ µ(ϕ−1(A)) はR2上の測度である。

証明. (i) 次の集合族がR2上の σ-加法族であることを示すのは演習問題に委ねる。

B := {A ∈ Sbset(R2) : ϕ−1(A) ∈ B(R2)}.

ϕの連続性と補題 12.15により

U R2の開部分集合 ⇒ ϕ−1(U) 開集合 ⇒ ϕ−1(U) ∈ B(R2)

従って任意の開部分集合はσ-加法族Bに属する。補題 12.15によれば開部分集合全体がB(R2)

を生成するので B(R2) ⊂ B を得る。すなわち

A ∈ B(R2) ⇒ ϕ−1(A) ∈ B(R2)

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つぎに f の可測性により {y ∈ R2 : f(y) < a} ∈ B(R2) ∀a ∈ R である。よって

{x ∈ R2 : f(ϕ(x)) < a} = ϕ−1({y ∈ R2 : f(y) < a}) ∈ B(R2) ∀a ∈ R

が導かれる。すなわち f ◦ ϕ も B(R2)可測である。(ii)を示すのは演習問題とする。

12.20 演習問題. (i) 補題 12.19の証明で登場した Bは σ-加法族であることを示せ。(ii) 補題 12.19(ii)を示せ。

次に述べるように 2次元 Lebesgue測度は平行移動不変性を持ち、逆に平行移動不変なR2

上の測度は実質上 2次元 Lebesgue測度だけなのである。

12.21 定理. µをR2上のRadon測度とする。(i) λ(2)(A + t) = λ(2)(A) ∀A ∈ B(R2) ∀t ∈ R2.

(ii) µ(A + t) = µ(A) ∀A ∈ I × I ∀t ∈ R2 ⇒ µ(A) = µ((0, 1] × (0, 1])λ(2)(A) ∀A ∈ B(R2).

証明. (i) 補題 12.19により B(R2) → R, A 7→ λ(2)(A + t) はR2上の測度である。さて

proj1(J + t) = proj1J + t1, proj2(J + t) = proj2J + t2 ∀J ∈ I × I

である。よって各 J ∈ I × Iに対して

λ(2)(J + t) = λ(proj1J + t1)λ(proj2J + t2) = λ(proj1J)λ(proj2J) = λ(2)(J).

ゆえに定理 12.11を適用して (i)を得る。(ii)を示すのは演習問題とする。

12.22 演習問題. 定理 12.21(ii)を示せ。(ヒント 関数 f : (0, +∞) → R, t 7→ µ((0, t]× (a, b])

は右連続かつ f(t + s) = f(t) + f(s) ∀t,∀s を満たすことをまず示せ。)

平行移動はユークリッド距離を保存する。これがLebesgue測度の平行移動不変性を導くのだが、その観点からの証明は更に高度な概念に依存するのでここでは割愛する。さて高次元空間では別のタイプの距離を保存する変換が存在する。それは回転である。2次元 Lebesgue

測度が回転不変(rotation invariant)であることを平行移動不変性と関連づけて示そう。

12.23 定理. 2次元直交写像 ϕに対して λ(2)(ϕ−1(A)) = λ(2)(A) ∀A ∈ B(R2) が成り立つ。

証明. R2上の測度A 7→ λ(2)(ϕ−1(A)) はRadon測度である。他方

ϕ−1(A + t) = ϕ−1(A) + ϕ−1(t)

であるから定理 12.21(i) を適用して

λ(2)(ϕ−1(A + t)) = λ(2)(ϕ−1(A)) ∀A ∈ B(R2) ∀t ∈ R2

を得る。従って定理 12.21(ii) の仮定が満たされる。よって

∃c ≥ 0 s.t. λ(2)(ϕ−1(A)) = cλ(2)(A) ∀A ∈ B(R2).

特に、∥ · ∥をユークリッドノルムとするとき、開集合A = {x ∈ R2 : ∥x∥ < 1} については

(12.24) ϕ−1(A) = A, 0 < λ(2)(A) < +∞

なので c = 1 を得る。

12.25 演習問題. (12.24)を示せ。

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13 Dynkin族定理と直積測度の構造直積測度の構造をその断面から観察するのがFubiniの定理である。それに向けてのお膳立

てを行うのがこの節の目的である。可測性に関する概念が多変数になることにより込み入ったものになるが、結局は直積という概念から逸脱するものではないことが判明する。この節の最重点は補題 13.11である。通常は、単調族の概念を利用することが多いが、ここでは確率論において様々な場面で利用されるDynkin族定理を紹介する。

前提¶ ³(B1, µ1)をRd(1)上の σ-有限な測度、(B2, µ2)をRd(2)上の σ-有限な測度とする。また d = d(1) + d(2)とする。µ ´再確認¶ ³記号B1 ⊗B2は直積 σ-加法族を表す。このとき直積測度 µ1 ⊗ µ2は次の条件を満たす (Rd,B1 ⊗ B2) 上の一意的な測度である。系 12.9を参照

(µ1 ⊗ µ2)(A × B) = µ1(A)µ2(B) ∀A ∈ B1∀B ∈ B2.

ここでは 0と∞の積は 0と約束している。µ ´13.1 補題. A ∈ B1 ⊗ B2とする。(i) 各 x ∈ Rd(1)に対して関数Rd(2) → R, y 7→ 1A(x, y) は B2-可測である。(ii) 各 y ∈ Rd(2)に対して関数Rd(1) → R, x 7→ 1A(x, y) は B1-可測である。

証明. (i) 次がRd上の σ-加法族でしかも B1 × B2を含むことを示すのは演習問題とする。

B := {A ∈ Sbset(Rd) : y 7→ 1A(x, y) B2-可測 ∀x ∈ Rd(1)}.

そのようなものの最小が B1 ⊗ B2 なので B1 ⊗ B2 ⊂ B すなわち

A ∈ B1 ⊗ B2 ⇒ y 7→ 1A(x, y) B2-可測 ∀x ∈ Rd(1)

を得る。(ii)を示すには x, yの役割を入れ替えればよい。

13.2 演習問題. 補題 13.1の証明に登場したBがB1 ×B2を含む σ-加法族であることを示せ。

13.3 系. A ∈ B(R2)とする。(i) 各 x ∈ Rに対して関数R → R, y 7→ 1A(x, y) は B(R)-可測である。(ii) 各 y ∈ Rに対して関数R → R, x 7→ 1A(x, y) は B(R)-可測である。

証明. 系 12.14(i)と補題 13.1から従う。

今までの経験からすると次の集合族は B1 × B2を含む σ-加法族であるように思われる。

{A ∈ B1 ⊗ B2 : x 7→∫

Rd(2)

1A(x, y) µ2(dy) は B1-可測 }.

しかしこれがかなり手強いしろものでその証明を与える補題 13.11 はFubiniの定理において中心をなすものとなる。見通しよく議論するのには新しい概念を導入する必要がある。

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13.4 定義. DをRdの部分集合族とする。それが条件

(i) ∅ ∈ D.

(ii) A ∈ D, B ∈ D, A ⊃ B ⇒ A \ B ∈ D.

(iii) An ∈ D ∀n ∈ N, An ⊂ An+1 ∀n ∈ N ⇒∪∞

n=1 An ∈ D.

を満たすときDynkin族(Dynkin system)をなすという。

任意のRd上の σ-加法族はDynkin族である。付帯条件を付けると逆も正しい。

13.5 補題. DをRd上のDynkin族とする.

(i) Rd ∈ DかつA ∩ B ∈ D ∀A ∈ D ∀B ∈ D ならDは σ-加法族である。(ii) 任意のB ∈ Sbset(Rd)に対して {A ∈ Sbset(Rd) : A ∩ B ∈ D} はDynkin族である。

証明. (i) Rd ∈ DとDynkin族の条件 (ii)より

A ∈ D ⇒ Ac = Rd \ A ∈ D.

次に上のことと仮定A ∩ B ∈ D ∀A ∈ D ∀B ∈ D より

A ∈ D, B ∈ D ⇒ A ∪ B = (Ac ∩ Bc)c ∈ D.

従ってA1, A2, . . . , An ∈ D ⇒∪n

k=1 Ak ∈ D である。他方∪n

k=1 Ak ⊂∪n+1

k=1 Ak が成り立つので、Dynkin族の条件 (iii)より

An ∈ D ∀n ∈ N ⇒∞∪

n=1

An =∞∪

n=1

( n∪k=1

Ak

)∈ D.

(ii) まず ∅ ∩ B = ∅ ∈ Dである。次にA1 ∩ B ∈ D, A2 ∩ B ∈ D, A1 ⊃ A2とすると

(A1 \ A2) ∩ B = (A1 ∩ B) \ (A2 ∩ B) ∈ D

である。最後にAn ∩ B ∈ D ∀n ∈ N, An ⊂ An+1 ∀n ∈ N とすると( ∞∪n=1

An

)∩ B =

∞∪n=1

(An ∩ B) ∈ D

が導かれる。よってDynkin族の条件がすべて確認できた。

補題 11.5でのべたようにRd上の σ-加法族たちの共通部は σ-加法族である。これと同じことがDynkin族についてもいえる。

13.6 補題. (i) Rd上のDynkin族たちDα に対しそれらの共通部∩

α Dα もDynkin族である。(ii) Rdの部分集合の族Aに対しAを含むRd上のDynkin族たちに最小のものが存在する。

証明の実行は補題 11.5のそれと同じすじなので演習問題とする。

13.7 演習問題. 補題 13.6を示せ。

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13.8 定義. Aを Rdの部分集合の族とする。Aを含む Rd上のDynkin族で最小のものをAで生成されるDynkin族と呼ぶ。

13.9 補題. CをRdの部分集合族で次の条件を満たすものとする。

A ∩ B ∈ C ∀A ∈ C ∀B ∈ C.

Cで生成されるRd上のDynkin族をDとするとA ∩ B ∈ D ∀A ∈ D ∀B ∈ D が成り立つ。

証明. DはDynkin族なので補題 13.5(ii) および補題 13.6(i)により

D1 := {A ∈ Sbset(Rd) : A ∩ B ∈ D ∀B ∈ C} =∩B∈C

{A ∈ Sbset(Rd) : A ∩ B ∈ D}

はRd上のDynkin族である。Cに対する条件と関係 C ⊂ Dにより

A ∈ C ⇒ A ∩ B ∈ C ∀B ∈ C ⇒ A ∩ B ∈ D ∀B ∈ C.

従って集合族 D1は Cを含む Dynkin族である。Dは Cで生成される Dynkin族であるからD ⊂ D1 すなわちA ∈ D ⇒ A ∩ B ∈ D ∀B ∈ C を得る。これは次と同値である。

A ∈ D, B ∈ C ⇒ A ∩ B ∈ D.

A, Bの役割を入れ替えてみよう。

A ∈ C ⇒ A ∩ B ∈ D ∀B ∈ D.

よって次の集合族は Cを含む。

D2 := {A ∈ Sbset(Rd) : A ∩ B ∈ D ∀B ∈ D}.

しかもD1に対するのと同じ根拠により集合族D2はDynkin族である。Dは Cで生成されるDynkin族であるからD ⊂ D2 すなわちA ∈ D ⇒ A ∩ B ∈ D ∀B ∈ D を得る。

次はDynkin族定理と呼ばれる。

13.10 定理. Rdの部分集合族 Cが条件A ∩ B ∈ C ∀A ∈ C ∀B ∈ C を満たすとする。このとき集合族 C ∪ {Rd}で生成されるRd上のDynkin族は σ-加法族 σ(C)に等しい。

証明. 集合族 C := C ∪ {Rd}も条件A∩B ∈ C ∀A ∈ C ∀B ∈ C を満たす。従って補題 13.9により Cで生成されるRd上のDynkin族Dは条件

A ∩ B ∈ D ∀A ∈ D ∀B ∈ D

を満たすことになる。しかもRd ∈ Dなので補題 13.5(i)によりDは σ-加法族である。またそれは Cを含む。σ(C)は Cで生成される σ-加法族であるから σ(C) ⊂ D を得る。他方、σ-加法族はDynkin族である。よって σ(C)は C ∪ {Rd} を含むDynkin族となる。D

は C ∪ {Rd}で生成されるDynkin族であるからD ⊂ σ(C) を得る。

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記号¶ ³proj1 : Rd → Rd(1), proj2 : Rd → Rd(2) は次で定義される写像を表す。

proj1 : (x1, x2) 7→ x1, proj2 : (x1, x2) 7→ x2.µ ´警告¶ ³A ∈ B1 × B1 なら proj1A ∈ B1, proj2A ∈ B2, A = (proj1A) × (proj2A) であるが、一般にはA ∈ B1 ⊗ B2 から proj1A ∈ B1 やA = (proj1A) × (proj2A) は従わない。µ ´

13.11 補題. A ∈ B1 ⊗ B2なら関数Rd(1) → R, x 7→∫

Rd(2)

1A(x, y) µ2(dy) は B1-可測である。

証明. (B2, µ2)は σ-有限であるから補題 11.3によりRd(2)の可算 B2-分割∆で

µ2(J) < +∞ ∀J ∈ ∆

を満たすものが存在する。次の集合族を考察する。

D := {A ∈ B1 ⊗ B2 : x 7→∫

J

1A(x, y) µ2(dy) B1-可測 ∀J ∈ ∆}.

