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専門職学位論文 - Kobe Universitykutsuna/class/file/MBA1_shimonishi.pdf ·...

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専門職学位論文 ナレッジ・コミュニティによる新規事業開発 ~企業パフォーマンスに影響を与えるコミュニティ設計条件に関する研究~ 提出日 2005.8.24 神戸大学大学院経営学研究科 現代経営学専攻 忽那研究室 学籍番号 042B226B 氏名 下西 弘二
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専門職学位論文

ナレッジ・コミュニティによる新規事業開発 ~企業パフォーマンスに影響を与えるコミュニティ設計条件に関する研究~

提出日 2005.8.24 神戸大学大学院経営学研究科

現代経営学専攻 忽那研究室 学籍番号 042B226B

氏名 下西 弘二

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【要旨】 本研究の目的とは、新規事業開発を促進しかつ高収益企業となる為のナレッジ・マネジ

メントを明らかにすることであり、知識創造企業となるためのフレームを提案する事にあ

る。その為、ナレッジ・マネジメントに関する文献をレビューし、ナレッジ・コミュニテ

ィのフレームワークを提示した。次に新規事業創出に関する文献をレビューし、新規事業

創出に不可欠なプロセスを抽出した。そして知識創造企業のベンチマーク分析からコミュ

ニティに不可欠な機能の追加を行った。そしてナレッジ・コミュニティ設計のための5つ

の仮説を提示し、アンケート調査とインタビュー調査により仮説の検証を実施した。仮説

検証結果およびナレッジ・マネジメントの相関分析により、企業パフォーマンス向上に有

効な相互相関的なナレッジ・マネジメント群を発見し、ナレッジ・コミュニティ構築の設

計指針を提示した。

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【目次】 第1章 イントロダクション

第1節 はじめに 第2節 ナレッジ・コミュニティによる新規事業開発と企業パフォーマンス

第3節 リサーチクエッション 第4節 論文の構成

第2章 ナレッジ・マネジメント 第1節 はじめに 第2節 先行文献レビュー 第3節 ナレッジ・コミュニティに必要な機能構造 第3章 新規事業開発プロセスとナレッジ・コミュニティ機能要因の結合 第1節 はじめに 第2節 新規事業創出に関する文献レビュー 第3節 新規事業開発のプロセス・フレームまとめ

第4節 ベンチマーク企業分析によるナレッジ・コミュニティ機能の補完 第5節 ナレッジ・コミュニティ機能構成と新規事業開発プロセスの結合 第4章 仮説および質問への転換

第1節 仮説の提示 第2節 質問項目への転換

第5章 仮説の検証 第1節 検証方法と調査対象企業 第2節 アンケート調査の分析と予備検証 第3節 インタビュー調査 第4節 仮説検証結果と考察 第6章 結論および残された課題

第1節 本論文の総括 第2節 結論とインプリケーション

:高収益新規事業開発のためのナレッジ・コミュニティ・モデルの提示 第3節 残された課題

参考文献

付録

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第1章 イントロダクション

第1節 はじめに 「強い者が生き残ったのではなく、変化に対応出来た者が生き残ったのである」、これはダ

ーウィンが『進化論』で伝えたかった一つのエッセンスである(佐倉[2002])。変化への対

応。この言葉は企業にも当てはまり、変化への対応により継続的な生き残りを達成してい

る企業もある。さらに、この変化への対応は、単なる生き残りだけでなく、高業績をもた

らす可能性を秘めていると考えられる。事実、3Mや花王の様に変化への対応を可能とす

る組織形態・製品開発体系を強みとしている企業は、非常に高い収益性を兼ね備えている

という実例もいくつか存在する(Ghoshal and Bartlett[1997]、河合他[2004]、平林・広川

[2004])。 延岡[2002]によれば、過度な競争の中で業績を高めるには、明確な独自性や差別化により

競争に勝つことが重要であり、この差別化を得るには、製品による差別化と製品開発能力

による差別化がある。 しかし、製品による差別化は目立ちやすく、追随しやすいために、

長期にわたる差別化を期待することは容易ではなく、開発能力による差別化が今後ますま

す重要となってくると考えられる。またこの開発能力には、コア技術戦略・組織プロセス

能力・価値創造能力の三つがあるとしており、その中でも組織プロセス能力や価値創造能

力に関しては、組織の作り方や企業理念から創りだされているものであり、長い時間がか

かるものの非常に強い競争優位性そして自主性と柔軟性に富んだ人・組織が生み出される

と期待出来るモノである。つまり、高収益企業となる方法論の一つの解が、このような組

織プロセス・価値創造能力を生み出す組織にあり、この開発が有効ではないのか、という

考えにたどり着く。 一方、現在では様々な情報技術の発達により、これまで特定の個人や団体しか知り得な

かった情報や比較的高度な情報に対し容易にアクセスが可能となっており、個人が知り得

る情報の質・量ともに増えている。以前の様に情報の獲得が限られていた時代では、情報

の集約場所としての経営トップが重要な意味を持っており、トップダウン的な組織が非常

に重要であっただろう。もちろんトップダウン的経営とは、現在でも戦略・リーダーシッ

プという意味において非常に重要な要素であることにはかわりはないとはおもわれる。 しかし、情報へのアクセスが容易になった現在では、一個人のもつ力が格段に向上する

ことが期待でき、かつ、これらが自主的・有機的に結合して組織体へと発展した場合、計

り知れない力が発揮される可能性があると考えられる。またこれらは、個人の有機的結合

による多様な可能性をもった集合体であるため、ニーズの多様性への対応も期待できる。 上述のような知識組織では、様々な知識媒体との有機的な関係構築が新たな価値ある知

識を生み出すことも理解でき、個人の可能性に期待できる時代では、労働集約的な経営に

変わり知識集約的な経営がますます必要とされているといえる。

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知識による経営という意味においては、Nonaka and Takeuchi[1995]をはじめ、様々な

研究がなされており様々な理論的枠組みが提案されている。また、ナレッジ・マネジメン

トに成功している企業事例についても様々な文献が存在している(Wenger et al.[2002]、日本 IBM(株)ナレッジコラボレーション・コンサルティング[2000]、Orr et al.[2003]、American Productivity & Quality Center[1996]、Buckman[2004]、日本経団連出版[2004]、Ghoshal and Bartlett[1997]、河合他[2004]、平林・広川[2004])。 しかし、これらの事例研究を見るに、具体的なナレッジ・マネジメントが発見されては

いるが、それぞれが個別の企業に適しているモノなのか、またマネジメント同士の関連性

はあるのか、については、十分な結果は得られていないと言える。事実、事例研究によっ

て文脈の中で語るべきものであるとの主張もある(Wenger et al.[2002])。 この様に、一般企業への適応を考慮した実践的ナレッジ・マネジメントに関する実証研

究はまだまだ十分とは言い難い。よって本研究は、理論的背景およびナレッジ・マネジメ

ント項目に関しては先行文献にもとめることとし、そしてこれらの内どのようなナレッ

ジ・マネジメントが企業パフォーマンスに影響を与えるかについて実証研究を行うもので

ある。 第2節 ナレッジ・コミュニティによる新規事業開発と企業パフォーマンス ■ 新規事業開発と企業パフォーマンス 企業がゴーイングコンサーンを命題の一つとし、かつ株主価値の向上を使命とするなら

ば企業には持続的な成長が求められることとなる。 Ansoff によれば(バーニー[2003])、企業の成長戦略は、新事業創出、新市場開拓、多角

化、市場浸透という4つのカテゴリーに分けられる。 これは、現事業との市場、事業的

関連性に注目した分類であるが、新製品、多角化も含めて新規事業開発とは、成長の為の

主軸をなすものと理解できる。 よって本研究では、企業成長、企業パフォーマンスの向上に繋がる為の重要な手段とし

て新規事業開発を捉えることとし、企業成長の為に必要なベンチャービジネス(起業)、コ

ーポレートベンチャー、企業内新規事業創出、新製品・新サービス開発を新規事業開発の

範疇と考えることとし、これらの創出・開発が企業業績を向上させるという立場に立つこ

ととする。 ■ ナレッジ・コミュニティとその設計要因

Botkin[1999]によれば、ナレッジ・コミュニティとは実体的なビジネスの目的に役立つ

新しい知識を創造し、共有し、利用するという共通の熱意を持つ人たちの集団であるとし、

上手く機能しているナレッジ・コミュニティは、共通の価値あるいは共通の強い関心から

生じる帰属意識で結ばれており、メンバーは互いに信頼しあい、自分が出すアイデアが直

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ぐに実現されないどころか笑われるのではないかという心配などせずに、創造的なブレイ

ンストーミングに自ら積極的に参加できる傾向にあるとしている。 前節で情報コスト・情報認知能力の限界の克服そして個人の力を 大限に活用すること

が重要であると述べたが、ナレッジ・コミュニティは知識を創造することを共通の目標と

した集団でありMalone[2004]やWolfers and Zitzewitz[2004]がいう民主制度や市場により

創出された情報・価値判断がより正しい方向を導き出すという考え方にも合致するもので

あろう。では、個々人がもつ知識をいかにして集約し、知識創造を促進させるのか? し

かもそれらが自己組織的にマネジメントされるという状況とはどのようなものであろう

か? 今田[2003]によれば、自己組織化とは、組織全体の変化の要因として組織内のメンバーの

個々の振る舞いに着目するものであり、組織が環境との相互作用を営みつつ自らの手で自

らの構造をつくり変えていく性質を総称する概念であるとし、自己組織化を促進する①創

造的な「個」の営みを優先する、②ゆらぎを秩序の源泉と見なす、③不均衡ないし混沌を

排除しない、④コントロール・センターを認めない、という4つの条件を示している。そ

してこの様な自己組織化にはビジョンが不可欠であるとの見解を示している。また、この

自己組織化の条件の中でも“管理しない・管理を緩めること”が も重要であると主張し

ている。しかし、コミュニティの機能不全や意思決定をマネジメントするための管理ルー

ルであれば、むしろ有効に働く政治システムのように、有効な統制手段となり得ると考え

る。つまり、これは文化育成としてのマネジメントであり、人々が意識せずそのルールに

従うことが出来るのであれば、人々が管理ルールに違和感をもたずに統制され得るとの考

えである。このように国家経営の視点にたち、組織に与える条件を上手く設定すれば、自

発的組織がうまれ個人を基盤とした新しく有効な価値を生み出すコミュニティが形成でき

ると考える。 以上より、ナレッジ・コミュニティとは、個々人の知識や情報を統制し知識創造を促進

するためのナレッジ・マネジメントツールであるといえ、組織文化の育成や自発性・柔軟

性・そして戦略性を促進するものであると理解できる。つまりナレッジ・コミュニティと

はあらたな知識創造集団として非常に有効な活動枠組みであるといえる。 第3節 リサーチクエッション 知識創造には、企業の戦略や組織構造、企業文化や行動指針など様々な要因が関係して

おり、実際、幾つかの企業は知識創造の課題を克服し、企業価値創造・企業成長の観点で

成果が出つつある(Ghoshal and Bartlett[1997]、Wenger et al.[2002]、Tissen et al.[2000]、岡田依里[2003]、Edvinsson and Malone[1997]、American Productivity & Quality Center[1996]、Buckman[2004]、日本経団連出版[2004]、河合他[2004]、平林・広川[2004])。

本研究は、知識活用が企業パフォーマンスの向上に有効であるとの視点に立ち、知識を

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どのように創造していけば、企業パフォーマンスが向上するのかをしることを目的の一つ

としている。 つまり、企業パフォーマンスが向上するようなナレッジ・マネジメントと

はどのようなものかを実証的に明らかにしようとするものである。また本研究では、自発

的な活動を基盤とした活動枠組み(組織、チーム、ワーキンググループ)をよりよいマネ

ジメント媒体と捉えることとするが、この枠組みを確立させ継続発展させることが困難な

作業であることは容易に推察できる。そこで、自主的な活動が芽生える環境の存在こそが

知識創造を促進するとの立場にたち、様々なナレッジ・マネジメントが有効に機能し促進

される、組織的要因をも明らかにしようとするものでもある。つまり、説明変数が有効性

を高め、効果的に機能するために必要な促進的マネジメント(文化・戦略設定、仕組み、

インセンティブの存在など)を明らかにし、説明変数を促進させるナレッジ・マネジメン

ト因子を明らかにすることにも取り組むこととした。 以上から設定されるリサーチクエッションを以下にまとめる。

■ どのようなナレッジ・マネジメントを行っているナレッジ・コミュニティが新しい事

業を生み出し。かつ高業績を上げているのか。 ■ コミュニティ設計条件の中でどのような条件が も効果的か、またどのような設計条

件が組み合わさると効果的か。 ■ コミュニティの設計条件を知ることにより、新規事業を生みだし、高業績を上げる企

業に変革することが可能ではないか。 第4節 論文の構成 次章では、まずナレッジ・マネジメントに関する文献をレビューし、知識創造の為に必

要な組織的機能・要因を理解する。そして章の 後に、先行文献から明らかになった標準

的な仮説を示し、本研究が注目する領域を絞り込むこととする。第3章では、新規事業創

出に関する文献をレビューし、新規事業創出に不可欠なプロセスを理解することとする。

3章後半部では知識創造活動により高収益を計上している代表企業をベンチマーク分析し、

新規事業開発に不可欠なナレッジ・コミュニティ要素を追加することとする。 そしてナ

レッジ・コミュニティと新規事業プロセスの関連付けを行い、ナレッジ・コミュニティに

よる新規事業創出に関する仮説を設定することとする。その後4章において本研究で明ら

かにする仮説を提示し、5章で検証を行う。検証にあたっては、アンケート調査結果によ

る予備検証を行い、企業パフォーマンスを向上させる為にナレッジ・コミュニティに不可

欠な要素を指摘することとする。そしてアンケート回収企業からケース対象企業を選定、

対象企業へのインタビューにより仮説検証を行う。そして 後の6章では結論として新規

事業を創出するナレッジ・コミュニティに不可欠な要素を取りまとめ、今後の課題につい

て考察することとする。

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第2章 ナレッジ・マネジメント 第1節 はじめに Nonaka and Takeuchi[1995]は、日本企業の競争優位は組織的知識創造による連続的な

イノベーションによりもたらされたものであるとし、さらにこれらは、日本企業が不確実

性の時代を通じて体験してきた外部知識の取込によるものであり、外部から取り込まれた

知識は、組織内部で広く共有され、知識ベースに蓄積されて、新しい技術や新製品を開発

するのに利用されるとしている。つまり、この外から内へ、そして新製品、新サービス、

新ビジネス・システムの形で内から外へという変換プロセスこそが、連続的イノベーショ

ンの原動力となっていると主張している。 また、Tissen et al.[2000]は、企業が達成しなければならないのは、知識を創造すること

ではなく、付加価値を創出することであるとし、すでに付加価値を創造する企業の時代に

入ったとの認識をしめしている。 これらはいずれにせよ、知識を活用、循環することにより、新たな知識・価値を生み出

すということが、企業の競争優位や価値創造に大きく影響を与えるものと理解できる。ま

た、Malone[2004]が主張するように、情報コストの低下により、ボトムアップ型の経営が

機能していくという状況がみられるという。そして、情報認知限界の問題から、集団によ

る情報選定や情報加工の重要性をとなえており、民主制や市場原理を用いた情報の統制が

有効であると主張している。従ってこの様に、大量の情報の処理が必要となる場合、集団

による情報の統制・知識の創造、つまりは、ナレッジ・コミュニティによる知識のマネジ

メントが特に有効となると言えよう。 以下では、ナレッジ・マネジメントおよびナレッジ・コミュニティについて理解を深め、

その後、知識創造を行ううえで、不可欠な組織的機能、知識転移のフロー、そして、具体

的なナレッジ・マネジメントを抽出することとする。 第2節 先行文献レビュー 第1項 基本理論 もっとも良く知られたナレッジ・マネジメントに関する古典的文献としては、Nonaka and Takeuchi[1995]があげられるだろう。以下では本文献をレビューし、ナレッジ・マネ

ジメントに関する理論骨格を理解することとする。 本文献は、暗黙知と形式知の相互作用の重要性を強調しており、この相互作用のための

フレームワークおよびその枠組みが機能する促進要件について主張するものであった。知

識活用を効率的に可能とするような組織場の設計要因としては、“対話の場”がなにより必

要であり、その場には自由度が必要であるとともに、意図をもった設計により、知識創造

は可能であるとの認識がえられるものであった。

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本文献中のいくつかの主張の中でも、意図、対話の場、自律性、多様性、冗長性、そし

て個人の知識が基盤である、との考え方が本研究の枠組みになるとの理解が得られた。意

図に関しては、企業文化・行動規範・夢などを通じ、集合体としての力を結集させるため

に も重要な設計要件といえる。そして意図により個人の知識獲得を強く促進するマネジ

メントが必要であろう。対話の場に関しては、本研究が目指す設計条件の中核的な概念で

あると考えられ、これには自律性、多様性、冗長性など、さまざまな要件が盛り込まれる

必要がある。また、自律を促進するためには様々な規定を 小限にする必要があるといえ

るが、自律性と規範設定には矛盾が存在する。この点に関しては、自律すること自体が中

核的な行動規範とするなどの意図が必要と考えられる。また、多様性、冗長性の許容に関

しては、不可欠な要素であるものの、コスト増大問題や情報認知限界の問題などが存在す

るため、何らかの情報処理システムが必要である。これには情報処理端末やソフトウェア

システムに加え、有機的な情報処理が可能と期待できる、“コミュニティ”の活用に注目す

ることが効果的であると考える。Malone [2004]が主張する民主制や市場による情報の流通

や、オベル=マンビル他[2003]が主張するアテネの政治体系のポイントのひとつである、多

様な職種の体験による相互理解の促進など、信頼構築の仕組みを組み入れることも重要で

ある。 しかし一方で、本文献は個人の知識の重要性については強く言及しているものの、個人

の知を組織の知に転換することに注力するあまり、個人の知をいかに向上させるかについ

ては深く追求していないようにみえる。 この点に関しては、本研究の目標でもある設計

要因には組み込む必要があると考えられ、学習に対するインセンティブに加え、設計をう

まくすることにより個人学習を促進させることが重要であると考える。以下に本文献から

のインプリケーションを図表にまとめておく。

“知識創造企業”からのインプリケーション

対話の場

自律性

多様性

冗長性

意図(文化・戦略・規範・夢)

知識創造企業構築七つのガイドライン① 知識ビジョンを創れ

② ナレッジ・クルーを編成せよ

③ 企業最前線に濃密な相互作用の場を作れ

④ 新製品のプロセスに相乗りせよ

⑤ ミドル・アップダウン・マネジメントを採用せよ

⑥ ハイパーテキスト型組織に転換せよ

⑦ 外部世界との知識ネットワークを構築せよ

個人学習

(出所)文献を参考に筆者作成。

次に、冗長性および多様性の制御そして個人認知なき集団認知、つまり意図を浸透させ

るのに有効と考えられる概念であるコミュニティの活用について文献レビューを行う。

図表1

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第2項 コミュニティによるナレッジ・マネジメント 上述したように、ナレッジ活用組織の設計には様々な要素を組み込む必要がある。例え

ば意図と自律性など矛盾しあうとも思える要素や、情報取得コストおよび情報認知限界の

問題、そしてまたコンセプトの正当性にもみられる、評価の要素などの様々な仕組みを組

み込む必要がある。以下では、このような複雑な状況に有機的に対応するための有効な概

念のひとつとして、コミュニティの活用に注目することとし、コミュニティに関する二つ

の文献、そして事例研究的文献をレビューすることとする。 ■ ナレッジ・コミュニティの基本構造

Botkin[1999]によれば、ナレッジ・マネジメントとはナレッジ・コミュニティを構築、

維持、運営するためのツールであり、ナレッジ・コミュニティとは実体的なビジネスの目

標に役立つ新しい知識を創造し、共有し、利用するという共通の情熱を持つ人達の集団で

あり、そしてナレッジ・コミュニティは自律的な組織として存在すべきものであると主張

している。つまり、ナレッジ・マネジメントには意図と自律という相反するマネジメント

が必要とされているといえ、このようなマネジメントは仕組みや文化としてコミュニティ

の中に自然なルールとして埋め込まれていることが効果的であると考えられる。また、ナ

レッジ・コミュニティには、そのコミュニティが注力する関心事の存在が不可欠であると

主張されていることそして参加を促進するということの必要性から、参加しているという

自覚・認識自体が参加意欲を向上させるという良質な関係が必要であろう。これには、コ

ミュニティに参加できることが一種のステイタスとなるような、意図的な設計が有効かも

しれない。 以上のことから一つ言えるのは、“関心事の設定”と“参加意欲の向上”が、上手く相互

作用することが重要ということである。 都市国家アテネやベネチアのように、コミュニ

ティの利益と個人の利益が一致している状況や、学会や会員制組織のように参加できるこ

とそしてそこで交換される知識の価値自体がコミュニティへの信頼を高めることが有効で

あろう(Malone [2004]、オベル=マンビル他[2003]、塩野[2001])。 以下に Botkin[1999]が主張するナレッジ・イノベーション・モデルと成功指針を図表に

まとめておく。 Botkin[1999]の主要な主張として、ナレッジ・コミュニティ成功のための課題として、

知識共有・信頼構築・学習、の課題を克服することが必要であるとしている。また、これ

らの課題の克服に対しては、業績連動のナレッジ・マネジメントが不可欠であるとし、そ

してこれらのマネジメントは企業文化による支援を得られることが重要であるとしている。

そしてナレッジ・マネジメントの成功ポイントとしては、オープンさ・友好的競争・R&Dの新しい役割をもたす・感動によるナレッジ・マネジメント、をあげている。このオープ

ンさと友好的競争というポイントに対しては、ローマ帝国やモンゴル帝国など多様な人々、

多様な神々を受け入れた大国が史上類を見ない大帝国となったことからも重要な要因と認

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ナレッジ・イノベーション・モデル

企業文化

知識共有

信頼関係構築

学習促進

業績連動

ナレッジ・コミュニティ成功の3課題

企業文化育成要因■ 失敗を学習チャンスととらえる

■ 多様性を尊重する

■ アイデアには厳しく、人には優しく

■ 投票ではなく、コンセンサスを促進する

■ 機密保持競争の役割

■ すべては信頼感に行きつく

■ 質問する文化

ナレッジ・マネジメント成功要因■ オープンさ

■ 友好的競争

■ R&Dの新しい役割

■ 感動ということの果たす新しい役割

学習促進要因■ コミュニティは、自ら何を学びたいのか

決めなければならない

■ 安心して学べる学習環境を整える

■ 学習する

■ 学習の成果を知識に変えるために

取るべき行動とは何か

起業家精神的ナレッジ・コミュニティ構築ガイド■ 若い人、新参者、本社から最遠の人に焦点

■ 実習用コミュニティを見つける

■ やる気のあるネットワーカーに担当させる

■ 明確なイノベーション指示に基づきシンプルに始める

■ パートナーシップ精神を強調する

■ コミュニティの外にチャンピオンのチームを作る

■ 頻繁にコミュニケーションを行う

■ 長期的に考え、短期間で成果を上げる

■ 人を大事にする(高く評価する)

(出所)文献を参考に筆者作成。

識できる(塩野[2002-2004]、中西[1998])。ここから理解できるのは、誰でも何でも受け入

れる、ルール・文化は重要な視点であるが、同時にコミュニティに対する信頼をもたらす

ためには、受け入れたものに対する正当な評価・判断するための仕組みが必要であると言

うことである。これには、Botkin[1999]でも指摘されているように、ビジネス目標との整

合性による評価がポイントとなる。

Botkin[1999]が推奨する“イノベーティブ学習”は、予測型学習・参加型学習・国際意

識・システム思考、が重要との立場に立っている。予測とは、根拠ある仮説構築そしてリ

スク管理の点で重要であると考えられる。仮説構築の為には、公知の知識を学習すること

そしてそれらを組み合わせるアイデアが重要となると考える。そしてなにより、仮説の検

証は学習の方向を修正する切っ掛けとなり、新たな仮説の立案に発展させることができる。

リスク織り込みの計画は、特にプロジェクト推進などビジネス面で不可欠なものである。

戸部他[1991]の日本軍の事例でも理解されるように、希望的なプランでプロジェクトを推進

してしまい、リスク管理なしでプロジェクトを進める傾向が特に日本では多いのではない

かとの危惧を覚える。また、Botkin[1999]はイノベーティブ学習の為に設定すべき企業ル

ールを4つ提示しているが、これらを参考に学習促進のための4つの行動指針を考えると

次のようになる。

図表2

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□ 公式、非公式のグループ活動を奨励し、活動自体を評価する。 ☐ コミュニティ活動は、学ぶ方向性を決めることが不可欠であり、個々人が向上する場

である必要がある。これは、課題設定が信頼構築の基盤条件であるとの主張を踏まえた

ものであるが、その他、活動の認知性向上そして活動が当たり前であるという文化育成

の為には、活動内容の文書化、活動結果としてのレポートなどが有効 □ 短期的目標合致とビジョン的設計の二面性が必要 □ 学習成果を知識に変える為に、コミュニティ内(組織内)でのグループ間競合、そし

てもっとも有効であった活動をベストプラクティスとしてコミュニティ内で報告させる。

この際、ベストプラクティスの決定基準の明確化とともに、ベストプラクティスの表彰

制度が必要である。

Botkin[1999]はナレッジ・コミュニティに も重要なのは文化育成であり、その為の成

功要因を示している。以下文献の主張を踏まえ成功要因を理解することとする。 ① 失敗を許容する文化→ 失敗の分析と共有化 これは仮説型推進やリスク織り込み型推進にもつながり、大胆なプランを発見できる可

能性がある。ナレッジ・マネジメントとしては、「失敗の分析および報告ルール」であり失

敗の共有化は成功の共有化より重要との主張を盛り込んだものである。このルールを前提

とすれば、失敗もある基準に基づけば許容するという文化が育成されると考える。

② 多様性尊重(多様な情報、知識、人、文化の学習と活用) 信頼構築や友好的競争につながるナレッジ・マネジメントである。 ③ 情報発信を高く評価、アイデアを厳しく評価 情報発信を奨励し高く評価する。これにより学習と共有化の自由度を向上させる。そし

て、明確な指針に沿ってアイデアを厳しく評価する。しかし、より発展的な評価をするた

めには厳しい評価だけでなく、それによって提案者が方向性を再認識しあらたな視点に立

つことが重要であり、これには提出されたアイデアに対して意見を返すなどのマネジメン

トが不可欠であると考える。また、意見返答(リアクション)をしたことや、返答された

意見に対する賛同・反対の評価を行うことにより、リターンコメント行動へのインセンテ

ィブを設定することが必要であろう。

④ リアクション必須のルール(投票でなく、コンセンサスを得る) これは、上述したリアクションコメント促進のマネジメントであり、質問への積極的関

与を促する仕組みでもある。人は、多数決や力の強い人の意見により少なからず左右され

る。信頼構築のためには、ある意見に対しなぜ賛同なのかあるいはなぜ反対なのか、その

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理由を明示する必要があろう。この様な自発的な意見発信は、チームのメンバーのモチベ

ーションを高めるだけでなく、積極的な参加意識が自覚でき、信頼関係構築や場の活性化

に有効であると考える。そしてまた、信頼関係構築だけでなく、持続的な対話促進の為に

は、リアクションに対しても再度リアクションが必要であり、 低でも二回転の循環が必

要と考える。そして、 後にはどの意見が有効なのかのコンセンサスが得られない場合は、

状況によってはリーダーや投票などで意思決定をせねばならないかもしれない。そして、

この様なリアクションマネジメントがなおざりのルールとならないように、コミュニティ

のコンセンサス意思は第三者が客観視できる形で表明し、コンセンサス意思に敬意を払う

文化を育成すべきであると考える。 ⑤ グループワークへの参加撤退の自由 また、本文献ではメンバー入れ替わりに際しては、意思統一に関する問題があるという

指摘をしているが、新たな血の導入は、コミュニティを活性化させる要因ともなり、これ

には良い点もあると考えられる。ここでは、むしろメンバーを受け入れるあるいは退出さ

せるルールの基準設定あるいは、出入り自由のルールが有効であると考える。 ⑥ 信頼構築マネジメント この要因が も重要との主張がなされており、信頼構築が上手くいっている尺度として、

