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1.核融合炉と真空技術 - University of...

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1.核融合炉と真空技術 (名古屋大学プラズマ研究所) (1985年12月23日受理) Vacuum Technologies for Fusion Reac Akira Miya,hara, (Received December23,1985) Vacuum technologies for fusion rea,ctor are described fro particle balance.At first,general v霊ew of the reactor vacuu tokama,k a,s a,near term fusion device for D十T reacting pla efforts of development of the vacuum components a皿d ma,t a,re also described. 1.序 核融合炉の真空系においてもっとも重要な部品はいうまでもなく重水素・三重水素からなるプラズマをと じこめて核燃焼を維持するプラズマ容器であり,そこでは10kdV程度のイオン温度をもつプラズマが102ツ㎡ の密度で1秒程度とじこめられている必要がある。この場合不純物の含有が少ない必要があることはいうま でもない。従来はこのようなプラズマ容器を考えるときには真空容器とプラズマ容器を同一視して論ずるこ とが多かったが,このごろは筆者によって提案された図1・1の如き壁の四重構造モデルが定着しっっあ る1)。即ちプラズマをとりかこむ容器としては①磁場容器(むしろ磁場のざるといった方がよい》②プラ ズマから直接くるエネルギーをうけとめる壁,③真空壁,④中性子をうけとめて熱エネルギーに変換すると 共にトリチウムを生成するブランケット壁あ四つである。したがって壁材料の立場からいえば磁場閉じ込め の改良はすこしでも壁への負荷をすくなくする努力にほかならない。しかしいずれにしてももれてくる粒子 や,磁場のあるなしにかかわらず壁に入射する放射エネルギーをうけとめる壁が必要となってくる。これが 第2の壁であり,真空壁とわけて考えようということはhigh Zの不純物を抑止するために壁のコーティング を考えたことや高熱流東を処理するダイバータ板を設置した装置が実現しだしたことにもよるが,一番はっ きりとこの概念をうち出したのはプラズマ研のR装置(Reacting Plasma Project)2)の設計におい 血s就礪e of P♂αs観αPんgsεcs,ZVα90忽αU%勧eTS‘惚,ZVα90穿α,464JαPαη. 7
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Page 1: 1.核融合炉と真空技術 - University of Electro-Communicationsjasosx.ils.uec.ac.jp/jspf/jspf_text/jspf1986/jspf1986_01/...M6Vのヘリウムを生成するが,中性子は放射化と放射損傷5斗ヘリウムはブリスタリングを壁材に与える6)。これらの条件はエネルギーをうける壁や真空壁の材料の選択にきびしい条件を課することとなる。

1.核融合炉と真空技術

   宮   原  昭

 (名古屋大学プラズマ研究所)

 (1985年12月23日受理)

Vacuum Technologies for Fusion Reactor

Akira Miya,hara,

(Received December23,1985)

  Vacuum technologies for fusion rea,ctor are described from the sta皿d point of the

particle balance.At first,general v霊ew of the reactor vacuum system,and then the R・

tokama,k a,s a,near term fusion device for D十T reacting plasma,a,reαiscussed. The

efforts of development of the vacuum components a皿d ma,terials for vacuum systems

a,re also described.

1.序 説 核融合炉の真空系においてもっとも重要な部品はいうまでもなく重水素・三重水素からなるプラズマをと

じこめて核燃焼を維持するプラズマ容器であり,そこでは10kdV程度のイオン温度をもつプラズマが102ツ㎡

の密度で1秒程度とじこめられている必要がある。この場合不純物の含有が少ない必要があることはいうま

でもない。従来はこのようなプラズマ容器を考えるときには真空容器とプラズマ容器を同一視して論ずるこ

とが多かったが,このごろは筆者によって提案された図1・1の如き壁の四重構造モデルが定着しっっあ

る1)。即ちプラズマをとりかこむ容器としては①磁場容器(むしろ磁場のざるといった方がよい》②プラ

ズマから直接くるエネルギーをうけとめる壁,③真空壁,④中性子をうけとめて熱エネルギーに変換すると

共にトリチウムを生成するブランケット壁あ四つである。したがって壁材料の立場からいえば磁場閉じ込め

の改良はすこしでも壁への負荷をすくなくする努力にほかならない。しかしいずれにしてももれてくる粒子

や,磁場のあるなしにかかわらず壁に入射する放射エネルギーをうけとめる壁が必要となってくる。これが

第2の壁であり,真空壁とわけて考えようということはhigh Zの不純物を抑止するために壁のコーティング

を考えたことや高熱流東を処理するダイバータ板を設置した装置が実現しだしたことにもよるが,一番はっ

きりとこの概念をうち出したのはプラズマ研のR装置(Reacting Plasma Project)2)の設計においてであっ

血s就礪e of P♂αs観αPんgsεcs,ZVα90忽αU%勧eTS‘惚,ZVα90穿α,464JαPαη.

