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Kobe University Repository : Kernel · ノーと答えた1名 も,話 を聞いているう...

Date post: 18-Jun-2020
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Kobe University Repository : Kernel タイトル Title 総合商社 : 日本人が日本語で経営(Sogo Shosha : Managed by Jananese and in Japanese) 著者 Author(s) 吉原, 英樹 / 星野, 裕志 掲載誌・巻号・ページ Citation 国民経済雑誌,187(3):19-34 刊行日 Issue date 2003-03 資源タイプ Resource Type Departmental Bulletin Paper / 紀要論文 版区分 Resource Version publisher 権利 Rights DOI JaLCDOI 10.24546/00055839 URL http://www.lib.kobe-u.ac.jp/handle_kernel/00055839 PDF issue: 2020-06-26
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Kobe University Repository : Kernel

タイトルTit le

総合商社 : 日本人が日本語で経営(Sogo Shosha : Managed byJananese and in Japanese)

著者Author(s) 吉原, 英樹 / 星野, 裕志

掲載誌・巻号・ページCitat ion 国民経済雑誌,187(3):19-34

刊行日Issue date 2003-03

資源タイプResource Type Departmental Bullet in Paper / 紀要論文

版区分Resource Version publisher

権利Rights

DOI

JaLCDOI 10.24546/00055839

URL http://www.lib.kobe-u.ac.jp/handle_kernel/00055839

PDF issue: 2020-06-26

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総合商社一 日本人が 日本語で経営

本稿 の 第1の 目的 は,総 合商 社 の主要 な業 務 であ る トレー ド 御 売 り業 務)が,

日本人 に よって,日 本 語 で行 われ て いる こ とを明 らかにす る こ とで あ る。 これ は,

総合 商社 の 日本的 国際経 営 マ ネ ジメ ン トの事 実発見 で あ る。 第2の 目的は,総 合 商

社 の 日本的 国際経営 マ ネ ジメ ン トの 理 由 を明 らか にす る こ とで ある。理 由 と して,

日本 企業 との取 引,日 本 本社 中心 の経 営,日 本 本社 の非 国際性,日 本的 マ ネ ジメ ン

ト,日 本 人の特 性,わ か りに くい業務 の6つ を あげ るこ とが で きる。 この うち 日本

企 業 との取引 が いち ばん重要 な 理由 で あ る。総 合商社 の 国際経 営が 日本 人 と日本 語

の 国際経営 で あ るの は,取 引相 手 の企 業 の大半 が 日本 企業 で あ るため であ る。取 引

企 業 の うちで は売 り先企 業(顧 客)が と くに重 要で あ るが,顧 客の約3分 の2は 日

本 企業 で あ る。顧 客 の 日本企業 に売 り込 む うえでは,日 本 人 と日本語 が適 合的 で あ

る。

キー ワー ド 総 合商 社,日 本 的国 際経 営 マネ ジメ ン ト,顧 客適 合論,英 語

1.総 合商社の 日本的国際経営マネジメン ト

日本的国際経営マネジメン ト

日本の多国籍企業のひとつの特徴 として,そ のグローバルな経営活動が 日本的国際経営マ

ネジメン トによって経営 されていることを指摘できる。(吉 原,2001,305頁)

グローバルな経営活動 とは,多 くの海外拠点をもってグローバルに遂行 される経営活動を

意味 している。製造企業の場合,多 くの国に海外子会社 をもって,販 売や生産,さ らに研究

開発などの経営活動を世界的に行 っている。総合商社は,多 数の海外店 をもって,貿 易業務

などの経営活動 をグローバルに遂行 している。日本の多国籍企業の特徴は,グ ローバルな経

営活動を日本的国際経営マネジメン トによって経営するところにもとめることがで きる。 こ

こでいう日本的国際経営マネジメントとは,日 本人が 日本語を使ってグローバルな経営活動

を経営することを意味 している。

まず,日 本人が経営するという特徴。全海外子会社の うち80パ ーセン ト近い海外子会社で

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は日本人が社長など最高経営責任者である。営業,生 産,経 理,人 事など部門をみて も,半