失敗から学ぶことが実践されているかどうかをあげている。また、新しい知識の渇望と新

しい知識の獲得に対する賞賛も、学習組織となる上必要な要素であると考えられる。そし

て知識創出の結果は、コミュニティ内外に報告することを標準とすべきであり、これによ

りチーム内に相対的な価値基準が構築され貢献度合いが相互理解される。またより良くは、

価値提供が低いメンバーに学習モチベーションがかかり、自発的コミットメントが促進さ

れるマネジメントが必要であると考える。これには、補完的知識領をもつメンバー構成と

し他者(パートナー)の得意分野を努力的行為として学習することを標準行動とすること

が有効と考える。この二つのが同時に遂行されるとき、信頼関係が も育まれると考える。

それは、補完的組合せは漏れのない能力の確保であり、他者の分野の学習を行うことは、

他人の理解向上につながるからである。他者のフィールドを理解することで、メンバーの

能力がいかに高いかを理解し、また自身の領域を他者が学習することで、共通用語や共感

が生まれやすい上、他者の努力は得意分野での自身の価値低下をもたらし、専門分野への

より深い学習コミットメントを生み出す。つまり相乗効果的にチームの学習向上が生まれ

同時に信頼構築を創出すると考える。 ⑥ 質問ルール 質問する文化が浸透している企業は、相互理解が進んでいる可能性が高い。質問出来な

ければ理解していないということであり、質問とは理解度確認の意味があろう。そしても

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う一つは、尊敬を含んだ質問という意味があると考える。つまり教えを請うという、理解

度を増したいという質問である。この二つの意味合いは共に必要な要素であると考えるが、

前者は個人学習とアウトプット意欲につながり、後者は評価と知識のレバレッジにつなが

るものと考えられる。 以上から、ナレッジ・コミュニティに必要な機能は、信頼関係構築機能、評価機能、個

人学習促進機能に集約できると言えよう。 ■ コミュニティによる実践的ナレッジ・マネジメント Wenger et al.[2002] は、ナレッジ活用の際コミュニティが有効なマネジメント主体であ

ることを主張するものである。また、ナレッジ・マネジメントに対する焦点が情報テクノ

ロジーから行動・文化・暗黙知に焦点をあてる段階にきており、かつ企業戦略やビジネス

目標と知識とのマッチングを強く主張するものであった。よって本文献は、本研究の目的

と合致し具体的なコミュニティ構築の示唆に富むものであるといえる。 また Wenger et al.[2002]は、学習そして持続的相互交流の重要性を主張しており、これ

には企業自体がまず知識活用により競争優位が生まれうるということを自覚しなければな

らないとしている。つまり、学習および対話が重要な要素であるとともに、これらは自覚

的行為、つまりは意図的に設定することでしか生まれ得ないものであると認識される。そ

して も重要なものとして専門知識開発および戦略合致性を示しており、コミュニティ・

メンバーの自主性と戦略との合致が重要であるとしている。つまり、ナレッジ・コミュニ

ティには、ターゲット知識領域の設定などのガイドラインや戦略や文化というビジネス上

のガイドラインの必要性を示唆している。そしてガイドラインの提示によって、現状と目

標のギャップが認識され、自主的な行動修正を可能とする。つまり、文化・戦略などのガ

イドラインの存在そしてビジネス目標に照らし合わせ知識創造活動の測定と評価を行う評

価システムが必要ということが理解される。 また Wenger et al.[2002]では、自発性・学習促進を誘起するナレッジ・コミュニティ設

計要因が示されおり、以下では重要な機能およびナレッジ・マネジメントを理解する。

① 進化的な設計 コミュニティの進化的変化を促進するためには、自主的なグループを多く内包し、そし

てそこから生まれた知識を広く共有しそれを自己的淘汰させることが組み込まれるべき仕

組み・ルールであると考える。つまり、自律能力・多様性・知識共有化そして提案等のア

ウトプット活動および評価システムの重要性と理解できる。

② 分散型リーダーシップ・内外の視点を取り入れる。 一般的にリーダーの重要性は理解可能である。しかし本研究が対象とする自主性が不可

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欠なコミュニティでは、その必要性には疑問が残る。よってここでは、権限委譲の必要性

と理解することとする。また、内と外との視点は必要であろう。この内外の知識活用マネ

ジメントは多様性に他ならず、Senge[1994]が主張するシステム思考ともつながる概念であ

る。ナレッジ・コミュニティにおいては自律性、自発性が不可欠であるため、ここでのリ

ーダーとは自己発見的存在として設定され、皆に“承認”された存在であることが必要で

あろう。 またこのリーダーとしての認証もあえて要らないかもしれない。つまり、自発

行為として取り立てて注目しないほうがよいかもしれない。リーダー存在のあるなしは、

コミュニティの自発的決断として決定される程度でよいだろう。ただ、他人まかせを防ぎ、

おのおのが補完されあってこそ、そのパワーを増大できるものであり、共振的パワー増幅

が重要との視点に立てば、他者支援の文化育成が必要と考えられる。 ③ 複数のグループにまたがる参加 上記の②にもつながる概念であるが、グループワークは多角的である必要がある。そし

てこれは他者理解の可能性向上とリスクヘッジとしてのマネジメントとして理解できよう。 ④ 公式と非公式のコミュニティの組み合わせ 特に、インフォーマル・グループワークを奨励し、そして良質なものを発見し強く支援

することを示すべきである。階層的組織やトップからの指示による活動は、強い動力を生

み出す。しかし、個々人の自発的コミットメントによる動力は遙かにそれを凌ぐ力がある

と考える。よって、自発的コミットメントにより学習促進され共同ワークとして集結した

力が生みだされると考えられる、インフォーマル活動は強く奨励されるべきである。 ⑤ 価値に焦点をあてる グループ活動の意義の表明そしてその活動の価値を示すべきである。近年、労働業務の

裁量化が進むなか、本文献がいうところの部署長の許可を促進するといった意義は薄れる

かもしれないが、むしろ意義ある活動を内外に示し、活動へのモチベーションを高めるた

めに表明すべきものともとらえられる。また同時に、自主活動の奨励、グループワークか

らの提案や報告の義務化、活動自体を高く評価するマネジメントを盛り込むことが有効と

考える。そして、良いものはとりあげるとの実例をつくり増やすことで文化として育成さ

れるものと考える。 ⑥ 既存文化を足場とする これは、組織内部での障壁を低くするために非常に重要であると考えられるが、とりた

てて大きく表明すべきマネジメントでないと考える。このような行為は、ある種当たり前

の適正な視点であること、そしてこの概念をあえて意識することにより思考の幅を狭めて

しまう可能性があるということが懸念されるためである。ただ、このような既存文化を足

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場とする考え方は成功のパターンのひとつとして認識されるため、過去の成功・失敗事例

の発見、事例の持続的共有化としてマネジメントすべき内容であろう。 ⑦ 推進活動ペースを調節 コミュニティは自主的な目標設定が必要であると同時にスケジュールは自己管理が必要

である。活動がフォーマルであればビジネス連動性がより強いため、活動に対する支援も

期待でき、価値の理解や成功失敗の理解もわかりやすい。いずれにせよ、自発的なコミッ

トメントが活動を促進するとの観点に立てば、自発的スケジュール調整は有効であろう。

ただしこれは、自主的な提案書提出の段階で自発的なスケジュールが盛り込まれていれば

よいが、スケジュール促進および阻害要因の記載、考察は不可欠である。つまり、予測的

行為としての仮説構築、そしてリスクが織り込まれている計画であることは不可欠であり

マネジメントが必要であると考える。 以上から、コミュニティに必要な機能とマネジメントを図表にまとめることとする。図

に示すように、ナレッジ・マネジメントは文化による支援が無ければ十分機能しない。ま

た、様々な活動がビジネス目標と連動していなければならない。そして、個々のマネジメ

ントや仕組み、ルールがビジネス目標とリンクしているかどうかを評価する機能が不可欠

であると理解できる。また本文献は、“学習と持続的相互交流”が非常に重要であると主張

しており、そのための機能およびマネジメントも図表に示した。

図表3 “コミュニティ・オブ・プラクティス”からのインプリケーション

ナレッジ・マネジメント

学習・持続的相互交流

企業戦略・企業文化

ビジネス目標

活動成果の測定・評価機能

? 知識活用の重要性を理解

? 学習、対話の場の存在

? 学習すべき知識の明示

? 知識と戦略の合致性を評価

? 個人の利益とコミュニティの利益の同化

□ 評価システム

? 提案文化・ルール・仕組み

? 多様性許容文化・ルール・仕組み

? 変化許容文化・ルール・仕組み

? 実践主義、活動を高く評価

? 権限委譲の文化・ルール・仕組み

? 他者支援の文化・ルール・仕組み

? 外部活用の文化・ルール・仕組み

? 幅広い体験の場

設計指針

? インフォーマル・グループワークの奨励

? 成功・失敗の分析と共有化、およびベンチマーク発見活用

? コミュニティの活動目標と存在意義の表明

? 仮説検証型推進、思考

? リスク織込みプランの立案、推進

? 自発的コミットメント

(出所)文献を参考に筆者作成。

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■ 事例研究分析からの示唆 日本IBMナレッジコラボレーション・コンサルティング・グループ[2000]によれば、企

業が常に持続的に競争力を持つためには、企業内の全ての人々が個人として持つ知識をい

かに組織として共有し利用できるかが重要で、いかにして効果的な知識創造へとつなぐこ

とができるかであると述べており、ナレッジ・マネジメントが企業価値向上の為には不可

欠な要素であると示唆している。また、ナレッジ・マネジメントの 終目標とは、知識の

共有を実現した上で、その知識を理解・吸収して、新たな知の創造を可能にする仕組みを

作り上げることにあるとの認識を示している。さらにナレッジ・マネジメントは企業競争

力強化に繋がる様々な効果をもたらすことができるとし、知識共有の範囲と知識交換協働

作業の頻度の視点から、①応答・ビジネススピード、②生産性・効率、③革新・創造、④

コンピテンシー、の4つの効果を示している。そしてこのなかで、フォーチュン 30 社への

質問を通じ、知識共有による効果として平均 30%の生産性向上が得られるとの結果を示し

ている。そしてナレッジ・マネジメントを上手く推進するには、①知識の可視化、②知識

基盤の構築、③知識密度の強化、④知識共有文化の醸成 の4つの課題の克服が必要であ

り、ナレッジ・マネジメント成功の要因としては、①ビジョン・戦略、②共通の価値観、

③組織、④プロセス、⑤技術、⑥コンテンツ、⑦評価・インセンティブ、⑧行動・リーダ

ーシップ、の8つがあるとしている。これらを見ると、戦略やビジョンなど企業文化や方

向性を示す行動や思考のガイド的機能の重要性と、実際の活動を規定、構築する具体的な

方法論の重要性、そして持続的活動を支える評価機能の重要性が見て取れる。つまり、自

発的な活動が創出可能な場の設計要因という視点でみれば、大きく、場を支援ガイドする

階層と、知識の集約や融合を具体的に推し進めるオペレーションの階層、活動および成果

を測定、評価する階層の3つの階層があると理解可能である。

“IBMのナレッジ・マネジメント”からのインプリケーション

知識オペレーション機能

知識の集約

知識の融合

活動成果の測定・評価機能

場の支援ガイド機能

(出所)文献を参考に筆者作成。

図表4

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ただ、本文献では、それぞれの項目はバランス良く推進すべきであり、もっとも低いレ

ベルの要因に制約されうることに言及しているが、それぞれがどの程度の重みを持ち、ど

のように関係づければよいかには議論が及んでいない。よって知識や知識媒体間の相互関

係そして知識移転の流れを理解することがより必要であるとも理解できる。 従って次項では、組織やコミュニティの機能、必要要素だけでなく、知識に対する動的

な考察、つまり知識フローや相互関係などの視点で文献をレビューすることとする。 第3項 ナレッジの移転と連鎖

Wenger et al.[2002]によれば、ナレッジ・マネジメントとは、文脈で語られ理解される

ものであるとしている。つまりこれは、一つ一つの事例をストーリーとして理解すること

重要であり、単なる成功要因に目を奪われてはいけないということを示唆するものである。

これまでの文献では、ケースなどを通じてそれぞれのマネジメントを厚い記述により理解

してはいる。そして 終的には、共通項目としての成功要因を抽出し、示唆として記述を

試みている。 しかし、文脈による理解が重要である以上、単純な成功要因、それも機能

のみに着目した理解だけは不十分であると考えられる。 また、原田[1999]も主張するように、それぞれの知識の担い手(社員、顧客、組織、チー

ム、経営者、外部、内部)のインタラクションを理解し、それぞれの繋がりの濃淡を分析

することは、本来文脈として理解されるべきナレッジ・マネジメントというものを組織や

コミュニティの保有すべき設計条件やルールとして表現する上で不可欠な要素と考えられ

る。よって以下では、知識移転フロー・ナレッジ連鎖・相互関係性に注目した二つの文献

をレビューし、ナレッジ連鎖や知識移転フローを設計要因に織り込むことが重要であるこ

とを理解することとする。 一つ目の文献、斎藤他[2004]では、ナレッジ・マネジメントにおけるネットワークの重要

性を指摘し、ナレッジ連鎖に着目したモデルを提唱している。また、二つ目の文献、原田

[1999]では、外部・内部における知識のインタラクションの重要性を指摘し、知識移転が効

果的に行われるための要因を三段階の知識フローモデルを用いて実証している。 ■ ナレッジ連鎖モデル 斎藤他[2004]は、有用な無形資産である“知”を、連鎖的に移転・共有化させ、これを効

果的にマネジメントしていく仕組みを明らかにしようとしており、3つのコア・プロセス

と6つの知識移転による「ナレッジ連鎖モデル」を示している。斎藤他[2004]はまた、知識

の集約・知識の相互交流そしてこれらによって価値を生み出す仕組みの重要性を指摘して

おり、そして組織内部だけでなく外部との知識移転を特に強調するものであった。以下で

はこのナレッジ連鎖モデルについて、ナレッジ・コミュニティに必要な機能およびマネジ

メントという観点で見ていくことにする。

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<コア・プロセス> ① 暗黙知共有プロセス このプロセスは、個人からチームへの知識移転(知識移転Ⅰ)、そして外部からの知識移

転(知識移転Ⅴ)を源泉として成り立っている。つまりこのプロセスは、個人の参加・貢

献そして外部からの知識を直接導入する特別な仕組みの重要性を意味するものである。そ

して も基本的かつ重要な要素として“対話の場”の重要性を示唆するものである。 本文献では、このプロセスが上手く機能するためのトリガーとしては、挑戦的な目標の

明示、そして権限委譲、つまり自律許容の文化・マネジメントが不可欠であるとしており、

この二つの要素が共存することが必要としている。さらに多様なメンバーによるチームが

必要としている。よって、必要な機能・マネジメントとは、個人学習、外部知識の移転機

能、対話の場、頻繁な対話、多様な人材、挑戦的目標設定そして権限委譲と理解できる。 ② コンセプト構築プロセス これは Nonake and Takeuchi[1995]による、コンセプト構築およびコンセプト正当化プ

ロセスの両方を含むプロセスである。コンセプト構築段階での重要要素とは、企業の目標

や顧客ニーズに照らし合わせた対話をすることであり、コンセプトを創るという意図のも

とで対話を繰り返し、コンセプトを目標達成につながる形に創造していくプロセスであろ

う。そしてまたここでは暗黙知だけでなく基礎的な情報としての形式知を収集活用するこ

とも必要であろう。このプロセスは、①の暗黙知共有プロセスと同時並行で起こる可能性

もあり、この二つのプロセスは同じアウトプット時点にむかってコンカレントに推し進め

られるものと認識できる。ここでの重要機能としては、知識の継続的収集にくわえ対話に

よる知識の融合および新たな知識の創出であろう。そして も重要なものは、対話を方向

づけるようなテーマや目標などのガイド機能が不可欠であるといえる。このガイド機能に

ビジネスとの連動度合いなどの視点を用いれば、ビジネス整合性を評価しながら活動を促

進・修正させる役割も担っている。 ③ プロトタイプ開発プロセス このプロセスは具体的なものに仕上げるという段階である。ポイントとなるのは、構築

されたコンセプトや共有化された知識をいかに形式知化していくかということであり、そ

してプロトタイプを用いることにより価値判断基準が共有化されているかということであ

ろう。またプロトタイプを創るという組織的な意図や仕組みが存在するかということも重

要な要素であるといえる。本文献では、チーム活動、組織活動、外部コミュニティでの活

動における有効なトリガーは、知識戦略とのマッチングを示すこと、研究開発から販売ま

での幅広い分野のメンバーの参加そしてチームのメンタル・モデルを共有するコーディネ

ーターの存在、リード・ユーザー等を使った仕組みであるとしており、特に外部でのプロ

トタイプの開発は困難を伴うものであると主張されている。これには個人学習を促し参加

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を促する対話の場の設立・運営が重要であると考えられ、特に外部のコミュニティに対し

ては、金銭的・精神的は問わず何らかのインセンティブを仕組みや文化の一部として組み

込むなどのコミュニティのマネジメントに工夫が必要であると考えられる。よって機能と

して必要なものとしては、対話の場そして事業包括的な多様性を兼ね備えたメンバー構成、

メンタル・モデルを理解したコーディネーター選出であり、プロトタイプ開発を促する文

化やマネジメントが基盤もしくは何らかの外部に対するインセンティブが必要と考えられ

る。またこのプロトタイプの存在は、対話により創出したチームとしての暗黙知を他のチ

ームや内部外部間に橋渡しするという重要な形式知となるため、良好な知識移転を行うに

は非常に重要である。 <外部内部の知識移転> ① 知識移転Ⅰ(個人からチーム)

この移転を促進させるには、対話の場が必要である。この対話の場の条件に関しては、

前述の Nonake による文献を引用し以下の様な項目を示している。 <対話の場の条件> □ 独自の意図、目的、使命感をもった自己組織化されたもの □ 場の目的にコミットし、場に生起するイベントに積極的に関与する □ 内側と外側からの二つの視点を同時にもつ □ 参加者が直接体験できる □ 物事の本質に関する対話が行われる □ 参加者が自由に出入りし、共有された文脈が絶えず変化していく □ 形式知を実践を通じて自己に体化できる場 □ 異種混合が行われる □ 即興的な相互作用が行われる ② 知識移転Ⅱ(チームから組織) チームによるプロトタイプを組織暗黙知に移転するフローである。この知識移転を促進

するトリガーとしては、チーム暗黙知を形式化して組織に知らしめるためのプレゼンテー

ション・提案が重要となろう。尚、プレゼンテーション・提案は、資源獲得・組織化のよ

うな大きな力が必要な段階へステップアップする為に不可欠な要素と考えられる。よって

この知識移転に不可欠な要素として、幅広い組織構成メンバーつまり事業包括的なメンバ

ー構成が挙げられる。 ③ 知知識転Ⅲ(組織から顧客・外部) 組織から創出されたプロトタイプ等の形式知を顧客・外部の暗黙知へ移転するフローで

ある。この知識移転を促進するトリガーとしては、モニターやリード・ユーザーとのコミ

ュニケーション活動を通じた体験の提供などが挙げられよう。

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④ 知識移転Ⅳ(顧客・外部から顧客・外部コミュニティ) 顧客・生活者など外部のメンバーから外部コミュニティへの知識移転である。この知識

移転の為には、まず外部コミュニティの存在自体が必要であり、そのコミュニティ内で暗

黙知共有、コンセプト構築、プロトタイプ開発のプロセスが推進されることが必要である。

また、そのコミュニティに意図的に関与することも必要であるが、必要以上の関与はコミ

ュニティの自律性を損なわせる。コミュニティの構築・運営を主体的に進める事は重要で

あると認識するが、自律性を存続させるためにはコミュニティ活動の結果にではなく、コ

ミュニティ活動の持続性のみに何らかのインセンティブを与える程度が良く、必要に応じ

てテーマなどを投げかけ自発的な解を発見させるべきである。 尚、コミュニティは構築

するだけでなく発見されたコミュニティを活用しても良いと考える。ここで言う外部のコ

ミュニティとは、顧客集団だけでなく、技術集団や業界、経営関係集団、法律・政治集団

であってもよく、特に、大学・企業などの技術集団については、その有用性は高く、これ

らとの対話の場を設置し目的目標の設定など、コミュニティ・マネジメントを行うことが

重要となろう。 この移転が効果的に行われる為のトリガーに関して、本文献では自身による場の設置・

運営を実施、コーディネーターの存在、自由な会話を行いながらその集団のコンテキスト

を創造するカタリストの存在、場の宣伝活動などをあげており、さらに知識移転を促進す

る機能としては、具体的なコミットが自発的に得られる機能そして意見・評価・要望を継

続的に観測・分析する機能が必要であるとしている。結局、外部コミュニティを認識する

こと、そして外部コミュニティ・メンバーの情報収集・知識創出といった活動が何らかの

インセンティブとリンクされ、正当な評価がなされるという信頼感を創出することが重要

と考える。以下に、この移転が効果的に行われる為のトリガーと考えられるものを示す。 ☐ コミュニティを自社で構築、運営もしくは既存コミュニティの活用 ☐ テーマの投げかけや、対話活動を促するインセンティブの設定 ☐ コミュニティ内のコーディネーターやカタリストとの対話 ☐ 多様な情報が集約され、コミュニティ総意として抽出される評価、検証の仕組み ☐ 口コミなど含め、場の認知活動のサポート

⑤ 知識移転Ⅴ(顧客・外部コミュニティから組織) これは、外部コミュニティから組織内への知識移転つまり外部知識の導入である。外部

コミュニティとして顧客コミュニティをイメージすれば、組織からのプロトタイプ提案と

いうプロセスから始まるものであり、顧客コミュニティがこのプロトタイプを受け入れ新

たなプロトタイプを開発するというプロセスが不可欠である。よって、本質的な知識移転

を促進する要因は知識移転Ⅳと同様であると考える。また本知識フローは、組織における

事業機会の認知そして資源獲得・組織化に大きく影響を受あたえる可能性があり重要な知

識移転であると考える。また本文献は促進トリガーとして、顧客コミュニティへのテーマ

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の投げかけそして顧客コミュニティからのプロトタイプの照合・評価が重要であるとして

いる。しかし、大学の知識や業界、経営知識、法律知識、様々な問題に関係するステーク

ホルダーからの知識移転も不可欠であり、これにはインフォーマルなグループワークや小

規模のコミュニティが重要となろう。そして勿論この知識移転には外部コミュニティへの

組織メンバーの積極的参加が不可欠である。よって、大学など外部機関との共同ワーク、

インフォーマルワークや個人的なつながりをトリガーとして認識することが必要であろう。 ⑥ 知識移転Ⅵ(外部環境から個人レベルへ) 本文献でこの知識移転は、顧客コミュニティで創出されたコンセプトやプロトタイプを

組織内の個人に移転するプロセスであるとしているが、ここでは外部コミュニティが創出

したものだけでなくこれらが影響を与えた社会環境からの知識移転も含めるものと考える。

つまり社会とは個々人に影響を大きくあたえるものであるため、この知識移転は社会環境

がもたらす知識の個人レベルへの移転を促がす知識フローと認識できる。よってこの知識

移転は、ある種の個人学習であり、社会認知力の問題でもあると考えられる。本文献の主

張としては、外部との交流を活発化させれば外部と内部との比較検討から課題を発見する

ことが可能であるとし、またこの知識移転は、組織や全社戦略の変革を促進するものであ

ることが望ましいとしている。よってマネージャークラスなど一定の責任を有する層によ

る外部交流が重要であると主張している。 知識移転ⅤとⅥの違いについて、本文献では、知識移転Ⅴが既存の組織の枠内で継続的

な外部環境との対話により変革を創出するものであるのに対し、知識移転Ⅵはナレッジ・

ビジョンの開発やナレッジ・マネジメントの仕組みの開発にもつながる全社に影響をあた

えるものであるとしている。つまり、この移転を支えるコミュニティの機能としては、市

場環境との対話機能そして組織への知識浸透機能の二つに集約できると考える。そしてト

リガーとしては、外部知識の報告の場などがあるか、社長や幹部からの意図があるかなど、

報告必然性(アウトプット促進マネジメント)を伴う組織の意図が重要であると理解でき

る。また、知識移転Ⅰとも関連することであるが、この知識移転Ⅵは社内のフォーラムや

社長からのメッセージなどを通して社内に注入されたりするため、各部署の課題や方向性

を明確化して全社で共有していくことが重要であるとしている。重要なのはニーズ・シー

ズを認識し、知識移転Ⅵの知識を暗黙知化して知識移転Ⅰに繋げることである。そしてこ

の移転媒介者がより経営陣に近い場合、ここで移転される知識は組織統制力が付与された

大きな力をもつ知識ということになる。 以上、ナレッジ連鎖モデルとトリガーを次ページの図表に示す。

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(出所)文献を参考に筆者作成。

■ ナレッジ・インタラクション 原田[1999]の基本的命題とは、トランスフォーマーと本文献で呼ぶ特定の組織メンバーが

この情報・知識のやりとりの中で決定的に重要な役割を果たしており、彼らを中心とした

コミュニケーション・ネットワークのマネジメントこそが技術革新を組織内で促進するた

めの主要な要因となる、というものである。研究開発型企業を対象にした実証研究である

本文献は、外部情報を内部に移転する3段階のフローを指摘するものであり、外部から情

報をもたらすゲートキーパーとゲートキーパーからもたらされる情報を組織内部に浸透さ

せていくトランスフォーマーについて言及するものであった。つまり本文献では、知識創

造が必要な活動においては構成メンバーが自発的に獲得してくる情報・知識が主要な地位

をしめており、これらの知識の獲得にはインフォーマルに形成された人的ネットワークを

通じておこるナレッジ・インタラクションが重要な手段となっており、分析対象とすべき

概念であると主張するものである。また、ナレッジ・インタラクションの特性および個人

レベルでの学習成果との関連性の検討から、組織とメンタル・モデルを共有し情報浸透に

たけたトランスフォーマーの存在が重要であるとしている。そして、競争戦略上、重要性

を高めつつある組織外部での情報収集活動に焦点をあて、外部から情報をもたらす、ゲー

図表5

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トキーパーとそれを受け継ぎ組織内に浸透させるトランスフォーマーという二つの人的機

能の存在を示している。 この二つの人的要素がコミュニティに存在しているかどうかであるが、本文献でも指摘

されているように、この二つの要素にはキャリア連続性が確認され企業内部での長い期間

を通じた育成が不可欠である。このため、組織にはこのような人材を育てる、育成の文化

や戦略の存在が必須となる。本研究のコンセプトである、コミュニティによるマネジメン

トという概念を用いれば、内部の人材の行動は文化や戦略で意図的に育成される可能性も

あるが、本研究では知識創造はコミュニティに存在する機能とルールでマネジメント可能

であるとの立場にたっているため、ここでは人的要素として不可欠な要因をコミュニティ

の必要機能として捉えることとする。従って、知識創造活動を行うコミュニティには、①

情報収集機能、②情報伝達機能、③知識転換機能の三つの機能が必要であると理解できる 第3節 ナレッジ・コミュニティに必要な機能構造 以上の先行文献レビューを集約し、ナレッジ・コミュニティの設計に必要な機能をまと

