+ All Categories
Home > Documents > 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生...

集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生...

Date post: 12-Jul-2020
Category:
Upload: others
View: 4 times
Download: 0 times
Share this document with a friend
207
book 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」—— 自然数 n N や関数 f f (x) シュレーダーの定理、カントルの結果? 直線のまきつく被覆を例に加える 「ではない」と「でない」 数式モード末のピリオド 小見出し、脚注、演習問題(例題) ベクトル空間の公理 実数体の公理(四則演算と大小関係について) 高校数学の内容で仮定すること(10進数展開、巡回小数、999=000 など) 中間値、最大最小値、平均値 区間を定義しておく まえがき、コラム、索引、参考文献 2016 1 26 小森洋平
Transcript
Page 1: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

集合と位相

謝辞:沢田先生非自明な部分集合定義、命題の(小見出し)「わかる」と「分かる」—— 自然数 n ∈ N や関数 f と f(x)

シュレーダーの定理、カントルの結果?直線のまきつく被覆を例に加える「ではない」と「でない」数式モード末のピリオド小見出し、脚注、演習問題(例題)ベクトル空間の公理実数体の公理(四則演算と大小関係について)高校数学の内容で仮定すること(10進数展開、巡回小数、999=000など)中間値、最大最小値、平均値区間を定義しておくまえがき、コラム、索引、参考文献

2016年 1月 26日小森洋平

Page 2: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

目 次

集合と位相 i

第 1章 集合と写像 1

1.1 論理と集合 · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · 1

1.2 写像 · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · 13

1.3 数列の収束 · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · 21

1.4 連続関数 · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · 30

1.5 集合の対等と濃度 · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · 36

1.6 可算集合と非可算集合、ベキ集合 · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · 42

第 2章 実数について 49

2.1 部分集合族、2項関係 · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · 49

2.2 同値関係 · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · 57

2.3 順序関係 · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · 68

2.4 実数の完備性 · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · 74

2.5 実数の性質 · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · 81

2.6 実数の構成 · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · 90

第 3章 距離空間 97

3.1 ユークリッド空間 · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · 97

3.2 距離空間 · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · 109

3.3 距離空間の点列と連続写像 · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · 116

3.4 距離空間の位相 · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · 127

3.5 完備性 · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · 135

3.6 点列コンパクト · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · 144

Page 3: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

目次 iii

第 4章 位相空間 151

4.1 位相空間 · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · 151

4.2 連続写像 · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · 166

4.3 コンパクト · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · 175

4.4 ハウスドルフ空間 · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · 182

4.5 連結 · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · 187

4.6 開基、基本近傍系 · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · 195

参考文献 202

索引 203

Page 4: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

Page 5: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

集合と写像

1.1 論理と集合

この節では数学を語る際に用いる「論理」とそれを表記する「集合」について説明する。それは言語における文字や単語とそれらを使う際の文法のようなものである。用いる論理の多くは自然に受け入れられる簡単な規則からできているが、それらが複雑に組み合わさることにより、想像もできないような深淵な数学の定理が導かれる。その入り口の部分を紹介してゆこう。

1.1.1 命題論理

定義 1.1 (命題とその真偽値)真であるか偽であるかが定まっている主張を命題という。

例 1.1 例えば「24は3で割り切れる」は真な命題であるし、「24は7で割り切れる」は偽な命題である。一方「x は3より大きい」は x が何か分からないので真か偽か判断できない。よって命題ではない。また「24は大きな数である」は大きいという主観が入るので命題ではない。

具体的な命題を列挙するかわりに、記号を用いて命題 P や命題 Q といったり、真や偽というかわりに T (True) や F (False) といったりする。

Page 6: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

2 1 集合と写像

既に在る命題から新しい命題を作る方法を次に紹介する。2つの命題 P と Q

に対し、「P または Q」を「P ∨ Q」「P かつ Q」を「P ∧ Q」「P ならば Q」を「P ⇒ Q」「P でない(P の否定)」を「¬P」といった記号で表す。またこれらの操作を組み合わせた「(P ならば Q)かつ(Q ならば P)」を表す「P ⇔ Q」も便利な記号である。命題 P と命題 Q にこれら4つの操作 (∨,∧,⇒,¬) を用いて作った新しい命

題の真偽は、P や Q の真偽とどういう関係にあるのかを表したものが、以下の真理表である。

P Q P ∨ Q P ∧ Q P ⇒ Q ¬P Q ⇒ P P ⇔ Q

T T T T T F T T

T F T F F F T F

F T T F T T F F

F F F F T T T T表 1.1 真理表

上記の真理表には命題「P ⇔ Q」の真偽も並記した。P や Q の真偽値と比較することで次が分かる。

命題 1.2 「P ⇔ Q」が真である必要十分条件は P と Q の真偽が一致することである。

定義 1.3 (命題論理、トートロジー(恒真式))

(1) 有限個の命題 P1, P2, · · · , Pk に上記の4つの操作を繰り返し用いることで新しい命題 f(P1, P2, · · · , Pk) を作ることができる。この新しい命題f(P1, P2, · · · , Pk) の真偽が最初に与えられた命題 P1, P2, · · · , Pk の真偽からどのように決まるかを調べることを命題論理という。

(2) 命題 f(P1, P2, · · · , Pk) がトートロジー(恒真式)であるとは、

Page 7: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

1.1 論理と集合 3

P1, P2, · · · , Pk の各命題の真偽によらずに命題 f(P1, P2, · · · , Pk) の真偽が常に T であることとする。

例 1.2 排中律 P ∨ (¬P ) はトートロジーである。それは次の真理表から分かる。

P ¬P P ∨ (¬P )

T F T

F T T表 1.2 排中律

1.1.2 命題の同値性

定義 1.4 (命題の同値性)2つの命題 f(P1, P2, · · · , Pk) と g(P1, P2, · · · , Pk) が同値であるとは、f(P1, P2, · · · , Pk)と g(P1, P2, · · · , Pk)の真偽が P1, P2, · · · , Pk の各命題の真偽によらず同じである、つまり「f(P1, P2, · · · , Pk) ⇔ g(P1, P2, · · · , Pk)」がトートロジーであることとする。このとき f(P1, P2, · · · , Pk) ≡ g(P1, P2, · · · , Pk)

と表す∗1。

例 1.3 (二重否定)命題 P とその二重否定 ¬¬P は同値である。

P ¬P ¬(¬P )

T F T

F T F表 1.3 二重否定

例 1.4 (P ⇒ Q ≡ ¬P ∨Q)命題 P ⇒ Q と命題 ¬P ∨Q は次の真理表から同値である∗2。

∗1 実際は ≡ の意味で ⇔ を混用することが多い。∗2 よって操作「⇒」は無くても困らない。しかしあったほうが何かと便利である。

Page 8: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

4 1 集合と写像

P Q P ⇒ Q ¬P ¬P ∨ Q

T T T F T

T F F F F

F T T T T

F F T T T表 1.4 P ⇒ Q ≡ ¬P ∨ Q

例 1.5 (対偶)命題 P ⇒ Q と命題 ¬Q ⇒ ¬P は次の真理表から同値である。

P Q P ⇒ Q ¬P ¬Q ¬Q ⇒ ¬P

T T T F F T

T F F F T F

F T T T F T

F F T T T T表 1.5 対偶

次の同値な命題どうしの言い換えは今後何度も用いる。

定理 1.5 (ド・モルガン (de Morgan) の法則)2つの命題 P と Q に対し、次のド・モルガン (de Morgan) の法則が成り立つ。

(1) ¬(P ∧Q) ≡ (¬P )∨(¬Q)

(2) ¬(P ∨Q) ≡ (¬P )∧(¬Q)

証明 次の真理表から分かる。

(1)

(2)

Page 9: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

1.1 論理と集合 5

P Q P ∧ Q ¬(P ∧ Q) ¬P ¬Q (¬P ) ∨ (¬Q)

T T T F F F F

T F F T F T T

F T F T T F T

F F F T T T T表 1.6 ド・モルガンの法則(その1)

P Q P ∨ Q ¬(P ∨ Q) ¬P ¬Q (¬P ) ∧ (¬Q)

T T T F F F F

T F T F F T F

F T T F T F F

F F F T T T T表 1.7 ド・モルガンの法則(その2)

1.1.3 集合

定義 1.6 (集合とその元、空集合)

(1) 数学的に明確に範囲が定められた対象の集まりを集合という∗3。集合を構成するものを元や要素という。「a は集合 A の元 である」ことを a ∈ A

や A ∋ a と表す。(2) 「a は集合 A の元 である」ことの否定、すなわち「a は集合 A の元でない 」ことを a /∈ A と表す。

(3) 元を含まない集合も考えると便利である∗4。このような集合を空集合といい、記号 ∅ で表す。

例 1.6 次の集合を以下ではよく用いるので特定の記号を使う。自然数全体の集合 N整数全体の集合 Z有理数全体の集合 Q

∗3 何のことか分からなくて当然である。読み進めるとだんだん分かってくる。∗4 特に補集合をとるなどの集合演算に関して。数える際に 0 個も考えるのに似ている。

Page 10: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

6 1 集合と写像

実数全体の集合 R複素数全体の集合 Cなど。

次に集合の表し方について。例えば「3以下の自然数全体からなる集合」は{1, 2, 3} のように元をすべて列挙して表すことができるが、「3以上の自然数全体からなる集合」だと元をすべて列挙することはもはやできない。

定義 1.7 (条件)

変数 x1, x2, · · · , xk を含む主張 f(x1, x2, · · · , xk) で、x1, x2, · · · , xk に具体的な値を代入すると真偽が決まる主張を条件という。

例 1.7 条件「x は3以上の自然数」を P (x) とすると、P (5) の真偽値は T だが P (

√2) の真偽値は F である。

集合の表し方の話に戻ろう。条件 P (x) の真偽が真(T) となる元の全体からなる集合を

{x | P (x)}

のように表記する。最初に集合 S が指定されていて、S の元 x であって条件P (x) を満たす元全体を考えることが多いので、その場合は

{x ∈ S | P (x)}

とも表す。

例 1.8 3以上の自然数全体からなる集合 A は

A = {x | x ∈ N, x = 3}

とも

A = {x ∈ N | x = 3}

とも表す。

このように主張 P (x) が真である x の集まりを考えることで、命題論理と集合の間に対応がつく。この対応で命題論理の世界の4つの操作 (∨,∧,⇒,¬) は集合の世界では次のように表される。

Page 11: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

1.1 論理と集合 7

定義 1.8 (部分集合などの集合演算)

集合 A と B が主張 P (x) と Q(x) を用いて

A = {x | P (x)}, B = {x | Q(x)}

と表されているとする。

(1) 集合 A は集合 B の部分集合であるとは、x が A の元ならば x は B

の元でもあることとする。記号で A ⊂ B と表す。つまり A ⊂ B とは「P (x) ⇒ Q(x)」を意味する。

(2) 集合 A が 集合 B に等しいとは A ⊂ B かつ B ⊂ A であることとする。記号で A = B と表す。つまり A = B とは「P (x) ⇔ Q(x)」を意味する。A = B の否定を A ̸= B と表す。

(3) 集合 A と集合 B の共通部分とは、A の元かつ B の元でもある元の全体の集合のことである。記号で A∩B と表す。つまり A∩B とは「P (x)∧Q(x)」を意味する。

(4) 集合 A と集合 B の和集合とは、A の元または B の元であるような元の全体の集合のことである。記号で A∪B と表す。つまり A∪B とは「P (x) ∨ Q(x)」を意味する。特に A∩B = ∅ の場合、A と B の和集合を A と B の非交和(disjoint union)といい A⊔B と表すこともある。

(5) 集合 A と集合 B の差集合とは、A の元でありかつ B の元ではない元の全体の集合のことである∗5。記号で A − B と表す。つまり A − B とは「P (x) ∧ ¬Q(x)」を意味する。

(6) 得に集合 B が集合 A の部分集合のとき、集合 A と集合 B の差集合 A−B を、A における B の補集合といい、記号で Bc と表す。つまり Bc とは「P (x)∧¬Q(x)」を意味するが、特に集合 A が全体集合、つまり条件P (x) が前提となっていることが明らかな場合は、「¬Q(x)」を意味する。このように補集合を考える際には全体集合が何かをはっきりさせておく必要がある。

注意 定義から任意の集合 X は X 自身と空集合 ∅ を部分集合とする。この2つを自明な部分集合と呼ぶこともある。また自明でない部分集合を真部分集合と

∗5 B が必ずしも A の部分集合でなくてもよい点に注意する。

Page 12: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

8 1 集合と写像

呼ぶこともある。

次の主張は命題論理における二重否定やドモルガンの法則に対応している。

命題 1.9 集合 X の部分集合 A と B に対し

(1) (Ac)c = A.

(2) (A∩B)c = Ac ∪Bc.

(3) (A∪B)c = Ac ∩Bc.

証明

(1) x ∈ (Ac)c ⇔ ¬(x ∈ Ac) ⇔ ¬¬(x ∈ A)) ⇔ x ∈ A.

(2) x ∈ (A∩B)c ⇔ ¬(x ∈ A∩B) ⇔ ¬(x ∈ A ∧ x ∈ B) ⇔ ¬(x ∈ A) ∨¬(x ∈ B) ⇔ x ∈ Ac ∨ x ∈ Bc ⇔ x ∈ Ac ∪Bc.

(3)(1)より (A∪B)c = ((Ac)c ∪(Bc)c)cとなる。(2)より ((Ac)c ∪(Bc)c)c =

((Ac ∩Bc)c)c となり、再び(1)より ((Ac ∩Bc)c)c = Ac ∩Bc となる。

1.1.4 演習問題

例題 1.10 ¬(P ⇒ Q) ≡ P ∧ ¬Q を示せ。

証明 真理表を用いて示す。

P Q P ⇒ Q ¬(P ⇒ Q) ¬Q P ∧ ¬Q

T T T F F F

T F F T T T

F T T F F F

F F T F T F表 1.8 ¬(P ⇒ Q) ≡ P ∧ ¬Q

例題 1.11 P,Q,R を命題とするとき以下を示せ。

(1) P ∧(Q∨R) ≡ (P ∧Q)∨(P ∧R).

(2) P ∨(Q∧R) ≡ (P ∨Q)∧(P ∨R).

Page 13: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

1.1 論理と集合 9

証明 真理表を用いて示す。

(1)

P Q R Q ∨ R P ∧ (Q ∨ R) P ∧ Q P ∧ R (P ∧ Q) ∨ (P ∧ R)

T T T T T T T T

T T F T T T F T

T F T T T F T T

T F F F F F F F

F T T T F F F F

F T F T F F F F

F F T T F F F F

F F F F F F F F表 1.9 P ∧ (Q ∨ R) ≡ (P ∧ Q) ∨ (P ∧ R)

(2)

P Q R Q ∧ R P ∨ (Q ∧ R) P ∨ Q P ∨ R (P ∨ Q) ∧ (P ∨ R)

T T T T T T T T

T T F F T T T T

T F T F T T T T

T F F F T T T T

F T T T T T T T

F T F F F T F F

F F T F F F T F

F F F F F F F F表 1.10 P ∨ (Q ∧ R) ≡ (P ∨ Q) ∧ (P ∨ R)

例題 1.12 集合 A,B,C に対し以下を示せ。

(1) A∪B = A∩B ならば A = B.

Page 14: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

10 1 集合と写像

(2) A∩C = B ∩C かつ A∪C = B ∪C ならば A = B.

証明

(1) 『A ⊂ B かつ B ⊂ A』を示す。A ⊂ A∪B かつ A∩B ⊂ B である。よって仮定 A∪B = A∩B から A ⊂ B となる。A と B の役割を交換すると逆の包含関係 B ⊂ A が導かれる。

(2) A∩Cc = A∪C − C かつ B ∩Cc = B ∪C − C より、仮定 A∪C =

B ∪C から A∩Cc = B ∩Cc となる。また A = A∩X = A∩(C ∪Cc) =

(A∩C)∪(A∩Cc) かつ B = (B ∩C)∪(B ∩Cc) より、仮定 A∩C =

B ∩C から A = B となる。

1.1.5 命題関数と述語論理、全称記号 ∀ と存在記号 ∃

定義 1.13 (命題関数)条件 P (x) の x に代入する値は集合 S の元に限る時、P (x) は S を定義域とする命題関数という。

例 1.9 条件 P (x) : x2 > 5 を集合 S = N を定義域とする命題関数とすると、P (2) は偽な命題であり、P (3) は真な命題である。

定義 1.14 (全称記号 ∀、存在記号 ∃)S を定義域とする命題関数 P (x) に対し

(1) 「任意の x ∈ S に対して P (x) である」という命題を S を全称命題といい、記号で

∀x ∈ S, P (x)

と表す。ここで「任意の」を表す記号 ∀ を全称記号という。(2) 「ある x ∈ S が存在して P (x) である」という命題を S を存在命題といい、記号で

∃x ∈ S s.t. P (x)

と表す。ここで「ある~が存在して」を表す記号 ∃ を存在記号という。

Page 15: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

1.1 論理と集合 11

また s.t は英語の such that の略記である∗6。

例 1.10 「∀x ∈ N, x2 > 5」は偽な命題である。一方「∃x ∈ N s.t. x2 > 5」は真な命題である。

注意 「∃x ∈ S s.t. P (x)」は「集合 S に条件 P (x) を満たす元が存在する」ことを表していて、それがいくつあるかまでは分からない。特に S に条件 P (x)

を満たす元が「ただ1つ」存在することを表したい場合、記号で

∃!x ∈ S s.t. P (x)

と表す。

∀ や ∃ が入った命題の真偽を調べることを述語論理という。特に ∀ や ∃ が複数ある命題には注意が必要である。

例 1.11

∀x ∈ N,∃y ∈ N s.t. x + 5 < y

は、「任意の自然数 x に対して、ある自然数 y が存在して、x + 5 < y を満たす」という命題である。実際どんな自然数 x に対しても、例えば y = x + 6 とすれば x + 5 < x + 6 = y となるので、真な命題である。一方

∃y ∈ N s.t. ∀x ∈ N, x + 5 < y

は、「ある自然数 y が存在して、任意の自然数 x に対して、x + 5 < y を満たす」という命題である。これは偽な命題である。なぜならばもしそのような自然数 y が存在したとすると x = y に対しても x + 5 = y + 5 < y を満たさなくてはならないが、これは矛盾である。

このように ∀ や ∃ の入った論理式は左から右へと読んでゆくことが大切で、∀ や ∃ の順序を変えると命題の意味が変わってしまう。次に ∀ や ∃ が入った命題の否定について調べよう。まず命題論理における否

定を復習する。「P ∧ Q」や「P ∨ Q」の否定はド・モルガンの法則より「¬P ∨¬Q」や「¬P ∧ ¬Q」であった。また「P ⇒ Q」の否定は「P ∧ ¬Q 」であり、

∗6 「それからどうした」と間の手を入れる感じである。

Page 16: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

12 1 集合と写像

二重否定より「¬P」の否定は「P」であった。「任意の x ∈ S について P (x) である」の否定は「ある x ∈ S が存在して

P (x) ではない」なので

∃x ∈ S s.t. ¬P (x)

となる。また「ある x ∈ S が存在して P (x) である」の否定は「任意の x ∈ S

について P (x) ではない」なので

∀x ∈ S, ¬P (x)

となる。

例 1.12 「∀x ∈ N, x2 > 5」の否定は「∃x ∈ N s.t. x2 5 5」で真な命題である。一方「∃x ∈ N s.t. x2 > 5」の否定は「∀x ∈ N, x2 5 5」で偽な命題である。

1.1.6 演習問題

例題 1.15 2つの実数 a と b に対し以下を示せ。

(1) 「a = b」であるための必要充分条件は「任意の正の実数 ε > 0 に対し|a − b| < ε」である。

(2) 「a 5 b」であるための必要充分条件は「任意の正の実数 ε > 0 に対しa < b + ε」である。

証明

(1) a = b ならば a− b = 0 より、任意の正の実数 ε > 0 に対し 0 = |a− b| <

ε である。一方 a ̸= b ならば ε = |a− b|/2 > 0 に対し |a− b| = ε である。(2) a 5 b ならば a − b 5 0 より、任意の正の実数 ε > 0 に対し a − b 5 0 <

ε である。一方 a > b ならば ε = (a− b)/2 > 0 に対し a− b = ε である。

例題 1.16 次の命題の真偽を述べよ。

(1) 任意の自然数 k に対し、ある自然数 n が存在して k < n となる。(2) ある自然数 k が存在して、任意の自然数 n に対し k < n となる。

Page 17: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

1.2 写像 13

証明

(1) 任意の自然数 k に対し、ある自然数 n として n = k + 1 をとると、k <

n = k + 1 となるので、この命題は真である。(2) n = 1 に対し k < n となる自然数 k は存在しないので、この命題は偽である。

例題 1.17 次の2つの命題の同値性を示せ。

∀x(A(x) ⇒ ¬B(x)) ≡ ¬(∃x(A(x) ∧ B(x)))

証明 例 1.4より A(x) ⇒ ¬B(x) ≡ ¬A(x) ∨ ¬B(x) なので

∀x(A(x) ⇒ ¬B(x)) ≡ ∀x(¬A(x) ∨ ¬B(x))

≡ ¬(¬(∀x(¬A(x) ∨ ¬B(x)))) (二重否定より)

≡ ¬(∃x(¬¬A(x) ∧ ¬¬B(x)))

≡ ¬(∃x(A(x) ∧ B(x))) (二重否定より)

1.2 写像

この節では1つの集合から別の集合への対応について考えてみよう。

定義 1.18 (1) 2つの集合 X と Y はともに空集合でないとする。X から Y

への写像とは、X の任意の元 x に対し、Y の元 y がただ1つ存在して、x

に y を対応させる規則 y = f(x) のことである。つまり論理記号で表すと

∀x ∈ X,∃!y ∈ Y s.t. y = f(x)

となる。記号で f : X → Y と表し、X を f の定義域といい、Y を f の値域という。

(2) 特に X から R への写像 f : X → R を X 上の関数という。(3) 2つの写像 f : A → B と g : C → D が等しいとは、A = C かつ B =

D かつ A の任意の元 x に対し、f(x) = g(x) となることである。記号で

Page 18: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

14 1 集合と写像

f = g と表す。(4) X の部分集合 A から X への写像で、A の任意の元 a を a 自身に移す写像を包含写像といい、i : A → X と表す。特に集合 X から X 自身への包含写像を恒等写像といい、1X : X → X と表す。

(5) 2つの写像 f : X → Y と g : Y → Z の合成写像とは、X の任意の元 x

に Z の元 g(f(x)) を対応させる写像のことであり、g ◦ f : X → Z と表す。

(6) 写像 f : X → Y を X の部分集合 A でのみ考える場合、f |A : A → Y

と表し、f の A への制限という。包含写像 i : A → X を用いて f |A =

f ◦ i となる。(7) 集合 X の部分集合 A に対し、写像 f : X → Y による A の像または順像とは、A の任意の元 a の f による像 f(a) 全体からなる Y の部分集合のことである。

f(A) = {f(a) ∈ Y | a ∈ A}

(8) 集合 Y の部分集合 B に対し、写像 f : X → Y による B の逆像とは、f(x) が B の元となるような X の元 x 全体からなる X の部分集合のことである。

f−1(B) = {x ∈ X | f(x) ∈ B}

ただし B が1点集合 {b} の場合は f−1({b}) を f−1(b) と表す∗7。

注意 空集合の像と逆像に関しては f(∅) = ∅, f−1(∅) = ∅ と約束する。

関数と言えばそのグラフを思い描くように、写像にもグラフが考えられる。

定義 1.19 (直積集合、写像のグラフ)集合 A と集合 B のそれぞれの元の順序対の全体の成す集合を、A と B の直積集合 A × B という。

A × B = {(a, b) | a ∈ A, b ∈ B}

集合 A から集合 B への写像 f : A → B に対し、f のグラフ Γ (f) を、次のよ

∗7 一般に f : A → B に対し f−1 という記号には意味がない。特に最初はよく勘違いする。

Page 19: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

1.2 写像 15

うな A × B の部分集合として定義する。

Γ (f) = {(a, b) ∈ A × B | b = f(a)}

定義より g : A → B に対し、f = g となるための必要十分条件は Γ (f) = Γ (g)

である。

写像と集合演算の関係について見ておこう。

命題 1.20 (写像と集合演算)集合 X から集合 Y への写像 f : X → Y と、X の部分集合 A,B および Y の部分集合 C,D について以下が成り立つ。

(1) A ⊂ B ならば f(A) ⊂ f(B) である。(2) f(A) ⊂ f(B) でも A ⊂ B とは限らない。(3) f(A∪B) = f(A)∪ f(B) である。(4) f(A∩B) ⊂ f(A)∩ f(B) である。一般に等号は成立しない。(5) f(X)∩ f(A)c ⊂ f(Ac) である。一般に等号は成立しない。(6) C ⊂ D ならば f−1(C) ⊂ f−1(D) である。(7) f−1(C) ⊂ f−1(D) でも C ⊂ D とは限らない。(8) f−1(C ∪D) = f−1(C)∪ f−1(D) である。(9) f−1(C ∩D) = f−1(C)∩ f−1(D) である。(10) f−1(Cc) = f−1(C)c である。

証明

(1) 「y ∈ f(A) ならば y ∈ f(B)」を示す。y ∈ f(A) より A の元 x が存在して y = f(x) と表せる。一方仮定から A ⊂ B より x ∈ A ならば x ∈B である。よって y は B の元 x を用いて y = f(x) と表せるので y ∈f(B) である。

(2) X = {1, 2, 3, 4} から Y = {p, q, r, s} への写像 f : X → Y を f(1) =

f(2) = p, f(3) = q, f(4) = r とする。このとき A = {1, 3}, B = {2, 3}とすればよい。ここに図を入れる

(3) 「y ∈ f(A∪B) ⇔ y ∈ f(A)∪ f(B)」を示す。(⇒) y ∈ f(A∪B) より A∪B の元 x が存在して y = f(x) と表せる。

Page 20: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

16 1 集合と写像

ここで x ∈ A ならば y ∈ f(A) となり、 x ∈ B ならば y ∈ f(B) となるので、y ∈ f(A)∪ f(B) となる。(⇐) y ∈ f(A)∪ f(B) より y ∈ f(A) または y ∈ f(B) である。y ∈ f(A)

ならば A の元 x が存在して y = f(x) と表せる。y ∈ f(B) ならば B の元 x が存在して y = f(x) と表せる。よっていずれの場合も A∪B の元x が存在して y = f(x) と表せるので y ∈ f(A∪B) となる。

(4) A∩B ⊂ A より(1)から f(A∩B) ⊂ f(A) となる。同じく A∩B ⊂ B

より(1)から f(A∩B) ⊂ f(B)となる。よって f(A∩B) ⊂ f(A)∩ f(B)

が成り立つ。(2)で挙げた例は等号が成立しない例になっている。(5) f(X)∩ f(A)c の任意の元 y に対し X の元 x で y = f(x) かつ x /∈ A を満たす。よって y ∈ f(Ac) となる。(2)で挙げた例は等号が成立しない例になっている。

(6) f−1(C) の任意の元 x に対し逆像の定義から f(x) ∈ C となる。仮定から C ⊂ D より f(x) ∈ D となり、逆像の定義から x ∈ f−1(D) となる。

(7) (2)で挙げた例で C = {q, s}, D = {q, r} とすればよい。(8) 「x ∈ f−1(C ∪D) ⇔ x ∈ f−1(C)∪ f−1(D)」を示す。

(⇒) x ∈ f−1(C ∪D) より f(x) ∈ C ∪D となる。f(x) ∈ C ならば x ∈f−1(C) となり、f(x) ∈ D ならば x ∈ f−1(D) となる。よって x ∈f−1(C)∪ f−1(D) となる。(⇐) 逆に x ∈ f−1(C)∪ f−1(D) より x ∈ f−1(C) または x ∈ f−1(D)

となる。よって f(x) ∈ C または f(x) ∈ D より f(x) ∈ C ∪D となるので x ∈ f−1(C ∪D) となる。

(9) 「x ∈ f−1(C ∩D) ⇔ x ∈ f−1(C)∩ f−1(D)」を示す。(⇒) x ∈ f−1(C ∩D) より f(x) ∈ C ∩D となる。よって f(x) ∈ C かつ f(x) ∈ D なので x ∈ f−1(C) かつ x ∈ f−1(D) となる。よって x ∈f−1(C)∩ f−1(D) となる。(⇐) 逆に x ∈ f−1(C)∩ f−1(D) より x ∈ f−1(C) かつ x ∈ f−1(D) となる。よって f(x) ∈ C かつ f(x) ∈ D より f(x) ∈ C ∩D となるのでx ∈ f−1(C ∩D) となる。

(10) 「x ∈ f−1(Cc) ⇔ x ∈ f−1(C)c」を示す。

Page 21: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

1.2 写像 17

(⇒) x ∈ f−1(Cc) より f(x) ∈ Cc、つまり f(x) /∈ C となる。よって x /∈f−1(C) より x ∈ f−1(C)c である。(⇐) 逆に x ∈ f−1(C)c より x /∈ f−1(C)、つまり f(x) /∈ C となる。よって f(x) ∈ Cc より x ∈ f−1(Cc) である。

次に写像の性質で基本となる全射性と単射性を定義しよう。

定義 1.21 (全射、単射、全単射)

(1) 集合 X から集合 Y への写像 f : X → Y が全射であるとは、Y の任意の元 y に対し、X の元 x が存在して、y = f(x) を満たすこととする。つまり論理記号で表すと

∀y ∈ Y,∃x ∈ X s.t. y = f(x)

となる∗8。(2) 集合 X から集合 Y への写像 f : X → Y が単射であるとは、X の任意の2つの元 a, b に対し、a ̸= b ならば f(a) ̸= f(b) を満たすこととする。対偶を考えるとこの条件は、f(a) = f(b) ならば a = b を満たすことと同値である∗9。つまり論理記号で表すと

∀a, b ∈ X, a ̸= b ⇒ f(a) ̸= f(b)

または

∀a, b ∈ X, f(a) = f(b) ⇒ a = b

となる。(3) 集合 X から集合 Y への写像 f : X → Y が全単射であるとは、全射かつ単射になることである。つまり Y の任意の元 y に対し、X の元 x がただ1つ存在して、y = f(x) を満たすことである。論理記号で表すと

∀y ∈ Y, ∃!x ∈ X s.t. y = f(x)

∗8 写像の定義との違いに注意。∗9 この同値な言い換えは結構便利である。

Page 22: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

18 1 集合と写像

となる。よって y に x を対応させると Y から X への写像となり、これを f の逆写像といい、f−1 : Y → X と表す。

命題 1.22 f : X → Y に対し

(1) f は全射 ⇔ ∃g : Y → X s.t. f ◦ g = 1Y∗10

(2) f は単射 ⇔ ∃g : Y → X s.t. g ◦ f = 1X

(3) f は全単射 ⇔ ∃g : Y → X s.t. f ◦ g = 1Y , g ◦ f = 1X

(4) X から Y に全射が存在することと、Y から X に単射が存在することは同値である。

証明

(1) (⇒)

f : X → Y が全射と仮定すると、全射の定義より Y の任意の元 y に対し、X のある元 x が存在して y = f(x) を満たす。このような x を y ごとに1つ選んで x = g(y) とすれば、f ◦ g = 1Y を満たす g : Y → X が構成できる。(⇐)

f : X → Y に対し、f ◦ g = 1Y を満たす g : Y → X が存在すると仮定すると、Y の任意の元 y に対し、X の元 g(y) は y = f(g(y)) を満たす。よって f は全射となる。

(2) (⇒)

f : X → Y が単射と仮定すると、f(X) の任意の元 y に対し、X の元 x

がただ1つ存在して y = f(x) を満たす。そこでこの x を g(x) と表す。また X の元 x0 を1つ選んで、Y における f(X) の補集合 f(X)c の任意の元 y に対しては g(y) = x0 とする。このように定義された写像 g :

Y → X は g ◦ f = 1X を満たす。(⇐)

f : X → Y に対し、g ◦ f = 1X を満たす g : Y → X が存在すると仮定すると、f(x1) = f(x2) を満たす X の2つの元 x1, x2 に対し、x1 =

∗10 厳密にいえば (⇒) を示すためには選択公理が必要である。本書は入門書なので選択公理については語らない。

Page 23: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

1.2 写像 19

g(f(x1)) = g(f(x2)) = x2 となり、f は単射となる。(3) (⇒)

f は全単射なので逆写像 f−1 : Y → X が存在する。このとき定義よりf ◦ f−1 = 1Y , f−1 ◦ f = 1X となる。(⇐)

(1)と(2)より f は全射かつ単射になるので、f は全単射である。(4) f : X → Y が全射とすると、(1)から f ◦ g = 1Y を満たす g : Y → X

が存在するが、(2)より g は単射である。同様に f : X → Y が単射とすると、(2)から f ◦ g = 1Y を満たす g : Y → X が存在するが、(1)より g は全射である。

1.2.1 演習問題

例題 1.23 次の命題を論理記号を用いて表せ(ただし否定の記号 ¬ を用いてはならない)。

(1) 写像 f : X → Y は全射でない。(2) 写像 f : X → Y は単射でない。

証明

(1) ∃y ∈ Y s.t. ∀x ∈ X, f(x) ̸= y

(2) ∃a, b ∈ X s.t. f(a) = f(b) ∧ a ̸= b

例題 1.24 写像 f : A → B と写像 g : B → C が与えられたとき次を示せ。

(1) f, g が共に単射ならば合成写像 g ◦ f も単射である。(2) f, g が共に全射ならば合成写像 g ◦ f も全射である。(3) f, g が共に全単射ならば合成写像 g ◦ f も全単射である。(4) 合成写像 g ◦ f が単射ならば f も単射である。(5) 合成写像 g ◦ f が全射ならば g も全射である。(6) 合成写像 g ◦ f が全単射ならば f は単射で g は全射である。

Page 24: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

20 1 集合と写像

証明

(1) g ◦ f(a1) = g ◦ f(a2) を満たす A の2つの元 a1, a2 に対し、合成写像の定義から g(f(a1)) = g(f(a2)) である。仮定より g は単射なので f(a1) =

f(a2) となり、また f も単射より a1 = a2 となる。(2) C の任意の元 c に対し、仮定より g は全射より B のある元 b が存在して g(b) = c を満たす。この b に対し、仮定より f は全射より A のある元 a が存在して f(a) = b を満たす。よって g(f(a)) = g(b) = c となり、合成写像の定義から g ◦ f(a) = c となる。

(3) (1)と(2)から g ◦ f は全射かつ単射となるので全単射である。(4) f(a1) = f(a2)を満たす Aの2つの元 a1, a2 に対し、g(f(a1)) = g(f(a2))

である。合成写像の定義から g ◦ f(a1) = g ◦ f(a2) となり、仮定から g ◦f が単射より a1 = a2 となる。

(5) C の任意の元 c に対し、仮定から g ◦ f が全射なので A のある元 a が存在して g ◦ f(a) = c を満たす。よって B の元 f(a) が存在して g(f(a)) =

c を満たすので g は全射である。(6) (4)と(5)より f は単射で g は全射である。

例題 1.25 X,Y は集合、A, C はそれぞれ X,Y の部分集合とする。写像 f : X → Y に対し以下を示せ。

(1) A ⊂ f−1(f(A)). また等号が成立しない例をあげよ。(2) f が単射ならば A = f−1(f(A))

(3) f(f−1(C)) ⊂ C. また等号が成立しない例をあげよ。(4) f が全射ならば f(f−1(C)) = C

(5) f が全射ならば f(Ac) ⊃ f(A)c

(6) f が単射ならば f(Ac) ⊂ f(A)c

証明

(1) A の任意の元 a に対し f(a) ∈ f(A) となる。よって逆像の定義より a ∈f−1(f(A)) となる。等号が成立しない例として、例えば X = {1, 2, 3, 4}から Y = {p, q, r, s} への写像 f : X → Y を f(1) = f(2) = p, f(3) =

Page 25: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

1.3 数列の収束 21

q, f(4) = r とする。このとき A = {1, 3} とすればよい。(2) f−1(f(A)) の任意の元 x に対し f(x) ∈ f(A) である。f(A) の定義から

A の元 a が存在して f(a) = f(x) ∈ f(A) となる。仮定より f は単射なので x = a ∈ A となる。

(3) f(f−1(C)) の任意の元 y に対し、f−1(C) の元 x が存在して y = f(x) ∈C となる。等号が成立しない例として、例えばX = {1, 2, 3, 4} から Y =

{p, q, r, s} への写像 f : X → Y を f(1) = f(2) = p, f(3) = q, f(4) = r

とする。このとき C = {q, s} とすればよい。(4) 仮定より f は全射なので、C の任意の元 c に対し、ある f−1(C) の元 x

が存在して c = f(x) ∈ C となる。(5) 仮定より f は全射なので、f(A)c の任意の元 y に対し、ある X の元 x

が存在して y = f(x) となる。しかし y ∈ f(A)c より x ∈ Ac となる。つまり y = f(x) ∈ f(Ac) となる。

(6) f(Ac) の任意の元 y に対し、Ac のある元 x が存在して f(x) = y となる。仮定より f は単射なので y /∈ f(A)、つまり y ∈ f(A)c となる。

1.3 数列の収束

∀,∃ を用いた数学の話題としてこの節では数列の収束を取り上げる。まずは数列を前節の写像の言葉で定義しよう。

定義 1.26 (数列)数列とは、自然数全体の集合 N から実数全体の集合 R への写像 a : N → R のことである。n ∈ N の像 a(n) = an を用いて数列を {an} と表す。

注意 1点のみから成る集合と間違う恐れのある場合は {an}n∈N や {an}∞n=1

と表すこともある。

1.3.1 収束列

以下では数列の収束について調べる。まずは収束列の定義から。

Page 26: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

22 1 集合と写像

定義 1.27 (ε-n0 論法による数列の収束)数列 {an} が収束列であるとは、ある実数 a が存在して、任意の正の実数 ε > 0

に対しある自然数 n0 が存在して、n > n0 を満たす任意の自然数 n ∈ N に対し、|an − a| < ε となることである。論理記号で表すと

∃a ∈ R s.t. ∀ε > 0,∃n0 ∈ N s.t. ∀n ∈ N, n > n0 ⇒ |an − a| < ε

となる。このとき数列 {an} は a に収束する、a を {an} の極限といい、

limn→∞

an = a

と表す。

例 1.13 |a| < 1 を満たす定数 a に対し、an = an とすると limn→∞

an = 0 とな

る。実際ある h > 0 が存在して |a| <1

1 + hと表されるので、任意の ε > 0 に

対し自然数 n0 を n0 >1hεを満たすようにとれば、n > n0 を満たす任意の自然

数 n ∈ N に対し、|an| <1

(1 + h)n<

11 + nh

<1

nh< ε となる。

次は明らかだろうか∗11。

命題 1.28 (1) 収束列の定義で「n > n0n」を「n >= n0」に変えても同値な定義になる。

(2) 収束列の定義で「|an − a| < ε」を「|an − a| 5 ε」に変えても「|an −a| < 2ε」に変えても同値な定義になる。

(3) 数列 {an} と {bn} がそれぞれ a と b に収束するならば、任意の正の実数 ε > 0 に対しある自然数 n0 が存在して、n > n0 を満たす任意の自然数 n ∈ N に対し、|an − a| < ε かつ |bn − b| < ε となる。

収束列の性質を述べるためさらに定義を続けよう。

定義 1.29 (有界列)数列 {an} が有界列であるとは、正の実数 M > 0 が存在して、任意の自然数n ∈ N に対し、|an| 5 M を満たすこととする。論理記号で書くと

∗11 論理を理解するためのよい練習問題である。

Page 27: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

1.3 数列の収束 23

∃M > 0 s.t. ∀n ∈ N, |an| 5 M

となる。

次の命題も明らかだろうか。

命題 1.30 有界列の定義で「|an| 5 M」を「|an| < M に変えても同値な定義になる。

定義 1.31 (部分列)数列 {an} の部分列とは写像 a : N → R に、N から N 自身への狭義単調増加な写像 i : N → N を合成して得られる写像 a ◦ i の定める数列 {aik

} のことである∗12。つまり k < ℓ ならば aik

< aiℓを満たす。

収束列の基本的な性質についてまとめておこう。

命題 1.32 (収束列の基本性質)

(1) 収束列は有界列である。(2) 数列 {xn} が a にも b にも収束するならば、a = b となる。(3) a に収束する数列 {xn} に対し、ある実数 L が存在して任意の n ∈ N に対し xn = L ならば、a = L となる。

(4) 数列 {xn} が a に収束するならば、{xn} の任意の部分列 {xik} も a に

収束する。(5) (はさみうちの原理)数列 {xn}, {yn}, {zn} が、任意の n ∈ N に対し

xn 5 yn 5 zn を満たし、{xn}, {zn} がともに a に収束するならば、{yn}も a に収束する。

証明

(1) 「ある正の定数 M > 0 が存在して、任意の n ∈ N に対し |xn| 5 M となる」ことを示す。 lim

n→∞xn = a よりある自然数 n0 が存在して、n > n0

を満たす任意の自然数 n に対し |xn − a| < ε が成り立つ。よって M =

max{|x1|.|x2|, · · · , |xn0 |, |a| + 1} とおくと ∀n ∈ N, |xn| 5 M となる。

∗12 数列 {an} から飛び飛びかつ後戻りなしで選んで作った新たな数列ということを、写像の言葉で厳密に言っているだけである。

Page 28: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

24 1 集合と写像

(2) 「任意の正の実数 ε > 0 に対し |a − b| < ε が成り立つ」を示す。数列{xn} は a に収束するので、任意の ε > 0 に対しある自然数 n1 が存在して、n > n1 を満たす任意の自然数 n に対し |xn − a| < ε が成り立つ。また数列 {xn} は b にも収束するので、任意の ε > 0 に対しある自然数 n2

が存在して、n > n2 を満たす任意の自然数 n に対し |xn − b| < ε が成り立つ。よって n3 = max{n1, n2} とすると、n > n3 を満たす任意の自然数 n に対し |xn − a| < ε かつ |xn − b| < ε が成り立つ。このとき |a −b| = |a− xn + xn − b| 5 |a− xn|+ |xn − b| < ε + ε = 2ε となり示せた。

(3) 数列 {xn} は a に収束するので、任意の ε > 0 に対しある自然数 n0 が存在して、n > n0 を満たす任意の自然数 n に対し |xn − a| < ε、特にa > xn − ε が成り立つ。一方仮定から xn = L より a > L − ε が成り立つ。ここで ε > 0 は任意より a = L となる。

(4) 数列 {xn} は a に収束するので、任意の ε > 0 に対しある自然数 n0 が存在して、n > n0 を満たす任意の自然数 n に対し |xn − a| < ε が成り立つ。一方部分列の定義よりある自然数 k0 が存在して、k > k0 を満たす任意の自然数 k に対し ik0 > n0 となるので |xik

− a| < ε が成り立つ。このことは部分列 {xik

} も a に収束することを意味する。(5) 数列 {xn} は a に収束するので、任意の ε > 0 に対しある自然数 n1 が存在して、n > n1 を満たす任意の自然数 n に対し |xn − a| < ε が成り立つ。また数列 {zn} も a に収束するので、任意の ε > 0 に対しある自然数 n2 が存在して、n > n2 を満たす任意の自然数 n に対し |zn − a| <

ε が成り立つ。よって n3 = max{n1, n2} とすると、n > n3 を満たす任意の自然数 n に対し |xn − a| < ε かつ |zn − a| < ε が成り立つ。一方仮定から任意の自然数 n に対し xn 5 yn 5 zn より、n > n3 を満たす任意の自然数 n に対し |yn − a| < ε となり、{yn} も a に収束する。

収束列と四則演算の関係は次の通りである。

命題 1.33 (収束列と四則演算)数列 {xn} が a に収束し、数列 {yn} が b に収束するとする。

Page 29: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

1.3 数列の収束 25

(1) 数列 {xn + yn} は a + b に収束する。(2) 数列 {xnyn} は ab に収束する。(3) 任意の実数 c に対し 数列 {cyn} は cb に収束する。(4) 数列 {xn − yn} は a − b に収束する。(5) 以下では任意の n ∈ N に対し、yn ̸= 0 かつ b ̸= 0 と仮定する。このとき

数列 { 1yn

} は有界列である。

(6) 数列 { 1yn

} は 1bに収束する。

(7) 数列 {xn

yn} は a

bに収束する。

証明

(1) 数列 {xn} は a に収束するので、任意の ε > 0 に対しある自然数 n1 が存在して、n > n1 を満たす任意の自然数 n に対し |xn − a| < ε が成り立つ。また数列 {yn} は b に収束するので、任意の ε > 0 に対しある自然数 n2 が存在して、n > n2 を満たす任意の自然数 n に対し |yn − b| <

ε が成り立つ。よって n3 = max{n1, n2} とすると、n > n3 を満たす任意の自然数 n に対し |xn − a| < ε かつ |yn − b| < ε が成り立つ。ゆえに |(xn + yn) − (a + b)| 5 |xn − a| + |yn − b| < ε + ε = 2ε となるので{xn + yn} は a + b に収束する。

(2) 命題 1.32(1)より収束列は有界列なので、ある正の実数 M > 0 が存在して、任意の自然数 n に対し |xn| 5 M となる。(1)の証明より n >

n3 を満たす任意の自然数 n に対し |xn − a| < ε かつ |yn − b| < ε が成り立つので

|xnyn − ab| = |xn(yn − b) + (xn − a)b|5 |xn||yn − b| + |xn − a||b| < (M + |b|)ε

となり、{xnyn} は ab に収束する。(3) (2)で xn = c とすればよい。(4) (3)より {−yn} は −b に収束し、(1)より {xn − yn} は a − b に収束する。

Page 30: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

26 1 集合と写像

(5) 数列 {yn} は b ̸= 0 に収束するので、|b|/2 > 0 に対しある自然数 n0 が

存在して、n > n0 を満たす任意の自然数 n に対し |yn − b| <|b|2、特に

|yn| >|b|2が成り立つ。よって L = min{|y1|, |y2|, · · · , |yn0 |,

|b|2} > 0 と

すると任意の自然数 n に対し |yn| = L、つまり | 1yn

| 5 1Lが成り立つの

で { 1yn

} は有界列である。

(6) 数列 {yn} は b に収束するので、任意の ε > 0 に対しある自然数 n0 が存在して、n > n0 を満たす任意の自然数 n に対し |yn − b| < ε が成り立つ。

また(5)より | 1yn

| 5 1Lが成り立つ。よって | 1

yn− 1

b| =

|yn − b||yn||b|

<

ε

L|b|となり、{ 1

yn} は 1

bに収束する。

(7) (6)より { 1yn

} は 1bに収束するので(2)より {xn · 1

yn} は a · 1

bに

収束する。

1.3.2 コーシー列

次に本書で中心的な役割を演ずるコーシー列を定義しよう。

定義 1.34 (コーシー列)数列 {an} がコーシー列であるとは、任意の正の実数 ε > 0 に対しある自然数 n0 が存在して、m,n > n0 を満たす任意の自然数 m, n ∈ N に対し、|am −an| < ε となることである。論理記号で表すと

∀ε > 0,∃n0 > 0 s.t. ∀m,n ∈ N,m, n > n0 ⇒ |am − an| < ε

となる。

コーシー列の基本的な性質についてまとめておこう。

命題 1.35 (コーシー列の基本性質)

(1) 収束列はコーシー列である。

Page 31: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

1.3 数列の収束 27

(2) コーシー列は有界列である。(3) コーシー列 {xn} の部分列 {xik

} がある実数 α に収束するならば、{xn}自身も α に収束する。

証明

(1) 数列 {xn} が a に収束するとする。定義より任意の ε > 0 に対しある自然数 n0 が存在して、n > n0 を満たす任意の自然数 n に対し |xn −a| < ε が成り立つ。よって m,n > n0 を満たす任意の自然数 m,n に対しxm − xn| 5 |xm − a| + |xn − a| < ε + ε = 2ε となるので {xn} はコーシー列である。

(2) 数列 {xn} がコーシー列とする。定義より(ε = 1 > 0 として)ある自然数 n0 が存在して、m,n > n0 を満たす任意の自然数 m,n に対し xm −xn| < 1 を満たす。よって M = max{|x1|, |x2|, · · · , |xn0 |, |xn0+1| + 1}とすると、任意の自然数 n に対し |xn| 5 M となるので {xn} は有界列である。

(3) コーシー列 {xn} の部分列 {xik} が a に収束するとする。定義より任意

の ε > 0 に対しある自然数 k0 が存在して、k > k0 を満たす任意の自然数 k に対し |xik

− a| < ε が成り立つ。一方仮定から {xn} はコーシー列より、定義から任意の ε > 0 に対しある自然数 n0 が存在して、m,n >

n0 を満たす任意の自然数 m,n に対し |xm − xn| < ε を満たす。ここで部分列の定義より k1 > k0 を満たすある自然数 k1 が存在して ik1 > n0 を満たす。よって n > n0 を満たす任意の自然数 n に対し |xn − xik1

| < ε

かつ |xik1− a| < ε が成り立つ。ゆえに |xn − a| 5 |xn − xik1

| + |xik1−

a| < ε + ε = 2ε となるので {xn} も a に収束する。

コーシー列と四則演算の関係は次の通りである。

命題 1.36 (コーシー列と四則演算)数列 {xn}, {yn} はコーシー列とする。このとき次を示せ。

(1) 数列 {xn + yn} もコーシー列である。(2) 数列 {xn − yn} もコーシー列である。

Page 32: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

28 1 集合と写像

(3) 数列 {xnyn} もコーシー列である。(4) ある定数 c > 0 が存在して、任意の n ∈ N に対し |xn| > c と仮定する。このとき数列 {1/xn} もコーシー列である。

証明 数列 {xn}, {yn} がコーシー列より、任意の ε > 0 に対しある自然数 n0

が存在して、m,n > n0 を満たす任意の自然数 m,n に対し |xm − xn| < ε かつ|ym − yn| < ε となる。よって

(1) |(xm + ym)− (xn + yn)| 5 |xm −xn|+ |ym − yn| < 2ε より、数列 {xn +

yn} もコーシー列である。(2) |(xm − ym)− (xn − yn)| 5 |xm −xn|+ |ym − yn| < 2ε より、数列 {xn −

yn} もコーシー列である。(3) 命題 1.35の(2)よりコーシー列は有界列なので、ある定数 M > 0 が存在して、任意の n ∈ N に対し |xn| 5 M かつ |yn| 5 M となる。よって |xmym − xnyn| = |xm(ym − yn) + (xm − xn)yn| 5 |M(ym − yn) +

(xm − xn)M | < 2Mε より、数列 {xnyn} もコーシー列である。

(4) | 1xm

− 1xn

| =|xm − xn||xm||xn|

c2より、数列 {1/xn} もコーシー列である。

ここでは絶対値という長さを測る道具を用いて数列の性質を述べた∗13。後の章では距離関数が絶対値に替わり、距離空間においても点列の収束を語る。その際には次の ε-近傍という、絶対値を表に出さない考え方が大切な役割を果たす。

定義 1.37 (ε-近傍)実数 a と正の実数 ε > 0 に対し、a における ε-近傍を

U(a; ε) := {p ∈ R | |p − a| < ε}

と定義する。ε-近傍を用いて数列の収束を言い換えると次のようになる。

命題 1.38 数列 {an} が実数 a に収束する必要十分条件は、任意の正の実数ε > 0 に対しある自然数 n0 が存在して、n > n0 を満たす任意の自然数 n ∈ Nに対し、an ∈ U(a; ε) となることである。論理記号で表すと

∗13 絶対値の三角不等式が重要な役割を演じていることを分かって頂けただろうか。

Page 33: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

1.3 数列の収束 29

∃a ∈ R s.t. ∀ε > 0,∃n0 > 0 s.t. ∀n ∈ N, n > n0 ⇒ an ∈ U(a; ε)

となる。

1.3.3 演習問題

例題 1.39 次の命題を論理記号を用いて表せ(ただし否定の記号 ¬ を用いてはならない)。

(1) 数列 {an} は有界列でない。(2) 数列 {an} は収束列でない。(3) 数列 {an} はコーシー列でない。

証明

(1) ∀M > 0,∃n ∈ N s.t. |an| > M

(2) ∀a ∈ R,∃ε > 0 s.t. ∀n0 ∈ N,∃n ∈ N s.t. n > n0 ∧ |an − a| = ε

(3) ∃ε > 0 s.t. ∀n0 > 0,∃m, n ∈ N,m, n > n0 ∧ |am − an| = ε

例題 1.40 (1) {an} が収束列ならば {|an|} も収束列である。(2) {|an|} が収束列でも {an} は収束列とは限らない。

証明

(1) {an} が a に収束するならば、任意の正の実数 ε > 0 に対し n0 ∈ N が存在して、n > n0 を満たす任意の n ∈ N に対し、|an − a| < ε となる。一方 ||an| − |a|| 5 |an − a| より {|an|} は |a| に収束する収束列となる。

(2) 例えば an = (−1)n がそのような例である。

例題 1.41 limn→∞

xn = a のとき、次を示せ。

limn→∞

x1 + x2 + · · · + xn

n= a

証明 数列 {xn} は a に収束するので、任意の ε > 0 に対しある自然数 n0 が存在して、n > n0 を満たす任意の自然数 n に対し |xn − a| < ε が成り立つ。

Page 34: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

30 1 集合と写像

よって n > n0 で

|x1 + x2 + · · · + xn

n− a|

=1n|(x1 + · · · + xn0 − n0a) + (xn0+1 − a) + · · · + (xn − a)|

5 1n

(|x1 + · · · + xn0 − n0a| + |xn0+1 − a| + · · · + |xn − a|)

<|x1 + · · · + xn0 − n0a|

n+

n − n0

<|x1 + · · · + xn0 − n0a|

n+ ε.

