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Term paper - Keio University2009年秋学期 有澤誠 研究会 JREプロジェクト Term paper...

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2009年秋学期 有澤誠 研究会 JREプロジェクト Term paper 環境情報学部2達誠 70847987 t08798tf
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2009年秋学期

有澤誠 研究会 JREプロジェクト

Term paper

環境情報学部2年 付 達誠

70847987 t08798tf

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目次

1はじめに

2 研究の目的

3 研究手法

3.1 問題提起と仮説

3.2 研究の流れ

4 研究報告

4.1 鉄道網の比較

4.2 人口密度の調査

4.2.1 調査の際における注意点

4.2.2 東京 23 区、名古屋市と豊田市における人口密度と鉄道利用率、鉄道網の比較

4.2.3 名古屋市と豊田市における人口密度と鉄道利用率、鉄道網の比較

4.2.4 考察 日本における人口密度と鉄道利用率について

4.2.5 米国の大都市におけるモータリーゼーションと人口密度の相関関係について

4.2.6 仮説 1 の検証結果と考察

4.3 公共交通利用促進に成功した世界の都市を分析

4.3.1 成功モデル 1 シンガポール

4.3.2 成功モデル 2 クリチバ

4.3.3 成功モデル 3 フライブルク

4.3.4 成功モデル 4 ケンブリッジ

4.3.5 考察

4.4 交通政策の分析

4.4.1 交通政策の各手法とその特徴

4.4.2 土地利用を高密度化する重要性

4.4.3 手法の有効な組み合わせ

4.5 地域別に有効な政策

4.5.1 都市部と郊外、小都市における有効な政策

5 全体のまとめ

6 研究を通じた提言

7 今後の課題、研究の反省点

8 謝辞

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1はじめに

現在地球では人間活動の拡大により地球全体の気温が類を見ない速度で上昇するとい

う全世界的な環境問題が発生している。具体的な地球温暖化の被害としては、海面上昇や

気候変動による洪水と旱魃の回数増加、台風、ハリケーンなどの巨大化や生物分布図変化

による大量絶滅、疫病の範囲増加などが挙げられる。また人間社会に対しては、気候変動、

海面上昇により土地を奪われたことによる紛争,飢餓等が懸念される.ゆえに地球温暖化対

策はきわめて急を要すると言える。

地球温暖化の原因としては人が影響を与えたことがほぼ確実であり、その原因は温室効

果ガスである。そのガスの中でも二酸化炭素が主因とされており二酸化炭素の削減が世界

にとってもわが国にとっても温暖化対策にとって不可欠である。

また、わが国は中長期的な温室効果ガス削減目標だけではなく短期目標も考慮に入れる

必要がある。その理由としては、地球温暖化対策として先進国に排出削減目標を課す京都

議定書によって、2012 年までに6%もの温室効果ガス削減目標をわが国が達成しなければ

ならないからである。それには二酸化炭素を始めとした温室効果ガスの総量規制や省エネ

ルギー、新エネルギーの促進、そして自動車利用率の低下、公共交通の利用促進策が求め

られるが、このレポートは公共交通利用促進させる方法を中心として述べる。

2 研究の目的

我が国では自動車の利用率が東京、大阪、京都などの大都市を除き全体的に高い水準に

あり二酸化炭素の大きな排出原因である。従って公共交通の利用促進、自動車の利用率低

下は環境面で大きな利点がある。

さらに、わが国では高齢化社会が進んでおり、高齢者にとってより安全で便利な公共交

通が東京だけにはとどまらず他の都市、地方でも求められている。

従って環境、利便性二つの面で公共交通の利用促進、自動車の利用率低下は重要である。

そのため、公共交通促進の政策を中心として研究する。

3 研究手法

3.1 問題提起と仮説

研究を始めるに従って、まず我が国の大都市における交通分担率における自動車と公共

交通の利用割合がそれぞれどのような状況を表しているか調べた。その結果として東京 23

区における公共交通の利用割合が大都市で一番高く、名古屋市における公共交通の利用率

が大都市の中で特に低いことが判明した。

そこから私は以下の仮説を掲げ検証を行った。

「都市の人口密度が低いと公共交通の整備が難しいのではないか、そして人口密度を下

げる都市の郊外化がモータリーゼーションと強い相関関係にあるのだろうか」(仮説 1)

「交通政策単体ではなく、土地利用と協働して変えることで公共交通の利用促進が促せ

るのではないだろうか」(仮説 2)

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仮説 1 の検証のため、まず公共交通利用率が全国で一番高い区域である東京 23 区、大都

