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都市 再生と創造性 - Osaka City...

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Urban Regeneration and Creativity URP GCOE DOCUMENT 4 URP GCOE DOCUMENT 4 都市 再生と創造性 大阪市立大学 都市研究プラザ
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Page 1: 都市 再生と創造性 - Osaka City University...本書は、2007年7月23日から8月31日まで、全28回にわたって日本経済新聞で連載された「ゼ ミナール

Urban Regeneration and C

reativity

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Urban Research Plaza, Osaka City University

都市 再生と創造性Urban Regeneration and Creativity

都市

再生と創造性

大阪市立大学

都市研究プラザ

大阪市立大学 都市研究プラザ

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本書は、2007 年7月 23 日から8月 31 日まで、全 28 回にわたって日本経済新聞で連載された「ゼ

ミナール 都市 再生と創造性」をまとめたものである。転載と英訳に関しては、日本経済新聞社の

許諾を得た。

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目 次    

都市 再生と創造性創造都市 執筆:佐々木 雅幸

1. 知識情報経済の時代2. 新しい階級3. 3つのT4. 芸術文化の役割5. 創造都市の系譜

縮小都市 執筆:矢作 弘

6. 都市規模の縮小7. 政策の構造転換8. ヤングスタウンの挑戦9. 旧東独都市10. バルセロナ・モデル

文化産業 執筆:橋爪 紳也

11. アジア型モデル12. 韓国の戦略13. 中国の都市14. 中国の文化産業15. デジタルコンテンツ

まちなみ保存 執筆:谷 直樹

16. 町家の再生17. 京町家ブーム18. 大阪の長屋19. 前近代の町式目20. 都市の祭礼

ホームレス問題 執筆:水内 俊雄

21. ホームレス問題22. 就労形態23. 中間施設24. 自立支援システム25. 開かれた安全網

創造的社会へ 執筆:佐々木 雅幸

26. 文化芸術政策27. 創造産業の発展 28. 創造的な社会

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1. 知識情報経済の時代 ——文化的魅力などカギに

 いまなぜ、「文化や創造性による都市再生」に大きな関心がもたれているのか。     

 製造業を中心とした 20 世紀型経済から、知識や情報がより重要となった知識情報経済とい

う 21 世紀型社会への移行が進み、都市や地域の経済を生み出すエンジンが大規模工場から創

造性あふれる企業や個人にシフトしてきたからである。

 欧州は早くから製造業の衰退と空洞化に苦しんだため、産業と文化の創造性に富む「創造

都市」への取り組みが進展している。たとえば、現代アート美術館によって都市再生を実現

したスペインのビルバオが代表的だ。1997 年、都心の荒廃地にオープンしたビルバオ・グッゲ

ンハイム美術館。米建築家フランク・ゲーリーの設計で、建物の表面はロケットや航空機に

使用するチタニウムをふんだんに使い、造型的にも極めてユニークで、アート作品と評され

一躍世界に名が知られた。

 公式報告書によるとこの建設費用は約 1 億ド

ル。97 年から 2002 年までの 5 年間で 515 万人

の入館者を迎えた。直接雇用は 4,100 人、観光

業などの間接的な雇用増加数は 40,000 人で、税

収で 1億 1,750 万ユーロの経済効果が発生した。

5年で初期投資資金を回収しただけでなく、重

工業から知識情報経済への産業構造転換と失業

率改善に成功した。

 成熟社会においては、美術館が経済効果をも

たらすことは既に常識になっているが、ビルバオの例は「芸術が衰退した都市をよみがえら

せる起爆剤になる」というモデルケースと評価されている。

 まさに、「知識と情報が経済の主役になる知識経済の時代には、創造的な活動をする個人が

経済発展にとって主要な要素となり、彼らをひきつける魅力的な都市文化がカギになるので

ある。「そのためには最先端の現代アートの力が有効である」という仮説を実証したのがビル

バオの都市再生戦略、つまり、Art → Culture → Knowledge という都市再生戦略だった。

 本シリーズでは、「文化と創造性を軸にした新しい都市政策」を欧米や日本の事例から解き

明かしてゆく。

(佐々木 雅幸)

芸術による都市再生戦略

Art(創造的な芸術を生かす)

Culture(都市文化の魅力の向上)

Knowledge(創造性ある人が集まる)

(注)筆者作成

(循環)

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2. 新しい階級 ——地域の誘因力が重要

 

 アメリカの都市再生に「創造性」の視点を持ち込んだのは、『創造階級の勃興』(The Rise of

the Creative Class)の著者で都市研究者のリチャード・フロリダである。工場労働者が集まる

ピッツバーグに生まれた彼は、相次ぐ大型工場の撤退と失業者が増加する深刻な状況を前に、

産業の立地行動を分析した。そして、成長著しいハイテク産業は創造的人材を求めて立地する

ことを突きとめ、地域再生の鍵は工場の誘致でなく、いかに創造的な人材=創造階級を地域が

誘引できるかにかかっていると主張した。

 フロリダの呼ぶ創造階級、いわゆる社会階層は「超創造的中核」と 「 創造的専門職 」 の2つ

から成る。前者は①コンピューター、数学②建築、エンジニア③生命・自然科学および社会科

学④教育、訓練、図書館⑤芸術、デザイン、エンターテインメント、スポーツ、メディアの各

専門職種である。後者は⑥マネジメント⑦ビジネス・財務⑧法律⑨保険医、技師⑩セールスマ

ネジメントの各専門職種によって構成される。

 どちらも 20 世紀の 100 年を通じて急増している。1999 年に前者は 1,500 万人で、米国の就

業者全体の 12%、後者を合わせると創造階級全体で 3,830 万人に達し、全就業者の 30%を占

めることになる。

 特に、創造階級の中心となる「超創造的中核」には、IT(情報技術)やバイオなどの自然

科学系の研究開発に携わる職業に加え、映像・音楽・舞台芸術・メディアアートなど芸術系の職

業集団も含まれているところが新しい。

 フロリダによれば、これら2つの社会集団の集積を示す指標である「ハイテク指数」と「ゲ

イ指数(同性愛者に創造的な人材が多いという相関に基づく)」は地域的に関連性がみられる

という。サンフランシスコやオースティンなど成長地域はいずれの指数も高い。彼は創造的地

域社会を実現するには、創造性の生まれる地域社会の雰囲気、社会的文化的地理的環境(milieu)

こそ重要で、創造性ある人材(創造資本)を集めることが有効だと主張している。

(佐々木 雅幸)

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3. 3つのT ——地域の寛容性が最も重要

 米都市研究者のフロリダは、21 世紀型都市の新しい担い手として研究開発、芸術文化、建築、

法律分野など知的職業で創造力を使う人 (々創造階級)の登場に注目し、彼らの仕事や生活習慣、

彼らが住もうと考える地域社会の特徴を分析した。

 その上で、創造階級が好んで居住する都市や地域こそ、経済的パフォーマンスにも優れてい

ることをわかりやすい具体的な指標で示した。

 フロリダの分析は世界の都市政策に大きな影

響を与えた。彼が開発した「創造性指数」は

表のように3つのT、すなわち人材(Talent)、

技術(Technology)、寛容性(Tolerance)の分

野を構成する合計8つの指数から構成されてい

る。

 フロリダが最も注目するのは寛容性である。

中でも彼は同性愛者住民の地域別割合(全国比)

を測定した。この指数は「ゲイ指数」と呼ばれ

大きな反響を呼んだ。指数が高いほど、ゲイの人々が隣に住んでいても排除せずに受け入れる

「寛容性」のある地域であることを意味する。

 ゲイの人々は創造性に富む人が多いことが知られているが、フロリダは既成の価値観にとら

われない、時代に先駆けている芸術家のような人々をゲイと同じように扱い、こうした人材を

排除しない地域社会こそ創造的だと考えたのである。例えば、創造性豊かな地域社会にはハイ

テク分野の先端的な人材が好んで集まってくる特徴があることを示した。シリコンバレーなど

が、この地域にあてはまる。

 また、フロリダの開発した指数は、放浪者と呼ばれる若手芸術家など、ボヘミアンのような

社会集団が集まってくることを強く示すシンボルにもなっている。

 米国にはボヘミアンが多い。ボヘミアンはクラシック音楽に対するジャズやロックなど古い

欧州文化に対峙する文化を持つ。つまり、フロリダの指数は欧州の既成社会に対する挑戦的態

度を示す物差しのため、インパクトの強いものだった。彼の理論は「ゲイの集まる都市が発展

する」という俗説とともに世界を駆け巡ることになった。

(佐々木 雅幸)

