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Kobe University Repository : Kernel · 香港港は中国の貨物の中継港として,中 国発...

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Kobe University Repository : Kernel タイトル Title 港湾経営のロジスティック分析(Logistics Analysis of Port Management) 著者 Author(s) 宮下, 国生 掲載誌・巻号・ページ Citation 国民経済雑誌,187(4):17-30 刊行日 Issue date 2003-04 資源タイプ Resource Type Departmental Bulletin Paper / 紀要論文 版区分 Resource Version publisher 権利 Rights DOI JaLCDOI 10.24546/00055846 URL http://www.lib.kobe-u.ac.jp/handle_kernel/00055846 PDF issue: 2021-04-09
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Kobe University Repository : Kernel

タイトルTit le

港湾経営のロジスティック分析(Logist ics Analysis of PortManagement)

著者Author(s) 宮下, 国生

掲載誌・巻号・ページCitat ion 国民経済雑誌,187(4):17-30

刊行日Issue date 2003-04

資源タイプResource Type Departmental Bullet in Paper / 紀要論文

版区分Resource Version publisher

権利Rights

DOI

JaLCDOI 10.24546/00055846

URL http://www.lib.kobe-u.ac.jp/handle_kernel/00055846

PDF issue: 2021-04-09

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港湾経営 の ロジステ ィクス分析

宮 下 國 生

わが 国 の港湾 は経 済成 長 に合 わせ て技 術革 新 を展 開 し,1980年 代 には と りわけ神

戸港 は世界 に冠 た る コンテナ港 と して評 価 を受 けて いた。 ア ジァの 諸港 もその初 期

状 態 に は神 戸 港 が 賦 与 した ノ ウハ ウ に よ り離 陸 した と ころが 少 な くない。 しか し

1990年 代 に入 る と,経 済 のグ ローバ ル展 開 とそ れ に伴 う企 業の調 達 ・生産 ・販売 構

造 の変化 に よ り,物 流構 造が一 変 したの み な らず,そ れ を支 え と したア ジア諸港 の

イ ンフ ラ整備 の進 展 と情報化 に対応 した ビジネ スモ デルの構 築 が進 んだ。 日本 の港

湾 は,次 第 に物流 環境 に恵 まれ な くな った に もかか わ らず,優 れた ノウハ ウ と熟練

労働 力 を持 つが ゆ えに,か えって新 た な対 応 に遅 れが み られ,世 界の港 湾 の発展 か

ら取 り残 されつつ ある。何 をどの よ うに工 夫 す るべ きなの か。本稿 では,日 本港 湾

復 興 の道 を探 ってみ たい。

キ ー ワ ー ド ロ ジ ス テ ィ ク ス,SCM,ト ー タル コ ス ト,ネ ッ トワー ク

1港 湾ロジスティクスへの関心

港湾 は現在では物流のノー ドとして,荷 主の貨物の リンクへの効率的なフローを達成する

ことは もちろんの事,荷 主の トータル コス トの低下に寄与 しなければ,国 際競争に勝 ち残れ

ない段階にきている。さらに現在 では,荷 主のロジスティクス指向は,港 湾にさえ も,物 流

業を営むロジスティクス産業 として機能する事を求める程にまで進んでいるのである。概ね,

ロジスティクスの発展段階に対応 して,世 界の港湾は空港 も含めて,次 の三段階の対応を経

験 している。

1,初 期段階(ノ ー ドにおける効率的貨物フローの導入段階)… …日本の港湾

2.荷 主の立場 に立ったロジスティクス指向導入段階 シンガポール ・香港

3.SCMへ の対応段階 空港

SCMと いうパー トナー関係 にあるヴァーチャル企業による企業間取引の効率的推進は,

空運のスピー ドとそれを生かす空港のロジスティクス対慈によって,多 くの企業に特徴 ある

ビジネスモデル を創出させている。空港はすでに企業のSCM推 進にとっての大 きな戦略変

数となっているのである。

一方,港 湾におけるロジスティクス ・コンセプ トは着実に発展 しているけれども,日 本の

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港湾は,ア ジア物流における日本の立地上の劣位 を割引いたとして,そ の対応の遅れが顕著