めることとする。上述したように個人が収集可能な情報が増え、個人が中心となり知識を

創出する可能性が増している。組織においても、個人を活かす活動に注目しつつあり、ナ

レッジ・マネジメントもその一つの潮流である。諸文献によれば、個人の知識を活かすに

はいくつかの活動が必要であるとわかる。これをナレッジ・マネジメントと言う観点でみ

ると、重要なのは“知識の集約”だけでなく“暗黙知の共有化”そして暗黙知の共有化か

らの“新しい知識の創出”が必要であるとの主張が中心であった。そして、この個人の知

識から新たな知識を創造させる段階で大きく問題となるのは、多種多様な領域の個人知を

集結させ大きな力とするには、学習の方向性を統制する必要があるということである。 従

って、個人の知識の集まりは莫大な量をほこり、そして多様な個人の知識の集約体は大き

な可能性を秘めているといえるが、ばらばらな方向を向いている学習は大きな力にはなり

にくい。 つまり、知識の集結が不可欠ではあるが、多様性と集約という明らかに矛盾し

た二つの方向性に対する学習統制のマネジメントが必要である。この相反する要素のマネ

ジメントに対してレビューした文献のほとんどが“文化による統制”と“ビジネスなどの

具体的な共同目標に沿わせた知識統制の重要性”を主張している。これらのことから、ナ

レッジ・コミュニティに必要な主機能としては、多様で莫大な知識を集結し、そして集結

させた知識を融合させ新たな知識を創出するという、「ナレッジ統制の機能」、そして、知

識習得や知識融合を促し、知識をある方向に集結させ組織の力とするための「支援・ガイ

ディング機能」、コミュニティの自律性・自己変革性、学習方向性やコミュニティの状態を

しるための自己認識性、これらを高めるために不可欠な「評価機能」の三つに分類できる

と考える。特に「評価機能」に関しては、信頼構築、学習を促進させるものでもありかつ

文化や戦略との整合性をコミュニティ要員に理解させるものでもある。その為これはガイ

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ド支援・ガイディング機能に含まれる概念といえる。また、「ナレッジ統制機能」に関して

も、後述するようにコミュニティにおけるナレッジ・マネジメントの中心が“対話の場”

の設定であることを考えると「ナレッジ・マネジメントの場としての対話の場」と言い換

える事が出来る。従って「支援・ガイディング機能」には「文化戦略による支援・促進」

そして「評価システム」が含まれることになり、また「ナレッジ統制機能」の場である“対

話の場”の内部には、①知識集約機能、②知識融合機能、③知識加工機能、の三つの機能

が含まれると考えられる。 しかしこれらの機能がコミュニティに付与されればそれだけでナレッジが上手く活用さ

れ、新しい知識がうまれるのではない。これらの機能はそれぞれが有機的に結合され、そ

れぞれがそれぞれを補完・促進するように連結されていなければ、持続的な知識創出は不

可能であろう。そして、これらの機能場には十分な知識が流れ込んで始めて稼動すること

が可能となる。つまり、“機能と機能の連鎖”そして“知識移転”が十分存在することが基

盤となる。また、文献レビューで明らかにされた大きな概念の一つが“個人の学習促進と

対話の機能”であったということを考えると、これらが文化や戦略により方向付けられそ

して適正に評価されることによってのみ、個々人の信頼そしてコミュニティへの信頼が構

築されるのである。従って、学習と信頼を促進する“評価機能”の重要性が浮き彫りにさ

れたと言える。以下では、ナレッジ・コミュニティに必要な機能についてより詳しく考え

ていくことにする。

■ ナレッジ統制機能(対話の場) ① 知識集約機能 これは組織外部・内部からの多様な知識収集機能であり、文化や戦略などのガイドに照

らし合わせ選択的に収集可能とするものである。そしてここには、個人の学習を促進し知

識を集めることを喜んで行うための何か(仕組み、意図)が必要である。従って、ここで

のキーワードとしては多様性、内部外部からの知識収集、喜んで学習する仕組み、が挙げ

られる。特に喜んで学習する仕組みとしては、コミュニティへの参加自体がインセンティ

ブとなるケースがもっとも好ましいと考えられるが、本研究では大きくコンセンサス型(無

形)および金銭報酬型(有形)の二つのインセンティブタイプに分類する事とする。 ② 知識融合機能 これは、知識の浸透・知識の共有化のための機能である。知識の融合を高度にするには

メンバーの多様性や、時間的、空間的な障壁のない対話の機会をもたらす場が必要である。

そしてこの融合には、無駄な行為を奨励し、競争させる、あるいは遊びの要素が必要と考

える。従ってここでのキーワードとしては、信頼関係、可能性探索奨励、情報発信に対す

るインセンティブ、高い目標、収集知識の質、チームとしての評価、質問文化、模倣のた

めのベンチマーキング分析等が考えられる。

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③ 知識加工機能 これは Nonake and Takeuchi[1995]が主張するところの、コンセプト構築、プロトタイ

プ開発に相当するものである。この機能を促すには、アウトプットをすることの奨励、そ

して具体的な目にみえる形にすることで次のプロセスステップに移行し易くしたり、ある

いは満足感や資金などの獲得が容易になるなどのモチベーターが必要と考える。従ってこ

こでのキーワードとしては、アウトプットを高く評価もしくは義務化、明確な判断指標、

コンセンサスによる評価、プロトタイプなど形にしたことを高く評価、等が考えられる。 以上の三つの機能すべてで必要なのが、活動の目指すべき目標、活動の評価であり、こ

れらは次に述べる精神的・資源的な支えを得る為の文化・戦略による活動ガイディングそ

して評価機能である。 ■ 支援・ガイディング機能 ① ガイディング機能 ガイディングとは、活動に対する精神的・資源的な支援だけでなく活動の方向性を指し

示す戦略や文化などを含む概念である。またこの機能には、支援の一貫としてビジネスプ

ラニングの教育なども含まれるべきと考える。この様にナレッジ・コミュニティを支援・

統制する要素としては企業文化および戦略などが中心として考えられるが、その他インセ

ンティブ、夢(モチベーター)、トップのコミットメント、ルール、行動規範のようなもの

があると考えられる。これらは個人の学習を促進し、知識を共有化そして新たな知識を生

み出すためのモチベーターとして存在する。そして、文化や規範などの抽象的目標値、戦

略などの具体的目標値を設定することにより、より行動が促進されるものと考える。この

ように、ガイドや支援となる概念を設定することにより、より安心して活動が行え、活動

が他者の活動とリンクし強大な力が生まれる可能性が向上する。つまり、学習や行動にお

ける組織的阻害エネルギーが低下するといえる。 また常に比較対象となる指標が存在す

ることとなるため、自分の状況を客観的に判断することが可能となる。 そしてこの様に

他者と関連した活動となるため、成功したときには大きな賞賛がえられ、さらなる学習へ

のコミットがうまれると期待できる。 ② 評価機能 この機能は、コミュニティ内部での評価と外部での評価に分類できると考えられる。本

研究が注目している自発的な組織体としてのナレッジ・コミュニティにおいては、内部で

の評価機能が重要であろう。通常、コンセプトやプロトタイプ、ビジネスプランなどは顧

客や諮問組織、投資家などからの高評価によって推進の意思決定は後押しされるため、外

部からの客観的な診断は不可欠なものとなる。しかし、外部評価にのみ頼り自己判断を停

止してしまう状況は心理学等も後押しする現象であろう(アロンソン[1995])。よって、新

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たに創出された製品やビジネス・知識に対しては、自己診断できる機能が不可欠である考

える。このような内部型の評価システムにおいては、できるだけ客観的な判断がなされる

ことが重要であり、これは 終的にコミュニティ内部での信頼関係に繋がるものと考えら

れる。 よって、評価機能の有無・強弱の理解のみでなく、内部型評価システムと外部型

評価システムを共に機能させることが重要と考える。

また特に知識創造に関しては、評価結果に対するインセンティブの有無も重要な要素と

考えられる。先行文献では、インセンティブとしては金銭的報酬より名誉や信頼感の向上

を採用するほうが成功事例として多いと主張していたが、知識創造活動自体はグループ的

活動であると考えれば、個人的な報酬ではなくチーム報酬という形であれば金銭的報酬は

効果があると考える。またこれらの金銭的報酬としては、株式などによる報酬であっても

よく、ストックオプションなど個人的利益と組織的利益とつながる形のものはガイディン

グ要素の一つである“夢”とマッチングし有効な仕組みであると考えられる。また、評価

を明確にするということは、活動の是正を逐次確認することができ、前述のガイディング

効果を高めるものと理解できる。つまり、評価はモチベーションを向上させるだけでなく、

活動方向の妥当性を確認しながら推進できるという意味で、本研究が目指している“個人

の知識をベースとしたナレッジ・コミュニティによる知識創出・新事業創出”の促進が期

待される。よってこの評価機能とは企業パフォーマンスの向上にも大きく影響を与えるも

のといえる。 以上の観点からこの評価機能とは、他の機能との相互関係性が非常につよい重要な機能

であると仮定でき、コミュニティ設計因子はすべてこの評価機能とリンクしていることが

重要であると考える。 ■ 知識移転(ナレッジ連鎖) 上述した各機能は、流れ込む知識の濃淡により大きく有効性が変化するものであろう。

そして、知識の移転がスムースであれば、学習に対する組織的・社会的理解も増し、個人

のやる気を促進しさらなる学習を促すことが可能となる。つまり、この知識フローの濃淡

の理解は、コミュニティ組織の有効性を理解する重要な指標であると考えられる。 以上、ナレッジ・コミュニティに必要な機能および知識移転を考えてきた。以上を取り

まとめて、ナレッジ・コミュニティのフレームワークを以下に示すこととする。

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ナレッジ・コミュニティ

ナレッジ・コミュニティのフレームワーク

ガイディング機能

促進

方向付け

動機付け

(出所)筆者独自に作成。

意図・仕組み・インセンティブ

コア・プロセス ナレッジ移転

内部

ナレッジ統制機能

ナレッジ・マネジメント

ナレッジ集約機能

ナレッジ融合機能 ナレッジ加工機能

促進

観測

自己補正

外部

ナレッジ集約機能

ナレッジ融合機能 ナレッジ加工機能

ガイディング機能

評価システム外部環境

個人

チーム

組織

外部組織

外部個人 キーファクター

■ビジネス連動

■コンセンサス

■基準明示

以上の議論からナレッジ・コミュニティが知識創出を可能とし上手く機能するための標

準的な仮説を以下にしめす。 □ 対話場の存在と十分な対話の存在が知識創造には不可欠である □ 各機能、知識移転の断絶がなく、評価機能がそれらとリンクづけられている。 □ 個人学習が促進されるマネジメントが行われている。 □ 個々人間、コミュニティへの信頼構築が育成されている。 □ コミュニティ参加の理由と学習促進がリンクしている。 □ 外部ネットワーキングの多様性と外部との活動が十分存在している。 □ インフォーマルの活動が十分存在している。

以上のような標準的な仮説領域の中でも、本研究では次の3項目に対し明らかにしたい

と考える。一つはコミュニティ構成要素である“機能・知識移転が業績と開発にどのよう

に影響を与えるか”について明らかにすることである。二つ目は先行文献でも指摘されて

いるように信頼構築を行うことが 重要項目のひとつであり、“信頼構築を生み出すより具

体的なナレッジ・マネジメントを明らかにする”ことである。そして三つ目は企業内そし

て外部との知識創造活動であるグループ活動において、“非公式の活動が非常に効果的であ

る”との指摘を検証しようとするものである。尚、様々なナレッジ・マネジメントが企業

パフォーマンスの向上に関係しているとの前提に本研究は立っているが、それぞれのナレ

ッジ・マネジメントのみを設定すれば上手く知識創造が行われるわけでは無いだろう。よ

って本研究では、ナレッジ・マネジメントを有効とするような補完的な“促進マネジメン

ト”を理解することが重要との視点に立ち、ガイディングとしての“意図、仕組み、ビジ

ネス目標連動の評価、インセンティブ”という項目の効果を理解することが重要と考える。

図表6

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第3章 新規事業開発プロセスとナレッジ・コミュニティ機能要因の結合 第1節 はじめに ベンチャー・起業・新事業・新製品の開発についてのフレームワークレビューと成功要

因についてのレビューを行う。レビューに当っては、本研究の目的が、知識活用による新

規事業開発であることを考慮して、レビュー各所で知識活用との関連にも注目した。新規

事業創造とナレッジ・コミュニティの機能との関係に関しては、本章後半で取りまとめる

こととする。 第2節 新規事業開発に関する文献レビュー 第1項ベンチャー企業創出プロセス

日本のアーリーステージでのベンチャー企業の研究から忽那他[1999]は、事業創造プロセ

スを潜在的なアイデアからその事業化までの発展のプロセスとしてとらえ、この過程で起

業家がどのような行動を行って必要な資源を獲得するかに焦点を当てる立場をとり、中核

となる企業家は、事業創造のあらゆる局面で試行錯誤を繰り返して発展の可能性を探って

いると主張している。そして、事業創造のプロセスである①事業アイデアの獲得、②事業

コンセプトの醸成、③事業計画の作成、④資金・技術の獲得、⑤人材獲得・組織編成の5

つのフェイズをもつ一連のものであると考え、これらのプロセスにおいては、企業家のさ

まざまなネットワーキング活動を通じて人・金・物・情報という経営資源を獲得している

としている。また、このネットワーキング活動とは、事業創造プロセスにおける学習活動

であるとの考えを示している。つまりここでは、前述のナレッジ・コミュニティに必要な

要件として、経営資源へのアクセスを可能としかつ試行錯誤の場を内包することが必要と

理解できる。 ■ プロセスの特徴 上述したプロセスに関する日本のベンチャー企業に対する実証研究結果からは、事業を

上手く進めている創造プロセスには以下に示す特徴があると指摘している。

① ネットワーキング活動は、事業を具体化していくフェイズよりアイデアの獲得フェイ

ズで重視されるべきである。その際、自らの事業に対する仮説をもとにネットワーキン

グ活動の目的を明確にして参加し、それを通じて得た情報を事業創造プロセスでの知的

な作業に活用できるかどうかが鍵となる。 この事は、本研究が対象としているコミュニティ活動においても同様に重要であり、ナ

レッジ・コミュニティでは人・金・物・情報へのアクセスを通じて創造性の高い知的創造

活動が行われるよう、仮説を立てるために不可欠な知識習得的学習と自発的なコミットメ

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ントを達成するような強い個人意志が不可欠であることが示唆される。

② 環境変化そして事業の成長にともなう規模の拡大によって、戦略や組織は変革に迫ら

れることになり、自らの事業を柔軟に捉え直す必要がある。その際、企業家自身の過去

の経験、特に失敗の経験が、事業の再定義に活かされる必要があり、独善的にならない

ように外部情報を参考にしてアイデアを温める必要がある。 つまり、ナレッジ・コミュニティに必要な要因として、企業の成功失敗経験が共有化さ

れ、かつ自己変革が可能な柔軟性・仕組みが不可欠といえる。また、同文献では、短期間

で資源を集中的に組織化している傾向があると主張されていることから考えれば、知識フ

ローの速度やすり合わせの頻度が十分であることが必要要素であると理解できる。さらに、

それぞれのフェイズは逐次的に推進されるのではなく、互いに有機的に関連していくこと

が必要との文献示唆から、コミュニティに必要な要件としては、各機能場に対し時間空間

的に制約が少なくアクセス可能であることが必要と理解できる。 ■ ネットワーク 忽那他[1999]は、創業段階のベンチャー企業にとって、不足する経営資源を補うための情

報探索活動においてネットワーキングが非常に重要であると指摘している。また、多様で

密度の濃いネットワークの存在は、それだけ起業家の経営資源獲得の確率を高め、起業を

容易にすることが可能であり、起業家にとってネットワークが経営資源獲得の決定要因と

なる意味で、非常に重要であるとも主張している。さらに、いくら起業家がネットワーク

を広げる努力をしたとしても、そのネットワークが十分機能的であるとは限らず、起業に

対する理解や経験・共感が社会に浸透しはじめて、ネットワークが起業家にとって有益な

ものとなるのであり、なかでも失敗の蓄積とそれが許容され評価される段階に至るかどう

かが重要であるとの見解を示している。また、起業家が経営資源を獲得する際、個人的ネ

ットワークがよく利用されていることにも言及している。とすれば、ナレッジ・コミュニ

ティにおいても、参加者の相互関係性が重要であり、それぞれの知識が経験を通じて理解・

共感されるプロセスを内包することが大きな意味をもつことが理解される。また、知識の

ベースが個人学習を 小単位とすることからも、個人の学習を中心として、それを組織へ

効率的に移転することもっとも知識創造に効果的であると考えられる。 以上の議論から、ベンチャー企業創造活動における成功要因は以下の様にまとめられ、

そしてこれらは、2章で示したナレッジ・コミュニティ内のマネジメント要素と合致する

ものである。

☐ アイデア獲得のためのネットワーキング活動が十分なされている。 □ 情報資源へのアクセス可能性が十分である。

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□ 試行錯誤の場が内包されている。 □ 仮説立案のための個人学習と個人のコミットがある。 □ 失敗、成功事例の知識が共有化されている。 □ 自己変革可能な仕組みを内包している。 □ 知識移転の速度、頻度が高い。 □ 個人のネットワークにより経営資源の補充、補完がなされている。

第2項 起業活動のフレーム 高橋[2000]は、中小企業の起業事例をもとに起業の為のフレームワークと起業活動を支援

する要素を示している。具体的には、起業活動を①事業機会の認識、②経営資源の調達、

③ビジネスシステムの構築、の三つに分類し、起業活動を支えるものとして、①創業者、

②創業者の人脈、③社会・経済・経営環境、④運・偶然、の四つを示している。 事業機会の認知に影響を与える支援要因の中で、特に重要なものとして③社会・経済・

経営環境、と①創業者をあげ、他の要因もそれぞれ大切としながらも事業機会認知には間

接的な影響しか与えていない、つまり創業者を通じて具現化されるとしている。しかし、

技術革新が必要な場合や新たな知識が知人からもたらされることも多く、技術革新など共

同ワークの結果生まれた資源を基にする場合など、多くのベンチャーや製品開発などでは

創業者の人脈も重要な要因である場合が多いと考える。また、事業機会の認識には直感的

な要素もかなり含まれており、実際に始めるには事業機会の評価が必要としている。そし

て、評価に際しては、①産業・市場に関して、その成長性や市場構造、②事業の収益性、

例えば投下資本の大小や粗利益率、増加運転資金の大小、③競争優位性の構築、④退出の

容易性と事業の換金性、⑤事業機会の有効性を仮説型と問題解決型に分けてたてたリスク

対応策、を考慮すべきであるとしている。 経営資源の調達に関しては、経営資源の不足を克服するための五つの要因を示している。

一つは、①事業機会の魅力度や財・サービスの新奇性である。事業の発展可能性が大きけ

ればベンチャー・キャピタルの支援を受けることもでき、事業に夢があれば、損得勘定を

抜きにして出資をしてくれる人もいる。二つ目は、②人脈や人徳である。過去の取引先や

創業当初の大口仕事を知人から受注するケースなどである。三つ目は、③さまざまな社会

制度である。ベンチャーキャピタルの増加、非営利団体や民間が独自に開発した創業支援

プログラム、自治体実施の助成金制度などである。四つ目は、④創業者自身である。創業

者自身のファイト、リーダーシップ、創意・工夫、魅力といった部分である。 五つ目は、

⑤運や偶然である。また、資金的な問題以外にも人材確保や実績不足の克服などについて

も言及している。創業メンバーとしては、相性が良くて目標を共有できる人が不可欠であ

り、その中でもより良くは、事業の確立や発展に必要な人材を戦略的に確保することであ

るとしている。この人材確保に関しては、ナレッジ・コミュニティとは共通の学習内容や

問題意識をベースとした集団であることからもコミュニティが有効なマネジメント媒体と

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なると考えられ、少なくとも第一段階の“目標を共有できる人”の発掘には困らないとい

えよう。 ビジネスシステムの構築についてであるが、高橋「2000」が言う、ビジネスシステムとは、

事業を遂行していくための仕組みのようなものであり、財・サービスを顧客に供給する仕

組み、つまり、製品開発、部材調達、製造、物流・流通、マーケティングなどのサプライ

チェーンである。そして、実現可能な売上や事業規模はビジネスシステムの も弱い部分

できまるとし、ビジネスシステムを構成する機能同士と顧客がバランスしていることが望

ましいとしている。その為、利害関係者との関係構築能力と事業機会との整合性が不可欠

であるとしており、特に後者において起業家は、自前で行う部分と、外部に任せる部分を

判断しなければならないとしている。 後に、起業活動のダイナミズムについて言及している。起業家活動は独立、連続で行

われるのではなく、三つの活動は密接に関係して推進されるものである。起業活動のダイ

ナミズム、つまり同時性(相互関連性)、不確実性(非戦略性)、発展性(不均衡性)の諸

課題を克服することが必要であり、これには、“不安と同居できる精神力”、つまりは起業

家の“意思と志”によりこの起業活動のダイナミズムをコントロールすることが も重要

であるとしている。 この様に、変化に対応する能力は、コミュニティにも不可欠な要素であると考えられる。

高橋[2000]はこれを起業家の精神面に帰結させており、コミュニティでもお互いが相互に補

完し支え合うことが期待される。そして、不安と同居できる精神力という観点では、リス

クを織り込むといっ活動が文化やルールによって浸透していることが必要ということに置

き換えられると考える。 以上から起業家に必要な要因と同質のものが、ナレッジ・コミュニティにも必要である

と認識できる。 第3項 新規事業開発の組織と戦略

山田[2000]による日本企業の新事業開発の戦略と組織についての実証研究によれば、新規

事業戦略、新事業管理システム、母体組織の機構と風土の三つのカテゴリーが新事業プロ

ジェクトの成果に対して影響を与える要因であり、その中でも特に、新事業に適合した母

体組織の機構改革や風土醸成という土壌づくりは、新事業開発を支援するための基盤的な

要因としてとらえることができるとしている。そして、1990 年度と 1995 年度に実施され

た関西生産性本部の「経営実態調査」、および 1997 年度に神戸大学経営学部と関西生産性

本部の共同で実施された、「新規事業開発体制の総点検」研究プロジェクトでの調査をベー

スとした分析の結果から、新規プロジェクトの成功パターンは、①トップ主導型、②専門

部署主導型の二つのグループに分類することができるとしている。さらに、成功と失敗を

分かつ鍵となる特徴を示している。新事業プロジェクトの成否を分ける主要な要因は、個々

のプロジェクトの立案、審査および評価という、事業開発プロセスの個別の側面をいかに

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上手く行うと言うことにあるのではなく、それらすべてがお互いを支え合う一つのシステ

ムとして機能しているかどうかであると結論づけている。 以上から、個々人の知識をベースに新たな価値あるものを創るという本研究の視点から

みれば、専門部署主導型の開発が中心的なターゲットとなる。そして、成功失敗の分岐点

として各プロセスの整合性を指摘していることから、ナレッジ・コミュニティにおいても、

知識活用から新規事業開発にいたるプロセスが一連の流れをもち、さらにお互いが有機的

に関係し合うようコミュニティの仕組み・ルールの設計を行う必要があると理解できる。 第4項 新製品開発のフレーム 延岡「2002」によれば、利益重視の経営が強くもとめられる近年では、付加価値の源泉と

して新製品開発の担う役割は大きいとしている。そして、製品開発による差別化の源泉に

ついて、①製品による差別化、②製品開発能力による差別化のふたつがあるとしている。

このうち、②の製品開発能力こそが重要であり、製品開発能力に関して強みがなければ高

収益はえられないとしている。 この製品開発能力は、トヨタ自動車を代表とする“組織プロセス能力”、3M・シャープ・

花王を代表とする“コア技術”、そしてデル・キーエンスを代表とする“ビジネスモデル”

の三つに集約して考えることができるとしている。この三つの能力は、全て本研究の考え

方に合致するものであり、価値創造能力という表現でとりまとめられるものと考えられる。

また製品開発プロセスに関しては、決められた業務を一つ一つ順番に進めるという単純な

プロセスではなく、多くの関連部門や技術者がその時々において異なった組み合わせで共

同作業をしながらすすめて行くという、非常に複雑なプロセスであるとしている。 また延岡「2002」は、開発組織のデザインに関しても言及しており、開発しようとする製

品特徴に対して、マネジメントを困難にする複雑性の所在と、その複雑性の程度を理解し、

複雑性の高い要因に対応できることを 優先に考えた組織デザインが必要としている。

そして、製品開発の複雑性は、製品技術の複雑性と市場・顧客ニーズの複雑性に分類でき、

製品技術の複雑性は、製品アーキテクチャーと要素技術の複雑性から構成されているとし

ている。さらに製品アーキティチャーの複雑性は、部品間関係の複雑性と部品点数の多さ

によって影響を受けるとしている。この様な複雑性の議論は、プロジェクト重視組織と機

能重視組織の選択の議論に関係するとしている。市場・顧客ニーズの複雑性が高い場合や

職能部門間の相互依存性が高い、つまりは製品アーキテクチャーの複雑性が高い場合には

プロジェクト重視の開発組織が適しており、一方、要素技術の革新性と変化の速度が高い、

つまり要素技術の複雑性が高い場合には、機能重視の開発組織が適しているとしている。

さらに上記の二つの軸がともに複雑性が高い場合には、ハイブリッド型の開発組織を構築

しなければならないとしている。 以上のように製品開発には、複雑な組織マネジメントが必要とされているが、延岡[2002]の主要な主張でもある開発期間の短縮と開発効率そして品質向上を同時に実現する開発プ

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ロセスとして、コンカレント・エンジニアリングによるフロント・ローディング(注1)を提

案している。このコンカレント・エンジニアリングを実質的も機能させるためには、全て

の工程における情報交換と共同活動が必要であり、効果的なコンカレント・エンジニアリ

ングのためには、生産しやすい設計ノウハウの蓄積と共有、そして効果的な情報移転が不

可欠としており、初期の段階での過去の成功・失敗事例の共有化や各工程・部門間の要求

概念・項目の理解、そして分散型情報移転の仕組みが不可欠である主張している。上述の

ような概念は、コミュニティやグループワークを用いた、知識共有と対話による価値創出

を生み出す相互依存型の組織活動の概念と一致する。つまり、製品開発においても、ナレ

ッジ・コミュニティは有効であるといえ同様の枠組みが展開可能と考えられる。特にプロ

セス初期段階においては、多様な人材による対話そしてプロトタイプにより、共通の解釈

の創出そして課題の抽出が可能となると考えられる。 企業間提携などの外部との関わり合いに対し延岡「2002」は、オープン型の部材調達、そ

して開発初期段階から信頼関係をベースとした緊密な共同開発が重要であるとしており、

本研究が重視している外部からの知識移転に際しては、信頼関係を基盤としたマネジメン

トが重要であると理解できる。 第3節 新規事業開発のプロセス・フレームまとめ 上述のように、本研究での新規事業開発とは企業内新規事業だけでなく、新製品開発お

よびベンチャー企業創造に関してもその範疇と考えてきた。 そして先行文献から本研究

が対象とする新規事業開発プロセスとしては、①アイデア獲得(機会創造活動)②コンセ

プト化・事業計画(具現化活動)③経営資源獲得・活用(資源組織化活動)の三つの活動

に層別できると考える。そして、これらの活動に対する重要な支援・補完要素として、資

金・精神・知識 が必要であると理解された。よって、ナレッジ・コミュニティによって

新規事業の開発を遂行するには、ナレッジ・コミュニティにて上述の3つの活動が実施可

能であり、特に機会創造活動が促進されることが不可欠であると理解できた。 第4節 ベンチマーク企業分析によるナレッジ・コミュニティ機能の補完 第2章では知識創造についての文献レビューを行い、本章前半においては新規事業開発

のフレームをレビューした。本節および次節では、この二つの概念を繋げることを試みる。

まず、本4節では、本研究が目指す個人・組織の学習による知識創造を通じて新製品を生 み出し続けているベンチマーク企業に関して分析を行う。具体的な対象企業としては、高

収益企業として知られている花王と3Mを選定することにした。

(注1)フロント・ローディングとは、製品開発をうまく実施するために必要な、問題解決の前倒しのことである。そして、問題解決の前倒し

には後工程で起こりうる問題をなるべく早い時期に顕在化させることが必要であり、その為には早い段階で後工程の開発行為への組み

入れが不可欠であるとしている。つまり、フロント・ローディングを行うためにコンカレント・エンジニアリングが必要であるという

ことである。

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この2社の分析を通じて、高収益を生み出す開発組織のモデルを構築することとし、ナ