市の中では公共交通の利用率が低い名古屋市、そして中核市の中でも公共交通の利用率が

低く、交通分担率で鉄道が占める割合が 10%未満の豊田市を対象に公共交通の利用率の差

における原因を分析し、都市の郊外化とそれに伴う人口密度の低下がモータリーゼーショ

ンと相関関係があるか調べる。そして次に一般化を図るため米国の大都市を対象として郊

外化と自動車利用の相関関係を調べる。

次に仮説 2 の検証のため仮説 1 の分析を踏まえ、それらの原因に対して有効な対策とな

るような公共交通促進、自動車利用率低下の政策を世界における公共交通促進に成功した

例を参考にして考察する。今回取り扱った成功モデル都市はシンガポール市、ブラジルの

クリチバ市、ドイツのフライブルク市、イギリスのケンブリッジ市である。

モデルの中でケンブリッジだけは自動車の利用率を低下させた都市ではなく、昔から自

動車利用が極めて尐なく、人々の移動手段が主に徒歩の都市である。なぜこのモデルを選

んだかというと、得に政策を実施しなくても、環境に優しく、利便性が高い都市であるケ

ンブリッジのモデルに未来の都市における一つの形だとフィールドワークして感じたから

である。

それぞれの都市における有効な対策を考察するために、実例調査の結果を踏まえ、現在

における交通政策を手法ごとに分類し、それぞれの手法における利点と欠点を分析する。

加えて、それぞれの地域における有効な政策を考察する。

仮説 1 では公共交通の利用率が低いこととモータリーゼーションの根本的原因について

分析し、仮説 2 では公共交通の増加と自動車の利用率の抑制に有効な対策について実例か

ら分析する。そして、最後に交通政策について手法と地域による有効度の違いについて考

察し、それぞれの都市における有効な政策を明らかにする。

3.2 研究の流れ

東京 23 区、名古屋、豊田にお

ける交通分担率の違いを分析

米国の大都市圏における郊外化と

自動車利用率の相関関係を分析

国内外における公共交通の利用率促進、

または自動車利用率を低下させた成功モデルを

分析(実例調査)

交通政策を手法別に分けそれ

ぞれにおける利点、欠点の分析

土地利用を高密度化する意義

について分析

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4 研究報告

4.1 鉄道網の比較

初めに調査に鉄道網自体を比較出来なければ仮説 1 を検証するための材料が揃わないの

で東京 23 区、名古屋市、豊田市の鉄道網を Google Earth を利用して比較した。

以下の写真が東京 23 区、名古屋市、豊田市の鉄道網を表わしている。 (黒い線が鉄道網)

東京 23 区周辺

都市部と郊外部に分け、それぞ

れの地域に必要な手法の分析

それぞれの都市における有効

な政策を考察し、まとめる

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名古屋市

豊田市 出典 Google earth

上の写真から東京都 23区周辺の鉄道網は他の都市と比べかなり充実していることが分か

る。それに対して名古屋市の鉄道網は名古屋駅がある辺りに限り鉄道網が充実しており、

中心地を以外の地域は比較的鉄道網が薄い状態であることが分かる。特に名古屋の港区が

ある南西地域の鉄道網はあまり整っていないと言える。

豊田市に関しては名古屋と比べてさえも鉄道網が充実しておらず市の中心部を通る地域

のみに鉄道が通っている状態であるため東京や名古屋などの主要都市との規模などを考慮

に入れても鉄道網の充実の度合いは最も低いといえる。そのため、ある程度郊外に住んで

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いる住民が鉄道を利用することは東京や名古屋と比べると断然に不便である。総じて言え

る事として東京は都市のほとんどの部分が鉄道網によってカバーされており、特に 23区の

部分は最も整備されている。それに対して名古屋は都市の中心部において鉄道網が整備さ

れているが郊外部には鉄道が行きとどいていない部分が多くあることが分かる。そして、

豊田市は一部の地域を除き鉄道網が存在しない。

これらの事を踏まえて次は東京 23区、名古屋、豊田における人口密度を調べ、鉄道網の

整備具合との相関関係を分析する。また、名古屋市における人口密度が高い地域と低い地

域で鉄道網にどのような差が表れているか分析する。

4.2 人口密度の調査

4.2.1 調査の際における注意点

人口密度の調査における注意点として挙げられる点としては、数字のみで比べてはなら

ないということである。その理由としては人がまばらに住んでいるという時の場合に加え、

その地域の何割かが山などをはじめとする地形的な要因により人がほぼ住めないという場

合もあるからである。このケースの場合、人口密度はそういった地形も土地として考慮に

入れるので全体の人口密度が下がってしまう。こういったケースの場合、都市部の人口が

表示上の人口密度よりも上昇するので公共交通の整備に対する相関関係を調べる際考慮に

いれる必要がある。具体的な例としては、神戸市等がある。

また,人口密度を調べる際に対象とした地域の土地の面積が小さい時にも注意する必要が

ある。理由としては数値がより極端になるからである。

4.2.2 東京 23 区、名古屋市と豊田市における人口密度と鉄道利用率、鉄道網の比較

東京 23区に関してみると平均の人口密度は 13,663 人/km2と高く、鉄道網も全国で最も

整っており、鉄道利用割合も交通機関全体の 8割程度である。それに対して名古屋市全体

の人口密度は 6,775人/km2となっており、東京 23区部と比べると半分近くの人口密度であ

る。またそれに対する鉄道の利用割合も 3割程度であるので東京と比べかなり低いと言え

る。なお、名古屋市、東京 23区共には基本的に人が住めないところが尐なく人口密度はそ

のまま信頼できるといえる。

豊田市に関してみると人口密度はなんと 462人/km2で名古屋市と比べても、十分の一未満

とかなり低い数値となっている。それに対して豊田市の鉄道利用割合は 4,5%極めて低い数

値を表わしている。

ただし、豊田市は非常に人口密度の尐ない地区との合併があった上に人が住めない地域

が多いために見かけの人口密度は都市部の実質の人口密度よりも低い。だが豊田市の人口

の 8割を占め、人の住めない地域が尐ない豊田地区の人口密度でさえ 1,307 人/km2しかな

く名古屋や東京と比べ豊田市の人口密度がはるかに低いことは変わりない。

従って都市における人口密度と鉄道利用割合は比例とまでは言えないものの相関性は大

いにあると言える。

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また、人口密度と鉄道利用率をグラフで表すと以下のようになり東京 23 区、名古屋市、