さらにある自然数 n1 > n0 が存在して n > n1 を満たす任意の自然数 n に対し|x1 + · · · + xn0 − n0a|

n< ε が成り立つので

|x1 + x2 + · · · + xn

n− a| < ε + ε = 2ε

となる。よって limn→∞

x1 + x2 + · · · + xn

n= a が成立する。

例題 1.42 数列 {xn} と {yn} はそれぞれ a と b に収束する収束列で、任意のn ∈ N に対し xn 5 yn を満たすとする。

(1) a 5 b を示せ。(2) 任意の n ∈ N に対し xn < yn を満たしても a = b となるような収束列

{xn} と {yn} の例を挙げよ。

証明

(1) 命題 1.33の(4)より数列 {yn − xn} は b − a に収束する。また仮定より任意の n ∈ N に対し yn − xn = 0 を満たすので、命題 1.32の(3)より b − a = 0 となる。

(2) 例えば xn = 0, yn = 1/n がそのような例である。

1.4 連続関数

∀,∃ を用いた数学のもう1つの話題としてこの節では連続関数を取り上げる。関数の連続性は「グラフが繋がっている」ことで表されるが、これを集合と写像

Page 35: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

1.4 連続関数 31

の言葉で語るとどうなるだろうか。

定義 1.43 (1) (ε-δ 論法)R の部分集合 A 上で定義された関数 f : A → R が A の点 a で連続であるとは、任意の正の実数 ε > 0 に対し、ある正の実数 δ > 0 が存在して、|x− a| < δ を満たす A の任意の元 x ∈ A に対して |f(x)− f(a)| < ε を満たすことである。論理記号で表すと

∀ε > 0,∃δ > 0 s.t. ∀x ∈ A, |x − a| < δ ⇒ |f(x) − f(a)| < ε

となる。ε-近傍を使うと

∀ε > 0,∃δ > 0 s.t. f(U(a; δ)∩A) ⊂ U(f(a); ε)

と表せる。(2) f が A 上の連続関数であるとは、A の任意の点 a で f が連続であることとする。

例 1.14 定数関数は連続である。恒等関数は連続である。さらに1次関数も連続である。

証明 1次関数の連続性のみ示そう。定数 a ̸= 0 と b に対し f(x) = ax + b とする。x = p と任意の ε > 0 に対し、δ > 0 を δ <

ε

|a|を満たすようにとれば、

|p − q| < δ を満たす任意の x = q に対し |f(p) − f(q)| = |a||p − q| < |a|δ < ε

となり、f(x) は x = p で連続になる。

連続性は写像の合成で保存される。

命題 1.44 (連続関数の合成関数)2つの関数 f : R → R と g : R → R について

(1) 関数 y = f(x) が x = a で連続で、関数 w = g(y) が y = f(a) で連続ならば、合成関数 w = g ◦ f(x) := g(f(x)) は x = a で連続になる。

(2) f と g が連続関数ならば、合成関数 g ◦ f も連続関数になる。

証明

(1) ε-近傍を用いて示してみよう。g は y = f(a) で連続より、任意の正の

Page 36: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

32 1 集合と写像

実数 ε > 0 に対しある正の実数 δ > 0 が存在して、g(U(f(a); δ)) ⊂U(g(f(a)); ε) となる。一方 f は x = a で連続より、この δ に対しある正の実数 η > 0 が存在して、f(U(a; η)) ⊂ U(f(a); δ) となる。よって

g ◦ f(U(a; η)) = g(f(U(a; η))) ⊂ g(U(f(a); δ)) ⊂ U(g(f(a)); ε)

となるので g ◦ f は a で連続になる。(2) 任意の x = a に対し仮定より f は a で連続であり、g は y = f(a) で連続なので、(1)より g ◦ f は x = a で連続である。

関数の連続性と数列の極限の関係を示す次の結果は、連続関数の基本定理と言えよう。

定理 1.45 (連続関数の基本定理)関数 f : A → R と a ∈ A について、次の(1)と(2)は同値である。

(1) f(x) は x = a で連続である。(2) a に収束する A の任意の数列 {xn} に対し、数列 {f(xn)} は f(a) に収束する。つまり f と lim

n→∞は交換可能である。

limn→∞

f(xn) = f( limn→∞

xn)

証明

(1) f(x) は x = a で連続より、任意の ε > 0 に対しある δ > 0 が存在して、|x− a| < δ を満たす A の任意の元 x ∈ A に対して |f(x)− f(a)| < ε を満たす。数列 {xn} が a に収束するとすると、この δ > 0 に対しある自然数 n0 が存在して、n > n0 を満たす任意の自然数 n に対し、|xn −a| < δ となる。よって |f(xn) − f(a)| < ε となるので数列 {f(xn)} はf(a) に収束する。

(2) 対偶命題「f(x) は x = a で連続でないならば、次の条件を満たす数列{xn} が存在する。{xn} は a に収束するが、{f(xn)} は f(a) に収束しない」ことを示す。f(x) は x = a で連続でないので、ある ε0 > 0 が存在して、任意の δ > 0 に対しある実数 xδ が存在して、|xδ − a| < δ かつ

Page 37: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

1.4 連続関数 33

|f(xδ) − f(a)| = ε0 を満たす。ここで δ > 0 は任意より、任意の自然数n に対し δ = 1/n として xδ を xn と表すことにすると、|xn − a| < 1/n

かつ f(xn) − f(a)| = ε0 を満たす。これは {xn} は a に収束するが、数列 {f(xn)} は f(a) に収束しないことを意味する。

つまり数列の極限を関数で送った値は、数列自身を関数で送ってから極限を取った値に等しいという訳である。

1.4.1 演習問題

例題 1.46 連続関数 f : R → R と g : R → R が任意の有理数 r に対し f(r) =

g(r) ならば f = g となることを示せ。

証明 任意の実数 a は無限小数より、その小数第 n 位までの有限小数を an とすれば、a = lim

n→∞an である。仮定より f(an) = g(an) なので、連続関数の基

本定理 1.45 より f(a) = limn→∞

f(an) = limn→∞

g(an) = g(a) となり f と g は R

上で一致する。

例題 1.47 関数 f : R → R と g : R → R がともに a ∈ R で連続とするとき、次の関数も a ∈ R で連続になることを示せ。

(1) (f + g)(x) = f(x) + g(x)

(2) (f · g)(x) = f(x) · g(x)

証明

(1) 定理 1.45 より「a に収束する任意の数列 {xn} に対し、数列 {(f +

g)(xn)} は (f + g)(a) に収束する」ことを示せばよい。f と g は a で連続より、定理 1.45から {f(xn)} と {g(xn)} はそれぞれ f(a) と g(a) に収束する。よって命題 1.33の(1)より {f(xn) + g(xn)} は f(a) + g(a)

に収束する。(2) 定理 1.45より「a に収束する任意の数列 {xn} に対し、数列 {(f · g)(xn)}は (f · g)(a) に収束する」ことを示せばよい。f と g は a で連続より、定理 1.45 から {f(xn)} と {g(xn)} はそれぞれ f(a) と g(a) に収束する。

Page 38: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

34 1 集合と写像

よって命題 1.33の(2)より {f(xn) · g(xn)} は f(a) · g(a) に収束する。

例題 1.48 (関数空間 C(A))R の部分集合 A で定義された連続関数の全体 C(A) は R 上のベクトル空間となることを示せ∗14。

証明 例題 1.47 より任意の f, g ∈ C(A) と任意の実数 c ∈ R に対して、f +

g, cf ∈ C(A) となる。後はベクトル空間の条件を確かめる。例えば任意の f, g ∈C(A) と任意の実数 c ∈ R に対して、A の各点 x において

c(f + g)(x) = c(f(x) + g(x)) = cf(x) + cg(x)

となるので c(f + g) = cf + cg が分かる。他は各自に任せる。

例題 1.49 多項式関数は連続関数であることを示せ。

証明 多項式の次数に関する帰納法を用いる。次数が 0 すなわち定数関数は明らかに連続関数である。次数 1 の多項式、すなわち1次式も例 1.14から連続関数である。次に次数 d までの多項式関数は連続関数であると仮定すると、次数d + 1 の多項式は次数 d までの多項式関数と1次式の積と和で表されるので例題1.47から連続関数になる。

例題 1.50 関数 f : R → R が a ∈ R で連続で、任意の x ∈ R で f(x) ̸= 0 の

とき、関数 g(x) =1

f(x)も a ∈ R で連続になることを示せ。

証明 定理 1.45より「a に収束する任意の数列 {xn} に対し、数列 { 1f(xn)

} は

1f(a)

に収束する」ことを示せばよい。仮定から f は a で連続より、定理 1.45

から {f(xn)} は f(a) に収束する。よって命題 1.33の(6)より { 1f(xn)

} は

1f(a)

に収束する。

∗14 3章で有界閉区間 [a, b] 上の連続関数全体の空間 C[a, b] を扱う。

Page 39: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

1.4 連続関数 35

例題 1.51 正の値を取る連続関数 f に対し g(x) :=√

f(x) とすると、関数 g

も連続であることを示せ。

証明 f は a で連続より a に収束する任意の数列 {xn} に対し、定理 1.45より{f(xn)} は f(a) に収束する。f(a) > 0 よりある自然数 n0 が存在して、n > n0

を満たす任意の自然数 n に対し f(xn) >f(a)

4、特に

√f(xn) >

√f(a)2

とな

る。また {f(xn)} は f(a) に収束するので任意の正の実数 ε0 > 0 に対しある自然数 n1 が存在して、n > n1 を満たす任意の自然数 n に対し |f(xn)− f(a)| <

ε となる。そこで n2 = max{n0, n1} とすると、n > n2 を満たす任意の自然数

n に対し√

f(xn) >

√f(a)2

かつ |f(xn) − f(a)| < ε となる。よって

|√

f(xn) −√

f(a)| =|f(xn) − f(a)|√f(xn) +

√f(a)

<2

3√

f(a)ε

となり {√

f(xn)} は√

f(a) に収束するので、定理 1.45より g は a で連続である。

例題 1.52 2つの連続関数 f, g に対し h(x) := max{f(x), g(x)} とすると、関数 h も連続であることを示せ。

証明 任意の実数 a において h が連続であることを示す。

• (その1)h(a) = f(a) > g(a) の時f は a で連続より、(f(a) − g(a))/3 > 0 に対しある δ1 > 0 が存在して |x −a| < δ1 を満たす任意の実数 x に対し |f(x) − f(a)| < (f(a) − g(a))/3、特に

f(x) >23f(a) +

13g(a) となる。また g も a で連続より、(f(a) − g(a))/3 > 0

に対しある δ2 > 0 が存在して |x−a| < δ2 を満たす任意の実数 x に対し |g(x)−

g(a)| < (f(a) − g(a))/3、特に g(x) <13f(a) +

23g(a) <

23f(a) +

13g(a) とな

る。よって δ = min{δ1, δ2} > 0 とすると、|x − a| < δ ならば f(x) > g(x)、つまり h(x) = f(x) となるので f は a で連続であることから h は a で連続になる。

Page 40: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

36 1 集合と写像

• (その2)h(a) = g(a) > f(a) の時f と g の役割を入れ替えると(その1)と同様。• (その3)h(a) = f(a) = g(a) の時

f は a で連続より、任意の正の実数 ε0 > 0 に対しある δ1 > 0 が存在して|x − a| < δ1 を満たす任意の実数 x に対し |f(x) − f(a)| < ε となる。また g

も a で連続より、任意の正の実数 ε0 > 0 に対しある δ2 > 0 が存在して |x −a| < δ2 を満たす任意の実数 x に対し |g(x) − g(a)| < ε となる。よって δ =

min{δ1, δ2} > 0 とすると、|x − a| < δ ならば |f(x) − f(a)| < ε かつ |g(x) −g(a)| < ε となるので |h(x) − h(a)| < ε となり h は a で連続になる。

1.5 集合の対等と濃度

1.5.1 集合の対等

「リンゴが3つ」と「ミカンが3つ」は集合としては違うが、共に3つの元からなる集合という意味では同じである。このことを定式化しよう。

定義 1.53 (1) 集合 A は集合 B と対等であるとは、A から B への全単射が存在することである。

(2) 集合 A が有限集合であるとは、A は空集合か、またはある自然数 n が存在して、集合 {1, 2, · · · , n} は A と対等になることである。∗15

(3) 集合 B が無限集合であるとは、有限集合ではないことである。つまりB

は空集合でなく、任意の自然数 n ∈ N に対し、集合 {1, 2, · · · , n} は B

と対等にならないことである。

全単射の性質から次の結果が成り立つ。

命題 1.54 (1) 任意の集合 A は A 自身と対等である。(2) 集合 A は集合 B と対等ならば、集合 B は集合 A と対等である。(3) 集合 A は集合 B と対等で、集合 B は集合 C と対等ならば、集合 A は

∗15 「1つ、2つ、3つ」と指差ししながら数えている様を連想させる。

Page 41: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

1.5 集合の対等と濃度 37

集合 C と対等である∗16。

証明

(1) A から A への恒等写像は全単射なので。(2) 全単射の逆写像も全単射なので。(3) 全単射と全単射の合成も全単射なので。

よって命題 1.54 の(2) より、A は B と対等ならば B は A と対等なので、今後は「A と B は対等」という言い方もする。対等という考え方を用いると、次のような無限集合の不思議な性質を表現する

ことができる。

命題 1.55 集合 X が無限集合であるための必要十分条件は、X の任意の元 a

に対し、X と X − {a} が対等である。

証明 X を無限集合とする。a1 = a として a2 を X − {a1} から選ぶ。次に a3 を X − {a1, a2} から選ぶ。X は無限集合なので帰納的に ak を X −{a1, a2, · · · , ak−1} から選ぶことができる。そこで写像 ϕ : X → X − {a} を

ϕ(x) =

ak+1 (x = ak のとき)

x (∀k ∈ N, x ̸= ak のとき)

とすると ϕ は全単射となる。よって X と X − {a} は対等になる。一方 X が有限集合とすると X の元の個数が n ならば X − {a} の元の個数

は n − 1 となり、X と X − {a} は対等ではない。

系 1.56 集合 X が無限集合であるための必要十分条件は、X と対等な真部分集合を含むことである。

証明 集合 X が無限集合ならば命題 1.55より X の任意の元 a に対し、X とX − {a} は対等である。

∗16 この3条件は後に語る集合の同値関係の3条件だが、集合全体も集合とすると矛盾が起こる。(1章6節のコラムを参照。)

Page 42: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

38 1 集合と写像

一方 X が有限集合とすると X の元の個数が n ならば X の任意の真部分集合の元の個数は n 未満となり X と対等ではない。

2つの集合が対等であることを示すために次の定理はよく用いられる。

定理 1.57 (ベルンシュタインの定理) 集合 A から集合 B へ単射が存在して、かつ B から A へ単射が存在するならば、A から B へ全単射が存在する。

証明 f : A → B と g : B → A をそれぞれ単射とする。A の元 a と B の元 b

が b = f(a) を満たすとき、a は b の先祖であるといい a < b と表すことにする。同様に a = g(b) を満たすとき、b は a の先祖であるといい b < a と表すことにする。そこで次のような A,B の部分集合を考える。

A∞ = {a ∈ A | a > b1 > a1 > b2 > a2 > · · · }B∞ = {b ∈ B | b > a1 > b1 > a2 > b2 > · · · }AB = {a ∈ A | a > b1 > a1 > · · · > an−1 > bn (bnには先祖なし)}BA = {b ∈ B | b > a1 > b1 > · · · > bn−1 > an (anには先祖なし)}AA = {a ∈ A | a > b1 > a1 > · · · > bn−1 > an (anには先祖なし)}BB = {b ∈ B | b > a1 > b1 > · · · > an−1 > bn (bnには先祖なし)}

このとき

A = A∞ ⊔AA ⊔AB (非交和)

B = B∞ ⊔BA ⊔BB (非交和)

と表される。さらに定義より

f(AA) = BA, f(A∞) = B∞, g(BB) = AB

となる。よって h : A → B を

h(x) =

f(x) (x ∈ A∞ ⊔AA)

g−1(x) (x ∈ AB)

と定義すると全単射になる。ここに図

Page 43: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

1.5 集合の対等と濃度 39

1.5.2 集合の濃度

有限集合どうしの場合、どちらが大きな集合かを元の数を比較して判定できるが、無限集合になるともはや元の数が数えられない。そのような場合にどちらが大きな集合かを判断する道具が、以下に述べる濃度の考え方である。

定義 1.58 (1) 集合 A と集合 B が対等のとき A ∼ B と表し、A の濃度と B の濃度は等しいといい、|A| = |B| と表す。

(2) B の濃度は A の濃度以上であるとは、A から B への単射が存在することであり、|A| 5 |B| と表す。さらに |A| 5 |B| かつ A と B は対等ではない、つまり A から B への単射は存在するが全単射は存在しないとき、B の濃度は A の濃度より真に大きいといい、|A| < |B| と表す∗17。

次の命題は命題 1.22(4)の言い換えである。

命題 1.59 |A| 5 |B| となるための必要十分条件は、B から A への全射が存在することである。

濃度に関して以下が成り立つ。

命題 1.60 (1) 任意の集合 A に対し |A| 5 |A| となる。(2) |A| 5 |B| かつ |B| 5 |A| ならば |A| = |B| となる。(3) |A| 5 |B| かつ |B| 5 |C| ならば |A| = |C| となる∗18。

証明

(1) A から A への恒等写像は単射なので。(2) ベルンシュタインの定理 1.57の言い換えである。(3) 単射と単射の合成も単射なので。

∗17 記号 |A| そのものの定義はここではしない。1章5節のコラムを参照。∗18 これら3条件は 2 章3節で扱う集合の順序関係の3条件である。

Page 44: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

40 1 集合と写像

1.5.3 演習問題:集合の対等と濃度

例題 1.61 4つの集合 A,B,C,D が A ∼ C かつ B ∼ D ならば、A × B ∼C × D となることを示せ。

証明 A ∼ C かつ B ∼ D より全単射 f : A → C と g : B → D が存在する。このとき写像 f × g : A×B → C ×D を (f × g)(a, b) = (f(a), g(b)) と定義すると全単射になる。

例題 1.62 3つの集合 A,B,C が A ⊂ B ⊂ C を満たし、かつ A と C は対等とする。このとき B と C も対等であることを示せ。

証明 包含写像 B ⊂ C は単射である。また A と C は対等より全単射 ϕ : C →A が存在する。よってこの ϕ と包含写像 A ⊂ B を合成すると C から B への単射が得られるので、ベルンシュタインの定理 1.57より B と C は対等になる。

例題 1.63 次の集合はすべて N と対等であることを示せ。(1)A = 偶数である自然数全体、(2)B = 3 以上の自然数全体、(3)Z,

(4)N × N, (5)Q、(6)Q × Q

証明

(1) f : N → A を f(n) = 2n とすれば f は全単射である。(2) f : N → B を f(n) = n + 2 とすれば f は全単射である。(3) f : N → Z を

f(n) =

n − 1

2(nは奇数)

−n

2(nは偶数)

とすれば f は全単射である。(4) f : N × N → N を

f(m,n) =(m + n)(m + n − 1)

2− m + 1

とすれば f は全単射である。ここに f を視覚化する図

Page 45: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

1.5 集合の対等と濃度 41

(5) Q の任意の元は p/q と一意的に表せる。ただし p ∈ Z と q ∈ N は互いに素とする。よって f : Q → Z × N を f(p/q) = (p, q) と定義すると単射である。また(3)と(4)より Z×N ∼ N×N ∼ N である。よって Qから N への単射が存在する。また g : N → Q を g(n) = n/1 と定義すると単射である。よってベルンシュタインの定理 1.57より Q と N は対等になる。

(6) (4)より N ∼ N × N かつ(5)より N ∼ Q なので、N ∼ N × N ∼Q × Q となる。

例題 1.64 R, (0, 1), [0, 1], (0, 1], [0, 1) はすべて対等であることを示せ。

証明

• f : R → (−1, 1) を f(x) =x

1 + |x|とすると全単射である。また g :

(−1, 1) → (0, 1) を g(x) =x + 1

2とすると全単射である。よって合成写像を考

えることにより、R と (0, 1) は対等である。• A を [0, 1], (0, 1], [0, 1) のいずれかとする。f : A → (0, 1) を f(x) =

x + 13とすると単射である。また包含写像 (0, 1) ⊂ A は単射なので、ベルンシュ

タインの定理 1.57より (0, 1) と A は対等である。よって R と A も対等である。

1.5.4 コラム

この節では無限集合と有限集合の違いに着目してきたが、その違いを表す「ヒルベルトのホテル」と称される面白いたとえ話がある。ある旅人が深夜遅くに目的地の駅に着いたものの、駅前のどのホテルもすでに満室の札が玄関に架かっていた。今晩は野宿かと半ば諦めながら、ある一件のホテル「ヒルベルト」のドアをノックし、「今晩お宅のホテルに泊まりたいのですが、空いている部屋はありますか」とホテルのオーナーに訊ねたところ、「今夜は既に満室です」と想定通りの返事が返ってきた。仕方ないと駅に引き返そうとする旅人の後ろ姿に向かって、オーナーは「どうぞお泊まりください」と返事をした。驚いた旅人が「満室

Page 46: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

42 1 集合と写像

なのに私が泊まれる部屋はあるのですか」と半ば呆れて聞き返すと、オーナーはニコリと微笑んで次のように説明してくれた。「うちのホテルは任意の自然数 n

ごとに部屋があるのです。つまり無限個の部屋があるホテルなのです。これから1号室のお客様にお願いして2号室に移動して頂きます。そして2号室のお客様には3号室に移動して頂きます。このように次々と n 号室のお客様には n + 1

号室に移動して頂けば、あなたには1号室をご用意できるというわけです。」もちろん現実の世界ではありえない作り話ではあるが、自分と対等な真部分集合を含むという無限集合の特徴(系 1.56)をよく表したお話である。

1.6 可算集合と非可算集合、ベキ集合

この節では無限集合の性質を調べる。一番基本的な無限集合である自然数全体の集合 N と対等な無限集合から始めよう。

1.6.1 可算集合

定義 1.65 (可算、高々可算)集合 A が可算集合であるとは、A が自然数全体の集合 N と対等になることである。集合 B が高々可算であるとは、B が有限集合かあるいは可算集合になることである。

例 1.15 例題 1.63より次の集合はすべて可算集合である。(1)偶数である自然数全体、(2)3 以上の自然数全体、(3)Z,

(4)N × N, (5)Q、(6)Q × Q

次の命題から可算集合を次々と得ることができる。

命題 1.66 有限個の可算集合 A1, A2, · · · , An に対し

(1) 和集合 A1 ∪A2 ∪ · · · ∪An も可算集合になる。(2) 直積集合 A1 × A2 × · · · × An も可算集合になる。

証明

(1) 数学的帰納法により n = 2 の場合に示せば十分である。 A = {a1, a2, · · · }と B = {b1, b2, · · · } が可算とすると A∪B = {a1, b1, a2, b2, · · · } も A

Page 47: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

1.6 可算集合と非可算集合、ベキ集合 43

と B で重複する元は2度目以降は削除すれば可算である。(2) 数学的帰納法により n = 2 の場合に示せば十分である。さらに A1 =

A2 = N と仮定してよい。つまり N × N と N が対等であることを示せばよいがそれは例題 1.63で既に示した。

1.6.2 非可算集合

次に可算集合ではない無限集合を考えよう。

定義 1.67 (非可算集合)N と対等ではない無限集合を非可算集合という。

命題 1.68 非可算集合の濃度は可算集合の濃度より真に大きい。

命題 1.69 X を非可算集合とする。このとき X は可算部分集合を含むことを示す。まず X は空集合でないので元 a1 ∈ X が存在する。X は有限集合でないのでX − {a1} も空集合でない。よって元 a2 ∈ X − {a1} が存在する。同様にX は有限集合でないので X − {a1, a2} も空集合でない。よって元 a3 ∈ X −{a1, a2} が存在する。この操作を繰り返して X は可算部分集合 {ak ∈ X | k ∈N} を含む。よって |N| 5 |X| となる。さらに X は非可算集合より |N| < |X|となる。

では非可算集合は実際存在するのだろうか。

定理 1.70 R は非可算集合である。

証明 背理法で示す。例題 1.64より R ∼ (0, 1) なので、(0, 1) が可算集合と仮定して矛盾を導く。(0, 1) = {x1, x2, · · · } と、(0, 1) の元を自然数で番号付けする。そして (0, 1) の元 xn を

xn = 0.an1an2 · · ·

と無限小数で表す。そこで数列 {bk} を次のように定義する。

bk =

1 akk が偶数

2 akk が奇数

Page 48: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

44 1 集合と写像

このとき無限小数 0.an1an2 · · · は (0, 1) の元を表しているが、数列 {bk} の定義よりどの (0, 1) の元 xn とも一致しない。よって矛盾である。

定義 1.71 (アレフゼロ、アレフ)可算集合の濃度 |N| をアレフゼロといい ℵ0 と表す。また R の濃度を連続濃度またはアレフといい ℵ と表す。

つまり上の結果は ℵ0 < ℵ を意味する。次の結果は直感を裏切る結果と言えよう。

命題 1.72 直線と平面は対等である。

証明 例題 1.64 より R ∼ (0, 1) より (0, 1) ∼ (0, 1) × (0, 1) を言えばよい。f : (0, 1) → (0, 1) × (0, 1) を f(x) = (x, x) とすると単射である。また (0, 1) ×(0, 1) の任意の元 (0.a1a2 · · · , 0.b1b2 · · · ) に対し、(0, 1) の元 0.a1b1a2b2 · · · を対応させる写像は (0, 1)× (0, 1) から (0, 1) への単射になる。よってベルンシュタインの定理 1.57より (0, 1) ∼ (0, 1) × (0, 1) となる。

1.6.3 ベキ集合

これまで1つの集合から新たな集合を作り出す方法として、部分集合や直積集合を紹介してきた。実はもう1つ別の方法がある。

定義 1.73 集合 X の部分集合の全体を P(X) と表し X のベキ集合∗19という。

P(X) = {A | A ⊂ X}

例 1.16 2つの元からなる集合 X = {a, b} に対し、P(X) = {∅, {a}, {b}, X}は4つの元からなる集合になる。

命題 1.74 X が n 個の元からなる集合ならば、P(X) は 2n 個の元からなる集合になる。

証明 X の部分集合のうち元が k 個の部分集合の個数は nCk なので、P(X)

の元の個数は (x + 1)n の係数の和になる。よってその値は (1 + 1)n = 2n になる。

∗19 名前の由来は命題 1.74 である。

Page 49: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

1.6 可算集合と非可算集合、ベキ集合 45

注意 この結果は n = 0、つまり X が空集合でも正しい。この場合は P(∅) =

{{∅}} となり、20 = 1 である。

任意の自然数 n に対し n < 2n が成り立つので、有限集合 X の元の個数よりそのベキ集合 P(X) の元の個数は真に大きいことが命題 1.74から分かる。ではX が無限集合の場合、X の濃度よりそのベキ集合 P(X) の濃度は真に大きくなるだろうか。

定理 1.75 |X| < |P(X)|

証明 X の任意の元 a に対し1点集合 {a} を対応させるとX から P(X) への写像ができて、この写像は作り方から単射である。よって |X| 5 |P(X)| となる。しかし P(X) から X への単射は存在しない、つまり命題 1.22の(4)より X から P(X) への全射は存在しないことを、背理法で示す。写像 ϕ : X →P(X) が全射と仮定する。そこで次のような X の部分集合、つまり P(X) の元に注目する∗20。

C = {a ∈ X | a /∈ ϕ(a)}

ϕ は全射より X のある元 b が存在して ϕ(b) = C を満たす。このとき b ∈ C

か b /∈ C のいずれかが成り立つが、いずれの場合も以下のように矛盾が起こる。もし b ∈ C ならば C の定義より b /∈ ϕ(b) = C となり矛盾。一方もし b /∈ C ならば b /∈ ϕ(b) より b ∈ C となり矛盾となる。

特に自然数全体の集合 N のベキ集合 P(N) の濃度は N の濃度より真に大きいことが分かる。つまり P(N) は非可算集合である。それでは別の非可算集合である実数全体の集合 R と P(N) はどちらの濃度のほうが大きいだろうか。

定理 1.76 R と P(N) は対等である。つまり |P(N)| = ℵ が成り立つ。

証明 Q ∼ Nより P(Q) ∼ P(N)である。Rの任意の元 xに対し、{r ∈ Q | r 5x} は P(Q) の元であり、この対応は R から P(Q) への単射を与える。一方 P(N) の任意の元 A に対し、関数 ϕA : N → {0, 1} を

∗20 この形の集合はこの節のコラムで再登場する。

Page 50: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

46 1 集合と写像

ϕA(x) =

0 (x /∈ A)

1 (x ∈ A)

とする。このとき写像 f : P(N) → R

f(A) =∞∑

n=1

ϕA(n)10n

は単射になる。よってベルンシュタインの定理 1.57より R ∼ P(N) となる。

ベキ集合 P(X) は元が集合 X の部分集合からなる集合∗21なので最初は分かりにくいかもしれない。そこで定理 1.76の証明で用いた関数を使って、ベキ集合の別の見方を以下に紹介しよう。

定義 1.77 (特性関数)集合 X から {0, 1} への関数全体を F (X, {0, 1}) と表す。X の部分集合 A に対し、関数 ϕA ∈ F (X, {0, 1}) を

ϕA(x) =

0 (x /∈ A)

1 (x ∈ A)

と定義して X の部分集合 A の特性関数という。

命題 1.78 P(X) と F (X, {0, 1}) は対等である。

証明 A に ϕA を対応させることで、P(X) から F (X, {0, 1}) への全単射が得られる。

1.6.4 演習問題

例題 1.79 N × R ∼ R を示せ。

証明 f : R → N × R を f(x) = (1, x) と定義すれば単射になる。また g : N ×(0, 1) ∼ R を g(n, x) = n + x と定義すれば単射になる。一方 R ∼ (0, 1) よりベルンシュタインの定理 1.57から N × R ∼ R となる。

∗21 集合集合とは言いにくいので集合族という。2章1節を参照。

Page 51: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

1.6 可算集合と非可算集合、ベキ集合 47

例題 1.80 3つの集合 A,B,C に対し、F (A × B,C) ∼ F (A,F (B,C)) を示せ。

証明 F (A × B,C) の任意の元 g : A × B → C に対し、h : A → F (B,C) をh(a) = g(a, ·) と定義すれば、F (A × B,C) から F (A,F (B,C)) への全単射が得られる。

例題 1.81 数列の全体の集合 F (N, R) は R と対等であることを示せ。

証明 定理 1.76より R と P(N) は対等なので F (N, R) ∼ F (N,P(N)) が成り立つ。一方命題 1.78 より P(N) と F (N, {0, 1}) は対等なので F (N,P(N)) ∼F (N, F (N, {0, 1})) が成り立つ。さらに例題 1.80 より F (N, F (N, {0, 1})) ∼F (N×N, {0, 1})) が成り立つ。例題 1.63より N×N と N は対等なので F (N×N, {0, 1})) ∼ F (N, {0, 1})) が成り立ち、再び命題 1.78 より F (N, {0, 1})) ∼P(N) が成り立ち、定理 1.76 より P(N) ∼ R が成り立つ。以上を合わせてF (N, R) は R と対等である。

例題 1.82 R 上の関数全体の集合 F (R, R) は P(R) と対等であることを示せ。。

証明 例題 1.81 と同様に F (R, R) ∼ F (R,P(N)) ∼ F (R, F (N, {0, 1})) ∼F (R × N, {0, 1})) ∼ F (R, {0, 1})) ∼ P(R) となる。

例題 1.83 R 上の連続関数全体の集合 C(R, R) は R と対等であることを示せ。。

証明 連続関数は有理点での値で決まるので、F (Q, R) ∼ F (N, R) ∼ R となる。

1.6.5 コラム

そもそも集合の定義を「数学的に明確に範囲が定められた対象の集まり」などと曖昧にしているのは、本書が入門書だからであるが、曖昧で問題ないかというと実際は困ったことが起きる。たとえば以下に紹介するラッセルのパラドックスはその一例である。自分自身を含まない集合の全体 X を考える。記号で表すと

X = {x | x ∈ x}

となる。「数学的に明確に範囲が定められた対象の集まり」のようなので X を集合だと思うと矛盾が起きる。実際、もし X が集合ならば X ∈ X か X /∈ X

Page 52: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

48 1 集合と写像

のいずれかが成り立つはずである。もし X ∈ X と仮定すると、X の定義よりX /∈ X となり矛盾する。だが X /∈ X と仮定すると、再び X の定義よりX ∈X となりまたもや矛盾する。つまり X は集合ではないと思うしかないのである。もう1つ困る例を挙げよう。集合の全体 S も数学的に明確に範囲が定められ

た対象の集まり」のようなので集合だと思うと、またもや矛盾が起きる。実際、任意の集合 X において元 x ∈ X を1点集合 {x} ∈ S に対応させる写像i : X → S は単射より、|X| 5 |S| である。特に S のベキ集合 P(S) に対し、|P(S)| 5 |S| が成り立ち、これは定理 1.75に矛盾する。このような状況を打開するため、集合を厳密に定義する公理的集合論が誕生

した。

Page 53: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

実数について

2.1 部分集合族、2項関係

2.1.1 部分集合族

X の部分集合が集まってできた集合 S を X の部分集合族という。つまり Sは X のベキ集合 P(X) の部分集合である。一般に S の元の個数はいくつあるか分からない。そこで S の元、つまり X の部分集合に添字(またはラベル)を張ることを考える。ここで添字は必ずしも自然数である必要はなく、何かある集合(添字集合という)、例えば Λ ∗1(ラムダ)の元 λ を用いる。このとき X の部分集合族 S は次のように表される。

S = {Aλ | λ ∈ Λ}

注意 添字 λ を X の部分集合 Aλ に張り付けるという操作は、添字集合 Λ から X の部分集合族 S への写像 (λ 7→ Aλ) とも思える。よって相異なる2つの添字 λ, µ ∈ Λ に対し、Aλ = Aµ となることもある。

例 2.1 X を各学年5クラスからなる中学校の学生全体の集合として、各クラスからなる部分集合族 S を考えと、S の元(つまりクラス)の個数は 3 × 5 =

∗1 添字にはギリシャ文字を使うことが多い。

Page 54: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

50 2 実数について

15 個になる。k 学年の ℓ 組を A(k,ℓ) と表せば、例えば2年3組は A(2,3) になる。この場合、添字集合は {(k, ℓ) | 1 5 k 5 3, 1 5 ℓ 5 5} となる。一方 s さんのクラスを As と表せば、例えば s さんと t さんが同じクラスならば As = At

となるし、違うクラスならば As ̸= At となる。

2.1.2 部分集合族の和集合と共通部分

2つの集合の共通部分 A1 ∩A2 や和集合 A1 ∪A2 は、全称記号 ∀ や存在記号 ∃ を用いると次のように表せる。

A1 ∩A2 = {a | ∀µ ∈ {1, 2}, a ∈ Aµ},A1 ∪A2 = {a | ∃µ ∈ {1, 2} s.t. a ∈ Aµ}.

2つの集合くらいならば全称記号 ∀ や存在記号 ∃ を用いるのは大げさな感じがするが、元がいくつあるか分からない部分集合族の和集合や共通部分を表すには、全称記号 ∀ や存在記号 ∃ は不可欠になる。例えば集合 X の部分集合族{Aλ | λ ∈ Λ} に対し、それらの元の和集合や共通部分は、全称記号 ∀ や存在記号 ∃ を用いて次のように表すことができる。

∩µ∈M

Aµ = {a ∈ X | ∀µ ∈ M, a ∈ Aµ},

∪µ∈M

Aµ = {a ∈ X | ∃µ ∈ M s.t. a ∈ Aµ}.

命題 2.1 集合 X の部分集合族 {Aλ | λ ∈ Λ} と X の部分集合 B に対し、次の等式が成り立つ。

(1) B ∩( ∪λ∈Λ

Aλ) = ∪λ∈Λ

(B ∩Aλ)

(2) B ∪( ∩λ∈Λ

Aλ) = ∩λ∈Λ

(B ∪Aλ)

(3) B ∪( ∪λ∈Λ

Aλ) = ∪λ∈Λ

(B ∪Aλ)

(4) B ∩( ∩λ∈Λ

Aλ) = ∩λ∈Λ

(B ∩Aλ)

証明 論理記号のみを用いて証明を書いてみよう。

(1)

x ∈ B ∩( ∪λ∈Λ

Aλ) ⇔ x ∈ B ∧ x ∈ ∪λ∈Λ

Page 55: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

2.1 部分集合族、2項関係 51

⇔ x ∈ B ∧ ∃λ ∈ Λ s.t. x ∈ Aλ

⇔ ∃λ ∈ Λ s.t. x ∈ B ∧ x ∈ Aλ

⇔ x ∈ ∪λ∈Λ

(B ∩Aλ)

(2)

x ∈ B ∪( ∩λ∈Λ

Aλ) ⇔ x ∈ B ∨ x ∈ ∩λ∈Λ

⇔ x ∈ B ∨ ∀λ ∈ Λ, x ∈ Aλ

⇔ ∀λ ∈ Λ, x ∈ B ∨ x ∈ Aλ

⇔ x ∈ ∩λ∈Λ

(B ∪Aλ)

(3)

x ∈ B ∪( ∪λ∈Λ

Aλ) ⇔ x ∈ B ∨ x ∈ ∪λ∈Λ

⇔ x ∈ B ∨ ∃λ ∈ Λ s.t. x ∈ Aλ

⇔ ∃λ ∈ Λ s.t. x ∈ B ∨ x ∈ Aλ

⇔ x ∈ ∪λ∈Λ

(B ∪Aλ)

(4)

x ∈ B ∩( ∩λ∈Λ

Aλ) ⇔ x ∈ B ∧ x ∈ ∩λ∈Λ

⇔ x ∈ B ∧ ∀λ ∈ Λ, x ∈ Aλ

⇔ ∀λ ∈ Λ, x ∈ B ∧ x ∈ Aλ

⇔ x ∈ ∩λ∈Λ

(B ∩Aλ)

次はド・モルガンの定理 1.5の一般化である。

命題 2.2 (ド・モルガンの定理)集合 X の部分集合族 {Aλ | λ ∈ Λ} に対し、次の等式が成り立つ。

(1) ( ∪λ∈Λ

Aλ)c = ∩λ∈Λ

Acλ

(2) ( ∩λ∈Λ

Aλ)c = ∪λ∈Λ

Acλ

Page 56: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

52 2 実数について

証明 論理記号のみを用いて証明を書いてみよう。

(1)

x ∈ ( ∪λ∈Λ

Aλ)c ⇔ x /∈ ( ∪λ∈Λ

Aλ)

⇔ ¬(∃λ ∈ Λ s.t. x ∈ Aλ)⇔ ∀λ ∈ Λ, x /∈ Aλ

⇔ ∀λ ∈ Λ, x ∈ Acλ

⇔ x ∈ ∩λ∈Λ

Acλ

(2)

x ∈ ( ∩λ∈Λ

Aλ)c ⇔ x /∈ ( ∩λ∈Λ

Aλ)

⇔ ¬(∀λ ∈ Λ, x ∈ Aλ)⇔ ∃λ ∈ Λ s.t. x /∈ Aλ

⇔ ∃λ ∈ Λ s.t. x ∈ Acλ

⇔ x ∈ ∪λ∈Λ

Acλ

次は写像と集合演算に関する命題 1.20の一般化である。

命題 2.3 (写像と集合演算)集合 X の部分集合族 {Aλ | λ ∈ Λ}、集合 Y の部分集合族{Cµ | µ ∈ M}、および写像 f : X → Y について以下が成り立つ。

(1) f( ∪λ∈Λ

Aλ) = ∪λ∈Λ

f(Aλ)

(2) f( ∩λ∈Λ

Aλ) ⊂ ∩λ∈Λ

f(Aλ)

(3) f−1( ∪µ∈M

Cµ) = ∪µ∈M

f−1(Cµ)

(4) f−1( ∩µ∈M

Cµ) = ∩µ∈M

f−1(Cµ)

証明 論理記号のみを用いて証明を書いてみよう。

(1)

y ∈ f( ∪λ∈Λ

Aλ) ⇔ ∃x ∈ ∪λ∈Λ

Aλ s.t. y = f(x)

Page 57: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

2.1 部分集合族、2項関係 53

⇔ ∃λ ∈ Λ s.t. ∃x ∈ Aλ s.t. y = f(x)

⇔ ∃λ ∈ Λ s.t.y ∈ f(Aλ)

⇔ y ∈ ∪λ∈Λ

f(Aλ)

(2)

y ∈ f( ∩λ∈Λ

Aλ) ⇔ ∃x ∈ ∩λ∈Λ

Aλ s.t. y = f(x)

⇒ ∀λ ∈ Λ,∃x ∈ Aλ s.t. y = f(x)

⇔ ∀λ ∈ Λ, y ∈ f(Aλ)

⇔ y ∈ ∩λ∈Λ

f(Aλ)

(3)

x ∈ f−1( ∪µ∈M

Cµ) ⇔ f(x) ∈ ∪µ∈M

⇔ ∃µ ∈ M s.t. f(x) ∈ Cµ

⇔ ∃µ ∈ M s.t. x ∈ f−1(Cµ)

⇔ x ∈ ∪µ∈M

f−1(Cµ)

(4)

x ∈ f−1( ∩µ∈M

Cµ) ⇔ f(x) ∈ ∩µ∈M

⇔ ∀µ ∈ M, f(x) ∈ Cµ

⇔ ∀µ ∈ M, x ∈ f−1(Cµ)

⇔ x ∈ ∩µ∈M

f−1(Cµ)

注意 1章の命題 1.20(4)より、命題 2.3の(2)は一般に等号が成立しない。

2.1.3 2項関係

自然数全体の集合 N において、7 と 12 はともに 5 で割った余りが 2 であるとか、13 は 6 より大きいなど、集合の2つの元どうしの数学的な関係について、集合と論理の言葉で定式化してみよう。

Page 58: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

54 2 実数について

定義 2.4 (2項関係)空集合でない集合 X と X 自身の直積集合 X × X において、空集合でない部分集合 R ⊂ X ×X を X の2項関係という。X ×X の元 (a, b) が R に含まれることを aRb と表し、2項関係 R に関して a は b と関係しているという。

例 2.2 整数全体の集合 Z の2項関係をいくつか挙げてみよう。

(1) (等号関係)R = {(a, b) ∈ Z×Z | a = b} とすると、aRb とは a と b は等しいことを意味する。

(2) (大小関係)R = {(a, b) ∈ Z×Z | a 5 b} とすると、aRb とは b は a 以上であることを意味する。

(3) (剰余関係)R = {(a, b) ∈ Z×Z | a− bは 6の倍数 } とすると、aRb とは a と b は 6 で割った余りが等しいことを意味する。

2項関係の性質のうち以下の4つが重要である。

• (反射律) X の任意の元 x に対し、xRx が成り立つ。• (対称律)X の任意の2元 x, y に対し、xRy ならば yRx が成り立つ。• (反対称律)X の任意の2元 x, y に対し、xRy かつ yRx ならば x = y

が成り立つ。• (推移律)X の任意の3元 x, y, z に対し、xRy かつ yRz ならば xRz が

成り立つ。

定義 2.5 2項関係 R が同値関係であるとは、反射律と対称律と推移律を満たすこととする。2項関係 R が順序関係であるとは、反射律と反対称律と推移律を満たすこととする。

例 2.3 (1) 集合 X の2つの元 a, b に対し、a R b を a = b で定義すると、X

の2項関係 R は同値関係になる。(2) 自然数 n を1つ固定する。2つの整数 a, b ∈ Z に対し、a R b を a − b

は n で割り切れることと定義すると、Z における2項関係 R は同値関係になる。

(3) 集合 X の2つの部分集合 A,B に対し、A R B を A = B で定義すると、X のベキ集合 P (X) における2項関係 R は同値関係になる。

Page 59: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

2.1 部分集合族、2項関係 55

証明 (2)の2項関係 R が同値関係になることを示そう。任意の整数 a ∈ Zに対し、a − a = 0 は自然数 n の倍数より R は反射律を満たす。次に任意の2つの整数 a, b ∈ Z に対し、a− b が n の倍数ならば b− a = −(a− b) も n の倍数より R は対称律を満たす。最後に任意の3つの整数 a, b, c ∈ Z に対し、a− b

