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神経情報システム論 - University of Electro …3 神経情報システム論の背景 •...

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神経情報システム論 第1回 脳科学の概観と神経細胞モデル
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Page 1: 神経情報システム論 - University of Electro …3 神経情報システム論の背景 • 脳の情報処理を工学的に応用したい.-人間の優れた能力を生か

神経情報システム論

第1回 脳科学の概観と神経細胞モデル

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2今回の構成

•講義の進め方

•脳科学における種々の方法論

•脳の工学的研究

•神経回路モデル研究の歴史

•神経細胞の構造

•神経細胞のモデル化

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3神経情報システム論の背景

•脳の情報処理を工学的に応用したい.

- 人間の優れた能力を生かした情報処理方式の構築.

e.g., 人工知能,学習システム,ロボット

•神経ネットワークの性質を数理的に明らかにしたい.

- 多数の神経素子が生み出す様々な現象の解析.

- そのような性質を生かした情報処理原理の提案.

e.g., 神経力学,学習理論,独立成分解析

•脳の情報処理の仕組みを明らかにしたい.

-神経系がもつ機能を情報処理レベルで理解する.

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4講義の方針

•工学的,数理的内容が中心.

•広く浅く:できるだけ多くのアルゴリズムを扱う.

•議論が展開した歴史的な流れを意識する.

•理論的な議論は重要なものだけに限定する.

•例題や演習に重点をおく(自力で実装する).

•スライドと板書を適宜使い分ける.

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5講義ホームページ

http://www.hi.is.uec.ac.jp/lecture/nips/

- 学外からのアクセス時にはパスワードが必要

ID: nips passwd: network

- 講義スライドの写し(PDFファイル)

講義終了後にアップロード.

- 昨年度の講義資料

- 演習問題の配布

- 関連資料や連絡事項の掲示

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6講義予定 1

•導入

- 神経科学の方法論,計算モデルの歴史

- 神経素子のモデル

•学習認識システム,教師あり学習

- パーセプトロン

- バックプロパゲーション

- サポートベクトルマシン(今年新しく加えるもの)

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7講義予定 2

•連想記憶

- 古典的連想記憶

- エネルギー関数の導入と最適化としての連想回路

•教師なし学習

- 特徴量の自動抽出と自己組織化

- 情報量最大化

- 独立成分分析

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8講義予定 3

• EMアルゴリズム

•強化学習

- 報酬の基づく行動学習

- Q学習

進度に応じて柔軟に対応.

最新情報はホームページで.

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9教科書と参考書

•教科書:

- 特定の教科書に沿った講義は行なわない.

- 講義で扱う内容をすべての網羅する教科書はない.

•参考書:

- 講義ホームページに掲示.

- 他のホームページ

内容が怪しいものがたくさんあるので注意!

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10評価と演習

•成績の評価

- 演習問題 (3回程度)

数値実験によるアルゴリズムの評価

- 受講者僅少の場合はグループでの問題解決と発表

•演習問題の配布と答案の提出

- 配布はホームページでのみ行なう.

- 電子媒体での提出は受け付けない.

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11演習の目的

•主目的

- アルゴリズムの性質を実感する.

•副目的

- 数値実験の要領を身につける.

- レポートのまとめ方をトレーニングする.

- プログラミングを練習する.

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12脳科学の方法論

•脳の神経回路網

- 複雑,巨大なネットワーク

- 分析的アプローチの限界

•学際的な学問領域

- 医学

- 生物学

- 心理学

- 工学

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13脳の構造:機能の局在性

•機能の局在性

- 特定の部位は特定の機能に関与している.

- 進化論的に古い部位は生命維持や情動,運動に関与.

- 新しい部位は感覚・運動,記憶や思考に関係.

•実験および神経心理学による知見の蓄積

- 病巣の位置と生じる障害とのあいだの対応関係

- 実験動物での破壊実験

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14医学的なアプローチ 1

•神経解剖学,形態学 (neuroanatomy, morphology)

- 神経回路網の配線を調べる.

- 細胞に染色を施し,顕微鏡でその広がりを調べる.

- 分子生物学的手法の発達により再び盛んに.

•神経心理学 (neuropsychology)

- 臨床的な症状に着目する.

- 脳の障害部位と症状との関係から,その部位が果

たす機能を考察.