A ∈ B1 × B2としよう。このとき補題 12.2により

1A(x, y) = 1proj1A(x)1proj2A(y)∀x ∈ Rd(1) ∀y ∈ Rd(2) かつ proj2A ∈ B2

であるから∫J

1A(x, y) µ2(dy) = 1proj1A(x)

∫Rd(2)

1J1proj2A µ2 = 1proj1A(x)µ2(J ∩ proj2A) ∀x ∈ Rd(1).

従って proj1A ∈ B1 より各 J ∈ ∆に対し x 7→∫

J

1A(x, y) µ2(dy) は B1-可測である。即ち

B1 × B2 ⊂ D.

次にA ∈ D, B ∈ D, A ⊂ Bとしよう。このとき 1B − 1A = 1B\Aである。さて

0 ≤∫

J

1A(x, y) µ2(dy) ≤∫

J

1B(x, y) µ2(dy) ≤ µ2(J) < +∞ ∀J ∈ ∆

であるから定理 4.10を適用して∫J

1B\A(x, y) µ2(dy) =

∫J

1B(x, y) µ2(dy) −∫

J

1A(x, y) µ2(dy) ∀J ∈ ∆

を得る。右辺の各項はA ∈ D, B ∈ Dより xに関して B1-可測である。従って

A ∈ D, B ∈ D, A ⊂ B ⇒ B \ A ∈ D.

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最後にAn ∈ D ∀n ∈ N, An ⊂ An+1 ∀n ∈ N, A :=∪∞

n=1 An とすると定理 3.18より∫J

1A(x, y) µ2(dy) =

∫J

supn∈N

1An(x, y) µ2(dy) = supn∈N

∫J

1An(x, y) µ2(dy) ∀J ∈ ∆

が導かれる。各関数 x 7→∫

J

1An(x, y) µ2(dy) はAn ∈ DよりB1-可測である。よって補題 5.1

により関数 x 7→∫

J

1A(x, y) µ2(dy) (A :=∪∞

n=1 An) の B1-可測性を得る。従って

An ∈ D ∀n ∈ N, An ⊂ An+1 ∀n ∈ N ⇒∞∪

n=1

An ∈ D.

以上よりDは B1 × B2 をふくむDynkin族である。他方、集合族 B1 × B2は定理 13.10の条件を満たしかつRd ∈ B1 × B2 であるから

σ(B1 × B2) = B1 × B2で生成されるDynkin族

従って B1 ⊗ B2 = σ(B1 × B2) ⊂ D すなわち

A ∈ B1 ⊗ B2 ⇒ x 7→∫

J

1A(x, y) µ2(dy) B1-可測 ∀J ∈ ∆.

A ∈ B1 ⊗ B2とする。∆はRd(2)の可算 B2-分割なので定理 5.5を適用して∫Rd(2)

1A(x, y) µ2(dy) =∑J∈∆

∫J

1A(x, y) µ2(dy) ∀x ∈ Rd(1)

を得る。従って x 7→∫

Rd(2)

1A(x, y) µ2(dy) は B1-可測である。

13.12 系. A ∈ B(R2)なら関数R → R, x 7→∫

R1A(x, y) µ2(dy) は B(R)-可測である。

証明. 系 12.14(i)と補題 13.11から従う。

次は Fubiniの定理で骨格を形成するが、これを述べるには補題 13.11が不可欠である。

13.13 定理.

∫Rd(1)

( ∫Rd(2)

1A(x, y) µ2(dy))

µ1(dx) = (µ1 ⊗ µ2)(A) ∀A ∈ B1 ⊗ B2.

証明. 補題 13.11のおかげで関数 µ : B1 ⊗ B2 → R を次で定義することができる。

µ(A) :=

∫Rd(1)

( ∫Rd(2)

1A(x, y) µ2(dy))

µ1(dx).

その定義から直ちに µ(A) ≥ 0 ∀A ∈ B1 ⊗ B2 かつ µ(∅) = 0 である。∆をA ∈ B1 ⊗ B2 の可算B1 ⊗ B2-分割とする。このとき

1A(x, y) =∑J∈∆

1J(x, y)

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である。まず補題 5.4を適用して∫Rd(2)

1A(x, y) µ2(dy) =∑J∈∆

∫Rd(2)

1J(x, y) µ2(dy)

を得る。もう一度補題 5.4を適用して∫Rd(1)

( ∫Rd(2)

1A(x, y) µ2(dy))

µ1(dx) =∑J∈∆

∫Rd(1)

( ∫Rd(2)

1J(x, y) µ2(dy))

µ1(dx)

が導かれる。即ち µは σ-加法的である。ゆえに

(B1 ⊗ B2, µ)はRd上の測度である。

次にA ∈ B1 × B2 としよう。このとき補題 12.2より

proj1A ∈ B1, proj2A ∈ B2, 1A(x, y) = 1proj1A(x)1proj2A(y)∀x ∈ Rd(1) y ∈ Rd(2)

であるから次が成り立つ。∫Rd(1)

( ∫Rd(2)

1A(x, y) µ2(dy))

µ1(dx) = µ1(proj1A)µ2(proj2A) = (µ1 ⊗ µ2)(A).

(B1, µ1), (B2, µ2)は σ-有限であるから系 12.9により µ = µ1 ⊗ µ2 が導かれる。

記号¶ ³λを 1次元Lebesgue測度、λ(2)を 2次元Lebesgue測度とする。µ ´

13.14 系.

∫R

( ∫R

1A(x, y) λ(dy))

λ(dx) = λ(2)(A) ∀A ∈ B(R2).

証明. 系 12.14と定理 13.13から従う。

定理 13.13の典型的な応用例をあげる。まずはおなじみの縦線領域の面積公式である。

13.15 例. f : Rd → RをB可測関数、µを (Rd,B)上の σ-有限測度とするとき次が成り立つ。A := {(x, y) ∈ Rd × R : 0 < y < f(x)} ∈ B ⊗ B(R) かつ

(µ ⊗ λ)(A) =

∫Rd

max{f, 0}µ

証明. A ∈ B ⊗ B(R)であることは次により確認できる。

{(x, y) ∈ Rd × R : 0 < y < f(x)} =∪

q∈Q:q>0

({x : f(x) > q} × (0, q])

あとは 1A(x, y) = 1(0,f(x))(y) に注意して定理 13.13を適用すればよい。

系 12.14(i)により B(R2) = B(R) ⊗ B(R) であることを確認しておこう。

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13.16 例. µを (R,B(R))上の σ-有限測度で条件 µ({x}) = 0 ∀x ∈ R を満たすものとする。このとき集合D := {(x, y) ∈ R2 : x = y} は B(R2)に属しかつ (µ ⊗ µ)(D) = 0 である。

証明. DcはR2の開集合であるから補題 12.15によりDc ∈ B(R2) である。Dの定義により1D(x, y) = 1 ⇔ x = y であるから∫

R1D(x, y) µ(dy) = µ({x}) = 0 ∀x ∈ R.

定理 13.13を適用して (µ ⊗ µ)(D) = 0 を得る。

補題 12.19(i)より、連続写像 ϕ : R2 → R2 と B(R2)可測関数 f : R2 → R の合成 f ◦ ϕ はB(R2)可測であることを思い出そう。

13.17 補題.

∫R2

1A(x + cy, y) λ(2)(dxdy) = λ(2)(A) ∀c ∈ R ∀A ∈ B(R2).

証明. 任意に c ∈ Rを固定して、写像 ϕ : (x, y) 7→ (x + cy, y) を導入する。このとき

1A(x + cy, y) = 1ϕ−1(A)(x, y).

A ∈ B(R2)と仮定する。補題 12.19(i)より ϕ−1(A) ∈ B(R2) であるから

(⋆)

∫R2

1A(x + cy, y) λ(2)(dxdy) =

∫R2

1ϕ−1(A)(x, y) λ(2)(dxdy) = λ(2)(ϕ−1(A))

と議論が展開する。補題 12.19(ii)によれば右辺はB(R2)上の測度を定義する。他方、系 13.14

を中辺に適用すると

µ(A) :=

∫R2

1A(x + cy, y) λ(2)(dxdy) =

∫R

( ∫R

1ϕ−1(A)(x, y) λ(dx))

λ(dy).

B(R2)上定義された測度 µを λ(2)と比較するというのがこれからの方針である。このままでは先に進まないので、Aに簡単な形を仮定する。1次元半開区間 I, J に対し

1ϕ−1(I×J)(x, y) = 1I×J(x + cy, y) = 1I(x + cy)1J(y) = 1I−cy(x)1J(y).

よって

µ(I × J) =

∫R

( ∫R

1I−cy(x)1J(y) λ(dx))

λ(dy) =

∫R

λ(I − cy)1J(y) λ(dy).

定理 11.16よれば λ(I − cy) = λ(I)と評価される。従って

µ(I × J) = λ(I)λ(J)

となり B(R2)上の測度 µ は定理 12.11の仮定を満たす。よって∫R2

1A(x + cy, y) λ(2)(dxdy) = µ(A) = λ(2)(A)

が任意のA ∈ B(R2)に対して成り立つことが導けた。

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13.18 例. B ∈ B(R)が λ零集合なら {(x, y) ∈ R2 : x + y ∈ B}は λ(2)零集合である。

証明. Bを λ零集合とする。c = 1, A = B × Rとして補題 13.17を適用する。∫R2

1B×R(x + y, y) λ(2)(dxdy) = λ(2)(B × R) = λ(B)λ(R).

このとき 1B×R(x + y, y) = 1 ⇔ x + y ∈ B であり λ(B) = 0 であるから

λ(2)({(x, y) ∈ R2 : x + y ∈ B}) = 0.

したがって {(x, y) ∈ R2 : x + y ∈ B} は λ(2)零集合である。

定理12.23によれば2次元Lebesgue測度は回転不変である。もう少し一般に2次元Lebesgue

測度を保存する線形写像について調べよう。以下に述べるように行列式が 1または−1であるような正則線形写像に関して 2次元 Lebesgue測度は不変である。

13.19 定理. 2次元正則線形写像 ϕに対して次が成り立つ。

λ(2)(ϕ−1(A)) =

∫R2

1A(ϕ(x, y)) λ(2)(dxdy) = λ(2)(A)/| det ϕ| ∀A ∈ B(R2).

証明. 基本変形を使うと 2次正則行列は次の3タイプの行列の積で表すことができる。(1 c

0 1

) (c 0

0 1

) (0 1

1 0

)ただし c = 0

写像ϕが上の何れかの表現行列を持つ場合に命題を示せばよいのだがその理由付けは演習問題に託す。さてそれぞれの行列式は 1, c, −1 であるから証明すべきは∫

R2

1A(x + cy, y) λ(2)(dxdy) = λ(2)(A),∫R2

1A(cx, y) λ(2)(dxdy) = λ(2)(A)/|c|,∫R2

1A(y, x) λ(2)(dxdy) = λ(2)(A).

第1番目はまさに補題 13.17である。第 2番目について検討しよう。方針は 2次元 Lebesgue

測度の一意性への帰着である。Aに簡単な形を仮定する。1次元半開区間 (a, b]と J に対し

1(a,b]×J(cx, y) = 1(a,b](cx)1J(y) =

{1(a/c,b/c](x)1J(y) c > 0

1[b/c,a/c)(x)1J(y) c < 0.

c > 0なら λ((a/c, b/c]) = (b − a)/cであり c < 0なら λ([b/c, a/c)) = (b − a)/|c|である。いずれにしても次が成り立つ。

|c|∫

R2

1(a,b]×J(cx, y) λ(2)(dxdy) = λ((a, b])λ(J).