と b− c が n の倍数ならば a− c = (a− b) + (b− c) も n の倍数より R は推移律を満たす。以上より R は同値関係である。

例 2.4 (1) 2つの実数 a, b ∈ R に対し、a R b を a 5 b と定義すると、R における2項関係 R は順序関係になる。

(2) 2つの自然数 a, b ∈ N に対し、a R b を b は a の倍数であることと定義すると、N における2項関係 R は順序関係になる。

(3) 集合 X の2つの部分集合 A, B に対し、A R B を A ⊂ B で定義すると、X のベキ集合 P(X) における2項関係 R は順序関係になる。

証明 (2)の2項関係 R が順序関係になることを示そう。任意の整数 a ∈ Zに対し、a 自身は a の倍数より R は反射律を満たす。次に任意の2つの整数a, b ∈ Z に対し、b が a の倍数かつ a が b の倍数ならば a = b となり R は反対称律を満たす。最後に任意の3つの整数 a, b, c ∈ Z に対し、b が a の倍数かつ c が b の倍数ならば c は a の倍数より R は推移律を満たす。以上より R は順序関係である。

2.1.4 演習問題

例題 2.6 各 n ∈ N ごとに次のような実数の全体 R の部分集合 An を対応させる。このとき和集合 ∪

n∈NAn と共通部分 ∩

n∈NAn を求めよ。

(1) An = [0, 1/n] = {r ∈ R | 0 5 r 5 1/n}(2) An = (0, 1/n] = {r ∈ R | 0 < r 5 1/n}(3) An = (−1/n, 1/n) = {r ∈ R | − 1/n < r < 1/n}

証明 答えのみ記す。

(1) ∪n∈N

An = A1, ∩n∈N

An = {0}

(2) ∪n∈N

An = A1, ∩n∈N

An = ∅

Page 60: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

56 2 実数について

(3) ∪n∈N

An = A1, ∩n∈N

An = {0}

例題 2.7 各 n ∈ N ごとに次のような平面 R2 の部分集合 An を対応させる。このとき和集合 ∪

n∈NAn と共通部分 ∩

n∈NAn を図示せよ。

(1) An = {(x, y) ∈ R2 | y = nx}(2) An = {(x, y) ∈ R2 | y > x2n}(3) An = {(x, y) ∈ R2 | y > x2n−1}

証明 ここに図が6個

例題 2.8 直積集合について以下の等式が成立するか調べよ。

(1) A × (B ∪C) = (A × B)∪(A × C)

(2) A × (B ∩C) = (A × B)∩(A × C)

(3) (A × B)∪(C × D) = (A∪C) × (B ∪D)

(4) (A × B)∩(C × D) = (A∩C) × (B ∩D)

証明 論理記号のみを用いて証明を書いてみよう。

(1)

(x, y) ∈ A × (B ∪C) ⇔ x ∈ A ∧ y ∈ B ∪C

⇔ x ∈ A ∧ (y ∈ B ∨ y ∈ C)⇔ (x ∈ A ∧ y ∈ B) ∨ (x ∈ A ∧ y ∈ C)⇔ (x, y) ∈ A × B ∨ (x, y) ∈ A × C

⇔ (x, y) ∈ (A × B)∪(A × C)

(2)

(x, y) ∈ A × (B ∩C) ⇔ x ∈ A ∧ y ∈ B ∩C

⇔ x ∈ A ∧ (y ∈ B ∧ y ∈ C)⇔ (x ∈ A ∧ y ∈ B) ∧ (x ∈ A ∧ y ∈ C)⇔ (x, y) ∈ A × B ∧ (x, y) ∈ A × C

⇔ (x, y) ∈ (A × B)∩(A × C)

(3) 等号成立しない例として、A = B = [0, 1], C = D = [2, 3] とすると、

Page 61: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

2.2 同値関係 57

(A × B)∪(C × D) は (A∪C) × (B ∪D) の真部分集合になる。ここに図が2つ(4)

(x, y) ∈ (A × B)∩(C × D)⇔ (x, y) ∈ A × B ∧ (x, y) ∈ C × D

⇔ (x ∈ A ∧ y ∈ B) ∧ (x ∈ C ∧ y ∈ D)⇔ (x ∈ A ∧ x ∈ C) ∧ (y ∈ B ∧ y ∈ D)⇔ (x ∈ A∩C) ∧ (y ∈ B ∩D)⇔ (x, y) ∈ (A∩C) × (B ∩D)

例題 2.9 平面 R2 において、次のように定めた二項関係 R は反射律、対称律、推移律、反対称律を満たすか調べよ。(a, b), (c, d) ∈ R2 に対し

(1) (a, b) R (c, d) を a + d = b + c と定義する。(2) (a, b) R (c, d) を ad = bc と定義する。(3) (a, b) R (c, d) を ab = cd と定義する。

証明 答えのみ記す。

(1) 反射律:満たす、対称律:満たす、推移律:満たす、反対称律:満たさない。例えば (1, 2)R(3, 4) かつ (3, 4)R(1, 2) だが (1, 2) = (3, 4) ではない。

(2) 反射律:満たす、対称律:満たす、推移律:満たさない。例えば (1, 1)R(0, 0)

かつ (0, 0)R(1, 2) だが (1, 1)R(1, 2) ではない。反対称律:満たさない。例えば (0, 0)R(1, 1) かつ (1, 1)R(0, 0) だが (0, 0) = (1, 1) ではない。

(3) 反射律:満たす、対称律:満たす、推移律:満たす、反対称律:満たさない。例えば (1, 2)R(2, 1) かつ (2, 1)R(1, 2) だが (1, 2) = (2, 1) ではない。

2.2 同値関係

2.2.1 同値類、商集合

集合 X は空集合でないとする。X の2項関係 R が同値関係であるとは次の3つの条件を満たすことであった。

Page 62: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

58 2 実数について

• (反射律) X の任意の元 x に対し、xRx が成り立つ。• (対称律)X の任意の2元 x, y に対し、xRy ならば yRx が成り立つ。• (推移律)X の任意の3元 x, y, z に対し、xRy かつ yRz ならば xRz が

成り立つ。

同値関係 aRb を a ∼ b と表すことが多い。

例 2.5 (1) 2つの自然数 x, y ∈ N に対し、x + y が偶数であるとき xRy とすると、R は N の同値関係になる。実際、任意の x ∈ N に対し x + x =

2x は偶数なので xRx となり R は反射律を満たす。また任意の x, y ∈ Nに対し、xRy ならば x + y は偶数より y + x も偶数なので yRx となる。よって R は対称律を満たす。最後に 任意の x, y, z ∈ N に対し、xRy かつ yRz ならば x + y と y + z はともに偶数より、それらの和 (x + y) +

(y + z) = x + z + 2y も偶数なので x + z も偶数になる。よって R は推移律を満たす。

(2) 2つの実数 x, y ∈ R に対し、xy = 0 であるとき xRy とすると、R は Rの同値関係にならない。例えば 1R0 かつ 0R(−1) だが 1R(−1) ではないので推移律を満たさない。

定義 2.10 集合X の同値関係 ∼ について、X の元 a の同値類とは x ∼ a を満たす X の元の全体で [a] と表す。つまり集合の記号で表すと

[a] = {x ∈ X | x ∼ a}

となる。[a] の元を同値類 [a] の代表元という。X の同値類の全体からなる X

の部分集合族を、同値関係 ∼ による X の商集合といいX/ ∼ と表す。X の元a に同値類 [a] を対応させる全射を商写像 π : X → X/ ∼ という。

つまり互いに同値な元たちをひとまとめにしたグループが同値類で、グループの集まりが商集合で、自分がどのグループに属するかを表す写像が商写像である。

例 2.6 自然数 n を1つ固定する。2つの整数 a, b ∈ Z に対し、a ∼ b を a −b は n で割り切れることと定義すると、Z における2項関係 ∼ は同値関係であった(例 2.3)。この同値関係による Z の同値類を n を法とする剰余類といい、商集合 Z/ ∼ を Zn と表したりする。例えば n = 6 とすると、Z6 =

Page 63: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

2.2 同値関係 59

{[0], [1], [2], [3], [4], [5]} であり、1 も 13 も −5 も同値類 [1] ∈ Z6 の代表元である。

補題 2.11 同値類 [a] の任意の代表元 c に対し、[a] = [c] が成り立つ。

証明 c ∈ [a] より c ∼ a となる。よって同値類 [c] の任意の元 x に対し、x ∼c なので同値関係 ∼ の推移律より x ∼ c ∧ c ∼ a から x ∼ a となる。よってx ∈ [a] となり [c] ⊂ [a] となる。また同値関係 ∼ の対称律から c ∼ a より a ∼c となる。よって同値類 [a] の任意の元 y に対し、y ∼ a なので同値関係 ∼ の推移律より y ∼ a ∧ a ∼ c から y ∼ c となる。よって y ∈ [c] となり [a] ⊂ [c]

となる。

命題 2.12 集合 X の同値関係 ∼ による同値類について以下が成り立つ。

(1) 任意の [a] ∈ X/ ∼ に対し [a] ̸= ∅(2) X = ∪

a∈X[a]

(3) [a]∩[b] ̸= ∅ ならば [a] = [b]

証明

(1) 任意の [a] ∈ X/ ∼ に対し、同値関係 ∼ は反射律 a ∼ a を満たすので、a ∈ [a] となり、[a] ̸= ∅ である。

(2) 同値類 [a] は X の部分集合より、X ⊃ ∪a∈X

[a] となる。逆に任意の a ∈

X に対し、同値関係 ∼ は反射律 a ∼ a を満たすので、a ∈ [a] となり、X ⊂ ∪

a∈X[a] となる。

(3) [a]∩[b] ̸= ∅ ならばある元 c ∈ [a]∩[b] が存在する。よって補題 2.11より[a] = [c] = [b] となる。

2.2.2 集合の分割

このように集合の同値関係により、その集合は空集合でない部分集合に分けられ、相異なる部分集合どうしは共通部分を持たない。このような集合の分け方を数学的に定式化しておこう。

Page 64: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

60 2 実数について

定義 2.13 集合 X は空集合でないとする。X の部分集合族 {Aλ | λ ∈ Λ} はX の分割であるとは

(1) 任意の λ ∈ Λ に対し Aλ ̸= ∅(2) X = ∪

λ∈ΛAλ

(3) Aλ ∩Aµ ̸= ∅ ならば Aλ = Aµ

例 2.7 日本全土を都道府県ごとに分けるのは日本全土の分割である。

次の定理から集合を分割することと同値関係を考えることが同値であることが分かる。

定理 2.14 (同値関係の基本定理)

(1) X の同値関係 ∼ による商集合は X の分割を与える。(2) X の分割 {Aλ | λ ∈ Λ} に対し、X の2項関係 ∼ を X の元 a, b に対し

a ∼ b を、ある λ ∈ Λ が存在して a, b ∈ Aλ と定義する。このとき ∼ はX の同値関係となる。

(3) (2)で定義された同値関係 ∼ による商集合 X/ ∼ は、最初に与えられた X の分割 {Aλ | λ ∈ Λ} に一致する。

証明

(1) 命題 2.12より明らか。(2) 同値関係の3つの条件を確かめる。

• (反射律) X の任意の元 a に対し、分割の条件(2)よりある λ ∈ Λ が存在して a ∈ Aλ となる。よって a ∼ a となり反射律を満たす。

• (対称律)X の任意の2元 a, b に対し、a ∼ b と仮定すると、ある λ ∈Λ が存在して a, b ∈ Aλ となる。よって b ∼ a でもあるので対称律を満たす。

• (推移律)X の任意の3元 a, b, c に対し、a ∼ b かつ b ∼ c と仮定すると、ある λ, µ ∈ Λ が存在して a, b ∈ Aλ かつ b, c ∈ Aµ となる。ここでb ∈ Aλ ∩Aµ より、分割の条件(3)より Aλ = Aµ となり、a, c ∈ Aλ より a ∼ c となるので推移律も満たす。

(3) {Aλ | λ ∈ Λ} から X/ ∼ への写像 ϕ : {Aλ | λ ∈ Λ} → X/ ∼ を以下

Page 65: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

2.2 同値関係 61

のように定義する。分割の条件(1)より任意の Aλ は空集合ではないので、任意に元 a ∈ Aλ を選び、その同値類 [a] を対応させる。つまり ϕ(Aλ) = [a] と定義する。このとき ϕ(Aλ) は元 a の選び方によらない。なぜならば例えば別の元 b ∈ Aλ を選んだとすると、a, b ∈ Aλ より同値関係の定義から [a] = [b] となるからである。以下 ϕ が全単射を示す。任意の [a] ∈ X/ ∼ に対し、ある λ ∈ Λ が存在して a ∈ Aλ となるので、ϕ(Aλ) = [a] となり ϕ は全射である。また ϕ(Aλ) = ϕ(Aµ) = [a] ∈X/ ∼ ならば、a ∈ Aλ ∩Aµ より、分割の条件(3)より Aλ = Aµ となり ϕ は単射である。

つまり同値関係とは、集合をグループに分けて巨視的に見ることを数学的に定式化した概念である∗2。

2.2.3 Well-defined(定義可能)

上記の写像 ϕ : {Aλ | λ ∈ Λ} → X/ ∼ の定義のように、代表元を取って写像を定義する際は、代表元の取り方によらないことを確かめる必要がある。この作業を well-defined(定義可能)という。

例 2.8 自然数 n による Z の剰余類全体 Zn に、次のように和と積を定義すると well-defined になる。

[a] + [b] = [a + b], [a] · [b] = [a · b]

証明 [a] = [c] かつ [b] = [d] とすると、ある p, q ∈ N が存在して a − c = pn

かつ b − d = qn と表される。まず [a] + [b] = [a + b] が well-defined であることをいうには、[a + b] = [c +

d] を示せばよいが、

(a + b) − (c + d) = (a − c) + (b − d) = pn + qn = (p + q)n

となり [a + b] = [c + d] が分かる。

∗2 植物を個々の差異をひとまず忘れて、イネ科、キク科、マメ科などに大きく分類して、各科に共通な性質を調べる作業に似ている。

Page 66: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

62 2 実数について

次に [a] · [b] = [a · b] が well-defined であることをいうには、[a · b] = [c · d]

を示せばよいが、

(a · b) − (c · d) = (a − c)b + c(b − d) = pnb + cqn = (pb + cq)n

となり [a · b] = [c · d] が分かる。

同値関係の応用として自然数から整数の構成を構成してみよう。この作り方では整数は同値類なので、加法や乗法を定義する際に well-defined であることを確かめる必要がある。

命題 2.15 (自然数から整数の構成)直積集合 N × N の2項関係 R を、N × N の2つの元 (a, b), (c, d) に対し、

(a, b)R(c, d) ⇔ a + d = b + c

と定義する。このとき

(1) N × N の2項関係 R は同値関係である。(2) 以下 N × N の同値関係 R を ∼ と表す。商集合 N × N/ ∼ における2つの同値類 [(a, b)], [(c, d)] の和を

[(a, b)] + [(c, d)] = [(a + c, b + d)]

と定義すると、well-defined になる。(3) 2つの同値類 [(a, b)], [(c, d)] の積を

[(a, b)] · [(c, d)] = [(ac + bd, ad + bc)]

と定義すると、well-defined になる。(4) 商集合 N × N/ ∼ から Z への写像 ϕ : N × N/ ∼ → Z を ϕ([(a, b)]) =

a − b で定義すると、well-definedかつ全単射になる。(5) ϕ は和と積を保つ、つまり2つの同値類 [(a, b)], [(c, d)] ∈ N × N/ ∼ に対し

ϕ([(a, b)] + [(c, d)]) = ϕ([(a, b)]) + ϕ([(c, d)]),

ϕ([(a, b)] · [(c, d)]) = ϕ([(a, b)]) · ϕ([(c, d)])

となる。

Page 67: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

2.2 同値関係 63

証明

(1) R が同値関係の3つの条件を満たすことを確かめる。

• (反射律)任意の (a, b) ∈ N×N に対し、a+ b = b+ a より (a, b)R(a, b)

となる。• (対称律)任意の (a, b), (c, d) ∈ N×N に対し、(a, b)R(c, d) ならば a +

d = b + c となる。よって c + b = d + a となるので (c, d)R(a, b) となる。• (推移律)任意の (a, b), (c, d), (e, f) ∈ N×N に対し、(a, b)R(c, d) かつ

(c, d)R(e, f) ならば a + d = b + c かつ c + f = d + e となる。両辺どうしを足して a + d + c + f = b + c + d + e となり a + f = b + e となるので (a, b)R(e, f) となる。

(2) (a, b) ∼ (p, q) かつ (c, d) ∼ (r, s) ならば (a + c, b + d) ∼ (p + r, q + s) を示せばよい。(a, b) ∼ (p, q) かつ (c, d) ∼ (r, s) より a + q = b + p かつc + s = d + r となる。両辺どうしを足して a + q + c + s = b + p + d + r

となるので (a + c, b + d) ∼ (p + r, q + s) となる。(3) (a, b) ∼ (p, q) かつ (c, d) ∼ (r, s) ならば (ac + bd, ad + bc) ∼ (pr +

qs, ps + qr) を示せばよい。(a, b) ∼ (p, q) かつ (c, d) ∼ (r, s) より a +

q = b + p かつ c + s = d + r となる。よって a− b = p− q かつ c− d =

r− s となる。両辺どうしを掛けて (a− b)(c− d) = (p− q)(r− s) となるので ac + bd + ps + qr = ad + bc + pr + qs となり (ac + bd, ad + bc) ∼(pr + qs, ps + qr) となる。

(4) まず (a, b) ∼ (p, q) ならば a + q = b + p より a − b = p − q となるので ϕ は well-defined になる。次に [(a, b)], [(c, d)] ∈ N × N/ ∼ に対しϕ([(a, b)]) = ϕ([(c, d)]) ならば、a− b = c− d より a + d = b + c なので[(a, b)] = [(c, d)] となり ϕ は単射である。最後に任意の n ∈ Z に対し、n > 0 ならば ϕ([(n + 1, 1)]) = n、n 5 0 ならば ϕ([(1, 1− n)]) = n となり ϕ は全射である。

(5)

ϕ([(a, b)] + [(c, d)]) = ϕ([(a + c, b + d)]) = (a + c) − (b + d)

= (a − b) + (c − d) = ϕ([(a, b)]) + ϕ([(c, d)]).

Page 68: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

64 2 実数について

ϕ([(a, b)] · [(c, d)]) = ϕ([(ac + bd, ad + bc)]) = (ac + bd) − (ad + bc)

= (a − b) · (c − d) = ϕ([(a, b)]) · ϕ([(c, d)]).

2.2.4 演習問題

例題 2.16 (1) 次の二項関係 xRy は N の同値関係か調べよ。(1)x2 + y は偶数、(2)x + y = 2

(2) 次の二項関係 xRy は R の同値関係か調べよ。(1)|x| = |y|、(2)|x − y| 5 1

証明

(1) (1)は同値関係である。実際

• (反射律) 任意の実数 x に対し、x2 + x = x(x + 1) は偶数より xRx が成り立つ。

• (対称律)任意の2つの実数 x, y に対し、xRy ならば x2 + y が偶数より、x と y はともに偶数かともに奇数である。よって y2 + x も偶数なので yRx が成り立つ。

• (推移律)任意の3つの実数 x, y, z に対し、xRy かつ yRz ならば x2 +

y が偶数かつ y2 + z も偶数より、x と y はともに偶数かともに奇数かつ、y と z もともに偶数かともに奇数である。よって x と z もともに偶数かともに奇数なので、x2 + z は偶数になり xRz が成り立つ。

(2)も同値関係である。実際任意の2つの自然数 x, y に対し、x, y = 1 より x + y = 2 となり、同値関係の3つの条件を満たす。

(2) (1)は同値関係である。実際

• (反射律) 任意の実数 x に対し、|x| = |x| より xRx が成り立つ。• (対称律)任意の2つの実数 x, y に対し、xRy ならば |x| = |y| より、|y| = |x| なので yRx が成り立つ。

• (推移律)任意の3つの実数 x, y, z に対し、xRy かつ yRz ならば |x| =

|y| かつ |y| = |z| より、|x| = |z| なので xRz が成り立つ。

Page 69: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

2.2 同値関係 65

(2)は同値関係ではない。例えば 1R0 かつ 0R(−1) だが 1R(−1) ではないので推移律を満たさない。

例題 2.17 平面 R2 における次の二項関係 (x1, y1)R(x2, y2) が同値関係であることを示し、点 P (0, 0) の同値類と点 Q(2, 1) の同値類を平面に図示せよ。(1)x1 + y2 = x2 + y1、(2)x1y1 = x2y2

証明ここに図が2つ

例題 2.18 (整数から有理数の構成)直積集合 Z × N の2項関係 R を、Z × N の2つの元 (a, b), (c, d) に対し、

(a, b)R(c, d) ⇔ ad = bc

と定義する。

(1) Z × N の2項関係 R は同値関係であることを示せ。(2) 以下 Z × N の同値関係 R を ∼ と表す。商集合 Z × N/ ∼ における2つの同値類 [(a, b)], [(c, d)] ∈ Z × N/ ∼ の和を

[(a, b)] + [(c, d)] = [(ad + bc, bd)]

と定義すると、well-defined になることを示せ。(3) 2つの同値類 [(a, b)], [(c, d)] ∈ Z × N/ ∼ の積を

[(a, b)] · [(c, d)] = [(ac, bd)]

と定義すると、well-defined になることを示せ。(4) 商集合 Z × N/ ∼ から Q への写像 ϕ : Z × N/ ∼→ Q を ϕ([(a, b)]) =

a

bで定義すると、well-defined かつ全単射になることを示せ。

(5) ϕ は和と積を保つ、つまり2つの同値類 [(a, b)], [(c, d)] ∈ Z × N/ ∼ に対し

ϕ([(a, b)] + [(c, d)]) = ϕ([(a, b)]) + ϕ([(c, d)]),

Page 70: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

66 2 実数について

ϕ([(a, b)] · [(c, d)]) = ϕ([(a, b)]) · ϕ([(c, d)])

を示せ。

証明

(1) R が同値関係の3つの条件を満たすことを確かめる。

• (反射律)任意の (a, b) ∈ Z × N に対し、ab = ba より (a, b)R(a, b) となる。

• (対称律)任意の (a, b), (c, d) ∈ Z×N に対し、(a, b)R(c, d) ならば ad =

bc となる。よって cb = da となるので (c, d)R(a, b) となる。• (推移律)任意の (a, b), (c, d), (e, f) ∈ Z × N に対し、(a, b)R(c, d) かつ

(c, d)R(e, f) ならば ad = bc かつ cf = de となる。両辺どうしを掛けてadcf = bcde となる。両辺を d ̸= 0 で割ると acf = bce となる。ここでc ̸= 0 のとき両辺を c で割ると af = be となるので (a, b)R(e, f) となる。また c = 0 のとき ad = bc かつ cf = de より a = e = 0 となり、この場合も af = be となるので (a, b)R(e, f) となる。

(2) (a, b) ∼ (p, q) かつ (c, d) ∼ (r, s) ならば (ad + bc, bd) ∼ (ps + qr, qs) を示せばよい。(a, b) ∼ (p, q) かつ (c, d) ∼ (r, s) より aq = bp かつ cs =

dr となる。よって adqs = bdps かつ bcqs = bdqr となる。両辺どうしを足して (ad + bc)qs = bd(ps + qr) となるので (ad + bc, bd) ∼ (ps +

qr, qs) となる。(3) (a, b) ∼ (p, q) かつ (c, d) ∼ (r, s) ならば (ac, bd) ∼ (pr, qs) を示せばよい。(a, b) ∼ (p, q) かつ (c, d) ∼ (r, s) より aq = bp かつ cs = dr となる。よって両辺どうしを掛けて aqcs = bpdr となるので (ac, bd) ∼ (pr, qs) となる。

(4) まず (a, b) ∼ (p, q) ならば aq = bp より a

b=

p

qとなるので ϕ は well-

defined になる。次に [(a, b)], [(c, d)] ∈ N × N/ ∼ に対し ϕ([(a, b)]) =

ϕ([(c, d)]) ならば、a

b=

c

dより ad = bc なので [(a, b)] = [(c, d)] となり

ϕ は単射である。最後に任意の a

b∈ Q に対し、ϕ([(a, b)]) =

a

bとなり ϕ

は全射である。

Page 71: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

2.2 同値関係 67

(5)

ϕ([(a, b)] + [(c, d)]) = ϕ([(ad + bc, bd)]) =ad + bc

bd

=a

b+

c

d= ϕ([(a, b)]) + ϕ([(c, d)]).

ϕ([(a, b)] · [(c, d)]) = ϕ([(ac, bd)]) =ac

bd

=a

b· c

d= ϕ([(a, b)]) · ϕ([(c, d)]).

例題 2.19 写像 f : X → Y は全射とする。

(1) X の2元 a, b に対し aRb を f(a) = f(b) と定義すると、X の2項関係R は同値関係になることを示せ。

(2) 以下 X の同値関係 R を ∼ と表す。商集合 X/ ∼ から Y への写像 g :

X/ ∼ → Y を g([x]) = f(x) と定義すると、写像 g は well-defined かつ全単射になることを示せ。

証明

(1) 同値関係の3つの条件を確認する。

• (反射律)任意の a ∈ X に対し、f(a) = f(a) より aRa となる。• (対称律)任意の a, b ∈ X に対し、f(a) = f(b) ならば f(b) = f(a) なので f(b) = f(a) となる。

• (推移律)任意の a, b, c ∈ X に対し、aRb かつ bRc ならば f(a) = f(b)

かつ f(b) = f(c) となるので f(a) = f(c) となり aRc となる。

(2) [a] = [b] ならば a ∼ b となるので f(a) = f(b) より g([a]) = g([b]) となる。よって写像 g は well-defined である。仮定より f は全射なので、任意の b ∈ Y に対し a ∈ X が存在して b = f(a) となる。よって g([a]) =

f(a) = b となり、g は全射である。また g([a]) = g([b]) ならば f(a) =

f(b) となるので a ∼ b より [a] = [b] となる。よって g は単射である。

Page 72: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

68 2 実数について

2.3 順序関係

集合 X は空集合でないとする。X の2項関係 R が順序関係であるとは次の3つの条件を満たすことであった。

• (反射律)X の任意の元 x に対し、xRx が成り立つ。• (反対称律)X の任意の2元 x, y に対し、xRy かつ yRx ならば x = y

が成り立つ。• (推移律)X の任意の3元 x, y, z に対し、xRy かつ yRz ならば xRz が

成り立つ。

定義 2.20 順序関係 R を 5 と表し、特に 5 かつ ̸= を < と表す。(X, 5) を順序集合という。順序集合 (X, 5) の2つの元 a, b が比較可能であるとは、a 5b または b 5 a のいずれかを満たすこととする。特に X の任意の2つの元が比較可能な場合に 5 を全順序といい、(X, 5) を全順序集合という。

例 2.9 例 2.4において、(1)の順序集合 (R, 5) は全順序集合であるが、(2)の順序集合 (N,5) は全順序集合ではない。例えば 3 と 12 は比較可能だが、8

と 14 は比較可能ではない。同様に(3)の順序集合 (P(X),5) も、X が2個以上の元を含む場合は全順序集合ではない。

順序集合の部分集合の性質について以下にまとめておこう。

定義 2.21 (X, 5) を順序集合とする。X の空でない部分集合 A と X の元 p

に対し、

(1) p は A の上界(の1つ∗3)であるとは、A の任意の元 a に対し、a 5 p

が成り立つこととする。(2) p は A の下界(の1つ)であるとは、A の任意の元 a に対し、p 5 a が成り立つこととする。

(3) A は上に有界であるとは、A の上界が存在することとする。(4) A は下に有界であるとは、A の下界が存在することとする。(5) A は有界であるとは、上に有界かつ下に有界であることとする。

∗3 上界が1つ見つかればそれより大きい元は全て上界なので、上界は一般に複数ある。

Page 73: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

2.3 順序関係 69

(6) p は A の最大元であるとは、p は A の元であり、かつ A の上界であることとする。記号で max A と表す。

(7) p は A の最小元であるとは、p は A の元であり、かつ A の下界であることとする。記号で min A と表す。

(8) A を上に有界とする。このとき p は A の上限であるとは、上界の最小値、つまり B を A の上界全体の集合とするとき、p = min B であることとする。記号で supA と表す。

(9) A を下に有界とする。このとき p は A の下限であるとは、下界の最大値、つまり C を A の下界全体の集合とするとき、p = maxC であることとする。記号で inf A と表す。

最大元や最小限に比べて、上限や下限は最初なかなか分かり難い概念である。それらの関係は以下の通りである。

命題 2.22 (X, 5) を順序集合とする。X の空でない部分集合 A に対し以下が成り立つ。

(1) A の最大元は存在するならばただ1つである。(2) A の最小元は存在するならばただ1つである。(3) A の上限は存在するならばただ1つである。(4) A の下限は存在するならばただ1つである。(5) max A が存在するならば、supA も存在して max A = supA である。(6) min A が存在するならば、inf A も存在して minA = inf A である。(7) sup A が存在しても maxA が存在するとは限らない。(8) inf A が存在しても minA が存在するとは限らない。(9) 実数直線において A = (0, 1) とする。このとき supA = 1 だが max A

は存在しない。(10) 実数直線において A = (0, 1) とする。このとき inf A = 0 だが min A

は存在しない。

証明

(1) p と q はともに A の最大元とする。このとき p も q も A の元である。また p も q も A の上界なので、q 5 p かつ p 5 q となる。よって 5 は

Page 74: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

70 2 実数について

反対称律を満たすので p = q となり、A の最大元は存在すればただ1つである。

(2) p と q はともに A の最小元とする。このとき p も q も A の元である。また p も q も A の下界なので、p 5 q かつ q 5 p となる。よって 5 は反対称律を満たすので p = q となり、A の最小元は存在すればただ1つである。

(3) p と q はともに A の上限とする。B を A の上界全体の集合とするとき、p も q も B の最小元なので、(2) より p = q となる。よって A の上限は存在すればただ1つである。

(4) p と q はともに A の下限とする。C を A の下界全体の集合とするとき、p も q も C の最大元なので、(1) より p = q となる。よって A の下限は存在すればただ1つである。

(5) p = max A とすると、p は A の上界である。一方 q を A の上界とすると、p は A の元より p 5 q となる。よって p は A の上界全体の最小元より p = supA、つまり max A = supA となる。

(6) p = min A とすると、p は A の下界である。一方 q を A の下界とすると、p は A の元より q 5 p となる。よって p は A の下界全体の最大元より p = inf A、つまり max A = supA となる。

2つの部分集合の上限や下限の大小関係についてまとめておこう。

命題 2.23 (X, 5) を順序集合とする。X の空でない部分集合 A,B に対し次を示せ。

(1) supA と supB が存在して A の任意の元 a と B の任意の元 b に対しa 5 b が成り立つならば、supA 5 supB である。

(2) supA, supB が存在して A ⊂ B ならば、supA 5 supB である。(3) inf A と inf B が存在して A の任意の元 a と B の任意の元 b に対し a 5

b が成り立つならば、inf A 5 inf B である。(4) inf A と inf B が存在して A ⊂ B ならば、inf B 5 inf A である。(5) supA, inf B がともに存在して A の任意の元 a と B の任意の元 b に対し a 5 b ならば、supA 5 inf B である。

Page 75: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

2.3 順序関係 71

証明

(1) A の任意の元 a と B の任意の元 b に対し a 5 b より、B の任意の元 b

は A の上界である。よって supA 5 b となる。ここで b は B の任意の元より supA 5 supB となる。

(2) A ⊂ B より B の任意の上界は A の上界でもある。よって B の上限supB も A の上界になるので、supA 5 supB である。

(3) A の任意の元 a と B の任意の元 b に対し a 5 b より、A の任意の元 a

は B の下界である。よって a 5 inf B となる。ここで a は A の任意の元より inf A 5 inf B となる。

(4) A ⊂ B より B の任意の下界は A の下界でもある。よって B の下限inf B も A の下界になるので、inf B 5 inf A である。

(5) A の任意の元 a と B の任意の元 b に対し a 5 b ならば、B の任意の元b は A の上界である。よって supA 5 b となる。ここで b は B の任意の元より supA は B の下界になるので、supA 5 inf B である。

次の実数における上限および下限の特徴付けはとても有用である。

定理 2.24 (実数における上限および下限の特徴付け)

(1) R の空でない部分集合 A が上に有界とする。このとき b ∈ R が supA

であるための必要十分条件は、次の2つの条件を満たすことである。(1)∀a ∈ A, a 5 b.

(2)∀ε > 0, ∃a ∈ A s.t. b − ε < a.

(2) R の空でない部分集合 A が下に有界とする。このとき c ∈ R が inf A であるための必要十分条件は、次の2つの条件を満たすことである。(1)∀a ∈ A, a = c.

(2)∀ε > 0, ∃a ∈ A s.t. c + ε > a.

証明 定義より supA は A の上界なので条件 (1) を満たす。さらに supA はA の上界の最小値より、任意の ε > 0 に対し、supA− ε は A の上界ではない。よって A の元 a が存在して supA − ε < a となり条件 (2) を満たす。逆に b ∈ R は条件 (1) と (2) を満たすと仮定する。条件 (1) より b は A の

Page 76: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

72 2 実数について

上界である。ここでもし b が A の上界の最小値でなければ、b より小さい A の上界 p が存在する。このとき ε = b − p > 0 とすると、条件 (2) より A の元 a

が存在して p = b − ε < a となり p が A の上界であることに矛盾する。よってb は A の上界の最小値 supA となる。

inf A についても同様である。

2.3.1 演習問題

例題 2.25 (X, 5) を順序集合とする。X の空でない部分集合 A に対し以下を示せ。

(1) supA が存在しても maxA が存在するとは限らない。(2) inf A が存在しても minA が存在するとは限らない。

証明 R の部分集合 A = (0, 1) について、supA = 1 であることを実数における上限および下限の特徴付けの定理 2.24を用いて示そう。1 が A の上界である

ことは明らかである。そこで任意の ε > 0 に対し、もし ε >12ならば 1 − ε <

12となり、もし 0 < ε 5 1

2ならば 1 − ε <

ε

2となるので、定理 2.24より 1 は

A の上限である。一方 maxA が存在すれば、命題 2.22の(5)より maxA =

supA = 1 となるが、1 /∈ A より矛盾。よって max A は存在しない。inf A = 0 かつ minA が存在しないことも同様に示せる。

例題 2.26 次の実数の部分集合は上に有界か、下に有界か、有界か調べよ。また上限、下限、最大値、最小値の存在を調べよ。

A = (−1, 2)∪{3, 5}, B = {1 − 1n| n ∈ N}, C = { 1

n| n ∈ N}∪N

証明 答えのみ記す。A は有界で、supA = max A = 5, inf A = −1 かつ min A

は存在しない。B は有界で、supB = 1、maxB は存在せず、inf B = min B =

0 である。C は下に有界で、supC も max C も存在せず、inf C = 0 で min C

は存在しない。

例題 2.27 有理数の全体 Q の部分集合 A,B が次の2つの条件を満たすとき、

Page 77: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

2.3 順序関係 73

対 ⟨A | B⟩ を有理数の切断という。

• A,B は Q の分割である。つまり A ̸= ∅, B ̸= ∅, A∩B = ∅, A∪B = Qを満たす。• A の任意の元 a と B の任意の元 b に対し、a < b が成り立つ。

このとき次の4通りが考えられる。

(1) max A は存在するが minB は存在しない。(2) max A は存在しないが min B は存在する。(3) max A も min B も存在しない。(4) max A も min B も存在する。

以下の問いに答えよ。

(1) (1)、(2)、(3)を満たす A,B の例をそれぞれ挙げよ。(2) (4)が起こらないことを示せ。

証明

(1) 例えば(1)の例としては

A = {r ∈ Q | r 5 2}, B = {s ∈ Q | s > 2}

(2)の例としては

A = {r ∈ Q | r < 2}, B = {s ∈ Q | s = 2}

(3)の例としては

A = {r ∈ Q | r <√

2}, B = {s ∈ Q | s >√

2}

などがある。(2) 背理法で示す。a0 = max A と b0 = min B が存在したと仮定する。有理

数の切断の定義より a0 < b0 となる。ここで c0 =a0 + b0

2∈ Q とする

と、c0 > a0 = max A より c0 /∈ A となり、また c0 < b0 = min B よりc0 /∈ B となる。一方 A∪B = Q より c0 /∈ Q となり矛盾。

Page 78: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

74 2 実数について

注意√

2 が有理数ではないこと、実数として存在することは次節の例題 2.35

で示す。

例題 2.28 2つの順序集合 (X, 5X) と (Y, 5Y ) が順序同型であるとは、全単射 f : X → Y が存在して、x1 5X x2 ならば f(x1) 5Y f(x2) を満たし、かつy1 5Y y2 ならば f−1(y1) 5X f−1(y2) を満たすこととする。

(1) N と Z は順序同型でないことを示せ。(2) Z と Q も順序同型でないことを示せ。

証明

(1) 背理法で示す。N から Z への順序同型写像 f : N → Z が存在したと仮定する。n = f(1) ∈ Z とすると、n − 1 ∈ Z に対し m = f−1(n − 1) ∈ Nは m < 1 を満たすことになり矛盾。

(2) 背理法で示す。Z から Q への順序同型写像 f : Z → Q が存在したと仮定する。r = f(0), s = f(1) ∈ Q とすると、0 < 1 より r < s となる。こ

こで r <r + s

2< s より、m = f−1(

r + s

2) ∈ N は 0 < m < 1 を満たす

ことになり矛盾。

2.4 実数の完備性

定理 2.29 (上(または下)に有界な集合は上限(または下限)を持つ)同様に R の空集合でない部分集合 A が下に有界ならば下限 inf A が存在する。

証明 実数が無限小数であることを用いて証明する。A は上に有界より、ある整数 p0 ∈ Z が存在して、p0 は A の上界ではないが、p0 + 1 は A の上界である。区間 [p0, p0 + 1] を10等分することを考えると、0 以上 9 以下の整数 p1 ∈ Z

が存在して、有限小数 p0.p1 は A の上界ではないが、p0.p1 +110は A の上界

である。更に区間 [p0.p1, p0.p1 +110

] を10等分することを考えると、0 以上

9 以下の整数 p2 ∈ Z が存在して、有限小数 p0.p1p2 は A の上界ではないが、

Page 79: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

2.4 実数の完備性 75

p0.p1p2 +1

102は A の上界である。この操作を帰納的に繰り返すと、任意の自

然数 n ∈ N に対し、2つの有限小数sn = p0.p1 · · · pn

tn = p0.p1 · · · pn +1

10n

が存在して、sn は A の上界ではないが、tn は A の上界である。以下無限小数 r = p0.p1 · · · pn · · · が A の上限 supA になることを、上限の判定法である定理 2.24 を用いて示す。まず r は A の上界であることを背理法で示す。 r

が A の上界でないとすると、A のある元 a が存在して r < a を満たす。一方lim

n→∞tn = r より十分大きな自然数 n で tn < a となり tn が A の上界であるこ

とに矛盾する。以上より r は A の上界である。次に任意の ε > 0 に対し A の元 a が存在して r − ε < a を満たすことを示す。ε > 0 に対しある自然数 n ∈

N が存在して 110n

< ε を満たす。よって r − ε < tn − 110n

= sn となり、仮定

より sn は A の上界ではないので、r − ε も A の上界ではない。よって A の元a が存在して r − ε < a を満たす。以上より実数 r = p0.p1 · · · pn · · · は A の上限になる。下限についても同様である。

上限(または下限)の存在定理 2.29から以下のような重要な結果が導かれる。

定理 2.30 (有界単調列は収束する)R の単調増加数列が上に有界ならば収束する。R の単調減少数列が下に有界ならば収束する。

証明 数列 {an} は単調増加で上に有界ならば、定理 2.29より sup an が存在する。さらに定理 2.24より、任意の正の実数 ε > 0 に対しある自然数 n0 が存在して sup an − ε < an0 5 sup an を満たす。一方 {an} は単調増加なので n =n0 を満たす任意の自然数 n に対し、an0 5 an 5 sup an となるので | sup an −an| < ε となる。これは lim

n→∞an = sup an を意味する。

数列 {an} は単調減少で下に有界な場合も同様である。

定理 2.31 (カントールの区間縮小定理)

Page 80: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

76 2 実数について

有限閉区間 In = [an, bn] の列 {In} が任意の n ∈ N に対し In+1 ⊂ In を満たし、 lim

n→∞|an − bn| = 0 を満たすとする。このとき {an} と {bn} は同じ極限 c

に収束して∞∩

k=1Ik は1点集合 {c} になる。

証明 仮定 In+1 ⊂ In より数列 {an} は単調増加で 、任意の n ∈ N に対しan 5 bn 5 b1 より上に有界。よって定理 2.30から数列 {an} は sup an に収束する。この極限を a とすると an 5 a 5 bn となる。同じく数列 {bn} は単調減少で 任意の n ∈ N に対し a1 5 an 5 bn より下に有界。よって定理 2.30から数列 {bn} は inf bn に収束する。この極限を b とすると an 5 b 5 bn となる。an 5 bn より例題 1.42(1)から a 5 b となる。つまり任意の n ∈ N に対しan 5 a 5 b 5 bn となる。また仮定 lim

n→∞|an − bn| = 0 より a = b となる。これ

を新たに c で表す。このとき任意の n ∈ N に対し an 5 c 5 bn より c ∈∞∩

k=1Ik

となり、∞∩

k=1Ik ̸= ∅. そこで

∞∩

k=1Ik の任意の元 d をとると、任意の n ∈ N に対

し an 5 d 5 bn より命題 1.32(はさみうちの原理)から c = d より、∞∩

k=1Ik =

{c} となる。

定理 2.32 (ボルツァノ・ワイエルシュトラスの定理)有限閉区間 I の数列は I の点に収束する収束部分列を持つ。

証明 以下2分法という証明の方法を紹介しよう。有限閉区間 I = [a, b] を

[a,a + b

2] と [

a + b

2, b] に2分割する。[a, b] の数列 {xn} に対し、{n ∈ N | xn ∈

[a,a + b

2]} と {n ∈ N | xn ∈ [

a + b

2, b]} について、N は無限集合なのでどちら

か少なくとも一方は無限集合である。無限集合になるほうの分割区間を新たに[a1, b1] と表し∗4、{n ∈ N | xn ∈ [a1, b1]} の元を1つ選んで i1 とする。次に有

限閉区間 [a1, b1] を [a1,a1 + b1

2] と [

a1 + b1

2, b1] に2分割する。数列 {xn} に

対し、{n ∈ N | xn ∈ [a1,a1 + b1

2]} と {n ∈ N | xn ∈ [

a1 + b1

2, b1]} について、

[a1, b1] の選び方より {n ∈ N | xn ∈ [a1, b1]} は無限集合なので、どちらか少な

∗4 両方とも無限集合の場合はどちらでもよい。

Page 81: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

2.4 実数の完備性 77

くとも一方は無限集合である。無限集合になるほうの分割区間を新たに [a2, b2]

と表し、{n ∈ N | xn ∈ [a2, b2]} の元のうち i1 より大きい元を1つ選んで i2 とする。この操作を帰納的に繰り返してゆくと、有限閉区間 In = [an, bn] の列{In} と、In の元 xik

からなる {xn} の部分列 {xik} が得られ、任意の n ∈ N

に対し In+1 ⊂ In を満たし、 limn→∞

|an − bn| = limn→∞

b − a

2n= 0 を満たす。この

ときカントールの区間縮小定理 2.31より {an} と {bn} は同じ点 c に収束する。一方任意の k ∈ N に対し ak 5 xik

5 bk より命題 1.32(はさみうちの原理)から数列 {xn} の部分列 {xik

} は c ∈ [a, b] に収束する。

以上から、解析学全体の基本的定理である実数の完備性が得られる。

定理 2.33 (実数の完備性)R のコーシー列 {an} は収束列である。

証明 命題 1.35 (2) よりコーシー列 {an} は有界列なので、ある有界閉区間 I

の数列になる。このときボルツァノ・ワイエルシュトラスの定理 2.32より I の点に収束する収束部分列 {aik

} が存在する。よって命題 1.35 (3) より {an} 自身も収束列である。

2.4.1 演習問題

例題 2.34 (中間値の定理)関数 f が有界閉区間 I = [a, b] において連続ならば、f(a) と f(b) の間の任意の実数 r に対し、ある c ∈ I が存在して f(c) = r となる。

証明 f(a) 5 f(b) の場合、f(a) 5 r 5 f(b) を満たす任意の実数 r に対し、

f(a) 5 r 5 f(a + b

2) ならば a1 = a, b1 =

a + b

2とおく。f(

a + b

2) 5 r 5 f(b)

ならば a1 =a + b

2, b1 = b とおく。いずれの場合も f(a1) 5 r 5 f(b1) と

なる。次に f(a1) 5 r 5 f(a1 + b1

2) ならば a2 = a1, b2 =

a1 + b1

2とおく。

f(a1 + b1

2) 5 r 5 f(b1) ならば a2 =

a1 + b1

2, b2 = b1 とおく。いずれの場合

も f(a2) 5 r 5 f(b2) となる。この操作を帰納的に繰り返してゆくと、有限閉区間 In = [an, bn] の列 {In} で任意の n ∈ N に対し In+1 ⊂ In を満たし、

Page 82: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

78 2 実数について

limn→∞

|an − bn| = 0 を満たすものが構成できる。このときカントールの区間縮小

定理 2.31より {an} と {bn} は区間 I の同じ点 c に収束する。一方任意の k ∈ Nに対し f(ak) 5 r 5 f(bk) より f の連続性から定理 1.45と命題 1.32(3)より

f(c) = f( limk→∞

ak) = limk→∞

f(ak) 5 r 5 limk→∞

f(bk) = f( limk→∞

bk) = f(c)

が成り立ち f(c) = r となる。f(a) = f(b) の場合も同様である。

例題 2.35 (√

2 の存在)

(1) 方程式 x2 = 2 を満たす有理数は存在しない。(2) 方程式 x2 = 2 を満たす正の実数がただ1つ存在する。

証明

(1) 背理法で示す。既約分数 p

qが (

p

q)2 = 2 を満たすと仮定する。このとき

p2 = 2q2 より p は 2 の倍数になるので p = 2r と表せる。すると q2 =

2r2 となり q も 2 の倍数になるので p

qが既約分数という仮定に矛盾する。

(2) 連続関数 y = x2 を有界閉区間 [1, 2] で考えると f(1) = 1 < 2 < 4 =

f(2) より、中間値の定理 2.34 より c2 = 2 を満たす c ∈ [1, 2] が存在する。関数 y = x2 は正の実軸上で単調増加なので、この c が方程式 x2 =

2 を満たすただ1つの正の実数である。

例題 2.36 (有界閉区間上の連続関数の最大値と最小値の定理)関数 f が有界閉区間 [a, b] において連続ならば、[a, b] において f は最大値も最小値もとる。

証明 まず f([a, b]) が R の有界集合であることを背理法で示す。f([a, b]) が有

界ではないとすると f([a,a + b

2]) か f([

a + b

2, b]) かの少なくとも一方は有界で

はない。そこで f による像が有界でない分割区間を [a1, b1] とする。f([a1, b1])

が有界でないので f([a1,a1 + b1

2]) か f([

a1 + b1

2, b1]) かの少なくとも一方は有

界ではない。そこで f による像が有界でない分割区間を [a2, b2] とする。この

Page 83: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

2.4 実数の完備性 79

操作を帰納的に繰り返してゆくと、有限閉区間 In = [an, bn] の列 {In} で任意

の n ∈ N に対し In+1 ⊂ In を満たし、 limn→∞

|an − bn| = limn→∞

b − a

2n= 0 を満

たすものが構成できる。このときカントールの区間縮小定理 2.31 より {an}と {bn} は区間 [a, b] の同じ点 c に収束する。一方 f は c で連続より、任意のε > 0 に対しある δ > 0 が存在して f(U(c; δ)) ⊂ U(f(c); ε) となる。ここでc = lim

k→∞ak = lim

k→∞bk より十分大きい n で In ⊂ U(c; δ) となるので、f(In) ⊂

f(U(c; δ)) ⊂ U(f(c); ε) となり f(In) が有界ではないことに矛盾する。よってf([a, b]) は有界である。定理 2.29 より sup f([a, b]) と inf f([a, b]) が存在する。以下ではこれ

らが max f([a, b]) と min f([a, b]) であることを示す。まず sup f([a, b]) =

max f([a, b]) を示す。s = sup f([a, b]) とすると定理??より任意の n ∈ N に対

し cn ∈ [a, b] が存在して |s − f(cn)| <1nとなる。このようにして定まる数列

{cn} は 有界閉区間 [a, b] に含まれるのでボルツァノ・ワイエルシュトラウスの定理 2.32 から収束部分列 {cik

} が存在する。その極限を c = limk→∞

cik∈ [a, b]

とすると、f の連続性から定理 1.45より

s = limk→∞

f(cik) = f( lim

k→∞cik

) = f(c)

となり、s = sup f([a, b]) = max f([a, b]) となる。inf f([a, b]) = min f([a, b]) も同様である。

例題 2.37 (自然対数の底 e の定義)次の極限が存在することを示せ。

limn→∞

(1 +1n

)n

この値を e と表し自然対数の底という。

証明 定理 2.30より an = (1 +1n

)n とすると数列 {an} が上に有界かつ単調増

加を示せばよい。まずは上に有界であることを示す。

an = (1 +1n

)n =n∑

k=0

(n

k

)(1n

)k

Page 84: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

80 2 実数について

= 1 +n∑

k=1

1k!