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15医学的なアプローチ 2

•電気生理学 (electrophysiology)

- 神経細胞の電気的活動を調べる.

- 1950年代に微小電極が開発されて以来急速に進歩.

- 最近では多数の細胞の同時計測が可能に.

- 神経回路モデルと最も親和性の高い.

方法論としては停滞気味?

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16医学的なアプローチ 3

•光計測法

- 電位感受性色素を用いて,神経細胞の電気的活動

の空間的な広がりを実時間で計測.

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17光計測法の例

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18医学的なアプローチ 4

•機能的解剖学 (functional anatomy)

- 課題遂行中の脳内活動を計測することにより,

機能と脳内部位の関係を探る.

- PET や fMRIなどの撮像手法の発達により進歩.

- 非侵襲で人間を対象に使うことが可能.

→ 霊長類にしかない機能を調べることが可能に.

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19非侵襲の撮像法

• PET (Positron Emission Tomograpy)

- 放射性物質(15O,11Cなど)による陽電子生成を検出.

- 血流量および代謝活動の観察に有用.

• fMRI (functional Magnetic Resonance Imaging)

- ヘモグロビンの磁気的性質の変化を利用.

- 血流量変化の観察に用いられる.

• NIRS (Near-Infrared Spectroscopy:近赤外線分光)

- ヘモグロビンの近赤外線吸収性の変化を利用.

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20PET example 1

話す 創る

聞く 読む

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21PET example 2

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22MRI example 1

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23fMRI example

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24生物学的なアプローチ

•分子生物学 (molecular biology)

- 神経活動に関わる遺伝子の働きを調べる.

- 神経細胞内部の化学物質の働き,タンパク質合成

の機構,信号伝達メカニズムなどを明らかにする.

- バイオ技術の進歩により,近年急速に発達.

特定のたんぱく質の合成を抑制する.etc

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25心理学的アプローチ

•実験心理学 (experimental psychology)

- 哲学や内省ではなく,客観的な実験事実に基づい

て心理的な働きの性質を明らかにする.

- 心理物理学 (psychophysics)

心理現象を物理的データに基づいて説明する.

感覚や知覚など低次の心理現象を対象とする.

- 認知心理学 (cognitive psychology)

認知, 記憶, 思考など高次の心理活動を対象とする.

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26工学的アプローチ

•工学者には三つの人種

- 工学寄り:脳を参考にして優れたシステムを作る.

- 科学寄り:工学の手法を使って脳を理解する.

- どっちつかず?

•立場を理解した上で評価することが重要

- 工学:パフォーマンスを高めることが評価基準.

- 科学:真実を明らかにすることが評価基準.

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27鳥と飛行機の例

•飛ぶことを研究する際,鳥を選ぶか飛行機を選ぶか?

•鳥を選ぶ人(科学寄り)

- 鳥がなぜ飛べるのか,どうやって飛んでいるのか

が知りたい.

- 飛行機は鳥を理解する上での参考にする.

•飛行機を選ぶ人(工学寄り)

- 現実に使える方法を使って実際に飛んでみせる.

- 鳥は飛行機を設計する上での参考にする.

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28工学的研究の三つのレベル (Marr)

•計算理論 (computational theory)

- 機能の実現に必要な情報処理の本質を理解する.

•アルゴリズムと表現 (representation and algorithm)

- 機能を実現するための計算方法を明らかにする.

•実装 (implementation)

- 計算を実現する媒体を構成する.

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29鳥と飛行機の例

•計算理論

- 飛ぶための物理学(揚力の原理)を理解する.

•アルゴリズム

- 揚力を生成するための方法を考案する.

•実装

- その方法を実現するための部品を考える.

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30脳科学とロボットの関係

•計算理論

- 多自由度非線形リンク機構の制御理論を作る.

•アルゴリズム

- リンク機構を動かすための仕組みを考える.

•実装

- 力の生成方法やリンク機構を設計する.

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31神経情報処理研究の流れ 1

• 1940年代:創世期

- McCulloch-Pitts の神経細胞モデル (1943)

- Hebbの学習原理 (1949)

cf. von Neumann (1945), Shannon (1949)

• 1950年代:

- Hodgkin-Huxley の神経細胞膜モデル (1952)

- Rosenblattによる学習認識装置 perceptron の提案

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32神経情報処理研究の流れ 2

• 1960年代:第1次ニューロコンピュータブーム

- perceptronを種々の問題に適用する試み

- 小脳パーセプトロン説 (Marr,1969; Albus,1971)

• 1969年:Minsky & Papert によるperceptron 批判

- パーセプトロンの限界を数理的に指摘.