数近 くの海外子会社では日本人が部門の最高責任者である。(吉原,2001,197-209頁 〉欧米

の多国籍企業では,海 外子会社の社長など経営幹部の現地化 は,日 本の多国籍企業 よりすす

んでいる。

つぎは,日 本語 を使 って経営することである。国際経営において日本語が重要な役割 をは

たしている。(吉 原 ・岡部 ・澤木,2001)ま ず,日 本親会社から海外子会社に発信 される情報

には日本語の ものが多い。つ ぎに,日 本親会社 と海外子会社のあいだのコミュニケーション

の うち,経 営判断を要求 される重要 な案件についての ものは,ほ とんど日本語でなされる。

さらに,海 外子会社の内部で も,重 要なことを相談 した り決定するときに,日 本人だけの会

議(日 本語が使われる)が 開かれ ることはめずらしくない。

他方,ア メ リカ,イ ギリスな ど英語が母国語である企業では,国 際経営は基本的に英語に

よって行われている。また,オ ランダ,ド イツ,フ ランスな ど非英語圏の欧州企業,さ らに,

香港,台 湾などアジアの企業で も,国 際経営における中心的な言語は英語である。

さて,グ ローバルな経営活動 を日本的国際経営マネジメン トによって経営するというこの

特徴は,総 合商社にもみ られる。というよりは,こ の特徴がいちばん顕著にみられるのが,

じつは総合商社である。

総合商社 は多 くの海外店をもっている。その海外店のほぼすべての最高経営責任者は,日

本人である。ニューヨーク,ロ ンドン,デ ュッセル ドルフ,香 港など重要 な海外店で社長あ

るいは支店長が日本人でないところは,伊藤忠商事の米国子会社 と英国子会社だけである(く

わ しくはあとでみる)。そ して,日 本人が営業 と管理の業務で中心的な役割をはた している。

つぎに,総 合商社の国際経営において日本語が中心の役割をはた している(こ れ も詳細は

のちほどのべ る)。

ここで,総 合商社の経営活動とくに貿易業務は日本人が日本語で経営 していることを示す

ひとつの材料 として,わ れわれのインタビューにおける質疑応答をあげることにしょう。

われわれはこれ までに32名 の総合商社マ ン(役 員 と社員,現 役 と元)に インタビュー した。

インタビューは,つ ぎの質問からスター トした。「わた くしたちは,総 合商社の経営活動 とく

に貿易業務は,日 本人が日本語で経営 していると考えています。この考え方は,基 本的に正

しいですか,そ れ とも正 しくないですか」われわれがインタビュー一した相手のうち1名 をの

ぞいて全員が即座 に 「そのとお りです」と答えた。ノー と答えた1名 も,話 を聞いているう

ちに,イ エスの答 えであることが判明した。この ように,総 合商社の経営活動とくに貿易業

務は日本人が 日本語で経営 していると,総 合商社の当事者がそろって認めたのである。

われわれは,何 人かか らは,「 そういう考え方は正 しくあ りません」「それは,事 実に反 し

ています」「それは,総 合商社の実態を正確にとらえたものとはいえません」などの反論があ

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るもの と予想 していた。その予想は,わ れわれが拍子抜けするほど見事 にはずれて しまった。

