財政学Ⅱ
第9回 財政と経済安定化政策(2)IS /LM 分析と財政金融政策
2018年11月23日(金)
担当:天羽正継(経済学部経済学科准教授)
1
IS / LM 分析
45度線分析では投資(𝐼)はGDP(𝑌)とは独立に与えられていたが、IS / LM 分析では投資もモデルの内部で決定される変数とする。
すなわち、投資を外生変数から内生変数とする。
これによって、財政政策と金融政策がGDP に与える影響を一体的に捉えることが可能に。
2
IS 曲線(1) IS 曲線
財・サービス市場において需要と供給を均衡させる利子率とGDPの関係を表す。
利子率と投資の関係
利潤率(𝑟)と投資の関係は右下がりになる(スライド4)。
投資量が増えるほど、投資が生み出す利潤率は逓減するため。
投資を行う企業は借入れを行うが、その際のコストになるのが利子率(𝑖)。ある利子率が与えられた場合、企業は利潤率がその利子率と等しくなる水準で投資を行うことが合理的(スライド5)。
利子率が低下(上昇)した場合、最適な投資量は増加(減少)する(スライド6)。したがって、利子率と投資は負の関係になる。
IS 曲線の導出
投資は利子率に依存するので、国民所得方程式は下記のように書ける。
𝑌 = 𝐶 + 𝐼 𝑖 + 𝐺 + 𝑁𝑋
𝑌が増加した場合、上式は
𝑌 > 𝐶 + 𝐼 𝑖 + 𝐺 + 𝑁𝑋
となる。両辺が等しくなるためには、𝑖が低下することで 𝐼 が増加しなければならない。
したがって、利子率とGDP は負の関係となり、IS 曲線は右下がりとなる(スライド7)。
3
4
投資(𝐼)
利潤率(%)
0 100
20
200
12
9
300
IS 曲線(2)
5
投資(𝐼)
利潤率利子率(%)
0
𝑖
𝐼∗𝐼1
𝑟1
𝑟2
𝐼2
IS 曲線(3)
6
投資(𝐼)
利潤率利子率(%)
0
𝑖
𝐼∗
𝑖′
𝐼∗∗
IS 曲線(4)
7
GDP(𝑌)
利子率(𝑖)
0
𝑖1
𝑌1 𝑌2
𝑖2
IS 曲線
IS 曲線(5)
LM 曲線
貨幣市場において需要(𝐿)と供給(𝑀)を均衡させる利子率とGDP の関係を表す。
貨幣供給𝑀は外生的に与えられた所与の値とする(𝑀 = 𝑀 )。
貨幣需要はGDP が増加(減少)すれば増加(減少)し(𝜕𝐿
𝜕𝑌> 0)、利子率が上昇(低下)すれば減少(増加)する
(𝜕𝐿
𝜕𝑖< 0)。
GDP が増える(減る)と取引量が増え(減り)、決済手段としての貨幣に対する需要(取引需要)が増加(減少)する。
利子率が上昇(低下)すると、将来的に利子率が低下(上昇)し、債券価格が上昇(低下)すると期待されるため、債券に対する需要が増加(減少)し、貨幣需要が減少(増加)する。
LM 曲線の導出
貨幣需要 𝐿は 𝑌と 𝑖 に依存するので、𝐿 𝑌, 𝑖 と書ける。したがって、貨幣供給と貨幣需要が均衡している状態は𝑀 = 𝐿 𝑌, 𝑖 と書くことができる。
Y が増加した場合(ただし 𝑖 は一定)、𝑀 < 𝐿 𝑌, 𝑖 となる。両辺が等しくなるためには、𝑖が上昇することで 𝐿 が減少しなければならない。したがって、利子率とGDP は正の関係となり、LM 曲線は右上がりとなる(スライド9)。
IS 曲線とLM 曲線の交点で、財・サービス市場と貨幣市場の両方を均衡させる均衡利子率(𝑖∗)と均衡GDP (𝑌∗)が決定する(スライド9)。
8 LM 曲線(1)
9
GDP(𝑌)
利子率(𝑖)
0
𝑖1
𝑌1 𝑌2
𝑖2
LM 曲線
LM 曲線(2)
10
利子率(𝑖)
0
LM 曲線IS 曲線
𝑖∗
𝑌∗
LM 曲線(3)
GDP(𝑌)
IS / LM 分析と財政金融政策(1) 財政支出が増える(減る)と、IS 曲線は右(左)方向にシフト。
右方向にシフトする理由:財政支出が増えると、45度線分析よりGDP は増加する。しかし、45度線分析では利子率はモデルに含まれておらず、一定という仮定。利子率が一定のままGDP が増加するということは、 IS 曲線が右方向にシフトすることを意味。
シフト後のIS 曲線とLM 曲線の交点で、新たな均衡利子率と均衡GDP が決定。財政支出が増加した場合、均衡利子率が上昇するとともに、均衡GDP も増加。しかし、均衡GDP の増加分はIS 曲線のシフト分よりも小さい(スライド12)。
利子率が上昇して投資I が減少したため。財政支出の増加が民間投資を押しのけて減少させることは「クラウディング・アウト」と呼ばれる。
貨幣供給が増える(減る)と、LM 曲線は右(左)方向にシフト。
右方向にシフトする理由:貨幣供給 が増えた場合、𝑀 > 𝐿 𝑌, 𝑖 となる。利子率 𝑖 を一定に保つとすると、両辺が等しくなるためにはY が増加しなければならない。利子率が一定のままY が増加するということは、LM 曲線が右方向にシフトすることを意味。
シフト後のIS 曲線とLM 曲線の交点で、新たな均衡利子率と均衡GDP が決定。貨幣供給が増加した場合、均衡GDP は増加するが、均衡利子率は低下(スライド13)。
財政支出を拡大(IS 曲線を右にシフト)するとともに貨幣供給を増やす(LM 曲線を右にシフト)ことによって、利子率の上昇を抑えつつGDP の増加を図ることが可能(スライド14)。
財政政策と金融政策の一体的運用(ポリシー・ミックス)
11
12
利子率(𝑖)
0
IS / LM 分析と財政金融政策(2)
LM 曲線IS 曲線
𝑖1
𝑌1
𝑖2
𝑌2
IS 曲線のシフト分
GDP の増加分
GDP(𝑌)
13
利子率(𝑖)
0
IS / LM 分析と財政金融政策(3)
LM 曲線IS 曲線
𝑖1
𝑌1
𝑖2
𝑌2GDP(𝑌)
IS /LM 分析と財政金融政策(4)14
0
𝑖1
𝑌1 𝑌2
𝑖2
利子率(i)
𝑌3
IS 曲線 LM 曲線
GDP(𝑌)