である。わが国の港湾は,港 湾法により,地 方自治体が管理主体 となってお り,形 式的には

国家の規制から離れた経営が可能である。 しか しそれは多くの点で中央政府 による構造的 ・

行動的規制の下で経営 されているのである。一旦規制を緩和すれば,今 までの構図は一変す

ることになるから,そ こに多 くの利害関係者の抵抗がある。そのため規制緩和が話題になる

たびに,新 たな妥協が繰 り返 され,抜 本的対応が常に先送 りされている。 中枢港湾から,ス

ーパー中枢港湾に向かう昨今の議論 も,ま た同様の結末 に向かいつつある。当初ねらわれた

好ましい政策的含意は実現 されないのである。港湾は常に部分均衡を志向 し,そ れは国民経

済の求める目的を満たさない。

この流れは,今 後急速に変化 し,港 湾管理当局の 自覚の下で港湾の革新が進むと期待され

るとしても,そ の際に,条 件整備 として何が必要なのかを論 じておく必要がある。そのため

には,わ が国の港湾に限定すれば図表1の ような発展のシナ リオを用意 しなければな らない。

これによれば,わ が国の港湾の発展段階は,① ~②に向かう途中にある。それは規制緩和に

よる環境変化への初期対応 に過ぎない。

世界の港湾は,す でにロジスティクス ・コンセプ トを自らの経営おいて昇華 し,他 の物流

図表1日 本の港湾発展 のシナ リオ

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港湾 経営 の ロ ジステ ィクス分析 19

業 との競争 ・補完の面か ら,グ ローバルなネットワーク構築競争に挑んでいる。 もちろんそ

こには,背 後地の持つ経済規模の成長という,環 境 に恵まれた面 もある。

例 えば,シ ンガポール港の成長は,ASEANか ら湧 き出る貨物の中継港 として,港 湾 を公

共的に経営 し,世 にシンガポール型港湾モデル として高 く評価 され る,効 率的で,荷 主指向

型の ロジスティクス対応戦略を展開している。香港港 は中国の貨物の中継港 として,中 国発

展の恩恵を最大限に享受 している。

しかし両港 の経営は万全ではない。例えば,シ ンガポール港は,200キ ロ近隣の競争港であ

るマ レーシアのタンジェンペ ラパス港の競争を受けて,メ ルスク ・シーランド社(デ ンマー

ク)と エヴァーグ リーン社(台 湾)と いう世界を代表する船社の寄港を失った。 これは,タ

ンジェンペ ラパス港が特定船社への港湾ター ミナルの専用利用 を低価格で認めたからである。

それは,公 共利用型のシンガポール ・モデルの持つ欠点 を,う まく突いた戦略といえよう。

シンガポール型経営が理想モデルではないのである。

香港港は,い ずれ中国本土の港湾インフラの整備が進むにつれて,次 第に衰退するであろ

う。最初の試金石 は上海港の大窯山 ・・』・窯山外洋ター ミナルの完成する2005-・2006年 の頃と

なるであろう。釜 山港 も現在のコンテナ取扱貨物の約40%を も占める,中 国からの トランシ

ップ貨物は,い ずれ急減す るであろう。にもかかわ らず,韓 国政府 は釜山港の西400キ ロに釜

山港 とほぼ同様の規模を持つ光陽港の建設に取 りかかっている。韓国が日本 と同様の過剰な

港湾インフラに悩む時期 も近いであろう。

このように港湾の競争優位に絶対 というものはない。1980年 代における日本の港湾の競争

優位は,NIES,ASEAN,中 国な どのアジア諸国におけるコンテナ港湾の未整備 という環境

の下で達成された ものであった。上流で貨物が とまれば,次 第に下流の港は衰退する運命に

ある。 しか し問題 は,日 本の港湾がそれらの港湾の達成 した発展シナ リオを遅々として実現

していない事である。そのことは 日本産業の競争優位 に対 しても障害 となる。

港湾業 を日本産業の中にどのように位置づ けるかは,港 湾業の自覚において始めて可能 と

なる。 シンガポール ・香港 ・釜山 ・高雄などのアジア諸港が急激にコンテナ貨物の取 り扱い

を増加 したのは,既 存の港湾関連産業がなかったか らである。利害関係者が存在 しない状態

で,理 想的経営モデルを構築できたのである。 しか し日本は異なっている。明治以来構築 し

てきた港湾関連産業が強固な基盤 を形成 してお り,そ れ との摩擦を克服するには多 くのエネ

ルギーと時間を必要 とするのである。にもかかわらず,港 湾の改革を進めなければ,日 本経

済 はグローバル時代に競争優位を保つことはできないといわねばならない。

以下では,現 行の港湾 に対す るこのようなロジスティクス対応要請に対 して,日 本の拠点

港湾が どのような港湾経営方式をとることが望 ましいのかを明 らかにしよう。そのために本

稿では,と りわけ西日本に位置する神戸港 と大阪港が,1986~95年 の10年 間に,ア ジアの9

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20 第187巻 第4号

力 国 ・地 域(韓 国 ・台 湾 ・香 港 ・シ ンガ ポ ール ・中国 ・フ ィ リピ ン ・マ レー シア ・タ イ ・イユ

ン ドネ シ ア,以 下 単 に9力 国 とい う)の パ ネル デ ー タ(サ ンプ ル 数=90)を 用 い て,両 港 が

 