定理 12.11 を測度A 7→ |c|∫

R2 1A(cx, y) λ(2)(dxdy) に適用して

|c|∫

R2

1A(cx, y) λ(2)(dxdy) = λ(2)(A)∀A ∈ B(R2).

第3番目については演習問題とする。

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13.20 演習問題. 定理 13.19 の証明を完結させよ。とくに3タイプの表現行列を持つ場合に帰着できる理由を重点的に考察せよ。

次に述べる平行四辺形の面積公式は、直積測度の構造をその断面から観察するというFubini

の定理が生み出す帰結のうちでも典型的なものである。

13.21 例. 独立ベクトルの組 t(a, c), t(b, d) ∈ R2 のはる平行四辺形の面積は |ad− bc|である。

証明. 独立性により ad − bc = 0である。組 t(a, c), t(b, d) のはる平行四辺形は

A := {t(x, y) : ∃s ∈ (0, 1]∃t ∈ (0, 1] s.t. x = sa + tb, y = sc + td}

と表せる。ここで表現行列

(a b

c d

)を持つ線形写像R2 → R2を ϕとすると

A = ϕ((0, 1] × (0, 1])

が成り立つ。ϕは単写であることに注意して定理 13.19 を適用する。

λ(2)(A)/| det ϕ| = λ(2)(ϕ−1(A)) = λ(2)((0, 1] × (0, 1]) = 1.

det ϕ = ad − bcであるから λ(2)(A) = |ad − bc| が導かれた。

この節ではDynkin族定理を直積測度の構造を調べるのに活用したが、それ以外にも広い応用例を持つ。一意性証明への適用が典型的であるので、その一つを紹介しておく。

13.22 定理. Cを Rdの部分集合族で条件 A ∩ B ∈ C ∀A ∈ C ∀B ∈ C を満たすもの、µをσ(C)上の測度、f, g : Rd → R を (σ(C), µ)可積分関数とする。このとき次が成り立つ。∫

A

f µ =

∫A

g µ ∀A ∈ C,

∫Rd

f µ =

∫Rd

g µ ⇒ f = g µ-a.e.

証明. 仮定により次の集合族は C ∪ {Rd} ⊂ D を満たす。また ∅ ∈ Dは自明である。

D := {A ∈ σ(C) :

∫A

f µ =

∫A

g µ}.

A ∈ D, B ∈ D, A ⊂ Bとしよう。このとき 1B − 1A = 1B\Aである。定理 4.10を適用して∫B\A

f µ =

∫B

f µ −∫

A

f µ =

∫B

g µ −∫

A

g µ =

∫B\A

g µ

即ちB \ A ∈ Dを得る。次にAn ∈ D ∀n ∈ N, An ⊂ An+1 ∀n ∈ N とすると定理 5.7より∫Rd

1Af µ = limn→∞

∫Rd

1Anf µ = limn→∞

∫Rd

1Ang µ =

∫Rd

1Ag µ,

ここでA :=∪∞

n=1 Anとした、即ち∪∞

n=1 An ∈ Dが導かれる。以上よりDは C ∪ {Rd} をふくむDynkin族である。定理 13.10より

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σ(C) = Cで生成されるDynkin族 ⊂ D

関係 σ(C) ⊂ Dは次を意味する。∫A

f µ =

∫A

g µ ∀A ∈ σ(C).

系 6.26を適用して f = g µ-a.e. を得る。

次の例 13.25に述べる命題は変分法の基本補題と呼ばれることがある。幾分の準備をする。

13.23 定義. f : R → RをB(R)可測関数とする。各 a ∈ Rに対して δ ∈ R>0が存在して fが区間 (a− δ, a + δ)上で λ可積分となるとき fは局所可積分(locally integrable)であるという。

連続関数R → Rは補題 11.11 によりB(R)可測である。また局所可積分でもあることを注意しておこう。

記号¶ ³台が有界な連続関数R → R全体の集合をC0(R) という記号で表す。µ ´

13.24 演習問題. (B(R), λ)局所可積分関数 f : R → R は任意の有界閉区間上で λ可積分であり従って任意の φ ∈ C0(R)に対し積 fφは (B(R), λ)可積分であることを示せ。

13.25 例. f, g : R → Rを (B(R), λ)局所可積分関数とする。このとき次が成り立つ。∫R

fφ λ =

∫R

gφ λ ∀φ ∈ C0(R) ⇒ f = g λ-a.e.

証明. a, b ∈ R, a < bとする。次のような関数列を導入する。

φn(x) := min{n max{x − a, 0}, n max{b − x, 0}, 1}

すぐ分かるように φn ∈ C0(R), 0 ≤ φn ≤ φn+1, supn∈N φn = 1(a,b) が成り立つ。他方、fφn = 1(a,b)fφn, gφn = 1(a,b)gφn であることにも着目しよう。仮定により∫

Rfφn λ =

∫R

gφn λ ∀n ∈ N

である。さて 1(a,b)f および 1(a,b)gは可積分であるので、これらを優関数に選んで定理 5.7 を適用すると次のように収束することが分かる。

limn→∞

∫R

fφn λ =

∫R

f1(a,b) λ =

∫(a,b)

f λ, limn→∞

∫R

gφn λ =

∫(a,b)

g λ.

従って、各 k ∈ Nに対して次が導ける。∫I

f1(−k,k) λ =

∫I∩(−k,k)

f λ =

∫I∩(−k,k)

g λ =

∫I

g1(−k,k) λ ∀I 有界開区間、∅またはR

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有界開区間全体で生成される σ加法族は B(R)に等しくまた開区間どうしの共通部は開区間または空集合であるので、定理 13.22により f1(−k,k) = g1(−k,k) λ-a.e. を得る。ここで

{x ∈ R : f = g} =∞∪

k=1

{x ∈ R : f1(−k,k) = g1(−k,k)}.

右辺は λ零集合の可算合併であるから、系 6.20(i)を適用して λ零集合であることが分かる。従って λ({x ∈ R : f = g}) = 0 即ち f = g λ-a.e. が結論づけられる。

記号¶ ³Cr

0(R) := {f ∈ C0(R) : R上でCr級 }µ ´13.26 演習問題. f, g : R → Rを (B(R), λ)局所可積分関数、r ∈ Nとする。このとき∫

Rfφ λ =

∫R

gφ λ ∀φ ∈ Cr0(R) ⇒ f = g λ-a.e.

が成り立つことを例 13.25 の証明法を改良して示せ。ヒント:次で定義される関数 ψは Cr

級である。ただしBは beta関数である。

ψ(x) :=

0 x < 0

1

B(r + 1, r + 1)

∫(0,x]

yr(1 − y)r λ(dy) 0 ≤ x ≤ 1

1 x > 1

a < bが与えられたとして関数列 φn(x) := ψ(n(x − a)) ψ(n(b − x)) を考察せよ。

14 Fubini-Tonelliの定理と単調収束定理非負値可測関数についてFubiniの定理を紹介する。ここでは単調収束定理が果たす役割を中心に考察を進めていく。

前提¶ ³(B1, µ1)をRd(1)上の σ-有限な測度、(B2, µ2)をRd(2)上の σ-有限な測度とする。また d = d(1) + d(2)とする。特別な場合として λを 1次元 Lebesgue測度、λ(2)

を 2次元 Lebesgue測度とする。µ ´再確認¶ ³記号 B1 ⊗ B2は直積 σ-加法族を表す。このとき直積測度 µ1 ⊗ µ2は次の条件を満たす (Rd,B1 ⊗ B2) 上の一意的な測度である。

(µ1 ⊗ µ2)(A × B) = µ1(A)µ2(B) ∀A ∈ B1∀B ∈ B2.

ここでは 0と∞の積は 0と約束している。µ ´82

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14.1 補題. 関数 f : Rd → R は B1 ⊗ B2-可測とする。(i) 各 x ∈ Rd(1)に対して関数Rd(2) → R, y 7→ f(x, y) は B2-可測である。(ii) 各 y ∈ Rd(2)に対して関数Rd(1) → R, x 7→ f(x, y) は B1-可測である。

証明. (i) a ∈ Rを任意に固定する。B1 ⊗ B2可測性により

A := {(x, y) ∈ Rd : f(x, y) < a} ∈ B1 ⊗ B2.

ここで x ∈ Rd(1)を固定する。補題 13.1(i)により y 7→ 1A(x, y) は B2-可測であるから

{y ∈ Rd(2) : f(x, y) < a} = {y ∈ Rd(2) : 1A(x, y) ≥ 1} ∈ B2.

よって y 7→ f(x, y) は B2-可測である。(ii)を示すには x, yの役割を入れ替えればよい。

14.2 系. 関数 f : R2 → R は B(R2)-可測とする。(i) 各 x ∈ Rに対して関数R → R, y 7→ f(x, y) は B(R)-可測である。(ii) 各 y ∈ Rに対して関数R → R, x 7→ f(x, y) は B(R)-可測である。

証明. 系 12.14と補題 14.1から従う。

非負値可測関数についてはFubiniの定理、Tonelliの定理あるいはFubini-Tonelliの定理と呼ぶべきかもしれない、は非常に明解である。

14.3 定理. 関数 f : Rd → R は非負値かつ B1 ⊗ B2-可測とする。

(i) 関数Rd(1) → R, x 7→∫

Rd(2)

f(x, y) µ2(dy) は B1-可測である。

(ii)

∫Rd(1)

( ∫Rd(2)

f(x, y) µ2(dy))

µ1(dx) =

∫Rd

f µ1 ⊗ µ2.

証明. まず、f が非負値 B1 ⊗ B2単関数である場合を検討する。このとき

f =∑

z∈Imagef

z1f−1{z}

と書け、右辺は有限和である。定理 4.4により∫Rd(2)

f(x, y) µ2(dy) =∑

z∈Imagef

z

∫Rd(2)

1f−1{z}(x, y) µ2(dy).

補題 13.11によれば、右辺は B1-可測関数の有限和を定義する。従って補題 4.1より関数

Rd(1) → R, x 7→∫

Rd(2)

f(x, y) µ2(dy)

の B1-可測性を得る。定理 4.4と補題 13.13を適用して∫Rd(1)

( ∫Rd(2)

f(x, y) µ2(dy))

µ1(dx) =∑

z∈Imagef

z

∫Rd(1)

( ∫Rd(2)

1f−1{z}(x, y) µ2(dy))

µ1(dx)

=∑

z∈Imagef

z (µ1 ⊗ µ2)(f−1{z}) =

∫Rd

f µ1 ⊗ µ2.

83

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これで単関数の場合の証明が完成した。一般の場合の議論に移る。補題 3.17によれば

fn ≤ fn+1 ∀n ∈ N, supn∈N

fn(x, y) = f(x, y) ∀(x, y) ∈ Rd.

を満たす非負値 B1 ⊗ B2単関数の列 fnが存在する。単関数についての考察から

Rd(1) → R, x 7→∫

Rd(2)

fn(x, y) µ2(dy)

は B1-可測である。よって定理 3.18と補題 5.1を適用して関数

Rd(1) → R, x 7→ supn∈N

∫Rd(2)

fn(x, y) µ2(dy) =

∫Rd(2)

f(x, y) µ2(dy)

の B1可測性を得る。µ1についての積分に定理 3.18を適用して∫Rd(1)

(supn∈N

∫Rd(2)

fn(x, y) µ2(dy))

µ1(dx) = supn∈N

∫Rd(1)

( ∫Rd(2)

fn(x, y) µ2(dy))

µ1(dx).

単関数についての考察から右辺の累次積分は∫

Rd fn µ1 ⊗ µ2 に等しい。従って∫Rd(1)

( ∫Rd(2)

f(x, y) µ2(dy))

µ1(dx) = supn∈N

∫Rd

fn µ1 ⊗ µ2 =

∫Rd

f µ1 ⊗ µ2.

もちろん2番目の等号は定理 3.18 から導かれる。

14.4 系. 関数 f : R2 → R は非負値かつ B(R2)可測とする。

(i) 関数R → R, x 7→∫

Rf(x, y) λ(dy) は B(R)可測である。

(ii)

∫R

( ∫R

f(x, y) λ(dy))

λ(dx) =

∫Rd

f λ(2).