レッジ・コミュニティ機能へ機能の追加補完を行う。その後、次5節にて、第2章で明ら

かにしたナレッジ・コミュニティ機能構成と本章第3節で抽出した新規事業開発の3プロ

セスについて、それぞれを関連づけることとする。そして 後に、ナレッジ・コミュニテ

ィによる新規事業開発に重要と考えられる要因を提示することとする。 ■ ベンチマーク分析からのインプリケーション 分析の詳細は付録資料として巻末に添付した。巻末の添付資料のように3Mと花王の開

発能力をもたらす源泉とその仕組みを分析してきた。この2社の共通項を理解しながら補

完を試み構築した高業績企業の開発能力フレームを図に示す。このフレームにおける、核

となる概念は、①学習の場、②融合の場、そして③起業の場、という3つの場の概念であ

る。これらの議論をうけ優れた開発を可能とする開発能力のフレームを以下に示すことと

する。 まず、学習の場についてであるが、これには開発能力に大きく影響を与える“多様化”

の概念が含まれている。分析企業の場合、この多様化は多くの技術を持つということで実

現されていた。しかし、この技術の多様性は外部から導入可能であることから、外部との

ネットワーク性が大きく影響を与えると考えられる。また、この多様化は1つ間違えば発

散を生む可能性を秘めており、その意味では戦略との一致性を確保することが重要である。

これには、3Mのような“コア活用の原則”や引用技術には高いインセンティブを与える

などして、行動原理と関連させた仕組みが必要と考える。この多様な技術を蓄積され強化

されることが、競争優位の観点で重要であるため、多様化とはコア技術であるという3M

の仕組みが1つの理想型とも言えよう。以上のように多様性を軸とし、この多様性が制御

可能で強化可能となる仕組みを持つことが学習の場に要求されているといえる。

■3Mの分析結果 3Mに関して、延岡[2002]のいう“製品開発能力”の観点で分析を進めた。その結果、製品開発能力のポイントとして、 ①多くのコア技術、②知識融合の仕組み、③起業家養成学校の3つを抽出した。

■花王の分析結果 花王開発能力の特徴は、以下の4つにまとめられる。

①基礎技術に根ざした独自技術へのこだわり ②多様な技術をもつ ③ニーズ・シーズをマッチングさせる一貫主義および情報システム ④R&D5原則などの指標による事業可能性の追求

同社の も重要な開発能力の機軸とは開発理念にもある、“多様性と融合”である。そして、この多様性と知の融合が可能となる

には、研究員の自主性そして知を蓄積する仕組みが不可欠である。花王の開発能力の源泉を以下に示す。 □ 多様性をもたらす学習組織が同社の開発能力の核心。 □ 融合を促進する意識のマトリックスが培われている。

同社の表面上の優位性は基礎技術によるより深い技術理解そして2種類の研究所がマトリックス構造をとりニーズとマッチング

させ事業性・技術達成力をもたらす。しかし、本当に重要なのは同社の理念からくる意識のマトリックスである。これが他者を認

め融合を可能にする同社の開発能力の核心と言える。

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33

場の設計(インセンティブを含む)

高業績を生む開発能力フレーム

企業(開発組織)企業(開発組織)

起業の場

学習の場

トップ(場の設計のみ関与)

リーダーシップ ・ トップコミットメント

企業文化

融合の場

技術蓄積

多様化 ■ コアを多く持つ

■ 基礎から全て自前技術

戦略一致 ■ 多様化の発散を防ぐ仕組み

人的交流設定・情報システム

■国際研究所 ■フォーラム ■IT活用

組織

WG含む

組織

WG含む

組織

WG含む組織

WG含む

組織

WG含む支援の仕組み

■ スポンサーシップ

新製品開発促進

■ 新製品比率設定

起業知識、体験

■ 企画書提出義務化

(出所)筆者独自に作成。

次に融合の場についてであるが、創造とは知識の組合せであるとの考えに基づき、新製

品開発には、多様性を様々な角度で組み合わせる仕組みが必要と考える。この組合せの仕

組みとしては、現在のところ人的交流がもっとも有効な組合せを生むと推定されるが、今

後の課題として情報システムの活用も含む概念と認識すべきであろう。ただ、この融合の

場には、従来の階層的組織の考え方からはなれ、独立分散した自主的な組織体おそらくグ

ループワークの感覚の組織が適当である。つまり、入れ物の概念での組織ではなく、精神

的な繋がりや興味によるグループというコミュニティの概念がふさわしいと言える。 そして起業の場であるが、上述のように多様な技術が融合して新たな創造を生み出した

とする。つまり、新製品の概念が固まったもしくは事業機会を認知した、という場合であ

るが、優れた製品を開発しても直ぐに事業や業績に繋がるわけではない。ここには、純粋

な技術開発から一歩飛躍して事業利益を上げるということが必要である。しかし、この技

術開発と利益とが上手く繋がらない場合が実際には多いことも推察できる。これには、開

発段階からの事業性検討、つまり技術者自らが起業を意識し製品を開発することが重要で

あると考える。 この起業の場には、新製品開発に意識を向ける①新製品開発比率の設定、

②事業化への支援、そして③事業化プロセスを体得させる教育の仕組み、が含まれること

が不可欠であると考えられる。 後にこの3つの場は単独で機能しても意味がない。3つの場が相互に関係性を構築し

ながら上手く機能していくことが重要である。そして、この3つが十分機能することによ

図表7

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34

って、開発能力を作り出す企業文化を創りだされるのである。 ではトップの役割とは何か。トップダウンではなくボトムアップを主眼においたこのフ

レームでは、トップには場の設計者としての役割を期待する。つまりトップは個々人への

信頼を決断し、そして知識が生まれる場のルールを設定することが要求されるだろう。 第5節 ナレッジ・コミュニティ機能構成と新規事業開発プロセスの結合 前節で明らかとなった、高業績企業の開発能力フレームによれば、①学習の場、②融合

の場、③起業の場、の3つの場が機能することが重要であることが理解された。この中で

も①と②に関しては、第2章で示したナレッジ・コミュニティの機能とも重複する概念で

あるが、新規事業開発の為には新たに“起業の場”が必要であることが明らかにされた。

よって、第2章で示したナレッジ・コミュニティに必要な諸機能に対し、“起業の場”の概

念「ビジネス構築機能」を付加することとする。以下では、日本IBMナレッジコラボレ

ーション・コンサルティング[2000]によるナレッジ・マネジメント・リソースの分析フレー

ムワークを用い、“新規事業開発における3つの活動プロセス(①機会創造活動、②具現化

活動、③資源組織化活動)”と“ナレッジ・コミュニティに必要な機能“とを関係づけるこ

ととする。以下に示す表では、新規事業開発の3プロセスに対し関連し影響を与えると考

えられる“コミュニティ機能・知識移転”にマーキングをした。表中の◎☆印は、非常に

関連があることを示し、◎は大いに関連がある、○は関連があることを表すものである。

ナレッジ・コミュニティ要素と新規事業開発プロセスの分析フレーム

◎☆

◎☆

◎☆

■ 知識移転フロー

・知識移転Ⅰ(個人⇒チーム)

・知識移転Ⅱ(チーム⇒組織)

・知識移転Ⅲ(組織⇒外部)

・知識移転Ⅳ(外部⇒外部C)

・知識移転Ⅴ(外部C⇒組織)

・知識移転Ⅵ(外部環境⇒個人)

・コミュニティ内

暗黙知共有プロセス

プロトタイプ開発プロセス

コンセプト構築プロセス

・コミュニティ外

暗黙知共有プロセス

プロトタイプ開発プロセス

コンセプト構築プロセス

◎☆

◎☆

◎☆

◎☆

■ 機能

・知識収集

・知識融合

・知識加工

・ガイディング機能

文化、ルール、戦略重視

評価機能

ビジネス構築機能

プロセス③

資源組織化活動(経営資源獲得・活用)

プロセス②

具現化活動(コンセプト、事業計画)

プロセス①:

機会創造活動(アイデア獲得)

プロセス

ナレッジ・コミュニティ要素

◎☆

◎☆

◎☆

■ 知識移転フロー

・知識移転Ⅰ(個人⇒チーム)

・知識移転Ⅱ(チーム⇒組織)

・知識移転Ⅲ(組織⇒外部)

・知識移転Ⅳ(外部⇒外部C)

・知識移転Ⅴ(外部C⇒組織)

・知識移転Ⅵ(外部環境⇒個人)

・コミュニティ内

暗黙知共有プロセス

プロトタイプ開発プロセス

コンセプト構築プロセス

・コミュニティ外

暗黙知共有プロセス

プロトタイプ開発プロセス

コンセプト構築プロセス

◎☆

◎☆

◎☆

◎☆

■ 機能

・知識収集

・知識融合

・知識加工

・ガイディング機能

文化、ルール、戦略重視

評価機能

ビジネス構築機能

プロセス③

資源組織化活動(経営資源獲得・活用)

プロセス②

具現化活動(コンセプト、事業計画)

プロセス①:

機会創造活動(アイデア獲得)

プロセス

ナレッジ・コミュニティ要素

図表8

(出所)筆者独自に作成。

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35

この関連表から先ずに指摘できるのは、プロセス毎に必要なナレッジ機能はまちまちで

あるが、新規事業開発には3つの活動プロセス全てが必要であるとの前提に立てば、表中

のナレッジ機能は全て必要であることが分かり、さらに知識移転の大きな断絶が存在して

はいけないことが理解できる。また特に文化・ルール・戦略によるガイディング機能と評

価機能の存在は全てのプロセスにおいて不可欠である。 「①機会創造活動」において特に重要なのは、知識の集約そして知識の融合である。こ

れらは知識創造および新規事業創造ともに重要と指摘されていた要素であることから、機

会創造活動における知識集約・融合は も中心的な機能といえる。 さらにこの段階では、

暗黙知共有の為の対話場の存在が不可欠であることも指摘できる。そして知識移転の視点

で言えば、外部からの知識移転が特に重要であり、この知識移転が十分であることが不可

欠と考えられる。 「②具現化活動」において特に重要なのは、評価機能そしてビジネス構築機能(起業の

場)であると考える。社内プロジェクトの多く(特に大企業では)は、コンセプトや事業

計画が作成され、社内の評価ルールに基づき実行許可が下りるという企業も多いと考える。

しかし、コンセプトや事業計画が存在しないプロジェクトは論外としても、コンセプトが

時勢に適していなかったり、あまりにも顧客意見に依存したものであったりと、独自の意

思決定が十分含まれていないケースは特に問題であると考える。また、事業計画に関して

は、リスクが織り込まれていなかったり、販売経路や仕組みとしてのビジネスモデルが十

分練られていなかったりと、計画に対する見通しに企業自らの意思や責任、実行力が反映

されていない場合も多いと考える。つまり、コンセプトに対する強いコミットメントや事

業の不確実性に対するリスクの設定が重要であり、多くのプロジェクトが失敗するのもこ

の時点でのチェックが十分でないことに起因しているのではと考える。 また評価に関しては、外部(顧客や市場)からの評価も重要であると考えるが、外部評

価を理解したうえで、強いコミットメントに基づく企業独自の内部評価を行うことが重要

であると考える。 「③資源組織化活動」において特に重要なのは、外部との知識移転であろう。 資金お

よび人材の確保においては、何らかの事業成功への確証が不可欠と考える。つまり、新た

に得られた技術や製品、サービスに対して、顧客からの正の評価が事業化への牽引力とな

る。よってこの活動においては、目に見える形でのプロトタイプの存在も重要であろう。 以上、ナレッジ・コミュニティによる新規事業開発に対する仮説を以下にまとめる。

■ ナレッジ・コミュニティによる新規事業開発全般においては重要なのは、 □ ナレッジ・コミュニティ諸機能が全て存在し、知識移転の大きな断絶が存在しない

□ ガイディング機能と評価機能の存在 ■ ①機会創造活動において重要なのは、 □ 知識集約・知識融合機能

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□ 個人学習を強化する為の外部環境から個人への知識移転 ■ ②具現化活動において重要なのは、 □ 評価機能(内部基準設定、リスク織り込みプランの策定) □ ビジネス構築機能の存在 ■ ③資源組織化活動において重要なのは、 □ 外部との知識移転とプロトタイプ作成 以上の中でも、筆者が企業業務でのプロジェクト失敗経験から学んだ組織内機能不全箇

所と考える“ビジネス構築機能”そして“コンセプト評価機能”について以下では注目す

ることとする。 第4章 仮説および質問への転換

第2章ではナレッジ・マネジメント、第3章では新規事業開発について文献をレビュー

し、また新たなコミュニティ機能である“ビジネス構築機能”を付け加えた。そして3章

後半ではナレッジ・マネジメントと新規事業開発の関係付けについて言及した。また、各

章ではナレッジ活用による知識創造・新規事業開発についての仮説を示してきた。本章で

は、本研究で明らかにすべき“企業パフォーマンスを向上させるナレッジ・コミュニティ

の設計要因”として、先の述べた5つの項目(2章では3項目、3章では2項目を提示)

を仮説として提示することとする。仮説の設定に際しては、各仮説を構成すると考えられ

るナレッジ・マネジメントを提示するが、同時にどのような補完的な促進マネジメント(文

化による支援、仕組み、インセンティブ、ビジネス連動評価)を設定すれば、よりパフォ

ーマンスが向上するかを明らかにするため、これらの促進因子をマネジメント変数として

仮説に盛り込んだ。そして本章の第2節では、仮説検証の為(アンケート調査用)の質問

を設定することとする。 第1節 仮説の提示 □仮説①: 機能存在・知識移転不断絶仮説

知識創造を効果的に行い、企業パフォーマンス(業績向上・新規事業創造)を向上させるために

は、2章で提示したナレッジ・コミュニティ・フレームワーク記載の機能が全て必要であり、かつ知識

移転において大きな断絶がないことが必須であると考える。従ってこの仮説を明らかにするには、6

つの知識移転そして企業内部での4つの知識創造、企業外部との4つの知識創造の計14のマネ

ジメント項目について分析することが必要であると考える。 以下に、これらのマネジメント項目を示

す。 尚、巻末に記載する質問表に示す各質問のNo.を、各マネジメント項目に付記する。(B2①、

A1Ⅱなど)

■主説明変数

B1①: 個人⇒チームの知識移転程度

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B1②: チーム⇒組織の知識移転程度

B1③: 組織⇒外部個人の知識移転程度

B1④: 外部個人⇒外部コミュニティの知識移転程度

B1⑤: 外部コミュニティ⇒組織の知識移転程度

B1⑥: 外部県境⇒個人の知識移転程度

B2①: 組織内対話程度

B2②: 組織内コンセプト創り程度

B2③: 組織内コンセプト評価程度

B2④: 組織内プロトタイプ作成程度

B3①: 組織外対話程度

B3②: 組織外コンセプト創り程度

B3③: 組織外コンセプト評価程度

B3④: 組織外プロトタイプ作成程度

□仮説②: インフォーマルワーク仮説

先行文献でも指摘されていたように、インフォーマルなグループワークが知識創造には効果的で

あると考える。 公式の活動では目標に対する達成義務感が強くなる反面、自由な発想がやや抑

制されると考える。 そして達成することを意識するがゆえに、自発コミットメントが十分でなかったり、

コンセプト段階での評価が弱くなる可能性がある。 つまり、モラルハザードの危険性が介在するも

のと考える。 また、公式活動、つまりトップダウンの戦略型推進においては、全ての業務時間を公

式活動にとられ、自発的な企画やアイデアを生み出すことが出来なくなってしまう可能性があり、持

続的な企業成長への貢献が弱くなると考えるものである。したがって、公式活動ではチーム全員か

らの十分なコミットメントが引き出せず、自発的なワークがやや弱くなることが懸念される。 一方、イ

ンフォーマル活動のその多くでは、個人の志向が強く反映されたテーマを題材にでき、モチベー

ションの面でも持続的であると考える。また、インフォーマルワークでは些細なアイデアでも話題に

することができるため、対話が活発となる。そして活動からの退出も比較的容易であるため、可能性

を追求する為のプロセスとしては有効であると考える。

本仮説の主要な説明変数としては、インフォーマル活動に付け加え、内部外部でのグループワ

ークの程度を同時に検証することが必要であると考える。また、これらの活動を促進すると考えられ

るマネジメントも以下に示す。

■ 主説明変数

A1Ⅰ④: 内部インフォーマル活動程度

A1Ⅱ③: 外部インフォーマル活動程度

A1Ⅰ②: 内部グループ活動の活発度

A1Ⅱ②: 外部グループ活動の活発度

■ 促進マネジメント変数

A1Ⅰ①: 内部グループ活動促進(意図(文化や戦略)、仕組み、ビジネス連動評価、インセンティブ)

A1Ⅱ①: 外部グループ活動促進(意図(文化や戦略)、仕組み、ビジネス連動評価、インセンティブ)

A1Ⅲ①: グループ活動の目的を内外に明示

A1Ⅲ⑥: グループ活動評価基準の明示程度

A3②: アウトプット活動程度

A3⑥: 自主的企画提案の奨励・許可

A4②: 学習活動程度

A4④: 仮説検証活動の有無

A5①: 自発的コミットメントの存在程度

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A5⑤: 他者支援活動程度

A8③: 外部へのインセンティブ

□仮説③: 信頼構築マネジメント仮説

信頼関係構築が最も重要であるとの先行文献の示唆に基づき、信頼構築につながるナレッジ・

マネジメントが不可欠との仮説である。 この信頼構築のためのナレッジ・マネジメントは、信頼構築

をせねばならないと意識させるものでなく、自然な活動の中で構築されるような、例えば、コミュニテ

ィへの参加自体がインセンティブとなる取り組みや、失敗分析による気づき、自発的なグループワ

ークやコミットメントなど間接的に誘導されるものが効果的であると考える。 また、他者の意見を理

解し認めるための要素と考えられる、リアクション質問文化、重複・冗長的活動、補完的メンバーや

事業網羅的メンバーなど多様性人材構成要素、それらを支える学習活動、バージョンアップ活動

などが、効果があるマネジメントと考える。

本仮説における、筆者独自の見解とは次の様なものである。 つまり、信頼構築とは基本的には

他者を認めることに基盤があると考え、そのために必要な具体的マネジメントとは、他者の得意な

分野を学習することであると考える。 前述したように、他者のフィールドを理解することで、メンバ

ーの能力がいかに高いかが理解できる。また自身の領域を他者が学習することで、共通用語や共

感が生まれやすくなる上、得意分野への他者の介入は自身の価値低下をもたらすこととなり、自分

に対し、専門分野へのより深い学習コミットメントを生み出す。つまり相乗効果的にチームの学習向

上が創出され、同時に信頼構築がなされると考える。以下に本仮説を構成する質問項目を示す。

■ 主説明変数

A1Ⅲ④: テーマ重複・競争程度

A1Ⅲ⑨: 多Gへの重複参加程度

A1Ⅲ⑩: バージョンアップ活動程度

A2③: コーディネーター存在程度

A2④: 事業網羅的人材構成程度

A2⑤: 補完型メンバー構成程度

A2⑦: 多様性容認人材存在程度

A3④: リアクション質問文化程度

A3⑤: コンセンサス決定意見の評価程度

A4②: 個人学習程度

A5①: 自発的コミットメントの存在

A5②: 幅広い体験

A5③: コンセンサス決定度

A5④: 失敗体験の分析・共有化

A5⑤: 他者支援活動程度

A6④: 重複活動奨励程度

A8①-1: 精神的報酬

A8①-5: 株式報酬

A8②: 対個人・対グループへの報酬

A8③: 外部へのインセンティブ

B1①: 個人⇒チームの知識移転程度

B1②: チーム⇒組織の知識移転程度

B1⑥: 外部県境⇒個人の知識移転程度

B2①: 組織内対話程度

B3①: 組織外対話程度

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□仮説④: コンセプト評価仮説

事業アイデアに対しては、コンセプト創出段階での評価が重要であり、形式的な評価手順の存

在だけでなく、コンセプトを正当に判断できる独自の評価活動を十分行っている企業が有意と考え

る。 また、コンセプトが正しく設定されるためには、リスク織り込みプランや仮説検証型の学習が重

要と考える。 そしてコミュニティの総意としての評価が重要と考えるため、リアクション質問文化や

コンセンサス意思決定の仕組みが必要と考える。

本仮説で言うコンセプト評価とは、十分な根拠に基づく決断であり、柔軟性を兼ね備えたプラン

となっているかということである。 もちろんコンセプトを評価しない企業はほとんどなく、たとえ社長

の独断であっても評価がなされているといえるだろう。また、大企業には新規事業提案の手順や段

階的評価の仕組みを構築・運用している企業も多いと推察される。 しかし、大企業をはじめ多くの

企業においてプロジェクトの多くが失敗に追い込まれる大きな原因のひとつが、このコンセプト評価

における個人そしてリーダーのコミットメントの不足そして不測の事態に対応可能な柔軟性(オプシ

ョン)の不足であると考える。 ビジネスのネタ自体が粗悪な場合は論外としても、それなりに期待が

もてるビジネスのネタは適度に創造されていると考える。しかし、そのネタの実現可能性を十分検

証しないままに、テーマに資源を投入し巨大化させてしまう可能性がある。特に、外部のオーソリテ

ィーや顧客の責任不在の発言を企業内部で重く受け取り、可能性を巨視化してしまうことがあるの

ではないだろうか。 そして組織化されたプロジェクトが一度推進され始めると、プロジェクト存続自

体が目標となってしまい、進捗状況や達成度の報告に大きなバイアスがかかってしまう恐れがある。

また、プロジェクト推進担当者が起案者でない場合は特に情報の非対称性を助長すると考える。マ

イルストーン設置が重要なのではなく、その時点でどのような方法で判断し、事実を何によって裏

付けるかという問題であると考える。 このような情報非対称性や希望的プランに対する対策として、

効果があると考える説明変数をマネジメント変数として以下に示す。

■ 主説明変数

B2②: 組織内コンセプト作成程度

B2③: 組織内コンセプト評価程度

B3②: 組織外とのコンセプト作成程度

B3③: 組織外コンセプト評価程度

■ 促進マネジメント変数

A1Ⅱ⑦: 外部G活動コンセンサス意思決定程度

A3④: リアクション質問奨励程度

A3⑤: 賛同意見の評価重視度

A3⑥: 自主的企画提案の奨励・許可

A4④: 仮説検証活動の有無

A4⑤: リスク織り込み計画

A5④: 失敗体験の分析共有化

A7②: 起業活動程度

A7③: 起業の教育機会程度

A7④: 定期的ビジネスプラン報告場の存在程度

A7⑤: 起業支援程度

B1⑤: 外部コミュニティ⇒組織への知識移転程度

B1⑥: 外部環境⇒個人への知識移転程度

B2④: 組織内プロトタイプ作成程度

B3④: 組織外とのプロトタイプ作成程度

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□仮説⑤: 起業活動仮説

起業教育機会の有無、組織からの起業支援のルール仕組みなどの存在が新規事業開発に不

可欠であると考える。また、これは上記のアウトプットの場とつながる要素もあるが、定期的なビジネ

スプランプレゼン場の設定など自主的なあるいは継続的な学習への鼓舞が必要であると考える。

■ 主説明変数

A7①: 起業活動促進(意図(文化や戦略)、仕組み、ビジネス連動評価、インセンティブ)

A7②: 起業活動程度

A7③: 起業の教育機会

A7④: 定期的ビジネスプラン報告場の存在程度

A7⑤: 起業支援程度

第2節 質問項目への転換 各章で提示したナレッジ・コミュニティに必要な条件そして、具体的なナレッジ・マネ

ジメントを次の示すような項目に整理しなおしアンケート項目を作成した。(添付資料) 大枠では、A:コミュニティ設計の因子、B:知識の流れに関する項目に分類した。A

はさらにこまかくA1からA8まで分類し、具体的なナレッジ・マネジメントを選定でき

るようにし、その存在と存在の程度を理解するために強弱5段階の評価設定をおこなった。

A:コミュニティの構成要素、ナレッジ・マネジメントについて A1:企業内外でのコミュニティ活動(グループ活動)について A2:グループの構成メンバーについて A3:グループ活動に関するアウトプットについて A4:グループ学習・組織学習・個人学習の促進について A5:個人間、チーム間における信頼関係構築および評価指針について A6:組織の自己変革能力について A7:起業知識・起業意識について A8:グループ活動に対するインセンティブについて

B:知識移転について B1:6つの知識移転、知識の流れについて B2:組織内における知識創造活動(コア・プロセス)について B3:組織外における知識創造活動について B4:新規事業開発プロセスにおける知識移転について

また、本研究の中心的考えである、各種機能やナレッジ・マネジメントをより効果的に

促進・補完させるマネジメントとは何かについて明らかにするために、上記の質問分類領

域毎に、意図・しくみ・ビジネス評価連動・インセンティブとの関係を理解するための質

問を設定し、ナレッジ・マネジメントを根付かせるための誘因とマネジメント実施の際の

有効な促進マネジメントを理解できるように工夫した。また本章で示した諸仮説を検証す

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るための質問も設定している。ナレッジ・マネジメントの分析は、本来はインタビュー等

により文脈により理解すべきものであるが、各組織体で実際に活用可能とするためには、

より具体的なマネジメント項目に落とし込む必要がある。本研究で作成したアンケート項

目は、より具体的なナレッジ・マネジメント手法により構成されており、インタビューの

代替としてのアンケートを目指した。その為質問項目が抽象的となりかつ膨大な量となっ

たことは反省すべき点である。なお具体的な質問に関しては巻末に付録として添付する。 第5章 仮説の検証 第4章で提示した“企業パフォーマンスを向上させる(新規事業創出を促進させる)ナ

レッジ・コミュニティに関する仮説”に対し、以下で検証することとする。 本章では、第1節でまず調査分析方法について述べ、その後アンケート調査対象企業に

ついて、次に企業パフォーマンス・インディケーターを設定することとした。 第2節で

は、アンケート調査結果を用いて企業パフォーマンス向上要因の傾向分析を行い、仮説の

予備検証を試みる。 第3節ではこの予備検証の結果を基に、より深い分析の為の調査対

象企業を決定しインタビュー調査を行うこととした。そして 後に第4節で検証結果をま

とめ、考察を行うこととする。 第1節 検証方法と調査対象企業 ■ 調査・検証方法 繰り返しになるが、ナレッジ・マネジメントの理解はインタビューをベースとした文脈

の理解が不可欠である。 しかし本研究では、一般化された解としての具体的なマネジメ

ントとは何か、という問に答えるため、先行文献で示されているナレッジ・マネジメント

を網羅的に盛り込み、インタビュー質問内容をアンケート項目に落とし込み統計的分析を

試みることとした。すなわち、アンケートの質問項目はそれぞれ具体的なナレッジ・マネ

ジメントとなっており、各質問項目と企業パフォーマンスとの関係を統計的に見れば、そ

のマネジメントの有効性が検証される。しかし、後述するようにアンケートの回収が 30 社

程度と少なく、統計解析による検証には十分と言えない。よって本研究では、各質問項目

とインディケーターとの相関係数をもとめ、有効なナレッジ・マネジメントをスクリーニ

ングし、仮説の予備検証を行うこととした。そして予備検証の結果を元にインタビュー調

査を行い、仮説の妥当性をより深く検証することとした。 ■ アンケート対象企業 本研究は、人と人とのインターラクション(対話)によって知識創造を行うことを議論

の対象としているため、知識創造が特に必要と考えられる業種の代表として、“情報通信・

化学・医薬・電気機器”の4業種をアンケート調査の対象業種とした。また、財務データ

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ーが容易に入手可能でかつ人的生産性を考慮するため、さまざまな企業規模が含まれるよ

うに日本の全ての株式市場を対象とした。よって、日本の上場企業で情報通信・化学・医

薬・電気機器の業種に属する 881 社を対象としてアンケートを送付した。 ■ インディケーター 本研究が注目する、企業パフォーマンスのインディケーターとしては、新規事業開発能