豊田市の鉄道網の充実度、人口密度と鉄道利用割合の関わりがよく分かる。

鉄道網

東京 23 区 全国で最も整っており、区内の全ての地域をカバーしている

名古屋 都市中心部は比較的整っているが郊外地域は充実していない

豊田 中心部を除き、全く整っていない

4.2.3 名古屋市と豊田市における人口密度と鉄道利用率、鉄道網の比較

次に人口密度との比較を名古屋市の鉄道網と鉄道利用率を地区別に分析した。

名古屋市では市内で鉄道利用割合が最も低い地域の一つである港区は人口密度も名古屋

市内の最も低い水準であり、鉄道網も整っていない。それに対して鉄道利用割合が名古屋

市で一番高い中村区は人口密度が名古屋市内でも最も高い水準にある。

4.2.4 考察 日本における人口密度と鉄道利用率について

調査した結果尐なくとも我が国においては人口密度と鉄道利用率、そして鉄道網の整備

状況には明らかな相関があると分析できた。実際に人口密度が低い都市や地区ほど鉄道網

が整っておらず、鉄道網利用率が低く自動車利用率が高くなることが判明した。そしてそ

の傾向は他の公共交通に関しても同様に言える。

次にこの東京と名古屋、豊田に起こった相関関係が日本特有のものなのか、それとも世

界どこの都市でも言えることなのか分析するために、ロサンゼルスにおけるモータリーゼ

ーションがいかにして起こるか調査する。

4.2.5 米国の大都市におけるモータリーゼーションと人口密度の相関関係について

米国の大都市圏におけるモータリーゼーションと人口密度の相関関係について調べた結

果、米国の大都市でも我が国と同じように都市が郊外化し、人口密度が低下するにつれて

モータリーゼーションも進んでいった事が判明した。具体的に述べると、人口が 100 万人

以上の米国大都市では 1970 年代の都市中心部における人口比率は全体の 48%程度であっ

た。そして、1990 年代における都市中心部の人口比率は全体の 42%程度まで低下していた。

それに対して自動車利用率は 1970 年代では 80%程度であったのが、1990 年代では 84%

0

2000

4000

6000

8000

10000

12000

14000

16000

人口密度

東京23区

名古屋

豊田

豊田の豊田

地区0%

10%

20%

30%

40%

50%

60%

70%

80%

90%

鉄道利用率

東京23区

名古屋

豊田

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まで増加した。これらの調査から米国でも郊外化とそれに伴う人口密度の低下がモータリ

ーゼーション化と強い相関関係にあることが判明した。従って仮説 1 は実証された。

4.2.6 仮説 1 の検証結果と考察

仮説 1 は日本における東京 23 区、名古屋、豊田の調査と米国の大都市の調査で実証され

たが、米国の大都市の調査ではモータリーゼーションにおける他の要因も新しく確認でき

た。その要因とはモータリーゼーションが自動車自体の価格が一般層の手に届く必要があ

るということである。実際、米国における自動車の本格的な普及の背景にはフォード社の T

型車が登場した背景がある。

また、分析していくうちに新たな事が判明した。それはモータリーゼーションが郊外化

によって推進されるが、郊外化もモータリーゼーションの推進によって促進されることで

ある。その原因としては、モータリーゼーション化により、より多くの人が自動車を持つ

と、都市の中心部より物価が安く環境が良い郊外に住む人が増えてくることが挙げられる。

さらに、郊外化がある程度進むと郊外に大型のショッピング街が建設される。それによ

り、郊外に住むことの利便性がますます上がり、より多く人々が郊外に流入するようにな

る。また、道路の整備でも同様に郊外に住むことの利便性が上がる。図で表すとモータリ

ーゼーションと郊外化が以下の関係で互いを補強している。

結果としてモータリーゼーションと郊外化の悪循環を止めるためにもモータリーゼーシ

ョンの対策にとどまらず、郊外化対策の必要もある。

次に、仮説 2 の検証に移る。

4.3 公共交通利用促進に成功した世界の都市を分析

今までの仮説 1 でした分析の結果を踏まえて私は仮説 2 の検証のため、初めに世界の各

都市において公共交通の利用率を増加させるのに成功したモデル、または現在において自

動車利用が極めて尐ないモデルについてその長所と短所について分析した内容について述

べる。

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その際、その都市や国の政治的、経済的、地理、環境、社会、組織はそれぞれ違うため