R.フロリダによる創造性指数

(出所)Richard Florida, City and the Creative Class, Routledge, 2005

1) 創造階級2) 人的資本3) 科学技術に従事する人材

1) 創発性指数2) ハイテク指数

1) ゲイ指数2) ボヘミアン指数3) メルティング・ポット指数

①人材

②技術

③寛容性

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4. 芸術文化の役割 ——社会の潜在力を引き出す

 英国を中心に活躍する都市研究者、チャールズ・ランドリーの著書『創造的都市』は、いか

に新しい都市の発展の方向を見いだすかという問題意識で書かれている。というのも、欧州に

おいて従来の福祉国家体制が破綻し、産業空洞化が進んだからである。

 同書は欧州連合(EU)が 1985 年から進めた文化の相互理解とともに、文化を生かした都

市づくりを目指す「欧州文化首都」の成功事例を分析しつつ、芸術文化の創造力を生かし、社

会の潜在力を引き出そうとする試みを創造都市論として理論化したものである。文化首都では

年間を通じ、コンサートなどの芸術行事を実施する。ランドリーは自らの経験から「芸術文化

のもつ創造性」に着目した理由をあげている。

 第 1 に、脱工業化都市においてマルチメディアや映像・映画などの創造産業が製造業に代わ

って成長性や雇用面での効果を持つとしている。

 第2に、芸術文化が都市住民に対し創造的アイデアを刺激するなどの影響を与えるとしてい

る。「都市の創造性にとって大切なのは、経済、文化、組織、金融のあらゆる分野における創

造的問題解決と、その連鎖反応が次々と起きて既存のシステムを変化させるダイナミズムであ

る」と述べている。

 第3に、文化遺産と文化的伝統が人々に都市

の歴史や記憶を呼び覚まし、都市のアイデンテ

ィティを確固たるものとし、未来への洞察力を

高めるともいっている。

 「創造」とは単に新しい発明の連続だけではな

い。適切な「過去との対話」によって成し遂げ

られるので、「伝統」と「創造」は相互に影響し

合うプロセスである。それゆえ第4に、地球環

境との調和をはかる「維持可能な都市」を創造するために文化の果たす役割も期待されるので

ある。

 ランドリーはボローニャなどとともに、2000 年の文化首都に選ばれたヘルシンキを注目さ

れる都市として取り上げている。ヘルシンキは固有の自然環境や文化的伝統の上に立ち、「光」

をテーマにユニークな都市再生戦略を進めた。そして、創造都市への成功を導いたのである。

(佐々木 雅幸)

2001年以降の欧州文化首都

(注)1985年以降、指定している

都市(国)ロッテルダム(オランダ)、ポルト(ポルトガル)サラマンカ(スペイン)、ブルージュ(ベルギー)グラーツ(オーストリア)リール(フランス)、ジェノバ(イタリア)コーク(アイルランド)パトラス(ギリシャ)ルクセンブルク(ルクセンブルク大公国)、シビウ(ルーマニア)リバプール(イギリス)、スタヴァンゲル(ノルウェー)

年20012002200320042005200620072008

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5. 創造都市の系譜 ——ジェイコブズが源流に

 フロリダやランドリーらの現代の「創造都市論」の系譜をみるとき、昨年 89 歳で他界した

ジェイン・ジェイコブズがその源流と位置づけられる。

 例えば、フロリダは創造階級が好んで集まる「創造的地域社会」のモデルとしてジェイコブ

ズのデビュー作『アメリカ大都市の死と生』に描かれたニューヨークの下町の多様性と創造性

に注目している。

 同時に『都市と諸国民の富』(ジェイコブズ著)も創造都市論の原典として、大いに注目される。

この本のなかで、ジェイコブズは経済的に影響力のある「世界都市」と呼ばれるニューヨーク

や東京よりむしろ、イタリアの中規模都市であるボローニャやベネチアに注目した。

 ジェイコブズは中規模都市と産業地区に集積

する特定分野に限定した中小企業群(イタリア

では職人企業と呼ぶ)は、技術革新を得意とし、

柔軟に技術を使いこなす高度な労働力を保持し

ていると分析。さらに、大量生産システムの時

代に一般的であった市場、技術、工業社会の階

層(ヒエラルキー)に画期的な再編成を促すと

考えた。

 ジェイコブズは職人企業という中小企業のネ

ットワーク型の集積が示す「柔軟性、効率のよさ、適応性」の素晴らしさに驚嘆し、職人企業

を技術革新や環境の変化の波に即興的に対応できる想像力(インプロビゼーション)などに基

づく「修正自在型経済」と特徴づけている。

 技術革新とともにインプロビゼーションに基づく大胆で柔軟な都市経済モデルを提唱した点

に、ジェイコブズの見識がある。すなわち、音楽や演劇などの芸術活動の創造的要素を都市経

済に持ち込み、それを不可欠の要素ととらえている。インプロビゼーションという概念こそ、

創造都市論や創造の場の形成に固有のカギとなる概念といってよいだろう。

 ジェイコブズの「創造都市」は、人間の創造性を引き出すような多様性に富んだ「創造的地

域社会」と、ポスト大量生産時代の柔軟で革新的な修正自在型の都市経済システムを備えた都

市といえよう。

(佐々木 雅幸)

中部イタリアの中規模都市と産業集積

(注)筆者作成

都市

ボローニャ

ベネチア

モデナ

カルピ

プラート

エンポリ

産業集積

包装機械、オートバイ

婦人靴、ガラス

タイル

ニット製品

繊維

婦人服

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6. 都市規模の創造的縮小 ——創造性や活力の模索 活発に

 都市再生を「都市空間と都市活力」の質的転換と再編を視点に考えてみよう。それが「都

市規模の創造的縮小」の政策課題である。米カリフォルニア大学都市地域開発研究所の調べ

では、世界の6分の1の都市で居住人口が減少している。米国では 20 世紀後半に、人口規模

上位 20 都市のうち 16 都市が居住人口を減らした。欧州でも縮小都市が急増している。これ

は世界的な現象で、都市が歴史的な転換点に立たされていることを意味する。

 経済的に豊かになると少子化傾向になるが、加えて産業構造の転換が縮小都市化を加速す

る。経済活動のグローバル化で重厚長大型産業が衰退し雇用機会の喪失を経験している英北

部、独のルール、ザールランドの一部の都市、米

5大湖周辺の都市では人口が急減。日本の地方

産業都市もこの範疇に入る。そうした都市では

しばしば、文化力をベースに都市再生を考える

創造都市論が語られている。

 社会主義体制の崩壊が引き金で、ロシアや東

欧の都市でも経済活動が変容し縮小都市化を強

いられている。旧東独のライプチヒやハレでは、

過去 10 年余に製造業雇用の 80%を失った。仕事

を求めて若者が旧西独側に流出する傾向に歯止めが掛からない。環境面から縮小都市を求め

る時代の要請もある。緑をつぶし郊外に無定形に都市開発を拡散する時代は終わった。既存

都市資源の保全、再生を通して有効活用し、都市の活力に結び付ける新たな都市政策の創造

である。

 縮小都市が政策課題となった 1990 年代以降、研究も本格化してきた。先頭を走る英独では

英独産業社会研究基金が「都市の縮小に挑むライプチヒとマンチェスター」(2004 年)の研究

をまとめた。学術誌の独都市研究ジャーナルも縮小都市の財政、社会基盤の縮小、住宅団地

の減築に焦点を絞った特集(04 年)を出した。カリフォルニア大学の縮小都市研究は本格的

である。8カ国の研究者が参加し、10 カ国 30 都市を対象に国際比較都市研究を始めた。都市

規模縮小の要因分析から政策提言までを視野に入れた多国籍研究チームである。

(矢作 弘)

縮小都市の要因

(注)筆者作成

社会体制の転換

出生率の低下

産業構造の転換

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7. 政策の構造転換 ——産業論的発想が必須

 都市再生では、コンパクトシティ論が持てはやされている。コンパクトシティとは、都市機

能を集積した住みよい街づくりのこと。日本の地方都市は押しなべて「郊外開発を抑制しコン

パクトシティを目指す」としている。

 しかし、「都市規模の創造的縮小」との間には距離がある。「環境容量が枯渇しスプロール(無

秩序)型の開発を容認できる時代ではない」という理解は共通している。半面、成長力に対す

る着眼に違いがある。コンパクトシティ論は、都市の成長力を限られた範囲の都市域にいかに

押さえ込むかの空間論的研究で、成長力の担い手に対する都市産業論的な関心は薄い。

 「都市規模の創造的縮小」研究は、都市に従来

型の成長力がなくなったことを前提に、縮小する

都市を直視し環境に負荷をかけず、暮らしの質を

豊かにする方向に都市形態を誘導する。一方、新

たな都市型産業の養育を通して「都市活力の質」

をパラダイム転換する政策研究である。

 独連邦文化基金は 2002 年以来、米英独、ロシ

アの縮小都市研究を先導してきた。社会学、民俗

学研究者や建築家、美術家なども参加した一連の

研究は、「都市規模の創造的縮小」を通じた都市再生には、都市の歴史的遺産や文化力が深く

関係することを示している。

 米デトロイトや英マンチェスターで、都心の倉庫街から生まれたテクノやヒップホップとい

った新しい音楽が一時期、新しい都市型ソフト産業として衰退都市のイメージ変化に貢献した

ことや、スペインの製鉄都市ビルバオが現代美術館の建設で再生したことなどに注目している。

 歴史的遺産には、歴史的建築などに加え、地域の産業・企業社会に受け継がれているDNA(精

神文化や技術を伝承する遺伝子)も含む。

 「さび地帯」の異名で呼ばれることのある米五大湖に面するロチェスターは、光工学産業の

DNAを継承したハイテク産業の創造(=量産型産業からの脱皮)に活路を模索した。大学が

域外の知の活用と産学連携で貴重な地域資源となった。都市型産業の内発的な再生モデルであ

る。

(矢作 弘)