力を判断する直接的インディケーター、新規事業の成功を反映して間接的に表明される間

接的インディケーターに分類して考えることとした。また、本研究は、個人個人の知識や

学習にその基盤をおくことが重要であるとの視点に立つため、各インディケーターに関し

ては一人当たりの値も考慮することとした。以下にインディケーター候補と本研究との適

合度を図表に表示する。 図表より本研究では、直接的な指標である開発インディケーターとして、新製品・新規

事業開発数(過去3年間積算数値)を指標とした。また、間接的な指標である業績インデ

ィケーターとして、営業利益率をベースに考えるが、本研究の視点が人的資産に依存した

知識創造であるため、一人当りの財務的指標を採用することとし、一人当たり時価総額、

一人当たり営業利益額をとりあげることとした。

インディケーター インディケーター 原型指標 一人当たり指標 成長率指標

時価総額 ○ ◎ ○ 売上高 ○ ○ ○(初期ベンチャー等)営業利益 ◎

間接的指標

営業利益率 ◎ ○ 新製品数 ◎ 新事業数 ◎

直接的指標

売上高新製品比率 ◎ 本論文の目的との合致度 ◎:適切、○:普通

また分析に用いる業績インディケーター(営業利益率、一人当たり営業利益額、一人当

たり時価総額)に関しては、業種間のバイアスを排除するために、業種平均値(下表)に

対する相対値として設定した。よって、各数値は業界平均値を 1.00 とする相対的数値で表

され、1.00 より大きいものは業界平均値より大きい数値として表記される。

     補正用業界平均値業種 営業利益率(%) 一人当たり営業利益額(百万円)一人当たり時価総額(百万円)

情報通信(303社) 10.7% 6.4 72.4化学(213社) 7.6% 3.6 33.6医薬品(53社) 19.0% 9.1 116.3電気機器(311社) 5.0% 1.3 16.1

図表9

図表10 インディケーター補正用業界平均値

(出所)四季報 2006 年夏をデーターソースとし、日本の全株式市場データから算出。

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第2節 アンケート調査の分析と予備検証 第1項 相関係数分析 アンケート調査の結果、30 社からの回答を得た。ナレッジ・マネジメントおよび知識移

転に関する各アンケート質問項目と業績および開発インディケーターとの相関係数を以下

の図表に示す。ただし、開発インディケーターに対する結果としては、アンケート回収企

業が15社であったため、分析結果には強い説明力はなく参考程度の分析結果とみなすこ

ととする。また、各質問と業績インディケーターおよび開発インディケーターとの相関分

析の総合判断基準および表記に関しては、◎:複数のインディケーターで強めの相関(相

対値として)がある、○:単数のインディケーターで強めの相関もしくは複数のインディ

ケーターで相関がある、△:単数のインディケーターで相関あるいは複数のインディケー

ターで弱い相関がある、を基準に判定した。さらに業績および開発ともに相関があるもの

についても図表に示した。 以下では、相関分析の結果を8つの質問領域(内部グループ活動、外部グループ活動、・・・、

内部知識創造、外部知識創造)毎に示す。 ☐A1Ⅰ 内部グループ活動 内部グループ活動について、業績インディケーターに影響を与えるものはない。 ただし、有意性は乏しいが全体の傾向としては、特段の促進は行わないほうがよいと示唆

されている。また、営業利益率のみへの非常に弱い影響として、インフォーマルな活動よ

りむしろ公式的なグループ活動が効果的であると言えよう。 開発インディケーターについては、ビジネスと連動した評価はせず、何らかのインセン

ティブを与えることは影響があり、また内部でのグループ活動が活発で、特に“活動する

こと自体を評価”するマネジメントを行うことが効果的である。つまり、内部グループ活

動は、企業パフォーマンス向上には重要な要因ではなくその影響は限定的であるが、開発

対しては、内部活動はやや効果的といえよう。 ☐A1Ⅱ 外部とのグループ活動 業績パフォーマンスおよび開発パフォーマンス共に、“意図による活動促進”が高い影響

力がある。また、外部のキーマンとの対話に関しても業績には好影響を与えるが、事業開

発を低下させる要因でもある。同様に“外部との活動を認知させる活動”、つまり活動の認

知に関しては、開発促進に大きく影響を与えるが、業績にはマイナスの影響を与えるもの

といえる。これは、先行文献やアライアンスが重要との時代背景から示唆されるように、

外部からの知識移転、外部との知識創造の重要性を示すものといえるが、そのマネジメン

トには注意が必要であると理解できる。さらに業績インディケーターに関しては、テーマ

の投げかけも影響を与える施策であり、開発インディケーターに関しては、外部とコンセ

ンサスにて意思決定することもやや影響を与えるマネジメントであるといえよう。従って、

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外部との活動は重要ではあるがそのマネジメントには若干の注意必要である。そして、外

部グループ活動は戦略・文化などの意図による促進は影響大きく、認知促進は開発に影響

大きいといえる。

☐A1Ⅲ 内外グループ活動共通 業績・開発インディケーターともに、“活動目的の明示”、“活動の評価基準明示”そして

活動結果報告が非常に強い影響を与える可能性が高い。 また開発パフォーマンスに対しては、目的明示、挑戦的な目標設定、結果報告、重複テ

ーマの存在、ベストプラクティス発見活動、評価基準明示、参加資格明示、チームによる

バージョンアップ活動、グループ間交流、と多くの項目が影響を与えることが示され、そ

の中でも特に“評価基準明示”、“参加資格明示”、“グループ間交流”、活動報告の影響度が

大きいと示された。

☐A2 多様性許容性 業績インディケーターに対しては、多様性を尊重するような活動には否定的な見解が示

された。影響を与える他の項目としてコーディネーターの存在、また非常に限定的ではあ

るものの事業網羅的人材構成の影響についても言及しておく。 一方、開発パフォーマンスに対しては、同様にコーディネーターの存在は強い影響を与

えると示された。補完的人材とは影響が小さく、しかもマイナスの影響であることに関し

ては、研究開発では知識の深度化が有効であるため、このような結果がえられたと推察で

きる。しかし異端人材、特に“多様性容認人材”に関しては、業績インディケーターへの

影響と反して影響があると分析された。これは、基本的にアイデアは個人レベルの能力を

主体として発信されるものであるため、特異な人材が能力を発揮し易いということなどが

反映されていると推察される。 従って、多様性の受入は業績には悪影響であるが開発には有効であると言えよう。また

コーディネーター存在は不可欠との示唆がえられた。

☐A3 アウトプット活動 アウトプットは全ての活動を促進するとの考えから質問設定を行ったが、業績インディ

ケーターとの関係はリアクション質問文化、仕組みによる促進マネジメントのみ影響がみ

られた。開発インディケーターに対しては、何らかの活動促進は必要であり、かつ活動を

活発に行うことが重要とされ、情報発信自体を高く評価、コンセンサス意見を高く評価、

自主企画容認許可が重要であると明らかにされた。 従って、業績には質問文化、仕組みによる活動促進が有効であり、開発には活発なアウ

トプット活動が有効との示唆がえられた。

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営業利益率一人当たり営業利益額

一人当たり時価総額

新製品数 新事業数 業績相関 開発相関 共に相関

A1Ⅰ①-1 内部G活動意図促進 -0.25 -0.17 -0.15 -0.07 -0.01 A1Ⅰ①-2 内部G活動仕組み促進 -0.14 -0.25 -0.18 0.15 -0.31 A1Ⅰ①-3 内部G活動ビジネス連動評価促進 -0.04 -0.09 0.05 -0.46 0.29 △A1Ⅰ①-4 内部G活動インセンティブ促進 -0.10 -0.15 -0.10 0.50 -0.08 △A1Ⅰ①-5 内部G活動促進なし 0.19 0.25 0.03 -0.12 -0.32 A1Ⅰ② 内部G活動程度 0.11 0.03 0.11 -0.25 0.40 △A1Ⅰ③ 内部G活動自体評価 -0.02 -0.15 -0.08 0.42 0.37 ○A1Ⅰ④ 内部インフォーマルG活動 -0.28 -0.23 -0.09 -0.25 0.21A1Ⅱ①-1 外部G活動意図促進 0.40 0.43 0.33 0.44 0.04 ◎ △A1Ⅱ①-2 外部G活動仕組み促進 0.01 0.01 -0.08 -0.16 -0.16 A1Ⅱ①-3 外部G活動ビジネス連動評価促進 -0.11 -0.20 -0.00 -0.43 0.38A1Ⅱ①-4 外部G活動インセンティブ促進 -0.06 -0.11 -0.08 0.00 0.00A1Ⅱ①-5 外部G活動促進なし -0.16 -0.12 -0.10 -0.21 -0.32 A1Ⅱ② 外部G活動程度 0.16 0.12 0.08 0.05 0.34A1Ⅱ③ 外部インフォーマルG活動 0.03 0.03 -0.03 0.02 0.15A1Ⅱ④ 短期長期 0.17 0.23 0.16 0.22 -0.01 A1Ⅱ⑤ テーマ投げかけ 0.32 0.27 0.19 0.16 -0.25 △A1Ⅱ⑥ 外部キーマンとの対話 0.29 0.29 0.16 0.12 -0.50 △ △A1Ⅱ⑦ 外部コンセンサス意思決定程度 0.15 0.11 0.13 -0.03 0.42 △A1Ⅱ⑧ 外部活動社会認知活動 0.03 -0.20 -0.30 0.42 0.42 △ ◎A1Ⅱ⑨ 市場等情報収集報告 0.02 -0.12 -0.10 -0.14 0.23A1Ⅲ① 目的明示 0.45 0.32 0.31 0.22 0.44 ◎ △A1Ⅲ② 挑戦的目標設定 0.25 0.09 0.17 0.13 0.47 △A1Ⅲ③ 活動結果報告程度 0.33 0.24 0.23 0.38 0.50 △ ○A1Ⅲ④ 同テーマ重複活動・競争 0.13 -0.05 0.12 0.04 0.43 △A1Ⅲ⑤ ベストプラクティス発見活動 0.12 0.07 0.19 -0.22 0.55 △A1Ⅲ⑥ グループ活動の評価基準明示 0.43 0.30 0.30 0.46 0.56 ◎ ◎A1Ⅲ⑦ 活動参加資格明示 0.18 0.03 0.09 0.42 0.56 ◎A1Ⅲ⑧ 退出自由度 -0.27 -0.13 -0.22 0.03 0.15A1Ⅲ⑨ 多グループ活動重複参加 -0.08 -0.04 0.08 -0.52 0.28 △A1Ⅲ⑩ バージョンアップ活動 0.06 -0.11 0.08 -0.05 0.48 △A1Ⅲ⑪ グループ間交流 0.12 0.00 0.04 0.07 0.69 ◎A2①-1 多様性容認意図促進 -0.05 -0.11 -0.05 0.06 0.07A2①-2 多様性容認仕組み促進 -0.07 -0.09 -0.11 -0.13 -0.16 A2①-3 多様性容認ビジネス連動評価促進 0.06 -0.12 -0.17 -0.17 0.26A2①-4 多様性容認インセンティブ促進 -0.09 -0.08 -0.06 0.00 0.00A2①-5 多様性容認促進なし -0.00 0.14 0.21 0.20 -0.24 A2② 多様性尊重活動 -0.24 -0.37 -0.35 -0.25 0.36 ○A2③ コーディネーター存在 0.36 0.13 0.11 0.35 0.53 △ ○A2④ 事業網羅的人員構成 0.26 0.15 0.03 -0.22 0.09A2⑤ 補完型メンバー 0.17 0.17 -0.02 -0.24 -0.24 A2⑥ 異端的人材参加 -0.01 0.04 0.06 -0.05 0.48 △A2⑦ 多様性容認人材 0.16 0.20 0.24 0.34 0.67 ◎A3①-1 アウトプット促進意図 -0.14 -0.23 -0.14 -0.07 -0.01 A3①-2 アウトプット促進仕組み 0.20 0.22 0.30 -0.08 0.01 △A3①-3 アウトプット促進ビジネス連動 0.22 0.03 0.11 0.24 0.38A3①-4 アウトプット促進インセンティブ -0.09 -0.08 -0.06 0.00 0.00A3①-5 アウトプット促進なし -0.14 0.06 -0.06 -0.25 -0.43 △A3② アウトプット活動程度 0.16 0.15 0.18 0.35 0.51 ○A3③ 情報発信活動自体評価 -0.07 -0.10 -0.00 0.18 0.48 △A3④ リアクション質問文化 0.39 0.19 0.21 -0.06 0.26 △A3⑤ コンセンサス決定を高評価 -0.01 -0.09 -0.05 -0.07 0.38A3⑥ 自主的企画提案奨励許可 -0.04 -0.08 -0.08 0.44 0.19 △

:0.60以上 :0.30以上 :相関あり

:0.40以上 :0.27以上 :やや相関

:共に相関

業績インディケーター開発インディケーター

(参考値)質問NO.

        企業パフォーマンス

質問概要(マネジメント項目)

有意性総合判定

図表11 ナレッジ・マネジメントと各インディケーターとの相関

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営業利益率一人当たり営

業利益額一人当たり時

価総額新製品数 新事業数 業績相関 開発相関 共に相関

A4①-1 学習意図促進 0.08 0.03 0.23 -0.01 0.15A4①-2 学習仕組み促進 0.10 0.06 -0.07 -0.23 -0.14 A4①-3 学習ビジネス連動評価促進 0.24 0.08 0.19 0.33 0.51 ○A4①-4 学習インセンティブ促進 -0.11 -0.17 -0.11 -0.13 -0.16 A4①-5 学習促進なし -0.29 -0.13 -0.16 -0.32 -0.44 ○A4② 個人学習程度 0.18 0.10 -0.01 0.26 0.32A4③ 学習活動評価 0.12 0.06 0.21 -0.05 0.49 △A4④ 仮説検証型学習・推進 0.12 -0.04 0.04 -0.29 0.64 ◎A4⑤ リスク織込計画 0.10 0.14 0.18 -0.07 0.51 △A4⑥ 学習領域明示 0.11 0.13 0.09 -0.11 0.46 △A5① 自発的コミットメント 0.42 0.28 0.29 0.24 0.41 ◎ △A5② 幅広い体験 0.26 0.27 0.28 0.11 0.54 △ △A5③ コンセンサス型意思決定 0.06 -0.12 0.05 0.05 0.11A5④ 失敗分析共有化 0.02 -0.18 -0.12 0.20 0.72 ◎A5⑤ 他者支援 0.23 0.11 0.22 0.14 0.47 △A6①-1 自己変革意図促進 0.12 0.10 0.23 -0.13 -0.04 A6①-2 自己変革仕組み促進 0.23 0.15 0.35 0.40 -0.03 △ △A6①-3 自己変革ビジネス連動評価促進 0.25 0.01 0.16 -0.33 0.41A6①-4 自己変革インセンティブ促進 -0.09 -0.08 -0.06 0.00 0.00A6①-5 自己変革促進なし -0.10 0.07 -0.10 -0.21 -0.37 A6② 変革推進活動程度 0.25 0.10 0.17 -0.11 0.42 △A6③ 権限委譲程度 0.22 0.12 0.19 0.33 0.46 ○A6④ 重複活動奨励程度 0.25 0.23 0.35 -0.18 0.61 △ ◎A7①-1 起業活動意図促進 -0.21 -0.20 -0.09 0.27 -0.03 A7①-2 起業活動仕組み促進 -0.08 -0.14 -0.13 0.81 0.06 ◎A7①-3 起業活動ビジネス連動評価促進 -0.08 -0.28 -0.26 0.25 0.45 △A7①-4 起業活動インセンティブ促進 -0.06 -0.06 -0.07 0.00 0.00A7①-5 起業活動促進なし 0.12 0.26 0.25 -0.45 -0.37 ○A7② 起業活動程度 -0.10 -0.12 -0.07 0.04 0.57 △A7③ 起業教育機会 0.09 0.02 0.09 0.24 0.59 △A7④ 定期的ビジネスプラン報告場 0.35 0.28 0.35 0.02 0.63 ◎ ◎A7⑤ 起業支援 0.14 0.19 0.30 0.39 0.55 △ ○A8①-1 精神的報酬 0.19 0.16 0.19 0.32 0.24A8①-2 社内での地位向上 0.15 0.21 0.35 0.25 0.57 △ △A8①-3 小額の金銭報酬 0.24 0.29 0.31 0.48 0.18 △ △A8①-4 高額の金銭報酬 0.10 -0.16 -0.13 -0.05 0.83 ◎A8①-5 株式報酬 0.01 -0.13 -0.07 -0.14 -0.05 A8①-6 インセンティブなし -0.21 -0.06 -0.12 -0.25 -0.43 △A8② 対個人報酬 0.12 0.11 0.29 -0.25 0.38A8③ 外部へのインセンティブ 0.35 0.19 0.12 -0.16 0.49 △ △B1① 個人→チーム 0.50 0.18 0.13 -0.07 0.33 ○B1② チーム→組織 0.45 0.19 0.15 0.08 0.41 ○ △B1③ 組織→外部個人 0.33 0.19 0.22 0.27 0.13 △B1④ 外部個人→外部C 0.43 0.37 0.32 0.30 0.41 ◎ ○B1⑤ 外部C⇒組織 0.40 0.28 0.27 0.40 0.34 ○ ○B1⑥ 外部環境→個人 0.37 0.16 0.17 0.38 0.30 △ △B2① 企業内対話程度 0.14 0.06 -0.03 -0.16 0.45 △B2② 企業内コンセプト創り 0.14 0.08 0.15 -0.10 0.65 ◎B2③ 企業内コンセプトの評価 -0.04 -0.08 0.11 -0.19 0.56 △B2④ 企業内プロトタイプ作成 0.12 0.09 0.16 0.50 0.38 ○B3① 企業外対話程度 0.37 0.27 0.08 0.43 0.07 △ △B3② 企業外コンセプト創り 0.38 0.26 0.16 0.01 0.54 △ △B3③ 外部コンセプトの評価 0.32 0.18 0.12 0.05 0.58 △ △B3④ 企業外プロトタイプ作成 0.22 0.11 0.09 0.39 0.53 ○

開発インディケーター(参考値)

有意性総合判定業績インディケーター

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☐A4 学習活動 非常に重要な概念であると考えられるが、業績インディケーターへの大きな影響はない

と分析された。ただ、業績・開発ともに学習をすすめることを行わないのはよくないとの

示唆はみられた。一方、開発インディケーターに対しては、特に“仮説検証型学習”が強

い影響度を示し、そしてビジネス連動評価促進、リスク織込み推進、学習領域明示、学習

活動自体評価に有効性がみられた。ここでも開発行為には適するマネジメントであっても

業績には貢献しないという、何らかのコンフリクトが存在する。従って、学習促進は不可

欠と考えられるものの、特に影響を与えるマネジメントはみられなかった。しかし開発の

促進には非常に有効であるとの示唆を得た。 ☐A5 信頼構築 信頼構築マネジメントには、質問文化、補完的メンバー、バージョンアップ活動、同テ

ーマ重複、冗長性容認、そして学習活動全般も含まれると考えられる為、以下ではこれら

を含めて分析を行った。業績インディケーターに関しては、“自発コミットメント”に強い

相関がみられ、幅広い体験との影響もみられた。これに加え開発インディケーターに関し

ては、“失敗体験の分析共有化”の影響が非常に強く、また他者支援活動も有効となってお

り、先行文献が指摘するように重要な概念であるといえる。また、質問文化、学習活動の

何らかの促進、そして特に“重複活動(冗長性)”も影響が大きいと分析されており、開発

インディケーターにのみ影響があるものまで含めると、“学習活動全般”、テーマ重複、バ

ージョンアップ活動も有効なマネジメントといえよう。しかし、コンセンサス型の決定お

よび補完的メンバー構成は有意とはならなかった。つまり、業績・開発向上には自発コミ

ットメントと幅広い体験の影響度が大きく、開発では失敗体験の分析共有化そして他者支

援が有効との示唆が得られた。 ☐A6 自己変革活動 業績・開発インディケーターともに大きく影響を与えるものは、自己変革活動を仕組み

として促進、そして特に“重複活動(冗長性)”である。開発インディケーターに関してみ

れば、権限委譲も有効なマネジメントである。従って、業績・開発には自己変革活動を仕

組み促進、冗長的活動が大きく影響を与え、開発では権限委譲も有効との示唆が得られた。 ☐A7 起業活動 業績インディケーターおよび開発インディケーター共に、大きく影響を与えるのが“持

続的定期的ビジネスプラン発表の場の設定”そして起業支援である。これには報告会的な

ものも含まれると考えるが、ビジネスモデルを定期的な当たり前の行動としてとらえるこ

とが重要と推察できる。また、ビジネス連動評価による促進は行わないほうが若干の業績

への有効性があることから、成果を直接問うのではなく、活動そのものを促進することが

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重要であり、やる人はやるということを前提とし、やる人のための場が不可欠との理解が

可能である。一方、開発パフォーマンスに対しては、特に新事業開発にとってはほとんど

の起業マネジメントが有効となっている。つまり起業活動程度、起業教育の機会、定期的

ビジネスプラン報告の場、起業支援が影響ありと示された。その中で新製品開発・新規事

業開発共に効果的なのは、起業支援であり起業活動促進を何もしないということは開発を

低下させる要因であり不可欠なマネジメントであるといえよう。特に新製品開発について

有効な促進マネジメントは“仕組みによる促進”となっており、起業とは大きなエネルギ

ーが必要であり、日常の業務の一環として、もしくは定期的な促進場(定期的プラン発表

場)の必要性が伺える。従って、定期的ビジネスプラン発表場が非常に有効であり、かつ

開発には多くの起業マネジメントが有効との示唆が得られた。

☐A8 インセンティブ 業績・開発インディケーター共に、社内での地位権限向上、小額の金銭的報酬がやや効

果があると示された。しかし、先行文献で指摘されていた、精神的な報酬の有効性は見出

せなかった。またその他の特徴としては、外部へのインセンティブの影響が示されており

興味深い重要なファクターといえよう。また、開発インディケーターに関しては、“高額の

金銭的報酬”が非常に影響が大きく開発促進の為の一要因であると推察できる。業績向上

に影響を与えるマネジメントに注目すると、ほとんどの企業で実施されている項目である

ことがわかる。このことから、業績を向上させる為に大きく影響を与えるインセンティブ

は十分には明らかになっていないと推察される。従って、業績向上には何らかのインセン

ティブは有効であるが、企業パフォーマンス向上につながる十分なインセンティブ・マネ

ジメントができていないとの推察ができよう。以上より、精神的な報酬には有効性は見ら

れなかった。注目すべき点は、外部組織・メンバーへのインセンティブが業績・開発とも

に影響があるとの示唆が得られた。 ☐B1 知識移転 業績インディケーターについては、“知識移転全項目で高い影響度”が明らかになった。

特に個人⇒チーム、チーム⇒組織の移転が重要であり、 も有意なのが“外部個人⇒外部

コミュニティ”、そして“外部コミュニティ⇒組織”の移転である。一方開発インディケー

ターに関しては、チーム⇒組織、外部個人⇒外部コミュニティ、外部コミュニティ⇒組織、

外部環境⇒個人が影響を与えると示された。従って、業績向上には全ての知識移転が不可

欠であり、かつ開発にもほとんどの移転が影響をあたえることが示唆された。 ☐B2 内部知識創造活動 “開発促進には大きく影響をあたえる”が、業績への貢献は説明できない。この事は、内

部での知識創造には、営業活動や戦略推進、外部環境とのマッチングが十分でないなど、

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何らかの業績向上への課題が存在すると推察される。 ☐B3 外部との知識創造活動 業績インディケーターに関しては、外部との対話、外部とのコンセプト作成・コンセプ

トの評価に影響度が高いと示された。しかしプロトタイプの作成については有効とはなっ

ていない。一方開発インディケーターでは、外部とのプロトタイプ作りは大きく影響を与

える。この事は、開発の終盤において業績につなげるにはなんらかの施策が不可欠である

ことを示唆しており、業績確保の為には 終的には独自のアレンジが加えられることが不

可欠であると推察される。つまり、業績・開発ともに影響がある、“外部との対話、コンセ

プト作りおよびその評価は不可欠”なマネジメントであるといえる。従って、外部との知

識創造は不可欠であり、またプロトタイプ作成は開発促進するが業績には影響が小さいと

の示唆が得られた。 以上、各質問領域に対して分析結果を示してきた。上記のうち業績に強く影響を与える

もの(総合評価◎および一部の○)、同様に開発に強く影響を与えるのも、そして業績およ

び開発ともに有効なものを以下に取りまとめることとする。

1)業績に強く影響を与えるもの

☐ 外部とのグループ活動を意図(文化・戦略)により奨励 ☐ グループ活動の目的を組織内外に明示 ☐ グループ活動およびその結果に対する評価基準明示 ☐ グループ活動への自発的コミットメントの存在 ☐ 定期的なビジネスプラン発表の場が存在 ☐ 外部の個人から外部コミュニティへの知識移転 ☐ 外部コミュニティから組織への知識移転 2)開発に強く影響を与えるもの(参考) ☐ 外部との活動が一般社会に知られる認知活動

☐ グループ活動およびその結果に対する評価基準明示 ☐ グループへの参加基準・結成基準を明示 ☐ グループ間の交流活動 ☐ 多様性を受け入れ、認める気質を備えたメンバーが多い ☐ 仮説検証型の学習・推進 ☐ 失敗体験の分析と共有化 ☐ 重複した活動を奨励(冗長性奨励)

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☐ 起業活動を“定期的なビジネスプラン発表場”のような仕組みで促進 ☐ 高額の金銭的報酬インセンティブ ☐ 企業内部でのコンセプト作り活動 3)開発そして業績ともに影響を与えるもの (特に強い影響を与えるものを“”にて強調する)

☐“外部とのグループ活動を意図(文化・戦略)により奨励” ☐“グループ活動の目的を組織内外に明示” ☐ グループ活動の結果を報告する活動 ☐“グループ活動およびその結果に対する評価基準明示” ☐ グループ内コーディネーターの存在 ☐“自発的なコミットメントの存在” ☐ 幅広い職種・体験 ☐ 自己変革活動を仕組みで促進 ☐“重複活動(冗長的活動)” ☐“定期的なビジネスプラン発表の場が存在” ☐ 組織・上司からの起業支援(アドバイス、資金調達、人材獲得、障壁排除)

☐ 社内での地位・権利向上としての報酬インセンティブ ☐ 比較的小額の金銭的報酬インセンティブ ☐ 外部メンバー・組織へのインセンティブの付与 ☐ チーム⇒組織への知識移転 ☐“外部個人⇒外部コミュニティへの知識移転” ☐“外部コミュニティ⇒組織への知識移転”

☐ 外部環境⇒個人への知識移転 ☐ 外部との対話活動 ☐ 外部との活動によるコンセプト作り

☐ 外部との活動により作成されたコンセプトの評価

第2項 仮説の予備検証 上述の相関係数分析の結果を踏まえ、仮説構成要素(主説明変数およびマネジメント変

数)に関し、仮説の予備検証を行う。

□予備検証①: 機能存在・知識移転不断絶仮説

相関分析により、仮説構成項目をみていく。まず、6つの知識移転については業績・開発インデ

ィケーター問わず、全て必要であり、特に業績には強い影響を与えるコミュニティ機能・マネジメント

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であるといえよう。また、外部との知識創造に関しても全て必要であることがわかる。外部との知識