政策の真似は簡単にはできないということを十分に考慮した上で分析をする。そして、最

後に我が国のそれぞれの都市における交通政策の在り方について考察をする。

4.3.1 成功モデル 1 シンガポール

シンガポールでは国が非常に積極的に公共交通への投資と自動車利用への規制を行って

いる。詳細な対策としては公共交通への積極的な投資による利便性の向上、交通機関のネ

ットワークを土地開発と整合するように入念な計画をすると同時に自動車の都心乗り入れ

に対する課税、自動車購入へ税を課すなどのことを行った。

特に、都心乗り入れに課税するという方法はロードプライシングと呼ばれ、交通政策に

おける有名な政策の一つとなった。また、公共交通の駅が全企業の 40%、人口の 30%が行

ける範囲に設置されるように整備されるなど、土地利用との整合性を徹底された。

これらの交通政策によりシンガポールでは 1975 年の導入後、市の中心部における自動車

利用を導入前に比べ 4 割も削減することに成功した。また、公共交通の利用率が高い都市

となり大きく成果を出したと言える。また、この政策は公共交通への投資を自動車利用へ

の課税で補っている関係で、財源の心配がなく費用対効果の面でも優れている。

しかし、このシンガポールモデルには欠点もまたある。その欠点として挙げられる点と

しては、政府の介入が積極的すぎる、都市流入への課税が厳しく都市で自動車利用をせざ

るを得ない人々にとって不利になり公平性に欠ける、経済や流通への悪影響などがある。

これらの欠点のため他の国へそのまま導入することはかなり厳しい。まず、政府の介入が

積極的すぎる点に関して、シンガポールはもとから交通に限らず様々な規制が厳しく、国

民がそれらの政策を受け入れられる土壌が出来ているため自動車乗り入れ規制などの対策

も導入できる。

だが、わが国を始めとする政府の積極的介入の土壌が出来ていない国ではこのような厳

しい規制、課税を受け入れにくい。それに加えて自動車を利用せざるを得ない人々からの

不満があり、導入の際、流通の混乱、経済への打撃などを抑制できる施策がわが国ではな

いため、シンガポールモデルに対して我が国に導入することは非常に限定した範囲でしか

出来ないと言える。しかし、都心流入規制は後にも述べるが自動車利用の削減には極めて

有効な政策であることは間違いない。

4.3.2 成功モデル 2 クリチバ

ブラジルのクリチバ市は都市の計画と交通政策を密接に関連させて公共交通の整備を行

った。その中でも、最もバスの利便性を高めるという面を重視され、バスのネットワーク

と合わせて都市計画行った。また、バス専用レーンを設けることに加え、バス停の混雑解

消、バリアフリーの対策もすることによりバスの利便性を上げ、利用に対するインセンテ

ィブを高めた。また、中心街の多くは歩行者専用道になっており、公共交通にもアクセス

しやすいようになされている。これとは逆にクリチバモデルは規制の側面もある。それは

パスの優先レーンを設けることによって自動車の通る道が狭くなるということである。結

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果として、間接的な自動車の利用規制となる。

クリチバモデルはシンガポールモデルとは違い、課税の手法を用いた対策ではなく、公

共交通の利便性を大きく高める手法のため、広く受け入れられるという利点がある。

欠点としては、都市計画と密接に関わる対策である関係上、設計が既に為された都市へ

導入するには非常にコストと土地利用の面での課題があると言える。また、地形上の理由

で導入できない都市もあるので、そこにも注意する必要がある。

我が国に導入する際には予算が一番の課題になるため新しく大々的に都市を設計し直す

時、新しく都市を作るときにクリチバモデルを検討するのが良いと言える。また、バス停

の利便性向上、バス専用レーンを部分的に導入することも良い。

4.3.3 成功モデル 3 フライブルク

ドイツのフライブルクは都心部をトランジットモール化して自動車の流入を制限すると

同時に LRT を中心とする公共交通を導入することで自動車の利用率を下げ,公共交通の利

用率を上げる施策である。このフライブルクモデルの利点としては環境面で良いだけでは

なく中心部を多くの人が徒歩で散策できるようになるため、都心部の活性化につながると

いう点にある。

欠点としては他のモデルと同様、都市政策との整合性を図る必要があるということと実

施コストが高いというものがある。特に、郊外化が進んでいる都市ではより広い区域の整

備が必要なため、導入コストがより高くなる。

このモデルはヨーロッパの様々な都市に導入されているだけではなく、わが国の一部の

都市でも実行されているということもあり、地形問題や予算面の課題を考慮しても部分的

に導入することは充分に可能である。その際、このモデルにおける中心街活性化という効

果を考慮すれば、多尐コスト面で問題があるにしても中長期的には導入するメリットが十

分あると言える。

4.3.4 成功モデル 4 ケンブリッジ

イギリスのケンブリッジは他のモデルとは違い政府が対策を取ったわけではなく、歴史

上の要因によって自然と自動車利用が極めて尐ない都市になった。ケンブリッジは実際、

公共交通はあまり利用されていないが、自動車の利用率も尐なく住民の移動手段が主に徒

歩である。なぜ徒歩だけで生活が出来るかというと都市全体が極めてコンパクトにまとま

っており、徒歩の範囲内に生活に必要なもの、職場などが揃っているからである。従って

このケンブリッジモデルは環境、利便性双方の面で優秀な都市のモデルと言える。

ケンブリッジのようなモデルの問題点としては人口が 10 万人程度だからこそ実現でき、

大都市ではまず導入できないというのがある。

また、このようなケンブリッジは歴史的な要素が強く関わったからこそ可能になったと

いう点もある。具体的にはケンブリッジは大学を中心に発展し、大学の教授、生徒がカレ

ッジを中心に活動していてその人たちが徒歩で移動できる範囲で生活を満たす各施設が発

展してきたという歴史的背景がある。

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つまり、わが国では中心となるものの欠如、社会構造等の面で問題がありケンブリッジ