創造的縮小の方策

(注)筆者作成

・郊外開発の抑制・郊外団地の再編・縮小 → 緑地化 → 郊外の縮小・社会資本(上下水道/交通)の再編

・都心再開発・歴史的空間(建物/街並み)の再生 → 都心回帰の誘導・都市型産業の養育

都市規模の

創造的縮小

郊外

都心

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8. ヤングスタウンの挑戦 —— 「小さく、 美しく」 に照準

 米中西部のヤングスタウンは 20 世紀前半まで製鉄業で繁栄した。その後、急速に国際競争

力を失い、1970 年代に 65,000 人いた製鉄業労働者は現在、4,000 人に激減した。市人口は往

時に比べ 60%減って 80,000 人強である。

 そのヤングスタウンが都市再生ビジョンをまとめた。キャッチフレーズは「洗練された衰

退(smart decline)」である。都市規模の縮小を「より小さく、しかし美しく」なる都市再

生のきっかけに――と市民に発想の転換を迫っている。

 縮小都市政策は、市民の間で厳しい現実を共有

することから始まる。ヤングスタウンは地元大学

と連携し再生ビジョンを作成した。その際、住民

協議会を通じ住民集会を開催。住民参加型のビジ

ョン検討委員会を立ち上げ、市民が現状を正しく

理解し、将来計画の共有に努めた。

 米都市計画協会は最近の市民参加賞をヤングス

タウンに授与。ニューヨーク・タイムズ紙は「2006

年卓越したアイデア賞」を与え、「洗練された衰退」

政策を賞賛した。

 再生ビジョンは計画達成年を 2030 年に定めている。今後4、5年の間に 1,000 戸の空き家

と数百棟の商店や公共施設を壊す。郊外に延びた上下水道など社会資本の統廃合も課題だ。

建物を撤去した更地は緑地に戻し、市域全体に緑のネットワークを構築する。

 計画では市内 127 近隣住区を「安定」「過渡期」「衰退」に分類し、現状に対応したコミュ

ニティ計画を、当面毎年 30 近隣住区のペースで立案する(ウォールストリート・ジャーナル

紙 2007 年5月3日)。積極的に減築する住区や、住宅の単一用途に制限されている土地利用

規制を緩和し、商業集積を高めるなどの複合用途に変更する。

 煤煙産業のために汚染した河川を改修し、産業用途としてではなく、遊歩道や自転車道を

整備し生活の質向上に結び付ける。「緑と清潔」を売りに健康関連産業を養育する一方、都心

の歴史的建築物を生かし芸術活動の拠点を整備する。再生ビジョンは、市議会議員定数の見

直しや行政職の再編など市政改革も重要課題に掲げている。

(矢作 弘)

米ヤングスタウンの人口減少

(注)「ヤングスタウン2010」から作成。予測人口とは、適切に政策を打たなかった時の人口予測図

1960年 1970

20

15

10

51980 1990 2000 2030

万人

政策目標人口

予測人口

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9. 旧東独都市 ——都市再開発で格差も

 ベルリンの壁崩壊後、旧東独都市は激しい人口減少を経験した。市場経済に転換し重厚長大

型産業が倒産、大量の労働力が西側に流出した。

 社会主義時代に建った質の悪いコンクリートパネル方式の郊外住宅団地で多くの空き家が発

生した。2000 年前後に、旧東独都市の抱える空き家は全住宅の 14%に当たる 100 万戸を超え

ていた。

 連邦政府が2001年に打ち出した都市住宅政策は、過剰住宅を解体し需給調整することに加え、

①集合住宅の解体、緑地の整備による居住環境の

改善、②都心と周縁にある比較的良質な住宅の改

修と都心居住の促進、都心のにぎわい回復――を

目標とする大規模なものだった。

 自治体による過剰住宅の撤去や減築では、1㎡

当たり工事費を 60 ユーロとし、費用を連邦と州

政府が各半分を負担。居住地区の再編は上下水道

など社会資本の縮小を伴い、財政的支援も必要と

した。

 旧西独との国境に近い旧東独のライネフェルデは、セメントと繊維産業を国策として誘致し、

1989 年の人口は 16,500 人に達した。しかし、統一で工場は閉鎖され 4,000 人を失った。南地

区住宅団地は空き家率が 25%を超え、1994 年、都市規模の縮小を生活の質向上につなげる計

画をまとめた。

 具体的には①集合住宅の解体、森や公園を増やし環境を改善、②建物の階を削った減築では、

デザインコンペを導入し質の高い住宅に改造、③職業学校、日本庭園、高齢者施設など社会活

動の基盤を整備する――方針を示した。取り組みは連邦政府の支援を得て、一段と加速した。

 縮小都市政策は持続可能な都市の実現にある。住宅団地再編と都心再生は一体である。旧東

独を訪ねて驚くのは、ライプチヒなど文化機能を起爆剤にした都心再開発が活発な都市と、ハ

レなど荒廃した建物群が手付かずで残っている都市との格差である。

 ライプチヒ市内でも交通基盤や住宅団地の開発された時期の違いで縮小政策の徹底と再生政

策の果実に、大きな違いが出ている。格差拡大の背景の解明など、縮小都市研究は始まったば

かりである。

(矢作 弘)

集合住宅の減築の例

(注)筆者作成

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10. バルセロナ ・ モデル ——特徴は 「都市空間に穿孔」

 縮小都市の厳しい現実は、都市が生き物のような有機体であることを教えている。旧東独の

都市が経験したように、短期間に大量の人口が流出するような激しい変化に都市は追い付けな

い。都市再生もまた疲弊を「癒やし」(建築家C.アレグザンダー氏)、「自生的な力をはぐくむ」

(都市研究家J.ジャイコブズ氏)ものでなければならない。

 ライプチヒでは都心再生に広場などを作る「空

間に穿孔」の考え方が生かされている。修復が難

しいほど荒廃した建物を撤去し、小さな緑地に戻

す。緑地には文化施設や集会所など小規模な公共

施設を整備する。地区の建築環境が改善すると、

人々が集い、にぎわいが生じ、公園に面した様式

建築の荒廃した建物では修復工事が始まる。この

小さな緑の公共空間づくりを街全体に広げる。

 旧西独でも政府の「西の都市改造」政策が進む。

ザールランドの製鉄都市フェルクリンゲンも産業構造の転換を強いられ、人口減が著しい。都

心の商店街には空き店舗が目立つが、その再生に「穿孔」の手法が使われている。空き店舗を

解体し、緑地と舗道を整備する。建物を壊し、歴史的建築の市庁舎と中層階の建物に囲まれた

三角地に人々を散策に誘う商業空間を作っている。建物の解体で空間の質的向上を目指す発想

は、米ヤングスタウンの再生ビジョンにも生かされている。

 疲弊した都市空間に穿孔する手法は、スペインのバルセロナで実績がある。朽ちた建物を壊

して広場を作り、市が少額の補助金を準備してカフェを誘い込む。人が集い始めると、治安が

改善し、周囲のアパートの化粧直しが始まり、空き部屋が埋まる。街区の再生が隣の街区に波

及し、再生の連鎖が起きる。創出された空地に美術館を建設し再生の発端にした地区もある。

 都市再生のバルセロナ・モデルは「部分から全体へ」、あるいは「ミクロの都市計画」と呼

ばれる。計画の創造性が評価され、英国王立建築家協会の金賞を受賞した。地域社会レベルか

らの小さな改善を積み重ね、全体の再生につなげる点で「都市規模の創造的縮小」にもこの原

則が適う。

(矢作 弘)

バルセロナ、ラバル地区に創出された広場

広場

0.2km

ランブラス通り

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11. アジア型モデル ——背景に成長への強い希求

 急激な都市化傾向が世界各地で見られるが、中心は明らかにアジアにある。20 世紀半ばに

は、アジア全体の人口に占める都市人口の比率は 17%だったが、2005 年には 40%に倍増した。

国土交通省の調査(『アジア地域における都市の成長に関する展望と課題に係る調査』)では、

05-30 年のアジア圏の人口増加率は 71%に達するとの予測を紹介している。

 日本では人口減少と高齢化が広く語られるが、アジアを単位として鳥瞰的に考えるならば、

人類が経験したことのない都市への人口集中が顕在化している。私たちが持続可能な都市シス

テムの構築を至急に考えなければいけない理由はこのあたりにある。

 都市の創造性を巡る議論も例外ではない。世界都市の機能をひたすら拡充させ続けるメガロ

ポリスはさておき、地域の中核となる都市では文化に由来する創造力に依拠しつつ、魅力ある

都市形成を目指すケースが少なくない。たとえば

神戸市はデザインに、福岡市ではゲーム産業に力

を入れる。もっともアジアの諸都市で目立つ創造

性は、成熟社会の段階にある欧州や、知的財産の

領域で突出する米国の都市とは異質な面がある。

 先の国交省の調査では、魅力的なアジアの諸都

市に注目し、持続的な成長を継続している背景に

「アジア型のクリエイティブネス」があると推定

している。

 アジア型のクリエイティブネスとは何か。生活水準の向上など「成長への強い希求」が背景

にあると指摘する。たとえば、インドの技術者に顕著なように、先進国への留学や海外の企業

で技術を養った人材が、のちに母国に活躍の場を求める例は多い。創造性の高いクリエイティ

ブクラスを都市の外から誘引するのではなく、内なる人材がより流動的に活躍、外部との開放

的なネットワークを築く傾向がある点に同調査は着目する。

 加えて地域特有の「伝統的技術」の再評価、さらには古くからの「多文化・多民族社会」が

もたらす寛容性もまた、アジア型クリエイティブネスの形成材料に想定することができるとし

ている。

(橋爪 紳也)