創造に関しては、プロトタイプ作成の、業績への影響が小さいことである。これに関してはインタビュ

ー調査により検証すべき項目であると認識する。一方、内部での知識創造活動に関しては、開発

促進には全ての要素が必要であるが、業績貢献はほとんどないといえる。これについては、開発と

業績のつなぎ手である、営業活動や間接部門の取り組みがより強く反映することや、内部での開発

が一人よがりとなっていることなどが推察されるため、インタビュー調査により検証する必要がある。

以上から、知識創造に関するナレッジ・コミュニティ機能の存在および知識移転の不断絶は内部

での知識創造活動を除いて不可欠との方向性が示された。そして、特に重要な要素としては6つ

の知識移転、そして外部の知識創造であると仮定できよう。よってナレッジ・コミュニティ・モデルに

おけるコア・プロセスおよび知識移転は図に示すようなモデルとなる。以下に、相関分析の結果を

踏まえ、スクリーニングした仮説構成項目を示す。図においては、業績向上に重要な要素を赤ライ

ン、開発促進に重要な要素を青ラインで示し、ラインの太さによってその重要どを示すこととした。

□予備検証②: インフォーマルワーク仮説

相関分析によれば、内部外部問わずインフォーマルなグループ活動の有効性はみられない。

また、仮説①の予備検証でも示唆されたように、内部グループ活動は業績向上には大きく関与し

ないものと理解できよう。 しかし、開発への影響をみると、内部グループ活動の影響が若干存在

する。具体的には活動を行うと言うこと自体を高く評価し、ビジネスと関連付けて評価することは避

けるべきである。一方、外部とのグループ活動に関しては、文化や戦略などの意図による活動奨励

は非常に有効なマネジメントであることが示唆されている。そして開発への好影響を与えるものとし

ては、外部との活動の広報が有効であることが指摘できよう。さらに、グループ活動全般に影響を

与えると考えられるマネジメントとしては、自発的コミットメントの創発環境を整備し、活動の目的そし

て活動を評価する指針の明示が特に有効と理解される。また、開発に対しては、グループへの参

加資格そしてグループの設立基準の明示、他のグループとの積極的交流、仮説検証型の学習・

推進、などを促進することが有効であるといえよう。

このようにグループ活動、特に外部とのワーキングは業績・開発ともに影響を与えるものであり、

■主説明変数

B1①: 個人⇒チームの知識移転程度

B1②: チーム⇒組織の知識移転程度

B1③: 組織⇒外部個人の知識移転程度

B1④: 外部個人⇒外部コミュニティの知識移転程度

B1⑤: 外部コミュニティ⇒組織の知識移転程度

B1⑥: 外部県境⇒個人の知識移転程度

B2①: 組織内対話程度

B2②: 組織内コンセプト創り程度

B2③: 組織内コンセプト評価程度

B2④: 組織内プロトタイプ作成程度

B3①: 組織内対話程度

B3②: 組織外コンセプト創り程度

B3③: 組織外コンセプト評価程度

B3④: 組織外プロトタイプ作成程度

図表12 コア・プロセスおよびナレッジ移転モデル

コア・プロセス ナレッジ移転

内部

ナレッジ集約機能

ナレッジ融合機能 ナレッジ加工機能

外部

ナレッジ集約機能

ナレッジ融合機能 ナレッジ加工機能

外部環境

個人

チーム

組織

外部組織

外部個人

評価システム

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積極的なマネジメントが必要であるが、インフォーマル活動の有効性はみられなかった。 従って、

グループ活動自体は重要であるが、それが公式か非公式かは業績インディケーターおよび開発イ

ンディケーターともに影響しないと示されたといえる。以下の図表にグループ活動に関して有効と

考えられるナレッジ・マネジメントを示す。 また、特に説明変数との正の相関が高いものを“”で強

調し、図中においては太字アンダーライン表示をした(相関係数表は付録として添付する)。 この

ような説明変数との正の相関が大きいものは、より説明力あるといえる。例えば仮説検証型の学習

を推し進めるというマネジメントを行えば、グループ活動が活発となり、かつ開発インディケーターが

高いものとなる。つまりグループ活動による開発向上をもたらすための、より有効なマネジメントであ

ると説明できよう。

■ 主説明変数

A1Ⅰ②: 内部グループ活動程度

A1Ⅱ②: 外部グループ活動程度

■ マネジメント変数(M):

A1Ⅰ①-3、4: 内部グループ活動促進 (ビジネス連動評価、インセンティブ)

A1Ⅰ③: “内部グループ活動自体を高く評価”

A1Ⅱ①-1: 外部グループ活動促進(意図) A1Ⅱ⑤: 外部へのテーマ投げかけ程度 (追加)

A1Ⅱ⑥: “外部キーマンとの対話程度(追加)” A1Ⅱ⑦: “外部とのコンセンサス意思決定程度(追加)”

A1Ⅲ①: グループ活動の目的を内外に明示 A1Ⅲ⑥: グループ活動評価基準の明示程度

A1Ⅲ⑦: “グループ活動への参加資格明示(追加)” A1Ⅲ⑪: グループ間交流程度(追加)

A3②: “アウトプット活動程度” A3⑥: 自主的企画提案の奨励・許可

A4②: 学習活動程度 A4④: “仮説検証活動の有無”

A5①: 自発的コミットメントの存在程度 A5⑤: 他者支援活動程度

A8③: 外部へのインセンティブ

グループ活動モデル

ナレッジ・マネジメント

外部グループ活動内部グループ活動

意図促進目的明示

評価基準明示

参加結成資格明示

グループ間交流

活動広報(認知活動)

仮説検証型学習・推進

自発コミットメント

活動自体評価

ビジネス関係ない、

何らかのインセンティブ

外部へのインセンティブ

自主的企画・提案

の奨励・許可

外部キーマンとの対話

テーマの投げかけ

外部とのコンセンサス

意思決定

アウトプット活動程度

学習程度

他者支援活動奨励

ナレッジ・マネジメントコア・プロセス

ガイディング機能

□予備検証③: 信頼構築マネジメント仮説

本仮説の予備検証に際しては、先行文献の主張する“信頼構築に繋がるマネジメント”が企業パ

フォーマンスを向上させることが可能か、との観点で相関分析結果により検証していくこととする。

相関分析の結果、業績・開発ともに影響を与える可能性が高いものは、自発コミットメント、重複

活動奨励(冗長性)、そしてコーディネーターの存在と外部へのインセンティブの付与であった。ま

た、リアクション質問文化が業績に影響を与える一方、多くのマネジメントが開発に影響を与えると

図表13

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示された。 強く開発に影響を与えるものとしては、多様性を受け入れる人材の存在、失敗体験の

分析・共有化、その他影響を与えるものとして、同じテーマを重複して行う他グループの存在、コン

セプトや計画をグループメンバーにてバージョンアップさせる取り組み、他者を支援することを奨励

する取り組みなどが示された。

以上の結果をみると、多様性・協調活動を促進するマネジメントが企業パフォーマンスの向上に

有効であるといえ、特に自発的な行動そして他者を理解、他者・チームに貢献する行動の重要性

が伺える。 さらに、外部活動においては組織間の信頼構築に繋がると期待される外部へのインセ

ンティブの有効性、失敗をみとめ知識化する失敗体験の分析共有化などが興味深いマネジメントと

いえよう。以上より、先行文献が主張するところの信頼構築に繋がるマネジメントによって、業績・開

発の向上は可能であり、特に自発的な行動と他者理解につながる多様性・協調性のマネジメントが

有効と示された。

■ 主説明変数

A1Ⅲ④: テーマ重複・競争グループ存在

A1Ⅲ⑨: 多グループへの重複参加程度

A1Ⅲ⑩: バージョンアップ活動程度

A2③: コーディネーター存在程度

A2⑦: 多様性容認人材存在程度

A3④: リアクション質問文化程度

A5①: 自発的コミットメントの存在

A5②: 幅広い体験

A5④: 失敗体験の分析・共有化

A5⑤: 他者支援活動程度

A6④: 重複活動奨励程度(冗長性)

A8③: 外部へのインセンティブ

B1①: 個人⇒チームの知識移転程度

B1②: チーム⇒組織の知識移転程度

B1⑥: 外部県境⇒個人の知識移転程度

B2①: 組織内対話程度

B3①: 組織外対話程度

☐予備検証④: コンセプト評価仮説

相関分析の結果から、内部でのコンセプト評価は開発インディケーターに影響をあたえ、外部と

作成したコンセプトの評価については、業績・開発ともに影響を与えるマネジメントであるとの示唆

を得た。またコンセプト作成についても同様の示唆を得た。従って本仮説は、予備検証においては

立証されたといえる。

また、コンセプト評価に影響をあたえると考え設定した促進マネジメント変数については、以下の

ような示唆が得られた。まず、業績・開発ともに有効なのは、定期的ビジネスプラン発表場の設定が

非常に大きな影響をあたえ、起業支援、外部コミュニティ⇒組織への知識移転、外部環境⇒個人

への知識移転が影響を与えると示された。つまり、起業が当たり前のものと認識され日々起業活動

がなされる仕組みがあれば、起業を促するだけでなくコンセプト段階での評価が機能するといえよ

う。また、外部からの知識移転は客観的なかつ時勢にあったプランの作成および評価能力をあた

図表14 企業パフォーマンスを向上させる信頼構築マネジメント

多様性容認人材の存在 失敗体験の分析共有化

重複活動奨励(冗長性)

幅広い体験

外部へのインセンティブ

コーディネーターの存在

他者支援奨励

自発的コミットメント

テーマ重複・

競争グループの存在

バージョンアップ活動リアクション質問文化

多グループへの

重複参加はしない

信頼構築マネジメント

業績インディケーター関連マネジメント 開発インディケーター関連マネジメント

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え、結果的に良好な業績・開発が可能となると考えられる。さらにこれらの促進マネジメント変数は

全て、コンセプト評価と相関が強く、本仮説の説明力を高める変数であると考えられる。主説明変

数としてとらえたコンセプト作りに関しては、外部とのコンセプト作りはコンセプト評価との相関もあり、

かつ業績・開発ともに相関が高く重要な要因であることが伺える。しかし、内部でのコンセプト作り

はコンセプト評価との関連がなく、しかも開発には関連が深いものの業績への影響はない。これは

内部でのコンセプト作りだけでは正しい評価ができず業績への貢献も達成できないととれ、企業・

組織の一人よがりなコンセプトの存在をうかがわせるものであろう。

一方、業績のみに影響を与える促進マネジメント変数はなく、開発インディケーターに影響を与

える変数のみであった。強く開発に影響を与えるものとして、仮説検証学習・推進、失敗体験の分

析共有化、そしてやや影響を与えるものとしては、外部グループ活動におけるコンセンサス意思決

定、自主的企画提案の奨励許可、リスク織込み計画・推進、起業活動程度、起業教育、組織内外

におけるプロトタイプ作成、であった。この中で、特にコンセプト評価に影響を与える相関が高いも

のとしては、外部活動コンセンサス意思決定、仮説検証学習・推進、リスク織込み計画・推進、失敗

体験の分析共有化、起業活動程度、外部とのプロトタイプ作り、があげられる。このことから、失敗

の可能性をヘッジあるいは自らが自発的に立てた仮説検証の学習ループが開発に影響を与える

といえ、仮説主導型による多軸推進と危機管理の有効性が浮かび上がるといえよう。 また、アライ

アンスなどでは外部との信頼構築が重要であり、何らかのコンセンサスを得ることが正しい開発方

向性を示すことに繋がると推察可能である。 以下に重要な変数を示すが、主説明変数と正の相

関が高いものを“”にて強調し、図中においては太字アンダーラインで表示した。

■ 主説明変数 B2②: 組織内コンセプト作成程度 B2③: 組織内コンセプト評価程度 B3②: 組織外とのコンセプト作成程度 B3③: 組織外コンセプト評価程度

■ 促進マネジメント変数 A1Ⅱ⑦: “外部グループ活動

コンセンサス意思決定程度” A3④: リアクション質問奨励程度 A3⑤: 賛同意見の評価重視度 A3⑥: 自主的企画提案の奨励・許可 A4④: “仮説検証活動の有無” A4⑤: “リスク織り込み計画” A5④: “失敗体験の分析共有化” A7②: “起業活動程度” A7③: 起業の教育機会程度 A7④: “定期的ビジネスプラン報告場の存在程度” A7⑤: “起業支援程度” B1⑤: “外部コミュニティ⇒組織への知識移転程度” B1⑥: “外部環境⇒個人への知識移転程度” B2④: 組織内プロトタイプ作成程度 B3④: “組織外とのプロトタイプ作成程度”

図表15 コンセプト評価活動モデル

知識加工機能:

内部コンセプト作り

外部環境⇒個人

定期的ビジネスプラン

発表場

起業支援

失敗体験の分析共有化

起業活動程度外部コミュニティ⇒組織

外部とのコンセンサス

意思決定

リスク織込み計画・推進

自主的企画提案

の奨励・許可

仮説検証型学習・推進

外部とプロトタイプ作成

内部プロトタイプ作成

起業教育

促進ナレッジ・マネジメントコア・プロセス

知識加工機能:

外部コンセプト作り

評価システム:

内部コンセプトの評価

評価システム:

外部コンセプトの評価

ガイディング機能

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□予備検証⑤: 起業場の設定仮説

相関分析によれば、設定した仮説構成項目の全てが開発に影響するとの示唆がえられた。 そ

してその中で業績にも影響を与えるものとして、定期的ビジネスプラン発表場の設置および起業支

援が抽出された。以上さまざまな角度からの起業場の設定は重要であるといえる。しかし、全ての

人材に起業できる能力を付けるのではなく、アイデアや行動が伴う、起業したい人、起業出来る人

に注目し、これらの人材が十分活躍できる場と支援を設けることがなりより有効なマネジメントである

と理解できる。従って、本仮説が主張する“起業の場の設定”とは企業パフォーマンスの向上に有

効であるとの示唆を得たものと言えよう。

また、仮説では設定していなかったが、上述の二つのマネジメントと相関が高く、かつ業績インデ

ィケーターおよび開発インディケーターの双方に影響を与えるマネジメントを抽出、起業場を促進

するマネジメントとしてとりあげる事とした。 具体的には下図に示す項目であり、これらのマネジメ

ントはナレッジ・コミュニティを設計する際に考慮すべき要素であると考える。 これらの促進マネジ

メントを見ると、概ねグループ活動における基本的な管理項目と考えられる目的・評価・報告のマネ

ジメント、多様性と自己組織性を可能とする項目、そして外部との知識移転や外部へのインセンテ

ィブなどアライアンスに関わる項目に分類できる。そしてこれらは、先行文献およびベンチマーク分

析でも見られた、個々人の能力を活かすマネジメントと重なるものであり、規律と柔軟性・変革性を

兼ね備えるために不可欠なマネジメント構成であると言えよう。

■ 主説明変数

A7①-2: 起業活動仕組み促進

A7②: 起業活動程度

A7③: 起業の教育機会

A7④: 定期的ビジネスプラン発表場

A7⑤: 起業支援程度

■ 促進マネジメント変数 (追加) A1Ⅲ①:“グループ活動の目的明示” A1Ⅲ③:“グループ活動の結果報告” A1Ⅲ⑥:“グループ活動評価基準明示” A2③: “コーディネーター存在程度”

A5①: “自発的コミットメントの存在”

A5②: “幅広い体験”

A6④: “重複活動奨励程度(冗長性)”

A8①-2: “社内での権限地位向上報酬”

A8③: “外部へのインセンティブ”

B1②: “チーム⇒組織の知識移転程度”

B1③: “組織⇒外部個人の知識移転程度”

B1④: “外部個人⇒外部コミュニティの知識移転程度”

B1⑤: “外部コミュニティ⇒組織の知識移転程度”

B1⑥: “外部県境⇒個人の知識移転程度”

B3③: “組織外コンセプト評価程度”

図表16 企業パフォーマンスを向上させる起業場マネジメント

起業活動仕組み促進

起業支援

定期的ビジネスプラン

発表場

起業教育

起業活動程度

起業場マネジメント

業績インディケーター

関連マネジメント

開発インディケーター

関連マネジメント

ガイディング機能

促進ナレッジ・マネジメント

社内での地位権限向上

インセンティブ

重複活動奨励

(冗長性)

外部個人⇒外部C

の知識移転

ナレッジ・マネジメント

目的明示

評価基準明示

自発的コミットメント

外部C⇒組織

の知識移転

活動結果の報告

コーディネーターの存在

幅広い体験

外部へのインセンティブ

チーム⇒組織

の知識移転

外部環境⇒個人

の知識移転

外部コンセプトの評価

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第3項 アンケート調査結果による仮説検証まとめとインプリケーション 第2項では相関係数分析により仮説の予備検証を行った。本項では、これらの結果を取

りまとめ、そしてインタビュー調査対象企業選定を行うこととする。また、相関分析から

のインプリケーションとして、企業パフォーマンスに影響をあたえかつそれぞれのマネジ

メントが強い相関で結ばれるマネジメント群を抽出し、ナレッジ・コミュニティに組み込

むべき因子を理解することとした。

■ 仮説の予備検証まとめ まず、仮説①についてであるが、予備検証からは本仮説は概ね正しいとの示唆が得られ

た。また、興味深い発見としては、内部での知識創造が業績に繋がらないとの示唆である。

これについては、インタビューにて調査することとする。 仮説②については、インフォーマルな活動が特に重要とはいえないとの示唆がえられた。

よって、本仮説はほぼ棄却されたと考え、以下では内外でのグループ活動に関するマネジ

メントの中で、どのマネジメントがより業績・開発促進に有効かを明らかにすることとす

る。現在のところ、内部でのグループ活動よりは外部との活動がより有効であり、組織の

意図として外部活動を奨励することがもっとも効果的であるとの示唆を得た。また、活動

の認知行為が開発促進に繋がるとの示唆がえられた。さらに、グループ活動全般にかかわ

るマネジメント項目としては、活動目的そして活動の評価基準を明確に打ち出すことが非

常に重要でありかつ自発的なコミットメントを創発させることも重要であると示された。

また、開発促進には、グループ活動への参加資格の明確化、グループ間交流、仮説検証型

学習が特に有効との示唆が得られた。 仮説③については、知識創造には欠かせない要因である信頼構築のマネジメントの有効

性が確認され本仮説は支持されたといえる。そして本アンケート調査の結果からは、多様

性の確保と他者理解に基づく協調性の促進が重要であると考えられ、具体的には自発的な

コミットメント、幅広い体験・冗長活動の奨励、コーディネーターの配置・外部組織への

インセンティブの付与などが有効との示唆が得られた。 仮説④については、外部と創りあげたコンセプトの評価に対しては、業績・開発ともに影響を与

えるものであり、企業パフォーマンス向上には欠かせないものとの示唆が得られた。 また内部で創

りあげたコンセプトの評価に対しては、開発インディケーターに対しては影響をあたえるものの業績

には影響をあたえない。 よって、本仮説は支持されたといえ、得に外部と創りあげたコンセプトの

評価は非常に重要であるとの示唆をあたえるものである。

また、特に開発を促進し、かつコンセプト評価に影響を与える促進的なマネジメントとしては、仮

説検証型の学習・推進そして失敗体験の分析共有化であると示された。一方、コンセプトの評価マ

ネジメントに強い相関はないものの、定期的ビジネスプランの発表や起業の支援、外部からの知識

移転を行うことにより、企業パフォーマンスを向上させることが可能と推察された。

仮説⑤については、起業できる人材を多く育てることは重要な要因ではなく、起業がで

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きる能力・意志がある人を活かすことが企業パフォーマンスの向上には有効であることが

示された。そして、定期的ビジネスプラン発表の場を設定し、かつ人材・資金・アドバイ

ス・起業の為の障害の除去などの起業支援が十分得られることが非常に重要との示唆を得

た。また、この二つの起業マネジメントを強化するための促進マネジメントとしては、活

動の目的明示・報告実施・評価指針明示などの活動マネジメント、多様性・自主性を促進

するマネジメント、そして外部との知識移転や外部へのインセンティブ付与など外部知識

創造のマネジメントが有効であると示された。 ■ インタビュー調査対象企業 アンケート回収企業中、インディケーター値が高い企業であり、かつ仮説項目に対し積

極的な活動を実施していると推察できる企業をインタビュー調査企業として選定すること

とした。以上の観点からインタビュー調査対象企業として、バンダイネットワークス株式

会社を選定することとした。本企業は、その業界特性および企業戦略から外部からの知識

移転そして内部での知識創造が活発に行われていると推察されるものである。 ■ 相関分析によるインプリケーション(ループ状強相関マネジメントの抽出) インタビュー調査にすすむ前に、相関分析を発展させ、「ループ状強相関マネジメント」

の抽出を行う。ループ状強相関マネジメントとは、業績・開発に有効なマネジメントで構

成され、かつそれぞれのマネジメントどうしに高い相関がみられ、それぞれが連続的な環

構造をとるものと定義づける。以下具体的に抽出過程を示す。 本章、第2節第1項にて、業績および開発に大きく影響を与えるマネジメントを抽出し

た。その内、個々のマネジメントが互いに影響を与え合うものを抽出し、ループ状(多角

形を描くもの)に強化しあうマネジメント群を抽出する。抽出に際しては、相関係数が高

いペアー(相関係数 0.70 以上)を基軸として、その他の相関性が高い項目(相関係数 0.60以上)にてトライアングル(環構造)が構成されるものに注目し、できるだけ多くの要素

を取り込める構造体を構築した。抽出の結果、以下の2つのモデルが浮かび上がった。尚、

図表19に業績・開発ともに影響を与えるマネジメント間の相関係数を示しておく。 ☐ 外部知識創造ループ 本ループは、“外部とのコンセプト作り&外部コンセプトの評価”を基軸とし、外部対話

および外部コミュニティ⇒組織への知識移転マネジメント、にて構成される。つまり、こ

のマネジメント・ループは外部の知識移転・知識創造に関する要素にて構築されており、

企業パフォーマンスを向上させる外部との知識創造についての重要な枠組みを示している

と考えられる。 下図にこの枠組みを示す。尚、各マネジメント項目をつなぐライン上に

相関係数を示しておく。

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☐ 行動ガイドラインループ

二つ目の枠組みは、高い相関を示すマネジメントの組合せである“グループ活動目的明

示&グループ活動の評価基準明示”、そして“自発的コミットメント&活動結果の報告”、“コ

ーディネーターの存在&チーム⇒組織への知識移転”、さらには“自発コミットメント&評

価基準明示”、“目的明示&チーム⇒組織への知識移転”、“コーディネーターの存在&目的

明示”、“活動結果の報告&チーム⇒組織への知識移転”によって構成されている。この枠

組みを構成しているマネジメント項目を見ると、グループ活動における活動の指針、そし

て構成メンバーが取るべき態度で構成されているととれる。つまり、この枠組みはナレッ

ジ・コミュニティなる組織の行動をガイディングするマネジメント・ループであるといえ、

コミュニティの設計には不可欠な要素であると言えよう。

行動ガイディング・ループ

評価基準明示

自発コミットメント

活動結果の

報告程度

チーム⇒組織

の知識移転

コーディネーター

の存在

0.80

0.79

0.70

0.71

0.73

0.70

0.58

0.68

0.62

0.60

0.64

0.68

0.670.65

0.65

0.72

0.62

定期的ビジネス

プラン発表場

0.63目的明示

以上2つのマネジメント・ループについて示してきた。そしてつまりは、これらのルー

プ状強相関マネジメントを構築することによって、業績・開発ともに向上するナレッジ・

コミュニティが構築可能と考える。

図表18

図表17 外部との知識創造・ループ

外部との

コンセプト創り

外部コンセプト

の評価

外部C⇒組織

の知識移転

外部との対話

0.68

0.66

0.580.56

0.67

0.90

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外部G活動意図促進

外部キー

マンとの対話

目的明示

活動結果報告程度

グルー

プ活動の評価基準明示

コー

ディネー

ター

存在

自発的コミ

ットメント

幅広い体験

自己変革仕組み促進

重複活動奨励程度

定期的ビジネスプラン報告場

起業支援

社内での地位向上

小額の金銭報酬

外部へのインセンティブ

チー

ム→

組織

外部個人→

外部C

外部C⇒組織

外部環境→

個人

企業外対話程度

企業外コンセプト創り

外部コンセプトの評価

外部G活動意図促進 1.00

外部キーマンとの対話 0.16 1.00

目的明示 0.46 0.19 1.00

活動結果報告程度 0.61 0.13 0.68 1.00

グループ活動の評価基準明示 0.45 0.30 0.80 0.67 1.00

コーディネーター存在 0.45 0.29 0.70 0.62 0.60 1.00

自発的コミットメント 0.42 0.31 0.68 0.79 0.72 0.51 1.00

幅広い体験 0.30 0.08 0.32 0.63 0.29 0.36 0.61 1.00

自己変革仕組み促進 0.18 0.20 0.24 0.35 0.42 0.29 0.24 0.08 1.00

重複活動奨励程度 0.09 0.12 0.65 0.35 0.55 0.40 0.47 0.24 -0.02 1.00

定期的ビジネスプラン報告場 0.31 0.16 0.63 0.65 0.62 0.58 0.64 0.47 0.14 0.62 1.00

起業支援 0.18 -0.18 0.34 0.30 0.33 0.27 0.24 0.17 0.17 0.40 0.58 1.00

社内での地位向上 0.19 -0.33 0.13 0.32 0.22 0.08 0.19 0.29 0.18 0.29 0.42 0.47 1.00

小額の金銭報酬 0.44 -0.06 0.13 0.42 0.15 0.02 0.29 0.17 0.18 -0.13 0.31 0.35 0.19 1.00

外部へのインセンティブ 0.23 0.14 0.42 0.43 0.47 0.50 0.48 0.45 -0.01 0.52 0.45 0.23 0.35 -0.26 1.00

チーム→組織 0.42 0.04 0.71 0.70 0.55 0.73 0.62 0.48 0.20 0.37 0.48 0.27 0.07 0.14 0.49 1.00

外部個人→外部C 0.32 0.18 0.40 0.36 0.33 0.55 0.32 0.12 0.13 0.28 0.61 0.59 0.25 0.32 0.32 0.36 1.00

外部C⇒組織 0.53 0.01 0.56 0.53 0.38 0.58 0.47 0.14 0.07 0.30 0.54 0.53 0.27 0.45 0.34 0.60 0.79 1.00

外部環境→個人 0.37 0.07 0.41 0.35 0.36 0.62 0.35 0.27 0.15 0.10 0.45 0.35 0.13 0.30 0.31 0.59 0.56 0.67 1.00

企業外対話程度 0.59 0.10 0.52 0.42 0.28 0.48 0.45 0.13 -0.12 0.16 0.22 0.29 0.16 0.28 0.33 0.50 0.40 0.68 0.43 1.00

企業外コンセプト創り 0.52 -0.11 0.52 0.46 0.39 0.49 0.38 0.30 -0.24 0.38 0.38 0.30 0.42 0.11 0.63 0.50 0.35 0.56 0.35 0.67 1.00

外部コンセプトの評価 0.54 -0.11 0.45 0.45 0.32 0.53 0.36 0.28 -0.25 0.35 0.42 0.31 0.43 0.18 0.53 0.48 0.44 0.58 0.43 0.66 0.90 1

第3節 インタビュー調査 第1項 はじめに 第2節後半にて、アンケート回答企業の中でも企業パフォーマンスが高く、知識創造活

動を通じて新規事業開発を上手く行っていると考えられる企業をインタビュー調査の対象

企業として抽出した。 本節では、インタビュー調査結果を示すこととする。インタビュー調査にあたっては、「新

規事業開発のプロセス」をヒヤリングベースとし、「企業内外でのグループ活動を通じた知

識創造活動」を調査するものとした。また、仮説検証としての質問を通じて“より具体的

なナレッジ・マネジメント”として重要なものを抽出した。 第2項 事例研究(バンダイネットワークス株式会社) ■ 企業概要 バンダイネットワークス株式会社(大下聡 社長)は、玩具メーカー 大手の株式会社

バンダイの関連会社として、2000 年 9 月に設立、2003 年 12 月にジャスダック市場に上場

を果たした。同社は、キャラクターを活用したモバイルコンテンツ事業を中核に展開して

おり、現在はモバイル・e-コマース・ソリューション・新規事業関連の4部門を設置してい

る。その中でも特に、キャラクター配信の「キャラっぱ!」は国内 大の 400 万人を超え

る加入者をほこり、携帯電話向け有料コンテンツ配信としては 大の加入者数となってい

る。そして携帯電話でのキャラクターアイテム通販、3次元画像構築ソフトの提供、新規

事業としては、レストラン情報のクチコミのサイトを展開中である。

図表19 業績・開発に影響を与えるマネジメントの相関係数

本事例研究は、桂川氏へのインタビューを元に、株式会社バンダイおよび株式会社バンダイネットワークスの有価証券報告書、

アニュアルレポート、ホームページ、新聞記事、雑誌特集により作成している。

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そしてこのような事業の展開により同社は、平成 16 年 3 月期には売上高 10,136 百万円、