モデルを直接導入することはまずできないと言える。しかし、ケンブリッジのコンパクト

に中心にまとまっている都市というのは都市を作る上で非常に参考になり、特に企業を中

心とした企業城下町を作る際に参考になる。

4.3.5 考察

これまでに世界の成功モデルを見てきたが、ケンブリッジモデルという例外を除き、ど

のモデルも土地利用と様々な政策手法を組み合わせて効果を上げている。また、ケンブリ

ッジモデルは土地利用自体がかなり高密度である。

これらの検証により、仮説 2 は実証できたといえる。また、クリチバを除くいずれの都

市も土地利用の高密度化を推進し、郊外化を抑えているという点も見受けられ、改めて郊

外化を抑える手法が重要であることが確認された。

また、これらの実例を調べた際、各成功例にはそれぞれ違った手法の組み合わせが用い

られており、有効な地域もそれぞれ差異があることが判明した。これらの結果を踏まえそ

れぞれの都市に有効な政策の考察をする。

4.4 交通政策の分析

交通政策について調べていくうちに、その手法が他の環境政策とかなりの点で類似して

おり、手法別の利点や欠点もまた類似していることが判明した。結果として環境政策の手

法を交通政策に応用することも十分可能だと言える。この 4.4 の項目では交通政策を手法別

に分け、それぞれの実例と長所、短所を述べる。それから先ほどに述べた成功した都市例

を踏まえて交通政策の有効な組み合わせについて考察する。

4.4.1 交通政策の各手法とその特徴

交通政策の手法は主として規制的手法、経済的手法、自主的手法、情報的手法、そして

技術導入の手法が挙げられる。このうち技術導入の手法を除く手法は環境政策と類似する。

次に、それぞれの手法について述べる。

規制的手法

まず、規制的手法について述べる。規制手法は規制によって自動車利用率を下げる方法

である。具体的な方法は都心への乗り入れ制限、交通規制、バスに優先権を付与、バス専

用レーンの設置などが挙げられる。バス専用レーンの設置がなぜ規制的手法に位置するか

というと、それは専用レーンの設置で実質自動車の通れるスペースが減るからである。そ

れにより間接的な自動車流入規制になる。そのため、クリチバモデルは規制的手法も含ん

でいると言える。

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交通政策における規制的手法の利点として挙げられることとしては、ほぼ全て規制的手

法について言えることだが、確実に一定の効果が期待できる点にある。また、自動車の規

制により間接的にバスなど他の公共交通利用へのインセンティブを付与するという特長も

ある。特に、バス専用レーンの導入は直接的にバスの利用率を上げる方法であり、手法の

効果が高い。実際、クリチバモデルが専用バスレーンの導入の効果が高いことを証明して

いる。

逆に欠点として挙げられることとしては、いずれの規制手法も導入後には短期的には交

通の混乱を引き起こすという問題がある。また、導入後の混乱は当然ながら、交通量が多

い都市であればある程、大規模になる。導入後の交通混乱は流通関係に被害を与えるだけ

ではなく、経済に対しても悪影響を及ぼす。そのため規制的手法は実施前の影響評価とそ

の後の影響調査を他の手法以上に徹底してやる必要がある。また、規制の厳しさはその国、

都市の背景によって変わってくるので、そこにも注意して実施する必要がある。

規制手法に対するまとめとして、実施前と後の評価を徹底し、実施後の交通混乱が尐な

い成功モデルをそれぞれの国で出すことが重要である。また、バス専用レーンの導入に関

して言えば、もともと交通量の尐ない所では導入する意味が薄いので、ある程度交通量が

多く、渋滞の起こる所で試験導入する必要がある。

経済的手法

経済的手法も環境政策と同様、課税と補助金の 2 通りに分けられる。具体的には、前者

は自動車利用や所持への課税、都市中心部流入への課税が挙げられ、後者は公共交通利用

への補助金、公共交通の料金引き下げなどが挙げられる。

交通政策における経済的手法の利点と欠点は、課税と補助金で大きく異なる。課税型の

手法の利点としては、費用対効果が高いというのが挙げられる。また、予算が余りかから

ない利点もある。それに加え、課税によって徴収した資金は新たに公共交通や土地利用の

整備に使え、複合的に公共交通の促進に役立つと言える。実際シンガポールではロードプ

ライシングと呼ばれる都市流入への課税策を実施した結果、前述の通り大きく効果をあげ

た。

課税型の手法の欠点として最も大きな問題は経済に悪影響を与えることが挙げられる。

具体的には、課税を導入することで自動車の売り上げが落ち込み、流通業者も大きな損害

を被ることなどが考えられる。また、公平性にも問題がある。それは何かしらの理由で自

動車を利用せざるを得ない人の負担が増え、そうでない人が優遇される結果となる。

補助金型の手法の利点と欠点はちょうど課税型の利点と欠点の逆である。この手法の利

点としては補助という形のため経済活性化という効果が間接的に期待できる。また、自動

車利用者の負担が増えないため、公平性にも問題がない。

この手法の欠点としては予算の問題がまず挙げられる、特に現在における日本政府の財

政状態では公共交通促進、補助金を大々的に実行することは困難である。

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経済的手法についてまとめると課税型、補助金型の政策は交通政策であると同時に、経