証明. 系 12.14と定理 14.3から従う。

定理 14.3の証明に用いた論法、すなわち単関数について証明できればあとは単調収束定理によって処理できるという手順、は非常に有効なものであり、スタンダードマシン(standard

machine)と呼ぶ研究者もいる。じつは定理 5.5(ii) の証明においてこの論法が既に登場していたのである。是非確認しておこう。論法に慣れるため更にいくつか例をあげておく。まず線形写像に対する変数変換公式を証明する。ここで連続写像R2 → R2 と B(R2)可測

関数R2 → Rの合成はB(R2)可測であることを思いだそう。ついでに言うと連続写像R → RとB(R)可測関数R → R の合成はB(R)可測である。補題 12.19(i)の理解度を試すために上を証明してみるとよいだろう。

14.5 定理. 非負値かつ B(R2)可測な関数 f : R2 → R に対して次が成り立つ。∫R2

f(ϕ(x, y)) λ(2)(dxdy) =1

| det ϕ|

∫R2

f λ(2) ∀ϕ : R2 → R2 正則線形

特に行列式が 1または−1であるような正則線形写像は Lebesgue積分を保存する。

84

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証明. まず、f が非負値 B(R2)単関数である場合を検討する。このとき

f =∑

z∈Imagef

z1f−1{z}, f ◦ ϕ =∑

z∈Imagef

z1f−1{z} ◦ ϕ

と書け、右辺は有限和である。定理 4.4により∫R2

f(ϕ(x, y)) λ(2)(dxdy) =∑

z∈Imagef

z

∫Rd(2)

1f−1{z}(ϕ(x, y)) λ(2)(dxdy).

右辺に定理 13.19 を適用して∑z∈Imagef

z

∫Rd(2)

1f−1{z}(ϕ(x, y)) λ(2)(dxdy) =∑

z∈Imagef

zλ(2)(f−1{z})/| det ϕ|.

よって次が導出でき単関数の場合の証明が完成した。∫R2

f(ϕ(x, y)) λ(2)(dxdy) =1

| det ϕ|

∫R2

f λ(2).

一般の場合を考察する。補題 3.17によれば

fn ≤ fn+1 ∀n ∈ N, supn∈N

fn(x, y) = f(x, y) ∀(x, y) ∈ R2.

を満たす非負値 B(R2)単関数の列 fnが存在する。単関数についての考察から∫R2

fn(ϕ(x, y)) λ(2)(dxdy) =1

| det ϕ|

∫R2

fn λ(2).

両辺に定理 3.18を適用して結論が導かれる。

次は例 10.16(i)で紹介済みのものである。定理 14.5 の証明方針に従って別証明を与えよ。

14.6 演習問題. λを 1次元 Lebesgue測度とする。非負値かつ B(R)可測な関数 f : R → R

と a, c ∈ R ただし c = 0 に対して∫

Rf(cx + a) λ(dx) =

1

|c|

∫R

f λが成り立つことを示せ。

14.7 定理. 関数 f : Rd(1) → R は B1-可測、関数 g : Rd(2) → R は B2-可測とする。(i) 関数Rd → R, (x, y) 7→ f(x)g(y) は B1 ⊗ B2-可測である。(ii) f , gともに非負値であるなら∫

Rd

f(x)g(y) µ1 ⊗ µ2(dxdy) =

∫Rd(1)

f µ1

∫Rd(2)

g µ2

証明. (i) まず関数Rd → R, (x, y) 7→ f(x) がB1 ⊗B2-可測であることを確かめる。関数 f のB1-可測性により {x ∈ Rd(1) : f(x) < a} ∈ B1 ∀a ∈ R である。よって B1 ⊗ B2 の定義により

{(x, y) ∈ Rd : f(x) < a} = {x ∈ Rd(1) : f(x) < a} × Rd(2) ∈ B1 × B2 ⊂ B1 ⊗ B2 ∀a ∈ R.

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同様にして関数Rd → R, (x, y) 7→ g(y) のB1 ⊗B2-可測性もわかる。従って補題 4.14を適用して (x, y) 7→ f(x)g(y) が B1 ⊗ B2-可測であることが導かれる。

(ii) (i)と定理 14.3から明らかと言うわけではない。何が問題かと言えば、f(x) = +∞という可能性があるからである。よって∫

Rd(2)

f(x)g(y) µ2(dy) = f(x)

∫Rd(2)

g(y) µ2(dy)

が f(x) = +∞であっても成り立つことを確かめる必要がある。ここで重要なのは積についての約束 0∞ = 0である。この約束に従うと

{y ∈ Rd(2) : g(y) > 0} = {y ∈ Rd(2) : f(x)g(y) = +∞},{y ∈ Rd(2) : g(y) = 0} = {y ∈ Rd(2) : f(x)g(y) = 0}

である。後者はRd(2)に関して前者の補集合である。補題 4.17(i)を適用して∫Rd(2)

f(x)g(y) µ2(dy) =

∫{g>0}

f(x)g(y) µ2(dy) +

∫{g=0}

f(x)g(y) µ2(dy)

= +∞µ2({y : g(y) > 0}) + 0µ2({y : g(y) = 0})

まず µ2({y : g(y) > 0}) = 0と仮定する。このとき補題 4.12を適用して

f(x)

∫Rd(2)

g(y) µ2(dy) = +∞0 = 0 =

∫Rd(2)

f(x)g(y) µ2(dy)

次に µ2({y : g(y) > 0}) > 0と仮定する。補題 4.12より∫

Rd(2) g µ2 > 0であるから

f(x)

∫Rd(2)

g(y) µ2(dy) = +∞ =

∫Rd(2)

f(x)g(y) µ2(dy)

同様にして∫

Rd(2) g µ2 = +∞ の場合も含めて∫Rd(1)

f(x)

∫Rd(2)

g(y) µ2(dy) µ1(dx) =

∫Rd(2)

g(y) µ2(dy)

∫Rd(1)

f(x) µ1(dx)

が成り立つことを確かめられる。

14.8 系. 関数 f : R → R, g : R → R はともに B(R)-可測とする。(i) 関数R2 → R, (x, y) 7→ f(x)g(y) は B(R2)可測である。(ii) f , gともに非負値であるなら∫

R2

f(x)g(y) λ(2)(dxdy) =

∫R

f λ

∫R

g λ.

証明. 系 12.14と定理 14.7から従う。

補題 12.18により連続関数R2 → Rは B(R2)可測であることを確認しておこう。

14.9 例.( ∫

Re−x2

λ(dx))2

=

∫R2

e−x2−y2

λ(2)(dxdy) =

∫R

1

1 + y2λ(dy).

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証明. 左の等号は系 14.8 から従う。例 10.16(i)によれば、x = 0に対して次が成り立つ。∫R

e−x2−x2y2

λ(dy) =1

|x|

∫R

e−x2−y2

λ(dy)

λ({0}) = 0であるから、系 4.18(ii)により∫R

( ∫R

e−x2−y2

λ(dy))

λ(dx) =

∫R

( ∫R|x|e−x2−x2y2

λ(dy))

λ(dx)

いよいよ系 14.4を適用する。右辺は次に等しい。∫R2

|x|e−x2−x2y2

λ(2)(dxdy) =

∫R

( ∫R|x|e−x2−x2y2

λ(dx))

λ(dy)

x 7→ |x|e−x2(1+y2)の原始関数の一つは次で与えられ、それは明らかに有界である。

x 7→

1 − e−x2(1+y2)

2(1 + y2)x ≥ 0

e−x2(1+y2) − 1

2(1 + y2)x ≤ 0

補題 10.3(ii) にある判定条件と定理 10.1(ii)により累次積分が∫R

( ∫R|x|e−x2(1+y2) λ(dx)

)λ(dy) =

∫R

1

1 + y2λ(dy)

と評価される。

次は gamma関数と beta関数の関係としてよく知られているものである。

14.10 例. s, t > 0とする。非負値 B(R2)-可測関数 f : R2 → R に対して∫(0,+∞)×(0,+∞)

f(x + y,

y

x + y

)e−xxs−1e−yyt−1λ(2)(dxdy)

=

∫(0,+∞)×(0,1)

f(x, y)e−xxs+t−1(1 − y)s−1yt−1λ(2)(dxdy)

が成り立つ。とくに Γ(s)Γ(t) = Γ(s + t)B(s, t) である。Γ(1/2) =√

π

証明. A := {(x, y) ∈ R2 : 0 < y < x}とおく。A ∈ B(R2)である。各 y ∈ Rに対して∫R

1A(x, y)f(x,

y

x

)e−x(x − y)s−1yt−1λ(dx)

=

0 y ≤ 0∫

(y,+∞)

f(x,

y

x

)e−x(x − y)s−1yt−1λ(dx) y > 0

が成り立つ。一方、例 10.16(i) によれば、y > 0のとき右辺は次に等しい。∫(0,+∞)

f(x + y,

y

x + y

)e−(x+y)xs−1yt−1λ(dx)

87

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従って系 14.4(ii)を適用することにより∫R2

1A(x, y)f(x,

y

x

)e−x(x − y)s−1yt−1λ(2)(dxdy)

=

∫(0,+∞)×(0,+∞)

f(x + y,

y

x + y

)e−xxs−1e−yyt−1λ(2)(dxdy)

を得る。次に各 x ∈ Rに対して∫R

1A(x, y)f(x,

y

x

)e−x(x − y)s−1yt−1λ(dy)

=

0 x ≤ 0∫

(0,x)

f(x,

y

x

)e−x(x − y)s−1yt−1λ(dy) x > 0

が成り立つ。また例 10.16(i) によれば、x > 0のとき右辺は次に等しい。∫(0,1)

f(x, y)e−x(x − xy)s−1(xy)t−1xλ(dy) =

∫(0,1)

f(x, y)e−xxs+t−1(1 − y)s−1yt−1λ(dy)

である。従って系 14.4(ii)を適用することにより∫R2

1A(x, y)f(x,

y

x

)e−x(x − y)s−1yt−1λ(2)(dxdy)

=

∫(0,+∞)×(0,1)

f(x, y)e−xxs+t−1(1 − y)s−1yt−1λ(2)(dxdy)

が導かれる。以上をあわせて目的とする公式を得る。ここで f = 1と特定して系 14.8(ii)を適用すると Γ(s)Γ(t) = Γ(s + t)B(s, t) が導かれる。

Fubiniの定理というテーマからはずれるが単調収束定理の有効利用という意味で例14.9と関連して円の面積の一つの表現を見ておこう。

14.11 例. λ(2)({(x, y) ∈ R2 : x2 + y2 ≤ 1}) =

∫R2

e−x2−y2

λ(2)(dxdy).

証明. t ∈ R>0に対してA(t) := {(x, y) ∈ R2 : 0 < x2 + y2 ≤ t}とおく。線形写像 (x, y) 7→(x/

√t, y/

√t) に定理 13.19 を適用することにより次を得る。

λ(2)(A(t)) = λ(2)(√

tA(1)) = tλ(2)(A(1)).

したがって s, t ∈ R>0ただし s < tに対して

(⋆) λ(2)({(x, y) : s < x2 + y2 ≤ t}) = λ(2)(A(t)) − λ(2)(A(s)) = (t − s)λ(2)(A(1)).

次に n, k ∈ Nに対してB(n, k) := {(x, y) : (k − 1)/2n < x2 + y2 ≤ k/2n} とおく。

fn(x, y) :=∞∑

k=1

e−k/2n

1B(n,k)(x, y) は nについて非減少かつ supn∈N

fn(x, y) = e−x2−y2

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が (x, y) = (0, 0)である限り成り立つ。λ(2)({(0, 0)}) = 0なので

supn∈N

∫R2

fn λ(2) =

∫R2

e−x2−y2

λ(2)(dxdy)

が単調収束定理(例 6.22)により得られる。さて (⋆)を使うと∫R2

fn λ(2) =∞∑

k=1

e−k/2n

λ(2)(B(n, k)) =∞∑

k=1

e−k/2n 1

2nλ(2)(A(1))

単調収束定理を右辺に適用すると原始関数によって評価できる積分が得られる。

supn∈N

∞∑k=1

e−k/2n 1

2n=

∫(0,+∞)

e−x λ(dx) = 1.