営業利益 1,695 百万円(営業利益率 16.7%)を計上、社員数 94 名、時価総額 27,467 百万

円となっている。この数値と同社が属する情報通信業種の平均値との比率をみても(株式

上場業種の平均値との比)、営業利益率で 1.57 倍、一人当り営業利益額 2.84 倍、一人当り

時価総額で 4.0 倍と高いパフォーマンスを示しているといえよう。また、2005 年 3 月 31日現在の資本金は 1,113 百万円となっている。 一方、同社の親会社であるバンダイは、 大の強みであるキャラクターを中心とした、

キャラクターマーチャンダイジングを戦略の中心においている。そして、新・中期経営計

画(2003 年から 2006 年 3 月期)にもあるように、事業のエクスパンジョンを実現するた

めに、ブランド力の強化・合併・提携・ポートフォリオ経営の強化(事業・地域・キャラ

クターに関する3つのポートフォリオ)を意欲的に推進し、“世界一の感動創造企業”を目

指すことを宣言している。また、人材戦略でも外部のクリエーターの積極的活用と内部人

材の意欲や能力向上を推進するため、さまざまな仕組みを展開している。従って、このよ

うな親会社の戦略・DNAを受け継いだ同社も同様に、キャラクターマーチャンダイジン

グ、提携戦略そして提携による知識創造のプロセスには特徴があると考えられる。 ここで、簡単に同社設立の経緯を示しておく。同社が、モバイル向けコンテンツの配信

事業を開始したのは、㈱バンダイの一事業部であったニュープロパティ開発部(平成 10 年

4 月設立、平成 12 年 4 月メディア統括部に統合)においてであった。ニュープロパティ開

発部は、㈱バンダイの子会社であった㈱バンダイ・デジタル・エンタテイメント(平成 8年 1 月設立、平成 10 年 11 月特別清算)が行っていた通信ネットワーク事業を継承し、同

時に新技術の開発および新分野での新たな事業展開を目的に研究開発活動を行ってきた。

その中から、平成 11 年 3 月に、現 NTT ドコモの提供する携帯電話機インターネット接続

サービスである“iモード”向けにゲームコンテンツの有料配信サービスを開始し、続い

て平成 11 年 6 月からは上述の「キャラっぱ!」シリーズのサービスを開始した。その後平

成 12 年 4 月、ニュープロパティ開発部内のネットワーク事業が分離され、ネットワーク事

業部が設置された。そして平成 12 年 9 月にネットワーク事業に経営資源を集中し事業展開

を行うことを目的として、産業活力再生特別措置法の活用により、ネットワーク事業部が

㈱バンダイより分社化され同社が設立された。

■ インタビュー調査実施日および面談者について 実施日 2005 年 8 月 5 日 場所 バンダイネットワークス株式会社 本社(東京都千代田区) 面談者 経営企画室 経営戦略チーム

桂川 繁樹 アシスタントマネジャー 同氏の略歴

三菱信託銀行にて証券系の投資ファンドを運用そして未公開企業ファンドへの取り組

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みの体験(約 9 年)から、上場直前のバンダイネットワークスに転職。同社の IPO に関

わり、また社内管理システム、人事制度を構築(約 5 年)。現在は経営戦略の立案に携わ

りアライアンスや M&A 戦略を担当。 ■ 失敗から学ぶアライアンスリーダーシップ(中核事業の開発事例) バンダイネットワークスの中核事業である、キャラクターコンテンツ配信サービスの開

発経緯を踏まえ、同社の知識創造プロセスをみることとする。 「この事業を成功させるには、著作権保護・メディアの確保・情報技術の3つの要因が

ポイントであった」携帯電話へのコンテンツ配信の開発プロセスそして成功要因を質問に

対し経営企画室・桂川氏は、このように説明をはじめ、そしてこの開発を通じて「キャリ

ア(NTT ドコモなどの携帯電話事業者)とともにサービス・ユーザーニーズを理解し、有

料コンテンツ配信に対するビジネスモデルのガイドライン(骨格)を作り上げた」と中核

事業の開発を語った。 当初キャリア側は、iモードには金融・ニュースでの需要を期待し、同社が提供するよ

うなエンタテイメント性の高いコンテンツ展開についてはほとんど重要との認識をもって

おらず、エンタテイメント分野では一社くらいあればいいのではないか、との意見が多か

ったという。そしてその一社として同社が選ばれ、キャリア側からの提案が持ち込まれる

こととなった。キャリアが同社に注目した理由、それは、同社が子供向けのキャラクター

を展開しており、公的秩序に反するものは配信しないだろうとの安心感、それだけから提

案が持ち込まれたのだと同氏はいう。しかし、このようにキャリア側から持ち込まれた絶

好の機会ではあったが、この様な事業に対し同社は大きな課題を認識していた。同社はコ

ンテンツビジネスにおける著作権(版権)の重要性を深く理解しており、著作権保護が確

立できない限りこのビジネスは不可との判断をしていた。つまり、コピーガードの技術確

保が不可欠であったのだ。もともと携帯電話はクローズド・ソフトウェアであり、コピー

ガードは行いやすい。しかし、当初キャリア側にこの認識はなかったという。結果的に携

帯電話メーカー、キャリアとの共同ワークによりシステムが完成し、同社はモバイル機器

へのコンテンツ配信を実現させることとなる。インフラを保有し絶大な決定権を持つキャ

リア、そして機器の開発を担うメーカーに対し、バンダイ側はどのようにリーダーシップ

をとることができたのであろうか。 それに対して同氏は、ピピン事業の大失敗からの教訓によるところが大きいと説明付け

る。ピピン事業とは 1996 年に発売した通信機能付き情報端末「ピピン・アットマーク」を

用いた“TVがインターネットに繋がる”という家庭用インターネット関連事業であり、

結果的に 270 億円あまりの損失をもたらし撤退した新規事業であった。そして何を隠そう

同社はピピンの失敗組みから成る集団であるという。そしてまた、この損失はバンダイ本

体が瀕死の危機に陥った原因となったものである。「ピピンのコンセプトはよかった。しか

し開発経験のないものまで全て自前主義でやるリスクが大きすぎた」と同氏は語る。そし

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て同社はここで、自前主義ではリスクが大きくなる可能性があること身を切って学習した

という。そして、アライアンス主義を戦略の中心にすえることにしたのである。もちろん、

全て自前主義といえど、当初から提携戦略に積極的であったバンダイは、ピピン事業に際

しても、アップル、ネットスケープ、NECとの提携を行い、プロディユーサー的役割を

演じようとしていた。しかし、この提携には大きく欠落した要素がある。当時の日本の状

況では、米国などに比べきわめて高い通信料金が設定されていた。つまり、ユーザーから

みればピピンアットマークチャネルの料金がいくら安くても、心置きなくインターネット

を楽しむには電話料金が大きな障壁として存在していた。また、もう一つの要因として値

段設定がある。通信機器の価格としてはパソコンよりは安いが、通信機能をもったゲーム

機(例えば“セガサターン”など)に比べると 6 万 4800 円と割高となっていた。そして、

各社との提携に対するライセンス料がどうしても発生するため量産効果が発揮できなかっ

た。そして 大の問題と言われるのが、同社グループの戦略資産(強み)を活用できなか

ったことである。ピピン事業はゲームを主軸においていなかったため、同社グループが抱

える人気キャラクターを積極的に活用できなかったのである。 このように様々な要因が絡みピピン事業は失敗した。しかし同社グループはアライアン

ス主義の元、さまざまな失敗から学び新たなアライアンスの心得を獲得することになる。

つまり、アライアンスの相手企業の喜びどころが少しずつ理解できるようになったと同氏

は言う。そしてその具体的な事例としては後述する“外部との収益シェアモデル”が代表

的といえよう。そしてこの心得に関連して、同社のリーダーシップを高めることとなった

のは、本業界で も価値がある“版権”を同社が抑えているという事実からである。「コン

テンツでは版権が全てですよ」と同氏が言うように、キャラクターを活用した玩具や映像

などでは版権の確保がなければ始まらないといっても過言ではない。しかも も価値を生

み出すには、“何を”ではなく“何の”、つまりどのキャラクターのものかということが重

要となる。このような業界のキーファクターの確保そしてアライアンス元、特に著作源権

利をもつパートナーの喜びどころの理解、そしてその実践によって同社はアライアンスリ

ーダーシップを身に付けてきたといえよう。

同社の中核事業であるモバイルコンテンツ配信での成功要因は、もう一つあると同氏は

言う。エンタテイメント業界は入れ替わりが激しく通常プロジェクトに失敗した場合、解

雇となるか、解雇にならないまでも様々な部署に人員が振り分けられることが多いという。

しかし、同社は人員の解雇も分散も軽度にしか行わなかった。それどころか新規事業をさ

らに継続させたのである。これに関して同氏は「もともと、1回や2回の失敗は許容する

社風だが、270 億という損失でよく退職させなかったものだ」と同社の社風を説明する。 上述したようにピピン事業のコンセプトはよかったと評価されている。しかし推進方法

が悪かった。そして、同社ではピピン事業で獲得した経営資源を活用すべく、事業の転換

を失敗組みにゆだねたのである。しかしこれが功を奏した。ピピン事業で獲得した通信技

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術、そして新たなアライアンス能力の獲得そしてバンダイの強みであるキャラクターを前

面に押しだし、同事業業態の再構築を行った。そしてそれがモバイルコンテンツ配信事業

となったのである。「失敗組みに再チャレンジさせたのは、ある種見せしめ的なものだった

かもしれません。しかし、メンバーは背水陣と認識し、何くそっていう感じでしたね」と

同氏が言うように、失敗体験から学び、苦手なところはうまくアライアンスで補いそして

同社が属する業界でもっとも価値がありかつ同社がもっとも得意とするキャラクター・版

権の活用に特化した。これが成功要因であったといえる。 ここで同社グループの特徴的な戦略を示す。「版権の管理」の重要性を理解したキャラク

ターマーチャンダイジングは同社グループの強みといえる。“戦隊もの”がその代表例とな

っているように、同社はTV放送枠を長期的に買い取り、そこに自由に企画(番組)を流

すという戦略をとっており、攻めのマーチャンダイジングを可能としている。そしてこの

ような戦略はこれまでのところ同社以外は実践しておらず、同社グループの特徴となって

いた。近年ではエンタテイメント業界での競合であるコナミがこの手法を取り入れだし、

本手法の有効性が認知されてきたとと言う。 このようなマーチャンダイジングをすすめる上で、同社グループには強力なツールが存

在する。それは、グループ会社“ハピネット”がもつ流通網である。玩具のライセンス料

とは一個あたり何円との設定が多くライセンス量は従量制が多い。また、版権元はキャラ

クターの知名度向上に繋がる活用を期待する。従って版権元は、ある程度、量を流通でき

る企業と組みたがる。このとき同業界 大の流通網をもつハピネットが大きい意味をなす。

またこれは流通情報の確保にも貢献し、市場の動向の理解そして流通量の制御によるブー

ムの管理にも貢献し、さらにはブームを意図的に起こすことも可能となる。つまり、同業

界 大の流通網によって版権元は流通量を期待でき、版権を安心して提供できるのである。 このようにキャラクターの確保は非常に重要な要因であり、同社独自の版権については

喉から手がでるほどほしく、死活問題でもある。このような意味においては、ゲームはシ

ナリオから商品まで一手に手がけられものであり、つまりはメディアを操作できることに

なる。これがまさに同社と合併を果たしたナムコのビジネスであった。つまり、ゲームと

いう One on One メディアの獲得はある意味、映画より影響力があると同氏は語り、ナムコ

との合併効果を説明する。 以上のように失敗に学びアライアンスリーダーシップ能力を強化している同社であるが、

今後は新しい切り口として、コミュニティ・サイトを運営していく予定であるという。 同社は、中核事業の確立によって携帯電話というネットワーク世界を手にいれた。そして

ネットワーク世界の本来もつ威力とは相互コミュニケーションだと同氏は言う。そして同

社のコミュニティサイトビジネスは、基本的にはキャラクターとは切り離して展開し、サ

イト自体は提携・M&Aにて獲得する予定という。今後コミュニティビジネスの成功に向

け、どのような失敗を同社が体験するのか。新たな失敗が同社の成功をより確実なものに

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育て上げるのであろう。 ■ 開発プロセスの特徴 次に同社の製品開発プロセスの特徴を見ていくこととする。 同社は基本的には企画立案企業であり、製品の製造は外部に委託している。この企画と

は基本的には社員一個人から提案されるものであるため、個人の能力によるところが大き

いと同氏は語る。個人のアイデアは次の段階でコンセプトとなりその後プロトタイプが創

られ、そしてコンセプトの作成には主に次の3つのパターンがあるという。 A:思いつき、B:雑談や対話の中での盛り上がりによる、C:外部からの持込 例えばBのパターンの場合、同僚と飲みながら書いたポンチ絵が『たまごっち』となった

という事例もある。同社の場合、基本的にはコンセプトは個人のごり押しで作成されるが、

その後チームでの対話によりさらに創りこまれる場合もある。そしてコンセプト作成後作

られるプロトタイプは、対話の促進そして次に述べるコンセプト評価において非常に重要

なものとなる。つまり、プロトタイプの存在により対話が促進されかつ玩具ならではの感

覚的な評価が実施可能となる。 同社のシステムでは、プロトタイプ作成の後、上位にいるキーマンの評価を受ける。こ

のキーマンとは、元企画スタープレイヤー(4 割 5 割のヒット率を誇る元企画マン)であり

目利き人として存在する。この目利き人の評価をクリアーすれば、前述のハピネットや構

築済みのネットインフラを通じ、製品が一気に市場に流通されるという。この目利き人は

一人で判断するときもあるが、数人で判断を下すときもある。プロトタイプ作成までは個

人レベルの裁量に任されてはいるが、目利きによって棄却されれば、それで終わりという。

このように、同社の開発プロセスからは、コンセプト創造の自由度とコンセプト評価への

独自のリーダーシップ(評価スタイル)が見て取れよう。 ここで、上述のような自由な発想を育成するための興味深い人材活用制度について示す。

もともとバンダイグループは企画中心の会社であり、自由な発想を奨励、失敗を許容し

おもしろいことを考えようという文化がある。そしてこの文化をさらに開花させるための

取り組みとして感動創造論文という制度がバンダイグループにはある。この創造論文とは、

個人的に好きなことや興味深いものを論文として会社に提案できる制度である。実際この

制度を活用してバランス・スコアー・カードが導入された。また、産業活力再生特別措置

法をつかい、ピピン事業の失敗を活用した会社設立スキームが提出され、同社設立の際に

採用されたという事例もある。たまたまメンバーの一人がこの法律をしり、感動創造論文

とし提出、結果的に本法律の国内2番目の活用事例となったという。 このような提案制度は、会社へのロイヤリティーを高め、多くの内在する発想を世に示

す場となっているという。特にこれまで社内レベルはで当たり前にしていた創作活動の場

を社内からグループ会社全土レベルまで広げて探索、協力する意識が芽生えたという。

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■ ナレッジ・マネジメント質問領域での具体的事例 ナレッジ・マネジメントに関するアンケート調査における11の質問領域(A1~A8 お

よび B1~B3の質問項目)について、インタビュー調査の結果を示す。 ☐A1 グループ活動 内部でのグループ活動は活発であり、日常的に対話もある。例えば、中年男性が女性人

形の髪の毛について、「髪の毛は、金髪でないと売れないよ」などと熱く持論を語るシーン

は日常的にみられる光景であるという。また、ケースでも説明されたように、コンセプト

評価段階までは活動の自由度は非常に高い。よって公式か非公式かについては、大きな違

いがなく特に影響をあたえるものではないという。 アライアンスを上手くリードすることに強みをもつ同社は、外部との活動は非常に多く、

当たり前の活動となっている。そして企画とは外部との連動が不可欠な業種であると同氏

は語る。そして、外部との活動の際、外部キーマンとの対話も当たり前の行動であるとい

う。しかし、外部へのテーマの投げかけについては、アンケート回答の平均値より同社の

活動は下回るとの回答であったため、詳細を確認した。例えば、携帯電話における技術開

発に対しては、具体的な開発テーマを投げかけることは技術開発の選択の幅を狭めてしま

うため、良いものができない可能性がある。従って、仮説としてのテーマを伝え、あとは

自由に開発してもらっていると言う。そして同社自身も、キャリアからの指示も基本的に

はもらい受けておらず、逆にキャリアを動かすイニシアチブを執っているという。これに

は、同社が手がける製品に関して、 も付加価値を生み出すキャラクターコンテンツでの

経験が豊富であり、アライアンスリーダーの立場が取れるためであるといい、高打率バッ

ターであるキーマン(目利き人)の存在は非常に大きいと語る。このような外部の活用に

ついて、同氏はリスク分散の要素が強いと説明するが、エンタテイメント製品は無くても

よいものであり、かつ短命のものが多いため、大きなリスクとならないとも付け加えた。

そして投入金額が小さいものが多く、あえて主体的リスクをとれるという意味であること

も付け加えた。 また、同社の企画はボトムアップ型である。しかし、技術要素はトップダウンで決まる

ことが多いと言う。同社の場合、ハードは自社開発していない。よって多くの場合は新し

い技術をどれにするかの選択することに迫られる。そして技術は一度決めてしまうと、後々

変更ができないことが多く、投入金額も大きい。つまり、技術選択はリスクが大きいため、

トップダウンで決定するのだと言う。 ☐A2-A4 多様性容認活動、アウトプット活動および学習活動 人材の多様性について同社の特徴を同氏に確認したところ、過去、社内にて行った社員

の意識調査の分析結果を踏まえ、人材の組み合わせはリスクとリターンの関係が適応でき

るとの説明を受けた。つまり、開発企画に関しては、異端児的(尖った)人材がより成功

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確率が高いという。しかし、システム開発など確実な達成が可能なものについては尖って

いない人材がより良い結果を生むいう。ここでも同氏はエンタテイメント業界(なくても

よい、一か八かに挑戦可能)での企画(アイデア重視)に限ってと強調した上で異端人材

のリターンの高さに言及した。そして業績をあげるには、この二者の共存・役割分担が不

可欠であるとし、リスクを極力減らすことが不可欠との考えからこのような補完的、事業

網羅的な人材組み合わせが理想的であると語る。 一方、同社内でのアウトプットについては、基本的には自分よがりの考えのメンバーが

多く、批判的な意見がでやすいという。そしてこのように、他者からのアウトプットに対

しては独自の見解を常に表現する人材が多く、その意味においてリアクションは豊富とい

う。また前述した様に、企画という業務がら日常がアウトプットの場となっている。そし

て、アウトプットが活発になる状況例として、「月末 30 日締め切り 1 ヶ月納期の仕事に対

し、28 日まで手をつけず、結局土壇場の 2 日でやってしまうことも多い」とし、締め切り

設定など目標管理の設定の重要性を説明した。 学習活動については、特に強要はしていない。しかし、エンタテイメントの世界は幅広

い知識や興味が不可欠であり、学習行為は文化として根付いている。その一例として、バ

ンダイグループが設定しているラスベガス体験学習などがあげられよう。 ☐A5-A6 信頼構築活動および自己変革活動 同氏によれば、上述したように幅広い知識を身に付ける社風となっていると言う。そし

て企画の仕事がら、自発コミットメントは皆が当たり前のように日々行っている。ここで

は、同社同業界での特徴として、プロフェッショナルチームを作るときの特徴をきいた。

プロフェッショナルチームを作るときには、プロ同士を組み合わせることが不可欠という。

そしてプロとは相手を認めることができ、かつ結果を残せる人であると強調する。同社同

業界の業務は、段階的な判断段階(マイルストン管理)が存在するというが、プロはそれ

ぞれのステップで確実に結果を残すと言う。そしてこのステップ毎の結果により、プロで

あるとの信頼を得ることが可能となるという。幅広い知識が信頼を生むか、との事実確認

を行うと、プロ同士のチームにおいては幅広さより知識の高さが問題であるとし、各プロ

フェッショナルの能力の高さは、ステップ毎の成果によって他のプロに認識されると言う。

問題なのは、この高さのレベルが組み合わせたプロの間で合わない場合であり、このとき

信頼構築はかなり困難となる。そして、この問題の解決は通常ディレクターやプロデュー

サーの仕事、つまりコーディネーターの出番となる。解決策の一つは、高さの低いプロを

入れ替えるか、レベルの高いほうが低いほうに合わせるかを選択することが多いという。

結局認め合うためには、この高さのレベルつまりプロとしての能力差がないことが不可欠

であり、一方でコーディネーターのリーダーシップの問題となるという。 また、同社には失敗を許容する文化がある。そして、幅広い知識の獲得を奨励している。

この意味においては、自己変革の可能性を秘めているといえる。

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☐A7 起業活動 新製品開発は起業であるとの視点をもてば、同社は業務自体が起業であり、OJT的に

教育はなされる。また、バンダイグループに目を向ければ、関連会社であるバンダイチャ

ンネルは、社内からの提案を受け、起業支援が得られて立ち上がった会社であった。バン

ダイ自体、もともと数社が融合してできた企業であり、分社化などの起業的行為も盛んで

ある。つまり、やりたいことを提案し認められれば起業可能となる、文化が浸透している

と言う。従って、改めて起業知識や起業意欲を身に付けなくてはいけないとの認識はない

のではないかとの個人的見解が示された。もし、特徴的な起業の場があるとすれば、“感動

創造論文”がプラン発表の場の典型と語る。そして、起業教育という観点でみれば、目利

きによる企画評価が教育の代替となっているのではと推察する。企画の見せ方や演出手法、

そして技術的なものは教育により学べると同業種の状況を説明する。よい企画の立案に関

する暗黙知的ノウハウの移転に関しては、敏腕企画マンの行動、例えばプロトタイプを持

ち込み、企画説明をしている状況を見て学ぶ者は学ぶだろうと語る。そして同業界の企画

マンは実績主義で淘汰され企画力のないものは職を失うことになるため、知識を盗めるも

のだけが生き残っていくのだと言う。 ☐A8 インセンティブ 相関分析の結果、精神的報酬は企業パフォーマンス向上に大きく貢献はしないとの示唆

が得らえていた。そして同社の回答を見ると、精神的報酬を採用している程度が高く、回

答企業平均値より高い値を示していた。よって、本件に関しインタビューにて聞き取りを

行ったところ、実際は成功報酬制を採用しており金銭的報酬は非常に大きいことが分かっ

た。しかし、同社ではこの高額の報酬システムが当たり前となっており、社員に対する独

自の意識調査結果を踏まえ、金銭ではモチベートされない状況にあるという。さらに意識

調査結果を踏まえ、ある金額報酬までは、金銭的欲求があるといい、金銭報酬をインセン

ティブにできる。しかし、ある一定以上の金額報酬になると金銭報酬ではモチベートされ

なくなり、替わって面白い仕事、やりたい仕事への欲求が高まり、精神的報酬を求める傾

向があると説明づけ、「まさにマズローの階層欲求説の通りですね。こんな結果がでるなら、

金銭報酬は低めに設定しておけばよかったですよ」と報酬制度の作成を担当したものとし

て冗談交じりで述べるシーンもあった。 ただし、同社の給与システムにおいては、他の

報酬制度が全くないといい、成果のでないものは解雇される、つまりリスクとリターンの

関係で成り立っている制度であると同業界の特徴を踏まえて説明付けた。しかし、同社で

は一度退社した出戻り社員が意外と多いことから、同社のシステムが同業界のクリエータ

ー達に受け入れやすいインセンティブであるとも言えると語る。 一方、外部へのインセンティブの有効性について聞いたところ、“シェアモデル”という

同社の特徴的なビジネスモデルがあるという。これは原則、利益を均等分配するというも

のであり、同社との版権アライアンスが事実多いのもこのビジネスモデルがインセンティ

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ブになっているのだと分析している。そしてこのインセンティブシステムは、ピピン事業

の失敗などから学んだアライアンスリーダーシップのための独自の手法であるという。 ☐B 知識移転および内部外部での知識創造活動 同社からのアンケート回答では、外部からの知識移転は総じて回答平均値以上であった

が、内部での知識移転は平均以下の数値であった。そして知識創造に関しては内部および

外部ともに平均値を全て上回っていた。このことを踏まえ同社の知識移転・知識創造の特

徴を調査した。 バンダイネットワークスの属する業界での収益の源泉とは、“版権の確保”である。製品

開発の段階では社内での知識創造は活発であるが、社内でいくら良い企画を創っても版権

を確保できなければ収益性の高いものは生まれないという。つまり、社内での知識創造は

開発の促進はするが利益には大きく影響を与えないものであるという。それに反して外部

からの知識移転や外部との知識創造活動は付加価値確保のためには非常に重要であり、特

に版権交渉・版権確保は収益の明暗を分ける要素であるという。また、同社の中核事業で

ある携帯電話へのコンテンツ配信の事例では、携帯電話メーカーそしてキャリアとのアラ

イアンスが不可欠であり、これがなければこのビジネスはなりたたないと語る。そして内

部での知識移転にアンケート回答値が低かったことに関しては、内部での知識移転も行わ

れているというが、外部との知識移転の程度に比べれば活発でない。また、企画は基本的

には個人のアイデアがベースとなって実践されているという。その為、内部での知識移転

をやや弱く表記したとのコメントを得た。 一方、外部とのプロトタイプは開発・収益ともに影響を与えるかとの問に対し、アライ

アンス企業とのプロトタイプ創りは開発スピードやデザインレビューには有効であり、開

発は促進するという。そして外部とのプロトタイプは製品の 終形態に近く開発には非常

に重要であるという。しかし、プロトタイプ自体は収益性確保には大きくは影響しないと

いう。同社およびバンダイでは人気キャラクターであるガンダムのプラモデルを販売して

いる。このプラモデルを例に取れば、ガンダムの版権を確保し、企画を練りこんでプロト

タイプが作成される。しかし、 終的な収益確保にはプラモデルの製造技術がキーとなっ

ているという。これに関して同氏は、「今、ガンダムのプラモデルは、世界中でバンダイの

静岡工場でしか造れないのですよ」と説明し、収益を生み出すのは、プロトタイプではな

く 終的な創りこみ過程である製造能力であるという。そしてまた、同社の中核事業であ

るコンテンツ配信においてはキャリア、携帯電話メーカーを動かし、そして契約条件を有

利に運ぶというアライアンスリーダーシップが収益確保のキーになるのだと言う。 ■ 発見事実 バンダイグループの特徴およびピピン事業の失敗の事例から発見されるナレッジ・コミ

ュニティ要素を示す。

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まず同社には、文化や戦略といった意図により失敗の分析共有化・そして失敗の許容が

浸透している。同社のように失敗から学ぶだけでなく、失敗を許容することによって、自

発的なコミットメントが促進され、かつ信頼関係の構築がなされと期待できるため、良質

のナレッジ・コミュニティが構築されていると言えよう。 また、アライアンスに関しても同社グループでは意図により積極的な推進がなされてい

る。アライアンスにおいては、それぞれの領域で強みがある組織をパートナーに選び、か

つ各社の強みが共に存在することのみによって目的が達成されうる組み合わせを構築して

いる。このことは、単なる補完関係のみならず、アライアンスメンバーへの信頼・尊重が

生まれることが期待される。そして同社がリーダーシップを発揮できるその 大の要因は、 大の付加価値をもたらす、キーファクターを保有・マネジメントができるということで