· n − k + 1n

· · · n − 1n

· n

n

5 1 +n∑

k=1

1k!

5 1 +n∑

k=1

(12)k−1 < 3

次に単調増加を示す。

an = (1 +1n

)n =n∑

k=0

(n

k

)(1n

)k

= 1 +n∑

k=1

1k!

· n − k + 1n

· · · n − 1n

· n

n

= 1 +n∑

k=1

1k!

· (1 − k − 1n

) · · · (1 − 1n

) · (1 − 0n

)

5 1 +n∑

k=1

1k!

· (1 − k − 1n + 1

) · · · (1 − 1n + 1

) · (1 − 0n + 1

)

=n∑

k=0

(n + 1

k

)(

1n + 1

)k <n+1∑k=0

(n + 1

k

)(

1n + 1

)k = (1 +1

n + 1)n+1 = an+1

例題 2.38 (数列空間 ℓ1)∞∑

n=1|xn| = lim

N→∞

N∑n=1

|xn| < ∞ を満たす実数列 {xn} の全体を ℓ1 とする。

(1) 任意の {xn} ∈ ℓ1 と任意の実数 c ∈ R に対して c{xn} = {cxn} と定義すると、c{xn} ∈ ℓ1 となることを示せ。

(2) 任意の {xn}, {yn} ∈ ℓ1 に対して {xn} + {yn} = {xn + yn} と定義すると、{xn} + {yn} ∈ ℓ1 となることを示せ。

(3) ℓ1 は R 上のベクトル空間となることを示せ。

証明

(1) 任意の自然数 N に対しN∑

n=1|cxn| = |c|

N∑n=1

|xn| 5 |c| limN→∞

N∑n=1

|xn| < ∞

となる。よって数列 {N∑

n=1|cxn|} は上に有界かつ単調増加なので定理 2.30

より収束する。つまり∞∑

n=1|cxn| = lim

N→∞

N∑n=1

|cxn| < ∞ より c{xn} =

Page 85: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

2.5 実数の性質 81

{cxn} ∈ ℓ1 となる。

(2) 任意の自然数 N に対し三角不等式よりN∑

n=1|xn + yn| 5

N∑n=1

|xn| +

N∑n=1

|yn| 5∞∑

n=1|xn| +

∞∑n=1

|yn| < ∞ となる。よって数列 {N∑

n=1|xn + yn|}

は上に有界かつ単調増加なので定理 2.30 より収束する。つまり

limN→∞

N∑n=1

|xn + yn| =∞∑

n=1|xn + yn| < ∞ より {xn} + {yn} = {xn +

yn} ∈ ℓ1 となる。(3) ベクトル空間の条件を確かめる。例えば任意の {xn}, {yn} ∈ ℓ1 と任意の実数 c ∈ R に対して

c({xn} + {yn}) = c{xn + yn} = {c(xn + yn)} = {cxn + cyn}= {cxn} + {cyn} = c{xn} + c{yn}

となるので c({xn} + {yn}) = c{xn} + c{yn} が分かる。他は各自に任せる。

2.5 実数の性質

この節では前節の実数の完備性から導かれる微積分の基本的な定理についてまとめておこう。

2.5.1 一様連続

定義 2.39 (一様連続)R の部分集合 A 上の関数 f : A → R が一様連続であるとは、任意の ε > 0 に対し、ある δ > 0 が存在して、|a1 − a2| < δ を満たす任意の2点 a1, a2 ∈ A に対して |f(a1) − f(a2)| < ε が成り立つこととする。論理式で表すと

∀ε > 0,∃δ > 0 s.t. ∀a1, a2 ∈ A, |a1 − a2| < δ ⇒ |f(a1) − f(a2)| < ε

となる。

Page 86: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

82 2 実数について

注意 (連続と一様連続の違い)R の部分集合 A 上の関数 f : A → R が連続であるとは、任意の ε > 0 と A の任意の点 a1 に対し、ある δ > 0 が存在して、|a1 − a2| < δ を満たす任意の点a2 ∈ A に対して |f(a1)− f(a2)| < ε が成り立つことであった。論理式で表すと

∀ε > 0,∀a1 ∈ A,∃δ > 0 s.t. ∀a2 ∈ A, |a1 − a2| < δ ⇒ |f(a1) − f(a2)| < ε

となる。つまり連続の場合の δ は ε > 0 だけでなく A の点 a1 にも依存してよかったが、一様連続の場合の δ は ε > 0 のみに依存して、点 a1 には依存しない。

例 2.10 区間 (0,∞) で連続な関数 f(x) =1xは、区間 [1,∞) では一様連続で

あるが、区間 (0, 1] では一様連続ではない。実際、区間 [1,∞) では任意の ε >

0 に対し δ = ε とすれば、|a1 − a2| < ε を満たす任意の2点 a1, a2 ∈ [1,∞) に対して

|f(a1) − f(a2)| = | 1a1

− 1a2

| =|a1 − a2|

a1a25 |a1 − a2| < ε

が成り立つので区間 [1,∞) で f は一様連続である。一方区間 (0, 1] では、任意

の δ > 0 に対しある m,n ∈ N が存在して | 1m

− 1n| < δ かつ f(

1m

) − f(1n

) =

|m − n| = 1 となるので、区間 (0, 1] で f(x) は一様連続ではない。

命題 2.40 有界閉区間 I 上の連続関数 f は一様連続である。

証明 背理法で示す。つまりある ε0 > 0 が存在して、任意の δ > 0 に対しある2点 aδ, bδ ∈ I が存在して、|aδ − bδ| < δ かつ |f(aδ) − f(bδ)| = ε0 となると

仮定する。δ > 0 は任意より、特に任意の自然数 n ∈ N に対し δ =1nとして、

対応する2点を an, bn ∈ I とすると、|an − bn| <1nかつ |f(an)− f(bn)| = ε0

となる。よって有界閉区間 I の数列 {an} はボルツァノ・ワイエルシュトラスの定理 2.32より I のある元 c に収束する部分列 {ank

} を持つ。このとき |ank−

bnk| <

1nkより数列 {bn} の部分列 {bnk

} も c に収束し、f は c で連続であ

ることから limk→∞

f(ank) = lim

k→∞f(bnk

) = f(c) となる。これは仮定 |f(an) −

f(bn)| = ε0 に矛盾する。

Page 87: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

2.5 実数の性質 83

2.5.2 リーマン積分

有界閉区間 I = [a, b] の分割とは

a = x0 < x1 < · · · < xn−1 < xn = b

を満たす I の点列 {x0, x1, · · · , xn} のことである。この分割を ∆ で表し、各小区間 [xk−1, xk] を Ik として、その長さを |Ik| = xk − xk−1 と表す。I で定義された有界関数 f に対し、I の分割 ∆ の各小区間 Ik における f の下限を mk

として L(∆, f) =n∑

k=1

mk|Ik| とする。同様に Ik における f の上限を Mk とし

て U(∆, f) =n∑

k=1

Mk|Ik| とする。定義より U(∆, f) = L(∆, f) である。

定義 2.41 f(x) が区間 I でリーマン可積分であるとは、任意の ε > 0 に対しI のある分割 ∆ が存在して、U(∆, f) − L(∆, f) < ε を満たすこととする。

区間 I の2つの分割 ∆1,∆2 に対し、∆2 は ∆1 の細分であるとは、点集合として ∆1 は ∆2 の部分集合になっていること、つまり ∆1 にさらに有限個の点を付け加えて ∆2 が得られることとする。このとき定義より L(∆2, f) = L(∆1, f)

かつ U(∆2, f) 5 U(∆1, f) である。特に U(∆2, f) − L(∆2, f) 5 U(∆1, f) −L(∆1, f) となる。

命題 2.42 (1) 区間 I の2つの分割 ∆1,∆2 に対し、U(∆1, f) = L(∆2, f) である。

(2) U(f) = inf∆

U(∆, f) と L(f) = sup∆

L(∆, f) が存在して、U(f) = L(f)

となる。

(3) f(x) がリーマン可積分ならば U(f) = L(f) となる。この値を∫ b

a

f(x) dx

と表す。

証明

(1) ∆1,∆2 に共通な細分 ∆3(例えば ∆1 ∪∆2 )を取れば U(∆1, f) =U(∆3, f) = L(∆3, f) = L(∆2, f) となる。

(2) A = {L(∆, f) | ∆は I の分割 } は R 有界集合より定理 2.29 より上限

Page 88: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

84 2 実数について

L(f) = sup A を持つ。同様に B = {U(∆, f) | ∆は I の分割 } は R の有界集合より定理 2.29より下限 U(f) = inf B を持つ。また A,B の任意の元 L(∆2, f) ∈ A,U(∆1, f) ∈ B に対し(1)より L(∆2, f) 5 U(∆1, f)

が成り立つので、命題 2.23の(5)から U(f) = L(f) となる。(3) f(x) がリーマン可積分ならば 任意の ε > 0 に対し I のある分割 ∆ が存在して、U(∆, f) − L(∆, f) < ε を満たす。よって U(f) 5 U(∆, f) <

L(∆, f) + ε 5 L(f) + ε となるので、U(f) = L(f) と合わせて U(f) =

L(f) となる。

命題 2.43 有界閉区間 I = [a, b] 上の連続関数 f はリーマン可積分である。

証明 命題 2.40より f は I 上で一様連続なので、任意の ε > 0 に対しある δ >

0 が存在して |p1, p2| < δ を満たす任意の p1, p2 ∈ I に対し |f(p1)− f(p2)| < ε

となる。そこで I の分割 ∆ を各小区間の長さが δ 未満になるように取れば(例えば b − a < nδ を満たす n で I を n 等分するなど)、U(∆, f) − L(∆, f) 5ε(b − a) を満たすので f はリーマン可積分である。

命題 2.44 区間 I 上の有界関数 f, g はリーマン可積分とする。このとき

(1) f +g もリーマン可積分で、∫ b

a

f(x)+g(x) dx =∫ b

a

f(x) dx+∫ b

a

g(x) dx

となる。

(2) 任意の実数 c ∈ R に対し cf もリーマン可積分で、∫ b

a

cf(x) dx =

c

∫ b

a

f(x) dx となる。

(3) I 上で f(x) 5 g(x) ならば、∫ b

a

f(x) dx 5∫ b

a

g(x) dx となる。

(4) |f | もリーマン可積分で、|∫ b

a

f(x) dx| 5∫ b

a

|f(x)| dx となる。

証明

(1) I の任意の分割 ∆ に対し、U(∆, f + g) 5 U(∆, f) + U(∆, g) かつ

Page 89: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

2.5 実数の性質 85

L(∆, f + g) = L(∆, f) + L(∆, g) となる。f と g はリーマン可積分より任意の ε > 0 に対し I の分割 ∆1 と ∆2 が存在して、U(∆1, f) −L(∆1, f) < ε かつ U(∆2, g)−L(∆2, g) < ε を満たす。そこで ∆1 と ∆2

の共通の細分(例えば ∆1 と ∆2 の和集合)∆3 を取れば、U(∆3, f +

g) − L(∆3, f + g) < 2ε となり f + g もリーマン可積分である。よって∫ b

a

f(x) + g(x) dx = U(f + g) = L(f + g) とすると、

∫ b

a

f(x) + g(x) dx = U(f + g) 5 U(∆3, f + g) + 2ε 5 U(∆3, f) + U(∆3, g) + 2ε

5∫ b

a

f(x) dx +∫ b

a

g(x) dx + 4ε

となる。同様に∫ b

a

f(x) + g(x) dx = L(f + g) = L(∆3, f + g) − 2ε = L(∆3, f) + L(∆3, g) − 2ε

=∫ b

a

f(x) dx +∫ b

a

g(x) dx − 4ε

となり、∫ b

a

f(x) + g(x) dx =∫ b

a

f(x) dx +∫ b

a

g(x) dx が分かる。

(2) c > 0 の場合に示す。I の任意の分割 ∆ に対し、U(∆, cf) = cU(∆, f)

かつ L(∆, cf) = cL(∆, f) となる。f はリーマン可積分より任意の ε >

0 に対し I の分割 ∆1 が存在して、U(∆1, f) − L(∆1, f) < ε を満たすので U(∆1, cf) − L(∆1, cf) < cε となり cf もリーマン可積分である。

よって∫ b

a

cf(x) dx = U(cf) = L(cf) とすると、

∫ b

a

cf(x) dx = U(cf) 5 U(∆1, cf) + cε 5 cU(∆1, f) + cε

5 c

∫ b

a

f(x) dx + 2cε

となる。同様に

Page 90: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

86 2 実数について

∫ b

a

cf(x) dx = L(cf) = L(∆3, cf) − cε = cL(∆3, f) − cε

=∫ b

a

f(x) dx − 2cε

となり、∫ b

a

cf(x) dx = c

∫ b

a

f(x) dx が分かる。c 5 0 の場合も同様で

ある。

(3) (1)、(2)より I 上で f(x) = 0 ならば、∫ b

a

f(x) dx = 0 を示せばよ

い。I 上で f(x) = 0 より I の任意の分割 ∆ に対し、U(∆, f) = 0 かつ

L(∆, f) = 0 である。よって∫ b

a

f(x) dx = U(f) = L(f) = 0 となる。

(4) f はリーマン可積分より任意の ε > 0 に対し I の分割 ∆1 が存在して、U(∆1, f)−L(∆1, f) < εを満たす。∆1 の各小区間 J で 0 5 sup

x∈J|f(x)|−

infx∈J

|f(x)| 5 supx∈J

f(x)− infx∈J

f(x)より U(∆1, |f |)−L(∆1, |f |) < εとなる

ので |f | もリーマン可積分である。さらに I 上で −|f(x)| 5 f(x) 5 |f(x)|

より、(2)と(3)から −∫ b

a

|f(x)| dx 5∫ b

a

f(x) dx 5∫ b

a

|f(x)| dx

となる。よって |∫ b

a

f(x) dx| 5∫ b

a

|f(x)| dx が分かる。

2.5.3 一様収束

定義 2.45 R の部分集合 A 上で定義された関数族 {fn} と関数 f について

(1) (各点収束){fn} は f に各点収束するとは、A の任意の点 p と任意のε > 0 に対しある自然数 n0 が存在して、n > n0 を満たす任意の自然数n ∈ N に対して |f(p) − fn(p)| < ε が成り立つこととする。論理式で表すと

∀p ∈ A,∀ε > 0,∃n0 ∈ N s.t. ∀n ∈ N, n > n0 ⇒ |fn(p) − f(p)| < ε

となる。

Page 91: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

2.5 実数の性質 87

(2) (一様収束)  {fn} は f に一様収束するとは、任意の ε > 0 に対しある自然数 n0 が存在して、A の任意の点 p と n > n0 を満たす任意の自然数 n ∈ N に対して |f(p) − fn(p)| < ε が成り立つこととする。論理式で表すと

∀ε > 0,∃n0 ∈ N s.t. ∀p ∈ A,∀n ∈ N, n > n0 ⇒ |fn(p) − f(p)| < ε

となる。

注意 (各点収束と一様収束の違い)任意の自然数 n > n0 で |f(p)− fn(p)| < ε が成り立つための自然数 n0 は、各点収束の場合だと位置 p と誤差 ε の両方に依存してもよいのに対し、一様収束の場合には位置 p には無関係で誤差 ε のみに依存する点が違う。

例 2.11 区間 [0, 1] において関数 fn(x) = xn は関数

f(x) =

0 (0 5 x < 1)

1 (x = 1)

に各点収束するが、一様収束しない。

証明 ここに図

命題 2.46 一様収束の判定条件(コーシー)関数列 {fn} が区間 I で一様収束するための必要十分条件は

∀ε > 0,∃n0 ∈ Ns.t.∀p ∈ I,∀m,n > n0, |fm(p) − fn(p)| < ε (C)

である。

証明 関数列 {fn} が区間 I で関数 f に一様収束すると仮定すると、

∀ε > 0,∃n0 ∈ N,∀p ∈ I,∀n ∈ N, n > n0 ⇒ |fn(p) − f(p)| < ε

となる。よって任意の m,n > n0 に対し、三角不等式より

|fm(p) − fn(p)| 5 |fm(p) − f(p)| + |f(p) − fn(p)| < 2ε

となるので条件 (C) を満たす。逆に関数列 {fn} が区間 I で条件 (C) を満たすと仮定する。このとき任意の p ∈ I において数列 {fn(p)} はコーシー列より、

Page 92: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

88 2 実数について

定理 2.33(実数の完備性)から {fn(p)} は収束列になる。その極限値を f(p)

とすると区間 I で関数 f が得られる。ここで条件 C において m → ∞ とすると、fm(p) → f(p) となるので

∀ε > 0,∃n0 ∈ Ns.t.∀p ∈ I,∀n > n0, |f(p) − fn(p)| 5 ε

となり、関数列 {fn} は区間 I で関数 f に一様収束する。

命題 2.47 ある区間 I で定義された連続関数列 {fn} が関数 f に I で一様収束するならば、f も連続である。

証明 I の任意の点 x0 に対し、f が x0 で連続になることを示す。{fn} が f

に I で一様収束することから、任意の ε > 0 に対しある n0 ∈ N が存在して、I

の任意の元 x と任意の n > n0 に対し |f(x) − fn(x)| < ε が成り立つ。また各fn は x0 で連続より、任意の ε > 0 に対しある δ > 0 が存在して、|x − x0| <

δ を満たす任意の x ∈ I に対し |fn(x) − fn(x0)| < ε が成り立つ。よって三角不等式により

|f(x) − f(x0)| 5 |f(x) − fn(x)| + |fn(x) − fn(x0)| + |fn(x0) − f(x0)| < 3ε

となり示せた。

注意 例 2.11のように、連続関数列の各点収束の極限関数は必ずしも連続関数とは限らない。

命題 2.48 ある区間 I = [a, b] で定義された連続関数列 {fn} が関数 f に I で一様収束するならば、

limn→∞

∫ b

a

fn(x) dx =∫ b

a

limn→∞

fn(x) dx =∫ b

a

f(x) dx

となる。つまり一様収束の場合、積分と極限は交換可能である。

証明 各 fn は I で連続かつ命題 2.47から極限関数 f も I で連続なので、命題 2.43より fn も f もリーマン可積分である。また関数列 {fn} が f に I で一様収束することから、任意の ε > 0 に対しある n0 ∈ N が存在して、I の任意の元 x と任意の n > n0 に対し |f(x) − fn(x)| < ε が成り立つ。よって命題 2.44

Page 93: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

2.5 実数の性質 89

の(4)より

|∫ b

a

fn(x) dx −∫ b

a

f(x) dx| 5∫ b

a

|fn(x) − f(x)| dx < ε(b − a)

となり、数列 {∫ b

a

fn(x) dx} は∫ b

a

f(x) dx に収束する。

注意 一様収束という条件がないと、この積分と極限の交換可能は一般に成り立たない。例えば区間 [0, 1] において連続関数

fn(x) =

4n2x (0 5 x 5 1

2n)

4n − 4n2x (12n

5 x 5 1n

)

0 (1n

5 x 5 1)

は恒等的に 0 な定数関数 f = 0 に各点収束するが一様収束しない。この場合、

連続関数列 {fn} とその各点収束極限の関数 f に対し、∫ b

a

fn(x) dx = 1 かつ∫ b

a

limn→∞

fn(x) dx =∫ b

a

f(x) dx = 0 となり、積分と極限が交換できない。

ここに図

2.5.4 演習問題

例題 2.49 有界閉区間 I で定義された有界関数 f に対し、I の2つの分割∆2,∆1 において、∆2 が ∆1 の細分であるとき、L(∆2, f) = L(∆1, f) かつU(∆2, f) 5 U(∆1, f) となることを示せ。

証明 分割 ∆1 の小区間 Ik が分割 ∆2 の有限個の小区間 Js, Js+1, · · · , Jt に細分されているとする。小区間 Ik, Js · · · , Jt における f の下限をそれぞれmk, ns, · · · , nt とすると、mk 5 nℓ (s 5 ∀ℓ 5 t) が成り立つので

t∑ℓ=s

nℓ|Jℓ| =t∑

ℓ=s

mk|Jℓ| = mk

t∑ℓ=s

|Jℓ| = mk|Ik|

となる。よって各小区間 Ik ごとに足し合わせると L(∆2, f) = L(∆1, f) となる。U(∆2, f) 5 U(∆1, f) も同様である。

Page 94: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

90 2 実数について

例題 2.50 有界閉区間 I で定義された有界関数 f, g と I の分割 ∆ に対し、U(∆, f + g) 5 U(∆, f) + U(∆, g) かつ L(∆, f + g) = L(∆, f) + L(∆, g) となることを示せ。

証明 分割∆の小区間 Ik における f, g, f+gの上限をそれぞれMk(f),Mk(g),Mk(f+

g) とすると、任意の ε > 0 に対しある x0 ∈ Ik が存在して

Mk(f + g) − ε 5 (f + g)(x0) = f(x0) + g(x0) 5 Mk(f) + Mk(g)

となる。よって Mk(f + g) 5 Mk(f) + Mk(g) より Mk(f + g)|Ik| 5 Mk(f) +

Mk(g)|Ik| となる。各小区間 Ik ごとに足し合わせると U(∆, f +g) 5 U(∆, f)+

U(∆, g) が分かる。L(∆, f + g) = L(∆, f) + L(∆, g) も同様である。

例題 2.51 区間 I で定義された有界関数 f と I の分割 ∆ および正の定数 c >

0 に対し、U(∆, cf) = cU(∆, f) かつ L(∆, cf) = cL(∆, f) となることを示せ。

証明 分割 ∆ の小区間 Ik における f, cf の上限を Mk(f),Mk(cf) とすると、任意の ε > 0 に対しある x0 ∈ Ik が存在して

Mk(cf) − ε < (cf)(x0) = cf(x0) 5 cMk(f)

となる。同様に ε > 0 に対しある x1 ∈ Ik が存在して

cMk(f) − ε < cf(x1) = (cf)(x1) 5 Mk(cf)

となる。以上より任意の ε > 0 に対し |cMk(f)−Mk(cf)| < ε が成り立つのでcMk(f) = Mk(cf) となりMk(cf)|Ik| = cMk(f)|Ik| が分かる。よって各小区間Ik ごとに足し合わせると U(∆, cf) = cU(∆, f) となる。L(∆, cf) = cL(∆, f)

も同様である。

2.6 実数の構成

例えば√

2 = 1.41421356 · · · と π = 3.14159265 · · · のかけ算はどうやって計算するのだろう。有限小数どうしのかけ算なら、一番小さい桁の数どうしの積から計算を始めるが、一番小さい桁などない無限小数どうしではどう考えればよいのだろう。この素朴な疑問に答えるために、自然数から整数を、整数から有理数を構成したように、有理数から実数を構成してみよう。実数 a とは無限小

Page 95: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

2.6 実数の構成 91

数 a = x0.x1x2 · · ·xn · · · のことなので 、a の小数第 n 位までの有限小数 an =

x0.x1x2 · · ·xn からなる有理数列 {an} について、任意の m > n に対し aa −xn は小数第 n 位まで 0 が続くので {xn} はコーシー列になっている。そこで逆に有理数からなるコーシー列を出発点として、実数を構成することを考えてみよう∗5。

2.6.1 商集合 G

以下しばらく有理数しかない(つまりあえて実数を考えない)世界を思い浮かべてみよう。その世界では有理数列 {an} が有理数 a に収束するとは、任意の正の「有理数」 ε > 0 に対し、ある n0 ∈ N が存在して、任意の n > n0 に対し|an − a| < ε を満たすこととする。同じく有理数列 {an} がコーシー列であるとは、任意の正の「有理数」 ε > 0 に対し、ある n1 ∈ N が存在して、任意のm,n > n1 に対し |am − an| < ε を満たすこととする。また有理数列 {an} が有界列であるとは、正の「有理数 」M > 0 が存在して、任意の自然数 n ∈ N に対し、|an| 5 M を満たすこととする。有理数列のコーシー列や収束列に関する基本的な性質は、1章3節の実数列の

コーシー列や収束列に関する基本的な性質と全く同じである。以下にまとめておこう。

命題 2.52 有理数列について以下が成り立つ。

(1) 収束列はコーシー列である。(2) コーシー列は有界列である。

命題 2.53 有理数列 {xn}, {yn} が収束列とする。このとき

(1) 有理数列 {xn + yn} も収束列である。(2) 有理数列 {xn − yn} も収束列である。(3) 有理数列 {xnyn} も収束列である。

命題 2.54 有理数列 {xn}, {yn} がコーシー列とする。このとき

(1) 有理数列 {xn + yn} もコーシー列である。

∗5 例題 2.27 で考察した有理数の切断を用いても実数を構成することができる。

Page 96: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

92 2 実数について

(2) 有理数列 {xn − yn} もコーシー列である。(3) 有理数列 {xnyn} もコーシー列である。(4) ある有理数 c > 0 が存在して、任意の n ∈ N に対し |xn| > c と仮定する。このとき有理数列 {1/xn} もコーシー列である。

定義 2.55 コーシー列であるような有理数列 {an} の全体を F とする。また 0

に収束する有理数列 {zn} の全体を N とする。

命題 2.56 (1) N ⊂ F となる。(2) {zn}, {wn} ∈ N に対し、{zn + wn} ∈ N となる。(3) {zn}, {wn} ∈ N に対し、{zn − wn} ∈ N となる。(4) {an} ∈ F と {zn} ∈ N に対し、{anzn} ∈ N となる。

証明 (1)は命題 2.52より、(2)と(3)は命題 2.53より分かるので、以下(4)のみ示す。コーシー列は有界列より {an} ∈ F に対し、ある有理数 M >

0 が存在して任意の n ∈ N に対し |an| 5 M となる。一方 {zn} ∈ N より、任意の有理数 ε > 0 に対しある n0 ∈ N が存在して、n > n0 となる任意の n ∈ Nに対し |zn| < ε を満たす。このとき |anzn| < Mε となるので {anzn} ∈ N が分かる。

定義 2.57 F の2項関係 R を以下のように定義する。{an}, {bn} ∈ F に対し、ある {zn} ∈ N が存在して、任意の n ∈ N に対し bn = an + zn となるとき {an}R{bn} とする。

命題 2.58 この2項関係 R は F の同値関係になる。

証明 任意の n ∈ N に対し zn = 0 である有理数列 {zn} は N の元で、任意の {an} ∈ F に対し an = an + 0 より {an}R{an} となる。また {an}R{bn}ならば、ある {zn} ∈ N が存在して、任意の n ∈ N に対し bn = an + zn となる。ここで an = bn − zn かつ {−zn} ∈ N より {bn}R{an} となる。最後に{an}R{bn} かつ {bn}R{cn} ならば、ある {zn}, {wn} ∈ N が存在して、任意の n ∈ N に対し bn = an + zn かつ cn = bn + wn となる。このとき cn = an +

(zn + wn) かつ {zn + wn} ∈ N より {an}R{cn} となる。

以下この F の同値関係 R を ∼ で表すことにする。

Page 97: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

2.6 実数の構成 93

定義 2.59 上記の同値関係 ∼ による商集合 F/ ∼ を G とし、{xn} の同値類を [{xn}] ∈ G と表す。

有理数 a に対し、任意の n ∈ N に対し an = a となる有理数列 {an} を {a}とするとき、a に [{a}] を対応させる Q から G への写像 i : Q → G は、同値関係 ∼ の定義より単射である。

2.6.2 G の四則演算

有理数の四則演算を利用して、G に四則演算を定義してみよう。

命題 2.60 (G の四則演算)G の2つの元 α = [{an}], β = [{bn}] において、

(1) 2項演算 α + β = [{an + bn}] は well-defined である。(2) 2項演算 α − β = [{an − bn}] は well-defined である。(3) 2項演算 α · β = [{an · bn}] は well-defined である。

(4) β ∈ G が β ̸= 0 ならば、β の代表元 {cn} で { 1cn

} ∈ F となるものが存

在する。さらにそのような β の別の代表元 {dn} に対し [{ 1cn

}] = [{ 1dn

}]

となる。よって特に α

β= [{an

cn}] は well-defined である。

証明

(1) [{an}] = [{pn}] とすると {zn} ∈ N が存在して、任意の n ∈ N で pn =

an + zn となる。同様に [{bn}] = [{qn}] とすると {wn} ∈ N が存在して、任意の n ∈ N で qn = bn + wn となる。よって任意の n ∈ N で pn +

qn = an + bn + (zn + wn) となり、命題 2.56の(1)から {zn + wn} ∈N より [{an + bn}] = [{pn + qn}] となる。

(2) [{an}] = [{pn}] とすると {zn} ∈ N が存在して、任意の n ∈ N で pn =

an + zn となる。同様に [{bn}] = [{qn}] とすると {wn} ∈ N が存在して、任意の n ∈ N で qn = bn + wn となる。よって任意の n ∈ N で pn −qn = an − bn + (zn − wn) となり、命題 2.56の(2)から {zn − wn} ∈N より [{an − bn}] = [{pn − qn}] となる。

Page 98: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

94 2 実数について

(3) [{an}] = [{pn}] とすると {zn} ∈ N が存在して、任意の n ∈ N で pn =

an + zn となる。同様に [{bn}] = [{qn}] とすると {wn} ∈ N が存在して、任意の n ∈ N で qn = bn + wn となる。よって任意の n ∈ N で pn ·qn = an · bn + (an ·wn + zn · bn + zn ·wn) となり、命題 2.56の(1)と(3)から {an ·wn + zn · bn + zn ·wn} ∈ N より [{an · bn}] = [{pn · qn}]となる。

(4) β = [{bn}] ̸= [0] より [{bn}] の任意の代表元 {bn} ∈ F は N の元ではない。よってある有理数 ε0 > 0 が存在して、任意の n0 ∈ N に対しある自然数 n1 > n0 が存在して |bn1 | = ε0 を満たす。ここで有理数列 {bn} はコーシー列より、ε0

2> 0 に対しある自然数 n2 > n0 が存在して、任意の

自然数 m,n > n2 に対し |bm − bn| <ε0

2となる。一方 |bn1 | = ε0 より

任意の n > n2 に対し |bn| >ε0

2となる。よって有理数列 {cn} を 1 5

n 5 n2 に対して、例えば cn = 1 とし、n > n2 に対し cn = bn とすれ

ば、{cn} は [{bn}] の代表元かつ命題 2.54の(4)より { 1cn

} ∈ F とな

る。さらにそのような [{bn}] の別の代表元 {dn} に対し、ある {zn} ∈ N

が存在して、任意の n ∈ N で cn = dn + zn となる。よって1dn

− 1cn

=

cn − dn

cndn=

cn − dn

cndn=

zn

cndnとなり命題 2.56の(4)より { zn

cndn} ∈ N

となるので、 1cn

∼ 1dnである。

この G の四則演算と自然な単射 ϕ : Q → G の定義より次は明らかであろう。

系 2.61 写像 ϕ : Q → G は四則演算を保つ。

2.6.3 G の順序関係

次に G に順序関係を定義する。

定義 2.62 G に次のような2項関係 R を考える。2つの元 α, β ∈ G に対し、αRβ とは、α の任意の代表元 {an} に対し β のある代表元 {bn} とある n0 ∈

Page 99: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

2.6 実数の構成 95

N が存在して、任意の n > n0 に対し an 5 bn を満たすこととする。

命題 2.63 この2項関係は G の順序関係になる。

証明 α ∈ G の任意の代表元 {an} に対し任意の n ∈ N に対し an 5 an よりαRα である。次に α, β ∈ G に対し、αRβ かつ βRα とする。αRβ より α の任意の代表元 {an} に対し β のある代表元 {bn} とある n0 ∈ N が存在して、任意の n > n0 に対し an 5 bn を満たす。一方 βRα より、この {bn} に対し α

のある代表元 {cn} とある n1 ∈ N が存在して、任意の n > n1 に対し bn 5 cn

を満たす。よって n2 = max{n0, n1} とすれば、任意の n > n2 に対し an 5 cn

を満たす。ここで {an} ∼ {cn} より {zn} ∈ N が存在して、任意の n ∈ N に対し cn = an + zn となる。特に任意の n > n2 に対し an 5 bn 5 cn = an +

zn より、wn = bn − an とすると任意の n > n2 に対し 0 5 wn 5 zn となる。よって {zn} ∈ N より {an} ∼ {bn}、つまり α = β となる。最後に α, β, γ ∈G に対し、αRβ かつ βRγ とする。αRβ より α の任意の代表元 {an} に対しβ のある代表元 {bn} とある n0 ∈ N が存在して、任意の n > n0 に対し an 5bn を満たす。一方 βRγ より、この {bn} に対し γ のある代表元 {cn} とあるn1 ∈ N が存在して、任意の n > n1 に対し bn 5 cn を満たす。よって n2 =

max{n0, n1} とすれば、任意の n > n2 に対し an 5 cn を満たすので αRγ となる。

以下この G の順序関係 R を 5 で表すことにする。この G の順序関係と自然な単射 ϕ : Q → G の定義より次は明らかであろう。

系 2.64 写像 ϕ : Q → G は順序関係を保つ。

さらに G の四則演算と順序関係には次の関係が成り立つ、

命題 2.65 任意の α, β, γ ∈ G に対し、α 5 β ならば

(1) α + γ 5 β + γ となる。(2) 0 < γ ならば α · γ 5 β · γ となる。

証明 α 5 β より、α の任意の代表元 {an} に対し β のある代表元 {bn} とある n0 ∈ N が存在して、任意の n > n0 に対し an 5 bn を満たす。

(1) よって γ の任意の代表元 {cn} に対し、an + cn 5 bn + cn が任意の n >

Page 100: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

96 2 実数について

n0 に対し成り立つので α + γ 5 β + γ となる。(2) 0 < γ ならば γ のある代表元 {dn} に対し、ある n1 > n0 が存在して、任意の n > n1 に対し 0 < dn を満たす。よって γ の任意の代表元 {cn}に対し、ある n2 > n1 が存在して、任意の n > n2 に対し 0 < cn を満たす。以上から任意の n > n2 に対し、ancn 5 bncn が成り立つので α ·γ 5 β · γ となる。

2.6.4 G と R の同一視

以上の準備のもとで、G から R への全単射を構成してみよう。G の元 α の任意の代表元は有理数のコーシー列より、x0 5 α < x0 + 1 を満たす x0 ∈ Z がただ1つ存在する。そこで α1 = 10(α − x0) ∈ G とすると、命題 2.65 より 0 5a1 5 9 を満たす整数 x1 がただ1つ存在して、x1 5 α1 < x1 + 1 を満たす。次に α2 = 10(α1 − x1) ∈ G とすると、0 5 x2 5 9 を満たす整数 x2 がただ1つ存在して、x2 5 α2 < x2 + 1 を満たす。この操作を繰り返すと任意の α ∈ G に対し無限小数 x0 . x1x2 · · · ∈ R がただ1つ定まる。この写像を ϕ : G → R とする。

定理 2.66 ϕ : G → R は全単射である。

証明 全射であることは、この節の冒頭で述べたように、実数 a = x0.x1x2 · · ·xn · · ·の小数第 n 位までの有限小数 an = x0.x1x2 · · ·xn からなる有理数列 {an} はコーシー列なので、{an} ∈ F でありその同値類を α = [{an}] ∈ G とすればϕ(α) = a となる。よって ϕ は全射である。次に単射を示す。ϕ(α) の小数第 n

位までを an = x0.x1x2 · · ·xn とすると

α = a0 +α1

10= a1 +

α2

102= · · · = an +

αn+1

10n+1

となることから α = [{an}] が成り立つので ϕ は単射である。

この同一視 ϕ : G → R により、 R に四則演算が定まる。

Page 101: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

距離空間

3.1 ユークリッド空間

3.1.1 R の開集合、閉集合

R の絶対値を用いて R の部分集合 A に以下のような概念を定義しよう。

定義 3.1 (R の有界集合)R の空集合でない部分集合 A が有界であるとは、ある M > 0 が存在して、A

の任意の元 a に対し |a| 5 M を満たすこととする。

定義 3.2 (R の開集合)R の部分集合 A が開集合であるとは A = ∅ か、空集合でない A の任意の点 p

に対し、ある ε > 0 が存在して、U(p; ε) ⊂ A を満たすこととする。

例 3.1 R 自身、開区間 (−∞, b), (a, +∞)、(a, b) は開集合である。

定義 3.3 (R の閉集合)R の部分集合 B が閉集合であるとは、B の R における補集合 Bc が開集合になることである。

例 3.2 R 自身、(−∞, b], [a,+∞)、[a, b] は開集合である。特に1点集合は閉集合である。

Page 102: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

98 3 距離空間

次の結果は R の閉集合に関する基本定理と言えよう。

定理 3.4 (R の閉集合に関する基本定理)R の空集合でない部分集合 B が閉集合であるための必要十分条件は、B の元からなる収束列 {bn} の極限もまた B の元になることである。

証明 B は閉集合とする。B の元からなる収束列 {bn} を1つ固定する。B =

R ならば {bn} の極限はもちろん B = R の元である。B ̸= R ならば Bc は空集合でない開集合である。もし {bn} が Bc の点 p に収束するならば、任意の ε >

0 に対しある n0 ∈ N が存在して n > n0 を満たす任意の n に対し bn ∈ U(p; ε)

となる。しかし Bc は開集合なのである δ > 0 が存在して U(p; δ) ⊂ Bc つまりU(p; δ)∩A = ∅ となるので矛盾。よって B の元からなる収束列 {bn} の極限もまた B の元になる。逆に B の元からなる任意の収束列の極限もまた B の元になるとする。B =

R ならば B は閉集合である。B ̸= R ならば Bc は空集合でない。Bc の任意の点 p は B の元からなる収束列の極限ではない。つまりある δ > 0 が存在してU(p; δ)∩A = ∅ つまり U(p; δ) ⊂ Bc となるので Bc は開集合である。よってB は閉集合になる。

3.1.2 平面における直線距離

しばらく2次元平面 R2 で考える(n 次元空間 Rn は演習問題で扱う)。R2

の点 p = (a, b) から q = (c, d) への直線距離 d(p, q) を考える。ここに3角形の図直角三角形に関するピタゴラスの定理から

d(p, q)2 = |a − c|2 + |b − d|2

が成り立つ。これは後の節で距離の公理と呼ばれる以下の3つの条件を満たす。

命題 3.5 (1) (正定値性)R2 の任意の2点 p, q に対して d(p, q) = 0 である。また d(p, q) = 0 となるための必要十分条件は P = Q である。

(2) (対称性)R2 の任意の2点 p, q に対して d(p, q) = d(q, p) である。(3) (三角不等式)R2 の任意の3点 p, q, r に対して三角不等式

Page 103: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

3.1 ユークリッド空間 99

d(p, r) 5 d(p, q) + d(q, r)

が成り立つ。

1番目の「正定値性」は相異なる2点間の距離は正で、2点が一致していることこそ距離がゼロであることだし、2番目の「対称性」は2点間の距離はどちらから測ろうと同じだし、3番目の「三角不等式」は3角形の2辺の和は他の1辺より長いという当たり前のことを並べただけである。点 p から距離が ε > 0 未満の点全体を p の ε-近傍といい U(p; ε) と表す。

U(p; ε) = {q ∈ R2 | d(p, q) < ε}

U(p; r) の形状は円板で、境界の円周は U(p; r) に含まれないことに注意する。

3.1.3 平面の点列

R2 の点 pn = (an, bn) からなる点列 {pn} を考える。ここに U(p; ε) と点列の図

定義 3.6 (有界列、収束列、コーシー列)

(1) 点列 {pn} が有界列であるとは、正の実数 M > 0 が存在して、任意の自然数 n ∈ N に対し、d(o, pn) 5 M を満たすこととする。ここで o は R2

の原点 (0, 0) を表す。(2) 点列 {pn} が収束列であるとは、R2 のある点 p が存在して、任意の正の実数 ε > 0 に対しある自然数 n0 が存在して、n > n0 を満たす任意の自然数 n ∈ N に対し、d(p, pn) < ε となることである。近傍の言葉で言えば pn ∈ U(p; ε) ということである。

(3) 点列 {pn} がコーシー列であるとは任意の正の実数 ε > 0 に対しある自然数 n0 が存在して、m,n > n0 を満たす任意の自然数 m,n ∈ N に対し、d(pm, pn) < ε となることである。

このとき直線距離の定義から次が分かる。

命題 3.7 点列 {pn} とその各成分である数列 {an} と {bn} について以下が成り立つ。

(1) 点列 {pn} が有界列であるための必要十分条件は、数列 {an} と {bn} が

Page 104: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

100 3 距離空間

ともに有界列になることである。(2) 点列 {pn} が収束列であるための必要十分条件は、数列 {an} と {bn} がともに収束列になることである。

(3) 点列 {pn} がコーシー列であるための必要十分条件は、数列 {an} と {bn}がともにコーシー列になることである。

証明

(1) 点列 {pn} が有界列ならば、ある正の実数 M > 0 が存在して、任意の自然数 n ∈ N に対し d(o, pn) 5 M を満たす。よって

d(o, pn)2 = a2n + b2

n 5 M2

より |an| 5 M かつ |bn| 5 M となるので、数列 {an} と {bn} はともに有界列になる。逆に数列 {an} と {bn} がともに有界列にならば、ある正の実数 M > 0 が存在して、任意の自然数 n ∈ N に対し |an| 5 M かつ|bn| 5 M を満たす。よって

d(o, pn)2 = a2n + b2

n 5 2M2

となるので、点列 {pn} は有界列になる。(2) 点列 {pn} が収束列ならば、R2 のある点 p = (a, b) が存在して、任意の正の実数 ε > 0 に対しある自然数 n0 が存在して、n > n0 を満たす任意の自然数 n ∈ N に対し d(p, pn) < ε となる。よって

d(p, pn)2 = (a − an)2 + (b − bn)2 < ε2

より |a− an| < ε かつ |b− bn| < ε となるので、数列 {an} と {bn} はともに収束列になる。逆に数列 {an} と {bn} がともに収束列にならば、ある実数 a, b が存在して、任意の正の実数 ε > 0 に対しある自然数 n0 が存在して、n > n0 を満たす任意の自然数 n ∈ N に対し |a − an| < ε かつ |b − bn| < ε となる。よって

d(p, pn)2 = (a − an)2 + (b − bn)2 < 2ε2

となるので、点列 {pn} は収束列になる。(3) 点列 {pn} がコーシー列ならば、任意の正の実数 ε > 0 に対しある自然

Page 105: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

3.1 ユークリッド空間 101

数 n0 が存在して、m,n > n0 を満たす任意の自然数 m,n ∈ N に対しd(pm, pn) < ε となる。よって

d(pm, pn)2 = (am − an)2 + (bm − bn)2 < ε2

より |am − an| < ε かつ |bm − bn| < ε となるので、数列 {an} と {bn}はともにコーシー列になる。逆に数列 {an} と {bn} がともにコーシー列にならば、任意の正の実数 ε > 0 に対しある自然数 n0 が存在して、m,n > n0 を満たす任意の自然数 m,n ∈ N に対し |am − an| < ε かつ|bm − bn| < ε となる。よって

d(pm, pn)2 = (am − an)2 + (bm − bn)2 < 2ε2

となるので、点列 {pn} はコーシー列になる。

つまり R2 の点列の性質は、その第1成分と第2成分の数列の性質から決まるということである。命題 3.7と命題 1.32より

命題 3.8 (1) 点列 {pn} が収束列ならば有界列である。(2) 点列 {pn} が p にも q にも収束するならば、p = q となる。(3) 点列 {pn} が P に収束するならば、{pn} の任意の部分列 {pik

} も p に収束する。

証明

(1) 点列 {pn = (an, bn)} が収束列ならば命題 3.7(1)より数列 {an} と{bn} もともに収束列である。よって命題 1.32(1)より収束列は有界列なので、再び命題 3.7(1)より {pn} も有界列である。

(2) 点列 {pn = (an, bn)} が p = (a, b) にも q = (c, d) にも収束するならば、命題 3.7(2)より数列 {an} は a にも c にも収束して、{bn} は b にもd にも収束する。よって命題 1.32(2)より a = c かつ b = d、つまりp = q となる。

(3) 点列 {pn = (an, bn)} は p = (a, b) に収束するので、命題 3.7(2)より数列 {an} は a に収束して、数列 {bn} は b に収束する。このとき命

Page 106: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

102 3 距離空間

題 1.32(4)より {pn} の任意の部分列 {pik= (aik

, bik)} に対し、数列

{aik} は a に収束して、数列 {bik

} は b に収束するので、再び命題 3.7

(2)より {pik} は p に収束する。

定理 3.9 R2 は完備である。すなわちコーシー列は収束列である。

証明 {pn = (an, bn)} をコーシー列とすると、命題 3.7(3)より点列 {pn}の各成分である数列 {an} と {bn} は共にコーシー列になる。よって定理 2.33

(R の完備性)よりある実数 a, b が存在して {an} と {bn} はそれぞれ a と b に収束する。つまり任意の ε > 0 に対しある自然数 n0 が存在して、n > n0 を満たす任意の自然数 n ∈ N に対し、|an − a| < ε かつ |bn − b| < ε となる。そこで p = (a, b) とすると、n > n0 ならば

d(pn, p) =√

|an − a|2 + |bn − b|2 <√

ε2 + ε2 =√

となるので、{pn} は p に収束する。

3.1.4 平面上の連続関数

平面上の関数 f : R2 → R を考える。つまり f(x, y) は2変数関数である。

定義 3.10 (ε-δ 論法)R2 の部分集合 A 上で定義された関数 f : A → R が A の点 P で連続であるとは、任意の正の実数 ε > 0 に対し、ある正の実数 δ > 0 が存在して、d(P,Q) <

δ を満たす A の任意の元 Q に対して |f(P ) − f(Q)| < ε が成り立つことである。近傍の言葉で言えば Q ∈ U(P ; δ)∩A ならば f(Q) ∈ U(f(P ); ε) ということである。f が A 上の連続関数であるとは、A の任意の点 P で f が連続であることとする。

命題 3.11 R2 の部分集合 A 上で定義された関数 f : A → R が A の点 P =

(a, b) で連続であるための必要十分条件は、1変数関数 f(x, b) と f(a, y) がそれぞれ x = a と y = b で連続になることである。

次は R2 上の連続関数の基本定理であり、定理 1.45の2変数版である。

Page 107: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

3.1 ユークリッド空間 103

定理 3.12 (R2 上の連続関数の基本定理)R2 の部分集合 A 上で定義された関数 f : A → R と A の点 p = (a, b) について、次の(1)と(2)は同値である。

(1) f は p で連続である。(2) P に収束する A の任意の点列 {pn = (an, bn)} に対し、数列 {f(pn)} は

f(p) に収束する。つまり f と limn→∞

は交換可能である。

limn→∞

f(pn) = f( limn→∞

pn)

証明

(1) f は P で連続より、任意の正の実数 ε > 0 に対し、ある正の実数 δ >

0 が存在して、d(p, q) < δ を満たす A の任意の元 q に対して |f(p) −f(q)| < ε を満たす。一方点列 {pn} が p に収束するとすると、この δ >

0 に対しある自然数 n0 が存在して、n > n0 を満たす任意の自然数 n に対し、d(p, pn) < δ となる。よって |f(p) − f(pn)| < ε となるので数列{f(pn)} は f(p) に収束する。

(2) 対偶命題「f が p で連続でないならば、次の性質を満たす点列 {pn} が存在する。{pn} は p に収束するが、数列 {f(pn)} は f(p) に収束しない」を示す。f は p で連続でないので、ある正の実数 ε0 > 0 が存在して、任意の δ > 0 に対しある点 pδ が存在して、d(p, pδ) < δ かつ |f(p)−f(pδ)| = ε0 を満たす。ここで δ > 0 は任意より、任意の自然数 n に対し δ = 1/n として pδ を pn と表すことにすると、d(p, pn) < 1/n かつ|f(p) − f(pn)| = ε0 を満たす。これは点列 {pn} は p に収束するが、数列 {f(pn)} は f(p) に収束しないことを意味する。

3.1.5 平面の開集合、閉集合

R の開集合や閉集合とまったく同様にして、R2 の開集合や閉集合が定義できる。

Page 108: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

104 3 距離空間

定義 3.13 R2 の部分集合 A が開集合であるとは A = ∅ か、空集合でない A

の任意の点 p に対し、ある ε > 0 が存在して、U(p; ε) ⊂ A を満たすこととする。

例 3.3 R2 は開集合である。点 p の r-近傍 U(p; r) は開集合である。

証明 R2 が開集合であることは定義より明らか。以下 U(p; r) が開集合を示す。q を U(p; r) の任意の点とすると、定義より r − d(p, q) > 0 が成り立つ。そこで S を U(q; r − d(p, q)) の任意の点とすると、定義より d(q, s) < r − d(p, q)