従って∫

R2

e−x2−y2

λ(2)(dxdy) = λ(2)(A(1)) である。λ(2)({(0, 0)}) = 0により結論を得る。

14.12 注意. 本来、例 14.11は極座標(polar coordinate)との関連で論じるのが自然な題材である。しかしながら必ずしも線形でない写像に関する変数変換公式はきわめて厄介である。その遺漏のない証明を与えるには十分な段取りを整える必要があるので別の機会へ回すことにしたい。その一方、非負値Borel可測関数 f : [0, +∞) → R に対して∫

R2

f(x2 + y2) λ(2)(dxdy) = λ(2)({(x, y) ∈ R2 : x2 + y2 ≤ 1})∫

[0,+∞)

f λ

が成り立つのを示すのはそれほど難しくはない(連続写像 ϕ : R2 → RとA ∈ B(R)に対して ϕ−1(A) ∈ B(R2) が成り立つという補題 12.19(i)の類似命題を使う)。

脱線ついでに例 14.9の関連事項として次の演習問題にふれておく。解析学においてきわめて重要な役割を果たすので是非解いておくことを勧める。

14.13 演習問題. f : R → Rを有界な B(R)可測関数であって a ∈ R において連続なものと

する。このとき t > 0が 0に近づく極限において∫

Rf(x)e−(x−a)2/t λ(dx)/

√t は

√πf(a)に収

束することを示せ。

15 Fubiniの定理とその応用ここでは almost everywhereの概念との関わりを中心に考察を進めていく。

前提¶ ³(B1, µ1)をRd(1)上の σ-有限な測度、(B2, µ2)をRd(2)上の σ-有限な測度とする。また d = d(1) + d(2)とする。特別な場合として λを 1次元 Lebesgue測度、λ(2)

を 2次元 Lebesgue測度とする。µ ´89

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再確認¶ ³記号 B1 ⊗ B2は直積 σ-加法族を表す。このとき直積測度 µ1 ⊗ µ2は次の条件を満たす (Rd,B1 ⊗ B2) 上の一意的な測度である。

(µ1 ⊗ µ2)(A × B) = µ1(A)µ2(B) ∀A ∈ B1∀B ∈ B2.µ ´警告¶ ³上では 0と∞の積は 0と約束しているが図に乗って limn→∞

1nn2 =

limn→∞1n

limn→∞ n2 = 0∞ = 0とか∞−∞ = (1−1)∞ = 0∞ = 0としてはいけない。極限操作や分配法則の運用は慎重になる必要がある。µ ´非負値(あるいは非正値)ではない可測関数についてはFubiniの定理はかなり難解で勘違いをしやすい面がある。これは上の警告で述べた点に原因がある。状況を具体例で見よう。

15.1 例. 関数 f : R2 → Rを次で定義する。

f(x, y) :=

0 (x, y) = (0, 0)xy

(x2 + y2)2otherwise

以下の計算は定理 10.1 の応用でありすべて演習問題とする。

(15.2)

∫[−1,2]

max{f(x, y), 0}λ(dy) =

2

x(x2 + 4)x > 0

0 x = 0−1

2x(x2 + 1)x < 0

∫[−1,2]

max{−f(x, y), 0}λ(dy) =

1

2x(x2 + 1)x > 0

0 x = 0−2

x(x2 + 4)x < 0

が成り立つ。ここで f(x, y) = max{f(x, y), 0}−max{−f(x, y), 0} なので、各 x ∈ Rに対して関数 y 7→ f(x, y) は [−1, 2]上で λ-可積分であり

(15.3)

∫[−1,2]

f(x, y) λ(dy) =3x

2(x2 + 1)(x2 + 4)∀x ∈ R.∫

[0,1]

( ∫[−1,2]

f(x, y) λ(dy))

λ(dx) =1

4log

8

5.

90

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ところが1

2|x|(x2 + 1)≥ 1

4|x|∀x ∈ [0, 1],

2

|x|(x2 + 4)≥ 2

5|x|∀x ∈ [0, 1] なので

∫[0,1]

( ∫[−1,2]

max{f(x, y), 0}λ(dy))

λ(dx) = +∞∫[0,1]

( ∫[−1,2]

max{−f(x, y), 0}λ(dy))

λ(dx) = +∞

である。従って差し引きして累次積分を求めることはできない。また 関数

y 7→∫

[0,1]

f(x, y) λ(dx)

は [−1, 2]上で λ-可積分でないから累次積分の順序交換も許されない。

15.4 演習問題. (15.2), (15.3)を示せ。

そこで積分が絶対収束していることを要求して解決を図る。次の補題およびその系は定理14.3のきわだって重要な応用例であり、非負値とは限らない関数にFubiniの定理を適用する場合にその前提として可積分性判定が必要だがその手順として非常に有用である。例 15.15

および例 15.17においてその真価が分かるであろう。

15.5 補題. 関数 f : Rd → R は B1 ⊗ B2-可測とする。以下の同値性が成り立つ。

f µ1 ⊗ µ2-可積分 ⇔∫

Rd(1)

( ∫Rd(2)

|f(x, y)|µ2(dy))

µ1(dx) < +∞

証明. 定理 14.3(ii)から直ちに従う。

15.6 系. 関数 f : R2 → R は B(R2)可測とする。以下の同値性が成り立つ。

f λ(2)-可積分 ⇔∫

R

( ∫R|f(x, y)|λ(dy)

)λ(dx) < +∞

証明. 系 12.14と補題 15.5から従う。

15.7 補題. 関数 f : Rd → R は (B1 ⊗ B2, µ1 ⊗ µ2)-可積分とする。

(i) 関数Rd(1) → R, x 7→∫

Rd(2)

max{f(x, y), 0}µ2(dy) と x 7→∫

Rd(2)

max{−f(x, y), 0}µ2(dy)

はともに (B1, µ1)-可積分であって次が成り立つ。∫Rd

f µ1 ⊗ µ2 =

∫Rd(1)

( ∫Rd(2)

max{f(x, y), 0}µ2(dy))

µ1(dx)

−∫

Rd(1)

( ∫Rd(2)

max{−f(x, y), 0}µ2(dy))

µ1(dx).

(ii) {x ∈ Rd(1) :

∫Rd(2)

|f(x, y)|µ2(dy) < +∞} ∈ B1 は µ1-a.e.集合である。

91

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証明. (i) 非負値な B1 ⊗ B2-可測関数max{f, 0} : Rd → R に定理 14.3を適用して関数

(⋆) Rd(1) → R, x 7→∫

Rd(2)

max{f(x, y), 0}µ2(dy)

の B1-可測性と次の等式を得る。f は µ1 ⊗ µ2-可積分なので右辺の積分は有限である。∫Rd(1)

( ∫Rd(2)

max{f(x, y), 0}µ2(dy))

µ1(dx) =

∫Rd

max{f, 0} µ1 ⊗ µ2 < +∞.

従って関数 (⋆)は µ1-可積分となる。関数−f について議論することにより関数 Rd(1) → R,

x 7→∫

Rd(2)

max{−f(x, y), 0}µ2(dy) の (B1, µ1)-可積分性と等式∫Rd(1)

( ∫Rd(2)

max{−f(x, y), 0}µ2(dy))

µ1(dx) =

∫Rd

max{−f, 0} µ1 ⊗ µ2 < +∞

が導かれる。得られた等式を差し引きして (i)に関する考察を終わる。

(ii) 補題 15.5を適用して x 7→∫

Rd(2)

|f(x, y)|µ2(dy) の (B1, µ1)-可積分性を得る。従って系

3.6により結論が導かれる。

ここで∞−∞を回避するために行った和に関する取り決めを思い出そう。

再確認¶ ³関数 f, g : Rd → Rに対して条件 {x ∈ Rd : f(x) = +∞, g(x) = −∞} = ∅,{x ∈ Rd : f(x) = −∞, g(x) = +∞} = ∅が成立するときに限って和 f +gを考える。µ ´

累次積分を行う際に次の事態が起こりうる。∫Rd(2)

max{f(x, y), 0}µ2(dy) = +∞,

∫Rd(2)

max{−f(x, y), 0}µ2(dy) = +∞.

補題 15.7(ii)がその処理策を与える。それによると上のいずれかであるような x ∈ Rd(1)全体は µ1-零集合をなす。従って µ1-a.e.集合上では∞−∞は回避されるわけである。

記号¶ ³B1 ⊗ B2-可測関数 f : Rd → Rに対して

∫Rd(2)

f(x, y) µ2(dy) :=

Rd(2)

f(x, y) µ2(dy) if

∫Rd(2)

|f(x, y)|µ2(dy) < +∞

+∞ otherwise

∫Rd(2)

f(x, y) µ2(dy) :=

Rd(2)

f(x, y) µ2(dy) if

∫Rd(2)

|f(x, y)|µ2(dy) < +∞

−∞ otherwiseµ ´92

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15.8 補題. f : Rd → Rを B1 ⊗ B2-可測関数とする。

(i) 関数Rd(1) → R, x 7→∫

Rd(2)

f(x, y) µ2(dy) は B1-可測である。

(ii)

∫Rd(2)

f(x, y) µ2(dy) = −∫

Rd(2)

− f(x, y) µ2(dy) ∀x ∈ Rd(1).

(iii)∣∣∣∫

Rd(2)

f(x, y) µ2(dy)∣∣∣ ≤ ∫

Rd(2)

|f(x, y)|µ2(dy) ∀x ∈ Rd(1).

証明. a ∈ Rとする。定理 14.3(i)により次の集合はいずれも B1に属する。

{x ∈ Rd(1) :

∫Rd(2)

|f(x, y)|µ2(dy) < +∞}

{x ∈ Rd(1) :

∫Rd(2)

max{f(x, y), 0}µ2(dy) <

∫Rd(2)

max{−f(x, y), 0}µ2(dy) + a}

それらの共通部がまさに

{x ∈ Rd(1) :

∫Rd(2)

f(x, y) µ2(dy) < a}

であるからやはり B1に属する。よって (i)が導けた。(ii)は定義から直ちに従う。(iii)を示すには定理 4.7(ii)を適用すればよい。

ついに Fubiniの定理にたどり着いた。µ1-a.e.という概念を避けてこの定理を語ることはできない。まさにそこが最大の見どころである。

15.9 定理. 関数 f : Rd → R は (B1 ⊗ B2, µ1 ⊗ µ2)-可積分とする。

(i)

∫Rd(2)

f(x, y) µ2(dy) =

∫Rd(2)

f(x, y) µ2(dy) µ1-a.e. x ∈ Rd(1).

(ii) B1-可測関数 g : Rd(1) → R が g(x) =

∫Rd(2)

f(x, y) µ2(dy) µ1-a.e. x ∈ Rd(1) を満たせば、

それは µ1-可積分であり次が成り立つ。∫Rd

f µ1 ⊗ µ2 =

∫Rd(1)

g µ1.

証明. (i) 補題 15.7(ii)により次の集合は B1に属しかつ µ1-a.e.集合である。

A := {x ∈ Rd(1) :

∫Rd(2)

|f(x, y)|µ2(dy) < +∞}.

二つの関数はA上で等しいので (i)が成り立つ。(ii) 仮定と補題 15.8(iii)により次が成り立つ。

|g(x)| ≤∫

Rd(2)

|f(x, y)|µ2(dy) µ1-a.e. x ∈ Rd(1).

従って定理 6.8(i)と定理 14.3(iii) を適用して∫Rd(1)

|g|µ1 ≤∫

Rd

|f | µ1 ⊗ µ2 < +∞

93

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を得る。すなわち gは µ1-可積分である。次の集合も B1に属しかつ µ1-a.e.集合である。

B := {x ∈ Rd(1) : g(x) =

∫Rd(2)

f(x, y) µ2(dy)}.

系 6.20によれば、A ∩ B も µ1-a.e.集合である。さらに次が成り立つ。

g(x) =

∫Rd(2)

max{f(x, y), 0}µ2(dy) −∫

Rd(2)

max{−f(x, y), 0}µ2(dy) ∀x ∈ A ∩ B.

各項は µ1-可積分なので定理 4.10により∫A∩B

g µ1 =

∫A∩B

( ∫Rd(2)

max{f(x, y), 0}µ2(dy))

µ1(dx)

−∫

A∩B

( ∫Rd(2)

max{−f(x, y), 0}µ2(dy))

µ1(dx).