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核融合研究 第55巻第1号  1986年1月

(1)Magnetic Wail

(2〉Energy and Particle Receiving Wall

(3)Vacuum Wa時

(4) Blanket

◎Energy&Particle Receiving Wa肘

  \    (Diverter Plate,

      8eltUmiters)   Vacuum Wa騙

    Blanket

図1、1 核融合装置の壁の四重構造

た。ここでは低放射化材料ということでアルミニウム合金を真空壁3)として採用しているが,Disruption時

の高熱流束の保護はもrとより数秒の放電時の高熱負荷からアルミニウム容器を保護するために全面に等方性

グラファイトタイルを装着している。すなわち等方性グラファイトタイルが第2の壁を形成し,アルミ容器

が第3の真空壁を形成していることになる。第4のブランケット壁はここで申性子のエネルギーを熱に変換

し,トリチウムを増殖すると共に,中性子を外部にもらさ搬遮蔽の役割を果たすなど1重要な炉工学の要請を

負っている壁であるが,本稿の主題でないので,単に第4の壁というにとどめておく。

 一方において炉心プラズマとそれをとりかこむ壁の系を考えるときに,核融合炉の動作時には粒子・エネル

ギー・運動量・.荷電の物理量が壁をとおして外部とやりとり「を行うことに注意する必要がある。この古典的

な四つのバランス方程式は現在のトカマク研究において既に登場してきているが,このことからいってもト

カマクを中心とした炉心プラズマ研究はここ20年で長足の進歩をとげて来たことがわかる。たとえば炉の

スタートアップのためにはエネルギーを炉内1ヒ注入しなくてはならないが,現在この方式としては高周波加

熱や中性粒子ビーム入射が考えられている。高周波はエネルギーと同時に運動量をもちこむが,中性粒子入

射はさらに粒子をももちこむ。このことは真空技術の面からこの二つの方式に大きな差異を生ずる。という

のは粒子の除去は真空技術の大きな仕事の一つであるからである。

 核融合炉における粒子バランス全体については後章でのべるが,炉心近傍のみを考えても燃料粒子の入射,

加熱用の中性粒子ビーム入射,中性子の逸出や灰物質であるベリウム,不純物,未燃焼粒子の排出の問題が

ある。最後の未燃焼粒子は磁場閉じこめの核融合炉の燃焼率が数%程度と低いこともあり,出来るだけプラ

ズマ容器内でリサイクリングをさせたいところであるが,未だ方式が確立されていない。さらにプラズマ容

器の内部にあるリミター,炉壁,ダィバータ板などは炉心プラズマから拡散や荷電交換や不安定性の結果逸出す

る粒子による大きい負荷をうける。この結果としてスパラタリングやその他の表面現象がひきおこされ,不純物

粒子として炉心プラズマ中に混入するために大きい放射損失となる尭したがってこのことは壁材の浸食と大き

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講 座 核融合炉と真空技術 宮 原

い粒子および放射による壁への熱負荷という二つの問題をひきおこす。核融合反応は14。06MeVの中性子と3。52

M6Vのヘリウムを生成するが,中性子は放射化と放射損傷5斗ヘリウムはブリスタリングを壁材に与える6)。

これらの条件はエネルギーをうける壁や真空壁の材料の選択にきびしい条件を課することとなる。条件をプラズマ

の改良と材料の適切な選択によって緩和し解決していくのはプラズマ・壁相互作用研究の主題であるがりここで

はエネルギーや粒子をうけとめる壁の材料に課せられる主要な要求を列挙するにとどめる。すなわち①高熱負

荷に対する耐性②低い浸食率③低Z材料であるこす。④低トリチウムィンベントリー⑤低放射化材料⑥低

放射損傷材料などである。

 従来核融合炉の概念設計などによって記述されて来た炉内材料への要請は上記の如くであるが,大型トカ

マクの稼動やINTOR設計8)の進展によって炉の概念がより身近になって来た結果上の項目に真空系からの要求

が加わって来た。それはまず第1に脱ガス率の少ないことであり,第2にたとえ1気圧にさらしても再排気のと

き容易に壁材に吸着した気体が脱気できることである。このようなことはあまりにも基本的すぎて従来はかえり

みられなかったのであるが,最近は黒鉛材が壁材として用いられることが多くなると共に検討がすすんで来た。さら

に重不純物の混入や浸食過程に酸素の果す役割が大きいことが認識されたことにより,壁材のベーキングや放電

洗浄の実施の要求が材料に課せられることになった。このような核融合炉からの要請が現実の真空技術や材