が成り立つ。よって三角不等式より

d(p, s) 5 d(p, q) + d(q, s) < d(p, q) + r − d(p, q) = r

となり s ∈ U(p; r)、つまり U(q; r − d(p, q)) ⊂ U(p; r) が成り立つ。よってU(p; r) は開集合である。

ここに U(p; r) と U(p; r) の図

定義 3.14 R2 の部分集合 B が閉集合であるとは、B の R2 における補集合Bc が開集合になることである。

例 3.4 R2 や空集合は閉集合である。点 P の r-閉近傍 U(p; r) を

U(p; r) = {q ∈ R2 | d(p, q) 5 r}

と定義すると U(p; r) は閉集合である。

証明 空集合 や R2 は開集合であった。それらの補集合である R2 や空集合は定義より閉集合である。以下 U(p; r) が閉集合、つまり U(p; r)

cが開集合を示

す。Q を U(p; r)cの任意の点とすると、定義より d(p, q) − r > 0 が成り立つ。

そこで s を U(q; d(p, q)− r) の任意の点とすると、定義より d(q, s) < d(p, q)−r が成り立つ。よって三角不等式より d(p, q) 5 d(p, s) + d(s, q) が成り立つので

d(p, s) = d(p, q) − d(q, s) > d(p, q) + r − d(p, q) = r

となり s ∈ U(p; r)c、つまり U(q; d(p, q) − r) ⊂ U(p; r)

cが成り立つ。よって

U(p; r)cは開集合なので U(p; r) は閉集合である。

次の結果は R2 の閉集合に関する基本定理である。

Page 109: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

3.1 ユークリッド空間 105

定理 3.15 (R2 の閉集合に関する基本定理)R2 の空集合でない部分集合 B が閉集合であるための必要十分条件は、B の元からなる収束列 {bn} の極限もまた B の元になることである。

証明 B は閉集合とする。B の元からなる収束列 {bn} を1つ固定する。B =

R2 ならば {bn} の極限はもちろん B = R2 の元である。B ̸= R2 ならば Bc は空集合でない開集合である。もし {bn} が Bc の点 p に収束するならば、任意のε > 0 に対しある n0 ∈ N が存在して n > n0 を満たす任意の n に対し bn ∈U(p; ε) となる。しかし Bc は開集合なのである δ > 0 が存在して U(p; δ) ⊂ Bc

つまり U(p; δ)∩A = ∅ となるので矛盾。よって B の元からなる収束列 {bn}の極限もまた B の元になる。逆に B の元からなる任意の収束列の極限もまた B の元になるとする。B =

R2 ならば B は閉集合である。B ̸= R2 ならば Bc は空集合でない。Bc の任意の点 p は B の元からなる収束列の極限ではない。つまりある δ > 0 が存在してU(p; δ)∩A = ∅ つまり U(p; δ) ⊂ Bc となるので Bc は開集合である。よってB は閉集合になる。

定義 3.16 R2 の部分集合 A が有界であるとは、ある正の実数 M > 0 が存在して A の任意の点 P に対して d(P,O) 5 M を満たすこととする。ここで O

は R2 の原点 (0, 0) を表す。

3.1.6 演習問題

例題 3.17 R の区間 A 上の連続関数 f : A → R に対し、A の像 f(A) も区間になることを示せ。

証明 f(A) が1点集合の場合は明らか。f(A) が 2点以上含むとする。f(A) の任意の 2 点 p < q に対し、A の 2 点 a, b が存在して f(a) = p, f(b) = q となる。a < b の場合、中間値の定理 2.34より、p < r < q を満たす任意の点 r に対し a < c < b を満たす点 c が存在して f(c) = r、つまり r ∈ f(A) となるので [p, q] ⊂ f(A) となり、f(A) は区間である。

a > b の場合も同様である。

Page 110: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

106 3 距離空間

例題 3.18 (1) R の有界部分集合 A 上の連続関数 f : A → R に対し、A の像f(A) が有界集合でないような例を挙げよ。

(2) R の閉区間 A 上の連続関数 f : A → R に対し、A の像 f(A) が閉区間でないような例を挙げよ。

(3) R の有界閉区間 A 上の連続関数 f : A → R に対し、A の像 f(A) も有界閉区間になることを示せ。

証明

(1) 有界集合 A = (0, 1) 上の連続関数 f(x) =1xについて、f(A) = (1, +∞)

は有界ではない。

(2) 閉区間 [1, +∞) 上の連続関数 f(x) =1xについて、f(A) = (0, 1] は閉区

間ではない。(3) 例題 2.36と例題 3.17より明らか。

R の n 個の直積 Rn = R×R× · · · ×R を考える。Rn の任意の2つの元 x =

(x1, x2, · · · , xn), y = (y1, y2, · · · , yn) と任意の実数 c に対し

x + y = (x1 + y1, x2 + y2, · · · , xn + yn), cx = (cx1, cx2, · · · , cxn)

と定義すると Rn はベクトル空間になる。Rn のユークリッド内積を次のように定義する。Rn の任意の2つの元 x =

(x1, x2, · · · , xn), y = (y1, y2, · · · , yn) に対し

⟨x, y⟩ =n∑

i=1

xiyi

ユークリッド内積は次の性質を満たす。

(1) Rn の任意の元 x に対し ⟨x, x⟩ = 0 である。また ⟨x, x⟩ = 0 となるための必要十分条件は x = 0 である。

(2) Rn の任意の2つの元 x, y に対し ⟨x, y⟩ = ⟨y, x⟩ である。(3) Rn の任意の3元 x, y, z と任意の実数 a, b に対し

⟨ax,+by, z⟩ = a⟨x, z⟩ + b⟨y, z⟩

Page 111: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

3.1 ユークリッド空間 107

である。

(2)と(3)から Rn の任意の3元 x, y, z と任意の実数 a, b に対し

⟨x, ay + bz⟩ = a⟨x, y⟩ + b⟨x, z⟩

も成り立つことに注意する。Rn のユークリッドノルムを次のように定義する。Rn の任意の元 x に対し

||x|| =√

⟨x, x⟩

特に n = 1 の場合 R の元 x のユークリッドノルム ||x|| は絶対値 |x| に等しい。ユークリッドノルムは次の性質を満たす。

(1) Rn の任意の元 x に対し ||x|| = 0 である。また ||x|| = 0 となるための必要十分条件は x = 0 である。

(2) Rn の任意の元 x と任意の実数 a に対し ||ax|| = |a|||x|| である。(3) Rn の任意の2元 x, y に対し

||x + y|| 5 ||x|| + ||y||

である。

Rn の任意の2つの元 x, y に対しユークリッド距離 d(x, y) を次のように定義する。

d(x, y) = ||x − y||

特に n = 1 の場合 R の2つの元 x, y に対し、ユークリッド距離 d(x, y) はこれまで考えてきた R での2点 x, y の長さ |x− y| に等しい。また n = 2 の場合R2 の2つの元 x, y に対し、ユークリッド距離 d(x, y) はこれまで考えてきたR2 での2点 x, y の直線距離に等しい。ユークリッド距離は次の性質を満たす。

(1) Rn の任意の2点 a, b に対して d(a, b) = 0 である。また d(a, b) = 0 となるための必要十分条件は a = b である。

(2) Rn の任意の2点 a, b に対して d(a, b) = d(b, a) である。

Page 112: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

108 3 距離空間

(3) Rn の任意の3点 a, b, c に対して三角不等式

d(a, c) 5 d(a, b) + d(b, c)

が成り立つ。

例題 3.19 (1) Rn の2点 a = (a1, a2, · · · , an), b = (b1, b2, · · · , bn) に対し、次のコーシー・シュワルツの不等式を示せ。

(n∑

i=1

aibi)2 5 (n∑

i=1

a2i )(

n∑i=1

b2i )

(2) ユークリッドノルムに関する不等式

||x + y|| 5 ||x|| + ||y||

を示せ。(3) ユークリッド距離に関する三角不等式

d(a, c) 5 d(a, b) + d(b, c)

を示せ。

証明

(1)n∑

i=1

(ait + bi)2 = ||a||2t2 + 2(a|b)t + ||b||2 = 0 より判別式 (a|b)2 −

||a||2||b||2 = 0 となる。(2) Rn の2つの元 x = (x1, x2, · · · , xn), y = (y1, y2, · · · , yn) に対し

||x + y||2 =n∑

i=1

|xi + yi|2

5n∑

i=1

(|xi| + |yi|)2 (絶対値の三角不等式より)

=n∑

i=1

|xi|2 +n∑

i=1

|yi|2 + 2n∑

i=1

|xi||yi|

5 (||x|| + ||y||)2 (コーシー・シュワルツの不等式)

(3) (2)より

Page 113: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

3.2 距離空間 109

d(x, z) = ||x−z|| = ||x−y+y−z|| 5 ||x−y||+||y−z|| = d(x, y)+d(y, z)

3.2 距離空間

3.2.1 距離関数

R の数列の収束や関数の連続性を議論する際に、絶対値を用いて2点間の距離を測った。この絶対値の役割をする関数を一般の集合の上で考えることがこの節の目標である。ではこの関数にどういう役割を期待すべきだろう。

定義 3.20 (距離関数、距離空間)

(1) 集合 X は空集合ではないとする。直積集合 X ×X で定義された関数 d :

X × X → R が X の距離関数であるとは、次の3つの条件を満たすこととする。

• (正定値性)X の任意の2点 a, b に対して d(a, b) = 0 である。またd(a, b) = 0 となるための必要十分条件は a = b である。

• (対称性)X の任意の2点 a, b に対して d(a, b) = d(b, a) である。• (三角不等式)X の任意の3点 a, b, c に対して三角不等式

d(a, c) 5 d(a, b) + d(b, c)

が成り立つ。

(2) 集合 X と X の距離関数 d の組 (X, d) を距離空間 という。

注意 X の距離関数の定義域は X の直積集合 X × X であって、X 自身ではないことに注意する。

3.1節でみたように Rn のユークリッド距離は Rn の距離関数である。しかしRn で考えうる距離関数はユークリッド距離だけとは限らない。

例 3.5 Rn の2点 x, y の対し d0(x, y) := max{|x1 − y1|, · · · , |xn − yn|} とすると、d0 も Rn の距離関数である。

Page 114: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

110 3 距離空間

証明 正定値性と対称性は明らかなので、三角不等式のみ示す。x, y, z ∈ Rn に対し、x, y, z ∈ Rn に対し、d0(x, y) = |xi − yi|, d0(y, z) = |yk − zk|, d0(x, z) =

|xℓ − zℓ| を満たす i, k, ℓ ∈ {1, 2, · · · , n} が存在する。このとき

d0(x, z) = |xℓ − zℓ|5 |xℓ − yℓ| + |yℓ − zℓ|5 |xi − yi| + |yk − zk|= d0(x, y) + d0(y, z)

となる。

例 3.6 Rn の2点 x, y の対し d1(x, y) :=n∑

k=1

|xk − yk| とすると、d1 も Rn の

距離関数である。

証明 三角不等式のみ示す。任意の k = 1, 2, · · · , n に対し |xk − zk| 5 |xk −yk| + |yk − zk| より

d1(x, z) =n∑

k=1

|xk − zk|

5n∑

k=1

(|xk − yk| + |yk − zk|)

=n∑

k=1

|xk − yk| +n∑

k=1

|yk − zk|

= d1(x, y) + d1(y, z)

となる。

これらの例のように一般に1つの集合にはいくつもの距離関数が定義できる。では距離が定義できない集合はあるのだろうか?

命題 3.21 X を空集合ではない集合とする。任意の x, y ∈ X に対し

d(x, y) :=

1 (x ̸= y)

0 (x = y)

とすると、d は X の距離関数になる。

Page 115: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

3.2 距離空間 111

証明 三角不等式のみ示す。x, y, z ∈ X に対し、x = z ならば d(x, z) = 0 5d(x, y)+d(y, z) となる。また x ̸= z ならば x ̸= y または y ̸= z より、d(x, y) =

1 または d(y, z) = 1 となる。よって d(x, z) = 1 5 d(x, y) + d(y, z) となる。

このように空集合ではないどんな集合にも距離関数が定義できる。

定義 3.22 (離散距離)上記の距離関数を集合 X の離散距離という。

距離空間を調べる際には、これまでにも登場した ε-近傍という考え方が基本になる。

定義 3.23 (ε-近傍)正の実数 ε > 0 に対し、距離空間 (X, d) の点 p における ε-近傍を次のように定義する。

U(p; ε) = {x ∈ X | d(p, x) < ε}.

例えば R2 でユークリッド距離 d に関する点 p の ε-近傍 U(p; ε) は丸いが、例 3.5で考えた距離 d0 に関する点 p の ε-近傍は四角い。このように距離によって ε-近傍の形は様々であるが、U(p; ε) が点 p を(境界ではなく)内部に含んでいることは共通した性質であることに着目してほしい。ここに図が2つ

定義 3.24 (有界)距離空間 (X, d) の部分集合 A が有界であるとは、X のある点 b と正の実数M > 0 が存在して、A の任意の点 a に対し d(a, b) 5 M を満たすこととする。

ユークリッド空間 Rn には原点 0 という特別な点があったのでそこからの距離を測って有界性を定義できたが、一般の集合 X にはそのような特別な点がないので上記のような定義を採用した。

3.2.2 部分距離空間、直積距離空間

集合の場合に部分集合や直積集合を考えたのと同じ発想で、距離空間 (X, d)

から次々と新しい距離空間を作ることができる。まずは距離空間の部分集合に自然な距離関数が定まることを見てみよう。

Page 116: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

112 3 距離空間

命題 3.25 距離空間 (X, d) の部分集合 A に対し、A と A 自身の直積集合 A×A 上で定義された実数値関数 dA : A×A → R を、A の任意の2点 a, b ∈ A に対し

dA(a, b) = d(a, b)

と定義すると、dA は A 上の距離関数になる。

証明 d が X 上の距離関数の公理 3.20を満たすことから dA も A 上の距離関数の公理を満たす。

定義 3.26 (部分距離空間)

距離空間 (X, d) の部分集合 A に対し、上記の距離関数 dA を考えた距離空間(A, dA) を、(X, d) の部分距離空間という。

この方法によりユークリッド平面や空間内の図形(例えば円や球など)はすべて距離空間となる。例えば 2× 2 の実正則行列全体の集合 GL(2, R) は行列の積に関して群であるが、2 × 2 行列には4つ成分があることから GL(2, R) を R4

の部分集合と思うことで距離空間にもなる。次に2つの距離空間の直積集合に自然な距離関数が定まることをみる。

命題 3.27 2つの距離空間 (X, dX) と (Y, dY ) に対し、直積集合 X × Y の直積 (X × Y ) × (X × Y ) 上の実数値関数 d : (X × Y ) × (X × Y ) → R を

d((a, b), (c, d)) =√

dX(a, c)2 + dY (b, d)2

と定義すると、d は X × Y の距離関数になる。

証明 三角不等式のみ示す。X × Y の3点 (a1, b1), (a2, b2), (a3, b3) に対し、dX と dY は三角不等式を満たすので

d((a1, b1), (a3, b3))2 = dX(a1, a3)2 + dY (b1, b3)2

5 (dX(a1, a2) + dX(a2, a3))2 + (dY (b1, b2) + dY (b2, b3))2

5 (d((a1, b1), (a2, b2)) + d((a2, b2), (a3, b3)))2

さらに n 個の距離空間の直積集合に自然な距離関数が定まることをみる。

Page 117: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

3.2 距離空間 113

命題 3.28 n 個の距離空間 (X1, d1), · · · , (Xn, dn) に対し、直積集合 X1×· · ·×Xn の直積 (X1 × · · · ×Xn)× (X1 × · · · ×Xn) 上の実数値関数 d : (X1 × · · · ×Xn) × (X1 × · · · × Xn) → R を

d(x, y) =

√n∑

i=1

di(xi, yi)2

と定義すると、d は X1 × · · · × Xn の距離関数になる。

証明 n に関する帰納法で三角不等式のみ示す。n = 1 の場合は仮定である。

n = k − 1 まで成立すると仮定する。つまり d′(x, y) =

√k−1∑i=1

di(xi, yi)2 は三角

不等式を満たすので (X1 × · · · × Xk−1, d′) は距離空間になる。n = k の場合、

X1 × · · · × Xk の3点 x, y, z に対し、

d(x, z)2 =k∑

i=1

di(xi, zi)2

=k−1∑i=1

di(xi, zi)2 + dk(xk, yk)2

= d′(x, z)2 + dk(xk, yk)2

となり、命題 3.27より d は三角不等式を満たす。

定義 3.29 (直積距離空間)n 個の距離空間 (X1, d1), · · · , (Xn, dn) の直積集合 X1 × · · ·×Xn に対し、上記の距離関数 d を考えた距離空間 (X1 × · · · × Xn, d) を、(X1, d1), · · · , (Xn, dn)

の直積距離空間という。

この見方により R2 は R どうしの直積距離空間と思える。R3 は R の3つの直積距離空間とも思えるし、 R と R2 の直積距離空間とも思える。

3.2.3 演習問題

例題 3.30 距離空間 (X, d)の任意の2点 x, y ∈ X に対し d′(x, y) :=d(x, y)

1 + d(x, y)とするとき、d′ も X 上の距離関数になることを示せ。

Page 118: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

114 3 距離空間

証明 三角不等式のみ示す。距離空間 (X, d) の任意の3点 x, y, z ∈ X に対し、a = d(x, y), b = d(y, z), c = d(x, z) とすると a, b, c = 0 かつ d が三角不等式をみたすので a + b − c = 0 となる。よって

d′(x, y) + d′(y, z) − d′(x, z) =a + b − c + 2ab + abc

(1 + a)(1 + b)(1 + c)= 0

となり、d′ も三角不等式をみたす。

例題 3.31 距離空間 (X, d) の部分集合 A が有界ならば、X の任意の点 c に対し、正の実数 M > 0 が存在して、A の任意の点 a に対し d(a, c) 5 M を満たすことを示せ。

証明 A は有界より、X のある点 b と正の実数 K > 0 が存在して、A の任意の点 a に対し d(a, b) 5 K を満たす。そこで M = K + d(b, c) とすると、距離関数 d は三角不等式を満たすことから、任意の a ∈ A に対し d(a, c) 5 d(a, b) +

d(b, c) 5 K + d(b, c) = M となる。

例題 3.32 (関数空間)閉区間 [a, b] 上の連続関数全体の集合を C[a, b] とする。d1(f, g) = sup{|f(x)−g(x)| | x ∈ [a, b]} は C[a, b] の距離関数になることを示せ。

証明 f, g ∈ C[a, b] に対し、f + g ∈ C[a, b] かつ f ∈ C[a, b] と c ∈ R に対し、cf ∈ C[a, b] となる。実は C[a, b] は実ベクトル空間になる。さらに f ∈ C[a, b]

に対し、|f | ∈ C[a, b] でもある。f, g ∈ C[a, b] に対し、|f − g| ∈ C[a, b] は有界閉区間 [a, b] で最大値を取るの

で、d1(f, g) = sup{|f(x)− g(x)| | x ∈ [a, b]} = max{|f(x)− g(x)| | x ∈ [a, b]}となる。三角不等式のみ示す。f, g, h ∈ C[a, b] に対し、

d1(f, h) = max{|f(x) − h(x)| | x ∈ [a, b]}= |f(x0) − h(x0)| (∃x0 ∈ [a, b])

5 |f(x0) − g(x0)| + |g(x0) − h(x0)|5 max{|f(x) − g(x)| | x ∈ [a, b]} + max{|g(x) − h(x)| | x ∈ [a, b]}= d1(f, g) + d1(g, h)

Page 119: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

3.2 距離空間 115

例題 3.33 (関数空間)

閉区間 [a, b] 上の連続関数全体の集合を C[a, b] とする。d2(f, g) =∫ b

a

|f(x) −

g(x)| dx は C[a, b] の距離関数になることを示せ。

証明 f, g ∈ C[a, b] に対し、f + g ∈ C[a, b] かつ f ∈ C[a, b] と c ∈ R に対し、cf ∈ C[a, b] となる。実は C[a, b] は実ベクトル空間になる。さらに f ∈ C[a, b]

に対し、|f | ∈ C[a, b] でもある。f, g ∈ C[a, b] に対し、|f − g| ∈ C[a, b] は有界閉区間 [a, b] でリーマン可積分

より d2(f, g) =∫ b

a

|f(x) − g(x)| dx は well-defined になる。

三角不等式のみ示す。f, g, h ∈ C[a, b] に対し、任意の x ∈ [a, b] で |f(x) −h(x)| 5 |f(x) − g(x)| + |g(x) − h(x)| より

d2(f, h) =∫ b

a

|f(x) − h(x)| dx

5∫ b

a

|f(x) − g(x)| + |g(x) − h(x)| dx

5∫ b

a

|f(x) − g(x)| dx +∫ b

a

|g(x) − h(x)| dx

= d2(f, g) + d2(g, h)

ここの図を2つ

例題 3.34 (p 進距離)0 でない任意の有理数 x は有限個の素数の(負ベキ)も許した積で一意的に表すことができる。p を素数としたときこの素因数分解に現れる p のベキを ordp(x)

とする。例えば ord2(24) = 8, ord3(136

) = −2 である。Q の2つの元 x, y に

対し dp(x, y) = p−ordp(x−y) とすると、dp は Q 上の距離関数になることを示せ。この距離を Q の p 進距離という。

証明 x の p 進付値 を |x|p = p−ordp(x) とする。ただし |0|p = 0 とする。このとき Q の2つの元 x, y に対し |x + y|p 5 max{|x|p, |y|p} である。また |x|p ̸=|y|p ならば |x + y|p = max{|x|p, |y|p} となる。よって dp(x, y) = |x− y|p は正

Page 120: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

116 3 距離空間

定値性、対称性を満たし、三角不等式より強い不等式∗1

dp(x, z) 5 max{dp(x, y), dp(y, z)}

を満たすので、dp は Q 上の距離関数になる。

例題 3.35 (数列空間)∞∑

n=1|xn| = lim

N→∞

N∑n=1

|xn| < ∞ を満たす実数列 {xn} の全体を ℓ1 とする。

{xn}, {yn} ∈ ℓ1 に対して d({xn}, {yn}) =∞∑

n=1|xn − yn| とすると d は ℓ1 の距

離関数になることを示せ。

証明 三角不等式のみ示す。{xk}, {yk}, {zk} ∈ ℓ1 とすると、任意の n ∈ N に対し

n∑k=1

|xk − zk| 5n∑

k=1

(|xk − yk| + |yk − zk|)

5n∑

k=1

|xk − yk| +n∑

k=1

|yk − zk|

5∞∑

k=1

|xk − yk| +∞∑

k=1

|yk − zk|

= d({xk}, {yk}) + d({yk}, {zk})

となり、数列 {n∑

k=1

|xk − zk|} は上に有界かつ単調増加より収束する。よって

d({xk}, {zk}) =∞∑

k=1

|xk − zk| 5 d({xk}, {yk}) + d({yk}, {zk})

3.3 距離空間の点列と連続写像

3.3.1 距離空間の点列

距離空間 (X, d) の点列を距離関数 d を用いて調べよう。まずは点列が有界列であることの定義から始める。

∗1 この不等式を満たす距離関数を非アルキメデス的とか超距離という。

Page 121: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

3.3 距離空間の点列と連続写像 117

定義 3.36 (距離空間の有界列)距離空間 (X, d) の点列 {an} が有界列であるとは、X のある点 b と正の実数M > 0 が存在して、任意の自然数 n ∈ N に対し、d(an, b) 5 M を満たすこととする。

つまり点列 {an} が有界列であるとは、X の部分集合 {an | n ∈ N} は有界ということである。よって例題 3.31より

命題 3.37 距離空間 (X, d) の点列 {an} が有界列であるための必要十分条件は、X の任意の点 c に対し、ある正の実数 K > 0 が存在して、任意の自然数n ∈ N に対し、d(an, b) 5 K を満たすことである。。

数列の場合の絶対値の役割を距離関数が担うことで、収束列やコーシー列も距離空間で全く同様に定義できる。

定義 3.38 (距離空間の収束列とコーシー列)距離空間 (X, d) の点列 {an} について

(1) {an} が収束列であるとは、X のある点 a が存在して、任意の正の実数ε > 0 に対しある自然数 n0 が存在して、n > n0 を満たす任意の自然数n ∈ N に対し d(an, a) < ε となることである。先に定義した ε-近傍を用いると an ∈ U(a; ε) となることである。論理記号で書くと

∃a ∈ X s.t. ∀ε > 0,∃n0 ∈ N s.t. ∀n ∈ N, n > n0 ⇒ d(an, a) < ε

または

∃a ∈ X s.t. ∀ε > 0,∃n0 ∈ N s.t. ∀n ∈ N, n > n0 ⇒ an ∈ U(a; ε)

となる。このとき {an} は a に収束する、a を {an} の極限といい、

limn→∞

an = a

と表す。(2) {an} がコーシー列であるとは、任意の正の実数 ε > 0 に対しある自然数 n0 が存在して、n > n0 を満たす任意の自然数 m,n ∈ N に対しd(am, an) < ε となることである。論理記号で書くと

Page 122: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

118 3 距離空間

∀ε > 0,∃n0 ∈ N s.t. ∀m,n ∈ N,m, n > n0 ⇒ d(am, an) < ε

となる。

距離空間の収束列に関する基本的な性質をまとめておこう。

命題 3.39 (1) 収束列は有界列である。(2) 点列 {xn} が a にも b にも収束するならば、a = b となる。(3) 点列 {xn} が a に収束するならば、{xn} の任意の部分列 {xik

} も a に収束する。

証明

(1) 「 limn→∞

xn = a ⇒ ∃M > 0 s.t. ∀n ∈ N, d(xn, a) 5 M」を示す。

limn→∞

xn = a より(ε = 1 > 0 として)∃n0 ∈ N s.t. ∀n > n0, d(xn, a) <

1. よって M = max{d(x1, a), d(x2, a), · · · , d(xn0 , a), 1} とおくと ∀n ∈N, d(xn, a) 5 M .

(2) 「任意の正の実数 ε > 0 に対し d(a, b) < ε が成り立つ」を示す。点列{xn} は a に収束するので、任意の ε > 0 に対しある自然数 n1 が存在して、n > n1 を満たす任意の自然数 n に対し d(xn, a) < ε が成り立つ。また点列 {xn} は b にも収束するので、任意の ε > 0 に対しある自然数n2 が存在して、n > n2 を満たす任意の自然数 n に対し d(xn, b) < ε が成り立つ。よって n3 = max{n1, n2} とすると、n > n3 を満たす任意の自然数 n に対し d(xn, a) < ε かつ d(xn, b) < ε が成り立つ。このときd(a, b) = d(a, xn) + d(xn, b) 5 d(a, xn) + d(xn, b) < ε + ε = 2ε となりa = b が示せた。

(3) 点列 {xn} は a に収束するので、任意の ε > 0 に対しある自然数 n0 が存在して、n > n0 を満たす任意の自然数 n に対し d(xn, a) < ε が成り立つ。一方部分列の定義よりある自然数 k0 が存在して、k > k0 を満たす任意の自然数 k に対し ik0 > n0 となるので d(xik

, a) < ε が成り立つ。このことは部分列 {xik

} も a に収束することを意味する。

距離空間のコーシー列に関する基本的な性質は以下の通りである。

Page 123: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

3.3 距離空間の点列と連続写像 119

命題 3.40 (1) 収束列はコーシー列である。(2) コーシー列は有界列である。(3) コーシー列 {xn} の部分列 {xik

} がある点 a に収束するならば、{xn} 自身も a に収束する。

証明

(1) 点列 {xn} が a に収束するとする。定義より任意の ε > 0 に対しある自然数 n0 が存在して、n > n0 を満たす任意の自然数 n に対し d(xn, a) <

ε が成り立つ。よって m,n > n0 を満たす任意の自然数 m,n に対しd(xm, xn) 5 d(xm, a) + d(xn, a) < ε + ε = 2ε となるので {xn} はコーシー列である。

(2) 点列 {xn} がコーシー列とする。定義より任意の ε > 0 に対しある自然数 n0 が存在して、m,n > n0 を満たす任意の自然数 m, n

に対し d(xm, xn) < ε を満たす。よって特に m > n0 を満たす任意の自然数 m に対し d(xm, xn0+1) < ε を満たす。そこで M =

max{d(x1, xn0+1), d(x2, xn0+1), · · · , d(xn0 , xn0+1), ε} とすると、任意の自然数 n に対し d(xn, xn0+1) 5 M となるので {xn} は有界列である。

(3) コーシー列 {xn} の部分列 {xik} が a に収束するとする。定義より任意の

ε > 0 に対しある自然数 k0 が存在して、k > k0 を満たす任意の自然数 k

に対し d(xik, a) < ε が成り立つ。一方仮定から {xn} はコーシー列より

定義から任意の ε > 0 に対しある自然数 n0 が存在して、m,n > n0 を満たす任意の自然数 m,n に対し d(xm, xn) < ε を満たす。ここで部分列の定義より k1 > k0 を満たすある自然数 k1 が存在して ik1 > n0 を満たす。よって n > n0 を満たす任意の自然数 n に対し d(xn, xik1

) < ε かつd(xik1

, a) < ε が成り立つ。ゆえに d(xn, a) 5 d(xn, xik1) + d(xik1

, a) <

ε + ε = 2ε となるので {xn} も a に収束する。

距離空間 (X, dX), (Y, dY ) の点列 {an}, {bn} と直積距離空間 (X × Y, d) の点列 {(an, bn)} の関係について

Page 124: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

120 3 距離空間

命題 3.41 2つの距離空間 (X, dX) と (Y, dY ) の直積距離空間 (X × Y, d) の点列 {(an, bn)} について以下が成り立つ。

(1) {(an, bn)} が (X × Y, d) の有界列であるための必要十分条件は、{an} と{bn} がそれぞれ (X, dX) と (Y, dY ) の有界列である。

(2) {(an, bn)} が (X × Y, d) の収束列であるための必要十分条件は、{an} と{bn} がそれぞれ (X, dX) と (Y, dY ) の収束列である。

(3) {(an, bn)} が (X ×Y, d) のコーシー列であるための必要十分条件は、{an}と {bn} がそれぞれ (X, dX) と (Y, dY ) のコーシー列である。

証明

(1) 点列 {(an, bn)} が有界列ならば、X × Y のある点 (a, b) とある正の実数M > 0 が存在して、任意の自然数 n ∈ N に対し d((an, bn), (a, b)) 5 M

を満たす。よって

d((an, bn), (a, b))2 = dX(an, a)2 + dY (bn, b)2 5 M2

より dX(an, a) 5 M かつ dY (bn, b) 5 M となるので、点列 {an} と{bn} はともに有界列になる。逆に点列 {an} と {bn} がともに有界列にならば、ある正の実数 M > 0 が存在して、任意の自然数 n ∈ N に対しdX(an, a) 5 M かつ dY (bn, b) 5 M を満たす。よって

d((an, bn), (a, b))2 = dX(an, a)2 + dY (bn, b)2 5 2M2

となるので、点列 {(an, bn)} は有界列になる。(2) 点列 {(an, bn)} が収束列ならば、X × Y のある点 (a, b) が存在して、任意の正の実数 ε > 0 に対しある自然数 n0 が存在して、n > n0 を満たす任意の自然数 n ∈ N に対し d((an, bn), (a, b)) < ε となる。よって

d((an, bn), (a, b))2 = dX(an, a)2 + dY (bn, b)2 < ε2

より dX(an, a) < ε かつ dY (bn, b) < ε となるので、点列 {an} と {bn}はともに収束列になる。逆に点列 {an} と {bn} がともに収束列にならば、ある X,Y の点 a, b が存在して、任意の正の実数 ε > 0 に対しある自然数 n0 が存在して、n > n0 を満たす任意の自然数 n ∈ N に対し

Page 125: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

3.3 距離空間の点列と連続写像 121

dX(an, a) < ε かつ dY (bn, b) < ε となる。よって

d((an, bn), (a, b))2 = dX(an, a)2 + dY (bn, b)2 < 2ε2

となるので、点列 {(an, bn)} は収束列になる。(3) 点列 {(an, bn)} がコーシー列ならば、任意の正の実数 ε > 0 に対しある自然数 n0 が存在して、m,n > n0 を満たす任意の自然数 m,n ∈ N に対し d((am, bm), (an, bn)) < ε となる。よって

d((am, bm), (an, bn))2 = dX(am, an)2 + dY (bm, bn)2 < ε2

より dX(am, an) < ε かつ dY (bm, bn) < ε となるので、点列 {an} と{bn} はともにコーシー列になる。逆に点列 {an} と {bn} がともにコーシー列にならば、任意の正の実数 ε > 0 に対しある自然数 n0 が存在して、m,n > n0 を満たす任意の自然数 m,n ∈ N に対し dX(am, an) < ε

かつ dY (bm, bn) < ε となる。よって

d((am, bm), (an, bn))2 = dX(am, an)2 + dY (bm, bn)2 < 2ε2

となるので、点列 {(an, bn)} はコーシー列になる。

3.3.2 連続写像

写像の連続性の定義は、ユークリッド直線 R 上の関数の連続性を ε-δ 論法で定義した真似をする。

定義 3.42 (1) 距離空間 (X, dX) から距離空間 (Y, dY ) への写像 f : X → Y

が X の点 a で連続であるとは、任意の ε > 0 に対し δ > 0 が存在してdX(p, a) < δ を満たす X の任意の点 p に対し dY (f(p), f(a)) < ε となることとする。先に定義した ε-近傍を用いると f(U(a; δ)) ⊂ U(f(a); ε)

となることである。論理記号で書くと

∀ε > 0,∃δ > 0 s.t. ∀x ∈ X, dX(x, a) < δ ⇒ dY (f(x), f(a)) < ε

または

Page 126: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

122 3 距離空間

∀ε > 0,∃δ > 0 s.t. f(U(a; δ)) ⊂ U(f(a); ε)

となる。(2) 写像 f : X → Y が連続写像であるとは、X の任意の点で連続であることとする。

(3) 特に (X, dX) から R への連続写像を X 上の連続関数という。

次の結果は距離空間の連続写像の基本定理である。

定理 3.43 (距離空間の連続写像の基本定理)距離空間 (X, dX) から距離空間 (Y, dY ) への写像 f : X → Y が a ∈ X で連続であるための必要十分条件は、a に収束する X の任意の点列 {xn} に対し、Y

の点列 {f(xn)} が f(a) に収束することである。

証明

(1) 写像 f は X の点 a で連続より、任意の正の実数 ε > 0 に対し、ある正の実数 δ > 0 が存在して、d(x, a) < δ を満たす X の任意の元 x ∈ X に対して d(f(x), f(a)) < ε を満たす。点列 {xn} が a に収束するとすると、この δ > 0 に対しある自然数 n0 が存在して、n > n0 を満たす任意の自然数 n に対し、d(xn, a) < δ となる。よって d(f(xn), f(a)) < ε となるので点列 {f(xn)} は f(a) に収束する。

(2) 対偶命題『写像 f は X の点 a で連続でないならば、次の性質を満たすX の点列 {xn} が存在する:{xn} は a に収束するが、{f(xn)} は f(a)

に収束しない』を示す。f は a で連続でないので、ある正の実数 ε0 > 0

が存在して、任意の δ > 0 に対しある実数 xδ が存在して、d(xδ, a) < δ

かつ d(f(xδ), f(a)) = ε0 を満たす。ここで δ > 0 は任意より、任意の自然数 n に対し δ = 1/n として xδ を xn と表すことにすると、d(xn, a) <

1/n かつ d(f(xn), f(a)) = ε0 を満たす。これは {xn} は a に収束するが、{f(xn)} は f(a) に収束しないことを意味する。

次の結果は写像の連続性が写像の合成で保たれることを表している。

Page 127: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

3.3 距離空間の点列と連続写像 123

命題 3.44 3つの距離空間 (X, dX), (Y, dY ), (Z, dZ) と2つの写像 f : X → Y

と g : Y → Z について

(1) 写像 y = f(x) が x = a で連続で、写像 w = g(y) が y = f(a) で連続ならば、合成写像 w = g ◦ f(x) := g(f(x)) は x = a で連続になる。

(2) f と g が連続写像ならば、合成写像 g ◦ f も連続写像になる。

証明

(1) ε-近傍を使って示してみよう。g は f(a) で連続より任意の正の実数 ε > 0

に対し、ある正の実数 δ > 0 が存在して、g(U(f(a); δ)) ⊂ U(g(f(a)); ε)

となる。また f は a で連続よりこの δ に対し、ある正の実数 η > 0 が存在して、f(U(a; η)) ⊂ U(f(a); δ) となる。よって

g ◦ f(U(a; η)) = g(f(U(a; η))) ⊂ g(U(f(a); δ)) ⊂ U(g(f(a)); ε)

となるので g ◦ f は a で連続になる。(2) X の任意の点 a に対し仮定より f は a で連続であり、g は Y の点 f(a)

で連続なので、(1)より g ◦ f は a で連続である。

3.3.3 演習問題

例題 3.45 距離空間 (X, dX) から距離空間 (Y, dY ) への連続写像 f : X → Y

に対し、X の部分距離空間 (A, dA) への制限写像 f |A : A → Y も連続であることを示せ。

証明 f は X の任意の点で連続より、特に A の点 a でも連続である。よって任意の ε > 0 に対しある δ > 0 が存在して dA(x, a) = d(x, a) < δ を満たす任意の x ∈ A に対し、dY (fA(x), fA(a))= dY (f(x), f(a)) < ε となる。

例題 3.46 距離空間 (X, d) 上の連続関数 f, g に対し、関数 f + g, f · g も X

上の連続関数になることを示せ。

証明

(1) 定理 3.43 より「a に収束する任意の点列 {xn} に対し、点列 {(f +

Page 128: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

124 3 距離空間

g)(xn)} は (f + g)(a) に収束する」ことを示せばよい。f と g は a で連続より、定理 3.43から {f(xn)} と {g(xn)} はそれぞれ f(a) と g(a) に収束する。よって命題 1.33(1)より {f(xn) + g(xn)} は f(a) + g(a)

に収束する。(2) 定理 3.43より「a に収束する任意の点列 {xn} に対し、点列 {(f · g)(xn)}は (f · g)(a) に収束する」ことを示せばよい。f と g は a で連続より、定理 3.43 から {f(xn)} と {g(xn)} はそれぞれ f(a) と g(a) に収束する。よって命題 1.33(2)より {f(xn) · g(xn)} は f(a) · g(a) に収束する。

例題 3.47 距離空間 (X, d) 上の連続関数 f が任意の x ∈ X で f(x) ̸= 0 のとき、関数 g(x) = 1/f(x) も連続になることを示せ。

証明 定理 3.43より「a に収束する任意の点列 {xn} に対し、点列 {1/f(xn)}は 1/f(a) に収束する」ことを示せばよい。仮定から f は a で連続より、定理3.43から {f(xn)} は f(a) に収束する。よって命題 1.33(6)より {1/f(xn)}は 1/f(a) に収束する。

例題 3.48 線形群 GL2(R) の群演算は連続である。

証明 2行2列の行列全体は行列の4つの成分を並べることで R4 と同一視できる。このとき行列の積や逆行列を取る操作は R4 上の4変数有理関数なので連続である。

例題 3.49 距離空間 (X, d) に対し、距離関数 d : X ×X → R は直積距離空間(X × X, d′) 上の連続関数であることを示せ。

証明 X × X の任意の点 (a, b) において d が連続を示せばよい。X × X の任意の点 (x, y) において、d′((x, y), (a, b))2 = d(x, a)2 + d(y, b)2 である。よってd′((x, y), (a, b)) < δ ならば d(x, a) < δ かつ d(y, b) < δ となる。また

d(x, y) − d(a, b) 5 d(x, a) + d(a, b) + d(b, y) − d(a, b)

= d(x, a) + d(y, b) < 2δ

d(a, b) − d(x, y) 5 d(a, x) + d(x, y) + d(y, b) − d(x, y)

= d(x, a) + d(y, b) < 2δ

Page 129: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

3.3 距離空間の点列と連続写像 125

となるので、任意の ε > 0 に対し δ = ε/2 > 0 とすると、d′((x, y), (a, b)) < δ

を満たす任意の (x, y) ∈ X × X に対し、|d(x, y) − d(a, b)| < 2δ = ε となり、点 (a, b) において d は連続となる。

例題 3.50 距離空間 (X, d) の1点 a を固定する。このとき関数 f(x) := d(x, a)

はX 上の連続関数であることを示せ。

証明 X の任意の点 p で f は連続であることを示す。まず距離関数 d は三角不等式を満たすのでX の任意の点 x に対し

d(x, a) 5 d(x, p) + d(p, a)d(a, p) 5 d(a, x) + d(x, p)

となる。よって

f(x) − f(p) = d(x, a) − d(a, p) 5 d(x, p)f(p) − f(x) = d(p, a) − d(x, a) 5 d(x, p)

より、|f(x) − f(p)| 5 d(x, p) となる。以上から任意の ε > 0 に対し δ = ε >

0 とすれば、d(x, p) < δ を満たす任意の x に対し、|f(x) − f(p)| 5 d(x, p) <

δ = ε > 0 となるので、p で f は連続である。

例題 3.51 Rnのユークリッド距離 d(x, y) =

√n∑

k=1

(xk − yk)2と距離 d0(x, y) :=

max{|x1 − y1|, · · · , |xn − yn|} について

(1) 不等式 d0(x, y) 5 d(x, y) を示せ。(2) 不等式 d(x, y) 5 √

nd0(x, y) を示せ。(3) Rn から Rn への恒等写像は、(Rn, d) から (Rn, d0) への連続写像であることを示せ。

(4) Rn から Rn への恒等写像は、(Rn, d0) から (Rn, d) への連続写像でもあることを示せ。

証明

(1) d0(x, y) = |xi−yi| = max{|x1−y1|, · · · , |xn−yn|}とすると、d0(x, y)2 =

(xi − yi)2 5n∑

k=1

(xk − yk)2 = d(x, y)2 5 n(xi − yi)2 = nd0(x, y)2 と

Page 130: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

126 3 距離空間

なる。(2) 任意の ε > 0 の対し δ = ε > 0 とすると、d(x, y) < δ ならば d0(x, y) 5

d(x, y) < δ = ε となる。よって (Rn, d) から (Rn, d0) への恒等写像は連続である。また任意の ε > 0 の対し δ = ε/

√n > 0 とすると、

(1)から d(x, y) 5 √nd0(x, y) なので、d0(x, y) < δ ならば d(x, y) 5

√nd0(x, y) <

√nδ = ε となる。よって (Rn, d0) から (Rn, d) への恒等

写像も連続である。

例題 3.52 閉区間 [a, b] 上の連続関数全体の集合 C[a, b] 上の2つの距離関数

d1(f, g) = sup{|f(x) − g(x)| | x ∈ [a, b]} と d2(f, g) =∫ b

a

|f(x) − g(x)| dx に

ついて

(1) C[a, b] から C[a, b] への恒等写像は、(C[a, b], d1) から (C[a, b], d2) への連続写像であることを示せ。

(2) C[a, b] から C[a, b] への恒等写像は、(C[a, b], d2) から (C[a, b], d1) への連続写像でないことを示せ。

証明

(1) 定理 3.43 より、(C[a, b], d1) の任意の元 f に収束する任意の点列 {fn}は (C[a, b], dd) でも f に収束することを示せばよい。 lim

n→∞d1(fn, f) =

0 より、任意の ε > 0 に対しある n0 ∈ N が存在して、任意の n >

n0 に対し d1(fn, f) = sup{|f(x) − g(x)| | x ∈ [a, b]} = max{|f(x) −g(x)| | x ∈ [a, b]} < ε を満たす。このときリーマン積分の性質より

d2(fn, f) =∫ b

a

|fn(x) − f(x)| dx 5∫ b

a

ε dx = (b − a)ε となるので、

limn→∞

d2(fn, f) = 0 である。

(2) 定理 3.43より、例えば (C[a, b], d1) の元 0 に収束するある点列 {fn} が存在して、(C[a, b], d1) では 0 に収束しないことを示せばよい。例えばfn を

Page 131: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

3.4 距離空間の位相 127

fn(x) =

0 (a 5 x 5 a + b

2− b − a

2n)

b − a

2n(x − a + b

2) + 1 (

a + b

2− b − a

2n5 x 5 a + b

2)

−b − a

2n(x − a + b

2) + 1 (

a + b

25 x 5 a + b

2+

b − a

2n)

0 (a + b

2− b − a

2n5 x 5 b)

と定義すると d2(fn, 0) =∫ b

a

|fn(x)| dx = より limn→∞

d2(fn, 0) = 0 だが

limn→∞

d1(fn, 0) = 1 より (C[a, b], d1) では {fn} は 0 に収束しない。

ここに図

3.4 距離空間の位相

3.4.1 距離空間の開集合、閉集合

ユークリッド空間の開集合や閉集合と同様に、距離空間 (X, d) の開集合や閉集合が定義できる。

定義 3.53 距離空間 (X, d) の部分集合 A が開集合であるとは A = ∅ か、空集合でない A の任意の点 p に対し、ある ε > 0 が存在して、U(p; ε) ⊂ A を満たすこととする。

例 3.7 X は開集合である。点 a の r-近傍 U(a; r) は開集合である。

証明 X が開集合であることは定義より明らか。以下 U(a; r) が開集合を示す。b を U(a; r) の任意の点とすると、定義より r − d(a, b) > 0 が成り立つ。そこで x を U(b ; r − d(a, b)) の任意の点とすると、定義より d(b, x) < r − d(a, b)

が成り立つ。よって三角不等式より

d(a, x) 5 d(a, b) + d(b, x) < d(a, b) + r − d(a, b) = r

となり x ∈ U(a; r)、つまり U(b ; r − d(a, b)) ⊂ U(a; r) が成り立つ。よってU(a; r) は開集合である。ここに U(P ; r) の図を入れる

Page 132: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

128 3 距離空間

定義 3.54 距離空間 (X, d) の部分集合 B が閉集合であるとは、B の X における補集合 Bc が開集合になることである。

例 3.8 X や空集合は閉集合である。1点集合 {a} は閉集合である。点 a の r-

閉近傍を

A = {b ∈ X | d(a, b) 5 r}

と定義すると A は閉集合である。

証明 空集合 や X は開集合であった。それらの補集合である X や空集合は定義より閉集合である。1点集合 {a} の補集合 {a}c が開集合を示す。{a}c の任意の点 b に対し d(a, b) > 0 である。そこで U(b ; d(a, b)) の任意の点 x に対し、d(x, b) < d(a, b) なので三角不等式から d(a, x) = d(a, b)− d(x, b) > 0 となる。よって U(b ; d(a, b)) ⊂ {a}c を満たすので {a}c は開集合、つまり {a} は閉集合である。以下 A が閉集合、つまり Ac が開集合を示す。b を Ac の任意の点とすると、

定義より d(a, b)− r > 0 が成り立つ。そこで U(b ; d(a, b)− r) の任意の点 x に対し、d(x, b) < d(a, b) − r なので三角不等式から d(a, x) = d(a, b) − d(b, x) >

d(a, b) + r − d(a, b) = r となる。よって U(b ; d(a, b) − r) ⊂ Ac を満たすのでAc は開集合、つまり A は閉集合である。ここに U(P ; r) の図を入れる

次の結果は距離空間の閉集合に関する基本定理である。

定理 3.55 (距離空間の閉集合の基本定理)距離空間 (X, d) の空集合でない部分集合 B が閉集合であるための必要十分条件は、B の元からなる収束列 {bn} の極限もまた B の元になることである。

証明 B は閉集合とする。B の元からなる収束列 {bn} を1つ固定する。B =

X ならば {bn} の極限はもちろん B = X の元である。B ̸= X ならば Bc は空集合でない開集合である。もし {bn} が Bc の点 p に収束するならば、任意のε > 0 に対しある n0 ∈ N が存在して n > n0 を満たす任意の n に対し bn ∈U(p; ε) となる。しかし Bc は開集合なのである δ > 0 が存在して U(p; δ) ⊂ Bc

Page 133: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

3.4 距離空間の位相 129

つまり U(p; δ)∩B = ∅ となるので矛盾。よって B の元からなる収束列 {bn}の極限もまた B の元になる。逆に B の元からなる任意の収束列の極限もまた B の元になるとする。B =

X ならば B は閉集合である。B ̸= X ならば Bc は空集合でない。Bc の任意の点 p は B の元からなる収束列の極限ではない。つまりある δ > 0 が存在してU(p; δ)∩B = ∅ つまり U(p; δ) ⊂ Bc となるので Bc は開集合である。よってB は閉集合になる。

3.4.2 連続写像と位相

写像の連続性も、開集合や閉集合の言葉で説明できる。

定理 3.56 (距離空間の連続写像の基本定理)

2つの距離空間 (X, dX) から (Y, dY ) への写像 f : X → Y について以下の3つの条件は互いに同値である。

(1) f は連続である。(2) (Y, dY ) の任意の開集合 V に対し、f による逆像 f−1(V ) は (X, dX) の開集合である。

(3) (Y, dY ) の任意の閉集合W に対し、f による逆像 f−1(W ) は (X, dX) の閉集合である。

証明

• (1) ⇒ (2)

f−1(V ) の任意の点 p に対し、f は p で連続より任意の ε > 0 に対しある δ >

0 が存在して f(U(p; δ)) ⊂ U(f(p); ε) が成り立つ。ここで V は Y の開集合かつ f(p) ∈ V より、ε > 0 を十分小さく取ると U(f(p); ε) ⊂ V とできる。このとき f(U(p; δ)) ⊂ V となることから U(p; δ) ⊂ f−1(V ) が分かり、f−1(V ) は(X, dX) の開集合である。• (2) ⇒ (1)

X の任意の点 p と任意の ε > 0 に対し、V = U(f(p); ε) とすると、例 3.7 より V は (Y, dY ) の開集合になる。よって仮定より f−1(V ) は (X, dX) の開集合になるので、ある δ > 0 が存在して U(p; δ) ⊂ f−1(V ) とできる。つまり

Page 134: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

130 3 距離空間

f(U(p; δ)) ⊂ V = U(f(p); ε) が成り立つので f は p で連続となる。一方 p は任意の点より f は連続である。• (2) ⇒ (3)

(Y, dY )の任意の閉集合W に対しW c は開集合となる。よって仮定より f−1(W c)

は (X, dX) の開集合である。一方例題 1.20より f−1(W c) = f−1(W )c なのでf−1(W ) は閉集合になる。• (3) ⇒ (2)

(Y, dY ) の任意の開集合 V に対し V c は閉集合となる。よって仮定より f−1(V c)

は (X, dX) の閉集合である。一方例題 1.20 より f−1(V c) = f−1(V )c なのでf−1(V ) は開集合になる。

3.4.3 内部、閉包、境界

定義 3.57 (内点、内部)距離空間 (X, d) の点 p と部分集合 A において、p が A の内点であるとはある正の実数 ε > 0 が存在して U(p; ε) ⊂ A を満たすことである。A の内部とは、A の内点の全体のことで Ao と表す。

定義から A の内部 Ao は A の部分集合である。開集合の定義より

定理 3.58 距離空間 (X, d) の部分集合 A が開集合であるための必要十分条件は、A = Ao となることである。

定義 3.59 (触点、閉包)

距離空間 (X, d) の点 p と部分集合 B に対し p が B の触点であるとは、任意のε > 0 に対し U(p; ε)∩B ̸= ∅ を満たすことである。B の触点の全体を B の閉包といい B と表す。

定義から B は B の閉包 B の部分集合である。

命題 3.60 距離空間 (X, d) の点 p と部分集合 B に対し、p が B の触点であるための必要十分条件は、p に収束する B の元からなる点列が存在することと同値である。

Page 135: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

3.4 距離空間の位相 131

証明 p が B の触点と仮定する。このとき任意の自然数 n に対し、B の点 xn

が存在して xn ∈ U(p; 1/n) となる。つまり B の点列 {xn} は p に収束する。逆に p に収束する B の点列 {xn} が存在すると仮定すると、任意の正の実数ε > 0 に対し、ある自然数 n が存在して xn ∈ U(p; ε) となるので、p は B の触点である。

よって閉集合の基本定理 3.55より

定理 3.61 距離空間 (X, d) の部分集合 B が閉集合であるための必要十分条件は、B = B となることである。

次に距離空間 (X, d) の部分集合 A の境界を調べる。ここに平面内の A の図を入れる。A と A の補集合 Ac は境界を共有している。ε-近傍の言葉で境界を記述し

よう。

定義 3.62 (境界点、境界)

距離空間 (X, d) の点 p と部分集合 A において、p は A の境界点であるとは、任意の正の実数 ε > 0 に対し、p の ε-近傍 U(p; ε)が A とも A の補集合 Ac とも交わることとする。また A の境界点の全体を ∂A と表し、A の境界という。

よって境界の定義と (Ac)c = A であることから

命題 3.63 距離空間 (X, d) の部分集合 A に対し、∂A = ∂(Ac).