を得る。ここで A ∩ B は Rd(1)の µ1-a.e.集合なので系 4.18(ii)により A ∩ B 上での積分はRd(1)上でのものに等しい。最後に補題 15.7(i) と組み合わせて結論を得る。

15.10 系. 関数 f : R2 → R は (B(R2), λ(2))可積分とする。

(i)

∫Rf(x, y) λ(dy) =

∫Rf(x, y) λ(dy) λ-a.e. x ∈ R

(ii) B(R)-可測関数 g : R → R が g(x) =

∫Rf(x, y) λ(dy) λ-a.e. x ∈ R を満たせば、それは λ-

可積分であり次が成り立つ。 ∫R2

f λ(2) =

∫R

g λ.

証明. 系 12.14と定理 15.9から従う。

15.11 演習問題. B1 ⊗ B2 可測関数 f : Rd(1) × Rd(2) → R が∫

Rd(2) |f(x, y)|µ2(dy) < +∞∀x ∈ Rd(1) を満たすならRd(1) → R, x 7→

∫Rd(2) f(x, y) µ2(dy) は B1可測であることを示せ。

15.12 注意. 具体的な計算例では∫

R |f(x, y)|λ(dy) < +∞ ∀x ∈ Rがしばしば成り立つ。そのようなときは、演習問題 15.11の結論により、系 15.10における補助的な関数 gとして関数x 7→

∫R f(x, y) λ(dy) を選ぶことができる。このような事情があるので、Fubiniの定理を次

のようにあっさりと表現していることもある。∫Rd

f λ(2) =

∫R

( ∫R

f(x, y) λ(dy))

λ(dx).

しかしこれは a.e.集合の役割を見えなくする危険性をはらんでいる。

次の定理は確率論における独立性の取り扱いに関して決定的な役割を果たす。

15.13 定理. 関数 f : Rd(1) → R は (B1, µ1)-可積分、関数 g : Rd(2) → R は (B2, µ2)-可積分とする。このとき関数Rd → R, (x, y) 7→ f(x)g(y) は (B1 ⊗ B2, µ1 ⊗ µ2)-可積分であり∫

Rd

f(x)g(y) µ1 ⊗ µ2(dxdy) =

∫Rd(1)

f µ1

∫Rd(2)

g µ2.

94

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証明. 定理 14.7と定理 15.9から従う。

15.14 系. 関数 f : R → R, g : R → R はともに (B(R), λ)-可積分とする。このとき関数R2 → R, (x, y) 7→ f(x)g(y) は (B(R2), λ(2))-可積分であり∫

R2

f(x)g(y) λ(2)(dxdy) =

∫R

f λ

∫R

g λ.

証明. 系 12.14と定理 15.13から従う。

Fubiniの定理を応用した計算例を挙げる。連続関数Rd → RはB(Rd)可測であることを確認しておこう。(d = 1の場合は補題 11.11 の論法が簡明である。他方、補題 12.18の論法は一般化できる。)

15.15 例. t > 0に対して∫

(0,+∞)

sin x

xe−tx λ(dx) =

∫(t,+∞)

1

y2 + 1λ(dy).

証明. λを 1次元 Lebesgue測度とする。定理 3.18と定理 10.1(ii)により∫(t,+∞)

e−xy λ(dy) = supn∈N:n>t

∫(t,n]

e−xy λ(dy) = supn∈N:n>t

e−tx − e−nx

x=

e−tx

x∀x > 0.

上の結果から、変数の役割を取り替えるなどして、関数 x 7→ e−tx が (0, +∞)上で λ可積分であることも読みとれる。さて | sin x| ≤ x ∀x > 0より∫

(0,+∞)

( ∫(t,+∞)

e−xy| sin x|λ(dy))

λ(dx)

=

∫(0,+∞)

e−tx

x| sin x|λ(dx) ≤

∫(0,+∞)

e−tx λ(dx) < +∞.

系 15.6により関数 (x, y) 7→ 1(0,+∞)×(t,+∞)(x, y)e−xy sin x に系 15.10が適用できる。∫(0,+∞)

e−tx

xsin xλ(dx) =

∫(0,+∞)×(t,+∞)

e−xy sin xλ(2)(dx, dy)

=

∫(t,+∞)

( ∫(0,+∞)

e−xy sin xλ(dx))

λ(dy).

残っているのは右辺の評価であるが、これは演習問題 15.16にゆだねる。

15.16 演習問題. y > 0に対して∫

(0,+∞)

e−xy sin xλ(dx) =1

y2 + 1を示せ。

同様にして次の広義積分を評価することができる。

15.17 例. limR→+∞

∫(0,R]

sin x

xλ(dx) =

∫(0,+∞)

1

y2 + 1λ(dy).

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証明. R > 0とする。今度は関数 (x, y) 7→ 1(0,R]×(0,+∞)(x, y)e−xy sin x に Fubiniの定理を適用する。そのためには、以下の検証が不可欠である。∫

(0,+∞)

e−xy λ(dy) =1

x∀x > 0.∫

(0,R]

( ∫(0,+∞)

e−xy| sin x|λ(dy))

λ(dx) =

∫(0,R]

1

x| sin x|λ(dx) < +∞.

従って系 15.6により (x, y) 7→ 1(0,R]×(0,+∞)(x, y)e−xy sin x に系 15.10が適用できる。∫(0,R]

1

xsin xλ(dx) =

∫(0,R]

( ∫(0,+∞)

e−xy sin xλ(dy))

λ(dx)

=

∫(0,+∞)

( ∫(0,R]

e−xy sin xλ(dx))

λ(dy).

さて微分すればすぐわかるように、x 7→ e−xy sin x の原始関数の一つは

x 7→ −e−xy y sin x + cos x

y2 + 1

である。よって定理 10.1(ii)により∫(0,R]

e−xy sin xλ(dx) =1

y2 + 1− e−Ry y sin R + cos R

y2 + 1∀y > 0.

変数 yの関数として右辺の各項はいずれも λ可積分であるから、以上をまとめて∫(0,R]

sin x

xλ(dx) =

∫(0,+∞)

1

y2 + 1λ(dy) −

∫(0,+∞)

e−Ry y sin R + cos R

y2 + 1λ(dy).

右辺第 2項を処理するために、Schwarzの不等式を使って

|y sin R + cos R| ≤√

y2 + 1√

(sin R)2 + (cos R)2 =√

y2 + 1∀y > 0

と評価する。よって以下に示すようにR → +∞のとき 0に収束する。∣∣∣ ∫(0,+∞)

e−Ry y sin R + cos R

y2 + 1λ(dy)

∣∣∣ ≤ ∫(0,+∞)

e−Ry√y2 + 1

λ(dy) ≤∫

(0,+∞)

e−Ryλ(dy) =1

R.

0に収束することを示すだけなら、Lebesgueの収束定理を使ってお手軽にできる。

15.18 演習問題. 上で述べたLebesgueの収束定理を使ったお手軽な証明法を与えてみよ。(定理 5.7だけでなく定理 5.10も念頭に置いて考察せよ。)

15.19 注意. 絶対収束しない広義積分には Legesgueの収束定理は適用できないので、以下のような変形は直接的には許されない。

limt↓0

∫(0,+∞)

sin x

xe−tx λ(dx) = lim

R→+∞

∫(0,R]

sin x

xλ(dx).

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しかしながら各R > 0に対して区間 (0, R)上の関数 x 7→ | sin x|/x は λ-可積分である。従ってこれを優関数として定理 5.7が適用できるので

limt↓0

∫(0,R]

sin x

xe−tx λ(dx) =

∫(0,R]

sin x

xλ(dx)

と変形するのは許される。また例 15.15と定理 3.18から

limt↓0

∫(0,+∞)

sin x

xe−tx λ(dx) = lim

t↓0

∫(t,+∞)

1

y2 + 1λ(dy) =

∫(0,+∞)

1

y2 + 1λ(dy).

積分の区間に対する加法性を考慮して組み合わせると∣∣∣ ∫(0,+∞)

1

y2 + 1λ(dy) −

∫(0,R]

sin x

xλ(dx)

∣∣∣= lim

t↓0

∣∣∣ ∫(0,∞)

sin x

xe−txλ(dx) −

∫(0,R]

sin x

xe−txλ(dx)

∣∣∣ = limt↓0

∣∣∣ ∫(R,∞)

sin x

xe−txλ(dx)

∣∣∣.部分積分を用いて右辺を評価する (測度論的部分積分については定理 16.3を見よ)。∫

(R,+∞)

sin xe−tx

xλ(dx) = (cos R − 1)

e−tR

R

+

∫(R,+∞)

(1 − cos x)(e−tx

x2+

te−tx

x

)λ(dx) ∀R > 0∀t > 0.

さて 0 ≤ 1 − cos x ≤ 2 ∀x ∈ Rを使うと右辺の積分の値は非負でありかつ∫(R,+∞)

(2e−tx

x2+

2te−tx

x

)λ(dx) =

2e−tR

R

で抑えられる。従って次が成り立つ。

− 2

R≤ cos R − 1

Re−tR ≤

∫(R,+∞)

sin x

xe−txλ(dx) ≤ cos R + 1

Re−tR ≤ 2

R∀R > 0, ∀t > 0.

以上をまとめて ∣∣∣ ∫(0,+∞)

1

y2 + 1λ(dy) −

∫(0,R]

sin x

xλ(dx)

∣∣∣ ≤ 2

R∀R > 0.

これは例 15.17の別証明になっている。

16 部分積分とそれが開く世界部分積分公式は計算技法として役立つだけでなく理論上もきわめて重要である。測度論的観点から部分積分を定式化し、その背後にある豊かな大地を垣間見ることにしよう。

前提¶ ³B(R)を 1次元Borel集合族、λを 1次元 Lebesgue測度とする。µ ´

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16.1 演習問題. f : R → Rを (B(R), λ)局所可積分関数とする。(i) 関数 F : R → Rであって次を満たすものが存在することを示せ。

F (b) − F (a) =

∫(a,b]

f λ ∀a ∈ R, ∀b ∈ R 但し a < b.

(ii) (i)の条件を満たす関数 F は連続であることを示せ。(iii) (i)の条件を満たす関数 F , Gに対して c ∈ R が存在して F (x) − G(x) = c ∀x ∈ Rが成り立つことを示せ。

16.2 定義. f : R → Rを (B(R), λ)局所可積分関数とする。f の不定積分(indefinite integral)

とは演習問題 16.1(i) の条件を満たす関数 F をいう。

16.3 定理. a, b ∈ R, a < b, f, g : R → Rを (B(R), λ)局所可積分関数とする。f , gそれぞれに対して不定積分を F , Gとするとき次が成り立つ。∫

(a,b)

Fg λ = F (b)G(b) − F (a)G(a) −∫

(a,b)

fGλ

これを部分積分公式(integration by parts formula) という。

証明. 集合 A := {(x, y) ∈ R2 : a < x < y < b} ∈ B(R2) を導入する。 A ⊂ (a, b) × (a, b)

なので (x, y) 7→ 1(a,b)(x)|f(x)|1(a,b)(y)|g(y) は (x, y) 7→ 1A(x, y)f(x)g(y)の優関数であり、系15.14によれば前者は λ(2)可積分である。従って注意 6.10 にある判定手順により後者の λ(2)

可積分性が確認され系 15.10が適用できる。各 x ∈ Rに対して

1A(x, y) =

{1(x,b)(y) a < x < b

0 x ≤ a または x ≥ b

であるから次が得られる。

(⋆)

∫A

f(x)g(y) λ(2)(dx, dy) =

∫(a,b)

( ∫(x,b)

f(x)g(y) λ(dy))λ(dx)

さて演習問題 16.1(i) の条件及び λ({b}) = 0という事実により∫(x,b)

g(y) λ(dy) = G(b) − G(x),

∫(a,b)

f(x) λ(dx) = F (b) − F (a)

ゆえに (⋆)の右辺は次に等しい。∫(a,b)

f(x)(G(b) − G(x)) λ(dx) = (F (b) − F (a))G(b) −∫

(a,b)

f(x)G(x) λ(dx).

x, yの役割を入れ替えて同様の議論をすると次のように変形できる。∫A

f(x)g(y) λ(2)(dx, dy) =

∫(a,b)

F (y)g(y) λ(dy) − F (a)(G(b) − G(a)).