料開発とどのような接点をもちそれをどのように開発していくかということは本講座全体の主題でもあろう。し

かも超高温のプラズマを含有し,壁面にはプラズマから逸出するイオン・電子・広い波長領域の放射が入射し,中

性粒子ビーム入射やペレット入射器のような燃料粒子と共に不純物粒子をも入射し兼ねない装置をも附帯する

核融合炉の真空技術は,従来の加速器や大型真空装置とは異なった根本的な問題を多く包含しているといえよう92

さらに一言つけ加えるならば,核融合炉の粒子バランス乃至は真空技術の課題にとってプラズマの閉じ込めは

いわば氷山の一角であり,海面下にある大きな部分は排気された未燃焼燃料粒子の処理であり,灰・不純物の

除去,同位体の分離,燃料粒子の再入射である。本稿においては出来るだけ総括的に核融合炉の真空系を記述

『する目的で,核融合炉の真空系の概観,R一計画を例とした真空系,壁材料および必要な部品開発などについて.

のべる。

■■

2.核融合炉の真空系

 従釆核融合装置にとって真空系は重要ではあるが補助的なものと考えられていた。しかしながらこれは,

はなはだしい誤解というよりもそのような言い方は短かいパルス装置にのみ正しいというべきであろう。下

品なたとえで恐縮であるが,核融合炉を豪壮な邸宅にたとえるならば真空装置が果す役割はトィレや下水で

であろう。一日・二日の短かい滞在ならば庭で処理することも出来ようが,長い滞在や生活にはトィレや流

しの設置と下水管への接続は必要不可欠である。

 これを核融合炉に焼きなおすならば核燃焼時において発生する中性子は壁を透ってブランケット部に行く

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核融合研究 第55巻第1号  1986年1月

がヘリウムは灰として炉内に蓄積されてくる。この灰を炉外にもち出さないと,燃焼率はいくら数%と低く

ても燃料はだんだんとうすめられてしまう。したがって灰を取除き,減少した燃料を補給することは燃焼の

定常状態の維持には必要な条件である。さらにスパッタリングなどの結果放出される不純物が炉内にたまっ

てくるのも除去しなくてはならない10も間題はこのような粒子の除去をどのようにして行うかということであ

る。この間の粒子の経路を模式的にあらわしたものが図1.2である。この系統は未だ現実には存在してい

ないが,粒子バランスが次期の工学的実証研究のもっとも重要な項目であることを考えれば,早晩実現しな

newfuel

 D-Treservoir

fuel cbanup

 unit

recycling

vacuumpump

refueI

core pbsma 業 pumplimiter  divertor

図1.2 燃料系の一巡ループ

くてはならぬループである。一巡ループを形成すること以上に本質的な点は燃料粒子のリサイクリング路を

もうけてポンプ系への負荷をへらすことである。この場合理想的にはある選択機構が期待され,燃料粒子は

壁でリサイクルし,灰や不純物が排気されるのが望ましい。しかし壁でのリサイクリングが閉じこめの劣化

と大きい相関をもつ現在の時点では,燃料粒子の殆どはポンプリミターやダイバータで集められたのち排気

され,圧縮されて同位体分離機構にもちこまれる。そこで精製された重水素・三重水素の燃料はペレット入

射器を通じて炉心プラズマにもどされるのが現在の概念構成である。選択の機構としてはRFC装置のよう

にイオンサイクロトロン共鳴を利用した方式11)などが考えられるが,現在のところ決定的な方式はない。一

方において燃料粒子が排気系を通って循環していくことは,拡散ポンプにおける作動流体である水銀や油の

働きを期待して灰や不純物を除去するために必要であるという考えもあるが,充分な検討はなされていない。

燃料粒子の壁におけるリサイクリングを期待することは,真空系におけるオンラィン・インベントリーを減

少させるためにも重要なことである。

 プラズマと真空系の結合は現在のもっとも重要な研究課題である。研究の初期の段階ではリミターとポン

プ系とは独立な機能として考えられていたから排気の時定数というても炉の体積を排気速度で割った値程

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講 座 核融合炉と真空技術 宮 原

度が考えられたにすぎなかった1勾.この考えを渉すすめてプラズマから不純物や灰の除却考えはじめた

のは,1974年の不純物問題がCulhamのFusion ReacterのWbrkshoPで最重要な問題として討論されて以

釆である13)。この会合でダイバータによるunl。adの問題が討議され14),その結果にもとづいてASDEX15!