- 以後,研究は下火に.

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33神経情報処理研究の流れ 3

• 1970年代:「冬の時代」(人工知能全盛期)

- 連想記憶モデル(Nakano, Kohonen, Anderson, 1972)

- 特徴抽出細胞の自己組織化モデル (Malsburg, 1973)

- 神経力学による動的情報処理 (Arbib & Amari, 1977)

- 両眼立体視のモデル (Marr & Poggio, 1976)

- トポグラフィのモデル (Willshaw & Malsburg, 1976)

- Amariによる一連の数理的研究

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34神経情報処理研究の流れ 4

• 1980年代:第2次ニューロコンピュータブーム

- back propagation (PDP group, 1986)

NetTalk (Sejnowski, 1987)

- 連想回路網の解析 (Hopfield, 1982)

最適化問題への適用 (Hopfield & Tank, 1984)

- Boltzmann Machine

(Hinton, Sejnowski & Ackley, 1984)

- Minsky & Papert による批判 (1988)

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35神経回路研究の流れ 4

• 1990年代以降:新たな数理的考察の進展

- 強化学習の発展

- 独立成分分析 (ICA)の提案

- 統計的学習理論の進展

ベイズ学習,情報量最大化

情報幾何学,統計物理

- 特異点理論に基づく学習の数学的議論

- 神経パルスによる時間的情報処理への関心

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36神経細胞の性質

•神経細胞の構造

•神経細胞の電気的活動の仕組み

•神経細胞内の電気信号の伝搬

•神経細胞間の信号の伝搬

•細胞間の信号伝達効率の変化

•神経細胞の数理モデル

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37神経細胞の性質

•神経細胞 (neuron)

- 脳の神経回路網を構成する要素.

- 109~1010個程度.

- 神経膜における電気化学現象が

電気信号を伝える.

•神経細胞の構造

- 細胞体 (soma),軸策 (axon)

- 樹状突起 (dendrite)

- シナプス (synapse)

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38神経の電気的活動を支える要素

•神経膜 (membrane)を通じたイオンの流れ

- イオンの流れを開閉するチャネル

- イオンをくみ出すポンプ

•イオン分布

- Na+ とK+ が主役.

Na+濃度は細胞内が低く,K+濃度は細胞内が高い.

- 膜内外でイオン濃度が異なるため電位差が生じる.

- 情報伝達にはCa2+が重要な役割.

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39神経膜の電位 (membrane potential)

•静止電位 (resting potential)

- およそ -70mV

•脱分極 (de-polarization)

•過分極 (hyper-polarization)

•活動電位 (action potential)

- 脱分極が一定の限度を超えたときに起きる.

- 電気的なパルスが発生する.

- 細胞が活動(興奮)している状態

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40神経細胞膜活動のシナリオ

1. 外的要因による膜電位の上昇(脱分極).

2. Na+ channel 開放による膜電位のさらなる上昇.

→ 活動電位の発生

3. Na+ channel が閉じるとともにK+ channel 開放.

4. 膜電位が低下し,K+ channel が閉じる.

5. ポンプの働きでイオン分布がもとの状態にもどる.

6. 活動後は再活動できない期間がある(不応期).

これら一連の現象が数 msec のうちに終わる.

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41発火頻度 (firing frequency)

•入力電流の強いほど膜電位は早く増加する

- 膜電位はすぐに閾値に達して発火する.

•引き続き入力が続けば,細胞は不応期後に再び発火.

•入力が強いほど,発火の間隔 (interval) が短くなる.

→ 発火頻度が高くなる.

→ 細胞活動の強さは発火頻度として表される.

  (各時点では活動・非活動の2状態しかない)

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42細胞活動を表わす言葉

• ONの状態

- 活動 activated

- 興奮 excited

- 発火 firing

• OFFの状態

- 非活動 inactivated

- 休止 resting

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43Hodgkin-Huxleyの方程式

•神経発火の様子をほぼ正確に再現する数式モデル

•神経膜をコンデンサとチャンネル特性で表す.

• 4本の非線形微分方程式から構成される.