アジア型のクリエイティブネスの要素とその形成材料

(注)国土交通省調査から作成

要素

①技術力

②人材の存在・確保

③寛容性のある社会

④地域アイデンティティー

形成材料 ハイテク・知的産業の集積伝統的技術クリエイティブクラスの存在・確保クリエイティブクラスにとって許容度の高い社会多文化・多民族社会固有の伝統文化・文化資源の活用

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12. 韓国の戦略 ——国挙げて映像産業など支援

 アジアでは、いまでも日本が創造産業のけん引役である。一方、東アジアの近隣各国は市場

の拡大と ICT(情報通信技術)の普及を前提に、コンテンツ産業の育成を国策として重視する

ようになった。いちはやく成功モデルを示したのが韓国だろう。

 金大中大統領が「文化は国力」と発言した 1998 年を契機に、文化産業基本法を制定。国家

ブランドの向上と文化産業の振興に取り組んだ。際立つのがオンラインゲームやモバイルコン

テンツの領域である。ネットカフェやインター

ネットの普及率の高い国情を反映し、オンライ

ンゲームは 2005 年に世界市場の 30.4%を占める

ほどの成長をみた。

 輸出産業となった映像コンテンツの振興策も

特筆に値する。「韓流ブーム」がまず中国語圏を

席巻、NHK で放送された『冬のソナタ』を契機に、

熱波は日本にも及んだ。映画のロケ地には外国

人観光客が殺到、国境を越えて支持されるスタ

ーも多く誕生した。分野を限り重点化すると同時に、アジア市場に狙いを絞る戦略が巧みであ

る。

 文化産業の重点化は新都市開発に結実する。ソウル市内ではデジタルメディアなどの ICT と

文化産業の高度集積をはかるデジタル・メディア・シティの建設が始まる。また、ソウル近郊

に位置する京畿道・高陽市では、映像産業の拠点となる「韓流ウッド」の事業が具体化しつつ

ある。

 新たな産業クラスターの整備だけではない。釜山のように、都市再生の手段に文化産業を導

入した事例もある。若者が発案し、アジア映画の振興に突出することで個性を打ち出した釜山

国際映画祭(PIFF)は、わずか 10 年余りの間に世界的な映画イベントになり、同時にアジア

を代表する映像産業のビジネスコンベンションの地位を得た。

 その過程で空洞化の様相にあった中心市街地の映画館街は活性化を果たし、開会式典の会場

であるホテルやコンベンション施設などの立地する港湾の再開発が進んだ。港湾機能を最大の

個性としてきた釜山は、映画の都という文化的な都市ブランドを獲得することに見事、成功し

た。

(橋爪 紳也)

釜山国際映画祭の作品数

(出所)PIFFホームページなど

300

250

200

0

1998年度 2001 04 07

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13. 中国の都市 ——産業と文化 2つの振興策

 社会学者、ルイス・マンフォードは著書の『都市の文化』で、「都市は文化の記憶装置であ

る」という確信のもと、持続的な発展を実現するためには「利潤を最重要とする金銭至上経済」

から脱し、「人間の創造性を高める経済システム」への転換が重要になるという考えを示した。

文化によってたつ都市の担い手は、芸術家・科学者・技術者・歌手・音楽家などであるとみる。

 もっとも都市を「文化の記憶装置」とみなすマンフォードのテーゼに対しては反論もあるだ

ろう。現実の都市はむしろ、たえず異文化接触と多文化間の交流が行われる場所であり、だか

らこそ、しばしば文化的伝統を解消する場にもなりうるという解釈である。都市には「文化の

忘却装置」という側面があるがゆえに、新たな文化の創造が可能となるとの見解が成り立つ。(飯

笹佐代子著、『NIRA における都市研究の系譜と未来の展望 文化の視点を中心に』など)

 従って都市の創造性を議論する際には、「文化

の記憶」に基づく創造性と、「文化の忘却」に由

来する創造性との均衡を検討することがおのずと

必要になる。

 財団法人、福岡アジア都市研究所は 2007 年度

に、『「文化産業」振興における日中都市間協力に

関する研究』を進めている。同研究は文化産業の

振興を国策として導入した中国で、各地方政府が

どのような施策を展開しているのかを調査し、日

本の都市との連携可能性について検証しようとするものだ。

 研究の前提となる議論では、都市によって、異なる文化産業の概念があることが確認された。

上海など経済成長を達成した沿海部の主要都市ではデザインなどの「創意産業」を重点化して

いる。対して、西安や雲南などの内陸部では伝統文化への配慮を含む「文化産業」の振興をう

たう傾向がある。

 産業政策に徹する前者と、地方政府の文化部が掌握する事業からの展開を試みる後者では立

場がまるで異なる。その一方で、北京市では双方の均衡をとるかたちで、「文化創意産業」の

振興を掲げている点が興味深い。

(橋爪 紳也)

文化創造産業の分類基準の例(北京)

など

放送・映画・テレビ

芸術品取引

ソフトウェアなど

メディア・出版

文化芸術

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15. デジタルコンテンツ ——香港がゲートウェイに

 創造性にかかわる都市間競争と水平分業の構図は、アジアでも目立っている。中国では文化

産業や創造産業を育成する基盤整備に力を入れている都市が多い。その一つに中国政府が力を

入れる「動漫」、すなわちアニメと漫画の領域がある。

 年次報告書によれば、13 億人中、少なくとも 5 億人はアニメ・漫画の消費者で、市場規模は

年間 1,000 億元になるという。省市レベルのテレビ局に加え、複数のアニメ専門チャンネルや

児童や子供を対象とする専門チャンネルで放映さ

れているアニメ番組の総量は、年間 26 万分に達

する。

 しかし、国内で生産された作品は 2005 年で年

間 4 万分に限られている。06 年末時点でアニメ・

漫画に関連する企業は 5,000 社以上に上るが、専

門家とともに独自性の高い作品が不足している、

政府の支援に依存しているなどの問題点が指摘さ

れている。

 国家広播電影電視総局は電波に乗せるアニメの放送時間のうち、過半を国産の作品とするよ

う各地の放送局に通達した。また、アニメや漫画産業の振興に取り組む拠点も設立されている。

 どの都市がデジタルコンテンツ産業のハブになるのか。大阪市立大の杉浦幹男氏は成長する

中国市場へのゲートウェイとして香港に期待している。具体的には、東洋と西洋の特性を併せ

持つ国際貿易拠点としての「エージェント機能」、集客力の高い展示会などを開催する「ショ

ーウインドー機能」、国際金融都市という性格に由来する「資金調達の場」といった拠点性に

注目し、いずれも香港の持つ強みとみる。

 デジタルコンテンツだけではない。ベトナムやタイ、シンガポールなどを含むより広範な地

域ネットワークのなかで文化産業の将来を見据える必要がある。アジア独自の創造力を先導し、

ゲートウェイ機能とともにハブ機能を担う拠点都市が各分野ごとに必要になるだろう。

(橋爪 紳也)

14. 中国の文化産業 ——高い成長性に世界が注目

 中国は 2000 年に「文化産業」の振興を 5 カ年計画に盛り込んだ。『2006-2007 年中国文化産

業分析及投資コンサル報告』によれば、04 年で文化産業の従業員数は 996 万人(そのうち個人

経営企業の従業員数は 89 万人)、全従業員数(7.52 億人)の 1.3%、都市部に限れば 3.8%を

占める。もっとも生産高は国内総生産(GDP)の 2.15%にすぎない。

 市場規模を見ると、05 年における教育文化娯楽消費の年間総額は 8,300 億元、一般家庭での

文化消費総額は 4,150 億元と推定される。欧米や日本と比較するといまだ成熟してないが、成

長率は群を抜いて高く、世界がこの市場に注目している。

 国策は都市政策に反映する。北京や上海といった大都市にあって、とりわけ注目されている

領域のひとつが現代美術だ。所得の向上に合わせてアートの流通をはかる市場が成立。一方、

世界のクリエイターや芸術家にとっても、経済成

長の著しい中国の都市は刺激的な場所に見える。

 話題になったのが、北京の「798 芸術区」や上

海の「M50」など、工場の跡を活用した事例だ。

前者はかつて人民解放軍 798 部隊に所属する国営

電子部品工場であった。経営不振によって閉鎖さ

れたのち、自由に創作する場を求めた国立北京中

央美術学院の学生たちがアトリエとして利用して

いた。02 年以降、東ドイツの建築家が設計した

バウハウス風の建築空間にひかれ、イタリア、ドイツ、台湾、韓国などのギャラリーが進出。

加えて広告・雑誌・デザインにかかわる事務所も集積した。

 03 年になって工場を壊し電子系の産業集積をはかる方針が示されたが、関係者は芸術祭を開

催するなど地道な活動を継続。市当局が既存の建物を保存し、文化産業の拠点として位置づけ

るに至った。

 操業中の作業場を含む製造所の跡地が、北京でもっともクリエイティブな場所に変貌した。

中国でも、都市における産業構造と土地利用の転換のなかで、文化産業が存在意義を示した事

例である。

(橋爪 紳也)