どのような行動メカニズムを採用 していたのかを計量的に考察 した研究 をべ一スにして,今ヨ

後両港が展開する可能性のある港湾経営方式 を比較検討するという方法 を採用する。

II基 本構造の特徴

対アジア9か 国の輸出物流に占める名古屋以西の主要港湾である,神 戸,大 阪,北 九州,

名古屋の4港 湾 についてのコンテナ貨物取 り扱いシェアシェアの相関係数を求めると,以 下

の現状が把握で きる。

1.輸 出物流 に関す る統計的に有意(1%レ ベル)な 関係は,神 戸港 とその他3港 湾 との

聞においてのみ発生 してお り,相 関係数の符号はいずれ もマイナスになっている。神

戸港 は他の3港 湾 との間で,明 白な競争関係に立っている。

2.輸 出物流 については,他 の3港 湾は相互に影響 を受けない中立関係にある。競争関係

にも補完関係にもない。

3.輸 入物流に関しては,神 戸港は大阪港 と北九州港 と有意な競争関係(相 関係数は大阪

港 との問では5%,北 九州港 との間では1%レ ベルで有意)に あるが,名 古屋港 との

関係 は中立的である。

4.輸 入物流における他の状況は,大 阪港が唯一北九州港 と補完関係(相 関係数は5%レ

ベルで有意)を 構築 しているほかは,中 立的関係に立っている。

この ように神戸港 は,輸 出物流でも,輸 入物流で も,他 の3港 とは概ね競争的関係にある

のに対 し,大 阪港は,神 戸港 との競争関係 を除けばほぼ中立的関係 にある。 これは,阪 神大

震災の発生 した1995年 ごろまでに,神 戸港が,と りわけ西 日本において保有 していた競争優

位の状況を明 らかにしている。大阪港 をはじめとする他の3港 は神戸の競争圧力を逃れるた

めに工夫は していたであろうが,そ の効果は相関係数からは窺 えない。そのため,こ れら各

港の行動メカニズムの解明は,神 戸港 と大阪港の競争力改善の方法を探 る上で も必要である。

1.神 戸港 ・大阪港の輸出物流行動モデル と物流行動の特徴

神戸港 と大阪港の対アジア物流に見 られる輸出 と輸入のメカニズムを実証するために採用

された基本メカニズムは,貿 易論における輸出関数 と輸入関数であり,そ れにより物流の基

本的決定因が決 まる。この基本メカニズムに加えて,選 択的な港湾経営方式がいかなる戦略

効果を伴 うかを判断で きるサブメカニズムがある。

その具体 的構造は,① 日本のアジア9力 国への直接投資,② アジア9力 国の1人 当たり

GDP,③ 円の対米 ドル為替相場 とアジア9力 国の通貨の対米 ドル為替相場の比率,を 基本的

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港 湾経 営の ロ ジステ ィク ス分析 21

決定因とし,④ 当該特定港湾のコンテナ化率と⑤神戸港の輸 出コンテナ貨物集中度,を 戦略

的決定因とするものである。すなわち(1)式 のようにな る。

特定港の輸 出物流=f(3つ の基本的決定因;2つ の戦略的決定因)… …(1)

これ らの決定因の符号条件は図表2の とお りである。「① 日本のアジア9力 国への直接投

資」は,1990年 代半までの過去10年 間の日本のアジア向け直接投資は,プ ロダク トサイクル

の段階で捉えれば,概 ね革新あるいは成熟品の輸出であ り,ア ジア域内における標準化品の

組み立てに向けた成熟部品の後工程 の移管であった。これらの輸 出は,日 本からの輸 出物流

規模にはプラスに作用するが,そ の後は,標 準化品,成 熟品,さ らには革新製品の一部まで

アジアで生産され るようになるため,直 接投資は輸出物流規模 にマイナス作用するであろう。

「②アジア9力 国の1人 当たりGDP」 の増加は,日 本の輸出を促進す る。「③為替相場比率」

(円の対米 ドル為替相場 をアジア9力 国通貨の対米 ドル為替相場で除 した比率)に ついては,

円安が輸出を促進することは確実であるとしても,図 表2に 見るように,多 国籍企業の継続

的取引の有無によっては,そ れ以外のケースをも合理的に成立 させ るであろう。

これらの基本的決定因の作用のほかに,港 湾経営の戦略的決定因である,「④ 当該特定港湾

のコンテナ化率」は,複 合輸送サービスのネッ トワーク効果の増大を通 じて,当 該港湾のサ4

一 ビス評価 を上 げるため,そ の貨物吸引力が増加すると期待され る。 また当該港湾が神戸港

であるとき,考 察期間においては,そ の貨物集積効果の増大が,他 港 を圧倒 し続けるであろ

う。したがってこのケースでは,「⑤神戸港の輸出コンテナ貨物集中度」の作用は,プ ラスで

あ り,一 方,当 該港湾が大阪港であるとき,神 戸港の集中度の作用は,先 に触れた良好な競

争関係 から容易 に推測できるように,輸 出量に対 しマイナスの作用 を持つであろう。

ここで図表2で 捉 えた特定港における輸出物流規模の決定関数を,対 数線形1次 式で特定

化 し,韓 国を基準値 として,他 の8力 国の調整値を追加変数法で測定すれば,こ の特定港が

神戸港であるとき,推 定結果の符号条件の充足状況は,対 象9力 国につき,概 ね図表3の よ

うになる。

これを見 る限 り,神 戸港の輸出物流行動は合理的であり,設 定された符号条件に対 してほ

ぽ整合的である。唯一の例外は,'対 台湾貿易に対 して,輸 出のネッ トワークサービス効果が

機能せず,し か も符号条件 とは背反する結果が生 まれている。 ここには,世 界を代表する台

湾のコンテナ船社であるエヴァーグ リーン社が,歴 吏的いきさつのため,神 戸港ではな くて

大阪港に専 ら寄港することによる影響が現れている。その意味でこれは説明可能な非合理性

であり,む しろ現実には適合 している。

したがって,為 替相場の合理的作用に逆 らって長期取引の視点 より行動する三力国への物

流行動のうち,台 湾に対するものは,非 合理的取引 と認定 してよいであろう。これに対 し,

シンガポール とマレーシアに対する長期継続的取引はマ レーシアに立地する松下電器産業の

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図表2神 戸港(ま たは大阪港)の 輸出物流決定因の符号条件