境界点を収束列の言葉で特徴付けよう。

命題 3.64 距離空間 (X, d) の点 p と部分集合 A において、p は A の境界点であるための必要十分条件は、p に収束する B の点列と補集合 Bc の点列が存在することである。

証明 p を A の境界点とすると、任意の自然数 n に対し、A の点 xn と Ac の点 yn が存在して xn, yn ∈ U(p; 1/n) となる。つまり A の点列 {xn} と Ac の点列 {yn} は共に p に収束する。逆に X の点 p に対し、p に収束する A の点列 {xn} と Ac の点列 {yn} が存在すると仮定すると、任意の正の実数 ε > 0 に対し、ある自然数 n が存在して xn, yn ∈ U(p; ε) となるので、p は A の境界点である。

Page 136: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

132 3 距離空間

ここで極端な場合、すなわち A が空集合の場合や X 全体に一致する場合は、定義より A の境界 ∂A は空集合になることに注意する。

例 3.9 実数直線 R の有界区間 A = (0, 1] の境界は ∂A = {0, 1} である。

証明 (0, 1) の任意の点 p に対し、δ = min{p, 1 − p} とすれば U(p; δ) ⊂ A

となるので p は内点である。一方 p = 0, 1 に対し任意の ε > 0 についてU(p; ε)∩A ̸= ∅ かつ U(p; ε)∩Ac ̸= ∅ は明らかである。

この例より A の境界点は Aの点であることも、Aの点でないことも起こりうる。次の結果は開集合と閉集合の境界による特徴付けである。

定理 3.65 距離空間 (X, d) の部分集合 A,B について

(1) A が (X, d) の開集合であるための必要十分条件は、A の境界は A の補集合に含まる、つまり ∂A ⊂ Ac となることである。

(2) B が (X, d) の閉集合であるための必要十分条件は、B の境界は B に含まれる、つまり ∂B ⊂ B となることである。

証明

(1) A が開集合ならば、A の任意の点 p に対しある正の実数 ε > 0 が存在して U(p; ε) ⊂ A を満たす。よって p に収束する Ac の点からなる収束列は存在しないので、特に p は A の境界点でない。つまり A∩ ∂A = ∅ となる。逆に A の任意の点 p は A の境界点でないならば、p に収束するAc の点からなる収束列は存在しない。よってある正の実数 ε > 0 が存在して、U(p; ε) ⊂ A を満たす。つまり A は開集合である。

(2) B が閉集合ならば補集合 Bc は開集合である。よって(1)より ∂Bc ⊂(Bc)c となるが、∂Bc = ∂B かつ (Bc)c = B より ∂B ⊂ B となる。逆に ∂B ⊂ B ならば ∂Bc = ∂B かつ (Bc)c = B より ∂Bc ⊂ (Bc)c となる。よって(1)より Bc は開集合になるので、B は閉集合である。

3.4.4 演習問題

例題 3.66 開集合の全体 O は次の3つの条件を満たすことを示せ。

Page 137: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

3.4 距離空間の位相 133

• (O1) X, ∅ ∈ O.

• (O2) V1, V2, · · · , Vn ∈ O ならばn∩

k=1Vk ∈ O.

• (O3) 任意の µ ∈ M に対し Vµ ∈ O ならば、 ∪µ∈M

Vµ ∈ O.

証明

• (O1) ∅ ∈ O は定義より、X ∈ O も定義より明らか。• (O2)

n∩

k=1Vk の任意の点 p に対し、Vk ∈ O (k ∈ {1, 2, · · · , n}) よりある

εk > 0 が存在して U(p; εk) ⊂ Vk を満たす。よって ε = min{ε1, ε2, · · · , εn} とすると、任意の k ∈ {1, 2, · · · , n} に対し U(p; ε) ⊂ Vk を満たすので、U(p; ε) ⊂

n∩

k=1Vk となるので

n∩

k=1Vk は開集合である。

• (O3) ∪µ∈M

Vµ の任意の点 p に対し、ある µ ∈ M が存在して p ∈ Vµ とな

る。仮定より Vµ は開集合より、ある ε > 0 が存在して U(p; ε) ⊂ Vµ を満たす。よって U(p; ε) ⊂ Vµ ⊂ ∪

µ∈MVµ となるので ∪

µ∈MVµ は開集合である。

例題 3.67 距離空間 (X, d) 上の連続関数 f に対し A = {x ∈ X | f(x) > 0}は開集合であることを示せ。また B = {x ∈ X | f(x) 5 0} は閉集合であることを示せ。

証明 A の任意の点 p に対し、A の定義から f(p) > 0 である。f は p で連続より、ある δ > 0 が存在して f(U(p; δ)) ⊂ U(f(p); f(p)/2) を満たす。ここでU(p; δ) の任意の点 x に対し、|f(x) − f(p)| < f(p)/2 より f(x) > f(p)/2 > 0

となるので x ∈ A である。つまり U(p; δ) ⊂ A となるので、p は A の内点となり A は開集合である。B = Ac より B は閉集合である。

例題 3.68 位相空間 (X,O) の部分集合 A,B について以下を示せ。

(1) Ao ⊂ A

(2) X = Xo

(3) A ⊂ B ⇒ Ao ⊂ Bo

(4) Ao ∪Bo ⊂ (A∪B)o

(5) (A∩B)o = Ao ∩Bo

Page 138: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

134 3 距離空間

(6) (Ao)o = Ao

(7) A に含まれる開集合のうちで最大の開集合が Ao である。

証明

(1) 内点の定義より A の内部は A の部分集合である。よって Ao ⊂ A となる。(2) (1)より Xo ⊂ X である。また X の任意の点 p と任意の ε > 0 に対し U(p; ε) ⊂ X より p ∈ Xo となるので X ⊂ Xo である。

(3) Ao の任意の元 p に対しある r > 0 が存在して U(p; r) ⊂ A となる。仮定 A ⊂ B と合わせて U(p; r) ⊂ A ⊂ B となるので p ∈ Bo となる。

(4) (3)より A ⊂ A∪B と B ⊂ A∪B から Ao ⊂ (A∪B)o と Bo ⊂(A∪B)o が成り立つので、Ao ∪Bo ⊂ (A∪B)o となる。

(5) (3)より A∩B ⊂ A と A∩B ⊂ B から (A∩B)o ⊂ Ao と (A∩B)o ⊂Bo が成り立つので、(A∩B)o ⊂ Ao ∩Bo となる。逆に Ao ∩Bo の任意の元 p に対し、p ∈ Ao よりある r1 > 0 が存在して U(p; r1) ⊂ A となる。また p ∈ Bo よりある r2 > 0 が存在して U(p; r2) ⊂ B となる。ここで r = min{r1, r2} とすると、U(p; r) ⊂ U(p; r1)∩U(p; r2) ⊂ A∩B となり、p ∈ (A∩B)o となる。

(6) (1)より Ao ⊂ A かつ(3)より (Ao)o ⊂ Ao である。逆に Ao の任意の元 p に対しある r > 0 が存在して U(p; r) ⊂ A となる。ここで例3.7 より U(p; r)o =U(p; r)なので(3)よりU(p; r)= U(p; r)o ⊂ Ao となり、p ∈ (Ao)o である。

(7) Ao が開集合であることは、定理 3.58と(6)より明らか。A に含まれる任意の開集合 W に対し、W ⊂ A より(3)から W 0 ⊂ Ao となる。ここでW は開集合より定理 3.58から W = W o なので W ⊂ Ao となる。

例題 3.69 等式 (B)c

= (Bc)o を示せ。

証明 p ∈ (B)c とは点 p が B の触点ではないことを意味する。つまりある r >

0 が存在して U(P ; r) ⊂ Bc となり p は Bc の内点であると同値である。

例題 3.70 距離空間 (X, d) の部分集合 A の境界 ∂A は、X の閉集合であることを示せ。

Page 139: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

3.5 完備性 135

証明 (∂A)c の任意の点 b に対し、ある ε > 0 が存在して U(b, ε) ⊂ A またはU(b, ε) ⊂ Ac を満たすので、U(b, ε) ⊂ (∂A)c となる。よって b は (∂A)c の内点より、(∂A)c は開集合になることから ∂A は閉集合である。

例題 3.71 ユークリッド平面 R2 の次の集合の内部、閉包、境界を求めよ。

(1) A = [0, 1) × [0, 1)

(2) B = {(x, 0) ∈ R2 | x ∈ R}(3) C = Z × Z(4) D = Q × Q

証明

(1) A0 = (0, 1) × (0, 1), A = [0, 1] × [0, 1], ∂A = A − Ao

(2) Bo = ∅, B = B, ∂B = B

(3) Co = ∅, C = Z2, ∂C = Z2

(4) Do = ∅, D = R2, ∂D = R2

3.5 完備性

定義 3.72 (完備)

(1) 距離空間 (X, d) が完備であるとは、X の任意のコーシー列が収束列になることである。

(2) 距離空間 (X, d) の部分集合 A が完備であるとは、部分距離空間 (A, dA)

が (1) の意味で完備であることとする。つまり A の任意のコーシー列がA の点に収束するような収束列になることである。

例 3.10 (1) 定理 2.33より R は完備である。(2) 完備距離空間 (X, dX) の部分集合は完備とは限らない。例えば R は完備だが、Q は完備ではない。実際

√2 の無限小数展開の小数第 n 位を an

とすると、Q のコーシー列 {an} ができるが極限√

2 は無理数なので Qに含まれない。よって Q は完備ではない。

(3) 完備距離空間 (X, dX) から距離空間 (Y, dY ) への連続写像 f : X → Y に

Page 140: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

136 3 距離空間

対し、f(X) は Y の完備部分集合とは限らない。例えば R は完備だが、連続関数 f(x) =

x

1 + |x|の像である開区間 (−1, 1) は完備ではない。実

際 an = 1 − 1nとすると (−1, 1) の数列 {an} ができる。{an} は 1 に収

束する収束列よりコーシー列だが 1 /∈ (−1, 1) なので (−1, 1) は完備ではない。

このように連続写像の像では完備という性質は保存されない。一方直積を取る操作で完備という性質は遺伝する。

命題 3.73 n 個の距離空間 (X1, d1), · · · , (Xn, dn) がすべて完備ならば、直積距離空間 (X1 × · · · × Xn, d) も完備である。

証明 数学的帰納法により n = 2 個の場合に示せば良い。{(xn, yn)} を直積距離空間 (X × Y, d) のコーシー列とすると、任意の正の実数 ε > 0 に対しある自然数 n0 が存在して、n > n0 を満たす任意の自然数 m,n ∈ Nに対し、d((xm, ym), (xn, yn)) =

√dX(xm, xn)2 + dY (ym, yn)2 < ε となる。

よって dX(xm, xn) < ε かつ dY (ym, yn) < ε となるので (X, dX) と (Y, dY )

の点列 {xn} と {yn} はそれぞれコーシー列となる。仮定より (X, dX) と(Y, dY ) はともに完備より、X の点 p と Y の点 q が存在して点列 {xn} と{yn} はそれぞれ p と q に収束する。つまり任意の正の実数 ε > 0 に対しある自然数 n1 が存在して、n > n1 を満たす任意の自然数 m,n ∈ N に対し、dX((xn, p) < ε かつ dY ((yn, q) < ε となる。よって d((xn, yn), (p, q)) =√

dX(xn, p)2 + dY (yn, q)2 <√

2ε より、直積距離空間 (X × Y, d) のコーシー列 {(xn, yn)} は (p, q) に収束する。

3.5.1 完備化

定義 3.74 距離空間 (X, dX) から距離空間 (X, dX) への写像が等長写像であるとは、X の任意の2点 p, q ∈ X に対し、dY (f(p), f(q)) = dX(p, q) を満たすこととする。

命題 3.75 (1) 距離空間 (X, dX) から距離空間 (X, dX) への写像 f : X → Y

が等長ならば単射である。(2) 全単射な等長写像に対しその逆写像も等長である。

Page 141: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

3.5 完備性 137

証明

(1) X の任意の2点 p, q ∈ X に対し、f(p) = f(q)ならば 0 = dY (f(p), f(q)) =

dX(p, q) より p = q となるので f は単射である。(2) Y の任意の2点 a, b ∈ Y に対し、f は全単射より X の2点 p, q ∈

X がただ一組存在して a = f(p), b = f(q) となる。さらに f は等長より d(f(a), f(q)) = d(p, q) なので、dX(f−1(a), f−1(b)) = dX(p, q) =

dY (f(p), f(q)) = dY (a, b) となり、f の逆写像 f−1 も等長である。

定義 3.76 2つの距離空間が等長同型であるとは全単射な等長写像が存在することとする。

定義 3.77 距離空間 (X, d) の完備化とは、完備距離空間 (X̂, d̂) と等長写像 i :

X → X̂ の組で、X̂ = i(X) を満たすこととする。

例 3.11 定理 2.33より、ユークリッド距離に関して R は Q の完備化である。

定理 3.78 任意の距離空間 (X, d) の完備化が存在する。さらに (X1, d1, i1) と(X2, d2, i2) がともに (X, d) の完備化とすると、X1 から X2 への全単射な等長写像 ϕ が存在して ϕ ◦ i1 = i2 を満たす。

以下この定理を順に示してゆく∗2。F = {{xn} | {xn}は (X, d)のコーシー列 } とする。

補題 3.79 {xn}, {yn} ∈ F に対し数列 {d(xn, yn)} はコーシー列になる。

証明 {xn}, {yn} はコーシー列より、任意の ε > 0 に対しある n0 ∈ N が存在して、任意の m,n > n0 に対し d(xm, xn) < ε, d(ym, yn) < ε を満たす。このとき三角不等式より

|d(xm, ym) − d(xn, yn)| = |d(xm, ym) − d(xn, ym) + d(xn, ym) − d(xn, yn)|5 |d(xm, xn) + |d(ym, yn)| < 2ε

となるので、{d(xn, yn)} はコーシー列である。

∗2 2.6 節の実数の構成を参照。

Page 142: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

138 3 距離空間

よって実数の完備性より極限 limn→∞

d(xn, yn)が存在する。その値を d̃({xn}, {yn})

とする。

補題 3.80 関数 d̃ : F × F → R を d̃({xn}, {yn}) = limn→∞

d(xn, yn) で定義す

ると以下の3つを満たす。

• (正値性)X の任意の2点 {xn}, {yn} に対して d̃({xn}, {yn}) = 0 である。• (対称性)X の任意の2点 {xn}, {yn} に対して d̃({xn}, {yn}) =

d̃({yn}, {xn}) である。• (三角不等式)F の任意の3点 {xn}, {yn}, {zn} に対して三角不等式

d̃({xn}, {zn}) 5 d̃({xn}, {yn}) + d̃({yn}, {zn})

が成り立つ。

証明

• (正値性)d̃({xn}, {yn}) = limn→∞

d(xn, yn) かつ d(xn, yn) = 0 より、

d̃({xn}, {yn}) = 0 となる。• (対称性)d̃({xn}, {yn}) = lim

n→∞d(xn, yn) かつ d(yn, xn) = d(xn, yn) よ

り、d̃({xn}, {yn}) = d̃({yn}, {xn}) となる。• (三角不等式)F の任意の3点 {xn}, {yn}, {zn} に対して三角不

等式 d(xn, zn) 5 d(xn, yn) + d(yn, zn) が任意の n ∈ N で成り立つのでd̃({xn}, {zn}) 5 d̃({xn}, {yn}) + d̃({yn}, {zn}) が成り立つ。

そこで F の2項関係 R を次のように定義する。{xn}, {yn} ∈ F に対し{xn}R{yn} を d̃({xn}, {yn}) = lim

n→∞d(xn, yn) = 0 と定義する。

補題 3.81 この2項関係 R は F の同値関係になる。

証明 同値関係の3つの条件を確かめてみよう。

• (反射律)任意の {xn} ∈ F に対し、d(xn, xn) = 0 が任意の n ∈ N で成り立つので、 lim

n→∞d(xn, yn) = 0 となり {xn}R{xn} である。

Page 143: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

3.5 完備性 139

•(対称律)任意の {xn}, {yn} ∈ F に対し、{xn}R{yn}ならば limn→∞

d(xn, yn) =

0 であるが、d(yn, xn) = d(xn, yn) が任意の n ∈ N で成り立つので、lim

n→∞d(yn, xn) = 0 となり {yn}R{xn} である。

•(推移律)任意の {xn}, {yn}, {zn} ∈ F に対し、{xn}R{yn}かつ {yn}R{zn}ならば、 lim

n→∞d(xn, yn) = 0 かつ lim

n→∞d(yn, zn) = 0 であるが、三角不等式

0 5 d(xn, zn) 5 d(xn, yn) + d(yn, zn) が任意の n ∈ N で成り立つので、lim

n→∞d(xn, zn) = 0 となり {xn}R{zn} である。

以下この同値関係 R を ∼ で表し、商集合 F/ ∼ を G とする。

補題 3.82 2つの同値類 [{xn}], [{yn}] ∈ G に対し

d̃([{xn}], [{yn}]) = limn→∞

d(xn, yn)

と定義すると、well-defined な写像 G × G → R を定める。この d̃ は G の距離関数になる。

証明 {xn} ∼ {zn}かつ {yn} ∼ {wn}ならば d̃([{xn}], [{zn}]) = d̃([{yn}], [{wn}]) =

0である。よって d̃は三角不等式を満たすので d̃([{zn}], [{wn}]) 5 d̃([{zn}], [{xn}])+d̃([{xn}], [{yn}])+d̃([{yn}], [{wn}]) = 0+d̃([{xn}], [{yn}])+0 = d̃([{xn}], [{yn}])となる。同様に d̃([{xn}], [{yn}]) 5 d̃([{zn}], [{wn}])も成り立つので d̃([{xn}], [{yn}]) =

d̃([{zn}], [{wn}]) より d̃ は well-defined である。d̃ が G の距離関数になるためには、補題 3.80より定値性「d̂({xn}, {yn}) = 0 ならば {xn} ∼ {yn}」のみ示せば十分であるが、これは補題 3.81の同値関係 ∼ の定義そのものである。

X の任意の元 x に対し、任意の n ∈ N で xn = x となる点列は明らかにコーシー列をこれを {x} と表す。(X, d) から (G, d̃) への写像 i : X → G を

i(x) = [{x}]

と定義する。

補題 3.83 写像 i : X → G は等長写像かつ G = i(X) となる。

Page 144: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

140 3 距離空間

証明 X の任意の2点 p, q ∈ X に対し、写像 i の定義より、d̃(i(p), i(q) =

d(p, q) となるので i は等長写像である。また G の任意の点 [{xn}] に対し、{xn}はコーシー列より任意の ε > 0 に対し、ある n0 ∈ N が存在して任意の m,n >

n0 に対し d(xm, xn) < ε となる。よって特に d̃([{xn}], i(xn0+1) 5 ε となるので、G の点列 {i(xn)} は [{xn}] に収束することから G = i(X) となる。

補題 3.84 (G, d̃) は完備である。

証明 (G, d̃) の任意のコーシー列 {x(m)} が収束列であることを示す。仮定より任意の ε > 0 に対しある n0 ∈ N が存在して、任意の m1,m2 >

n0 に対し d̃(x(m1), x(m2)) < ε を満たす。ここで各 m ∈ N に対し x(m)

の代表元 {x(m)n } ∈ F は (X, d) のコーシー列より、ある n(m) > n0 が存

在して任意の n1, n2 > n(m) に対し d(x(m)n1 , x

(m)n2 ) < ε を満たす。さらに

d̃(x(m1), x(m2)) = limn→∞

d(x(m1)n , x

(m2)n ) より、m1,m2 > n0 に対し十分大きい

n ∈ N をとれば d(x(m1)n , x

(m2)n ) < d̃(x(m1), x(m2))+ ε < 2ε とできる。よってこ

の n を n > max{n(m1), n(m2)} を満たすようにとれば d(x(m1)

n(m1)+1, x

(m2)

n(m2)+1) 5

d(x(m1)

n(m1)+1, x

(m1)n ) + d(x(m1)

n , x(m2)n )+ d(x(m2)

n , x(m2)

n(m2)+1) < ε + 2ε + ε = 4ε と

なるので、点列 {x(m)

n(m)+1} はコーシー列、つまり {x(m)

n(m)+1} ∈ F となる。そこ

で x = [{x(m)

n(m)+1}] ∈ G とすると、コーシー列 {x(m)} は x に収束することを以

下で示す。そのためには F において d̃({x(ℓ)m }, {x(m)

n(m)+1}) を上から評価すれば

よいが、ℓ に対し十分大きい m をとれば d(x(ℓ)m , x

(m)

n(m)+1) 5 d(x(ℓ)

m , x(ℓ)

n(ℓ)+1) +

d(x(ℓ)

n(ℓ)+1, x

(m)

n(m)+1) < ε+4ε = 5ε より、d̃({x(ℓ)

m }, {x(m)

n(m)+1}) < 5ε+ ε = 6ε と

なるので、G のコーシー列 {x(m)} は x に収束する。

以上より ((G, d̃), i) は (X, d) の完備化である。次に (X1, d1, i1) と (X2, d2, i2) がともに (X, d) の完備化とする。X1 から

X2 への写像 η : X1 → X2 を次のように定義する。X1 の任意の元 x に収束する点列 {i1(xn)} に対し、X の点列 {xn} はコーシー列である。よって X2 の点列 {i2(xn)} も収束列になり、その極限を η(x) とする。

補題 3.85 η(x) は well-defined である。つまり x に収束する点列 {i1(xn)} の

Page 145: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

3.5 完備性 141

取り方に依らない。写像 η : X1 → X2 は全単射な等長写像になり、η ◦ i1 = i2

を満たす。

証明 x に収束する別の点列 {i1(yn)} をとると limn→∞

d(xn, yn) = 0 より、

X2 の点列 {i2(yn)} も点列 {i2(xn)} と同じ極限に収束する。よって η(x) はwell-defined である。X1 の2点 x, y それぞれに収束する点列 {i1(xn)}, {i1(yn)}に対し、d1(x, y) = lim

n→∞d(xn, yn) より、d2(η(x), η(y)) = lim

n→∞d(xn, yn) =

d1(x, y) になるので η は等長写像である。特に単射である。また X1 の任意の元w に収束する点列 {i2(wn)} に対し、X1 の点列 {i1(wn)} の極限を z とすれば、η(z) = w となるので η は全射でもある。η の定義より η ◦ i1 = i2 を満たす。

以上より定理 3.78が示せた。

注意 Q の p-進距離による完備化を p-進体といい Qp と表す。

3.5.2 演習問題

例題 3.86 距離空間 (ℓ1, d) は完備になることを示せ。ここで x = {xn}, y =

{yn} ∈ ℓ1 に対し、d(x, y) =∞∑

n=1|xn − yn| であった。

証明 {u(k)} を ℓ1 のコーシー列とする。このとき任意の n ∈ N に対し {u(k)n }

は R のコーシー列より実数の完備性から収束列となる。その極限を un =

limk→∞

u(k)n とすると数列 u = {un} が得られる。次に u ∈ ℓ1 を示す。{u(k)} は

ℓ1 のコーシー列より特に有界列である。よってある M > 0 が存在して、任意

の k ∈ N に対し d(0, u(k)) =∞∑

n=1|u(k)

n | 5 M が成り立つ∗3。よって任意の N ∈

N に対しN∑

n=1|u(k)

n | 5 M より、

N∑n=1

|un| =N∑

n=1lim

k→∞|u(k)

n | = limk→∞

N∑n=1

|u(k)n | 5 M

∗3 ここで 0 ∈ ℓ1 はすべての項が 0 である数列とする。

Page 146: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

142 3 距離空間

となる。ここで N は任意より∞∑

n=1|un| 5 M が成り立つので u ∈ ℓ1 である。

最後に limk→∞

u(k) = u を示す。{u(k)} は ℓ1 のコーシー列より任意の ε > 0 に対

しある K ∈ N が存在して、任意の k, ℓ > K に対し d(u(k), u(ℓ)) =∞∑

n=1|u(k)

n −

u(ℓ)n | < ε が成り立つ。よって任意の N ∈ N に対し

N∑n=1

|u(k)n − u

(ℓ)n | < ε より、

N∑n=1

|un − u(ℓ)n | =

N∑n=1

limk→∞

|u(k)n − u(ℓ)

n | = limk→∞

N∑n=1

|u(k)n − u(ℓ)

n | 5 ε

となる。ここで N は任意より d(u, u(ℓ)) =∞∑

n=1|un − u

(ℓ)n | 5 ε が成り立つので

limk→∞

u(k) = u である。

例題 3.87 距離空間 (C[a, b], d1)は完備になることを示せ。ここで f, g ∈ C[a, b]

に対し、d1(f, g) = sup{|f(x) − g(x)| | x ∈ [a, b]} であった。

証明 {fn} を (C[a, b], d1) のコーシー列とする。このとき任意の ε > 0 に対しある n0 ∈ N が存在して、p, q > n0 に対し d1(fp, fq) = sup{|fp(x)− fq(x)| | x ∈[a, b]} = max{|fp(x) − fq(x)| | x ∈ [a, b]} < ε なので、任意の x ∈ [a, b] に対し |fp(x) − fq(x)| < ε より {fn(x)} は R のコーシー列となり実数の完備性から収束列となる。その極限を f(x) = lim

n→∞fn(x) とする。次に f ∈ C[a, b]

を示す。つまり任意の x0 ∈ [a, b] で f は連続をいう。p, q > n0 に対し任意のx ∈ [a, b] で |fp(x)− fq(x)| < ε より、|f(x)− fq(x)| = lim

p→∞|fp(x)− fq(x)| 5

ε となる。一方 fq ∈ C[q, b] よりある δ > 0 が存在して、|x − x0| < δ ならば|fq(x)−fq(x0)| < ε なので |f(x)−f(x0)| 5 |f(x)−fq(x)|+ |fq(x)−fq(x0)|+|f(x0) − fq(x0)| < 3ε となり、f ∈ C[a, b] が示せた。最後に lim

n→∞fn = f を

示す。p, q > n0 に対し任意の x ∈ [a, b] で |fp(x) − fq(x)| < ε より、|f(x) −fq(x)| = lim

p→∞|fp(x) − fq(x)| 5 ε となる。よって d1(f, fq) = sup{|f(x) −

fq(x)| | x ∈ [a, b]} = max{|fp(x) − fq(x)| | x ∈ [a, b]} 5 ε より、 limn→∞

fn = f

となる。

Page 147: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

3.5 完備性 143

例題 3.88 距離空間 (C[a, b], d2)は完備でないことを示せ。ここで f, g ∈ C[a, b]

に対し、d2(f, g) :=∫ b

a

|f(x) − g(x)| dx であった。

fn ∈ C[a, b] を次のように定義する。

fn(x) =

1 (a 5 x 5 a + b

2)

− 2n

b − a(x − a + b

2) + 1 (

a + b

25 x 5 a + b

2+

b − a

2n)

0 (a + b

2+

b − a

2n5 x 5 b).

このとき p > q に対し d2(fp, fq) =∫ b

a

|fp(x) − fq(x)| dx = (b − q)(12q

− 12p

)

より {fn} は (C[a, b], d2) のコーシー列だが、極限関数 f は C[a, b] の元ではないので (C[a, b], d2) は完備でない。

証明ここに fn, f のグラフ2つ

3.5.3 コラム

なぜ完備性が重要なのだろう。数学では問題の解が具体的にこれと「決定」できなくても、解の「存在」や「一意性」が示せる場合がある。例えば集合 X から X 自身への写像 f : X → X が固定点を持つか知りたい

とする。ここで x0 ∈ X が f の固定点であるとは、f(x0) = x0 を満たすこととする。つまり f(x) = x の解を探すという問題を考えてみる。たとえば任意にX から点 p を選び f(p) = p か調べてみる。もし幸運にも f(p) = p なら p は問題の解である。残念ながら p が解でないなら今度は f(p) が解か調べてみる。つまり f(f(p)) = f(p) か調べてみる。もし f(f(p)) = f(p) なら f(p) は問題の解である。残念ながら f(p) も解でないなら今度は (f ◦ f)(p) = f(f(p)) が解か調べてみる。このような操作を繰り返すため言葉を準備しよう。点 p ∈ の f

の n 回反復合成による像 f◦n(p) = (f ◦ f ◦ · · · ◦ f)(p) からなる X の点列を p

の f による軌道という。この軌道が問題の解、すなわち固定点に近づいている

Page 148: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

144 3 距離空間

か知りたいのである。近いかどうかを判定するには X が距離空間だと便利である。次の定理はバナッハの不動点定理と呼ばれている。

定理 3.89 (バナッハの不動点定理)完備距離空間 (X, d) の写像 f : X → X に対し、1 未満のある正の定数 r が存在して、任意の2点 p, q ∈ X に対し、d(f(p), f(q)) 5 rd(p, q) を満たすとする。このとき f はただ一つ固定点 x0 を持つ。さらに任意の点 p ∈ X の f による軌道 {f◦n(p)} は固定点 x0 に収束する。

このように完備距離空間 (X, d) において f が距離を r だけ縮める写像ならば、固定点がただ1つ存在することが分かるし、任意の点から出発して f の反復合成による像は固定点に必ず近づいてゆくことも分かるのである。例えばこのバナッハの不動点定理の応用として、常微分方程式の解の存在と一意性や、反復力学系におけるアトラクタの存在と一意性などが挙げられる。

3.6 点列コンパクト

定義 3.90 (1) 距離空間 (X, d) が点列コンパクトであるとは、X の任意の点列 {an} に対し、収束部分列 {aik

} が存在することとする。(2) 距離空間 (X, d) の部分集合 A が点列コンパクトであるとは、部分距離空間 (A, dA) が (1) の意味で点列コンパクトであることとする。つまり A

の任意の点列 {an} に対し、A の点に収束するような収束部分列 {aik}

が存在することである。

ボルツァノ・ワイエルシュトラスの定理 2.32から次が成立する。

例 3.12 実数直線の有界閉区間は点列コンパクトである。

例 3.13 R の開区間は点列コンパクトではない。

証明 A を R の開区間とする。A = R の場合、an = n とすると A の数列{an} ができるが、任意の部分列は有界列でない。よって命題 1.32の(1)より{an} には収束部分列が存在しないので A は点列コンパクトでない。同様に A

が半開区間 (−∞, b) や (a,+∞) の場合も、任意の部分列が有界列でないようなA の数列がとれるので A は点列コンパクトでない。。A が有界開区間 (a, b) の

Page 149: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

3.6 点列コンパクト 145

場合、an = a +b − a

2nとすると A の数列 {an} ができるが、{an} は a /∈ A に

収束するので、命題 1.32 の(4)より任意の部分列も a に収束する。よって{an} には A の点に収束する収束部分列が存在しないので A は点列コンパクトでない。

命題 3.91 点列コンパクトならば完備であるが、逆は一般には成り立たない。

証明 距離空間 (X, d) を点列コンパクトとする。数列 {an} をコーシー列とすると、点列コンパクト性より収束部分列を持つ。よって例題 3.40(3)より{an} 自身が収束列となるので完備である。一方定理 2.33より R は完備ではあるが、数列 an = n は有界列ではないので収束部分列を持たない。よって R は点列コンパクトではない。

次の定理は点列コンパクト集合と有界閉集合の関係を表す重要な結果である。

定理 3.92 距離空間 (X, dX) の部分集合 A について

(1) A が点列コンパクトならば有界閉集合である。(2) 一般に逆は成立しない。つまり A が有界閉集合でも点列コンパクトとは限らない。

(3) しかし (X, dX) がユークリッド空間 Rn の場合は逆も正しい。つまり Rn

の有界閉集合 A は点列コンパクトである。

証明

(1) A が点列コンパクトと仮定する。A が有界閉集合であることを背理法で示す。A が有界でなければ、X のある点 x0 に対し d(ao, an) = n となるような A の点列 {an} が存在する。このとき {an} は有界列ではないので収束部分列が取れない。よって A が点列コンパクトという仮定に矛盾するので A は有界である。次に A が閉集合でないならば、閉集合の基本定理 3.55より A のある点列 {bn} が存在して、{bn} は X の収束列だがその極限 b は A に含まれない。このとき例題 3.39 より {bn} の任意の部分列も b に収束するので A が点列コンパクトという仮定に矛盾する。よって A は閉集合である。

(2) 例えば R の有界開区間 A = (0, 1) を R の部分距離空間と思うと A 自身

Page 150: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

146 3 距離空間

は有界閉集合だが点列コンパクトではない。また A が X の真部分集合の場合の例としては、数列空間 ℓ1 内の単位閉球 U(0; 1) は有界閉集合だが、第 k 項のみ 1 で他は 0 であるような数列 u(k) ∈ ℓ1 からなる U(0; 1) 内の点列 {u(k)} は収束部分列を持たないので、U(0; 1) は点列コンパクトではない。

(3) 数学的帰納法により n = 2 個の場合に示せば良い。A を R2 の有界閉集合とする。A は有界より A の点と R2 の原点の距離を考えれば、あるM > 0 が存在して A ⊂ [−M,M ] × [−M,M ] となる。そこで A の任意の点列を (an, bn) とすると、{an} は有界閉区間 [−M,M ] の数列なので、ボルツァノ・ワイエルシュトラスの定理 2.32から収束部分列 {aik

}が存在する。さらに {bik

} は有界閉区間 [−M,M ] の数列なので、ボルツァノ・ワイエルシュトラスの定理 2.32 から収束部分列 {bjℓ

} が存在する。このとき {aik

} は収束列より例題 3.39 からその部分列 {ajℓ} も

同じ極限を持つ収束列である。よって例題 3.41 より {(ajℓ, bjℓ

)} は点列{(an, bn)} の収束部分列になる。ここで A は閉集合なので閉集合の基本定理 3.55より収束部分列 {(ajℓ

, bjℓ)} の極限は A に含まれることから、

A は点列コンパクトになる。

点列コンパクトという性質は連続写像の像や直積を取る操作で遺伝する。

命題 3.93 (1) 点列コンパクト距離空間 (X, dX) から距離空間 (Y, dY ) への連続写像 f : X → Y に対し、f(X) は Y の点列コンパクト集合になる。

(2) n 個の距離空間 (X1, d1), · · · , (Xn, dn) がすべて点列コンパクトならば、直積距離空間 (X1 × · · · × Xn, d) も点列コンパクトである。

証明

(1) f(X) の任意の点列 {bn} に対し、bn = f(an) を満たす X の点列 {an}が存在する。仮定より (X, dX) は点列コンパクトなので、{an} の収束部分列 {aik

} が存在する。さらに仮定より f は連続写像なので定理 3.43より収束列は収束列に移る。よって {bn} の部分列 {bik

} は収束列なので、f(X) は Y の点列コンパクト集合になる。

Page 151: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

3.6 点列コンパクト 147

(2) 数学的帰納法により n = 2 個の場合に示せば良い。直積距離空間 (X ×Y, d) の任意の点列 {(an, bn)} に対し、{an} は点列コンパクト距離空間(X, dX) の点列なので、収束部分列 {aik

} が存在する。さらに {bik} は

点列コンパクト距離空間 (Y, dY ) の点列なので、収束部分列 {bjℓ} が存在

する。このとき {aik} は収束列より例題 3.39 からその部分列 {ajℓ

} も同じ極限を持つ収束列である。よって例題 3.41 より {(ajℓ

, bjℓ)} は点列

{(an, bn)} の収束部分列になるので (X × Y, d) も点列コンパクトである。

次の結果は例題 2.36の距離空間への一般化であり、点列コンパクト距離空間の最も重要な定理の1つである。

定理 3.94 (最大最小値の定理)点列コンパクト距離空間 (X, d) 上の連続関数 f は最大値と最小値を持つ。

証明 命題 3.93 より f(X) は R の点列コンパクト部分集合である。よって定理 3.92 より f(X) は有界閉である。f(X) の有界性より定理 2.29 からsup f(X) と inf f(X) が存在するが、f(X) が閉集合であることから定理 3.55

より sup f(X) = max f(X) と inf f(X) = min f(X) になる。

命題 3.91より距離空間が点列コンパクトならば完備だったが、逆は一般に成立しなかった。では完備性にあとどのような条件が加われば点列コンパクト性が成り立つだろうか。

定義 3.95 距離空間 (X, d) が全有界であるとは、任意の ε > 0 に対し X の有限個の元 x1, x2, · · · , xn が存在して

X = U(x1, ε)∪U(x2, ε)∪ · · · ∪U(xn, ε)

とできることとする。

定理 3.96 距離空間 (X, d) が点列コンパクトであるための必要十分条件は完備かつ全有界になることである。

証明X は点列コンパクトと仮定する。このとき命題 3.91 より X は完備であ

Page 152: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

148 3 距離空間

る。次に X が全有界であることを背理法で示す。X が全有界でないと仮定すると、ある ε0 > 0 が存在して X の任意の有限個の元 x1, x2, · · · , xn に対し、U(x1, ε0)∪U(x2, ε0)∪ · · · ∪U(xn, ε0) は X の真部分集合である。よって X

の点列 {xn} が存在して、任意の m ̸= n に対し d(xm, xn) = ε0 を満たす。このような {xn} からは収束部分列がとれず、X が点列コンパクトという仮定に矛盾する。以上より X は完備かつ全有界になる。逆に X は完備かつ全有界と仮定する。まず X の任意の点列 {xn} はコー

シー列を部分列に持つことを示す。X は全有界より任意の k ∈ N に対し X の

有限部分集合 Ak が存在して X = ∪a∈Ak

U(a;1k

) となる。よって A1 の元 a1

が存在して {n ∈ N | xn ∈ U(a1, 1)} は無限集合である。そのような無限集合を用いて {xn} の部分列を選び、再度番号を付け直して {x(1)

n } とする。このとき任意の m,n ∈ N に対し d(xm, xn) 5 d(x(1)

m , a1) + d(a1, x(1)n ) < 1 + 1 =

2 を満たす。また A2 の元 a2 が存在して {n ∈ N | x(1)n ∈ U(a2,

12)} は無限

集合である。そのような無限集合を用いて {x(1)n } の部分列を選び、再度番号

を付け直して {x(2)n } とする。このとき任意の m,n ∈ N に対し d(xm, xn) 5

d(x(2)m , a2) + d(a2, x

(2)n ) <

12

+12

= 1 を満たす。この手順を繰り返すと任意の

k ∈ N に対し部分列 x(k)n が存在して、任意の m,n ∈ N に対し d(x(k)

m , x(k)n ) <

1k

+1k

=2kを満たす。このとき {xn} の部分列 {x(k)

k } は、任意の m,n > ℓ に

対し d(x(m)m , x

(n)n ) <

1ℓ

+1ℓ

=2ℓを満たすのでコーシー列である。よって X の

任意の点列 {xn} はコーシー列を部分列に持つことが分かった。一方 X は完備なのでこのコーシー列は収束列となり、X は点列コンパクトである。

3.6.1 演習問題

例題 3.97 (1) 距離空間 (X, dX) の点列コンパクト集合族 {Aλ | λ ∈ Λ} の共通部分 ∩

λ∈ΛAλ も点列コンパクトになることを示せ。

(2) 距離空間 (X, dX) の有限個の点列コンパクト集合 A1, · · · , An に対し、和集合

n∪

i=1Ai も点列コンパクトになることを示せ。

Page 153: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

3.6 点列コンパクト 149

(3) 距離空間 (X, dX) の点列コンパクト集合族 {Aλ | λ ∈ Λ} の和集合は必ずしも点列コンパクトになるとは限らないことを示せ。

証明

(1) Λ の元 λ0 を1つ固定する。共通部分 ∩λ∈Λ

Aλ の任意の点列 {an} に対

し、Aλ0 は点列コンパクトより {an} は Aλ0 の点に収束する収束部分列{aik

}を持つ。一方 Λ の任意の元 λ に対し、Aλ も点列コンパクトより特に閉集合である。よって距離空間の閉集合の基本定理 3.55より {aik

}の極限は Aλ の元でもある。以上から {an} は共通部分 ∩

λ∈ΛAλ の点に収

束する収束部分列 を持つので共通部分 ∩λ∈Λ

Aλ は点列コンパクトになる。

(2) 和集合n∪

i=1Ai の任意の点列 {an} に対し、ある Ak が存在して {n ∈

N | an ∈ Ak} は無限集合になる。an ∈ Ak を満たす {an} の部分列を{aik

} とすると、Ak は点列コンパクトより {aik} は収束部分列を含む。

よってn∪

i=1Ai も点列コンパクトになる。

(3) R の有界閉区間 [1/n, 1 − 1/n] は点列コンパクトだが、それらの和集合∪

n∈N[1/n, 1 − 1/n] は開区間 (0, 1) となり点列コンパクトではない。

Page 154: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

Page 155: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

位相空間

4.1 位相空間

4.1.1 位相、開集合

定義 4.1 空集合ではない集合 X について

(1) X の部分集合族 O が X の位相であるとは、次の3つの条件を満たすこととする。(O1) 全体集合 X と空集合 ∅ は O の元である。(O2) O の任意の有限部分集合 {V1, V2, · · · , Vn} に対し、その共通部分

n∩

k=1Vk もまた O の元である。

(O3) O の任意の部分集合 {Vµ | µ ∈ M} に対し、その和集合 ∪µ∈M

Vµ も

また O の元である。(2) 集合 X と位相 O の組 (X,O) を位相空間という。また O の元を X の開集合という。

(O2) では O の有限部分集合についてのみ、その共通部分がまた O の元になることを要請している点に注意しよう。

Page 156: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

152 4 位相空間

命題 4.2 開集合の定義 (O2) は以下と同値である。(O2’) O の任意の2つの元 V1, V2 に対し、その共通部分 V1 ∩V2 もまた O の元である。

証明 (O2) で n = 2 とすれば (O2’) になる。次に (O2’) を仮定して (O2) を導く。n ∈ N に関する数学的帰納法を用いる。n = 1 の場合は自明である。n =

k − 1 まで成立するとする。n = k のときk∩

i=1Vi = (

k−1∩

i=1Vi)∩Vk より、帰納法

の仮定と (O2) よりk∩

i=1Vi も O の元となる。

例 4.1 位相の例

(1) X = {p, q} に入る位相は次の4つである。O1 = {∅, X},O2 =

{∅, {p}, X},O3 = {∅, {q}, X},O1 = {∅, {p}, {q}, X}.(2) (密着位相、離散位相)集合 X は空集合でないとする。このとき O0 = {∅, X} は X の位相の条件を満たす。この位相 O0 を X の密着位相という。一方 O1 = P(X)

も X の位相の条件を満たす。この位相 O1 を X の離散位相という。密着位相では ∅, X 以外の開集合がないのに対し、離散位相では X の任意の部分集合は開集合である。

(3) (距離位相)距離空間 (X, d) の部分集合 V が距離空間の意味で開集合とは、V が空集合か、または V の任意の点 p に対し、ある ε > 0 が存在して、U(p; ε) ⊂V を満たすことであった(定義 3.53)。このとき距離空間の意味での開集合の全体 Od は位相の条件を満たした(例題 3.66)。この位相 Od を距離空間 (X, d) の距離位相という。

定義 4.3 (位相の強弱)集合 X の2つの位相 O1 と O2 に対し、O2 は O1 より強い位相(または O1

は O2 より弱い位相)であるとは、O1 ⊂ O2 を満たすこととする。定義より離散位相は最強の位相であり、密着位相は最弱の位相である。

Page 157: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

4.1 位相空間 153

4.1.2 部分位相空間

距離空間の部分集合に自然に距離空間の構造が入ったように、位相空間の部分集合にも自然に位相空間の構造が入ることをみておこう。

命題 4.4 位相空間 (X,O) の部分集合 A に対し、OA = {W ∩A | W ∈ O} はA の位相になる。

証明 OA が定義 4.1の (O1), (O2), (O3) を満たすことを確かめる。まず A =

X ∩A かつ ∅ = ∅∩A より (O1) を満たす。次に OA の任意の有限部分集合{V1, V2, · · · , Vn} に対し、 O の元 Wk が存在して Vk = Wk ∩A を満たす (k =

1, 2, · · · , n). よってその共通部分n∩

k=1Vk =

n∩

k=1(Wk ∩A) = (

n∩

k=1Wk)∩A もま

た OA の元となり (O2) を満たす。最後にOA の任意の部分集合 {Vµ | µ ∈ M}に対し、O の元 Wµ が存在して Vµ = Wµ ∩A を満たす (µ ∈ M). よってその和集合 ∪

µ∈MVµ = ∪

µ∈MWµ ∩A = ( ∪

µ∈MWµ)∩A もまた OA の元となり (O3)

を満たす。

つまり O が X の位相であることから OA が A の位相になるのであった。

定義 4.5 上記のように定めた A の位相を A の相対位相という。そして (A,OA)

を位相空間 (X,O) の部分位相空間という。

注意 部分位相空間 (A,OA) の開集合は、必ずしも位相空間 (X,O) の開集合とは限らない。例えばユークリッド距離に関する距離位相空間 R とその部分位相空間 [0, 2] において、(1, 2] = (1, 3)∩[0, 2] は [0, 2] では開集合になるが Rでは開集合にならない。

4.1.3 開近傍、内点、内部

定義 4.6 位相空間 (X,O) と X の部分集合 A と X の点 p について

(1) X の部分集合 W が p の開近傍であるとは、W ∈ O かつ p ∈ W を満たすこととする。

(2) p は A の内点であるとは、p ∈ A かつ p の開近傍 W が存在して W ⊂U を満たすこととする。

(3) X の部分集合 A の内点全体を Ao と表し、A の内部という。

Page 158: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

154 4 位相空間

例 4.2 ユークリッド距離に関する距離位相空間 R の部分集合 (0, 2] において、1 は (0, 2] の内点だが 2 は (0, 2] の内点ではない。 (0, 2] の内部は開区間 (0, 2)