世界の創造産業の市場規模

(出所)韓国政府情報通信部資料より

米 国欧 州日 本中 国アジア

2005年(億ドル)

1336.85645.70220.0045.98140.28

2010年(億ドル)

2337.181427.01427.19188.73412.11

成長率(%)

11.817.214.232.624.1

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15. デジタルコンテンツ ——香港がゲートウェイに

 創造性にかかわる都市間競争と水平分業の構図は、アジアでも目立っている。中国では文化

産業や創造産業を育成する基盤整備に力を入れている都市が多い。その一つに中国政府が力を

入れる「動漫」、すなわちアニメと漫画の領域がある。

 年次報告書によれば、13 億人中、少なくとも 5 億人はアニメ・漫画の消費者で、市場規模は

年間 1,000 億元になるという。省市レベルのテレビ局に加え、複数のアニメ専門チャンネルや

児童や子供を対象とする専門チャンネルで放映さ

れているアニメ番組の総量は、年間 26 万分に達

する。

 しかし、国内で生産された作品は 2005 年で年

間 4 万分に限られている。06 年末時点でアニメ・

漫画に関連する企業は 5,000 社以上に上るが、専

門家とともに独自性の高い作品が不足している、

政府の支援に依存しているなどの問題点が指摘さ

れている。

 国家広播電影電視総局は電波に乗せるアニメの放送時間のうち、過半を国産の作品とするよ

う各地の放送局に通達した。また、アニメや漫画産業の振興に取り組む拠点も設立されている。

 どの都市がデジタルコンテンツ産業のハブになるのか。大阪市立大の杉浦幹男氏は成長する

中国市場へのゲートウェイとして香港に期待している。具体的には、東洋と西洋の特性を併せ

持つ国際貿易拠点としての「エージェント機能」、集客力の高い展示会などを開催する「ショ

ーウインドー機能」、国際金融都市という性格に由来する「資金調達の場」といった拠点性に

注目し、いずれも香港の持つ強みとみる。

 デジタルコンテンツだけではない。ベトナムやタイ、シンガポールなどを含むより広範な地

域ネットワークのなかで文化産業の将来を見据える必要がある。アジア独自の創造力を先導し、

ゲートウェイ機能とともにハブ機能を担う拠点都市が各分野ごとに必要になるだろう。

(橋爪 紳也)

香港のデジタルエンターテインメント産業のSWOT分析

(出所)Hong Kong Productivity Council から作成

強み(S)

強い専門性、競合的な価格制 など

弱み(W)

経験・専門性の高い技術者の欠如、設備購入資本の欠如 など

機会(O)

オンラインゲーム、携帯用ゲーム など

脅威(T)

著作権侵害、小さな地場産業 など

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16. 町家の再生 ——歴史の蓄積を都市の個性に

 これまで芸術や音楽などを生かした都市再生の事例をみてきた。今回からは歴史や伝統を生

かした都市再生をみていこう。歴史とは過ぎ去ってしまうものではなく、現在を生み出し、そ

の存在の根拠となるものである。日本の都市はこれまであまりにも多くの歴史の蓄積を、惜し

げもなく捨て去ってきた。これが都市の特質であるとさえ思いこんでいた。都市の個性は歴史

によってつくられるという事実になかなか気づけなかった。

 地続きの国境をもつ国では、歴史の蓄積が隣国との違いを際立たせるものと考えられている。

とりわけ歴史的な建造物や町並みは、国や都市の

シンボルとして大事にされてきた。歴史はアイデ

ンティティー=帰属意識を醸成する装置といえる

かもしれない。しかし、周辺を海で囲まれた日本

では、こうした考えが希薄だった。

 遅ればせながら日本でも、1975 年に文化財保

護法が改正され、いわゆる町並み保存(伝統的建

造物群保存地区制度)がスタートした。現在では

約 80 の地区で歴史的な町並みが保存され、貴重

な文化遺産になっている。ただ、町家や町並みは、あくまでも文化財保護の対象であるから、

住民の暮らしとの乖離(かいり)が大きくなると、テーマパーク化の恐れがある。そこで登湯

したのが、町家保存ではなく、町家再生という考え方である。

 京都で町家再生を最初に主張したのは、92 年に発足した「京町家再生研究会」である。京町

家(京都の町家)の保存ではなく再生としたところに設立時の思いが込められている。

 研究会は町家の調査・研究、町家再生の実践、情報の発信、活動の連携という四つの柱を掲げ、

京町家の継承と創造に取り組んできた。理事長の大谷孝彦氏が著した論文「町家再生の現代的

意義」の議論を紹介したい。町家の「再生」は歴史性の継承と新たな展開の同一的共存であり、

歴史性と現代性がバランスの取れた緊張感をもって共存することによって、持続性と創造性の

ある、魅力的な「都市」の再生を可能とする、と同氏は述べている。

(谷 直樹)

京町家再生研究会の活動

(出所)京町家再生研究会ホームページ

活動項目

調査・研究

再生の実践

情報の発信活動の連携

内 容 くらしの様子、防災(防火・構造)、法制度、再生手法

再生企画設計、資金計画、町家街区再生、路地奥再生

ニュースレター、シンポジウムなど

京町家ネット、市民活動組織、行政など

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17. 京町家ブーム ——暮らしに根ざす再生に焦点

 京都の町家(京町家)がブームである。風格のある町家がおしゃれなレストランに変わり、

若者らがフランス料理に舌鼓をうつ。バブル崩壊後、ストック活用が叫ばれ、古建築を用途転

換する事例が各地で生まれている。再利用された町家のなかには、京都の新名所になったもの

もある。

 京町家の現在の姿は江戸時代の中ごろに完成し、既に 250 年の歴史がある。京町家の完成度

は高く、当時の最先端技術である畳割(たたみわり=畳にあわせて柱の位置を決めるという技

法)を駆使したものである。また、限られた材料を効果的に使って洗練された意匠に高め、京

都の四季の風情を住まいの中に取り込んだ設計になっている。

 京町家は建築物としての重要性だけでなく、

日常生活の営みや文化の創造を支えてきたとこ

ろに大きな価値がある。しかし、一昔前までは

時代遅れの存在とされ、文化財級のもの以外は

建て替えの対象とされた。前回紹介した「京町

家再生研究会」が発足した 1992 年には、町家に

対する市民の意識は低かったが、ストック活用

という追い風もあって、次第に市民の関心が高

まってきた。

 研究会では 2000 年前後に大工技術の継承と施主・施工者の新たな関係を構築するための「京

町家作事(さくじ=建築工事)組」、町家再生の活動をサポートする「京町家友の会」を発足

させた。さらに、空き町家の流通を促進し、町家活用の活性化を図る「京町家情報センター」

が加わった。こうして四つの組織が有機的・総合的な活動を展開するようになり、京町家再生

は大きく前進した。

 作事組による町家再生事業は、100 件ほどの実績がある。膨大な京町家からするときわめて

少数であるが、先導的な役割は十分に果たしている。

 一般に、町家の活用というと飲食や物販の店舗に改装される場合が多い。しかし、作事組が

手掛けたものは居住専用が多く、暮らしに根ざした地道な再生が行われていることが分かる。

 京町家再生は、都市居住の再生と表裏一体で進められているところに、新しい展望を見るこ

とができる。

(谷 直樹)