作用の方向

決 定 因

輸出物流規模

に対 して(+)

輸出物流規模

に対して(一)

輸出物流規模

に中立

符号条件の判

断基準

①日本のアジア9力 国への直

接投資

◎(革新製品・

成熟製品が

主)

× ×プ ロダク トサ

イクル 依存

② ア ジア9力 国 の1人 当 た り

GDP◎ × ×

アジアの購買

③円とアジア9力 国通貨の対

米 ドル為替相場比率

◎(短期取引

を含む一般

的取引)

0(継 続 取 引

が強 いケー

ス)

○(継 続 取 引

の影響 下の

ケー ス)

円安効果

④神戸港(または大阪港)の輸

出コンテナ化率◎ × ×

港湾経営の戦

略効果

⑤神戸港の輸出コンテナ貨物

集中度

◎(神 戸 港 の

ケ ース)

◎(大 阪 港 の

ケ ー ス)×

港湾の集積の

効果

(注1)

(注2)

(注3)

◎:最 も合理 的な符号条件,○:あ りうる符号条件。 ×:非 合理 な符号条 件。

⑤の(神 戸港)は,当 該特定港湾が神 戸港のケースで あ り,(大 阪港)は,そ れが大阪港 のケースであ る。

本分析 では直接輸 出 と トランシップ輸 出 を区別 して とらえていない。

図表3神 戸港における輸出物流規模決定因の実証結果(1986~95年)

作用の方向

決 定 因

輸出物流規模

に対して(+)

輸出物流規模

に対 して(一)符号条件の判定結果

①日本のアジア9力 国への直

接投資◎9力 国 9力 国すべて整合的

② ア ジア9力 国 の1人 当た り

GDP◎9力 国 9力 国すべて整合的

③円とアジア9力 国通貨の対

米 ドル為替相場比率

◎右記を除く6

力国

0シ ンガ ポール

Oマ レ ー シ ア

x台 湾

台湾 以外 は整合 的;シ ンガ ポ

ール ・マ レー シア では長 期継

続 取 引優 勢

④神戸港の輸出コンテナ化率 ◎8力 国 x台 湾台湾については特殊要因が作

⑤神戸港の輸出コンテナ貨物

集中度◎9力 国 9力 国すべて整合的

影響を示すものであ り,合 理的なものである。

ところが,同 様の大阪港 における輸出行動の計測結果(図 表4)に 従えば,ASEAN4力 国

のうち,マ レーシアを除 くタイ,イ ン ドネシア,フ ィリピンへの輸出物流は,符 号条件 を満た

さないケースがほとんどである。大阪港は本来,理 論的に見 て発生するはずのないASEAN

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図 表4大 阪港 にお け る輸 出物流 規模 決 定因 の実証 結果(1986~95年 〉

作用の方向

決 定 因

輸出物流規模

に対 して(+)