ある。つまり、エンタテイメント業界においてはキャラクターのもつ力は大きく、そのた

めキャラクターの確保と版権管理(ブランド管理と業態拡大)はもっとも付加価値を生み

出すフィールドである。このようなキーファクターを強みとすることによって、同社のア

ライアンスリーダーとしての地位が確保されている。また、アライアンス・マネジメント

の一つとして、外部へのインセンティブの付与が重要と理解される。上述のキーファクタ

ーの保有もその一つであるが、業界 大の流通網による流通量への期待、大量流通による

キャラクター知名度の拡大、そして後述する収益シェアモデルが外部へのインセンティブ

として抽出された。従って、アライアンスリーダーシップを可能とするためには、アライ

アンスにおける付加価値の源泉となるコア・コンピタンスの確保・育成、そして外部への

インティブの付与が不可欠となる。 次に開発プロセスの特徴からの発見事実を述べる。同社は企画立案が日常業務の中に組

み込まれており、常に企画提案が生まれている環境であるといえる。このように会社の業

務自体が意図となりコンセプトの作成を促進していると考えられる。しかし、同社の企画

活動は個人の能力をベースとしてなされることが多いことから、対話による知識創造プロ

セスの必要性は必ずしも発見できなかった。また、コンセプト作成およびプロトタイプ作

成に関しての裁量の幅は大きく、この裁量が柔軟な企画活動を支えていると言える。つま

り、裁量をあたえることと提案を意図により促すことの共存が必要であると理解できる。 コンセプトの評価に関しては理論的な評価ではないものの、過去の実績の経験則とキー

マンの暗黙知による厳しい評価ゲートを採用している。そしてこの評価システムの存在に

より、より業績への貢献を確実なものにすると理解される。同社の場合、リーダーの責任

と判断がセットとなり、強いリーダーシップによる厳しい評価がなされているといえる。

そしてこの評価システムの基盤には、納得感のある評価基準の設定、そして下した判断に

対する強いキーマンのコミットメントの存在がある。つまり、過去の実績に基づくキーマ

ン(目利き人)の選定そしてキーマンの打率低下による責任付与(降格・解雇)がこのシ

ステムを支えているといえる。さらにこのキーマンによる評価システムがもたらす効果と

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して、コミュニティへの信頼感・ロイヤリティーの醸成が期待できる。つまり、キーマン

は往年のスタープレイヤーであり一種のカリスマ性をもっている。そのカリスマに認めら

れるということは、大きな賞賛に値し組織メンバーからの賞賛が得られたとの認識に繋が

る。つまりメンバーからのコンセンサス型の賞賛でなくても、ロイヤリティーを生み出し

参加意欲を高める仕組みの構築は可能といえる。さらに感動創造論文など、“全社へ影響を

あたえうる提案”を報告する場を儲けることは、一個人の力が組織全体に大きく影響をあ

たえる機会ともなり、コミュニティへの参加意欲・ロイヤリティーが増すものと言えよう。

従って、意図および仕組みにより提案活動を促進し、かつ事業的な成功確率が高まりかつ、

納得感があり容易に理解可能な評価ゲートを設定することが、特に業績向上に重要である

といえる。そしてこの評価ゲートをクリアーすることによって、メンバーからの賞賛が得

られそしてロイヤリティーが向上し、自発的な参加意欲が生まれると期待できる。 第4節 仮説検証結果と考察 統計検証結果とケース分析結果から、仮説に対する検証結論を示す。 ☐検証① 機能存在・知識移転不断絶仮説 相関分析により検証されたように、インタビュー調査においても知識移転の断絶は企画

活動および事業化プロセスでの活動を阻害することが明らかとなった。ケース企業所属の

業界においては、収益向上の源泉は“よい版権の確保”であり、これは外部から導入され

ることが多い。例えば同じゲームを創っても、一代ブランドである“ガンダム”のゲーム

なのかそれともノンブランドキャラクターなのかは、その玩具の付加価値に大きく影響を

与える。一方、内部で優れたキャラクターが創出されれば問題ないが、それも個人の能力

に大きく依存し、グループ活動自体が大きく影響をあたえるものではない。よって、内部

でのグループ活動自体は収益に大きく影響をあたえないといえる。従って、内部での活動

は開発には貢献するが、収益をもたらす付加価値は外部からの知識に影響を受けることが

強いと言えよう。 このことは他の産業についても当てはまると考えられる。現在、市況変化のスピードに

対応するため、多くの企業が自前主義を捨て外部知識の導入に舵を切っており、内部だけ

での知識創造では大きな価値を創出することが困難な時代となりつつある。一方、内部で

キーアイテムをもつことは競争有意性を向上させることに貢献する為、各社強みの育成に

は力をいれている。つまり、内部での知識創造においては独自の技術の獲得や参入障壁の

構築を目指しているといえる。このような内部活動によりもちろん開発は促進され、プロ

ダクトアウトである為、ニーズとのマッチングがなされたときには莫大な収益を生み出す

可能性を秘めている。しかし内部での知識創造活動においては、活動の目的が曖昧となっ

たり、強い主張をする人の意見が承認されるといった可能性もあり、活動の自由度が大き

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い半面、規律の低下を招く可能性がある。そして、失敗プロジェクトの一要因として、内

部のプロジェクトマネジャーなどが目標未達に対して希望的報告を行うような規律の欠如、

そして評価者達の責任分散化による判断へのコミットメントの欠如から、不十分な評価判

断のまま追加投資がなされ、正当な判断がなされないまま継続資金投入がおこなわれ続け

るケースも多いだろう。また、内部での活動は、時として開発行為のみに注力してしまう

こともあり、市場分析・マーケティングや製造といった収益と成長にかかわる重要な要因

を理解せずに実施しているプロジェクトも、特に技術開発系には多いのではないだろうか。 一方、社外とのアライアンス関係構築のような活動には、明確な目的と役割分担が不可

欠である。つまり、事業としての十分な見通しがないままに推進させるリスクが低くなる

と考えられる。このように、内部知識創造と外部知識創造の大きな違いは、コミットメン

トコストの問題として理解できよう。以上から外部との活動がより収益に貢献することが

理解されよう。 また、外部とのプロトタイプ作成が収益向上に貢献しないとの示唆については、ケース

においてもフォローされた。つまり、外部との試作品は製品の 終形態ではあるが、個々

の企業において製造・マーケティングの面で各社に持ち帰り 終検討することが不可欠で

ある。そもそもプロトタイプとは、コンセプトを具体化させるものであり、開発スピード

を早めるのに有効である。しかし、具現化に注力するあまり、後々の製造やマーケティン

グまで十分考えられていない場合も多い。つまり、プロトタイプが完成した後、事業化さ

れるまでの過程で収益に影響をあたえる事業化プロセスが存在すると推察される。よって

プロトタイプの作成自体は開発の促進には貢献するが収益に大きく影響をあたえるものと

は言えない。 以上のインタビュー調査の結果からも本仮説は検証されたといえ、具体的には予備検証

を支持するものである。 ☐検証② インフォーマルワーク仮説(内外グループ活動含む) インフォーマルワーク仮説については、予備検証と同様にインタビュー調査においても

棄却された。つまり、事例研究においても公式非公式は業績・開発に影響を与えないとの

示唆を得た。また、内部外部におけるグループ活動については、検証①でも明らかになっ

たように、特に外部ワークが収益への影響が強いとの示唆が得られた。グループ活動にお

ける促進マネジメントとしては、インタビュー調査からも外部へのインセンティブは重要

との示唆が得られた。また、外部との活動を奨励する何らかの意図が不可欠であり、イン

タビュー調査においても“強烈なアライアンス主義”を戦略・文化として意図していた。

また、外部キーマンとの対話も不可欠との示唆も得られた。そして、外部との活動が不可

欠な理由としてリスク分散という視点も発見された。

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☐検証③ 信頼構築マネジメント仮説 予備検証で明らかになった企業パフォーマンス向上に有効なマネジメントのうち、イン

タビュー調査においても次の項目が発見された。自発的なコミットメントの存在について

は、調査企業では日常的な行為として行われていた。これは、同社の企画が中心業務と言

う性質上のものかもしれないが、自発的行為の存在がコンセプト作成を促進し、そしてそ

の中から評価に耐えうるプランが発見されると言えよう。また、幅広い体験および冗長性

に関しても、明文化されてはいないものの、暗黙の了解として多様な知識の獲得は奨励さ

れていた。また、同業界におけるプロデューサーの存在がいわゆるコーディネーターの役

割を果たしていると考えられる。そして、インタビュー調査から見出された発見事項のう

ち、中心的なものとして“失敗から学ぶ文化”があげられる。以上の様に、予備検証にて

抽出したマネジメント項目がインタビュー調査でも発見された。よって、本仮説項目は企

業パフォーマンスを向上させる要因であるといえよう。しかし、本仮説は本質的な問題を

含んでおり、抽出マネジメントによって信頼が構築されることの立証はできなかった。 ☐検証④ コンセプト評価仮説 予備検証においては、外部とのコンセプト作りそしてそのコンセプトの正当で十分な評

価が業績・開発ともに影響を与えるとの結果が得られていた。インタビュー調査では、活

発なコンセプトの創造とキーマンによるコンセプトの可否判定が下されていた。そしてキ

ーマンとはこれまでに手がけた企画のヒット率が非常に高い元企画マンであり、過去の実

績に基づく正当な意志決定ゲートが設置されていると言えよう。従って同社の評価システ

ムではキーマンの評価を得ることが高業績への重要ゲートであるとの説明が出来よう。予

備検証では、内部コンセプトの評価は開発には有効に働くが、業績への貢献がみられない

との示唆を得ていた。これは、検証①および検証②でも明らかになったように、内部での

知識創造は業績には影響をあたえないとの示唆と同様の意味づけが出来る。つまり、内部

外部どちらで創ったコンセプトかは大きな問題ではなく、正しい評価基準(評価の正当性)

により、厳しくコンセプトを評価することが業績向上には不可欠であるといえる。 インタビュー調査から明らかにされた促進マネジメントとしては、プロトタイプの存在

そして皆が納得しそして確率的に収益に繋がる判断と客観的に見なされ、かつ分かり易い

判断基準の存在である。プロトタイプによって、評価段階での判断のブレが抑制され、製

品の改善ポイントもフィードバックされやすい。また、インタビュー企業では、評価の基

準はキーマンの判断であり、過去の実績に裏づけられた信頼できる評価基準として認識で

きよう。さらに、このキーマンが発見(選別)されるためには、自由度の高い企画提案環

境、そして実績評価のための基準が不可欠であろう。このようにインタビュー企業では、

キーマンの評価が全てであったが、実際の企業で多いと考えられるのは外部からの評価へ

の過度の依存・信頼であろう。特に、注意が必要なのは外部とのグループワークにおける

意思決定プロセスや評価プロセスである。

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一般的に、外部は顧客であったり知恵の源泉であったりする場合が多く、外部の評価や

意思決定を優先してしまう可能性が高い。よって、外部との共同ワークにおいては、その

場の感覚にとらわれないためにも、コンセンサス型の評価を目指しかつ感覚的意見が排除

されるような仕組みとして導入が必要であると考える。そして外部からの高い評価は、新

規事業開発の経営資源組織化プロセスにおいて非常に効力を発揮する要素、つまり顧客や

オーソリティーから高い評価や推薦を受けたものは、企業内部での資源獲得は非常に容易

となるため、特に注意が必要であろう。これには、外部との共同ワークを主体的に運営す

ることや、本研究でも明らかにされたように外部メンバーへのインセンティブの設定も有

効なマネジメントとなろう。 ☐検証⑤ 起業場設定仮説 予備検証では、定期的ビジネスプラン発表場そして起業支援が非常に有効なマネジメン

トであるとされた。インタビュー企業では、日常の業務自体がプラン発表の場であり、ビ

ジネス提案の意識は高くなっていると言えよう。また同質のものとして、感動創造論文が

挙げられる。インタビュー企業では事実この制度により、様々な施策の提案がなされてお

り、また、論文に高い評価を得た場合は、論文案件実現のための強い支援を受けることな

る。一方、キーマンによる可否判断自体がコンセプトや起業プランへのアドバイスとなり、

これもまた起業支援となる。そして、玩具業界 大の流通網をもつハピネットの存在も起

業支援といえよう。以上よりインタビュー調査においても定期的ビジネスプラン発表場の

設定そして起業支援が有効との認識が得られた。 一方、起業教育に関しては、インタビュー企業においても特段なされておらず、その有

効性は明らかにはならなかった。予備検証でも考察したように、起業できる人材を多く育

てることは重要な要因ではなく、起業能力・意欲ある人を活かすことが企業パフォーマン

スの向上には有効であることが示された。 ☐強相関マネジメント・ループの存在 インタビュー企業では、外部との知識創造が活発であった。つまり、外部との対話・外

部とのコンセプト創りを事業活動の中心においており、そしてそのコンセプトの評価はキ

ーマンにより信頼感ある評価がなされていた。そしてもちろん外部からの知識移転につい

ては版権や技術提携、ハピネットの流通情報などを通じ積極的になされている。よって、

インタビュー企業には外部知識創造ループが存在するといえる。 また、行動ガイディング・ループの構成要素のうち、企画活動を通じた自発コミットメ

ント・定期的ビジネスプラン発表場が確認され、キーマンやプロデューサーなどのコーデ

ィネーターの存在も確認される。また、グループ活動における報告も企画書という形で提

出されている。そしてキーマンによる評価、企画の成功に対する報酬システムなど活動の

評価基準が明示されている。一方、企画活動のスタートは個人レベルで推進することが多

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く、グループとしては認識し難い。しかし、外部との活動や内部での公式非公式問わず企

画会議には明確な目的は存在する。チームから組織への知識移転であるが、現在のところ

全社に知らしめるためのノウハウの公開などはない。一方、キーマンの評価ゲートを潜り

抜けた段階においては、製造・マーケティングへの知識移転は一気にすすむため、同社に

はこの知識移転が不要なのかもしれない。従って、チームから組織への知識移転は存在す

るが、プロジェクトなどの組織的なグループワークでは、より積極的な知識移転、特に企

画ノウハウ移転が必要との推察できよう。 以上、強相関マネジメント・ループを確認してきた。そしてインタビュー企業でも強相

関マネジメント・ループが存在することが明らかになった。 第6章 結論と残された課題 第1節 本論文の総括 本研究の目的は、新規事業開発および高業績を創出可能な知識創造企業となるためのナ

レッジ・マネジメントを明らかにすることであった。 その為、第2章でナレッジ・マネジメントに関する文献をレビューし、知識創造の為に

必要な組織的機能・要因を理解し、フレームワークを提示した。つまり、知識を統制する

機能である企業内および企業外部での知識創造コア・プロセス、そして6つの知識移転が

不可欠であり、また、これらのコア・プロセス、知識移転を促進・起動させるナレッジ・

マネジメントの存在が必要とされた。そして、知識統制機能を促進・方向付け・動機付け

る“意図・仕組み・インセンティブ”そして活動を観測・自己補正させる“評価システム”

が不可欠であり、これをガイディング機能としてフレームに加えた。 第3章では、新規事業創出に関する文献をレビューし、新規事業創出に不可欠なプロセ

スを抽出するとともに、知識創造活動により高収益を計上している代表企業をベンチマー

ク分析し、新規事業開発に不可欠なナレッジ・コミュニティ要素として“ビジネス構築機

能”を追加した。 そして第4章においては、本研究で明らかにする5つの仮説を提示した。具体的には、

ナレッジ・マネジメントに関する文献レビューから、①機能存在・知識移転不断絶仮説、

②インフォーマル活動仮説、③信頼構築マネジメント仮説、そして新規事業創出に関する

文献レビューから、④コンセプト評価仮説、⑤起業場の設定仮説を提示した。 第5章では仮説の検証を行った。検証にあたっては、まず先行文献から網羅的にナレッ

ジ・マネジメントを抽出しアンケートを作成した。そしてアンケート回収企業 30 社のデー

タを用い、業績および開発に影響を与えるマネジメント項目を抽出し、相関係数分析によ

り予備検証を行った。そして、アンケート回収企業の中から業績および開発インディケー

ター値が高く、かつ知識創造が活発と考えられる企画主導型製品開発企業としてバンダイ

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ネットワークス株式会社を選定し、インタビュー調査をおこなった。 仮説検証の結果、機能存在・知識移転不断絶仮説は立証された。そして興味深い発見と

しては企業内部での知識創造活動および外部とのプロトタイプ作成活動は開発促進には影

響を与えるものの、業績向上には影響を与えないとの示唆が得られた。インフォーマル活

動仮説は棄却されたが、公式非公式関係なくグループ活動は必要であり、特に外部との活

動は重要との示唆が得られた。信頼構築マネジメント仮説に関しては、設定した説明変数

の全ての有効性は立証されなかったが、5つの有効なマネジメントが抽出された。コンセ

プト評価仮説も有効なマネジメントであると立証されたが、ここでも内部より外部とのコ

ンセプト創り、そしてそのコンセプト評価が特に重要との示唆が得られた。起業場の設定

仮説についても検証された。説明変数とした起業マネジメントの中でも、特に定期的ビジ

ネスプラン発表場および起業支援が 重要と明らかにされた。しかし、起業教育の影響は

大きいとは認められなかった。 さらに、相関係数分析からのインプリケーションとして、業績および開発に強く影響を

与える、外部知識創造ループおよび行動ガイドラインループという2つの強相関マネジメ

ント・ループを発見した。そして、インタビュー調査企業においても本マネジメント・ル

ープの存在が確認された。 第2節 結論とインプリケーション

:高収益新規事業開発のためのナレッジ・コミュニティ・モデルの提示 本節では本研究の結論そしてインプリケーションを述べる。そして企業パフォーマンス

を向上させるナレッジ・コミュニティ・モデルを提示する。

■ 結論 本研究の結果から明らかになったことは、ナレッジ・マネジメントと企業パフォーマン

スの間には相関があり、ナレッジ・マネジメントをうまく行うことにより企業パフォーマ

ンスを向上させることが可能と言うことである。つまりナレッジ・マネジメントとは知識

創造、知識移転を促進するための知識の統制を執り行うトリガーとなり得ると言うことで

ある。 本研究では、このように知識を活用して何らかの興味の対象を発展させていく人的

集合体(組織体)をナレッジ・コミュニティと定義しており、開発を促進し高業績を達成

するためのナレッジ・コミュニティを研究の対象としている。そして、どのようなマネジ

メントを行えばこのような企業パフォーマンスの高いコミュニティが構築可能かについて、

一つの方向性を本研究は明らかにした。つまり、ナレッジ・コミュニティが開発を促進さ

せ高業績を獲得するためには、個々人がもつ知識を融合させ新たな知識を創造し、外部と

の知識移転を通じて価値あるものを共創することが必要である。そしてそのためには、コ

ミュニティおよび構成メンバー間での信頼関係構築と提案・企画などのアウトプットの促

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進が必要であり、 終的には知識創造活動を企業の文化として醸成していくことが不可欠

である。 本研究で明らかになったマネジメントの方向性の一つは、外部との積極的な知識移転・

知識創造、そして起業の場の設定が不可欠との示唆である。このような外部知識の活用と

提案活動によりナレッジ・マネジメントで重要といわれる学習が促進され、知識創造の連

鎖が駆動し始めると考えられる。そしてもう一つ重要な発見事実であり確実に実施すべき

ものとして、コンセプトや事業プラン、新製品を正しく評価する仕組みの構築であろう。

従って、提案⇒評価⇒開発促進・業績向上⇒正当な活動評価⇒学習促進⇒新たな提案とい

う好循環を促すことが不可欠である。そしてその為の第一歩は定期的なビジネスプラン発

表場の設置と考えられる。このマネジメントを継続的に行うことにより、アウトプットの

意識が高まり、学習・対話が促進されよう。さらに、提案されたコンセプトを明確な基準

そして業績向上の実績ある評価方法でスクリーニングすることにより、提案活動はトリガ

ーとなり、高収益を生み出すプランが増産されると期待できる。また、このような提案の

質をあげるのに何より重要なのは、このナレッジ・コミュニティに参加(属する)してい

ることが理由となり、自発コミットメントが生まれることであろう。自発コミットメント

は大きな活動エネルギーを生み出し、さまざまな障壁を打ち破り、ナレッジ・コミュニテ

ィを活発に機能させると期待できる。 ■ 高収益新規事業開発のためのナレッジ・コミュニティ・モデル ここでは、本研究の結論を受けナレッジ・コミュニティ構築のガイドラインを提示する

こととする。

図表20 ナレッジ・コミュニティ

高収益・新規事業開発のためのナレッジ・コミュニティ・モデル

(出所)筆者独自に作成。

ナレッジ統制機能

ナレッジ・マネジメント

ガイディング機能

コア・プロセス

意図・仕組み・インセンティブ

ナレッジ移転

内部

ナレッジ集約機能

ナレッジ融合機能 ナレッジ加工機能

外部

ナレッジ集約機能

ナレッジ融合機能 ナレッジ加工機能

外部環境

個人

チーム

組織

外部組織

外部個人

評価システム

起業・提案

行動ガイド・ループ

強相関マネジメント マネジメント領域

外部知識創造・ループ

コンセプト評価定期的ビジネスプラン発表場

自発コミットメント

コーディネーター

活動目的明示

活動評価基準明示

活動結果の報告

チーム⇒組織の知識移転

信頼構築

外部との対話

外部とのコンセプト創り

外部コンセプトの評価

外部C⇒組織の知識移転

評価基準明示

自発コミットメント

活動結果の

報告程度

チーム⇒組織の知識移転

コーディネーターの存在

定期的ビジネスプラン発表場

目的明示

外部との

コンセプト創り

外部コンセプト

の評価

外部C⇒組織

の知識移転

外部との対話

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本研究によって明らかにされた有効なマネジメントの中でも特に有効と考えられるマネ

ジメントは、“強相関マネジメント・ループ”を構成する要素であった。従ってナレッジ・

コミュニティには本研究で発見された二つのマネジメント・ループの導入が有効であろう。

また、注力すべきマネジメント領域としては、本研究の仮説検証によって明らかにされた、

外部との活動、コンセプト創りおよびコンセプト評価、そして起業場であり、そしてこれ

らを、意図・仕組み・インセンティブなどのガイドによって促進することが有効となろう。

そして、これらの一連のマネジメントが学習と信頼構築に繋がり、知識創造を当たり前と

する企業文化が形成されることが重要であろう。つまり、このようにナレッジ・コミュニ

ティを設計することにより、知識創造が活発となり企業パフォーマンスが向上すると期待

できよう。図に、設計のガイドラインとしてのナレッジ・コミュニティ・モデルを示す。 第3節 残された課題 以上本研究では、ナレッジ・コミュニティの設計要因と企業パフォーマンスの関係に注

目し、企業パフォーマンスを向上させる為に有効な、マネジメント体系の新たな視点を提

示できたと考える。しかし本研究には以下に示す課題が残されていると考える。 本研究では企業パフォーマンスに影響を与える具体的なナレッジ・マネジメントを明ら

かにすることを試み、おおむねその方向性は示すことができた。しかし通常ケーススタデ

ィーにより文脈の中で解釈されると言われるナレッジ・マネジメント研究に対し、インタ

ビュー調査の代替を目指すべくアンケート調査を行い、統計的分析により一般化をおこな

うことが当初の研究の目標であった。しかし、アンケート回答企業が 30 社と少なく統計的

妥当性が低くなり、当初の目的は達成できたとはいえない。よって、データ数を増やし統

計的解釈により一般化を行うことは今後の課題と考える。また、同様の理由から促進マネ

ジメントと主説明変数との相関関係についても統計的手法を用い分析することができなか

った。そのため、アンケート回収数を増やし、分析の妥当性を向上させるとともに、説明

変数と促進マネジメント変数との掛け算因子などにより、ナレッジ・マネジメント間のシ

ナジー効果の発見も今後の課題となる。 また、本研究の結果はアンケート回収企業に対しての分析結果である。つまり、回収企

業以外の企業で行われている、ベストプラクティスと成り得る、画期的なナレッジ・マネ

ジメントそして質問設定されていない特徴的なマネジメントの有効性は抽出できない。従

って、本当に有効なマネジメントを抽出する為には、ベストプラクティス企業を調査企業

とすることが不可欠となる。よって、高業績企業やベストプラクティス企業を選定し絞り

こみ、アンケート調査を行うことによって、非常に有効なマネジメントを抽出すること可

能となる。しかし本研究では、企業パフォーマンスに明らかに有効なマネジメントを抽出

することを目指したため、業績を考慮した対象企業の絞込みを行っておらず、高業績企業

に絞った調査は今後の課題といえよう。

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さらにアンケート調査に内在する人的バイアスの問題があげられる。本研究の基礎分析

はアンケート調査に依存している。アンケート回答者の選定に際し、企業全体を概観でき

るという意味において経営企画の代表者あるいは開発プロジェクトのリーダーに回答をお

願いした。しかし、一個人の視点において企業全体を把握することは大きな困難を含むと

考えられ、本研究には人的なバイアスが含まれると考えられる。よって前述したように、

調査対象企業を高パフォーマンス企業に絞込んだ上、その企業の構成メンバーに幅広く(職

種・人数)調査をおこない、企業の平均像そして企業の特性を把握すべきと考え、今後の

課題としたい。 企業パフォーマンスを向上させるナレッジ・マネジメント以外の他の要因、この影響を

考慮することが必要であろう。本研究では、企業パフォーマンスを向上させる要因として

ナレッジ・マネジメントに絞り検証を試みた。しかし、企業業績や開発促進要因には、戦

略や業種、時勢など様々な要因が絡みあう。業種間のバイアスに関しては、業績インディ

ケーターに対し業界平均値を用い補正を行っているが、他の要因は考慮しておらず、ナレ

ッジ・マネジメントのみ相関があるとの仮定の上で検証を行っている。よって、他の要因

の影響分析に関しては、今後の課題となる。 その他の課題として、時間的概念の考慮があげられる。本研究は 2005 年の業績データに

基づき検証を行っており、ある一時点での状況のみ議論している。しかし、全てのナレッ

ジ・マネジメントがマネジメント採用後すぐに効果があるとは言い難い。つまり、ナレッ

ジ・マネジメントの効き目を分析するには、マネジメント導入時期と企業パフォーマンス

との関係を調査することが一つの視点といえる。よって、継続的な調査により時系列での

分析が今後の課題と考える。 以上、残された課題を示してきたが、今後の研究の発展により、企業パフォーマンスに

影響を与える、より具体的なマネジメントの分析、そしてマネジメント間の相互シナジー

の発見が重要となり、より有効なナレッジ・マネジメント群を明らかすることが知識創造

企業の創出に重要となろう。 以上

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【参考文献】 ■ 新規事業創出関連

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■ 知識活用ベストプラクティス ☐ 河合篤男・山路直人・伊藤博之・山田幸三[2004],『組織能力を活かす経営-3M 社

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■ 産学連携関連 ☐ 科学技術振興機構地域事業推進室(編)[2005],『産学官連携ジャーナル(創刊号)』,

科学技術振興機構。 ☐ 科学技術振興機構地域事業推進室(編)[2005],『産学官連携ジャーナル(第2号)』,

科学技術振興機構。 ☐ 科学技術振興機構地域事業推進室(編)[2005],『産学官連携ジャーナル(第3号)』,

科学技術振興機構。 ■ 予測市場 ☐ Wolfers, J. and Zitzewitz, E.[2004],“Prediction Markets”,Journal of Economic

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コミュニティのデザイン』,有斐閣。 ☐ 池尾恭一[2003],『ネット・コミュニティのマーケティング戦略』,有斐閣。 ☐ 国領二郎・片岡雅憲・野中郁次郎[2003],『ネットワーク社会の知識経営』,NTT出

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School Press.(DIAMOND ハーバードビジネスレビュー編集部(訳)[2001],『ネッ

トワーク戦略論』,ダイヤモンド社。) ■ ファイナンス関連 ☐ 岡村公司(監修)[2005],「大学初ベンチャー向けファンドの投資戦略 ベンチャー・

キャピタル各社の産学連携に関する取り組み」,Daiwa Institute of Research,『経営

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書房。 ☐ 戸部良一[1991],『失敗の本質』,中央公論社。 ☐ 中西輝政[1998],『なぜ国家は衰亡するのか』,PHP 新書。 ☐ 沼上幹[2000],『行為の経営学』,白桃書房。 ☐ 山岸俊男[1998],『信頼の構造』,東京大学出版会。 ☐ Baker, E.W.[2000],Achieving Success Through Social Capital,Jossey-Bass Inc

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(山岡洋一(訳)[1995],『ビジョナリー・カンパニー』,日経 BP 出版センター。) ☐ Rosen, E.[2002],The Anatomy of Buzz,Doubleday.(浜岡豊(訳)[2002],『クチ

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『スモールワールド・ネットワーク』,阪急コミュニケーションズ。)

以上


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