済政策でもある。そして、双方とも効果は期待できる。そのため、どちらの政策をどのよ

うなバランスで他の手法と組み合わせるか景気の状況などから見極めるのが重要と言える。

例えば、経済が好調であるときは課税型の政策を導入し、不況であるときは補助金型の政

策を導入するのが良い。また、予算の問題は残るが経済政策の側面があるため景気刺激策

の一環として導入するのも有効である。

自主的手法

交通政策における自主的手法は他の手法と違い、市民サイドの立場から自動車と公共交

通の利用を改善していく方法である。代表例として挙げられるのはアメリカのロサンゼル

スで初めに提案された TDM(Transportation Demand Management)である。そ

の後、自主的取り組みとしてパイクアンドライド、キスアンドライド、カーシェアリング

などが実施された。

自主的な取り組みにおける利点としては、国民一人一人の行動変化を巻き起こす性質上、

導入コストが低いということが挙げられる。また、他の手法とは違い、国民の意識が変わ

る性質上、政策の維持コストがかからないという利点もある。

逆に自主的取り組みの欠点としては国民の自主的取り組みに任せるという性質上、効果

が一定しない事が挙げられる。

自主的取り組みの手法についてまとめると、効果は不安定だが、実施コストが低く維持

コストも必要がないことから、継続的に実施してく価値が十分にある。

情報的手法

交通政策における情報的手法は環境政策と同じように自動車の排出した二酸化炭素の量

などの可視化、鉄道における込み具合の表示などが挙げられる。

情報的手法の利点としては自主的取り組みと同じように実施コストがかなり低い事が挙

げられる。さらに、公共交通に関する情報の表示は国民に利用するのに有用な情報の提供

をする性質上、公共交通利用へのインセンティブともなる。

情報的手法の欠点としては自主的手法の欠点と同じように安定した効果が見込めないと

いうことが挙げられる。それに加え、鉄道における込み具合の表示などの取り組みは技術

的な制約もあり、まだ大々的に実施出来ない場合もある。

まとめると情報的手法は実施コストが低く、国民の啓蒙という観点から見ても効果があ

るので自主的取り組みと組み合わせて実施していくのが良い。

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技術導入の手法

技術導入の手法は環境政策にはない手法である。具体的には、公共交通の利便性を向上

させるための整備全体を指す。

この手法は成功事例のうちでも大部分の国が実施している。具体的にはシンガポール、

クリチバ、フライブルクが公共交通の整備を実施している。この手法の利点としては直接

的に公共交通の利便性を上げるため、公共交通の利用に大きなインセンティブとなること

が挙げられる。特に、土地利用と整合性を徹底した上でこの政策導入をした時、確実に一

定効果が見込める。

この手法の欠点としては公共交通の整備という関係上コストが大きくかかるという問題

がある。さらに、仮説 1 で実証したように人口密度の低い都市における実施では特にコス

トが大きく、効果が減尐するという問題もある。

まとめると、技術導入の手法は土地利用との整合性を徹底して実施するとともに、郊外

化された都市での導入は郊外化の対策と併せて導入していく必要がある。また、この手法

は長期的に見ると都市の利便性向上にとって重要な要素であるといえる。

4.4.2 土地利用を高密度化する重要性

自動車の利用率を下げ、公共交通の利用率を上げるために交通政策の各手法とは別に土

地利用を高密度化する必要がある。それは実証された仮説 1,2 の理由に加え様々な利点が

あるからであり、それらの利点について述べる。

土地利用を高密度化する重要性としては環境面での利点に加え、都市中心部の経済活性

化、徒歩のみで行ける場所が増加し利便性が向上、道路に面積を取られないために土地を

有効活用が可能等の事を挙げられる。実際、土地の高密度利用によって徒歩のみでも日常

生活に支障が出ない都市があり、その一つがケンブリッジである。ケンブリッジは歴史的

要因により、コンパクトで高密度な土地利用が出来たが、このモデルは利便性と活気、環

境の面で優秀さから理想的な都市の一つであると言える。また、この都市は特筆すべき交

通政策を行っていないのにも関わらず、これだけの都市になったということから、以下に

土地利用の高密度化が重要か分かる。土地の高密度化は、実施するのに際し莫大なコスト

がかかるが長期的に見て多岐の面にわたって非常に有効なため、それを考慮しても実施す

る必要も価値もある。

4.4.3 手法の有効な組み合わせ

これまでに交通政策のそれぞれの手法の長所と短所について分析してきたが、公共交通

の利用率向上に成功した事例を踏まえると、手法を単体で導入するのではなく組み合わせ

で導入していくとこが重要だと確認できた。

具体的には、シンガポールモデルでは都市への流入規制という規制的手法とロードプラ

イシングという課税型の経済的手法、公共交通の整備という技術導入の手法に加え、それ

らの政策と土地利用を整合化させて実施した。

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クリチバのモデルではバスの専用レーン設置という規制的手法とバス利用全般の整備と