である。

距離空間においては3章の意味での内点、内部と、4章の意味での内点、内部の2通りの定義があるが、これらは同じで概念であることを確認しておこう。

命題 4.7 距離空間において、距離空間の意味での内点、内部と、距離位相空間の意味での内点、内部は同じである。

証明 距離空間 (X, d) とその部分集合 A および X の点 p において、p が距離空間の意味で A の内点ならば、ある ε > 0 が存在して U(p; ε) ⊂ A が成り立つ。ここで U(p; ε) は距離位相に関して開集合なので p は距離位相空間の意味でも A の内点である。逆に p が距離位相空間の意味で A の内点ならば、距離位相に関して p の開近傍 W が存在して W ⊂ A が成り立つ。ここで距離位相の定義より、ある ε > 0 が存在して U(p; ε) ⊂ W (⊂ A) が成り立つので、p は距離空間の意味でも A の内点である。以上から、距離空間の意味での内点と距離位相空間の意味での内点が同値となる。同様に、距離空間の意味での内部と距離位相空間の意味での内部も同値となる。

命題 4.8 位相空間 (X,O) と X の部分集合 A とその内部 Ao について

(1) Ao は A の部分集合である。(2) A が開集合ならば A = Ao である。(3) Ao は開集合である。

証明

(1) A の内点は A に含まれるので、Ao ⊂ A である。(2) A が開集合ならば A の任意の点 p に対し、A 自身が p の開近傍なので p

は A の内点となる。よって A ⊂ Ao である。また(1)より Ao ⊂ A なので A = Ao となる。

(3) Ao の任意の点 p に対し p の開近傍 Wp が存在して Wp ⊂ A を満たす。よって ∪

p∈AoWp ⊂ A となる。ここで Wp の任意の点 q に対し Wp

は q の開近傍で Wp ⊂ A を満たすので、q も A の内点である。つまり

Page 159: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

4.1 位相空間 155

Wp ⊂ Ao を満たす。よって ∪p∈Ao

Wp ⊂ Ao となる。逆の包含関係 Ao ⊂

∪p∈Ao

Wp は明らかなので、 ∪p∈Ao

Wp = Ao となる。さらに位相の定義の

(O3) より ∪p∈Ao

Wp は開集合となるので Ao は開集合である。

内部に関して基本的な性質を以下にまとめる。

命題 4.9 位相空間 (X,O) の部分集合 A,B について以下が成り立つ。

(1) Ao ⊂ A

(2) X = Xo

(3) A ⊂ B ⇒ Ao ⊂ Bo

(4) Ao ∪Bo ⊂ (A∪B)o

(5) (A∩B)o = Ao ∩Bo

(6) (Ao)o = Ao

証明

(1) 命題 4.8の(1)より。(2) (1)より Xo ⊂ X である。また X の任意の点 p に対し (O1) より X

自身が p の開近傍より p ∈ Xo となるので X ⊂ Xo である。(3) Ao の任意の元 p に対し p の開近傍 W が存在して W ⊂ A となる。仮定

A ⊂ B より W ⊂ B となるので p ∈ Bo となる。(4) A ⊂ A∪B と B ⊂ A∪B から(3)より Ao ⊂ (A∪B)o と Bo ⊂

(A∪B)o が成り立つので、Ao ∪Bo ⊂ (A∪B)o となる。(5) A∩B ⊂ A と A∩B ⊂ B から(3)より (A∩B)o ⊂ Ao と (A∩B)o ⊂

Bo が成り立つので、(A∩B)o ⊂ Ao ∩Bo となる。逆に Ao ∩Bo の任意の元 p に対し、p ∈ Ao よりある p の開近傍 W1 が存在して W1 ⊂ A となる。また p ∈ Bo よりある p の開近傍 W2 が存在して W2 ⊂ B となる。ここで W1,W2 は開集合より位相の定義の (O2) からW1 ∩W2 も p

の開近傍となり、W1 ∩W2 ⊂ A∩B より p ∈ (A∩B)o となる。(6) 命題 4.8の(3)より Ao は開集合である。よって命題 4.8の(2)より

(Ao)o = Ao となる。

Page 160: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

156 4 位相空間

以上のことから位相空間の開集合の基本定理が得られる。

定理 4.10 (位相空間の開集合の基本定理)位相空間 (X,OX) の部分集合 A において

(1) A が X の開集合であるための必要十分条件は A = Ao である。(2) Ao は A に含まれる最大の開集合である。

証明

(1) 命題 4.8の(2)と(3)より。(2) A に含まれる任意の開集合 W に対し、W ⊂ Ao を示せばよい。W ⊂ A

より命題 4.9の(3)より W o ⊂ Ao となる。一方命題 4.8の(2)よりW = W o なので W ⊂ Ao となる。

4.1.4 閉集合、触点、閉包

定義 4.11 位相空間 (X,O) の部分集合 B が X の閉集合であるとは、B の X

における補集合 Bc が X の開集合になることとする。X の閉集合の全体を Aで表す。

命題 4.12 位相空間 (X,O) の閉集合の全体 A は次を満たす。(C1) 全体集合 X と空集合 ∅ は A の元である。(C2) A の任意の有限部分集合 {W1,W2, · · · ,Wn} に対し、その和集合

n∪

k=1Wk

もまた A の元である。(C3) A の任意の部分集合 {Wµ | µ ∈ M} に対し、その共通部分 ∩

µ∈MWµ もま

た A の元である。

証明

(1) (O1) より X, ∅ ∈ O より ∅ = Xc, X = ∅c ∈ A である。(2) W1,W2, · · · ,Wn ∈ A ならば定義より W c

1 ,W c2 , · · · ,W c

n ∈ O である。よって (O2) より

n∩

k=1W c

k ∈ O となる。よってn∪

k=1Wk = (

n∩

k=1W c

k )c ∈ A

Page 161: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

4.1 位相空間 157

となる。(3) 任意の µ ∈ M に対し Wµ ∈ A ならば、W c

µ ∈ O である。よって (O3)

より ∪µ∈M

W cµ ∈ O となる。よって ∩

µ∈MWµ = ( ∪

µ∈MW c

µ)c ∈ A となる。

例 4.3 距離空間の意味での開集合と、距離位相空間の意味での開集合は同じでなので、距離空間の意味での閉集合と、距離位相空間の意味での閉集合も同じである。

定義 4.13 位相空間 (X,OX) の点 q および部分集合 B において

(1) q は B の触点であるとは、q の任意の開近傍 W は W ∩B ̸= ∅ を満たすこととする。

(2) B の触点の全体を B の閉包といい、B と表す。

定義から B の任意の点は必ず B の触点だが、B の触点だからといって B に含まれるとは限らない。

例 4.4 ユークリッド距離に関する距離位相空間 R の部分集合 (0, 2] において、0, 1, 2 は全て (0, 2] の触点である。 (0, 2] の閉包は閉区間 [0, 2] である。

命題 4.14 距離空間の意味での触点、閉包と、距離位相の意味での触点、閉包は同じである。

証明 距離空間 (X, d) とその部分集合 A および X の点 p において、p が距離空間の意味で A の触点とすると、任意の ε > 0 に対し U(p; ε)∩A ̸= ∅ が成り立つ。p の任意の開近傍 W に対し、距離位相の定義よりある ε > 0 が存在して U(p; ε) ⊂ W が成り立つので W ∩A ̸= ∅ となり、 p は距離位相空間の意味でも A の触点である。逆に p が距離位相空間の意味で A の触点ならば、p

の任意の開近傍 W に対し W ∩A ̸= ∅ が成り立つ。特に任意の ε > 0 に対しU(p; ε) は p の開近傍より、U(p; ε)∩A ̸= ∅ が成り立つので p は距離空間の意味でも A の触点である。以上から、距離空間の意味での触点と距離位相空間の意味での触点が同値になる。同様に、距離空間の意味での閉包と距離位相空間の意味での閉包も同値になる。

Page 162: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

158 4 位相空間

内部と閉包の関係について、次の等式は便利である。

命題 4.15 (B)c = (Bc)o

証明 X の点 q が (B)c に含まれる、つまり B の触点ではないための必要十分条件は q のある開近傍 W が存在して W ∩B = ∅ を満たすことである。これは W ⊂ Bc、つまり q は Bc の内点であることと同値である。

命題 4.16 位相空間 (X,O) と X の部分集合 B とその閉包 B について

(1) B は B の部分集合である。(2) B が閉集合ならば B = B である。(3) B は閉集合である。

証明

(1) B の任意の点は B の触点なので、B ⊂ B である。(2) B が閉集合ならば定義より Bc は開集合なので、定理 4.10 より Bc =

(Bc)o である。また命題 4.15より (B)c = (Bc)o、よって B = B である。(3) 命題 4.15より (B)c = (Bc)o かつ命題 4.8の(3)より (B)c は開集合になるので、B は閉集合になる。

命題 4.17 位相空間 (X,O) の部分集合 S, T について以下が成り立つ。

(1) S ⊂ S

(2) ∅ = ∅(3) S ⊂ T ならば S ⊂ T

(4) S ∩T ⊂ S ∩T

(5) S ∪T = S ∪T

(6) S = (S)

証明

(1) 命題 4.16の(1)より。(2) 命題 4.9 の(2)より X = Xo である。∅c = X かつ命題 4.15 より

(∅c)o = (∅)c なので ∅c = (∅)c である。よって両辺の補集合をとると

Page 163: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

4.1 位相空間 159

∅ = ∅ となる。(3) S ⊂ T ならば T c ⊂ Sc となる。よって命題 4.9 の(3)より (T c)o ⊂

(Sc)o となる。一方命題 4.15より (Sc)o = (S)c かつ (T c)o = (T )c より(T )c ⊂ (S)c である。よって S ⊂ T となる。

(4) 命題 4.9 の(4)より (Sc)o ∪(T c)o ⊂ (Sc ∪T c)o かつ (Sc ∪T c)o =

((S ∩T )c)o となる。ここで命題 4.15 より (Sc)o = (S)c, (T c)o =

(T )c, ((S ∩T )c)o = (S ∩T )c となるので、S ∩T ⊂ S ∩T である。(5) 命題 4.9 の(5)より (Sc ∩T c)o = (Sc)o ∩(T c)o かつ (Sc ∩T c)o =

((S ∪T )c)o となる。ここで命題 4.15 より (Sc)o = (S)c, (T c)o =

(T )c, ((S ∪T )c)o = (S ∪T )c となるので、S ∪T = S ∪T である。(6) 命題 4.16の(3)より S は閉集合である。よって命題 4.16の(2)より S = (S) となる。

以上のことから位相空間の閉集合の基本定理が得られる。

定理 4.18 (位相空間の閉集合の基本定理)位相空間 (X,OX) の部分集合 B において

(1) B が X の閉集合であるための必要十分条件は B = B である。(2) B は B を含む最小の閉集合である。

証明

(1) 命題 4.16の(2)と(3)より。(2) B を含むの任意の閉集合 E に対し、B ⊂ E を示せばよい。B ⊂ E より命題 4.17の(3)から B ⊂ E となる。一方命題 4.16の(2)より E =

E なので B ⊂ E となる。

距離空間の場合と同様に、内点と内部、触点と閉包以外にも次のような概念が位相空間ではよく用いられる。

定義 4.19 位相空間 (X,O) の点 q および部分集合 B において

(1) q は B の外点であるとは、q が Bc の内点であることとする。B の外点

Page 164: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

160 4 位相空間

の全体を B の外部という。(2) q は B の境界点であるとは、q の任意の開近傍 W に対し、W ∩B ̸= ∅かつW ∩Bc ̸= ∅ となることとする。B の境界点の全体を B の境界といい ∂B と表す。

(3) q は B の集積点であるとは、q が B − {q} の触点であることとする。(4) q は B の孤立点であるとは、q のある開近傍 W が存在して、W ∩B =

{q} となることとする。

4.1.5 直積位相

直積距離空間に比べて、位相空間の直積を位相空間にするには一手間かかる。

命題 4.20 (X,OX) と (Y,OY ) を2つの位相空間とする。

(1) OX と OY の直積

OX ×OY := {V × W | V ∈ OX , W ∈ OY }

は一般に直積集合 X × Y の位相にならない。(2) X × Y の部分集合族 O を次のように定義する。

O = { ∪µ∈M

Vµ × Wµ | µ ∈ M, Vµ ∈ OX , Wµ ∈ OY }

このとき O は X × Y の位相になる。

証明

(1) X = Y = R にユークリッド距離位相 O を考える。このとき例えば(0, 2), (1, 3) ∈ O に対し、(0, 2) × (0, 2) や (1, 3) × (1, 3) は O ×O の元だが (0, 2) × (0, 2)∪(1, 3) × (1, 3) は O ×O に含まれないので、O ×Oは R × R の位相にならない。

ここに図(2) (O2’) のみ示す。 ∪

λ∈ΛAλ × Bλ, ∪

µ∈MCµ × Dµ ∈ O に対し

( ∪λ∈Λ

Aλ × Bλ)∩( ∪µ∈M

Cµ × Dµ) = ∪(λ,µ)∈Λ×M

(Aλ ∩Cµ) × (Bλ ∩Dµ)

なので、OX も OY も (O2’)を満たすことから ( ∪λ∈Λ

Aλ×Bλ)∩( ∪µ∈M

Cµ×

Page 165: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

4.1 位相空間 161

Dµ) ∈ O となる。

定義 4.21 上記の O を OX と OY の直積位相といい、位相空間 (X × Y,O)

を (X,OX) と (Y,OY ) の直積位相空間という。

次の結果は距離空間の場合に直積位相が自然な定義であることを表している。

命題 4.22 2つの距離空間 (X, dX) と (Y, dY ) の直積距離空間 (X × Y, d) の距離位相 Od は、2つの距離位相 OdX

と OdYの直積位相 O に等しい。

証明 直積集合 X1 × X2 の点 p の直積距離に関する ε-近傍 U(p; ε) は、任意の点 (a, b) ∈ U(p; ε) 中心の正方形 (a − δ, a + δ) × (b − δ, b + δ) の和集合で表される。直積距離空間 (X × Y, d) の距離位相 Od の開集合 V は、V の任意の点 p の ε-近傍 U(p; ε) の和集合で表されるので、V は直積位相 O の元でもある。一方、直積集合 X1 ×X2 の点 q = (a, b) 中心の正方形 (a− δ, a + δ)× (b−δ, b + δ) は、任意の点 p ∈ (a − δ, a + δ) × (b − δ, b + δ) 中心の ε-近傍 U(p; ε)

の和集合で表される。ここで ε は p に依存する。直積位相 O の開集合 W は、W の任意の点 q = (a, b) 中心の正方形 (a − δ, a + δ) × (b − δ, b + δ) の和集合で表されるので、W は距離位相 Od の元でもある。以上から Od = O となる。ここに図2つ

4.1.6 演習問題

例題 4.23 集合 {1, 2, 3} に入る位相をすべて挙げよ。

証明 以下 i, j, k ∈ X に対し {X, ∅, {k}} が3つ、{X, ∅, {k, j}} が3つ、{X, ∅, {k}, {k, j}} が6つ、{X, ∅, {k}, {j}, {k, j}} が3つ、{X, ∅, {k}, {i, j}}が3つ、{X, ∅, {k}, {k, i}, {k, j}} が3つ、{X, ∅, {k}, {j}, {k, i}, {k, j}} が6つと離散位相と密着位相の計29個。

例題 4.24 (1) 距離位相では1点集合は閉集合である、つまり1点集合の補集合は開集合であることを示せ。

(2) 1点集合が閉集合とは限らない位相の例を挙げよ。

Page 166: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

162 4 位相空間

証明

(1) 距離空間 (X, d) の任意の点 p において、定理 4.10より p の補集合 {p}c

の任意の点 q が {p}c の内点であることを示せばよい。q ∈ {p}c より p ̸=q なので d(p, q) > 0 である。そこで ε = d(p, q) としたとき U(q; ε) ⊂{p}c を示す。U(q; ε) の任意の点 x に対し d(x, q) < ε となる。よって三角不等式より d(p, x) = d(p, q) − d(x, q) = ε − d(x, q) > 0 となり p ̸= x

が分かる。よって x ∈ {p}c より U(q; ε) ⊂ {p}c である。(2) 例えば例 4.1の(1)において、集合 X = {p, q}に位相 O2 = {∅, {p}, X}を考えると、{p} は閉集合ではない。なぜならば補集合である {q} が開集合ではないからである。

例題 4.25 集合 X の2つの位相 O1 と O2 について

(1) O1 ∩O2 も X の位相になることを示せ。(2) O1 ∪O2 は一般に X の位相にならないことを、反例を挙げて示せ。

証明

(1) O1 ∩O2 が X の位相の条件 (O1), (O2), (O3) を満たすことを確かめる。

• O1 も O2 も (O1) を満たすのでともに X, ∅ を含む。よって X, ∅ ∈O1 ∩O2 となる。

• Vk ∈ O1 ∩O2 (k = 1, 2, · · · , n) に対し、O1 も O2 も (O2) を満たすのでともに

n∩

k=1Vk を含む。よって

n∩

k=1Vk ∈ O1 ∩O2 となる。

• Vλ ∈ O1 ∩O2 (λ ∈ Λ) に対し、O1 も O2 も (O3) を満たすのでともに∪

λ∈ΛVλ を含む。よって ∪

λ∈ΛVλ ∈ O1 ∩O2 となる。

(2) X = {1, 2, 3} の2つの位相 O1 = {X, ∅, {1, 2}},O2 = {X, ∅, {2, 3}} について、{1, 2}, {2, 3} ∈ O1 ∪O2 だが {2} = {1, 2}∩{2, 3} /∈ O1 ∪O2 より位相の条件 (O2) を満たさないので O1 ∪O2 は X の位相にならない。

例題 4.26 (1) Ao ∪Bo ⊂ (A∪B)o で等号が成り立たない例を挙げよ。

Page 167: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

4.1 位相空間 163

(2) A∩B ⊂ A∩B で等号が成り立たない例を挙げよ。

証明

(1) ユークリッド距離に関する距離位相空間 R において A = [0, 1], B = [1, 2]

とすると Ao ∪Bo = (0, 1)∪(1, 2) ⊂ (A∪B)o = (0, 2) となり等号が成立しない。

(2) ユークリッド距離に関する距離位相空間 R において A = (0, 1), B =

(1, 2) とすると A∩B = ∅ ⊂ {1} = A∩B となり等号が成立しない。

例題 4.27 (X,O) の点列 {an} が点 p ∈ X に収束するとは、p の任意の開近傍 V に対し、ある n0 ∈ N が存在して任意の n > n0 に対し、an ∈ V を満たすこととする。相異なる2点に収束する (X,O) の点列 {an} の例を挙げよ。

証明 密着位相空間の点列はすべての点に収束する。

例題 4.28 位相空間 X とその部分集合 A について

(1) A の内部は、A に含まれる開集合の和集合に一致する。(2) A の閉包は、A を含む閉集合の共通部分に一致する。

証明

(1) 定理 4.10の(3)より、Ao は A に含まれる最大の開集合である。A に含まれる開集合の和集合は A に含まれる最大の開集合なので Ao に一致する。

(2) 定理 4.18の(3)より、B は B を含む最小の閉集合である。B を含む閉集合の共通部分は B を含む最小の閉集合なので B に一致する。

例題 4.29 (1) 離散位相は距離位相であることを示せ。(2) 空集合でない有限集合の距離位相は離散位相であることを示せ。

証明

(1) 離散距離位相は離散位相に一致するので。

Page 168: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

164 4 位相空間

(2) 距離空間の1点は閉集合である。よってその点の補集合は有限個の閉集合の和集合より閉集合なので、1点は開集合でもある。

例題 4.30 (X,O) の部分空間 (A,OA) と A の部分集合 B について、(X,O)

における B の閉包を C として (A,OA) における B の閉包を D とすると、D = A∩C を示せ。

証明 まず D ⊂ A∩C を示す。D の任意の点 p をとる。p の X における任意の開近傍 V に対し、V ∩A は A における p の開近傍である。p は A におけるB の触点なので (V ∩A)∩B ̸= ∅ となり、特に V ∩B ̸= ∅ なので p は X における B の触点でもある。よって D ⊂ C となる。また D は A における B

の閉包なので D ⊂ A よりD ⊂ A∩C となる。次に A∩C ⊂ D を示す。A∩C の任意の点 q をとる。q の A における任

意の開近傍 W に対し、相対位相の定義より X の開集合 V が存在して W =

V ∩A と表せる。よって V は X における q の開近傍である。一方 q ∈ C よりB ∩V ̸= ∅ となる。また B ⊂ A より B ∩W = B ∩(V ∩A) = B ∩V ̸= ∅ となるので p ∈ D となり A∩C ⊂ D である。

例題 4.31 ユークリッド直線 R の部分集合 W = { 1n

| n ∈ N} の内部 A、外

部 B、境界 C、集積点の全体 D、孤立点の全体 E をそれぞれ求めよ。

証明 A = ∅, B = (W ∪{0})c, C = W ∪{0}, D = {0}, E = W .

例題 4.32 ユークリッド平面 R2 の部分集合 [0, 1)× [0, 1) の内部 A、外部 B、境界 C、集積点の全体 D、孤立点の全体 E をそれぞれ求めよ。

証明 A = (0, 1) × (0, 1), B = ([0, 1] × [0, 1])c, C = {0, 1} × [0, 1]∪[0, 1] ×{0, 1}, D = [0, 1] × [0, 1], E = ∅.

例題 4.33 位相空間 (X,O) の部分集合 A と、A の境界 ∂A について、以下を示せ。

(1) 境界 ∂A は閉集合である。(2) A = ∂A∪Ao.

Page 169: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

4.1 位相空間 165

(3) ∂A∩Ao = ∅.

(4) A が開集合であるための必要十分条件は A∩ ∂A = ∅ である。(5) A が閉集合であるための必要十分条件は ∂A ⊂ A である。

証明

(1) 定義より p が A の境界点であることと p が A の触点かつ Ac の触点である、つまり A∩Ac の元であることは同値である。つまり ∂A = A∩Ac

である。一方 A も Ac も閉集合なのでそれらの共通部分も閉集合になり、よって ∂A は閉集合である。

(2) 定義より A ⊃ ∂A∪Ao である。一方 A の触点 p が A の内点でないならば、p の任意の開近傍 V に対し V ∩Ac ̸= ∅ となり p ∈ ∂A となる。よって A ⊂ ∂A∪Ao となるので A = ∂A∪Ao である。

(3) ∂A∩Ao の元 p が存在したと仮定すると、p ∈ Ao より p のある開近傍V に対し V ⊂ A を満たす。よって p は Ac の触点でないので p /∈ ∂A

となり矛盾。よって ∂A∩Ao = ∅ である。(4) A が開集合ならば A = Ao より(3)より A∩ ∂A = ∅ である。逆に

A∩ ∂A = ∅ ならば A の任意の点は Ac の触点ではない、つまり A の内点になるので A ⊂ Ao となる。Ao ⊂ A より A = Ao となるので A は開集合である。

(5) A が閉集合ならば A = A より(2)より ∂A ⊂ A である。 逆に ∂A ⊂A ならば A の任意の触点は A の点になるので A ⊂ A となる。A ⊂ A

より A = A となるので A は閉集合である。

例題 4.34 位相空間 (X,O) の点 p および部分集合 A において次の2つは同値であることを示せ。

(1) p は A の内点でも外点でもない。(2) p は A の境界点である。

証明

(1) ⇔ ¬(pは Aの内点) ∧ ¬(pは Aの外点)

Page 170: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

166 4 位相空間

⇔ ¬(∃V1 : pの開近傍 s.t.V1 ⊂ A) ∧ ¬(∃V2 : pの開近傍 s.t.V2 ⊂ Ac)⇔ (∀W : pの開近傍,W ∩Ac ̸= ∅) ∧ (∀W : pの開近傍,W ∩A ̸= ∅)⇔ ∀W : pの開近傍,W ∩Ac ̸= ∅ ∧ W ∩A ̸= ∅⇔ (2)

例題 4.35 位相空間 (X,O) の点 p および部分集合 A において次の2つは同値であることを示せ。

(1) p は A の点だが A の集積点ではない。(2) p のある開近傍 W が存在して、W ∩A = {p} となる。

証明

(1) ⇔ (p ∈ A) ∧ ¬(∀V : pの開近傍 s.t.V ∩A − {p} ̸= ∅)⇔ (p ∈ A) ∧ (∃W : pの開近傍 s.t.W ∩A − {p} = ∅)⇔ ∃W : pの開近傍 s.t.W ∩A = {p}⇔ (2)

4.2 連続写像

4.2.1 連続写像

定義 4.36 位相空間 (X,OX) から位相空間 (Y,OY ) への写像 f : X → Y がX の点 p で連続であるとは、f(p) の任意の開近傍 U に対し、p のある開近傍V が存在して f(V ) ⊂ U を満たすこととする。特に X の任意の点で f が連続である場合、f を連続写像という。

命題 4.37 (1) 位相空間 (X,OX) の恒等写像 i : X → X は連続である。(2) 2つの位相空間 (X,OX) と (Y,OY ) について、写像 f : X → Y が定値写像、つまり Y の元 b が存在して、任意の x ∈ X に対し f(x) = b とする。このとき f は連続である。

(3) 3つの位相空間 (X,OX), (Y,OY ), (Z,OZ) について、2つの写像 f :

X → Y と g : Y → Z が連続ならば、合成写像 g ◦ f : X → Z も連続である。

Page 171: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

4.2 連続写像 167

証明

(1) X の任意の点 p で i が連続を示す。i(p) = p の任意の開近傍 U に対し、p の開近傍として U 自身を取れば、i(U) ⊂ U を満たすので、i は p で連続になる。

(2) X の任意の点 p で f が連続を示す。f(p) = b の任意の開近傍 U に対し、p の任意の開近傍 V を取れば、f(V ) = {b} ⊂ U を満たすので、f は p

で連続になる。(3) X の任意の点 p で g ◦ f が連続を示す。仮定より g は f(p) ∈ Y で連続より、g(f(p)) の任意の開近傍 U に対し、f(p) のある開近傍 W が存在して g(W ) ⊂ U を満たす。また仮定より f は p ∈ X で連続より、f(p)

の開近傍 W に対し、p のある開近傍 V が存在して f(V ) ⊂ W を満たす。以上より g ◦ f(V ) = g(f(V )) ⊂ g(W ) ⊂ U となり、g ◦ f は p で連続になる。

命題 4.38 2つの距離空間 (X, dX) と (Y, dY ) について、写像 f : X → Y が距離空間の間の写像として X の点 p で連続であることと、それぞれ距離位相空間の間の写像として f が点 p で連続であることは同値である。特に f が距離空間の間の写像として連続であることと、距離位相空間の間の写像として連続であることは同値である。

証明 写像 f : X → Y が距離空間の間の写像として X の点 p で連続であるとすると、任意の ε > 0 に対しある δ > 0 が存在して f(U(p; δ)) ⊂ U(f(p); ε)

を満たす。距離位相の定義より f(p) の任意の開近傍 U に対しある ε > 0 が存在して U(f(p); ε) ⊂ U となる。この ε > 0 に対しある δ > 0 が存在してf(U(p; δ)) ⊂ U(f(p); ε) ⊂ U となるが、U(p; δ) は距離位相に関して開集合なので V = U(p; δ) とすれば、V は p の開近傍で f(V ) ⊂ U を満たす。よって距離位相空間の間の写像としても f は点 p で連続である。逆に写像 f が距離位相空間の間の写像として p で連続であるとすると、f(p)

の任意の開近傍 U に対し、p のある開近傍 V が存在して f(V ) ⊂ U を満たす。特に任意の ε > 0 に対し U(f(p); ε) は f(p) の開近傍より、p のある開近傍 V

Page 172: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

168 4 位相空間

が存在して f(V ) ⊂ U(f(p); ε) を満たす。ここで距離位相の定義よりある δ > 0

が存在して U(p; δ) ⊂ V を満たす。よって f(U(p; δ)) ⊂ U(f(p); ε) を満たすので、距離空間の間の写像としても f は点 p で連続である。

次の結果は位相空間の連続写像の基本定理である。

定理 4.39 (位相空間の連続写像の基本定理)(X,OX) から (Y,OY ) への写像 f : X → Y について、以下は同値である。

(1) f : X → Y は連続写像である。(2) ∀V ∈ OY に対し、f−1(V ) ∈ OX .

(3) ∀W ∈ AY に対し、f−1(W ) ∈ AX .

証明

• (1 ⇒ 2)

V ∈ OY を任意にとる。f−1(V ) の任意の点 p に対し、f は p で連続より f(p)

の開近傍 V に対し、p のある開近傍 U が存在して f(U) ⊂ V を満たす。このとき U ⊂ f−1(V ) となるので、定理 4.10より f−1(V ) は (X,OX) の開集合である。• (2 ⇒ 1)

X の点 p を任意にとる。f(p) の任意のの開近傍 V に対し、f−1(V ) は p の開近傍になる。よって U = f−1(V ) とすると、f(U) = f(f−1(V )) ⊂ V となり f

は p で連続となる。 p は任意より f は連続である。• (2 ⇒ 3)

(Y,OY ) の任意の閉集合 W に対し W c は開集合となる。よって仮定より f−1(W c) は (X,OX) の開集合である。一方 f−1(W c) = f−1(W )c よりf−1(W ) は (X,OX) の閉集合になる。• (3 ⇒ 2)

(Y,OY ) の任意の開集合 V に対し V c は閉集合となる。よって仮定より f−1(V c)

は (X,OX) の閉集合である。一方より f−1(V c) = f−1(V )c より f−1(V ) は(X,OX) の開集合になる。

Page 173: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

4.2 連続写像 169

4.2.2 開、閉、同相写像

定義 4.40 2つの位相空間 (X,OX), (Y,OY ) と、写像 f : X → Y について、

(1) f が開写像であるとは、X の任意の開集合 V の f による像 f(V ) が Y

の開集合になることである。(2) f が閉写像であるとは、X の任意の閉集合 W の f による像 f(W ) が Y

の閉集合になることである。(3) f が同相写像であるとは、f は全単射かつ連続で、f の逆写像 f−1 も連続であることである。

(4) (X,OX) と (Y,OY ) が同相であるとは、同相写像 f : X → Y が存在することである。

注意 連続写像による開集合の像は一般に開集合とは限らない。特に連続写像は一般に開写像とは限らない。

例 4.5 命題 4.37の(2)のように定値写像は連続だが、{b} が開集合でなければ開写像にならない。同様に {b} が閉集合でなければ閉写像にならない。

命題 4.41 (1) 位相空間 (X,OX)から (Y,OY )への全単射な連続写像 f : X →Y が同相写像であるための必要十分条件は f が開写像であることである。

(2) 位相空間 (X,OX) から (Y,OY ) への全単射な連続写像 f : X → Y が同相写像であるための必要十分条件は f が閉写像であることである。

(3) 位相空間の全体を T とする。X,Y ∈ T に対し、XRY を X と Y が同相であることとすると、T の2項関係 R は同値関係になる。

証明

(1) f : X → Y が同相写像と仮定する。このとき逆写像 f−1 : Y → X は連続より、定理 4.39より X の任意の開集合 V に対し f(V ) = (f−1)−1(V )

は Y の開集合になるので、f は開写像である。逆に f : X → Y が開写像と仮定する。このときX の任意の開集合 V に対し (f−1)−1(V ) = f(V )

は Y の開集合になるので、定理 4.39より逆写像 f−1 : Y → X は連続になり、f は同相写像である。

(2) f : X → Y が同相写像と仮定する。このとき逆写像 f−1 : Y → X は連続

Page 174: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

170 4 位相空間

より、定理 4.39より X の任意の閉集合 W に対し f(W ) = (f−1)−1(W )

は Y の閉集合になるので、f は閉写像である。逆に f : X → Y が閉写像と仮定する。このとき X の任意の閉集合 W に対し (f−1)−1(W ) =

f(W ) は Y の閉集合になるので、定理 4.39より逆写像 f−1 : Y → X は連続になり、f は同相写像である。

(3) 位相空間 X から X 自身への恒等写像は同相写像より反射律を満たす。また 位相空間 X から位相空間 Y への同相写像 f : X → Y が存在すれば、逆写像 f−1 : Y → X も同相写像より対称律を満たす。最後に位相空間 X から位相空間 Y への同相写像 f : X → Y と位相空間 Y から位相空間 Z への同相写像 g : Y → Z の合成写像 g ◦ f : X → Z も同相写像より推移律を満たす。

注意 同相写像で保たれる位相空間の性質を調べるのが位相幾何学(トポロジー)という数学の分野である。

4.2.3 商位相

命題 4.42 (1) 位相空間 (X,OX) から集合 Y への写像 f : X → Y に対し、OY := {U ⊂ Y | f−1(U) ∈ OX} は Y の位相になる。

(2) この位相 OY は f を連続にする最も強い Y の位相である。

証明

(1) OY が Y の位相の公理を満たすことを確かめる。

• f−1(Y ) = X ∈ OX , f−1(∅) = ∅ ∈ OX より Y, ∅ ∈ OY となる。• Vk ∈ OY (k = 1, 2, · · · , n) に対し、f−1(

n∩

k=1Vk) =

n∩

k=1f−1(Vk) ∈ OX

よりn∩

k=1Vk ∈ OY となる。

• Vλ ∈ OY (λ ∈ Λ) に対し、f−1( ∪λ∈Λ

Vλ) = ∪λ∈Λ

f−1(Vλ) ∈ OX より

∪λ∈Λ

Vλ ∈ OY となる。

(2) f を連続にする Y の任意の位相を S とする。S の任意の元 W に対し、

Page 175: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

4.2 連続写像 171

f−1(W ) ∈ OX より、OY の定義から W ∈ OY となり、OY は S より強い位相である。

定義 4.43 特に写像 f が全射のとき、この位相 OY を f による商位相という。

X の同値関係 ∼ による商写像 π : X → X/ ∼ は全射より、商集合 X/ ∼ に商位相が考えられる。この位相空間を商位相空間という。

例 4.6 閉区間 [0, 1] を R の部分位相空間と思う。[0, 1] の同値関係 x ∼ y を、x, y ∈ {0, 1} ならば x ∼ y で、x, y /∈ {0, 1} ならば x ∼ y ⇔ x = y と定義すると、商写像 π : X → X/ ∼ は閉区間 [0, 1] の両端の 0 と 1 を同一視して張り合わせる操作に対応しているので、商位相空間 X/ ∼ は円周 S1 = {(x, y) ∈R2 | x2 + y2 = 1} と同相になる。

4.2.4 演習問題

例題 4.44 (X,OX) から (Y,OY ) への写像 f : X → Y と X の点 p について以下を示せ。

(1) f(p) の任意の開近傍 U に対し、f−1(U) が p の開近傍ならば、f : は p

で連続である。(2) しかし f が p で連続であっても、f(p) の任意の開近傍 U に対し、f−1(U)

は p の開近傍とは限らない。

証明

(1) f(p) の任意の開近傍 U に対し、仮定より f−1(U) が p の開近傍である。よって V = f−1(U) とすると、f(V ) = f(f−1(U)) ⊂ U となるので f :

は p で連続である。(2) 反例:f : R → R を |x| > 1 のとき f(x) = 2 で、|X| 5 1 のとき f(x) =

0 と定義すると、f は x = 0 で連続である。しかし開区間 (−1, 1) の f

による逆像は f−1((−1, 1)) = [−1, 1] と閉区間になり、x = 0 の開近傍にならない。

Page 176: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

172 4 位相空間

例題 4.45 (X,OX) から (Y,OY ) への写像 f : X → Y が連続写像であることと、以下の(1)から(3)は同値であることを示せ。

(1) ∀B ⊂ Y に対し、f−1(Bo) ⊂ f−1(B)o.

(2) ∀B ⊂ Y に対し、f−1(B) ⊂ f−1(B).

(3) ∀A ⊂ X に対し、f(A) ⊂ f(A)

証明

(1) f : X → Y は連続写像と仮定する。Y の任意の部分集合 B に対し、Bo は Y の開集合より定理 4.39 より f−1(Bo) は X の開集合である。一方 B0 ⊂ B より f−1(Bo) ⊂ f−1(B) かつ定理 4.10 より f−1(B)o はf−1(B) に含まれる最大の開集合なので f−1(Bo) ⊂ f−1(B)o となる。逆に Y の任意の部分集合 B に対し、f−1(Bo) ⊂ f−1(B)o と仮定する。Y

の任意の開集合 U に対しても f−1(Uo) ⊂ f−1(U)o となる。一方 U =

Uo かつ f−1(U)o ⊂ f−1(U) より f−1(U)o = f−1(U) となり、定理 4.10

より f−1(U) は X の開集合になるので、定理 4.39より f は連続写像である。

(2) f : X → Y は連続写像と仮定する。Y の任意の部分集合 B に対し、B はY の閉集合より定理 4.39より f−1(B) は X の閉集合である。一方 B ⊂B より f−1(B) ⊂ f−1(B) かつ定理 4.10 より f−1(B) は f−1(B) を含む最小の閉集合となり f−1(B) ⊂ f−1(B) となる。逆に Y の任意の部分集合 B に対し、f−1(B) ⊂ f−1(B) と仮定する。Y の任意の閉集合 W

に対しても f−1(W ) ⊂ f−1(W ) となる。一方 W = W かつ f−1(W ) ⊂f−1(W ) より f−1(W ) = f−1(W ) となり、定理 4.10より f−1(W ) は X

の閉集合になるので、定理 4.39より f は連続写像である。(3) f : X → Y は連続写像と仮定する。背理法で示す。つまり f(A)∩(f(A))c

の元 q が存在したとする。A の元 p が存在して q = f(p) となり、かつ q の開近傍 U が存在して U ∩ f(A) = ∅ とする。仮定より f は連続より定理 4.39 から f−1(U) は X の開集合より p の開近傍である。一方 f−1(U)∩A = ∅ となり、これは p ∈ A に矛盾する。逆に ∀A ⊂X に対し、f(A) ⊂ f(A) と仮定する。Y の任意の閉集合 W に対し、

Page 177: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

4.2 連続写像 173

f(f−1(W )) ⊂ f(f−1(W )) ⊂ W = W より f−1(W ) ⊂ f−1(W ) となる。一方 f−1(W ) ⊂ f−1(W ) より f−1(W ) = f−1(W ) となるので、定理4.18 より f−1(W ) は X の閉集合である。よって定理 4.39 より f は連続写像になる。

例題 4.46 全単射で連続だが逆写像が連続でない例を挙げよ。

証明 2点以上からなる集合 X に離散位相 O1 と密着位相 O0 を考える。このとき (X,O1) から (X,O0) への恒等写像は全単射で連続だが逆写像が連続でない。

例題 4.47 (X,OX) から (Y,OY ) への写像 f : X → Y について以下を示せ。

(1)

f は開写像⇐⇒ ∀A ⊂ X, f(Ao) ⊂ f(A)o.

(2)

f は閉写像⇐⇒ ∀A ⊂ X, f(A) ⊂ f(A).

証明

(1) f は開写像と仮定する。X の任意の部分集合 A に対し、その内部 Ao

は X の開集合より、f(Ao) も Y の開集合である。一方 Ao ⊂ A よりf(Ao) ⊂ f(A) だが、f(A) の内部 f(A)o は f(A) に含まれる最大の開集合より f(Ao) ⊂ f(A)o となる。逆に X の任意の部分集合 A に対し、f(Ao) ⊂ f(A)o と仮定する。X の任意の開集合 V に対しても f(V o) ⊂f(V )o が成り立つが、V = V o かつ f(V )o ⊂ f(V ) より f(V )o = f(V )

となるので、f(V ) は Y の開集合となり、f は開写像である。(2) f は閉写像と仮定する。X の任意の部分集合 A に対し、その閉包 A は

X の閉集合より、f(A) も Y の閉集合である。一方 A ⊂ A より f(A) ⊂f(A) だが、f(A) の閉包 f(A) は f(A) を含む最小の閉集合より f(A) ⊂f(A) となる。逆に X の任意の部分集合 A に対し、f(A) ⊂ f(A) と仮定する。X の任意の閉集合 W に対しても f(W ) ⊂ f(W ) が成り立つが、

Page 178: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

174 4 位相空間

W = W かつ f(W ) ⊂ f(W ) より f(W ) = f(W ) となるので、f(W ) はY の閉集合となり、f は閉写像である。

例題 4.48 (1) (X,OX) から (Y,OY ) への写像 f : X → Y が p ∈ X で連続ならば、p に収束する任意の点列 {an} に対し像 {f(an)} が f(p) に収束することを示せ。

(2) 逆が成り立たない写像 f の例を挙げよ。

証明

(1) 写像 f は p ∈ X で連続より、f(p) の任意の開近傍 U に対し p のある開近傍 V が存在して f(V ) ⊂ U を満たす。点列 {an} は p に収束するので、p の開近傍 V に対しある n0 ∈ N が存在して、任意の n > n0 に対し an ∈ V を満たす。よって任意の n > n0 に対し、f(an) ∈ f(V ) ⊂ U

を満たすので、点列 {f(an)} は f(p) に収束する。(2) 2点以上からなる集合 X に離散位相 O1 と密着位相 O0 を考える。このとき (X,O0) から (X,O1) への恒等写像は X の任意の点で連続ではない。一方 (X,O0) の任意の点列は X の任意の点に収束する。

例題 4.49 (X,OX) の部分集合 A について以下を示せ。

(1) 包含写像 i : A → X は部分位相空間 (A,OA) から (X,OX) への連続写像になる。

(2) 逆に包含写像 i : A → X が連続となる最も弱い A の位相が相対位相である。

(3) (X,OX) と (Y,OY ) の間の写像 f : X → Y を部分位相空間 (A,OA) に制限した写像 f |A : A → Y も連続写像になる。

証明

(1) X の任意の開集合 V に対し、i−1(V ) = V ∩A より相対位相の定義よりi−1(V ) ∈ OA となるので、包含写像 i は連続である。

Page 179: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

4.3 コンパクト 175

(2) 包含写像 i : A → X を連続とする A の任意の位相を S とすると、X の任意の開集合 V に対し、i−1(V ) = V ∩A より相対位相の定義から OA ⊂S となる。よって OA は S より弱い位相である。

(3) 制限写像 f |A : A → Y は包含写像 i : A → X と写像 f : X → Y の合成写像であり、ともに連続なので f |A も連続である。

例題 4.50 X の同値関係 ∼ による商位相空間 X/ ∼ から Y への写像 g が連続であるための必要十分条件は、g と商写像 π : X → X/ ∼ の合成写像 g ◦ π

が連続になることを示せ。

証明 写像 g が連続とする。商位相の定義より商写像 π は連続なので、連続写像の合成写像 g ◦ π も連続になる。逆に合成写像 g ◦ π が連続とする。Y の任意の開集合 V に対し、連続写像 g ◦ π による逆像 (g ◦ π)−1(V ) = π−1(g−1(V ))

はX の開集合になる。よって商位相の定義より g−1(V ) は商位相空間 X/ ∼ の開集合になるので g も連続である。

4.3 コンパクト

4.3.1 覆うという発想

定義 4.51 (被覆、開被覆、部分被覆、有限部分被覆)

(1) 集合 X の部分集合族 V = {Vλ | λ ∈ Λ} が X の部分集合 A の被覆であるとは、V の和集合が A を覆うこと、つまり

A ⊂ ∪λ∈Λ

を満たすことである。特に位相空間 (X,O) の開集合族 V = {Vλ | λ ∈ Λ}が A の被覆であるとき、V を A の開被覆という。

(2) A の被覆 V = {Vλ | λ ∈ Λ} の部分集合族 V ′ = {Vµ | µ ∈ M} 自身が A

の被覆のとき、V ′ を V の部分被覆という。特に部分被覆 V ′ の元の個数が有限のとき、V ′ を V の有限部分被覆という。

Page 180: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

176 4 位相空間

定義 4.52 (コンパクト空間、コンパクト集合、相対コンパクト集合)

(1) 位相空間 (X,O) がコンパクト空間であるとは、X の任意の開被覆から有限部分被覆が取れることをいう。

(2) 位相空間 (X,O) の部分集合 A がコンパクト集合であるとは、A の任意の開被覆から有限部分被覆が取れることをいう。

(3) 位相空間 (X,O) の部分集合 B が相対コンパクト集合であるとは、B の閉包 B が(2)の意味でコンパクト集合になることをいう。

相対位相の定義より次は明らかであろう。

命題 4.53 位相空間 (X,O) の部分集合 A が定義 4.52の(2)の意味でコンパクト集合であることと、部分位相空間 (A,OA) が定義 4.52の(1)の意味でコンパクト空間であることは同値である。

例 4.7 (1) R はコンパクト空間ではない。(2) R の有界開区間 (0, 1) はコンパクト集合ではない。(3) 位相空間 (X,O) の位相 O が有限集合ならば、X はコンパクト空間である。特に X 自身が有限集合ならばコンパクト空間である。

証明

(1) R の開被覆として V = {(n, n + 2) | n ∈ Z} をとると、V の有限個の元の和集合は有界だが、R は有界でないので V から有限部分被覆がとれない。よって R はコンパクト空間ではない。

(2) (0, 1) の開被覆として V = {( 1n + 2

,1n

) | n ∈ N} をとると、V の有限個

の元の和集合の下限は 0 より真に大きいので V から有限部分被覆がとれない。よって (0, 1) は R のコンパクト集合ではない。

(3) コンパクト空間の定義より明らかである。

自明でないコンパクト集合の例を挙げてみよう。

定理 4.54 (ハイネ - ボレルの定理)R の有界閉区間 [a, b] はコンパクトである。

Page 181: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

4.3 コンパクト 177

証明 背理法で示す。有界閉区間 [a, b] のある開被覆 V = {Vλ | λ ∈ Λ} が存在して、V の有限部分

被覆が存在しないと仮定する。このとき V は [a, b] の2つの部分区間 [a,a + b

2]

と [a + b

2, b] それぞれの開被覆でもあるが、少なくとも一方には有限部分被覆が

存在しない。そのような部分区間を [a1, b1] とする。このとき V は [a1, b1] の2

つの部分区間 [a1,a1 + b1

2] と [

a1 + b1

2, b1] それぞれの開被覆でもあるが、少な

くとも一方の有限部分被覆が存在しない。そのような部分区間を [a2, b2] とする。この操作を帰納的に繰り返してゆくと、有限閉区間 In = [an, bn] の列 {In}

で任意の n ∈ N に対し In+1 ⊂ In となり、 limn→∞

|an − bn| = 0 を満たすものが

構成できる。このときカントールの区間縮小定理 2.31より {an} と {bn} は区間 I の同じ点 c に収束する。この c を含む V の元を Vλ0 とすると、十分大きい n ∈ N に対し In ⊂ Vλ0 となり、In の選び方に矛盾する。よって [a, b] の任意の開被覆から有限部分被覆が取れるので、[a, b] は R のコ

ンパクト集合である。

コンパクト性は部分集合に遺伝するだろうか。

命題 4.55 コンパクト空間 (X,O) の部分集合 A について

(1) 一般に A はコンパクト集合とは限らない。(2) A が閉集合ならば、A はコンパクト集合である。(3) 一般に A がコンパクト集合でも閉集合とは限らない。

証明

(1) 例 4.7の(2)と定理??より、有界閉区間 [0, 1] はコンパクトだが、開部分区間 (0, 1) はコンパクトではない。

(2) A の任意の開被覆 {Vλ | λ ∈ Λ} に対し、A は閉集合なので {Vλ | λ ∈Λ}∪Ac は X の開被覆になる。ここで X はコンパクトより Λ の有限個の元 λ1, λ2, · · · , λn が存在して {Vλi | i = 1, 2, · · · , n}∪Ac は X の開被覆になる。よって {Vλi | i = 1, 2, · · · , n} は A の開被覆になるので A はコンパクトである。

Page 182: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

178 4 位相空間

(3) 2点集合 X = {p, q} に位相 O = {X, ∅, {p}} を考えると、例 4.7 の(3)より (X,O) はコンパクト空間かつ {p} もコンパクト集合だが閉集合ではない。

一方コンパクト性は直積空間には常に遺伝する。

命題 4.56 位相空間 (X,OX) の部分集合 A および位相空間 (Y,OY ) の部分集合 B はそれぞれコンパクトとする。このとき直積空間 X ×Y の部分集合 A×B

もコンパクトになる。特にコンパクト空間の直積空間はコンパクト空間になる。

証明 A × B の任意の開被覆を U = {Uλ | λ ∈ Λ} とすると、A × B の任意の元 (a, b) に対し U の元 Uλ(a,b) が存在して、(a.b) ∈ Uλ(a,b) を満たす。このとき直積位相の定義から a の X における開近傍 Vλ(a,b) ∈ OX と、b の Y

における開近傍 Wλ(a,b) ∈ OY が存在して Vλ(a,b) × Wλ(a,b) ⊂ Uλ(a,b) を満たす。ここで a ∈ A を固定すると、B は Y のコンパクト集合より B の開被覆 {Wλ(a,b) | b ∈ B} から有限部分被覆 {Wλ(a,bj) | j = 1, 2, · · · , n(a)} が取れ

る∗1。Va =n∩

j=1Vλ(a,bj) とすると、 任意の j に対し Va × Wλ(a,bj) ⊂ Uλ(a,bj)