総合商社は,さ きにみたように,製 造企業 をはじめ他社に先がけて国際経営を大規模 に遂

行 してきた。総合商社は,日 本企業のなかにあって,国 際経営のパイオニアであった。戦前

には,総 合商社は日本企業の国際経営のほぼ唯一の窓 口であった。製造企業 は総合商社 を通

じて製品を輸 出し,ま た原材料 を輸入 し,さ らに外国企業の先進技術を導入 した。戦後 も1960

年代 から70年 ごろまでは,総 合商社は製造企業の国際経営の水先案内人だった。 その総合商

社に,日 本人が日本語で経営するという日本的国際経営マネジメントの特徴が顕著 にみ られ

る。 なぜだろうか。

国際経営の歴史が長い総合商社であれば,海 外店の経営幹部の現地化 はすすんでいるので

はないか。総合商社には英語の よくで きる学生が多 く就職 し,商 社マ ンの多 くは海外勤務 を

経験 している。商社マンは,日 本企業の社員のなかではいちばん英語ができると思われる。

したがって,英 語 を使って国際経営 を行っているのではないか。われわれは,研 究をはじめ

るまでは,こ の ように考えていた。 ところが,総 合商社 をすこし調査 してみると,総 合商社

はそのグローバルな貿易業務を日本的国際経営マネジメントによって経営 していることが明

らかになって きた。さらに,グ ローバルな経営活動 を日本人が日本語で経営するという特徴

は,製 造企業 よりも総合商社のほうにいっそう強 くみ られることもわかってきた。これは,

どういう理由のためか。

以上の ような問題意識か ら,わ れわれは総合商社 を研究する。われわれの研究 目的は,ま

ず,総 合商社の国際経営マネジメン トが日本的国際経営マネジメントであるという事実を明

らかにすることである。事実発見である。つぎに,総 合商社 にはなぜ 日本的国際経営マネジ

メン トがみ られるかの理由を明 ちかにしたい。これは,発 見事実の説明である。

総合商社の 日本的国際経営マネジメン トを研究す ると,日 本の多国籍企業に一般的にみ ら

れる日本的国際経営マネジメン トの理由を明らかにできるか もしれない。 これは,日 本の多

国籍企業のルーツをさぐることにむすびつ くか もしれない。 これが,こ の研究に託 している

われわれの願いである。

ここで,わ れわれが本稿でとりあげるのは,総 合商社の経営活動の うち トレー ドであるこ

とを明らかにしておきたい。 トレー ドとは,総 合商社の本業である商事活動ない し卸商業務

であり,国 内取引,輸 出,輸 入,三 国間取引から成る。最近になって重要性を増 している総

合商社の事業会社経営ない し投資事業は,別 にとりあげる予定である。

インタビュー調査

われわれは主要な研究方法 として,イ ンタビューの方法を採用 している。総合商社 をテー

マに多 くの学術的な書物や論文が書かれてきた。 また,新 聞や雑誌でも,総 合商社はよくと

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りあげられる。 しか し,わ れわれが研究するテーマ,す なわち,日 本人が日本語で経営する

という総合商社の日本的国際経営マネジメントは,こ れまでの総合商社 をあつかった文献に

は,ほ とん ど取 り扱われていない。そのため,わ れわれは既存の文献に多 くを期待するわけ

にいかない。これまでにインタビュー した総合商社のひ とは32人 である。企業でいうと,三

菱商事,三 井物産,伊 藤忠商事,住 友商事,兼 松の5社 である。32人 は,現 役のひと22人,

退職 しているひと10人である。なお,日 本人30人,外 国人2人 である。

2.日 本人が日本語で経営

日本人が経営

総合商社 は多 くの海外店(現 地法人 と支店の両方がある)を もっている。いちばん多いの 

は三 井 物 産 で,181で あ り,い ち ば ん 少 な い 兼松 で も69あ る。(1999年3月 期)総 合 商 社9社

 

で1248,1社 平均では139で ある。その海外店のほぼすべての最高経営責任者(海 外支店の支

店長および現地法人の会長あるいは社長)は 日本人である。われわれが確認できた非 日本人

の最高経営責任者は一名だけである。伊藤忠商事のアメ リカ子会社,伊 藤忠インターナショ3

ナル,お よび英国子会社,伊 藤忠欧州の最高経営責任者 を兼務 しているJ.W.チ ャイである。

ただ し,小 さな国,あ るいは地方都市にある海外店には非日本人の最高経営責任者がすこし

はいるかもしれなし㌔

日本人による経営 という特徴 は,ま た,海 外店の全従業員に占める高い日本人比率にもみ

ることができる。総合商社9社 の平均では,海 外店1,248の 全従業員24,929人 の うち日本人は

4,625人 であり,日 本人比率は19%で ある。ちなみに,総 合商社 をのぞ く企業では,日 本人比

率は2.5%で ある。総合商社の 日本人比率は1桁 ほど高い。(吉 原,2001,205頁)