- 電流に関する式1本

- チャンネル開閉に関する式3本

- 細胞から観測したデータを説明すべく作った式

→ 一連の研究でノーベル賞受賞

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44膜電位の空間的伝播

•膜の局所的な電位上昇は周辺の電位に影響を与える.

- その結果,信号が空間的に伝播していく.

•信号伝達の速度

- 早いもので 10-20 m/sec.

- 軸策の直径が大きいほど伝達速度が早い.

- 有髄線維と無髄線維

•信号の伝搬方向

- 不応期のため,信号は一方向にしか伝搬しない.

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45Hodgkin-Huxleyの方程式の空間版

•局所的な方程式と空間的な伝搬を扱った方程式.

- 局所的部品を抵抗で結合して伝搬を扱う.

電位変化が抵抗を介して周囲へ影響する.

•軸策上のパルスの伝播を表すことができる.

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46神経細胞(神経膜)の性質のまとめ

•膜には活動 (興奮) 状態と静止状態の二つがある.

•発火するには膜電位が閾値を超える必要がある.

•一度発火すると,その後一定期間発火しにくくなる.

- 不応期 (refractory period)

•細胞活動の強さはパルスの頻度で決まる.

•局所的に生じた興奮は神経膜に沿って伝播する.

- これにより信号が軸策にそって伝えられる.

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47神経細胞間の信号の伝達

•化学シナプス(chemical synapse)による伝達

- 情報は電気信号のまま伝わるわけではない.

電気信号 → 化学反応 → 電気信号

•送り手細胞 (pre-synaptic neuron)

- 電気信号により神経伝達物質放出.

→ 神経伝達物質の拡散.

•受け手細胞 (post-synaptic neuron)

- 伝達物質の受容 → イオンチャンネルの開閉

→ 神経膜電位の変化

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48神経伝達物質の種類

•興奮性 (excitatory)

- 電位を上げる(脱分極させる)作用をもつ

acetylcholine, adrenaline, glutamic acid, etc.

•抑制性 (inhibitory)

- 電位を下げる(過分極させる)作用をもつ.

GABA, etc.

•送り手ごとに放出する神経伝達物質が異なる.

- 興奮性細胞,抑制性細胞

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49膜電位の変化の様子

•興奮性入力を受けた場合

•抑制性入力を受けた場合

Excitatory Post-Synaptic Potential

Inhibitory Post-Synaptic Potential

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50神経パルスのタイミングと演算

•発火頻度は同じでもパルスのタイミングが異なると

影響も異なる.

- 一度にパルスが来ると,膜電位が閾値を超える.

- バラバラにパルスが来ると閾値を超えられない.

•神経活動の同期性が重要であるという仮説

- 情報は発火頻度だけでなく,発火タイミングにも

含まれているという考え方が有力になりつつある.

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51神経系での情報伝達に関するまとめ

•化学シナプスによる情報伝達

•細胞ごとにシナプスの数や極性が違う.

•多数の神経細胞からの情報が統合される.

•入力パルス頻度が情報を伝達する第一の媒体.

•パルス到達タイミングの重要性が認識されつつある.

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52シナプス結合強度の変化

•シナプスの結合の強さは時間的に変化する.

- 結合は強くなることも弱くなることもある.

シナプス可塑性 (synaptic plasticity)

•結合の強さが変わると回路網の性質が変化する.

- 個々の細胞の影響力が変化する.

→ シナプス結合を変えることで,回路のもつ機能を

変えることができる.= 学習能力を有する.

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53神経細胞の学習の原理

•心理学者Hebbによる仮説 (1949)

- 局所的な作用によるシナプス結合の強化

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54長期増強と長期抑圧

•一定のタイミングでpre- , post-synaptic neuronを刺激

すると,シナプス結合の強さが変化する.

•長期増強 (LTP: long-term potentiation)

- シナプス結合が長い時間にわたって強化される.

•長期抑圧 (LTD: long-term depression)

- シナプス結合が長期間にわたって弱められる.

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55スパイクタイミングとシナプス可塑性

•神経パルスのタイミングは学習に影響を与えるか?

- 細胞に入力されるパルスのタイミング

- 細胞の出力するパルスのタイミング

• STDP (spike-time dependent synaptic plasticity)

- 両者のタイミングに応じてシナプスの長期増強・

抑圧の方向が変わる.