いう技術導入の手法を都市の再設計と併せて実施した。

フライブルクモデルでも LRT 導入という技術導入の手法と都市のトランジットモール化

による自動車の流入制限という規制的手法を組み合わせて、土地利用を高密度化させると

ともに実施した。

これらの成功事例を改めて分析すると全ての都市において土地利用と交通政策を協働し

て実施しており、郊外化を防ぎ、かつ有効な土地利用をしつつ政策を展開している事が判

明した。このことから言えることとしては、土地利用の高密度化と各交通政策を組み合わ

せて実施するのが重要だということである。特に、公共交通の整備と土地利用を合わせて

実施していくことが重要である。

また、シンガポールモデルとクリチバモデル、フライブルクモデルはいずれも規制的手

法と公共交通の整備を組み合わせて実施していることから、規制的手法における自動車利

用へのディスインセンティブと公共交通の整備による公共交通利用へのインセンティブが

相乗的に組み合わされた結果だといえる。これら二つの手法間における効果を厳密に評価

する事は厳しいが、単純に 3 つの都市とも自動車が使いにくくすると同時に、公共交通を

使いやすくしているということから考えると論理的には妥当である。

まとめとしては、交通政策と土地利用を合わせてやることが有効性とコストの面を高め

るため重要だと言える。また、公共交通利用へのインセンティブを高める手法を組み合わ

せることにより効果が高まるといえ、それらの政策を組み合わせることが重要である。

4.5 地域別に有効な政策

これまでに成功事例に加え、交通政策を手法別に見て、有効性を考察したが、手法を単

体、または組み合わせて導入するのに有効である地域と、そうでない地域に分けられるこ

とが交通政策について述べられた本を読み進めて行くうちに判明した。そのため、次には

それぞれの地域とそこに有効な手法、そうでない手法を分析する。今回取り扱う地域とは

都市部と郊外部、小都市であり、それらの地域を対象として述べる。

4.5.1 都市部と郊外、小都市における有効な政策

都市部

まず、有効な政策について述べる。これまでの分析と交通政策の本から、経済的手法自

動車の流入に対する課税(プライシング)が副次的に発生する問題を考慮に入れない場合、

最も効果があると判明した。その理由としてはやはり、直接的に自動車流入を規制するか

らである。

実例としてはシンガポールモデルに加え、ロンドンの例もある。前者は前述の通り導入

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後、都市に流入する自動車が 4 割減しているのに対し、後者も導入後、自動車の流入が 3

割減したという効果があった。また、自動車流入への課税は導入の財政的制約がないとい

う利点から考えれば導入自体は我が国でもそれほど厳しくはない。

しかし経済への影響には大きいと考えられ、国民の猛反発も予測できる。厳しい規制が

受け入れられるシンガポールなどの国はともかく、日本では厳しい規制や課税を国民に受

け入れられにくいという障壁もある。そのため、都市で自動車流入への課税を実施する場

合、経済への影響を最低限にするために導入を早い段階から通告する、流通業界には優遇

する事が重要である。なお我が国においては現在の経済状態から考慮すると、実施による

悪影響が深刻なため、景気が向上した後、一部の地域で試験的に導入するのが良いと考え

られる。

都市部に対しては、公共交通が最も整っている地域であり、渋滞などの影響から公共交

通が自動車に対する優位が元々あるという理由から、情報的手法を用いた、公共交通の便

利さを強調する情報の提供も有効と言える。しかも、情報的手法はコストがあまりかから

ないため、技術的な問題が解決すれば、手軽にどんどん導入していくのが良い。

その他には、公共交通の整備にかかるコストが郊外よりも効率が良いため、公共交通の

利便性を高めるなどの技術的手法、駅の周辺にパイクアンドライドのために駐車場の設置

することなども有効である。

次に判断の難しい政策について述べる。それは都市の整備である。都市部はほかの地域

と比べると最も整備の面で整っているため、再整備にコストが大きくかかる。そのため土

地利用の見直しが最もし難い地域である。そのため、成功事例の導入、土地利用と交通政

策の組み合わせは短期的にみると厳しい。

しかし、将来を見据えるといずれ、都市を再整備する必要がある。その際、他の地域と

比べると都市の再整備にははるかに多くのコストがかかるため土地利用と交通政策の整合

性、国民への利便性、環境への配慮などに他の地域以上に細心の注意を払って進めていく

必要がある。

まとめると、都市部においては土地利用の整備を除く手法はいずれも有効であると言え

る。その中でも自動車流入への課税は最も効果的である。しかし、副作用を考慮すると課

税は景気が良い状態の時に実施するのが良い。また、コストがかかる手法を除けばどんど

ん実施していくのが良い。その理由としては、効果が期待できるのに加え、国民から政策

のフィードバックがもらえるからである。土地整備に関しては、短期では有効とは言えな

いが長期を考えると必要であるため、綿密に計画し一部から徐々に実施していくのが良い。

郊外部

郊外部に関して言えば、土地利用が都市部に比べて進んでいないため長期の視点で行く

と土地利用の高密度化と公共交通の整備を合わせて行う対策が最も有効であり、重要でも

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ある。それは前述した土地利用の高密度化における重要性から分かる。その際、ブラジル