輸 出物 流規模

に対 して(一)符号条件の判定結果

①日本のアジア9力 国への直

接投資

◎右 記 を除 く7

力 国

×タ イ

×イ ン ドネ シア

タ イ ・イ ン ドネ シア を除 く7

力国 で整合 的

② ア ジア9力 国の1人 当た り

GDP◎7力 国

Xフ ィ リ ピ ン

×イ ン ドネ シア

フ ィ リピン ・イ ン ドネ シア を

除 く7力 国で整合 的

③円とアジア9力 国通貨の対

米 ドル為替相場比率

◎右 記 を除 く6

力 国

○香 港

○ シ ンガ ポール

×イ ン ドネ シア

香港 ・シンガポールでは長期

継続取引優勢

④大阪港の輸出コンテナ化率◎ 右記 を除 く7

力 国

×ブ イ リ ピ ン

×イ ン ドネ シア

フ ィ リピ ン ・イ ン ドネ シア を

除 く7力 国で整 合 的

⑤神戸港の輸出コンテナ貨物

集中度◎9力 国 9力 国すべて整合的

への輸出に取 り組んで きたといえるのである。これは裏を返せば,対ASEAN輸 出物流では,

大阪港 は神戸港の集積効果圧力をまともに受け,そ れを回避する努力が非合理的行動として

映った といえよう。

特 に重要な点は,港 湾サービスをめぐる戦略的要因は,神 戸港 と大阪港 に対 して,と もに

合理的に作用 していることである。特定港における港湾サービスの向上は,当 該港の輸出物

流 を増加させるのである。港湾活動の直接 目的が,港 湾取扱物流量の増加 を図ることを通 じ

て,地 域経済,国 民経済の発展に寄与することであるとすれば,港 湾サービスの向上は,そ

の中間目的を達成 させ る機能を持つ。その意味で,こ れは戦略的要因であり,そ れがこの時

期 にはコンテナ化率の作用によって測定可能であったのである。

このような戦略目的を達成する手段は,時 代の推移 とともに変化 してい く。世界の動向に

注 目すれば,港 湾の情報プ ラットホームの構築度,ロ ジスティクス対応度などが,新 たな戦

術 として採用 され,こ れ らが戦略目的の達成 に向けて,競 争的に導入されてい く。以上の実

証結果は,そ の大きな理由が輸出物流に対する戦略要因の機能にあることを示唆 しているの

である。

なお神戸港の物流集積度は大阪港 にマイナスの作用を与えている。これは考察期 間におけ

る両港の関係 を如実に示 している。つまり,現 行のメカニズムでは,両 港が ともに栄えると

いう,い わゆるWin・Winの 関係 を構築できないということである。そのために各港は,港 湾

サービスの向上 を目指 して競争を展開する。

それがインフラを除 くサービス競争であれば好 ましいけれども,わ が国の場合,規 制の下

でサービス競争は展開せずに,往 々にしてインフラの高度化 を目指す港湾開発競争になる。

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24 第187巻 第4号

そのため従来は,ゾ ーン内の協調 ということにほとんど考慮 しない政策が展開されて きた。

それが,ど の ような結果 を生むかは,わ が国の貿易形態の変遷を考慮すれば明らかである。

国民経済 さらには世界経済 と整合の取れた港湾政策 とは,港 湾の規制緩和,サ ービス競争

の導入,効 率的な経営,ゾ ーン内協調,な どのファクターが前面 に現れ,そ こを出発点にて,

港湾建設 と港湾経営を考 えるということである。

2.神 戸港 ・大阪港の輸入物流行動モデル と物流行動の特徴

港湾輸入物流行動は神戸港を例 に取れば(2)式 のようになるであろ う。説明変数の上の符

号は,合 理的な符号条件 を示 している。大阪港のケースでは,⑥ が 「大阪港の輸入コンテナ

貨物集中度である。

(+〉(+)

神戸港の輸入物流量=f(① 日本のアジア9力 国への直接投資,② 日本の1人 当た りGDP,

(+)or(一)(+)

③円 とアジア9力 国の通貨の対米 ドル為替相場の比率,④B本 とアジア国の卸売物

(+)(+)

価比率,⑤ 神戸港のコンテナ化率,⑥ 神戸港の輸入 コンテナ貨物集中度)… …(2)