総合商社のほとんどの海外店では,日 本人が主役であ り,現 地人は脇役である。現地人ス

タッフは,主 に人事,経 理,秘 書業務など管理部門の専門職か,営 業の部門では日本人社員

のアシスタン トである。現地法人や支店のマネジャー会議は,日 本人だけで構成 されている

か,ア ドミニス トレーション担当の現地人が1,2名 加わる程度である。現地人社員が幹部

に登用されるケースは,ふ えてきているものの,日 本人社員 を肩代わ りするレベルに達 して

いることはまれである。

われわれのインタビュー ・ノー トから,日 本人による経営についての発言をみることに し

たい。

「ニ ューヨーク支店(1969-75年)と ロン ドン支店(1981-86年)の マネジャー会議は,

全員が日本人で,日 本語で行われていました。」

「毎週1回 のゼネラル ・マネジャー ・ミーティングは,20人 ほどの 日本人とアメ リカ人1

名(総 務担当の副社長)が 出席 して,日 本語で行われていました。」(ニューヨーク支店,1975一

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80年 頃)

このふたつの発言が対象にしている状況は,か なり以前のことである。 しか し,最 近もほ

ぼ同 じ状況がつづいている。つぎにみるとお りである。

ある総合商社の状況 を,会 社提供の資料 にもとつ いてみることに しよう。

同社の米国現地法人の社長は日本人である。傘下にサマーセット,シ カゴ,サ ンフランシ

スコ,サ ニベール,ヒ ュース トン,ポ ー トラン ド,ロ スアンゼルスの7つ の支店があり,支

店長は全員が 日本人である(1990年4月1日 現在)。約10年 が経過 した2000年1月1日 現在 も,

状況に変化はない。すなわち,米 国現地法人の社長は日本人であり,6つ の支店(サ ンフラ

ンシスコ支店はな くなる)の 支店長も全員が日本人である。

同社の香港現地法人も日本人によって経営 されている。社長は日本人である。機械,エ レ

ク トロニクス,金 属,繊 維の責任者はすべて日本人である。 さらに,中 国の広州 とti2Vliの2

つの支店の支店長 も日本人である(1995年6月30日 現在)。約5年 後 も,同 じ状況がつづいて

いる。すなわち,社 長は日本人であるし,商 品本部の責任者,管 理部門の責任者,中 国にあ

る2つ の支店の支店長はすべて日本人である(2000年7月12日 現在)。

総合商社は,近 年,優 秀な人材 をひろ くグローバルに確保することをめざして,外 国の大

学を卒業 した日本人や外国人社員の日本本社採用に着手 している。三菱商事の国際人材開発

室の設置(1995年 〉や 「インターナショナル・スタッフ制度」(1997年 に導入〉 もその一例で

ある。勤務成績が優秀で入社2年 目以降の外国人スタッフに,グ ローバル・リーダーシップ・

プログラム参加の資格があたえられ る。現在 までに18名 が修 了している。米国三菱商事のア

メ リカ人の肥料部長は,日 本本社の3年 の経験 を経て,現 職 についている。

各社で同様の取 り組みがはじまっているが,大 きな成果は聞かれない。

日本語で経営

さきにみたが,わ れわれがインタビュー した30名近い総合商社マンの全員が 「日本語によ

る国際経営」 に同意 した6か れらは全員,総 合商社の国際経営が 日本語で経営 されているこ

とを認めているのである。

三井物産 のアメ リカ現地法人,米 国三井物産 では,毎 週一回ゼネラル ・マネージャー会議

が開かれている。1970年 当時,同 社の経営幹部や各営業部門を代表する20名 の 日本人と管理

担 当の副社長であるひ とりのアメリカ人が出席する会議は,日 本語で開催 されていた。その

後,こ の会議の公用語は英語に切 り替え られた。米国法人である同社の英語による会議は,

三井物産全体の英語公用語化に向けた新 しい試みとして期待されたが,再 び日本語にもどさ

れた。英語による会議 は形骸化 し,有 益な情報が参加者のあいだで交換されな くなったのが

その理由である。会議は日本語で行われ,会 議の議事録を英語で要約 して,米 国人関係者に

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配布す るようになった。(『日経ビジネス』1994年1月31日 号)