PDX1のなどが建設されたが,実際に不純物輸送の問題をはっきり示したのは小型のDIVA17)の実験であっ

た。現在ダイバータは不純物除去,ヘリウム除去,ダイバータ板の近傍の入射粒子のエネルギーを低くする

ことが出来ること18)などの利点と共に追加熱時の閉じ込めの劣化がないこと19)からINTOR設計の第1候

補にあげられている。しかしながら核融合炉を考えるときに炉体の近傍や炉内に超電導コイルがあることは

如何にも不自然である。この点を改良するた             1                               [                       REACTORBUILDING ITRITIUM FACIUTYBUILD困Gめのポンプとリミターとを緯合せた概念が               I                               l1975年にユーリヒのBieger等によって提             1   13   12

案20)された.この概念が成立するためには  5117 1  14                        4   6   8  1           哩9実験的に①粒子蒐集②不純物制御③リサイ      3      1                               1  唯1   15   16                               1  FCUクリング制御④ヘリウム除去が示されなくて’                        DIV         I                                  編く驚                        2はならぬ。①にとってはISX-Bなどで示さ                                   20                            T20                               T2                                      墨8                                   1SO                              lO                                       17れたが,②,③④の項目については今後の研     PLASMA                           9                                  ~                                    o                                  く》                                    →                        晃                                    十                                                                    2思  22究にまつところが大きい(最近ISX-Bによ                                    N   T2                                    T2                                                                   24る不純物制御の結果21)が公表された)。現在      、7        25                                   回ALT-122),ALT一豆23)などの研究計画が進

行していて,その結果をJETやTFTRに応  1、Plasmachamber    15.TritiatedwasteTreatment                     2,Limiter Plates         16.TritiatedWater Recovery Unit用しようとしている。          3.DebrisSeparat。r    17、Helium(tritium-free)                     4,D-T Cryocondensation Pump   18、Tritiated Waste-ljquids これらを総合して核融合炉の真空系まで含   5.HeIiumPump        andSdids                     6,7、Regeneratbn Pumps        19、Detritiated Gases l N2,02,めた商業炉の概念設計を行ったのはアルゴン   8.MetaIBe”・wspumps     CO2,Ar

                     9, Breeder Blanket           20,150topic Separation Unitヌ国立研究所のグループによるStarfire24)   10,Electrdysisunit     21,D2supply

                    11、FuelCleanupUnit         22、D2Storageである。図1.3に真空系を含めた燃料循環   12,TertiaryEncl。sures    23,DTandT2st。rage

                    13、AtmosphericTritiumRecovery  24.T2Shipment/ReceMng系のブロック図を示す。この設計では       System        25、FuelBlender                    14 Secondary Encbsures,Purge   26,Gas FuelingNormetexの如きflu玉d-tightの機械ポンプ    streams        27、PelletFueIer

を低真空側にもった多くのクライオポンプ系                     (24)                        図1.3 Starfireの燃料循環シナリオを主ポンプとしているが,定常動作を確保す

るためにニセットを設けて交互に運転を行うシナリオになっている。即ち或る程度燃料粒子などの凝縮が行

われるとそのクライオポンプは動作をやめて,ポンプに吸着した粒子の再放出をはかる。この再放出燃料は

減少分をブランケットからの三重水素とボンベからの重水素を補給して炉心プラズマヘ再入射される。かくし

て炉心プラズマーunloaded粒子一排気粒子一吸着粒子一再放出粒子一再入射粒子の一巡の系は閉ループ

                     11

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核融合研究 第55巻第1号  1986年1月

を形成しているので,これらの制御は各プロセスの時定数がわかれば適正に行うことが出来る。これによっ

て安定な炉の運転の条件が将釆設定されるであろう・

 これらの真空系の検討項目やトリチウム取扱い,中性子のストリーミングの問題は現在稼動中のTFTR

やJETのD+丁動作の経験を通して一歩ずつ積上げていく必要がある。

3.R一トカマクの真空系の設計

 前章で核融合炉の真空系についてのべたが,この考察は現状から考えるとあまりにも遠い将来であり,目

的の設定には役立つけれど現在稼動中の装置とはかけはなれすぎている。そのために本章では次期に直接に

かかわる装置の例として赤石氏によるR一トカマクの真空系の設計に?いてのべる25)。

 現在TFTR26)とJET27)は稼動中であるが,これらはいずれも充分なプラズマメータをえたのちにD+

丁放電を行うことを意図して設計された。この二台の装置より,より明確にD+丁放電を意識して設計され

たのがR装置2)である。パルス幅は1-3秒で短かいが,主眼をD+丁放電を現実に行うことに伴う技術の

開発においたので,その目的には充分であろう。実際,実験家の眼からみると核反応を伴う装置は従来の装

置と本質的に異なる点が少なくない。図1.4にR装置の真空系を示すが,主要な要素としてトリチウム導入系,

一⇔lasma Heating and Diagnostic System Glove box

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   Gbve box

I   NBI              Tritium     Tritiuml    and                   Recovery      Cleanup

l  Pumping              Sy5tem     System

lsystems  皿週1L__

(Red Zone)

Torus

 Diagnostic        l Sy5tems        l and               l Pumping         I Systems        l___________________1

r’一}一一一一一一一一}}一一一「

TorusVacuumPumpingSystem

L

TritiumRecoverySystem I

Non-TritIum

Gas FeedSystem

 l

Trit財mCleanupSy5tem I l 』

Torus Vacuum Pumping System

 Gbve box

ExperimentalHa健Atmosphe「eCleanup System

、__,匝蔓陣[壷(GreenZone)