ここに① ~④が輸入物流の基本的決定因,⑤ と⑥が港湾サービスの戦略的な決定因である。

これが大阪港の輸入物流関数の場合には,⑤ は 「大阪港のコンテナ化率」(符号条件は変わら

ない)に なり,ま た⑥の符号条件はマイナス(変 数は変わらない)に なる。

ところが輸入物流関数を輸出のケースと同様な特定化によって,同 一の期間に付 き,同 様

の9力 国パネルデータで推定 した結果によると,(2)式 の符号条件は,②,④ および⑤の3

っの説明変数について必ず しも満たされない。それを神戸港のケースについて表示すると,

図表5に なる。イタ リック記載欄が合理的符号条件に不整合なケースである。

さて図表5に 示 した実証結果 は,概 ね大阪港のケース(掲 載は省略)と 同 じである。その

意味するところは以下の2点 である。

(i)港 湾サービスの戦略変数(コ ンテナ化率)が 全 く作用 しないことである。神戸港の集

中度は期待 された効果を発揮 しているけれども,肝 心のサービス対応には何の効果 も

ない。輸入物流 は,貿 易の基本変数の動きによって左右 されるのであって,港 湾サー

ビスの機能如何 は問題外なのである。 この状況は,最 近では人 口の多い消費地に近 い

港,つ まり横浜港 よりは東京港,ま た神戸港 よりは大阪港の方に輸入物流が偏 って集

中する現象を良 く説明している。東京港や大阪港が,本 来の輸出港である横浜港や神

戸港 よりも港湾サー ビスがより優れているということはありえないのである。輸入は,

その港湾の後背地の購買力に基本的に依存するのである。

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図表5神 戸港における輸入物流決定関数の実証結果

作用の方向

決 定 因

輸入物流規模

にプラス

輸入物流規模

にマイナス

輸入物流規模

に中立備 考

日本の直接投資右 記 を除 く8

力国フ ィ リ ピ ン プ ロダ ク トサ イクル依 存

日本 の1人 当た りGDP中国 ・ブ イ リ

ピ ンの2力 国

左詔を醗 ぐ7

力留

アジアとの水平分業の下

で,厚 本の構貿力層加な

搦スを壇勿乙ない

為替相 場比率 9力 国 円高効果

卸売物価 比率 9力 国

水平分業の下で,厚 本の

幼売物侮が割高という理

珀だけでな航スしない

コ ン テ ナ 化 率 一切存在ぜず 一切存左せず 一切寮在せず 槻略効栗をし

貨 物 集 中 度 9力 国 集積の効果

㈹ そのとき,図表5で は,日 本の1人 当た りGDPと 日本 とアジアとの卸売物価比率が,

ともに符号条件 を満 たしていない。アジアとの水平分業の下で,日 本の直接投資が輸

入 を増加する機能 を維持 してお りながら,な ぜこのようなことが発生するのであろう

か。水平分業型投資は,推 定期間において,成 熟型,標 準化型の製品をアジアか ら輸

入す る目的で遂行されている。 したがってそれは,日 本の卸売 り物価(そ の多 くは,

革新型製品の卸売物価)と は質的に異なる製品に関するアジアの卸売物価 と比較 して

も,あ まり意味はないということを示唆するにとどまらず,む しろ現実にはその差が

大 きければ大 きいほど,ア ジァ製品との品質格差が大 きく,そ れが輸入の歯止めにな

るであろう,と いうことを実証 している。この状況は,日 本の1人 当た りGDPが 増加

したか らといって,ア ジァからの輸入が増えない理由をも説明 している。言い換えれ

ば,ア ジアとの分業 は,こ の期間には真の意味の水平分業状態ではなかったのである。

アジアの要素賦存状態が 日本 に接近 してきたのは,1990年 代半以降,と りわけ中国が

アジア通貨危機の後 に,ASEAN経 済の発展を吸収 し,NIESに 続 く地位 を占めた後

のことである。

III戦 略的経営の模索

港湾経営 とは,港 湾取 り扱い物流量を増加 して,関 連する産業の活性化 を通 じて,地 域経

済,さ らには国民経済の発展に寄与することである。この目標を達成するために設定される

戦略は,港 湾サービスを向上することである。その際,世 界の港湾はそれを図表1に 見たよ

うに,す でに製造業 ・流通業のロジスティクス戦略への対応戦略の構築に向かってお り,日

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本のケースとの間にギャップがあるけれ ども,こ こではそれを問わない。つまりここでは,

港湾サービスの戦略変数が,一 般的に輸入物流 には作用せず,輸 出物流にのみ作用する点に

のみ注目し,そ の戦略の内容にはふれないことにする。

そのうえで,港 湾戦略変数が最 も効果を発揮する港湾経営のあり方を,大 阪湾における輸

出物流について模索する。港湾において戦略が意味を持つのは輸 出物流であるか らである。

神戸港の物流集積度は大阪港にマイナスの作用 を与えるから,現 行のメカニズムでは,両 港

は共通の目標に向かっては進めない。

そこで,現 行の単独経営に対 して,連 携経営 と合併経営におけるヴァーチャルな戦略効果

を比較する。その際,港 湾サービス機能(例 えば,コ ンテナ化率の機能,と か大水深港湾サ

ービス,な ど)を 選択的港湾経営要因 として位置付 けて,望 ましい戦略を探 る。その基本的

考え方は 「コンテナ化率」に集約できる。

「コンテナ化率」は,選 択的港湾経営方式の具体的指標 としても利用す ることがで きる。

それは,そ の港湾が従来通 りの単独経営方式 をとるか,他 の港湾 との事業部制的な連携経営

に転換するか,さ らには合併による経営方式にまで進むのか,の いずれの経営方式を選択す

るかに応 じて,異 なった値をとりうるか らである。

図表6大 阪湾における経営形態 ・経営範囲と戦略変数

経営範囲

経営形態神戸港地域 大阪港地域 大阪湾全域 行動枠組み

単 独 経 営 K/M1 S/M2 神 戸港,大 阪港

連携型事業部経営 K/(Ml+M2) S/(Ml+M2)神戸港事業部

大阪港事業部

神戸型合併経営 (K+S)/(M1+M2) 神戸主導型大阪湾経営

大阪型合併経営 (K+S)/(M1+M2) 大阪主導型大阪湾経営

完 全 合 併 型 (K+S)/(M1+M2) 資源完全活用型経営

ここで,

K:神 戸港の戦略的サービス対応市場規模

S:大 阪港の戦略的サービス対応市場規模

M1:神 戸港の全市場規模

M2:大 阪港の全市場規模

とすれば,現 行の単独経営,連 携 した上での事業部経営,合 併経営の3方 式を区別できる。

合併のケースはさらに合併 した上で,神 戸型経営をとるか,大 阪型経営をとるか,あ るいは

双方の資源が完全に活用されるように完全合併 して経営するか,の 三者 に分かれる。その際,

神戸型あるいは大阪型の合併経営の基本型は,神 戸港あるいは大阪港における現実の経営行

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動の中で,有 効に機能 している要因によって決定される。