京町家の歴史性

(注)筆者作成

京町家の特長

都市住宅

生活空間

京格子

京大工

町並み

歴史性

町家の本質は住商工併用型の都市住宅

生活の器として高い完成度

密度の高い洗練された意匠

畳割に代表される先端技術の導入

秩序性のある表構え

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18. 大阪の長屋 ——再生にも合理性を発揮

 大阪の経済合理主義は、江戸時代の不動産経営にも垣間見ることができる。元禄文化を代表

する井原西鶴は、借家経営の極意として、次のような趣旨のことを書きのこしている。土地つ

きの大屋敷を購入して借家にし、家賃を取ることほど確かな利殖法はない。火災という心配は

あるが、それは 100 年に1度くらいでめったにない。それに6分の利回りであれば、半年複利

で計算して 14 年もたてば元金を取り戻すことができ、地所は永久に自分の宝になる。

 江戸時代の大阪の居住事情は、借家が 80%以

上に達し、表長屋で商いをする住人が多かった。

幕府の役人として大阪に赴任した大田南畝が「大

坂は御覧の如く長屋建家多く御座候」と書いてい

るのは、表長屋のことである。

 ところで大阪の南、阿倍野区にある寺西家の四

軒長屋は、「寺西家阿倍野長屋」という名称の登

録文化財になり、おしゃれな飲食店が入り活気が

よみがえった。家主の寺西氏は、次のように述べ

る。

 「四軒長屋を壊してマンションを建てるとすると、建設費は1億 6000 万円。2000 万円を自己

資金とし、残りを金融機関から借り受けるとする。家賃収入は、年間 1200 万円を見込めるが、

金融機関へ年間 800 万円の返済を強いられ、固定資産税などが年間 100 万円。手元に残るのは

300 万円ほど」。さらに「一方、長屋を再生した場合、改修費を手持ちの範囲内で抑えると、金

融機関からの借り入れはない。家賃収入は4軒で年間 720 万円になる。長屋の固定資産税は数

万円程度。意外にも長屋再生の方がすぐれた運用収益がある」。

 2007 年8月上旬、大阪市立大学都市研究プラザでは、大阪市北区のある町家の全面的な協力

のもと、研究会を開催した。町家には敷地の真ん中に主屋が建ち、路地に面して長屋建ての借

家が配置されている。大正末期の建物で、老朽化が進んでいるので、今後は、学生・院生の実

習をかねて建物を修復しながら、外国人との交流、福祉活用など、多彩な企画が考えられている。

 大阪の南と北で、大阪らしい才覚を利かせた、長屋再生に期待したい。

(谷 直樹)

元禄2(1689)年の大阪の家持ち、借屋人数

(出所)「摂津鈔」(『大阪編年史』)より

家持ち人数

借屋人数

12,977人

68,315人

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19. 前近代の町式目 ——住民中心の街づくりで注目

 現代都市では円滑な都市生活を送るために行政が大きな役割を果たしている。公共施設の整

備、ごみやし尿の処理、防火・消火などは公共事業で行われている。

 しかし、前近代社会においては公共事業という考え方がなく、居住地の環境整備は個別の町

が管理していた。町では寄り合いによって町政を運営するための決まり事である町のルール、

「町式目」を定めていた。

 町式目の中には町の会所での寄り合いに参加す

ること、家屋の売買時の手続き、火災発生時の対

応、町内の困窮者に対する相互扶助、迷惑行為の

取り締まりや紛争処理、隣町との紛争解決のマニ

ュアルなどが定められている。

 現代の街づくりに携わる人が注目するのは、町

独自で町家や町並み景観に規制や誘導を行ってい

る点である。

 町式目は、京都、大阪、奈良、堺、大津などの都市で発見されている。古いものでは京都の

鶏鉾(にわとりぼこ)町のように、400 年以上も前に定められている。条文が少ないのは奈良

の町式目である。奈良では住民の移動が少ないので、成文化しなくても徹底できたのだろう。

 反対に条文の項目が多いのは大阪である。大阪は借家人が多いので町内の人口が多く、商い

の浮き沈みも激しいので住民の移動も多い。そこで、詳細なマニュアルを記録に残しておくこ

とが必要とされたのであろう。

 近代になって地方制度が確立すると、行政を府や市が行うことが多くなった。公共事業は府

や市が責任をもつものとされ、町の自治的な機能は次第になくなり、やがて住民の側も、生活

問題が起これば町や市に訴えるという考えに変わっていった。

 近年、町式目を制定しようという動きがある。京都市中京区の姉小路通をはさんだ町は、町

内に残っていた江戸時代の町式目に倣って、2000 年4月に6項目からなる「姉小路界隈(かい

わい)町式目(平成版)」を策定した。祇園町南側地区は 24 項目からなる町式目を定め、地域

の共同意識を高め、道路の石畳化などの景観整備や防災活動に取り組んでいる。

(谷 直樹)

姉小路界隈町式目(平成版) 一部のみ

(出所)姉小路界隈を考える会

一・姉小路界隈が大切に育んできた「居住」と「なりわい」と「文化性」のバランス。そのバランスの維持を意識しながら発展するよう、地域の人が協力してまちを支えましょう

一・住み続け、なりわいを表出するまちとして、その界隈性を守り育む「人」や「なりわい」を受け入れ、支えましょう

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20. 都市の祭礼 ——伝統行事を街づくりに活用

 日本三大祭に数えられる京都の祇園祭は、毎年7月 17 日に行われる山鉾(やまほこ)巡行

でクライマックスを迎える。各町から出される巨大な鉾が「コンチキチン」という優雅なはや

しとともに都大路を巡行する。

 巡行前日の宵山には、山鉾町の町家で屏風祭(びょうぶまつり)がある。表の格子を外して

まん幕をかけ、じゅうたんを敷いてヒオウギの花を生け、家宝の屏風を飾る美風である。毎年

60 軒以上の町家で屏風が出される。

 屏風祭は京都の町家に伝えられた特別な日の住

文化である。しきたりを重んじる鉾町の人は、ビ

ルに建て替えても、屏風祭の空間を確保するとこ

ろが多い。変化の激しい都心において、屏風祭が

すたれずに継承されているのは、大変興味深い。

最近はこの祭りを巡るツアーも現れ、祇園祭の新

しい魅力ともなっている。

 都市の祭礼は地方都市再生の切り札になるのだ

ろうか。新潟県村上市では 2001 年に「村上町屋

の屏風まつり」を始めた。もともと村上大祭にあわせて町家に屏風を飾る風習があったが、す

っかりすたれていたのを市民が復活した。

 岡山県倉敷市は 1979 年に重要伝統建造物群保存地区に指定されたが、85 年をピークに観光

客は減少傾向にあった。そこで秋祭に家宝の屏風を飾ったという記録をもとに、市民が 02 年

に「倉敷屏風祭」として再生した。

 二つの祭りが成功した理由は、町家や町並みの歴史資産に伝統的な祭礼の住文化を結びつけ、

まちづくりにつなげたことにある。

 屏風祭ほどには大規模ではないが、伝統行事をまちづくりに利用したものに、ひな祭りイベ

ントがある。観光客が、町のあちらこちらの個人宅の座敷に飾られたひな人形を巡るというも

のである。住民の側も手軽に準備でき、地域の共同体意識の再生にも効果があるので、最近で

は各地でひな祭りの流行現象が起こっている。

 すたれていた祭礼や行事を掘り起こして、まちづくりにつなぐ。ふだんは意識しない地域の

伝統や誇りが、この日によみがえるのである。

(谷 直樹)

ひな祭りの例(都道府県)

城下町郡上八幡お雛まつり

真穴の座敷雛

倉敷雛めぐり

飛騨高山雛まつり

酒田雛街道 (山形県)

(岐阜県)

(岐阜県)

(岡山県)

(愛媛県)

(注)筆者作成

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21. ホームレス問題 ——再生の前提として解決急務

 都市の再生や創造性を考える際には多くの課題がある。ホームレス問題はその一つである。

市民ネットワーク、虹の連合が今年、「もう一つの全国ホームレス調査」をまとめた。野宿経

験者が都市でどのような生活を送っているかを全国的に明らかにした初めての調査だ。北は旭

川から南は那覇まで全国 42 都市を対象に、野宿から脱した 660 人に対し実施した。この調査

から野宿経験者の大部分が単身独居生活を送って

いることがわかった。また、調査対象が違うこと

を前提としても、同時点の厚生労働省の調査と大

きく異なることがわかる(表)。

 ホームレスの人々の課題は野宿から脱した後の

生活にある。都市でどのように暮らしていくか、

持続可能な生活をどのように続けるのか。こうし

た課題解決に取り組むのは非営利組織(NPO)や

ボランティア、市民団体である。これらの団体が

まちづくり、都市再生のもう一つの現場をつくり出していることはほとんど知られてこなかっ

た。

 野宿生活者の問題は、社会的なべっ視や偏見のもと、野宿から脱する支援をする市民団体も

なかなか登場せず、生活保護もほとんど適用されず、社会的に排除された状況が長く続いてき

た。野宿を回避するための公的サービスはゼロに等しかったといえる。

 NPO やボランティアの役割は、まさしく野宿を脱するための手順や方法を野宿者へ伝えるこ

とだ。硬直し機能不全となっていた公的なセーフティーネットに頼ることなく、既存の社会資

源を動員しながら創意工夫で新たな仕組み作りを進めることである。

 2002 年8月に「ホームレスの自立の支援等に関する特別措置法」が国会で成立し、国による

取り組みも始まっている。都市には以前から「野宿者」などと呼ばれる路上生活者がいたが、

法律用語で「ホームレス」という言葉が認知されたのは、このときが初めてである。

 ホームレスが認知されたことで、都市政策に何らかの創造的な展開がもたらされているのだ

ろうか。都市政策とホームレスの問題について考えていく。

(水内 俊雄)