得られた二つの表式を比較して部分積分公式に到達する。

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記号¶ ³台が有界なCr級関数R → R全体の集合をCr

0(R) と表す。µ ´約束¶ ³以後、(B(R), λ)局所可積分のことを単に局所可積分という。µ ´

16.4 補題. 局所可積分関数 f : R → R とその不定積分 F に対して次が成り立つ。∫R

Fφ′ λ = −∫

Rfφ λ ∀φ ∈ C1

0(R). ただし φ′は φの導関数

証明. φ ∈ C10(R)とする。定理 10.1(ii)により φは φ′の不定積分である。定理 16.3によれば∫

(−n,n)

Fφ′ λ = F (n)φ(n) − F (−n)φ(−n) −∫

(−n,n)

fφ λ ∀n ∈ N.

φの台が区間 (−n, n)に含まれるように nを選ぶことにより結論に至る。

もし f が連続関数であるならその不定積分 F は f の原始関数である。そうでないなら一般には F の微分可能性はでないが、補題 16.4の観点からは、f が F の導関数の役割を果たしているといえよう。そこで次の概念が生じた。

16.5 定義. F : R → Rを局所可積分関数とする。ある局所可積分関数 f : R → Rが存在して∫R

Fφ′ λ = −∫

Rfφ λ ∀φ ∈ C1

0(R)

が成り立つとき F は弱い意味で微分可能(weakly differentiable)であるといい、f を F の弱い意味での微分あるいは弱微分(weak derivative)という。

Fubiniの定理は累次積分の順序を交換するためだけに使われるのではない。その先にある世界を弱微分の概念を題材に紹介する。次の問題を解いて a.e.集合の定義を確認しておこう。

16.6 演習問題. (B(R), λ)-a.e.集合は空集合でないことを示せ。

16.7 演習問題. 連続関数 f : R → Rに対し f = 0 λ-a.e. ⇒ f(x) = 0 ∀x であることを示せ。

16.8 演習問題. F : R → Rを弱微分可能な局所可積分関数とする。f , gを F の弱微分とすると f = g λ-a.e. であることを示せ。

16.9 補題. f : R → Rを B(R)可測関数とする。各 y ∈ Rに対し f(· + y) = f λ-a.e. 即ちλ({x ∈ R : f(x + y) = f(x)}) = 0 であれば、ある a ∈ Rが存在して f = f(a) λ-a.e. である。

証明. 集合A := {(x, y) ∈ R2 : f(x + y) = f(x)} は B(R2)に属する。系 13.14 を適用して∫R

λ({y ∈ R : f(x + y) = f(x)}) λ(dx)

= λ(2)(A) =

∫R

λ({x ∈ R : f(x + y) = f(x)}) λ(dy) = 0

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を得る。補題 4.12により {x ∈ R : λ({y ∈ R : f(x + y) = f(x)}) = 0} は (B(R), λ)-a.e.集合である。演習問題 16.6で調べたようにそのようなものは空集合ではない。従ってある a ∈ Rが存在して次が成り立つ。

λ({y ∈ R : f(a + y) = f(a)}) = 0.

さて {y ∈ R : f(a + y) = f(a)} + a = {y ∈ R : f(y) = f(a)} であるから定理 11.16 により

λ({y ∈ R : f(y) = f(a)}) = 0

即ち f = f(a) λ-a.e.が導かれた。

次の問題を解くには補題 5.9および定理 5.10 が参考になるであろう。

16.10 演習問題. f : R → Rを局所可積分関数、φ ∈ C10(R)とする。このとき

y 7→∫

Rf(x)φ(x − y) λ(dx)

は微分可能でありその導関数は以下であることを示せ。

y 7→ −∫

Rf(x)φ′(x − y) λ(dx)

16.11 定理. f : R → Rを局所可積分関数、r ∈ Nとする。このとき次が成り立つ。∫R

fφ′ λ = 0 ∀φ ∈ Cr0(R) ⇒ ∃ c ∈ R s.t. f = c λ-a.e.

証明. φ ∈ Cr0(R)とする。各 y ∈ Rに対して関数 x 7→ φ(x − y)も Cr

0(R)に属しその導関数は x 7→ φ′(x − y)である。従って仮定より∫

Rf(x)φ′(x − y) λ(dx) = 0 ∀y ∈ R.

左辺は演習問題 16.10で調べたように次の関数の微分係数に−符号を付けたものである。

y 7→∫

Rf(x)φ(x − y) λ(dx)

その導関数が恒等的に 0であるR上の関数は定数関数であるので∫R

f(x)φ(x − y) λ(dx) =

∫R

f(x)φ(x) λ(dx) ∀y ∈ R.

例 10.16(i)から左辺は∫

R f(x + y)φ(x) λ(dx) に等しいので∫R

f(x + y)φ(x) λ(dx) =

∫R

f(x)φ(x) λ(dx) ∀y ∈ R∀φ ∈ Cr0(R).

各 y ∈ Rに対して局所可積分関数 x 7→ f(x + y)と f を対象に演習問題 13.26 で調べた命題を適用して

f(· + y) = f λ-a.e. ∀y ∈ R

を得る。補題 16.9によればある a ∈ Rが存在して f = f(a) λ-a.e. ということになるが、まだ f(a) = ∞という可能性が排除できていない。ところが fの局所可積分性により f(a) = ∞では矛盾が生じるので、結論に到達する。

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従って弱微分可能かつ弱微分が消える局所可積分関数R → Rは Lebesgue零集合上で修正すれば定数関数と見なせる。これは微分可能かつ導関数が消える関数R → R は定数関数であるという周知の事実に符合している。つぎは補題 16.4と関連づけて解くとよいだろう。

16.12 演習問題. f, g : R → Rを局所可積分関数、r ∈ Nとする。このとき f の不定積分 F

に対して次が成り立つことを示せ。∫R

gφ′ λ = −∫

Rfφ λ ∀φ ∈ Cr

0(R) ⇔ ∃ c ∈ R s.t. g(x) = c + F (x) λ-a.e. x

演習問題 16.12 は局所可積分関数 f : R → R が与えられたときに弱微分が f に等しいような局所可積分関数 g : R → Rを決定する問題といえよう。そこで次の概念が生じる。

16.13 定義. 局所可積分関数 f : R → R に対し弱微分可能な局所可積分関数 g : R → R であってその弱微分が f に等しい、すなわち∫

Rgφ′ λ = −

∫R

fφ λ ∀φ ∈ C10(R)

を満たすものを微分方程式 g′ = f の弱解(weak solution)であるという。

演習問題 16.12で調べたことによれば、与えられた局所可積分関数 f に対して微分方程式g′ = f は弱解を持ち、また任意の弱解は Lebesgue零集合上で修正すれば f の不定積分(原始関数は存在しないかもしれない)と見なせる。不定積分と原始関数の間にはギャップがある。次の定理とその証明(局所有界という条件の果たす役割が大事)を注意深く読むとその違いが見えて来るであろう。

16.14 定理. g : R → Rを微分可能関数とし、その導関数を f とする。(i) 関数 f は B(R)可測である。(ii)導関数fが局所有界、すなわち各a ∈ Rに対して δ ∈ R>0が存在してfが区間 (a−δ, a+δ)

上で有界であるなら、関数 f は gの弱微分であり、また関数 gは f の不定積分である。

証明. (i)各n ∈ Nに対して関数 x 7→ n(g(x+1/n)−g(x))は連続ゆえ、補題 11.11よりB(R)

可測である。各 x ∈ Rに対して f(x) = lim supn→∞ n(g(x + 1/n) − g(x)) が成り立つので、補題 5.1を適用して f の B(R)可測性を得る。

(ii) 関数 f は (i)よりB(R)可測であり、したがって局所有界性とあわせて、局所可積分であることが分かる。また関数 gも局所可積分であることを注意しておく。ここで φ ∈ C1

0(R)

を任意に固定し、a, b ∈ R, ただし a < b, を φの台が区間 (a, b)に含まれるように選ぶ。平均値の定理を適用して次を得る。

|n(g(x + 1/n) − g(x))| ≤ supa≤y≤b+1

|f(y)| ∀x ∈ (a, b)∀n ∈ N.

ここで関数 f の局所有界性よりM := supa≤y≤b+1 |f(y)| < +∞である。従って可積分関数M |φ|を優関数として定理 5.7を適用できるので∫

Rn(g(· + 1/n) − g)φλ は

∫R

fφ λ に収束する。

101

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また例 10.16(i)ことから次のように変形できる。∫R

n(g(· + 1/n) − g)φλ = n( ∫

Rg φ(· − 1/n) λ −

∫R

gφ λ).

右辺の極限は演習問題 16.10で検証したように−∫

R gφ′ λである。以上より∫R

gφ′ λ = −∫

Rfφ λ ∀φ ∈ C1

0(R).

すなわち gは弱微分可能であり、関数 f は gの弱微分である。さらに演習問題 16.12で述べたことによれば、f のある不定積分 F が

g = F λ-a.e.

を満たす。さて gは微分可能ゆえ連続であり、F は不定積分ゆえ連続である(演習問題 16.1)。よって演習問題 16.7で調べたことから g(x) = F (x) ∀x ∈ Rを導くことができる。

定理 16.11の高階導関数版も成立し、それを定理 16.16として紹介する。基本となる論法は前者の証明中に登場しているが、見通しよく進めるには少し下ごしらえが必要である。後で証明する補題 16.24と補題 16.26を組み合わせてまとめたものが次の命題である。

16.15 補題. 与えられた n ∈ Nと g1, . . . , gn : R → R に対して次を導入する。

G(a, b, x) :=n−1∑i=0

bi+1 − ai+1

i + 1gn−i(x) a, b ∈ R ただし a < b

任意の a, bに対して

x 7→ G(a, b, x)が連続かつG(a, b, x + y) = G(a + x, b + x, y) + G(a, b, x) ∀x∀y ∈ R

なら各 giは高々i次の多項式関数であり次が成り立つ。

gn(x + y) =n−1∑j=0

xjgn−j(y) + gn(x) ∀x∀y ∈ R

16.16 定理. 局所可積分関数 f : R → Rと n, r ∈ Nただし n + 1 ≤ rに対し次が成り立つ。∫R

fφ(n+1) λ = 0 ∀φ ∈ Cr0(R) ⇒ ∃ g 高々n次の多項式関数 s.t. f = g λ-a.e.

証明. nに関する帰納法により証明する。定理 16.11は n = 1の場合に

f 局所可積分, n ≤ r,

∫R

fφ(n) λ = 0 ∀φ ∈ Cr0(R)

⇒ ∃ g 高々n − 1次の多項式 s.t. f = g λ-a.e.

の成立を主張している。そこで 1 ≤ nとし上の命題の成立を前提とする。

f 局所可積分, n + 1 ≤ r,

∫R

fφ(n+1) λ = 0 ∀φ ∈ Cr0(R)

102

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と仮定する。定理 16.11の証明と同じ議論を繰り返して∫R

f(x + y)φ(n)(x) λ(dx) =

∫R

f(x)φ(n)(x) λ(dx) ∀y ∈ R ∀φ ∈ Cr0(R).

各 y ∈ Rに対して局所可積分関数 x 7→ f(x + y) − f(x) を対象に前提命題を適用して

(⋆) ∃g1, . . . , ∃gn : R → R s.t. f(x + y) − f(x) =n−1∑i=0

gn−i(y)xi λ-a.e. x∀y ∈ R.

a < bとする。区間 (a, b)上で積分して次を得る。∫(a,b)

(f(· + y) − f) λ =n−1∑i=0

bi+1 − ai+1

i + 1gn−i(y) ∀y ∈ R.

左辺をG(a, b, y)とおくとこれは補題 16.15の条件を満たす(検証は演習問題に託す)。よって

n−1∑i=0

gn−i(y)xi = gn(x + y) − gn(x) ∀x∀y ∈ R

が成り立ち、しかも gnは高々n次の多項式関数である。(⋆)を考慮にいれて

f(· + y) − f = gn(· + y) − gn 即ち f(· + y) − gn(· + y) = f − gn λ-a.e. ∀y ∈ R

ゆえに補題 16.9よれば、ある a ∈ Rが存在して f − gn = f(a) − gn(a) λ-a.e. が成り立つ。よって gn + f(a) − gn(a) が求める多項式関数である。

16.17 演習問題. f : R → Rを局所可積分関数とし次を導入する。

G(a, b, x) :=

∫(a,b)

(f(· + x) − f) λ a, b ∈ R ただし a < b, x ∈ R.