例えば,図 表4に 則 して神戸型で合併経営を行えば,9力 国5変 数10年 につ き,特 定国に

ついては,特 定国への輸出物流=f(①,③,⑤,(K+S)/(M1+M2))(但 し,① ~⑤ は図表2

に既掲の決定因)が 機能 し,一 方図表5に したがって大阪型で合併経営 を行えば,同 様 に特

定国への輸出物流=・f(①,②,④,(K+S)/(M1+M2))が 機能する。その際,基 礎要因の作

用 と戦略要因の作用が,そ れぞれ輸出物流規模 に対 し,単 独経営のケース,事 業部型連携の

ケースと比較 して,ど の程度プラスになっているか どうかを見て,合 併経営の効果を判定す

る。その結果は,図 表7の ようである。なおここでは,現 行経営方式とほとんど差のなかっ

た連携型事業部経営(神 戸港事業部と大阪港事業部 を経営主体 とするもの)の 推定結果の掲

載は省略 している。

図表7港 湾輸出物流に関する選択的経営の機能(基 準値の変化)

経営のタイプ

決 定 因

完 全

合併 経営

Case1

神 戸 型

合併経営

Case2

大 阪 型

合併経営

Case3

神 戸港 の

現 行経 営

Case4

大 阪港 の

現 行経 営

Case5

日本の直接投資0,293

(6.32)a

0,245

(5.10)a

0,316

(637)a

0,219

(5.33)a

0,318

(2.68)a

ア ジア9力 国の1人 当

た りGDP

0,858

(11.6)a

1,090

(9。34)a

0,446

(8,21)a

1,045

(9.68)a

0,727

(6.21)a

為替相場比率の機能0,387

(7,26)a

0,220

(3.53)a

0,177

(6.32)a

0,196

(1.76)c

0,129

(1.78)c

コ ン テ ナ 化 率0,541

(3,63)a

0,150

(2.31)b

0,064

(3.63)a

0,445

(4.51)a

0,060

(1.67)c

港 湾 の集中度0,442

(3.72)a

0,691

(5.92)a

0,414

(3.36)a

1,302

(10,6)a

一2.217

(-6.44)a

定 数 項 一2,432

一5.523 0.5167 一7

.74 1,616

RB2

SE

N

0,962

0.18

90

0,950

0.22

90

0,940

0.24

90

0,915

0.21

90

0,943

0.05

90

(注)係 数の下のカ ッコ内の数値 はt検 定量 。その添字,a,b。cは 係 数がそれぞれ1%,5%,10%で 有意で ある

こ とを示す。RB2は 自由度修 正済み決定係数,SEは 標準 誤差,Nは 標本数。

図表7は 基準値 として選択 した韓国向け輸 出物流にかんする推定結果 を示 している。同様

に,そ の他の8力 国に関 しても結果は同時に得 られているけれ ども,こ こではこれをもって

議論を代表 させ る。それは両港 にとっていずれ も中立的な物流が発生 している貿易相手国で

あるからである。

この中でまず。戦略変数であるコンテナ化率,及 び広 くは戦略変数に入 る港湾集中度(こ

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れは外生要因ではな くて,明 らかに操作可能な変数である)の 推移に注目しよう。戦略変数

(コンテナ化率)機 能は大 きいほど好 ましく,し たがって係数値 に れは弾性値で もある)