二つの全国ホームレス調査の比較

平均年齢女性比率

39歳以下の比率65歳以上の比率

テントや小屋で野宿生活野宿期間が3ヵ月未満野宿期間が1年未満

事象

57.5歳4%4%21%51%4%12%

57.8歳7%8%27%33%26%46%

虹の連合全国調査

厚労省の全国調査

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22. 就労形態 ——雇用の安定性がカギに

 ホームレス問題は都市の再生を考える際に重要な課題となってくるが、具体的にどうしたら

よいのか。実態をみていくと、解消のためにどのような施策を講じればよいか糸口を見いだせ

る。

 野宿から脱した人々(脱野宿者)は都市で生活を送る場合、低家賃住宅の多い、条件が不利

な地域に住むことが多い。非営利組織(NPO)などの支援を受けながら生活保護などで生活費

を賄っている。図のように脱野宿者のうち半分が生活保護で、四分の一が就労で、残りが年金

や就労、生活保護の組み合わせで暮らしている。

 東京、横浜、名古屋、大阪の四大都市では就労の割合が高い。一方、小さい都市では就労せ

ずに年金や生活保護などで生計を立てるケースが多い。これは支援団体の数や援助方法などが

地域によって異なっているからである。四大都市で就労率が高くなっている背景には、ホーム

レス自立支援センターの存在が大きい。自立支援で最も問われるのは、野宿から脱した人が就

労するまでの道のりをいかに整備、強化できるか

である。

 実際の雇用形態(平均年齢が 58 歳)をみてい

くと、38%がアルバイトや臨時職、25%が常勤だ

が社会保険などのない仕事、24%が正規雇用の職

に就いている。職種で最も多いのが警備・清掃な

どの 47%で、これにサービス職が続く。低家賃

住宅に住みながら主に清掃、警備の職種に就き、

月収 15 万円前後で都市生活を送ることが、脱野

宿者の典型的スタイルになっていることがうかがえる。脱野宿者にとって重要なのは、どのよ

うな職種に就けるかではなく、安定した正規社員として働けるかといった就労形態の方である。

 一度、野宿を経験し、再び就労を始め(労働市場への再参入)、地域生活へ参加できるかど

うかも重要だ。就労が継続できるよう地域の NPO やボランティア団体、自立支援施設のスタッ

フの支援、行政の支援は欠かせない。

 民間支援によって、就労を継続する脱野宿者の割合が比較的高くなることが市民ネットワー

ク、虹の連合の調査で明らかにされている。

(水内 俊雄)

脱野宿者が生活費を賄う状況

(出所)虹の連合

合 計 …………

四大都市 ………

政令指定都市など

中核市・地方都市生活保護 年金関係 就労

半就労半生活保護

0 20 40 60 80%100

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23. 中間施設 ——自立支援の有効な手段に

 非営利組織(NPO)やボランティア団体が脱野宿者の仮住まいとなる、中間施設を積極的に

提供するようになっている。ホームレスの自立支援のために用意された中間施設は今後の都市

のセーフティーネットを考える上で必須の施設になってきた。

 中間施設に明確な定義はなく、通過施設、中間居住施設などと呼ばれることもある。一時的

あるいは短期的な利用を想定し、入所規則などのない施設もある。

 ここでは脱野宿者が野宿生活から一般住居での生活に移るまでに利用する施設の総称として

中間施設という言葉を使うことにしたい。中間施設の設置はまさに、都市における創造的な生

活再建型の住宅施策の一例といえよう。

 中間施設には生活保護法や社会福祉法に規定された施設のほか、ホームレスの自立支援を促

すために新たに登場した施設もある。これらは一般に名前の知られていない施設が多い。一方、

かつて中間施設として利用された無料低額宿泊所や宿所提供施設は終戦後のシェルター的なイ

メージがあったため、相次いで縮小された。

 脱野宿者の実態をみてみると、68%が中間施設を利用している。四大都市に限れば 84%に跳

ね上がる。ここ数年、宿泊所や借り上げ住宅などの大部分、自立支援センターの一部が NPO や

市民団体によって中間施設として運営、管理されている。こうした中間施設で暮らすために、

一人で手続きを進めた入居者は 28%と少ない。つまり、入居者の多くが NPO などの支援を受け

ているといえる。

 中間施設はどのように形成されてきたのか。

実態をみると、NPO などが住居施設を所有し、支

援する過程でそれらの拠点が中間施設となって

いる。中間施設は施策として提供されたのでは

なく、NPO などが提供する支援の一つだった住宅

施設が中間施設と呼ばれるようになったと考え

たほうがよいようだ。実際、中間施設の提供が

野宿者の支援に大変役立つことが分かっている。

住宅自体が社会資本となり、中間施設として社

会で弱者の都市生活を支える役割を担っているからである。

(水内 俊雄)

中間施設の利用状況

(出所)虹の連合

中間施設名自立支援センター …………………………無料低額宿泊所 ……………………………救護施設 ……………………………………NPOなどの自立支援借り上げ住宅 ………公園/駅シェルター ………………………更生施設 ……………………………………その他 ………………………………………利用せず ……………………………………合  計 ……………………………………

全体(%)19.013.28.67.63.31.914.731.7100.0

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24. 自立支援システム ——広範な居住不安者も対象に

 ホームレス自立支援の仕組みの構築は、都市の最後のセーフティーネットを創造的につくり

だすことにつながる。野宿から脱野宿に向かう自立支援システムは、韓国や香港、台湾などの

大都市で整備され、日本でも 2000 年前後にシステムが動き出した。

 整理すると、図のようになる。支援は段階に応じて複数ある。

 初期段階としては、野宿現場の街頭での総合相談であるアウトリーチがある。これには巡回

して相談を聞いたり、炊き出しすることなども含まれる。次の段階としては、野宿から脱し、

一般居住生活をするまで利用する中間施設であるホームレス自立支援センターなどに入居する

ことになる。中間施設への入居後は就労支援、生活相談支援、単身生活を送る人々へ居住の継

続支援、アフターフォロー支援などがある。

 このシステムには従来の行政施策のマニュアル

にない想定外のサービスが目白押しとなってい

る。例えば、アウトリーチのような路上に出向い

て相談するといった支援は前例がまったくない。

前回触れた中間施設における生活再建型の就労支

援も同様だ。

 多くの場合、非営利組織(NPO)やボランティ

ア団体が自前で、旧来の地域組織や社会扶助組織

などを少しずつ変革させながら、社会資源をネッ

トワーク化し、ホームレス支援の仕組みづくりを手探りで模索してきた。

 公的セクター側でこうした民間の動きを正確にキャッチし、行政の活動にうまく結びつける

ことのできる人材がいれば、ホームレス自立支援システムの構築に踏み出せる。しかし、この

ような都市はごく少数だ。

 現在の NPO の活躍の背景には、既成の公的セクターの縦割り行政に起因する機能不全があっ

た。

 法律上では野宿生活、路上生活者だけをホームレスと定義しているが、そうした理解はもは

や改めねばならない。現実には法の定義をはるかに超え、多くの広範な居住の不安定な人たち、

野宿寸前の人、ニートやフリーターまでその施策の対象は広がってきているのである。

(水内 俊雄)

アウトリーチ支援

中間施設入所支援

施設内支援

住宅入居支援

アフターフォロー支援

支援の種類

生活保護受給支援

就労支援

(注)筆者作成直接脱野宿

野宿 一般住宅中間施設

自立支援システムの概要

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25. 開かれた安全網 ——充実に向け官民の協力課題

 ホームレス自立支援システムの利用者が広がっている。前に紹介した市民ネットワーク、虹

の連合の「もう一つの全国ホームレス調査」によってもはっきりとうかがえる。かつてはテン

ト小屋に住むといった定着型の野宿者の利用が多かったが、今は野宿経験のない人から5年以

上の長期にわたる人まで実に多様なホームレス歴となっている。

 利用者の広がる背景にはホームレスの状況が多

様になっていることもある。身寄りも行き場もな

く生活保護施設を利用する人、社会的入院を余儀

なく繰り返す人、当面の避難所として宿泊所を利

用する人、日払いの簡易宿所が利用できなくなっ

た人、日雇いでの作業員宿舎や派遣での社員寮な

どに住めなくなった人、満期刑務所退所で行く先

のない人、カプセルホテル、ネットカフェ、友人

の家などを転々とする人など様々だ。

 ホームレスという言葉の浸透で、極端にいえばホームレスと自分が認知すれば、以前より容

易に関連施設でサービスを受けることができるようになった。民間主導の支援が拡大するにつ

れ、ホームレスになる恐れのある人々にもその危険を回避できる、開かれたセーフティーネッ

トがようやく日本に表れ始めた。

 前回述べたようにホームレス自立支援の柱は生活保護、非営利組織(NPO)活動によって広

がった中間施設の活用である。そして、中間施設での支援を核としながら、街頭相談を伴った

就労支援や居住支援、居住後のアフターフォローなどの多様な支援の網の目の形成が肝要とな

る。

 幸いなことに、民間から有効な数多くの先進的な取り組みが生まれ、ホームレス問題の改善

に結びつきつつある。

 しかし、残された課題も多い。ホームレスの生活を再建するための住居施策や、メンタルケ

アなども欠かせない就労支援をどうするのか、本当は病気なのに、疾病ラベルをはられていな

い人たちへの福祉支援をどうするのか、これからの取り組みが待たれている。今後こうした問

題の解決へ向けて官民がどう協力できるのか、創造的な都市が生み出されるかは官民の柔軟な

創意工夫にかかっている。

(水内 俊雄)