- 因果律に従う場合に増強,逆の場合に抑圧

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56シナプス可塑性に関するまとめ

•シナプスの結合強度は変化する.

- ネットワークの性質が変化し,学習が実現される.

• Hebbの原理

- 受け手と送り手の細胞活動の同期性が重要である.

•長期増強と長期抑圧

- シナプスの増強と抑圧が実験的に確認されている.

• STDP (spike-time dependent synaptic plasticity)

- スパイクタイミングは学習にも影響を与える.

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57神経素子:神経細胞のモデル

• Hodgkin-Huxleyの方程式

- 神経細胞が示す性質を忠実に再現する.

- ネットワークとしての情報処理を語るには複雑.

→ 単純化した「抽象化モデル」 による議論

•注意:

- 現代では,現実の神経細胞に忠実なモデルの方が

研究がさかんに行なわれている.

- 汎用の神経細胞シミュレータも公開されている.

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58モデルがもつべき本質的性質

•興奮状態と休止状態がある.

•多数の入力の総和が細胞の活動を決める.

•入力の和が閾値を超えたときに細胞は発火する.

•発火頻度が細胞の活動の強さを表す.

•入力ごとに影響の強さ(シナプス結合強度)が異なる.

•シナプス結合の強さは変化しうる.

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59最初の神経細胞モデル

• McCulloch & Pittsのモデル (1943)

- 神経細胞を論理素子として形式化

•時代背景が重要

- Turingの計算可能性理論 (1937)

- von Neumannの計算機モデル (1945)

- Shannon の情報理論 (1949)

- Hodgkin-Huxleyモデル (1952)

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60McCulloch & Pittsのモデル

•論理素子としてのモデル

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61現在使われる代表的な神経素子

•連続的時間の要素を含まないもの

- 線形閾値素子

- シグモイド素子

- 確率的素子

•連続的時間の要素を含むもの

- leaky-integrator モデル

- leaky-integrate and fire モデル

- Hodgkin-Huxleyモデル

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62線形閾値素子 (linear-threshold unit)

•「入力荷重和+閾値処理」に基づく単純なモデル

- McColloch & Pittsモデルの一般化

- 連続的な時間は扱わない.

- 出力は 0 と 1 の2値

- 素子の動作ルール

u = Σj wj xj - h

y = 1[u]

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63sigmoid関数を用いた神経素子

•線形閾値素子の出力を連続値に拡張したもの.

- 出力関数として sigmoid 関数を用いる.

- 出力は発火頻度に対応すると考える.

•動作則

u = Σj wj xj - h

y = f [u]

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64雑談

•個々の神経素子は何に対応するのか?

- 一つの神経細胞

- 同じような性質をもった神経細胞集団全体

•数理学者の勝手な設定

- 研究者が重要であると考える性質に注目

その他は理論的取扱いが楽になるように設定.

- あくまで抽象的な設定

現実の神経系との対応は深く考えない.

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65確率的な神経素子 (probabilistic unit)

•確率的アルゴリズムの枠組みで用いられる.

- 情報幾何学や統計的学習理論との相性がよい.

•出力は0, 1の2値.どちらを取るかは確率で決まる.

- 出力が1になる確率が膜電位に依存して変化する.

- 動作則

u = Σj wj xj - h

P(y = 1) = f [u]

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66leaky-integrator model

•時間的変化を伴う信号を扱うときに使われる.

•出力は連続値である.

•膜電位の挙動を微分方程式で記述.

- 「電流もれがあるコンデンサ」

- 出力関数が非線形なので非線形システムになる.

= - u(t) + Σj wj xj(t)

y(t) = f [u(t) - h]

dt

du(t)τ1

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67leaky-integrate and fire model

•連続値ではなくパルスを出力する.

- 膜電位の方程式は leaky-integratorと同じ.

- 入力の時間積分が閾値に達したときにパルスが出

力され,膜電位がリセットされる.

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68パルス型神経素子への注目

•最近の研究の中心はパルス出力型の素子モデル

•背景

- 数値計算の高速化

- 頻度表現に基づく研究の行き詰まり

- 頻度表現がもつ本質的な問題(頻度の計測)

- 時間軸上の情報表現に対する関心の広まり

- パルスタイミングの重要性に関する実験的報告

- 素子発火の同期性の意味


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