が大 きいケースが好ましい。一方,港 湾集中度機能は,港 湾の高成長期には,代 表港にシェ

アの集中が起こ り,し か もそれが増加す る趨勢にあるか ら,係 数値が大きいほど良い。 しか

し低成長 ・競争劣位期 には,逆 にこの値が大 きいと,そ れに比例 した劣位をこうむることに

なるか ら,低 成長期 さらにはマイナス成長期 には,集 中度の輸出物流弾性値が小 さいほど好

ましいのである。 日本の港湾の現状 とその展望か ら判断すれば,む しる低成長あるいはマイ

ナス成長を仮定するほうが妥当である。

図表8異 なる経営タイプの下での生産等量線上の戦略変数の位置

そこで,上 記の5つ のケースを生産等量線 を用いて図示すれば,そ の経営の特徴が明らか

となろう。図表8(横 軸の集中度弾力性のメモ リは原点が2.0で ある)を 見ると,完 全合併を

除 く4つ のケースは,い ずれ も戦略面か らは同一の生産等量線上を動 くという意味で トレー

ド・オフの関係にある。唯一,Case1の 完全合併において,こ の関係はプ レークスルーされ,

新たな等量線に向けてのシフ トが発生 している。つまり完全合併以外には,両 港は新たな発

展軌道を構築 し得ないのである。

その際,Case1の 完全合併経営が両港 を取 り巻 く基本的環境 をどの ように享受 しているの

かを図表7に 立ち返って確認 しておこう。日本の直接投資弾性値は,Case5の 大阪港単独経

営 に次 ぐ値でほとんど差はな く,ア ジアの一人当たりGDP弾 性値 は,Case2の 神戸港型合

併経営 とCase5の 大阪港単独経営の間にあり,ま た為替相場比率弾性値は最 も高いレベル

にある。このように完全合併経営は,基 礎環境に対 して も柔軟に対応 している。

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港 湾 経営 の ロ ジス テ ィク ス分 析 29

IV港 湾政策の展望

大阪湾の貨物が拡大する事を前提にするなら,従 来の神戸型経営が望 ましい。 しか しそれ

は裏を返せば,貨 物量の縮小 ・非効率設備の削減 という環境の下では,最 も弱い経営タイプ

になる。戦略変数の機能を効率的に維持 しなが ら,ほ どほどの集中度機能を達成することは

極めて困難である。新たな上位の生産等量線 を達成するのは,唯 一,Case1の 完全合併経営

であることが明 らかになった。

しか しすでにふれたように世界の港湾 はすでにロジスティクス,さ らにはSCMへ の対応

を求めて,徹 底的な規制緩和の下で情報化を進めている。これ らの戦略変数を組み込んだと

き,日 本の港湾の新たな姿が淳 き彫 りになるであろう。港湾経営 を合併するだけでは不十分

としても,そ のプ ラッ トホームの下で徹底 した トータルコス トの削減のための努力を行 う必

要がある。 日本の港湾物流技術 とノウハウが他国に劣るのではない。港湾における熟練技術

も健在 である。望 まれるのは,港 湾がサービス産業であ り,物 流によって生かされている産

業であるという徹底 した意識変革である。グローバル時代の港湾 を,日 本が従来 どお りのま

まで守ろうとして も,守 りきれ るものではない。日本の港湾だけに時間が残されていると思

うのは幻想に過ぎない。

トータルコス トの減少は港湾独 自の努力で達成できると思われ るけれども,問 題 となるの

はネッ トワークの形成力である。震災後神戸港の物流量はほぼそれ以前の70~80%と 低迷 し

ている。それに対 して航路ネットワークはすでに震災前のレペルに戻って久 しい。これは何

を意味するのであろうか。求められるネットワーク形成力 とは,航 路ネ ットワークではな く,

物流ネットワークのことである。 いくら航路が戻って も,貨 物がなければ無意味である。

いうまでもなく,港 湾は地域経済,国 民経済,さ らに世界経済の中の機能を果たしてこそ

は じめて存立 しうる。世界の港湾は自らを物流ネッ トワーク ・ハブにするべ く,海 外からの

直接投資を積極的に受け入れている。その最たる者は中国である。 日本には海外か ら製造業

の投資を大規模 に受け入れた実績がない。直接投資の大規模な純輸出国とは,グ ローバル に

活動する海外の多国籍企業の拠点が国内にない国のことである。つまり日本は多国籍企業に

とってのグローバルなネッ トワーク拠点ではない。その意味から日本の港湾は,グ ローバル

企業 に対 して物流ネ ットワークを提供す る機会に恵まれていない。

日本の港湾のグローバル競争優位 を確立するには,日 本の提供する経済環境その ものが変

わる必要がある。それは物流政策,港 湾政策の枠内で解決できる課題ではない。わが国の産

業政策,財 政政策 と一体 となった政策展開が必要であるとすれば,港 湾問題の根本的解決に

はかな りの時間を要するであろう。その間に,世 界 との競争力ギャプはますます開 きかねな

い。このような大阪湾における経営の展望をもちつつ,当 面の政策 としてのスーパー中枢港

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湾選定作業が港湾経営の湾内合併 を目指 して進められることが期待 される。

1港 湾物 流 のODデ ータ は,神 戸 市 みな と総 局(1986-'96)『 神 戸港 大観 』 お よび大 阪市港湾 局

(1986~96)『 港 勢 一斑』 に よる。

2宮 下 國生(1999)「 アジア物流 の発展 と神 戸港 ・大 阪港 の戦略 対応 一 港 湾経 済 の効 率化 と地域

作 用経済 へ の作用 」宮下 國生 ・黒 田勝彦 ・林 克 彦 ・津守貴 之 ・寺 田一薫 ・成 田英 子 『ア ジア物流

と日本 の港湾 経営』 関西 経済 研究 セ ンタ ー,第3章(66-90ペ ー ジ)。

Miyashita, K. (1999), Strategy of Japanese Port Logistics Development on the Area of

Kobe, Proceeding of the International Logistics Symposium held by Dongseo University,

December, pp. 1-18.

3 Miyashita, K. (2001), Logistics Strategy of Japanese Ports: The Case of Kobe and Osaka,

Proceeding of the International Association of Maritime Economists Annual Conference held by

Hong Kong Polytechnic University, July, pp. 572-591.

4港 湾 サー ビス機 能 は,特 定 の航路 を含 む複合 輸送 ネ ッ トワー クが ロジス テ ィクス戦 略面 か ら ど

の程 度機 能 してい るの か を とらえ る。 そ れは,当 時 はコ ンテナ化 率で代 理 的 に測 定 され たが,し

か し現在 で は大水深 港湾 サ ー ビス の整備 状況 な どの 別の要 因 に よって取 って代 わ られ る必 要が あ

る。 しか し真 の意 味の 実ネ ッ トワー ク効果 はIV節 で触 れ るよ うに直接投 資効 果 で捉 え るべ きであ

る。1980年 代 の成 長の 局面 で は,供 給側 のネ ッ トワー ク と需 要側 の それが 一致 して いた と見 て よ

か ったので あ る。


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