(i) 任意の a, bに対して x 7→ G(a, b, x)は連続であることを示せ。(ii)任意の a, bに対してG(a, b, x+y) = G(a+x, b+x, y)+G(a, b, x)が成り立つことを示せ。

定理 16.16でも定理 16.11と同じ現象が起こっている。弱解の概念を使って整理しておく。

16.18 定義. F : R → Rを局所可積分関数、n ∈ Nとする。ある局所可積分関数 f : R → Rが存在して ∫

RFφ(n) λ = (−1)n

∫R

fφ λ ∀φ ∈ Cn0 (R) (φ(n)は φの n階導関数)

が成り立つとき F は弱い意味で n回微分可能(n-times weakly differentiable)であるといい、f を F の弱い意味での n階微分(n-th order weak derivative)という。

16.19 注意. 微積分学では高階微分を帰納的に定義する。従って 1階導関数を述べずに 2回微分可能性を云々することはできない。ところが弱い意味での n回微分可能性は低階の微分を経由せずに定義できる。よって n回微分可能性からそれより低階の微分可能性を導き出すことは直ちにはできないのである。これが定理 16.16を証明するのに手間がかかる一因である。

103

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16.20 定義. 局所可積分関数 f : R → R と n ∈ Nに対し局所可積分関数 g : R → R であってその n階弱微分が f に等しい、すなわち∫

Rgφ(n) λ = (−1)n

∫R

fφ λ ∀φ ∈ Cn0 (R)

を満たすものを微分方程式 g(n) = f の弱解(weak solution)という。

定理 16.16によれば微分方程式 g(n) = 0の弱解はLebesgue零集合上で修正すれば高々n−1

次の多項式関数と見なせる。後者は微分方程式 g(n) = 0の通常の意味での解、古典解(classical

solution)という、である。このような性質をもつ微分方程式は準楕円的(hypoelliptic)であるという。微分方程式の準楕円性を主張する命題の典型は Laplace方程式に関するWeylの補題(つぎの定理 16.21)であり多方面で重要な役割を果たす。

16.21 定理. DをR2の開部分集合とする。D上の Laplace方程式の弱解はあるD上の調和関数(Laplace方程式の古典解)に λ(2)-a.e.の意味で等しい。

この定理の証明は開部分集合上の方程式に関する弱解の定義などもこめてまだ準備不足なのでここでは紹介できない。なお、n = 1のとき定理 16.16は定理 16.21の 1変数バージョンとも見なせる。

16.22 演習問題. n ∈ Nとする。局所可積分関数 f : R → Rに対して微分方程式 g(n) = f は弱解を持つことを示せ。また g, hをふたつの弱解とするとき差 g − hはある高々n − 1次の多項式関数に λ-a.e.の意味で等しいことを示せ。

以上は壮麗な景色の一こまに過ぎない。しかしながらことは入門の域をすでに超えている。これから先の展開は別の機会に委ねることにしてひとまず筆を置くこととしたい。

補題16.15の証明

補題 16.15の証明は積分論の主題からは外れるように思われるので、別枠として取り出しておく。なお、定理 16.16 にはもっと汎用性の高い証明方法がある。

16.23 補題. b1, . . . , bnを 0でない実数でかつ相異なるとき次は逆行列を持つ。b1 b2

1 · · · bn1

b2 b22 · · · bn

2...

.... . .

...

bn b2n · · · bn

n

証明. 行列式は

∏ni=1 bi

∏i<j(bj − bi) に等しい。

記号¶ ³k ≤ nなる非負整数 k, nに対して

(n

k

):=

n!

k!(n − k)!2項係数

µ ´104

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16.24 補題. 与えられた n ∈ Nと g1, . . . , gn : R → R に対して次を導入する。

G(a, b, x) :=n−1∑i=0

bi+1 − ai+1

i + 1gn−i(x) a, b ∈ R ただし a < b

このとき以下の同値性が成り立つ。

(i) g1, . . . , gnが連続⇔任意の a, bに対して x 7→ G(a, b, x)が連続

(ii) 任意の i = 1, 2, . . . , nに対して gi(x + y) =i−1∑j=0

(n + j − i

j

)xjgi−j(y) + gi(x)

⇔ 任意の a, bに対してG(a, b, x + y) = G(a + x, b + x, y) + G(a, b, x)

証明. (ii) 2項定理を適用したのち和の順序を交換してG(a + x, b + x, y)を変形する。

n−1∑i=0

(b + x)i+1 − (a + x)i+1

i + 1gn−i(y) =

n−1∑i=0

1

i + 1

i∑k=0

(i + 1

k + 1

)(bk+1 − ak+1)xi−kgn−i(y)

=n−1∑k=0

n−1∑i=k

(i

k

)xi−kgn−i(y)

bk+1 − ak+1

k + 1

ここで(

i+1k+1

)/(i + 1) =

(ik

)/(k + 1) を使っている。従って補題 16.23によれば

gn−k(x + y)

k + 1=

1

k + 1

n−1∑i=k

(i

k

)xi−kgn−k(y) +

gn−k(x)

k + 1∀k = 0, 1, . . . , n − 1

はG(a, b, x + y) = G(a + x, b + x, y) + G(a, b, x) ∀a < ∀b と同値である。分母の k + 1を払って変形すると求める関係式が得られる。(i)は補題 16.23から直ちに分かる。

16.25 補題. n ∈ Nと α0, . . . , αn−1 ∈ Rが与えられたとする。このとき

ψi(x) :=i−1∑k=0

αk

(n − k

i − k

)xi−k i = 1, 2, . . . , n, x ∈ R

で定義される多項式関数は任意の x, y ∈ Rに対して次の関係を満たす。i−1∑j=1

(n + j − i

j

)xjψi−j(y) =

i−2∑k=0

αk

(n − k

i − k

)((x + y)i−k − xi−k − yi−k) i = 2, . . . , n.

i−1∑j=0

(n + j − i

j

)xjψi−j(y) = ψi(x + y) − ψi(x) i = 1, 2, . . . , n.

証明. 2項係数の定義より(

n+j−ij

)(n−k

i−j−k

)=

(n−ki−k

)(i−kj

)である。2項定理により次を得る。

i−k−1∑j=1

(n + j − i

j

)(n − k

i − j − k

)xjyi−j−k =

(n − k

i − k

) i−k−1∑j=1

(i − k

j

)xjyi−k−j

=

(n − k

i − k

)((x + y)i−k − xi−k − yi−k).

105

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和の順序を交換し以上の関係を使うと1番目が導かれる。2番目は i = 1の場合を除いて1番目を少し変形すれば出てくる。また i = 1の場合は直接容易に検証できる。

16.26 補題. 連続関数 g1, . . . , gn : R → R に対して次は同値である。

gi(x + y) =i−1∑j=0

(n + j − i

j

)xjgi−j(y) + gi(x) ∀x,∀y ∈ R,∀i = 1, . . . , n

⇔ ∃α0, . . . , ∃αn−1 ∈ R s.t. gi(x) =i−1∑k=0

αk

(n − k

i − k

)xi−k ∀x ∈ R, ∀i = 1, . . . , n

証明. ⇐は補題 16.25 の2番目の関係から直ちに従う。⇒を帰納法により示そう。i = 1のとき条件式は g1(x + y) = g1(y) + g1(x) ∀x,∀y ∈ R である。連続性が仮定されているので演習問題 11.17で調べたことが適用できる。従って g1(x) = g1(1)xである。α0 = g1(1)/nと選べばよい。さてm < nとし次が示せていたとしよう。

∃α0, . . . , ∃αm−1 ∈ R s.t. gi(x) =i−1∑k=0

αk

(n − k

i − k

)xi−k ∀x ∈ R,∀i = 1, . . . ,m.

i = m + 1のとき条件式を少し変形すると

gm+1(x + y) =m∑

j=1

(n + j − m − 1

j

)xjgm+1−j(y) + gm+1(y) + gm+1(x)

である。補題 16.25の1番目の関係から右辺の∑m

j=1に関する項は

m−1∑k=0

αk

(n − k

m + 1 − k

)((x + y)m+1−k − xm+1−k − ym+1−k)

に等しい。よって連続関数 x 7→ gm+1(x) −∑m−1

k=0 αk

(n−k

m+1−k

)xm+1−k は g1と同じ条件式を満

たすことが知れる。よってある αm ∈ Rが存在して

gm+1(x) −m−1∑k=0

αk

(n − k

m + 1 − k

)xm+1−k = αm

(n − m

1

)x ∀x ∈ R.

以上により i = m + 1のときも正しい。

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索 引一意性定理, 63

a.e., 26

a.e.集合, 26

L1空間の完備性, 28

L1空間における連続関数の稠密性, 49

L1セミノルム, 20

円の面積, 88

外測度に関して可測, 38

回転不変性, 71

Gauss核の cosine変換, 61

拡張の一意性, 63

可算 C-被覆, 36

可算劣加法性, 37

可積分, 5, 18

可積分関数, 18

可積分性判定, 18, 22, 27, 51, 91

可測, 3

可測関数, 3

可測集合, 3

可測集合上で可積分, 21

可測集合上の積分, 21

可測部分集合全体の族, 38

Caratheodory外測度, 37

完備, 27

gamma関数, 53

gamma関数と beta関数の関係, 87

極限と積分の順序交換, 25

極座標, 89

局所可積分, 81

原始関数の存在, 50

項別積分定理, 23, 29

古典解, 104

C-集合, 32

C-分割, 32

σ-加法性, 3

σ-加法族, 2

σ-加法的, 33

σ-加法的な有限加法的測度, 33

σ-有限, 62

弱微分, 99

弱解, 104

縦線領域の面積, 77

準楕円的微分方程式, 104

Stirlingの公式, 61

スタンダードマシン, 84

生成される σ-加法族, 63

生成されるDynkin族, 74

積分, 4, 18

積分の σ-加法性, 23

積分の線形性, 17, 19

積分の単調性, 12, 19

絶対連続性, 57

絶対連続測度による積分, 23

選択公理, 47

測度, 3

測度に関しほとんどいたるところ, 26

台, 48

単関数, 3

単調収束定理, 15, 22

長方形集合, 65

直積 σ-加法族, 68

直積測度, 68

直積測度の一意性, 68

定義関数, 11

Dirac測度, 45

Dynkin族, 73

Dynkin族定理, 74

Tonelliの定理, 83

107

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非減少関数が誘導する有限加法的測度, 34

非交叉族, 32

微積分の基本定理, 50

左半開区間, 32

微分方程式の古典解, 104

微分方程式の弱解, 101, 104

Fatouの補題, 23

不定積分, 98

Fubini-Tonelliの定理, 83

Fubiniの定理, 76, 83, 93

部分積分公式, 98

分割, 32

平行移動不変性, 64, 71

平行四辺形の面積, 80

beta関数, 53

変数変換公式–1次元, 59

変数変換公式–線形な場合, 84

変分法の基本補題, 81

Hopfの拡張定理, 41

ほとんどいたるところ, 26

Borel可測関数, 64, 68

Borel集合, 64, 68

Borel集合族, 64, 68

Borel測度, 64, 68

Markovの不等式, 12

有限加法性, 7, 33

有限加法的測度, 33

有限加法的測度の測度への拡張, 41

有限加法的測度が誘導する外測度, 35

弱い意味での微分, 99, 103

弱い意味で微分可能, 99, 103

Radon測度, 64, 68

Laplace方程式, 104

Riesz-Fischerの定理, 28

Lebesgue外測度, 46

Lebesgue可積分, 50

Lebesgue可測集合, 46, 67

Lebesgue可測関数, 46

Lebesgue-Stieltjes測度, 45

Lebesgue-Stieltjes外測度, 45

Lebesgue-Stieltjes積分, 47

Lebesgue-Stieltjes測度の一意性, 64

Lebesgue積分, 50

Lebesgue積分を保存する線形写像, 84

Lebesgue測度, 46, 67

Lebesgue測度の回転不変性, 71

Lebesgue測度を保存する線形写像, 79

Lebesgue測度の平行移動不変性, 64, 71

Lebesgue測度の一意性, 68

Lebesgueの収束定理, 24

Lebesgueの優収束定理, 24

Lebesgue-Fatouの補題, 25

零集合, 26, 40

劣加法性, 30

Weylの補題, 104

108


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