脱野宿者の野宿期間の分布

(出所)虹の連合

なし

6ヵ月未満

3年未満

5年未満

5年以上

6ヵ月以上1年未満

0 5 251510 20%

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26. 文化芸術政策 ——社会との多面性生かし成果

 創造都市を実現する上で、都市の文化芸術政策は特別の重要性を持っている。

 欧州では第二次大戦後、「福祉国家」政府の定着により、各国とも文化政策を充実してきた。

英国では経済学者ケインズの提唱した芸術評議会(アーツカウンシル)制度が導入された。政

府は「金は出すが口は出さない」(アームスレングスの原則)というやり方で、オペラ、バレ

エなどの支援に乗り出した。

 だが、近年は文化政策の主体が国家から都市へとシフトしている。支援の対象は古典的で高

尚な芸術から新しいジャンルに移ってきた。背景には、1970 年代以降の欧州におけるエコロジ

ー、フェミニズム、エスニック・マイノリティ、コミュニティ運動など「新しい社会運動」の

台頭が挙げられる。

 これらの運動によって既成の価値観が崩壊し、従来の「ハイ・カルチャー」「ロー・カルチャー」

という区分を転換し、「文化」の概念が大きく拡大していった。個人や集団の表現や創造の自由、

文化施設へのアクセス拡大に関する要求といった「文化に関する権利」が認知され、もはや芸

術文化が特権階級のものではなくなっていった。

 80 年代に入ると、長期にわたる不況、失業問題、

さらに移民の増大に悩む各都市政策担当者など

が都市再活性化策に文化政策をとり入れ始めた。

居住性の高さなどが「都市格」の重要な要素と

して認識された。国際的な文化・スポーツイベ

ントが都市の集客戦略の決め手として位置付け

られるようにもなった。

 90 年代以降、IT(情報技術)革命の影響を

受け、情報・コンテンツ産業の急成長がメディ

アアートなど創造産業の振興へつながるとの期待が高まった。また、芸術と社会との関係がよ

り多面的にもなった。

 例えば、創造都市を目指す大阪市では、現代芸術創造事業を展開している。若手芸術家が失

業者やホームレスの人々の集まる、あいりん地区に出かけ、作詞・朗読や紙芝居製作などの共

同作業を実施。結果としてホームレスなどの精神的なリハビリの一助となる成果を上げている。

(佐々木 雅幸)

欧州における文化政策

第2次大戦後

1970年代

1980年代

1985年

1990年代

福祉国家政策と共に文化政策が前進

新しい社会運動で文化の概念が拡大

都市再生政策に文化政策が採用される

都市の文化振興策である「欧州文化首都」が始まる

創造産業の発展

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27. 創造産業の発展 ——コアへの支援策が重要に

 創造都市を持続的に発展させるには、創造産業の振興が不可欠となる。英国の文化・メディ

ア・スポーツ省は創造産業を個人の創造性、スキル、才能を源泉とし、知的財産権の活用を通

じて富と雇用を創造する可能性を持った産業と定義している。この産業に音楽、舞台芸術、映像・

映画など 13 業種を指定している。

 創造産業を振興するには、その特徴を理解する

必要がある。創造産業の構造を理解するために、

図の同心円モデルが役立つ。中心に創造的核(コ

ア)を置き、放射線状にそのコアが広い産業部門

に拡散していく様子を表現している。

 コアには伝統的な音楽、ダンス、劇場、文学な

どとともに、ビデオ・アート、パフォーマンスな

どの新しい芸術活動が位置している。こうした創

造的コアの分野には、しばしば先端的であるがゆ

えに評価が難しく、市場性や営利性が乏しいため「非営利」と分類されるものが含まれる。

 創造的コアのすぐ外側に位置するのが、書籍・雑誌出版、テレビ・ラジオなどだ。独自のコ

ンテンツを複製し、大量に流通させる産業群で、先端的な文化的価値の割合が創造的コアに比

べ相対的に低い。さらにその外側には広告や観光、建築などの産業が位置している。創造産業

の発展には、営利性に乏しいが先端的な仕事に従事する芸術家やクリエイターが存分に活躍で

きる条件が不可欠である。

 そのうえで、都市が独自の創造産業を育成・振興できるかどうかは、第一に、創造的コアに

対する有効な支援施策を持てるか否かにかかっている。例えば、抜本的な芸術支援策が必要で

あろう。

 一般に創造産業は既存産業に比べ、創造性の発揮しやすい小企業にとどまるケースが多い。

小企業は関連事業との間で密接な取引を繰り返すため、特定の創造的な雰囲気の場所を好んで

集積・集塊する傾向が強い。したがって第二に、そうした小企業が育つ環境があるかどうかが

重要となる。

 また、創造都市を目指す産業政策は都市計画と融合することが課題となる。都市計画に創造

性を発揮しやすい空間形成が求められるからである。

(佐々木 雅幸)

創造産業同心円モデル

(注)筆者作成

テレビ・ラジオ

映画観光

ダンス、音楽、劇場、文学、工芸品など(創造的コア)

マルチメディア・アートビデオ・アートなど

書籍・雑誌

出版

広告

新聞

建築

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28. 創造的な社会 ——ネットワーク化 カギに

 「創造都市」という概念は、急激なグローバル化と本格的な知識情報化社会を迎えた 21 世紀

の都市モデル、都市政策の目標として世界中で熱い注目を集めている。世界の都市が創造都市

を標榜したり、政策目標に掲げたりしている。

 日本では、2001 年に金沢市で経済界や市民が、

「金沢創造都市会議」を設立し創造都市を目指し

た運動を開始している。紡績工場のレンガ造りの

倉庫を改装し、演劇や音楽などの公演や練習に使

える年中無休の「市民芸術村」が開設された。空

洞化した都心に現代芸術に特化した 21 世紀美術

館をオープンし、前衛的なデザインと伝統産業と

の融合を試みている。

 近く開港 150 周年を迎える横浜市でも、2004

年1月に有識者委員会が“Creative City Yokohama”という都市活性化策を提案。中田宏市長

が4月に創造都市推進課を新設し、本格的に取り組み始めている。古い銀行を活用し、非営利

組織(NPO)に運営を委託した「BankART 1929」という実験的なプロジェクトが成果を上げ

ている。いずれも創造の場を創ることに成功している。

 長期不況の中で沈滞する大阪市では、大阪市立大学に世界最初の大学院創造都市研究科が設

立されるなど、都市再生に向けた政策立案と人材養成を目指して新たな動きが始まっている。

 創造都市のネットワーク化の動きをみると、国際的にはユネスコが文学、音楽、工芸、デザ

イン、食文化、映画、メディアアートの7分野で都市を登録する創造都市ネットワーク運動を

提唱しており、既にボローニャ、ベルリンなどが登録済みだ。アジアでは神戸市が申請中で、

大阪市なども早期の登録を目指している。今後、「創造都市」を目指す動きが日本とアジアに

ひろがり、その多様な展開を互いに競い合いながら、ネットワークを組んでいくとき、「創造

的な社会」が実現してゆくだろう。

(佐々木 雅幸)

(了)

ユネスコが認定する創造都市と分野

(注)2008年末で16都市

分野文 学

音 楽

工 芸・フォークアート

デザイン

食文化

都市名エディンバラ(英)ボローニャ(イタリア)、セビリア(スペイン)

アスワン(エジプト)、サンタフェ(米)

ベルリン(独)、ブエノスアイレス(アルゼンチン)、モントリオール(カナダ)ポパヤン(コロンビア)

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執筆者一覧

佐々木雅幸  大阪市立大学 都市研究プラザ 所長/同大学院創造都市研究科 教授矢作  弘  大阪市立大学 都市研究プラザ 運営委員/同大学院創造都市研究科 教授橋爪 紳也  大阪市立大学 都市研究プラザ 特任教授/大阪府立大学 特別教授谷  直樹  大阪市立大学 都市研究プラザ 運営委員/同大学院生活科学研究科 教授水内 俊雄  大阪市立大学 都市研究プラザ 副所長・教授/同大学院文学研究科 兼任

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URP GCOE DOCUMENT 4

都市 再生と創造性

2009 年 3 月

企画 佐々木雅幸(大阪市立大学 都市研究プラザ所長)

発行 大阪市立大学 都市研究プラザ

大阪市立大学 都市研究プラザ

558-8585

大阪市住吉区杉本 3-3-138

電話 06-6605-2071

© 2009 Urban Research Plaza, Osaka City UniversityISBN 978-4-904010-05-1Printed in Japan

http://www.ur-plaza.osaka-cu.ac.jp/


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