日本語による経営にかん しては,イ ンタビューでつぎのような発言があった。

「わた くしたち日本人は支店(ニ ューヨーク支店)内 ではなるべ く英語を使わないように

していました。英語では意思の疎通ができないか らです」

「商社のひとは英語ができると思われているか もしれ ませんが,こ れは誤解です」

「社内の共通語を英語にしよう。何回もあ りました。すべて失敗 しました」

「東京本社に英語の レポー トを送ったら,日 本語で送れと,し か られました」

「英語を使 う日本人は,自 己主張が強い,は っきりモノをいう,単 純化 しすぎる,鼻 持ち

ならない,な どといわれていました」

3.な ぜ 日本 人 と 日本 語 か

日本企業との取引

総合商社の取引は,国 内取引,輸 出,輸 入,三 国間取引の4つ に分 けることがで きる。総

合商社9社 の平均でみ ると,国 内取引45%,輸 入18%,輸 出17%,三 国間取引20%で ある(1999

年3月 期)。企業別に見 ると,国 内取引が50パ ーセントを越 える伊藤忠商事や住友商事から4

割以下にとどまる三井物産,ト ーメン,ニ チメン,兼 松 まで,そ の比重は企業 によって差が

ある。 しかし,国 内取引が取引で最大の比率を占めている点では総合商社9社 は共通 してい

る。国内取引の取引相手は,売 り先 と購入先の両方が 日本企業である。 また輸出と輸入では,

取引相手の どちらか一方は日本企業である。 このことから,総 合商社の売上の8割 を占める

国内取引,輸 入,輸 出では,少 な くとも一方の取引相手は日本企業であることがわかる。

三国間取引は,総 合商社の限界が叫ばれて以来,各 社が積極的に開拓 を進めてきた分野で

ある。三国間取引の比率を取引全体の30パ ーセン ト前後 までに成長させた企業 もある(1995

年3月 期の三井物産は31.1パ ーセン ト)。

ところで,こ の三国間取引には,日 本企業の海外子会社 との取引がふ くまれている。日本

企業の海外子会社の製品を日本以外の第三国に輸出するときに,あ るいは,外 国企業の製品

(原材料など)を 日本企業の海外子会社 に販売(海 外子会社からすると部品 ・材料の海外調

達)す るときに,総 合商社が仲介す ることがある。 この点を考えると,総 合商社の トレー ド

のほとんど(お そ らく9割 前後)は 日本企業 との取引である。

総合商社の取引相手の大部分が 日本企業であることは,総 合商社が日本に根 を下ろした企

業であることを意味 している。この特色は,戦 前から現在 まで変わっていない(吉 原英樹,

1987)。

さて,総 合商社が国内で日本企業 と取引するとき,日 本語で行なわれる。輸入と輸出の場

合,日 本企業 とのコミュニケーションでは日本語が使われる。総合商社 と外国企業 との商談

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総 合 商 社 25

の英語の文書(メ ールのや りとりや会議の資料など)を,日 本語に訳 さずに英語のままで 日

本企業 にとどけることは,ま ずない。日本企業は,総 合商社か ら,英 語の資料を日本語に訳