Green ZoneCleanup System

R-Tokamak Building

         (25)図1.4 R一装置の真空系

StaGk

中性粒子ビーム入射装置,プラズマ容器,トーラス排気系からなっている。プラズマ容器は全D+丁放電回

数を2000回としているので,低放射化材の立場からアルミニウム合金を採用し,プラズマからの熱流東を

うけとめるために内面は全面に黒鉛材タイルを装着している。トリチウムガス導入系にはZr-Alバルクゲッ

                    12

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講 座 核融合炉と真空技術 宮 原

タをトリチウム貯蔵にもちい,ピェゾバルブをガス流量の制御にもちいる設計を行ったが,これらには今後

JET-TFTRでの経験を生かしていかなくてはならない。NBI装置とプラズマ容器との間は55cm直径の

開口4個で接続されているが,この開口部は特別設計のゲートバルブ28)と速動シャッタバルブの二つでつな

がっている。このバルブ構成はD+丁放電にとっては極めて本質的である。何故ならば各中性種子ビーム入

射装置は低エネルギ}の中性ガスがプラズマ容器内に混入するのを防ぐため大きなクラィオパネルを保有し

ているので,トリチウムの逆流があるとパネル上に凝縮してトリチウムィンベントリーを増すのみならず,

次のショットで大量の中性子をこの部分から発生するからである。排気系はプラズマ容器から12m離れた

地下室に配置する。これは14M6V中性子による放射化をさけるためで床のコンクリートは2.5m厚のものを

用意する必要がある。接続管のコンダクタンスは窒素換算で1041/secである。プラズマ容器は14M醒の

申性子によって放射化するが,その影響はこれらの遮蔽によって1億分の1となるけれど,充分考察しても

予測しきれない中性子のストリーミングや不純物の放射化などの間題は実験を通じて修正されていく必要が

ある。

 ポンプ系は粗引き系と主ポンプ系とにわかれる。粗引き系は実験途中において測定器の設置その他でプラ

ズマ容器を大気圧(実際はN2を充填の予定)にしたあとでもちいるが,問題はプラズマ容器やタイルに吸

着したトリチウムである。このプラズマ容器のトリ.チウムインベントリの評価は今後の研究1ぐまたねばなら

ないが,この低トリチウム濃度ガスは二つの直列に接続したfluid-tightの機械ポンプによって排気一

圧縮されクリーンアップ装置に移送される。そこでトリチウムは酸化されてトリチウム水としてモレキュラ

ーシーブに吸着される。主ポンプ系の役割は1.3×10-6Pa以下の基底圧力にプラズマ容器を排気し,さらに

D+丁放電後にヘリウムガス,トリチウム・重水素などの水素同位体ガス,不純物などに分離して排気する

ことである。この分離排気することによってトリチウム処理は格段に容易になる。ポンプ系としては二台の

金属クライオパネルをもったクライオコンデンセーションポンプと,一台の活性炭の吸着剤をもったクラィ

オソープションポンプからなっている。これらのポンプ系はプラズマ容器から配管を通じて接続され,さら

にクライオポンプの再生時にそなえて各々のクライオポンプとトリチウム貯蔵系とをfluid-tightの機械ポ

ンプで接続している。主放電や放電洗浄時にプラズマ容器から発生する不純物は20~25Kのクラィオコ

ンデンセーションポンプで直接排気される。しかし水素同位体やヘリウムはこのポンプでは凝縮されずにと

おりぬけ,4Kのクラィオポンプによってはじめて排気される。この場合水素同位体は4Kのクラィオコ

ンデンセーションポンプのみで排気されるがヘリウムは活性炭の吸着剤を附加したもので排気されるので,

これらのクラィオポンプを温度の高い方から直列に接続したもので排気することにより分溜排気を行うこと

が出来る。再生時には不純物と水素同位体を凝縮したものはトリチウムの含有が多いのでバルクゲッターか

モレキュラーシーブに吸着させてそこで保管する必要がある。第三番目のポンプにおいてほclean up系に

接続してトリチウムを除去し,トリチウムを含まぬものはそのまま排出する。しかしこの系はもっとも吸着

しやすいポンプを有しているので・三つのポンプの配列に充分気をつける必要がある。クラィオポンプをも

                      13

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核融合研究 第55巻第1号  1986年1月

ちいる場合は排気と再生を交互に行う必要があるので二系列のポンプをもつ必要があるが,これは一方にお

いていつでもback up pumpがあることに相当し,その意味では有効である。

 JET29)やTFTR30)の設計においてはターボ分子ポンプをもちい,後段のポンプとしてZr-Alバルクゲ

ッターをもちいている。したがってゲッターにおける吸着性が各種のガスによってことなることを除けば選

択排気の能力はない。しかし連続排気が出来るという大きい利点をもっている。現在はこのターボ分子ポン

プによる排気系が稼動しているけれど,近い将来クライオポンプによる系統も試験をする必要がある。

4.真空系の部品の開発 核融合炉の稼動率を評価する手法としては,原子力機器であるので安全解析31)と考えて行うことは極めて