を満たす。次に a ∈ A を任意とすると、A は X のコンパクト集合より A の開被

覆 {Va | a ∈ A} から有限部分被覆 {Vai | i = 1, 2, · · · , m} が取れて Vai ×

Wλ(ai,bj) ⊂ Uλ(ai,bj) を満たす。以上より A × B ⊂m∪

i=1

n(ai)∪

j=1Uλ(ai,bj) となり、

A × B は直積空間 X × Y のコンパクト集合になる。

またコンパクト性は連続写像でも遺伝する。

命題 4.57 (X,OX) から (Y,OY ) への連続写像 f : X → Y に対し

(1) A が X のコンパクト部分集合ならば f(A) は Y のコンパクト集合である。

(2) B が Y のコンパクト部分集合でも f−1(B) は X のコンパクト集合とは限らない。

∗1 ここで n(a) は a ∈ A に依存することに注意。

Page 183: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

4.3 コンパクト 179

証明

(1) {Vλ | λ ∈ Λ} を f(A) の任意の開被覆とすると、{f−1(Vλ) | λ ∈ Λ} はコンパクト集合 A の開被覆となり、Λ の有限個の元 λ1, λ2, · · · , λn が存在して {f−1(Vλi) | i = 1, 2, · · · , n} は A の開被覆になる。よって {Vλi | i =

1, 2, · · · , n} は f(A) の有限開被覆になるので f(A) もコンパクトである。(2) 例えば f : R → R を f(x) = 0 として B = {0} とすれば、B はコンパクトだが f−1(B) = R は例 4.7の(1)よりコンパクトではない。

特にコンパクト空間と同相な位相空間はコンパクト空間である。つまりコンパクト性は位相不変な性質である。

4.3.2 点列コンパクトとコンパクト

距離空間では完備かつ全有界であることと点列コンパクトであることは同値であった。以下では距離空間における点列コンパクトとコンパクトの同値性をみてゆこう。

命題 4.58 コンパクト空間 (X,O) の無限部分集合は集積点を持つ。

証明 対偶命題「X の部分集合 A が集積点を持たないならば有限集合である」ことを示す。X の任意の点 p は A の集積点でないので、Vp −{p}∩A = ∅ を満たす p の開近傍 Vp が存在する。このとき {Vp | p ∈ X} はコンパクト空間 X の開被覆より有限個の点 p1, p2, · · · , pn ∈ X が存在して X = Vp1 ∪Vp2 ∪ · · · ∪Vpn

を満たす。このとき A ⊂ {p1, p2, · · · , pn} となるので A は有限集合である。

定義 4.59 (集合の直径)距離空間 (X, d) の部分集合 A の直径を

d(A) = sup{d(a, b) | a, b ∈ A}

と定義する。

命題 4.60 距離空間 (X, d) が点列コンパクトならば、任意の開被覆 U に対し、ある ε > 0 が存在して、d(A) < ε を満たす任意の部分集合 A に対し、ある

Page 184: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

180 4 位相空間

V ∈ U が存在して A ⊂ V を満たす∗2。

証明 背理法で示す。つまりある開被覆 U が存在して任意の ε > 0 に対し 、d(A) < ε を満たすある部分集合 A が存在して、A ⊂ V を満たす V ∈ U は 存

在しないと仮定する。特に任意の n ∈ N に対し d(An) <1nを満たすある部分

集合 An が存在して An ⊂ V を満たす V ∈ U は 存在しない。そこで An から1点 xn を選び点列 {an} を作ると、(X, d) は点列コンパクトより部分列 {aik

}が存在してある点 p に収束する。ここで p ∈ Uλ を満たす U の元 Uλ を選ぶと、十分大きな n に対して An ⊂ Uλ となり仮定に矛盾する。

定理 4.61 距離空間 (X, d) ではコンパクトと点列コンパクトは同値。

証明 (X, d) がコンパクトと仮定する。X の点列 {an} に対し X の部分集合{an | n ∈ N} が有限集合ならば、ある n0 ∈ N が存在して an = an0 を満たす n

が無限個あるので、{an} から収束部分列がとれる。一方 {an | n ∈ N} が無限集合ならば、命題 4.58より集積点 p を持つので、p に収束する部分列がとれる。以上より X は点列コンパクトになる。逆に (X, d) が点列コンパクトと仮定する。X の任意の開被覆 U に対し、命題

4.60の ε > 0 が存在する。また定理 3.96より X は全有界になるので、X の有限個の元 x1, x2, · · · , xn が存在して X = U(x1, ε)∪U(x2, ε)∪ · · · ∪U(xn, ε)

とできる。一方命題 4.60より任意の k = 1, 2, · · · , n に対し U の元 Uλkが存在

して U(xk, ε) ⊂ Uλkを満たすので {Uλk

| k = 1, 2, · · · , n} は U の有限部分被覆になる。以上より X はコンパクトになる。

次の結果は例題 2.36の位相空間への一般化であり、コンパクト位相空間の最も重要な定理の1つである。

系 4.62 コンパクト空間 (X,O) 上の連続関数 f : X → R は最大値と最小値を取る。

証明 命題 4.57より f(X) は R のコンパクト集合である。よって定理 3.92と定理 4.61より f(X) は R の有界閉集合なので最大値と最小値が存在する。

∗2 この ε を開被覆 U のルべーグ数という。

Page 185: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

4.3 コンパクト 181

4.3.3 演習問題

例題 4.63 (X,O) のコンパクト部分集合 A,B について以下を示せ。

(1) 和集合 A∪B もコンパクト部分集合になる。(2) 共通部分 A∩B はコンパクトとは限らない。

証明

(1) A∪B の任意の開被覆 {Vλ | λ ∈ Λ} に対し、{Vλ | λ ∈ Λ} をコンパクト集合 A の開被覆と思えば有限個で A を覆える。同様に {Vλ | λ ∈ Λ} をコンパクト集合 B の開被覆と思えば有限個で B を覆える。両方合わせた有限個で A∪B を覆えるので A∪B もコンパクトである。

(2) R の部分集合 A = [1, 3] と B = [−1,−3] は定理??よりコンパクトである。また(1)より A∪B もコンパクトもある。ここで A∪B の同値関係を x ̸= 2 に対し、x ∼ −x として、商写像 π : A∪B → A∪B/ ∼ を考える。A∪B/ ∼ に商位相を入れると、π(A) と π(B) はそれぞれ A とB に同相なのでコンパクトだが、π(A)∩π(B) は A − {2} と同相なのでコンパクトではない。

ここに図

例題 4.64 位相空間 (X,O) の部分集合族 W が有限交叉性を持つとは、W の任意の有限部分集合の共通部分は空集合にならないこととする。位相空間 (X,O)

がコンパクトであるための必要十分条件は、X の有限交叉性を持つ任意の閉集合族 F = {Fλ | λ ∈ Λ} に対し、その共通部分が空集合にならないことを示せ。

証明 X がコンパクトと仮定する。背理法で示す。もし ∩λ∈Λ

Fλ = ∅ ならば、

U = {F cλ | λ ∈ Λ} は X の開被覆より有限部分被覆 X = F c

λ1∪F c

λ2∪ · · · ∪F c

λn

を持つ。このとき Fλ1 ∩Fλ2 ∩ · · · ∩Fλn = ∅ となり、F が有限交叉性を持つことに矛盾する。逆に有限交叉性を持つ任意の閉集合族に対し、その共通部分が空集合でないと

仮定する。背理法で示す。もし X がコンパクトでないならば、X のある開被覆U = {Uλ | λ ∈ Λ} に対し、U の任意の有限部分集合の和集合は X の真部分集

Page 186: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

182 4 位相空間

合である。よって F = {U cλ | λ ∈ Λ} とすると 、F の任意の有限部分集合の共

通部分は空集合にならないので F は有限交叉性を持つ。一方 U は X の開被覆より ∩

λ∈ΛU c

λ = ∅ となり仮定に矛盾する。

4.4 ハウスドルフ空間

定義 4.65 位相空間 (X,O) がハウスドルフ空間であるとは、X の任意の相異なる2点 p, q に対し、それぞれの開近傍 V,W ∈ O が存在して V ∩W = ∅ を満たすこととする。

定義よりハウスドルフ空間と同相な位相空間はハウスドルフ空間である。つまりハウスドルフ性は位相不変な性質である。

命題 4.66 距離空間は距離位相に関してハウスドルフ空間である。

証明 距離空間 (X, d) の相異なる2点 p, q に対し d(p, q) > 0 となる。δ =

d(p, q)/3 > 0 とすると、U(p; δ) と U(q; δ) はそれぞれ p と q の開近傍である。また U(p; δ) の任意の元 a と U(q; δ) の任意の元 b に対し、三角不等式よりd(p, q) 5 d(p, a) + d(a, b) + d(b, q) となり

d(a, b) = d(p, q) − d(p, a) − d(b, q) > δ > 0.

よって U(p; δ)∩U(q; δ) = ∅ より (X, d) はハウスドルフ空間である。ここに図

ハウスドルフ空間は距離空間と似ている。例えば次の命題 4.67のようにハウスドルフ空間では1点は閉集合である。

命題 4.67 (X,O) がハウスドルフ空間ならば、1点は閉集合になる。

証明 X の任意の点 p に対し、その補集合 {p}c が開集合であることを示す。{p}c の任意の点 q に対し、X はハウスドルフより p, q それぞれの開近傍V,W ∈ O が存在して V ∩W = ∅ を満たす。よって W ⊂ {p}c となるので q

は {p}c の内点となり {p}c は開集合である。

次にハウスドルフ性が部分空間や直積空間に遺伝することを確認しておこう。

Page 187: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

4.4 ハウスドルフ空間 183

命題 4.68 位相空間 (X,O) がハウスドルフ空間ならば、部分位相空間 (A,OA)

もハウスドルフ空間になる。

証明 A の任意の相異なる2点 p, q をとる。(X,O) はハウスドルフより、p, q それぞれの X における開近傍 V,W ∈ O が存在して V ∩W = ∅ を満たす。一方V ∩A, W ∩Aは p, q それぞれの Aにおける開近傍になり、(V ∩A)∩(W ∩A) =

(V ∩W )∩A = ∅ を満たす。よって (A,OA) もハウスドルフ空間になる。

命題 4.69 2つの位相空間 (X,OX) と (Y,OY ) がハウスドルフ空間ならば、直積空間 (X × Y,O) もハウスドルフ空間になる。

証明 直積空間 (X × Y,O) の相異なる 2点を (p1, p2), (q1, q2) とすると、p1 ̸=q1 または p2 ̸= q2 となる。p1 ̸= q1 の場合、X がハウスドルフより p1, q1 それぞれの X における開近傍 V,W ∈ OX が存在して V ∩W = ∅ を満たす。このとき V × Y,W × Y はそれぞれ (p1, p2), (q1, q2) の直積空間 X × Y における開近傍で、(V × Y )∩(W × Y ) = (V ∩W )× Y = ∅ より直積空間 X × Y もハウスドルフ空間になる。p2 ̸= q2 の場合も同様である。ここに図

次の結果はハウスドルフ性の判定条件となる。

命題 4.70 位相空間 (X,O) がハウスドルフ空間であるための必要十分条件は、直積空間 X × X の対角線集合∆(X) = {(x, x) ∈ X × X | x ∈ X} が閉集合になることである。

証明 まず X がハウスドルフ空間であると仮定する。∆(X) の補集合 ∆(X)c

の任意の元 (p, q) をとると p ̸= q である。よって p, q それぞれの開近傍 V,W ∈O が存在して V ∩W = ∅ を満たす。このとき V × W は直積空間 X × X における (p, q) の開近傍で V × W ⊂ ∆(X)c となる。よって (p, q) は ∆(X)c の内点となり ∆(X)c は直積空間 X ×X の開集合となることから、∆(X) は閉集合である。逆に ∆(X) が直積空間 X × X の閉集合と仮定する。X の相異なる 2点 p, q

に対し、(p, q) ∈ ∆(X)c となる。仮定より ∆(X)c は開集合なので、(p, q) のあ

Page 188: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

184 4 位相空間

る開近傍が存在して ∆(X)c に含まれる。直積位相の定義より、特にそのような開近傍として p, q それぞれの X における開近傍 V,W ∈ O の直積 V × W が取れる。よって V ×W ⊂ ∆(X)c より V ∩W = ∅ となり、X はハウスドルフ空間である。

4.4.1 ハウスドルフとコンパクト

ハウスドルフという仮定から、コンパクト集合どうしを分離することができる。

命題 4.71 (1) ハウスドルフ空間 X の1点 p とコンパクト集合 K が p /∈ K

ならば、p ∈ V , K ⊂ W , V ∩W = ∅ となる開集合 V,W が存在する。(2) ハウスドルフ空間 X におけるコンパクト集合 K1 と K2 が K1 ∩K2 =

∅ ならば、K1 ⊂ U1, K2 ⊂ U2, U1 ∩U2 = ∅ となる開集合 U1, U2 が存在する。

証明

(1) K の任意の元 q をとる。p /∈ K より p ̸= q なので、(X,O) はハウスドルフより p, q それぞれの開近傍 Vq, Wq ∈ O が存在して Vq ∩Wq = ∅ を満たす。このとき K ⊂ ∪

q∈KWq となる。仮定より K はコンパクトなの

で、有限個の q1, q2, · · · , qn ∈ K が存在して K ⊂n∪

i=1Wqi となる。一方

n∩

i=1Vqi は p を含む開集合で

(n∩

i=1Vqi

)∩(n∪

i=1Wqi

) ⊂n∪

i=1(Vqi ∩Wqi

) = ∅

より V =n∩

i=1Vqi , W =

n∪

i=1Wqi とすれば条件を満たす。

ここに図(2) K1 の任意の元 p をとる。K1 ∩K2 = ∅ より p /∈ K2 となる。よって(1)より p ∈ Vp, K ⊂ Wp, Vp ∩Wp = ∅ となる開集合 Vp,Wp が存在する。このとき K1 ⊂ ∪

p∈K1

Vp となる。仮定より K1 はコンパクトなの

で、有限個の p1, p2, · · · , pm ∈ K1 が存在して K ⊂m∪

j=1Vpj となる。一

Page 189: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

4.4 ハウスドルフ空間 185

方m∩

j=1Wpj は K2 を含む開集合で

(m∪

j=1Vpj )∩(

m∩

j=1Wpj ) ⊂

m∪

j=1(Vpj ∩Wpj ) = ∅

より V =m∪

j=1Vpj , W =

m∩

j=1Wpj とすれば条件を満たす。

ここに図

命題 4.72 位相空間 X,Y について

(1) X がハウスドルフで X の部分集合 A がコンパクトならば A は閉集合である。

(2) X がハウスドルフで X の2つの部分集合 A, B がともにコンパクトならば A∩B もコンパクトである。

(3) X はコンパクトで Y はハウスドルフならば全単射連続写像 f : X → Y

は同相写像になる。

証明

(1) A の補集合 Ac の任意の点 p をとる。命題 4.71 の(1)より、p ∈ V ,

A ⊂ W , V ∩W = ∅ となる開集合 V,W が存在する。特に V ⊂ Ac より p は Ac の内点となるので Ac は X の開集合、つまりコンパクト集合A は閉集合になる。

(2) (1)より Bc は X の開集合より、A∩Bc は部分空間 A の開集合、つまり A∩B は A の閉集合になる。ここで命題 4.55の(2)より A∩B

は A のコンパクト集合になる。よって A∩B は X のコンパクト集合になる。

(3) 命題 4.41の(2)より f が閉写像をいえばよい。A を X の任意の閉集合とする。X はコンパクトより、命題 4.55の(2)から A はコンパクトである。f は連続なので命題 4.57の(1)より f(A) は Y のコンパクト集合になり、(1)より f(A) は Y の閉集合になる。

Page 190: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

186 4 位相空間

4.4.2 演習問題

例題 4.73 ハウスドルフ空間 X の収束列の極限は1点のみであることを示せ。

証明 X の相異なる2点 p, q がともに X の収束列 {an} の極限とする。X はハウスドルフより、 p, q それぞれの開近傍 Vp, Vq が存在して Vp ∩Vq = ∅ を満たす。一方 p, q はともに {an} の極限とより、ある n0 ∈ N が存在して、任意のn > n0 に対し、an ∈ Vp かつ an ∈ Vq となり、Vp ∩Vq = ∅ に矛盾する。よって収束列 {an} の極限はただ1点である。

例題 4.74 位相空間 (X,O) が正規空間であるとは、X の F1 ∩F2 = ∅ を満たす任意の2つの閉集合 F1, F2 に対し、O1, O2 ∈ O が存在して F1 ⊂ O1, F2 ⊂O2, O1 ∩O2 = ∅ を満たすこととする∗3。

(1) 距離空間は正規空間である。(2) ハウスドルフ空間であるが正規空間ではない位相空間の例を挙げよ。

証明

(1) 距離空間 (X, d) の点 x と部分集合 A の距離を

d(x,A) = inf{d(x, a) | a ∈ A}

と定義する。F1 ∩F2 = ∅ を満たす (X, d) の任意の2つの閉集合 F1, F2

に対し、X 上の関数 g を

g(x) =d(x,A)

d(x,A) + d(x,B)

と定義すると、F1 では恒等的に 0、F2 では恒等的に 1 となる X 上の

連続関数になる。よって O1 = g−1({r ∈ R | r <12} と O2 = g−1({r ∈

R | r >12} は F1 ⊂ O1, F2 ⊂ O2, O1 ∩O2 = ∅ を満たす X の開集合な

ので、距離空間 (X, d) は正規空間である。

(2) R のユークリッド距離位相 O と A = { 1n

| n ∈ N} に対し、O1 = {V −

∗3 正規ハウスドルフ空間が第2可算公理を満たすならば、距離空間と位相同型になることが知られている(ウリゾーンの距離化可能定理)。

Page 191: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

4.5 連結 187

A | V ∈ O} とする。このとき O∪O1 は R の位相になり、ユークリッド距離位相より強い位相なので (R,O∪O1) はハウスドルフ空間である。また {0} と A はこの位相に関して閉集合であるが、{0} の任意の開近傍は A と共通部分を持つので正規空間ではない。

例題 4.75 位相空間 (X,OX) からハウスドルフ空間 (Y,OY ) への連続写像 f :

X → Y のグラフ Γ (f) := {(x, f(x)) ∈ X × Y | x ∈ X} は、直積空間 X × Y

の閉集合になることを示せ。

証明 Γ (f) の直積空間 X × Y での補集合 Γ (f)c から任意の元 (p, q) をとると、f(p) ̸= q を満たす。仮定より Y はハウスドルフなので、f(p), q それぞれの Y における開近傍 V,W ∈ OY が存在して V ∩W = ∅ を満たす。f は連続より f−1(V ) ∈ OX かつ f(f−1(V ))∩W ⊂ V ∩W = ∅ より、f−1(V )×W

は直積空間 X × Y における (p, q) の開近傍で f−1(V ) × W ⊂ Γ (f)c となる。よって (p, q) は Γ (f)c の内点になるので Γ (f)c は X × Y の開集合になる。以上から Γ (f) は直積空間 X × Y の閉集合になる。

4.5 連結

4.5.1 連結

「連結」という言葉には「繋がっている」というイメージがある。さて次の定義はそのイメージに合うだろうか。

定義 4.76 (1) 位相空間 (X,OX) が連結であるとは、X の開集合かつ閉集合が空集合か X のみであることとする。

(2) X の部分集合 A が連結であるとは、部分位相空間 (A,OA) が(1)の意味で連結であることとする。

「連結でない」という言葉には「離れ小島の集まり」のようなイメージがある。実際次が成り立つ。ここに図

Page 192: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

188 4 位相空間

命題 4.77 位相空間 (X,OX) が連結でないための必要十分条件は、X の空集合でない2つの開集合 V と W が存在して、V ∩W = ∅ かつ V ∪W = X を満たすことである。

証明

• (必要条件)(X,OX) が連結でないならば、X の非自明な部分集合 A で開集合かつ閉集合が存在する。一方開集合と閉集合は互いに補集合の関係にあるので、Ac も開集合かつ閉集合である X の非自明な部分集合になる。よってV = A,W = Ac とすればよい。• (十分条件)仮定より V は X の非自明な部分集合で W = V c である。こ

こで W は開集合より V = W c は閉集合にもなる。つまり V は X の非自明な部分集合で開集合かつ閉集合となるので (X,OX) は連結ではない。

例 4.8 (1) 位相空間の1点からなる部分集合は連結である。(2) R の部分集合 A = (0, 1]∪[3, 5] は連結ではない。実際 V = {x ∈

R | x < 2},W = {x ∈ R | x > 2} とすると、A∩V ̸= ∅, A∩W ̸=∅, (A∩V )∩(A∩W ) = ∅, (A∩V )∪(A∩W ) = A となり、命題 4.77より A は連結でない。

(3) R の部分集合 A = Q は連結ではない。実際 V = {x ∈ R | x <√

2},W = {x ∈ R | x >√

2} とすると、A∩V ̸= ∅, A∩W ̸=∅, (A∩V )∩(A∩W ) = ∅, (A∩V )∪(A∩W ) = A となり、命題 4.77

より A は連結でない。

命題 4.78 R は連結である。

証明 背理法で示す。つまり R に開集合かつ閉集合である自明でない部分集合A が存在すると仮定して矛盾を導く。空集合でない A の元 a を1つ選び固定する。空集合でない A の補集合 Ac を次のような2つの集合に分割する。

Ra = {x ∈ Ac | x > a}, La = {x ∈ Ac | x < a}.

ここで Ra が空集合でないと仮定すると、a は Ra の下界より Ra は下に有界なので、定理 2.29より下限 が存在する。それを r = inf Ra とすると、[a, r) ⊂ A

Page 193: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

4.5 連結 189

となる。ここで A は閉集合なので r ∈ A となり、また A は開集合でもあるのである ε > 0 が存在して [a, r + ε) ⊂ A となり、r = inf Ra に矛盾する。よって Ra は空集合である。同様に La も空集合になり、Ac = La ∪Ra = ∅ となって矛盾する。以上のことから R は連結である。

連結性は連続写像の像に遺伝する。

命題 4.79 連続写像 f : X → Y による X の連結集合 A の像 f(A) は、Y の連結部分集合になる。

証明 対偶命題「f(A) が Y で連結でないならば、A は X で連結でない」を示す。仮定より Y の開集合 V,W が存在して、f(A)∩V ̸= ∅, f(A)∩W ̸=∅, (f(A)∩V )∩(f(A)∩W ) = ∅, (f(A)∩V )∪(f(A)∩W ) = f(A) を満たす。よって V,W の f の逆像 f−1(V ), f−1(W ) は A∩ f−1(V ) ̸= ∅, A∩ f−1(W ) ̸=∅, (A∩ f−1(V ))∩(A∩ f−1(W )) = ∅, (A∩ f−1(V ))∪(A∩ f−1(W )) = A を満たすので、A は X で連結でない。

よって特に連結性は位相不変な性質である。

系 4.80 連結位相空間と同相な位相空間も連結である。

例 4.9 R と開区間 (a, b) は同相だったので、命題 4.78 より (a, b) も連結になる。

次に連結性が閉包に遺伝することをみておこう。

命題 4.81 位相空間 (X,OX) の部分集合 A が連結とするとき、A ⊂ B ⊂ A

を満たす任意の部分集合 B も連結になる。特に連結集合 A の閉包 A も連結である。

証明 背理法で示す。B が連結でないと仮定すると、X の開集合 V,W が存在して、B ∩V ̸= ∅, B ∩W ̸= ∅, (B ∩V )∩(B ∩W ) = ∅, (B ∩V )∪(B ∩W ) = B を満たす。一方、AはBの部分集合より (A∩V )∩(A∩W ) = ∅, (A∩V )∪(A∩W ) =

Aだが、Aは連結より、A∩V = ∅または A∩W = ∅となる。ここで A∩V =

∅ ならば、A∩V = ∅ となり B ∩V ̸= ∅ より B ⊂ A に矛盾する。同様にA∩W = ∅ の場合も矛盾するので、B は連結である。

Page 194: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

190 4 位相空間

例 4.10 開区間 (a, b) は連結だったので、命題 4.81 より (a, b], [a, b), [a, b] すべて連結になる。

次が例題 2.34(中間値の定理)の位相空間への一般化である。

命題 4.82 (中間値の定理)連結な位相空間 (X,OX) 上の連続関数 f : X → R において、X の2点 p, q での値 α := f(p), β := f(q) が α < β を満たすとする、このとき α < γ < β を満たす任意の γ に対し、γ = f(r) を満たす X の点 r が存在する。

証明 背理法で示す。α < γ < β を満たすある γ に対し、γ = f(r) を満たす X の点 r が存在しないと仮定する。このとき V = f−1((−∞, γ)),W =

f−1((γ, +∞)) は X の空集合でない開集合で、V ∩W = ∅, V ∪W = X を満たすので命題 4.77よりX は連結でなくなり矛盾する。

4.5.2 連結成分

命題 4.83 位相空間 (X,OX) の点 p について

(1) X の部分集合族 {Aλ | λ ∈ Λ} の任意の元 Aλ が p を含む連結集合ならば、その和集合 ∪

λ∈ΛAλ も p を含む連結集合である。

(2) p を含む最大の連結集合 C(p) が存在する。(3) C(p) は閉集合である。

証明

(1) 背理法で示す。和集合 A = ∪λ∈Λ

Aλ が連結でないと仮定すると、A∩V ̸=

∅, A∩W ̸= ∅, (A∩V )∩(A∩W ) = ∅, (A∩V )∪(A∩W ) = A を満たす X の開集合 V,W が存在する。

一方 Aλ ⊂ A より (Aλ ∩V )∩(Aλ ∩W ) = ∅, (Aλ ∩V )∪(Aλ ∩W ) = Aλ だが、Aλ は連結より Aλ ∩V = ∅ または Aλ ∩W = ∅ となる。ここで任意の λ ∈ Λ に対し Aλ ∩V = ∅ と仮定すると A∩V ̸= ∅ に矛盾する。同様に任意の λ ∈ Λ に対し Aλ1 ∩W = ∅ と仮定しても矛盾する。

よってある λ0, λ1 ∈ Λ が存在して Aλ0 ∩V = ∅, Aλ1 ∩W = ∅ を満たすが、p ∈ Aλ0 ∩Aλ1 より p /∈ V ∪W となり (A∩V )∪(A∩W ) = A に矛盾す

Page 195: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

4.5 連結 191

る。以上より A は連結である。(2) p を含む連結集合の全体からなる X の部分集合族の和集合を C(p) とすればよい。

(3) C(p) は p を含む最大の連結集合なので、命題 4.81より C(p) = C(p) となる。よって C(p) は閉集合である。

定義 4.84 (連結成分)C(p) を p を含む X の連結成分という。

連結成分の全体からなる X の部分集合族 {C(p) | p ∈ X} は X の分割になっていることより

系 4.85 位相空間 (X,OX) の2項関係 R を、X の2点 p, q に対し pRq をC(p) = C(q) とすると、R は X の同値関係になる。特に C(p)∩C(q) ̸= ∅ ならば C(p) = C(q) である。

連結成分の応用として、連結性は直積で遺伝することを示そう。

命題 4.86 2つの位相空間 X と Y が連結ならば、直積空間 X × Y も連結になることを示せ。

証明 X × Y の任意の2点 p = (a1, a2), q = (b1, b2) に対し、それぞれの連結性分が一致することを示す。第3の点 s = (b1, a2) を用意する。このとき連続写像 f : X → X × Y を f(x) = (x, a2) による X の像 f(X) は命題 4.79より連結で p, s ∈ f(X) ⊂ C(p) となる。同様に連続写像 g : Y → X × Y を g(y) =

(b1, y) による Y の像 g(Y ) は命題 4.79より連結で q, s ∈ g(Y ) ⊂ C(q) となる。よって s ∈ C(p)∩C(q) より C(p) = C(q) となるので、X = C(p) = C(q) は連結である。

4.5.3 弧状連結

定義 4.87 (道、弧状連結)位相空間 (X,OX) において

(1) X の2点 p, q を結ぶ道とは、w(0) = p かつ w(1) = q を満たす連続写像

Page 196: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

192 4 位相空間

w : [0, 1] → X のこととする。p を始点、q を終点、w([0, 1]) を弧という。(2) X が弧状連結であるとは、X の任意の2点 p, q を結ぶ道が存在することとする。

(3) X の部分集合 A が弧状連結であるとは、部分位相空間 (A,OA) が(2)の意味で弧状連結であることとする。

例 4.11 (1) 位相空間の1点からなる部分集合は弧状連結である。w : [0, 1] →X として定値写像を考えればよい。

(2) R は弧状連結である。R 任意の2点 a < b に対し1次関数 w(x) = (b −a)(x− 1) + b を考えればよい。同様に R の任意の区間も弧状連結である。

(3) R の部分集合 A = (0, 1]∪[3, 5] は弧状連結でない。背理法で示す。A が弧状連結と仮定すると 1, 4 ∈ A を結ぶ道 w : [0, 1] → A が存在する。このとき例題 2.34(中間値の定理)より 2 = f(c) を満たす c ∈ [0, 1] が存在するはずだが、w([0, 1]) ⊂ A かつ 2 /∈ A より矛盾。

(4) R の部分集合 Q は弧状連結でない。背理法で示す。Q が弧状連結と仮定すると 0, 2 ∈ Q を結ぶ道 w : [0, 1] → Q が存在する。このとき例題 2.34

(中間値の定理)より√

2 = f(c) を満たす c ∈ [0, 1] が存在するはずだが、f([0, 1]) ⊂ Q かつ

√2 /∈ Q より矛盾。

弧状連結という性質は連続写像や直積を取る操作で遺伝する。

命題 4.88 連続写像 f : X → Y による X の弧状連結集合 A の像 f(A) は、Y の弧状連結部分集合になる。

証明 f(A) の任意の2点 a, b に対し a = f(p), b = f(q) を満たす A の2点p, q をとる。このとき A は弧状連結より、f(0) = p, f(1) = q となる閉区間[0, 1] 上の連続写像 w : [0, 1] → A が存在する。よって合成写像 g = f ◦ w は[0, 1] 上の連続写像で a = f(p) = g(0) かつ b = f(q) = g(1) を満たすので、f(A) も弧状連結である。

よって特に弧状連結性は位相不変な性質である。

系 4.89 弧状連結位相空間と同相な位相空間も弧状連結である。

Page 197: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

4.5 連結 193

命題 4.90 2つの位相空間 X と Y が弧状連結ならば、直積空間 X × Y も弧状連結になる。

証明 X × Y の任意の2点 (a1, a2), (b1, b2) をとる。X は弧状連結より、[0, 1]

から X への連続写像 f : [0, 1] → X が存在して、f(0) = a1, f(1) = b1 を満たす。同様に Y は弧状連結より、[0, 1] から Y への連続写像 g : [0, 1] → Y が存在して、g(0) = a2, g(1) = b2 を満たす。このとき写像 f × g : [0, 1] → X ×Y を (f × g)(x, y) = (f(x), g(y)) とすると、f × g は連続かつ (f × g)(0) =

(a1, a2), (f × g)(1) = (b1, b2) を満たすので、X × Y も弧状連結になる。

命題 4.91 弧状連結な位相空間 (X,OX) は連結である。

証明 X の1点 p0 を選んで固定する。X は弧状連結より p0 と X の任意の点p を結ぶ道 wp : [0, 1] → X が存在する。ここで連結集合 [0, 1] の連続像である弧wp([0, 1]) は p0 を含む連結集合より命題 4.83の(1)から X = ∪

p∈Xwp([0, 1])

も連結になる。

注意 連結だが弧状連結でない位相空間が存在する(演習問題を参照)。

4.5.4 演習問題

例題 4.92 (完全不連結)

位相空間 (X,OX) が完全不連結であるとは、X の任意の点 p を含む連結成分C(p) が {p} であることとする。位相空間 (X,OX) の部分集合 A が完全不連結であるとは、部分空間 (A,OA) が完全不連結であることとする。Q は R の完全不連結集合であることを示せ。

証明 背理法で示す。Q の相異なる2点 p < q が存在して A = C(p) = C(q)

と仮定する。p < r < q を満たす無理数 r ∈ R が存在するので、B = {x ∈Q | x < r}, C = {x ∈ Q | x > r} とすると、B,C は A の空集合でない開集合で B ∩C = ∅, B ∪C = A となり、A が連結であることに矛盾する。

例題 4.93 位相空間 (X,OX) の連結集合 A で A の内部 Ao は連結でない例を挙げよ。

Page 198: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

194 4 位相空間

証明 R2 の2つの閉集合 B = {(x, y) ∈ R2 | (x+1)2 + y2 5 1}, C = {(x, y) ∈R2 | (x − 1)2 + y2 5 1} に対し、A = B ∪C とする。ここに図

例題 4.94 (1) R − {0} は弧状連結ではないことを示せ。(2) R2 − {0} は弧状連結であることを示せ。(3) これら (1), (2) を用いて R と R2 は同相でないことを示せ。

証明

(1) 背理法で示す。R−{0} が弧状連結と仮定すると −1, 1 ∈ R−{0} を結ぶ道 w : [0, 1] → R − {0} が存在する。このとき例題 2.34(中間値の定理)より 0 = f(c) を満たす c ∈ [0, 1] が存在するはずだが、w([0, 1]) ⊂ R −{0} かつ 0 /∈ R − {0} より矛盾。

(2) R2−{0}の任意の 2点を p = (r1 cos θ1, r1 sin θ1), q = (r2 cos θ2, r2 sin θ2)

と表すと、f(t) = ((r1+(r2−r1)t) cos(θ1+(θ2−θ1)t), (r1+(r2−r1)t)(θ1+

(θ2 − θ1)t)) は f(0) = p, f(1) = q となる閉区間 [0, 1] 上の連続写像 f :

[0, 1] → R2 − {0} になる。よって R2 − {0} は弧状連結である。(3) 同相写像 f : R2 → R が存在すると仮定すると、f を R2 − {0} に制限した写像 g : R2 − {0} → R − {f(0)} も同相写像になる。一方(2)よりR2 − {0} は弧状連結だが、(1)と同様の議論で R − {f(0)} は弧状連結ではない。しかし命題 4.88より弧状連結の連続像も弧状連結より矛盾。

例題 4.95 (1) Rn の U(p; ε) は弧状連結であることを示せ。(2) Rn の空集合でない連結な開集合 D は弧状連結であることを示せ。

証明

(1) p と U(p; ε) の任意の元 q を結ぶ道 w : [0, 1] → U(p; ε) として w(t) =

(q − p)(t − 1) + q とすればよい。(2) D の元 p0 を選び固定する。 p0 と D 内の道 w : [0, 1] → Dで結べる D

の元 p の全体を V とすると、p0 ∈ D より V は空集合でない。また任

Page 199: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

4.6 開基、基本近傍系 195

意の p ∈ V に対し、(1)より任意の ε > 0 に対し U(p; ε) ⊂ V よりV は D の開集合でもある。一方 p0 と D 内の道で結べない D の元 p

の全体を W とすると、同様に任意の q ∈ W に対し、(1)より任意のε > 0 に対し U(q; ε) ⊂ W より W も D の開集合でもある。定義よりV ∩W = ∅, V ∪W = D かつ D は連結より、 W = ∅ つまり V = D

となるので、D は弧状連結である。

例題 4.96 連結だが弧状連結でない例を挙げよ。

証明 ユークリッド平面 R2 の部分集合 A = A0 ∪( ∪n∈N

An)∪B を

A0 = {(0, y) ∈ R2 | 0 < y 5 1},

An = { 1n

, y) ∈ R2 | 0 < y 5 1},

B = {(x, 0) ∈ R2 | 0 < x 5 1}

と定義すると、( ∪n∈N

An)∪B は弧状連結より連結で

( ∪n∈N

An)∪B ⊂ A ⊂ ( ∪n∈N

An)∪B

なので命題 4.81より A も連結である。しかし A0 の点と ( ∪n∈N

An)∪B の点を

結ぶ A 内の道は存在しないので、A は弧状連結でない。

ここに図

例題 4.97 弧状連結の閉包が弧状連結でない例を挙げよ。

証明 例題 4.96において、A における ( ∪n∈N

An)∪B の閉包 は A である。

4.6 開基、基本近傍系

最後の節では、次のような位相の基本的な問題を2つ取り上げてみよう。

• 集合 X の与えられた部分集合族 S を開集合とするような、X の最も弱い位相を構成せよ。• 距離空間では点列の収束を用いて閉集合や写像の連続性が特徴付けられた

Page 200: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

196 4 位相空間

が、どのような位相空間ならば同様に点列の収束で閉集合や写像の連続性を特徴付けができるか。

4.6.1 開基

定義 4.98 位相空間 (X,O) において、O の部分族 B ⊂ O が O の開基であるとは、O の任意の元 V に対し、B の部分族 {Wλ | λ ∈ Λ} が存在して V =

∪λ∈Λ

Wλ となることとする。

つまり任意の開集合は開基の元が集まってできている。

例 4.12 (1) 集合 X の離散位相 O に対し、1点集合の全体 B = {{p} | p ∈X} は O の開基である。

(2) 距離空間 (X, d) に対し、各点の ε-近傍の全体 B = {U(p; ε) | p ∈ X, ε >

0} は X の距離位相 Od の開基である。(3) 2つの位相空間 (X,OX) と (Y,OY ) の直積位相空間 (X ×Y,O) に対し、

B = {V × W} | V ∈ OX , W ∈ OY } は直積位相 O の開基である。

次の結果が開基の別の言い換えである。

命題 4.99 位相空間 (X,O) において、O の部分族 B ⊂ O が O の開基であるための必要十分条件は、O の任意の元 V と V の任意の点 p に対し、B のある元 W が存在して、p ∈ W ⊂ V を満たすことである。

証明 まず必要条件であることを示す。B が O の開基とすると、O の任意の元V に対し、B の部分族 {Wλ | λ ∈ Λ} が存在して V = ∪

λ∈ΛWλ となる。よって

V の任意の点 p に対し、ある元 λ ∈ Λ が存在して、p ∈ Wλ ⊂ V を満たす。次に十分条件であることを示す。O の任意の元 V と V の任意の点 p に対し、Bのある元 Wp が存在して、p ∈ Wp ⊂ V を満たすと仮定する。このとき B の部分族 {Wp | p ∈ V } が存在して V = ∪

p∈VWp となる。よって B は O の開基で

ある。

開基は位相の構成元素のようなものなので、開集合に関する命題は開基でのみ確かめればよいことがある。

Page 201: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

4.6 開基、基本近傍系 197

命題 4.100 (X,OX) から (Y,OY ) への写像 f : X → Y が連続であるための必要十分条件は、Y の位相 OY の開基 B の任意の元 W に対し、f−1(W ) がX の開集合になることである。

証明 必要条件であることは定理 4.39より明らかである。以下十分条件であることを示す。つまり Y の位相 OY の開基 B の任意の元 W に対し、f−1(W )

が X の開集合になると仮定する。このとき Y の任意の開集合 V に対し、Bの部分族 {Wλ | λ ∈ Λ} が存在して V = ∪

λ∈ΛWλ と表せる。よって f−1(V ) =

f−1( ∪λ∈Λ

Wλ) = ∪λ∈Λ

f−1(Wλ) となり、仮定より f−1(Wλ) ∈ OX かつ OX の

位相の公理 (03) から f−1(V ) ∈ OX となり、定理 4.39より f は連続である。

次の定理は冒頭の最初の問題の答えを与えてくれる。

定理 4.101 (1) 空でない集合 X の部分集合族 B が次の2つの条件を満たすとする。(i) 任意の x ∈ X に対し B の元 U が存在して x ∈ U を満たす。(ii) B の任意の元 U, V と任意の x ∈ U ∩V に対し、B の元 W が存在して x ∈ W ⊂ U ∩V を満たす。

このとき

O(B) = { ∪λ∈Λ

Vλ | Vλ ∈ B}∪{∅}

は B を開基 とする X の位相である。(2) O(B) は B を含む X の位相のうち最弱の位相である。(3) X の部分集合族 S に対し

B = {V1 ∩V2 ∩ · · · ∩Vn | Vi ∈ S, n ∈ N}∪{X, ∅}

とすると(1)の条件を満たす。よって(1)、(2)より O(B) は、S の任意の元を開集合とする X の位相のうち最弱の位相である。

証明

(1) O(B) が位相の公理を満たすことを確かめる。条件 (i) より X ∈ O(B)

Page 202: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

198 4 位相空間

かつ定義より ∅ ∈ O(B) より (O1) を満たす。次に V,W ∈ O(B) に対し、B の元 Vλ,Wµ が存在して、V = ∪

λ∈ΛVλ,W = ∪

µ∈MWµ と表せる。

ここで V ∩W = ∪(λ,µ)∈Λ×M

Vλ ∩Wµ かつ、条件 (ii) より B の元 Ux が

存在して、Vλ ∩Wµ = ∪x∈Vλ ∩Wµ

Ux と表せる。よって V ∩W ∈ O(B) よ

り (O2’) を満たす。最後に O(B) の定義より (O3) を満たすので O(B)

は X の位相になる。また O(B) の定義より、B は O(B) の開基である。(2) U を B を含む X の任意の位相とすると、B の元 Vλ に対し ∪

λ∈ΛVλ ∈ U

となるので、O(B) ⊂ U である。(3) W を S を含む X の任意の位相とすると、B ⊂ W である。また B は(1)の2つの条件 (i), (ii) を満たすので、(2)から O(B) ⊂ W である。

一般に位相や位相空間自身は巨大な集合かもしれないが、実は高々可算な部分集合から構成されている場合がある。

定義 4.102 (1) 位相空間 (X,O) が第2可算公理を満たすとは、O の高々可算な開基が存在することとする。

(2) 位相空間 (X,O) が可分であるとは、高々可算な部分集合 A が存在して、X = A を満たすことである。

例 4.13 (1) ユークリッド空間 Rn のユークリッド距離から定まる位相 Od は第2可算公理を満たす。具体的には次の集合族

BQ := {N(x, ε) | x ∈ Qn, ε > 0, ε ∈ Q}

は、Od の可算な開基である。(2) Rn は可分である。実際 Rn = Qn である。

命題 4.103 位相空間 (X,O) が第2可算公理を満たすならば可分である。

証明 X は第2可算公理を満たすので、高々可算な開基 B を持つ。よって Bの各元 W から1点ずつ選んで集めた集合 A も高々可算である。X の任意の点 p の任意の開近傍 V に対し、命題 4.99 より B のある元 W が存在して p ∈

Page 203: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

4.6 開基、基本近傍系 199

W ⊂ V を満たす。よって V ∩A ̸= ∅ となるので X = A を満たし、X は可分である。

命題 4.104 距離空間 (X, d) において

(1) 全有界ならば可分である。(2) 可分ならば第2可算公理を満たす。

証明

(1) X が全有界ならば、任意の n ∈ N に対し X の有限個の点集合 An が存

在して {U(ak;1n

) | ak ∈ An} は X の有限開被覆となる。このとき A =

∪n∈N

An とすると A は高々可算で X = A より X は可分である。

(2) X が可分ならば高々可算で X = A を満たす X の部分集合 A が存在する。このとき B = {U(ak, r) | ak ∈ A, r ∈ Q} は距離位相 Od の高々可算な開基になる。

命題 4.105 第2可算公理を満たす位相空間では、任意の開被覆は可算部分被覆を持つ。

証明 位相空間 (X,O) は可算開基 B を持つとする。X の任意の開被覆 C に対し、B′ = {B ∈ B | ∃C ∈ C;B ⊂ C} とすると、B は可算より B′ も可算である。そこで任意の B ∈ B′ に対し B ⊂ C を満たす C の元 C を1つ選び CB と表す。そして C′ = {CB ∈ C | B ∈ B} とすると定義より C′ も可算である。またX の任意の点 p に対し、X の開被覆 C の元 C が存在して p ∈ C となるが、Bは開基より p ∈ B ⊂ C となる B ∈ B が存在する。よって C′ の元 CB が存在して p ∈ B ⊂ CB となることから C′ も X の開被覆になることが分かる。以上から C は可算部分被覆 C′ を持つ。

4.6.2 基本近傍系

次に開基の概念を各点の周りで考えよう。

Page 204: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

200 4 位相空間

定義 4.106 位相空間 (X,OX) と X の点 p について

(1) p の開近傍全体の成す X の部分集合族を p の開近傍系といい、Np と表す。

(2) Np の部分族 Bp ⊂ Np が Np の基本近傍系であるとは、Np の任意の元V に対し、ある W ∈ Bp が存在して W ⊂ V を満たすこととする。

例 4.14 距離空間 (X, d) の点 p における ε-近傍の全体 Bp = {U(p; ε) | ε >

0} は X の距離位相 Od における p での基本近傍系である。

開基の場合と同様に基本近傍系は近傍系の構成元素のようなものなので、近傍系に関する命題は基本近傍系でのみ確かめればよいことがある。

命題 4.107 位相空間 (X,OX) から (Y,OY ) への写像 f : X → Y が p ∈ X

で連続であるための必要十分条件は、f(p) の基本近傍系の任意の元 V に対し、p の開近傍 W ∈ OX が存在して f(W ) ⊂ V を満たすことである。

証明 必要条件であることは定義から明らかである。以下十分条件であることを示す。つまり f(p) の基本近傍系の任意の元 V に対し、p の開近傍 W ∈ OX

が存在して f(W ) ⊂ V を満たすと仮定する。このとき f(p) の任意の開近傍 U

に対し、f(p) の基本近傍系のある元 V が存在して V ⊂ U を満たす。よって仮定より f(W ) ⊂ V ⊂ U となり、f は p ∈ X で連続である。

定義 4.108 位相空間 (X,OX) が第1可算公理を満たすとは、X の任意の点が高々可算個の元からなる基本近傍系を持つこととする。

例 4.15 距離空間 (X, d) は第1可算公理を満たす。実際、各点 p における 1n

-

近傍の全体 {U(p;1n

) | n ∈ N} は X の距離位相 Od における p での高々可算

個の元からなる基本近傍系である。

命題 4.109 位相空間 (X,O) が第2可算公理を満たすならば第1可算公理を満たす。

証明 X は第2可算公理を満たすので、高々可算な開基 B を持つ。そこで X

の任意の点 p において Bp = {W ∈ B | p ∈ W} とすれば高々可算個の元からなる p の基本近傍系になる。よって X は第1可算公理を満たす。

Page 205: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

4.6 開基、基本近傍系 201

最後にこの節の冒頭で挙げた2番目の問題に答えて終わろう。

定理 4.110 第1可算公理を満たす位相空間 (X,O) において

(1) X の部分集合 A が閉集合であるための必要十分条件は、A の元からなるX の任意の収束列 {an} の極限 a が A に含まれることである。

(2) 写像 f : X → Y が X の点 p で連続であるための必要十分条件は、p に収束する任意の点列 {xn} に対し、Y の点列 {f(xn)} が f(p) に収束することである。

証明

(1) X の部分集合 A が閉集合と仮定する。A の元からなる X の任意の収束列 {an} の極限 a は A の触点より、定理 4.18から a ∈ A = A である。逆に A の元からなる X の任意の収束列 {an} の極限 a が A に含まれると仮定する。X は第1可算公理を満たすので、A の任意の点 p に対し、高々可算個の元からなる p の基本近傍系 Bp が存在する。p は A の触点より、V1, V2, · · · , Vn ∈ Bp に対し A の点 pn ∈ V1 ∩V2 ∩ · · · ∩Vn が存在する。このとき A の元から点列 {pn} は p に収束するので仮定より p ∈A、つまり A = A となるので、定理 4.18から A は閉集合である。

(2) f が p で連続と仮定すると f(p) の任意の開近傍 V に対し、p のある開近傍 W が存在して f(W ) ⊂ V を満たす。p に収束する任意の点列 {xn}に対し、ある n0 ∈ N が存在して、任意の n > n0 に対し xn ∈ W を満たす。よって f(xn) ∈ f(W ) ⊂ V となり、Y の点列 {f(xn)} は f(p) に収束する。次に f が p で連続でないとすると、f(p) のある開近傍 V

に対し、p のとんな開近傍 W も f(W ) ⊂ V を満たさない。ここで X

は第1可算公理を満たすので、高々可算個の元からなる p の基本近傍系 Bp が存在するが、V1, V2, · · · , Vn ∈ Bp に対し f(pn) /∈ V を満たすpn ∈ V1 ∩V2 ∩ · · · ∩Vn が存在する。このとき点列 {pn} は p に収束するが {f(xn)} は f(p) に収束しない。

Page 206: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

参考文献

[1] 内田 伏一『集合と位相』裳華房, 1986.

[2] 太田 春外『はじめての集合と位相』日本評論社, 2012.

[3] 鎌田 正良『集合と位相』近代科学社, 1989.

[4] 田島 一郎『解析入門』岩波書店, 1981.

[5] Griffiths, H.B., Hilton, P.J. A Comprehensive Textbook of Classical

Mathematics, Springer 1970.

[6] 雪江 明彦『整数論1初等整数論から p進数へ』日本評論社, 2013.

Page 207: 集合と位相 - Waseda Universitybook 集合と位相 謝辞:沢田先生 非自明な部分集合 定義、命題の(小見出し) 「わかる」と「分かる」——

book

索引 203

索 引

か行級数の収束・発散 3

さ行実数の連続性の公理 1

数列の収束・発散 3


Recommended