さずに英語の ままで会議 に出され ると,気 分を害 して しまう。日本の製造企業などが外国企

業との取引で総合商社を介在 させる理由のひとつは,日 本語で取引できることである。

総合商社 と日本企業の担当者 との緊密な関係 は,日 本人同士が日本語でコミュニケーショ

ンすることか ら成立 しているといっても過言ではない。総合商社マンは,公 式の会話にふ く

まれない情報 を繋 ぎ合わせて,取 引を成立させ るような高等なスキルが要求される。「語尾の

調子や顔の表情か ら,断 ってきたか,乗 ってきたかを判断 しなければならない」こういうス

キル を発揮で きるのは,日 本語によるコミュニケーションにかぎられる。

日本企業 を相手にす る商談に日本語が必要であることと同じ趣 旨のことが,外 国企業を相

手にす るビジネスにもあてはまる。インタビューしたある総合商社マンによると,米 国企業

に売 り込むときには,英 語,そ れ も,南 部の現地企業が相手であるときは南部なまりの英語

が必須 であるという。 日本人の下手な英語では相手にして もらえない。

総合商社は,外 務省 などの省庁や国内の金融機関 とのあいだにも,緊 密な関係がある。政

府開発援助(ODA)関 連プロジェク トなど大規模なプロジェク トには,国 際協力銀行 をはじ

めとする政府系金融機関か ら融資 を受けることになる。海外の信用格付け機関による総合商

社の評価が低下 し,総 合商社の資金調達コス トが最近は市中銀行 よりも高 くな りつつある。

海外の大型プロジェク トには,貿 易保険や政府系金融機関からの融資が,ま すます重要にな

りつつある。これ らの海外プロジェク トへの投資案件は,日 本入が当事者 として担当す る必

要があり,国 内の本店において も現地の出先であっても,外 国人社員の代替は困難 である。

日本本社中心の経営

総合商社では,重 要な案件の最終的な判断や決定は日本の本社で行われることが多い。そ

の理由は,日 々のマーケ ット情報 もふ くめた関連情報が,本 社の担当部門を要 として交換さ

れることが多 く,世 界の関連情報が本社 に集 まるか らである。 リスク管理の点か らも,海 外

店が分権的に決定するよりも,日 本本社で集権的に決定するほうが合理的であると考えられ

ている。また新 しい案件の実施をサポー トする機能も,海 外店にはなく本社に備 えられてい

るケースが多いからである。海外のオフィスは,本 社のサポー ト無 くしては経営が成 り立 ち

に くい構造にある。

1950年 代から総合商社で仕事をしてきた元総合商社マンによると,海 外の案件 まで もが日

本本社で判断 される現象は,時 代 とともに増加 しているという。交通と通信の技術が進歩 し,

それとともに海外店の自律性が徐々に低下 して,本 社への集権が進行 している。かぎられた

通信の手段を通 じて,か ぎられた情報のみ本社 に伝えられた時代には,現 地の判断がむ しろ

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尊重された。現地の事情については,現 地 に派遣 された社員の知識や経験が もとめ られた。