都合がよい。核融合炉を核分裂炉と比較した場合の大きい特徴はトリチウムなどの放射性同位元素の存在す

るところや材料などの放射化される部位が分散的であることがあげられるが,そのもっとも主要な部分がこ

の真空系にかかわっている。しかも現状を考えるとその各々の部分の信頼度は決して高くなく,装置の稼動

にも大きい影響をもつ。即ち核融合炉はおろか次期装置に対する充分な信頼度を保有しているとはいえない

のが現状である。その上核融合炉の部品に課せられる条件はきびしく旦多様的であるので,過剰品質の部品

を採用することによる問題の解決はだんだん許されなくなる。

 真空系の部品や材料を論ずるときには二つの方向が考えられよう。一っは炉壁材料,真空バルブ,ポンプ

というように機能によるものであり,もう一つは放射線環境とか高温度における動作という環境条件である。

いうまでもなく核融合装置の真空部品においては両方の条件をみたしていかなくてはならない。たとえば放

射や粒子負荷をうけとめる壁材にあたるリミターやダィバータ板,あるいは通常第一壁とよばれているプラ

ズマに直面する壁材料に課せられる条件は図1.5の如くであるが,この条件がプラズマ側からの努力によっ

てどのようにゆるめられるか,どの条件はゆるめられないかということの評価は研究方針を定める上に極め

て重要であるが,核融合炉の条件で通用するシナリオは未だ提示されていない。図L5についてやや詳しく

纏,、,◎}⑤卜(◎一⑤1

                               ↓

、、卿◎一⑤1一◎一◎Materials

図1.5 炉内塾材料に要求される性質

14

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講 座 核融合炉と真空技術 宮 原

のべるならば・第一の条件は脱ガス率の小さいことである。さらにこの条件と共に排気しやすい条件も加え

る必要があろう。従釆の装置はステンレスやインコネル材のような非磁性金属を基礎において考えて来たの

で間題は少なかったが,近時コーティング材や等方性黒鉛材などがとりあげられるようになり,急速にこの

観点の重要性がまして来た。たとえば黒鉛材で脱ガス率を評価するのに従来のように単位面積あたりで評価

するのがよいか,あるいは単位体積あたりで評価するのがよいかという初歩的な論議がつづけられるという

のが現状である。

 二番目の条件である熱負荷については大きくわけて正常動作のときの負荷と異常時の負荷の二種類にわか

れる。正常動作の場合には概念設計に従ってINTOR8)やFER32)において具体的な数値が与えられている

が,表L1に示すISPやR装置のように小型でプラズマパラメータは大型装置に匹敵するものをねらうとな

ると,当然大きな壁負荷に耐える必要がある。例としてISP装置群では1kW/cm2程度を考えているが,

パルス幅は1~3秒と比較的短かく,慣性冷却を期待している。核融合炉への中間段階を目的とする

表1.1 Bcx装置のパラメータ

R(参考設計〉  IGNITOR-A     l S P UTE

MajorRadius

Minor Radius

Ebngation

Triangularity

Field on Axis

Plasma Current

Beもa

BumTime

Fusion Power

Wa翻Load(Neutron)

HeatingPower

 1,895 m        1,01 m

 O,6m        O.39 m

 2,3        1.6

      0.2 2,1T   12,5T

 4.5 MA       9.6  MA

      O.012 1sec/6,5sec      O。5 5ec (Dischage)

   ロ         コ   ハ 

      (64誉黙繰窩(一1謝撫1

  15MW(NBl)  10 MW(RF)

1.62m

O.53m

1.6

〉O.4

8,9 丁

7.8 MA

O。05

5.0 5ec

305 麟W

  25,6MW/m

30 MW(RF)

1.76 m

O,55m

1.6

0,3

8.85T

7,2 MA

O。046

5,0 sec

300 MW

  24,8MW/m

30 MW(RF)

INTORやFERの設計では100~2000秒の長パルスを予想しているので,冷却系が本質的に必要となり,

壁材の熱伝導率の大きいことの要請が出てくる。さらにダイバータ板にしてもポンプリミターブレードにし

ても,占有出釆る面積に制限があり,板を斜めにかたむけるなどして負荷の軽減をはかる工夫をするものの

きびしい条件となる。これらの考慮の上で,現在はISP,BCX,Rなどの小型装置では等方性炭素材料を

第1候補とし,Beを第二候補に考えている。INTORでは熱伝導率の観点から銅やタングステンなども候補

材と考えている。これらのことは異常動作であるデスラプション,アーキング,逃走電子の効果を考えると

さらに深刻である。デスラプシ・ンは電流崩壊という名が示すとおりプラズマ電流を伴う装置に特有な現象

であるが,ISP群では4MJ・10msec/cm2を予想している。逃走電子効果も大きい負荷をもたらしてしば

しば壁材に損傷を与えたり,はげしい場合には壁に孔をあけてしまう』このような例はかつてTFR・一40033)