のクリチバモデルを参考にするのが良い。また、これらの対策は副次的に経済的活性化に

も役立つ。

郊外部では人口密度の薄さから、公共交通の整備は、都市部に比べて整備と維持両方の

面でコストがかかるため有効だとは言えない。しかし、公共交通の利便性を上げる自体は

重要であるため、土地利用の高密度化と併せて整備していくのが良い

小都市

ここで述べる小都市は、人口が 10 万程度かそれ以下の都市である。小都市に関して言え

ば、郊外部と変わらずに土地利用の高密度化が最も重要である。その理由としては土地の

高密度化の利点が挙げられるのに加え、ケンブリッジモデルを実現できるほどの規模であ

るからである。そして、土地の高密度化に加え公共交通の整備、LRT の導入などをするの

が良い。

また、自動車流入への課税は元々の交通量が尐なく大きな効果が期待出来ないため、副

作用が相対的に強く作用すると考えられる。ゆえに実施しないほうが良い。

その他地域

その他の地域について有効な手法を述べると郊外に行けばいくほど土地利用が進んでい

ないため、その地域の土地利用の高密度化と公共交通の整備が有効となってくる。

そのため郊外部と同様に土地利用を最重要視し、それと共に公共交通の整備、公共交通

利用への補助金などを組み合わせて政策を実行していくのが良い。

まとめ

都市における公共交通利用率を挙げるには都市部と郊外部で有効な手法が変わってくる

が、長期的に見るとすべての地域で都市の再整備をし、土地利用を高密度化することと公

共交通の促進を協調してやっていくことが重要だと言える。

また、コストの比較的かからない情報、自主的手法は都市部を初めとしてどんどん実践

し、フィードバックを得ることが重要である。

規制と課税型の経済的手法は基本的に都市部限定で実践し、その際景気を確認する必要

がある。そして、景気が良い時に早めに通知し、影響を受ける流通などの業界には優遇す

つという形で実践するのが良い。

逆に、景気が悪い時は、経済的な刺激策とも両立する補助金型の経済的手法を各地で実

践するのが良い。

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5 全体のまとめ

今回の研究を通じて言えることとしては、都市において脱自動車社会を目指すにはこれ

までに述べた交通政策の手法の組み合わせをそれぞれ有効な地域に導入するのが重要だと

いうことである。また、その際に外せない要素としては土地利用との整合性を図るという

ものであり、特に土地利用の高密度化と協働して交通政策を実施する必要がある。実施す

る際においては世界の都市の成功事例における成功の要因を取り出し、それぞれの地域に

従って導入していくのが良い。

6 研究を通じた提言

今回の研究を通じて公共交通を促進し、脱自動車社会を目指す上で必要な方法を考察す

ることが可能になったので豊田市を対象にして提言をする。

豊田は郊外化が自動車の利用率が高い原因であり、トヨタという中心企業が存在するの

でケンブリッジを部分的に参考出来る。一つの例としては国とトヨタ、国民が協力して職

場を比較的密度が高い場所に集め、その周りに従業員の家と公共施設を設置し、さらに商

業施設や他の施設を誘致した地域を作るのが良い。それにより、その地域全体としてはケ

ンブリッジにおける利点が期待できる。特に高密度の土地利用が出来、徒歩の移動が可能

の時では、トヨタは従業員の交通費負担を抑えられ、従業員は生活の際の移動における自

動車の燃料費が削減出来る。そして、他の地域とは鉄道を一本通すようにすれば、遠くへ

の移動も可能になる。

図にするとこのようなイメージの地域になる。

職場 職場

職場

住居と

商業施設 住居と

商業施設

鉄道

町の範囲が狭

い時は徒歩

一定以上だと

バス網の設置

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7 今後の課題、研究の反省点

成功事例の研究ではそれぞれの都市の政策における導入費用と成果を数字で詳しく把握

することが出来なかったので具体的な費用対効果の数値を今後調べていく必要がある。

成功事例で我が国の例が出せなかったため、日本における交通政策の推進と成功例を詳

しく調査する必要がある。

豊田の例を出して提言したが実際にフィールドワークを行っていないので考察の妥当性

を分析するため今後フィールドワーク、ヒアリングなどをする必要がある。

成功事例の都市について実際行った都市はケンブリッジのみであり、それ以外の都市も

政策導入後の実態調査のため行く必要がある。

8 謝辞

この研究は有澤誠教授、浜中裕徳教授の手助けと指導なくして完成はしませんでした。

また、両方の研究会メンバーからは様々なご指摘と知識を得ることが出来ました。

この場をお借りして両教授、研究会のみなさんに感謝の意を申し上げます。

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参考資料

[1]中村秀夫,林良嗣,宮本和明,『都市交通と環境』,運輸政策研究機構,2004 年

[2]名古屋市交通局,名古屋市交通事業経営健全化検討委員会 第 1 回資料 平成 20 年

http://www.kotsu.city.nagoya.jp/dbps_data/_material_/localhost/_res/about/keiei_co

mmittee/data1-1.pdf 2009 年 12 月 4 日 閲覧

[3]豊田市ホームページ 公共交通基本計画

http://www.city.toyota.aichi.jp/ex/pc/h18/13/gaiyou.pdf 2009 年 12 月 4 日 閲覧

[4]名古屋市ホームページ 交通の地域特性

http://www.city.nagoya.jp/kurashi/anzen/anzen/shinokoutsu/sogokotsu/senryaku/nagoy

a00003684.html 2009年12月4日 閲覧

[5]統計局ホームページ

http://www.stat.go.jp/data/nenkan/backdata/02.htm 2009年12月4日 閲覧


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