時差 を気に しなが ら,コ ス トが高 く字数制限のあるテレックスで行われていた情報交換は,

情報通信技術の発達で大 きく変化 した。必要に応 じて,電 子メール,電 話,フ ァックス,T

V会 議 システムなどを用いて文字情報だけでなく,リ アルタイムに画像 を交換することも可

能になった。 また携帯電話などを利用すれば,案 件 に閥 していちばん知識 と経験のある社員

に世界か らアクセスすることがで きる。

このように,総 合商社では重要な決定は,そ れが海外店の取引についての決定であっても,

日本本社で集権的に行われることが多い。海外店が自分のところの取引などについて,日 本

本社の決定のプロセスに参加するためには,日 本本社 とコミュニケーシ ョンで きることが必

要である。そのためには,日 本人 と日本語が有利である。日本本社 との人脈が重要であるし,

日本本社の 日本人とのコミュニケーションでは日本語が必要なためである。 日本本社 との根

回 しや交渉は,日 本語ので きない現地人には無理である。

本社に提 出する新規の投資案件のための稟議書は,日 本語でなければならない。英語の稟

議書 を認めているところは,少 数の例外である。なお,そ の少数の例外のところは,の ちほ

どとりあげる。

日本本社の非国際性

外国人社員が 日本本社の役員に就任することは稀である。現在(2000年 末〉,日本本社の役

員をしている外国人は,伊 藤忠商事代表取締役副社長のチャイ(JayW.Chai)と 三菱商事取る

締役のブルム(JamesE.Brumm)の2名 である。

チャイは伊藤忠商事の米国法人である伊藤忠インターナショナル会社 と欧州法人である伊

藤忠欧州会社の会長を兼任 している。同氏は,韓 国の慶北大学校卒業後,米 国の南カ リフォ

ルニア大学の大学院を経て,1961年 に現在の伊藤忠インターナショナル会社である伊藤忠ア

メ リカ会社に入社 している。現地法人の新卒採用として入社以来,社 内で経験を積み,入 社

後26年 を経て1987年 に伊藤忠アメ リカの副社長になると同時に本社の取締役に就任 している。

その後,本 社の副社長および欧 ・米 の現地法人の会長に就任 している。チャイはかって日本

国内で企業に勤めた経験があ り,そ の日本語能力は日本人と同等のレベル といわれる。同氏

が加わる本社の役員会でも日本語が使用 されている。

ブルムは,米 国コロンビア大学ロー ・スクールを経て,米 国三菱商事会社 に入社 し,5年

後 に同社取締役に就任 し,同 社副社長を経て,本 社の取締役 に就任 した。法律の専門家であ

る。同氏も,日 本語が堪能で,日 常の会話だけでなく,ビ ジネスコミュニケーションを日本

語ですることがで きる。

日本親会社のなかの外国人をみると,営 業部門の管理者(た とえば,機 械部の部長や課長)