で起とり最近ではJETの壁の損傷34)について報告されている。とくにJETの場合は20~50M課の電子線に

よるX線が,r-n反応を起こし壁を放射化したことも報告されている。正常動作と異常動作の両方に対応し

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核融合研究 第55巻第1号  1986年1月

うる壁の材料の候補は黒鉛材,炭素関連材,タングステン,モリブデンのような高融点金属が考えられてい

るが,一方においてプラズマ研究者の努力によって遠隔放射冷却の手法によってダイバータ板への入力を低

くする18)こと,外部導体系装置の採用によってディスラプションの回避が考えられているが,前者におい

てはリサイクリング制御との関係,後者においてはさらに高いプラズマパラメータ領域における動作の確立

が,今後解決すべき問題である。

 次の条件は浸食の問題である。これは正常動作の場合はスパッタリングで代表される過程である。この点

にっいてはタングステン・モリブデンのような材料は入射イオンのエネルギーが充分低いと殆ど問題となら

ない。黒鉛材については化学スパッタリング35)と高温における昇華の助長36)による浸食過程の間題が深刻

である。化学スパッタリングの抑制についてはいままでにもいくつかの報告があるが,その確立は現在の最

重要課題の一つである。

 一方において壁材料には低Z性が要求されている。これは現在のリミターによる粒子制御の概念にはプラ

ズマに流入する高Z不純物を除去するシナリオがダイバータ程明確でなく37》38),炉心プラズマの中心部

の放射損失が不安定性やエネルギーバランスに致命的な影響を与えることが予想されるからである。リミタ

ー材などに低Z材をもちいたときに端部プラズマがどのように冷却されるかなどの研究は今後の進展にまつ

ところが多い。この点についてはJT-60においてダイバータによる不純物制御の可能性が示されることにあ

っい眼がそそがれている。ダイバータによって不純物制御の可能性が示されると候補材の範囲はいうまでも

なく高Z領域にまでひろげることが出来る。ダイバータによる積極的な不純物の制御は現在のJETにおけ

る実験39)などによって示された高Z材の低Z材上へのRedeposit孟onの経験からいっても全面低Z材でない

装置においては必須なものとうけとめられている。

 研究の段階がすすんで核反応一核燃焼を期待するようになるとトリチウムの導入が必要となる。そのと

きにはトリチウムや重水素のような燃料粒子と壁材料の反射,吸着,透過を含めた所謂リサイクリング現象

が重要となる。これは通常の装置では密度制御の必要性となり,D+Tプラズマにおいては成分比の制御と

も関係する。さらにトリチウムのインベントリ評価は今後の実験に極めて大きい影響をもつ。黒鉛材および

炭素関連材料については最近活発に研究が行われて来ているが40乞不純物の含有との関係とくにアルカリ金

属原子の影響などの詳しい検討が必要である。また低エネルギーイオンや荷電交換粒子の入射による表面構

造の変質の影響41)についても研究が行われている。

                                                現在アメ・リカで検討がすすめられているISPで代表される核燃焼実験計画では,中性子負荷として~10

n/cm2を考えている。これはほぼ1dpaに相当するが,黒鉛材やセラミック材には物性値の変化という形

の影響をおよぼしはじめる。しかしこの段階でもっと本質的なことは材料の放射化であろう。図1.6に

JET,TFTR,R一装置の壁材の放射化の状況を示すが,これによってもこの程度のフルーエンスにおいて

はアルミ合金材が極めて有利なことがわかる。遠隔操作によって放射化による困難を解決しようというここ

ろみは各国でつづけられているが,トーラス容器を基本とした橡雑な構造であること,重量物であること,

                     16

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講座 核融合炉と真空技術 宮 原

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1D  IW2W  3M IY  5YIOY

TimeafteroneD一T Discharge

         (2〉図1.6 壁材料の放射化

 さらに中性子のフルーエンスが大「きくなり,INTORで予想される50dpa,

dpa以上となると当然放射損傷の問題44)が出てくるが,この問題についてはここでは触れない。

 以上の条件は特に最後の二つが未だ遠すぎる目標なので最後の適正な価格という条件を議論する段階では

ないが,ダイヤモンド程ではないにしても或る種の黒鉛材は可成り高価であり,この観点をも充分考慮する

必要がある。これらすべての条件を満足する候補材料が数種類のこらぬことには核融合炉の建設は出来ぬの

であるが,既にのべたよう.にこのためにはプラズマ・壁相互作用研究の手法をとり入れることが必須であり・

ここ当分はプラズマ研究者と材料研究者の緊密な共同研究が極めて必要である。

 以上プラズマ容器関係の材料についてやや詳しくのべたが,核融合炉の真空系としては,材料の観点と共

にいろいろの部品の開発が必要である。ポンプ系では大型のクライオポンプ,ターボ分子ポンプ,潤滑油を

必要としない機械ポンプなどが,充分の信頼性をもって開発される必要がある。

 ポンプ系に附帯して必らず必要となる部品は大口径の金属ガスケット,ゲートバルブである。大口径とい,

うことはベーキング時などの熱膨脹を避けることができないので,フランジ用のガスケットにしても,ま

してやゲートバルブのシールガスケットはスプリング作用をもち同時に圧着面は材料同志のなじみめよいこ

とが要求される.これらの研究は未だ完結してし、なし、が,ヘリコフレックス45)やH型ガスケ.トの使用藤

およびそれらをバノレブに利用した報告47)’48)などが散見される。しかしこれらのバルブやガスケットにつ

                     17

さらには放射線量レベルが高いことに

よって通常のマイクロプロセサーが放

射損傷をおこすことなどから特にISP

などの核燃焼装置への適合は困難視さ

れている。低放射化材料の開発42)’43)

はこの観点もあって鋭意すすめられて

来た。Alのもっとも特徴とするところ

は誘導放射能が数週間という短かい時

間であるレベルまで低下することで,

このことは実際に誘導放射能を伴うサ

イクロトロンのような装置での実験を

行った経験のあるものにとって切実に

感じられる。実験装置においてはせい

ぜい一年以内の,実用炉においてもせ

いぜい一世代(50~70年)という時

間内に可成りの減衰を期待することは

常識的であろう。

    商業炉で予想される300

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核融合研究 第55巻第1号  1986年1月

いての低放射化材料の考慮は,主構造材料にアルミをもちいる程度しかなされていない。このようなことか

ら,ベーキングを行わなくても充分よい基底圧力に達しうるようにするにはどうしたらよいかという考察が

なされた。これによってすくなくとも熱膨脹によるずれの問題は考えなくてよいことになる。また通常

のICFフランジは無酸素銅材をもちいているので,14MeVの中性子によって放射化される。トリスタン加

速器に関連して開発されたアルミ製のガスケットなどが核融合装置の環境下で使用にたえるか否か,そのた

めにはどのような改良が必要かなどの考察も必要であろう。

 真空計や残留ガス分析器などの計測器は現在の装置ではもっぱら真空度や分圧の測定にもちいられている

が,将来の大型装置や核融合炉においては計装部品となり,制御系のセンサーとなる。このときどの程度の

信頼性をもつか,またトリチウムが導入された彰きβ一放射能をもつための影響は何か,ヘリウムの分圧を

重水素と分離してはかるのにはどうしたらよいか,など解決すべき重要な問題がたくさんある。これらは従

来の原子力機器とちがい真空技術が中枢的役割を果たす核融合炉においては重要な考慮である。

 以上各部品類について概観したが,さらにバルブ類を作動させるための圧縮空気系部品,水冷系統の小型

コック類やホース,ホースバンド,液体ヘリウムや液体窒素の循環系や補給系など,いわゆる補機部品とい

われるものに存外信頼性の低いものが多いので注意を必要とする。

5.-結 語

 大型核融合装置や核融合炉を設計ずる場合にもっとも重要な観点はリークテストが容易に出来る構造であ

ることである。本講座においてもリークテストは一回分を予定しているが,装置の設計にあたって,その点

の考慮を払うことは今迄の装置においてあまりにも等閑視されていたので,あえて書き加えておく。さらに

現在の装置においてはベーキング,放電洗浄,場合によってはin-situの炭素被膜生成を容器内に行うこと

などの要求があるが,これらの要求をあらかじめ装置設計に反映させておく必要がある。

 このようにかいてくると核融合炉の真空系の開発には物理的な面と技術的な面の両方があり,その両方と

もが極めて若い段階にあるというべきであろう。このことは磁場とじこめの核融合研究が従来はエネルギー

閉じ込め研究の段階で,物理にしても安定性を中心としたプラズマ物理に重心があり,技術的にも磁場生成

や加熱工学が主であった。しかしながら今後は粒子バランスに問題の中心がうっると共に物理・技術共に真

空が重要な位置をしめてくる。本講座がそのためのきっかけになってくれることを願うものである。

               参  考  文  献

1)A.Miyahara:.Pγoc.血置eγη.S“伽po3地㎜oπyαc%%7πTεcんηo♂08“a%4/V%cJeαず∠4ppJ♂cα言∫oηs,

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18

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講座 核融合炉と真空技術 宮原

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19

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核融合研究 第55巻第1号  1986年1月

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