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総 合 商 社 27

には外国人社員はいない。スタッフ部門でも,経 理,人 事,業 務(企 画)の ような重要な部

門の管理者には,外 国人社員はいない。通訳 ・翻訳,広 報,法 務など専門的なスタッフには

何人か外国人社員がいる。ただ し,そ の外国人社員のほ とん どは正社員ではなく,契 約社員

である。

総合商社の 日本本社は,日 本人が 日本語を使って日本的なや り方で仕事をしている世界で

ある。

日本的マネジメン ト

総合商社がそろって海外店の ヒトの現地化に取 り組んで きたに もかかわらず,現 在まで外

国人幹部は少数 にすぎず,ト ップはほぼすべて日本人である。 また,日 本本社においても,

幹部候補生 として養成すべ く,外 国人社員の逆出向が試みられてきたが,成 果はあがってい

ない。その理由として,外 国人が活躍で きる社内環境(こ とばなど)が 整備 されていないこ

と,外 国人のキャリアパスが不明確であること,昇 給 ・昇進がグローバルスタンダー ドにな

っていないことなど,い わゆる日本的マネジメン トが障害になっていることを指摘できる。

まず,総 合商社では社員の仕事 は,職 務分掌(ジ ョブ ・ディスクリプション)で 明確 に記

述されにくい上に,属 人的である場合が多い。社員の業務は,マ ニュアル等で文書化 される

内容をこえて行われる。商品取引でいえば,商 品の トレー ドとそれに関わる顧客に関する広

範な事柄が,業 務の対象になる。顧客や社内の人的ネ ットワークの開拓 と維持は,人 間関係

のなかで構築 され継承 される無形の財産であ り,そ れ らは業務 として記述 されない業務 とも

いえる。公式の会議や打 ち合わせの席上での情報や意見交換が儀式化 していることもあ り,

社内や社外の人間関係 を通 じた暗黙の諒解や根回 しによって,重 要な情報がや りとりされ,

実質的な決定がなされることは少な くない。このように非公式的な情報 と決定のプロセスが

重要である総合商社にあっては,外 国人社員は情報 と決定のプ ロセスに参加 しにくい。かれ

ら外国人は一般的に職務分掌にもとつ く公式なアプローチを得意とするからである。

これまで も,ハ ーバー ド,オ ックスフォー ドなど優秀な大学 を出た能力の高い社員が採用

され,幹 部社員養成の機会があたえられたにもかかわらず,離 職するケースが多い。その理

由は,こ のような日本的 なマネジメン トの もとでは,か れ らは活躍することがむずか しいか

らである。

海外店の最高経営責任者,あ るいは商品部門の責任者など経営幹部に外国人を登用するう

えでのひとつのネックは,日 本的人事システム,と くに給与システムである。優秀な人材で

あって も,日 本的な人事 システムの枠組みのなかで扱われるために,給 与やポス ト面で特別

扱いがむずかしい。 日本本社の社長の年収をうわまわる年収 を海外店の外国人社長や経営幹

部に支給することは,さ けられる。 日本企業 としては破格の高い年収(現 地では相場の年収

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28 第187巻 第3号

であるが)を だす ときには,つ ぎにみるように特別の工夫がなされる。

ある総合商社の豪州法人の社長の本俸はそれほど高額でない。 しか し,ス トック ・オプシ

ョンをふ くめると,か れの年収は日本本社の担当本部長を上回る。この工夫は,本 人の専門

性 と石油業界 という給与 レベルの高い業界で,優 秀な人材を確保するための必要性か らきて

いる。

ある総合商社のタイの現地法人で,日 本人幹部に代わる現地人の人材 を外部からスカウ ト

で採用 した。かれは,ア メ リカの大学を卒業 し,米 国で十数年間ニューヨークの地下鉄の仕

事に従事 した経験 をもつ。 このタイ人の月収 は,他 のタイ人幹部の年収 にほぼ匹敵する。つ

まり,か れの給与はほほ他のタイ人管理者の10倍 である。同社の給与体系では,こ れだけの

高給 を支給で きない。そこで,か れを正規の社員 としてではな く,任 期2年 の契約社員 とし

て採用 した。

日本人の特性

インタビューで,海 外店のヒトの現地化が進 まず,日 本人中心の経営がつづ く理由として,

日本人の特性やコミュニケーション能力の不足がよく指摘 された。他人 とくに外国人 に仕事

を任せるのが不得手である。仕事が属人的にな りがちであ り,文 書化の困難な業務について,

十分 に説明 した上で,委 譲するのが苦手である。さらに信頼関係の構築 されていない相手(外

国人など)に 業務に伴 う裁量権をあたえることをため らう。 このような日本人の特性のため

に,現 地化は進 まない。

日本人社員の英語のコミュニケーシ ョン能力の不足 も,現 地化の障害になっている。総合

商社では,社 員に一定 レペルの英語能力が必須 とされる一方で,高 い英語の能力 はかならず

しも高 く評価 されない傾向にある。現在では入社時 に,TOEICやILCな どの英語能力試験

を課 されているが,以 前は一流大学卒の社員にはある程度の英語能力があるという前提で採

用されることと,入 社後に社内教育の機会が与えられることで,採 用時に高度な英語力が も

とめ られなかった。む しろ採用の際には,大 局的に判断できる能力や適応力などが商社向 き

の資質 として,英 語力よりも高い優先順位で評価された。

われわれのインタビューで,あ るひとは 「総合商社の社員は英語がよくできると思われて

いるとしたら,そ れは大 きい誤解です」といっていた。

現在,総 合商社の社員数は,日 本人社員が2,外 国人社員が1,の 割合である。外国人社

員は日本人社員の約半分である。なお,こ こでいう外国人社員は,連 結決算の対象 となる事

業会社を除き,ト レー ドに従事する海外支店 と現地法人(本 稿では両方を海外店 という)の

外国人社員である。これ らの外国人社員は,日 本人社員 とは区別され,同 じようにはあつか

われない。

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総 合 商 社 29

ある総合商社 は,リ ス トラの成功により業績の好転を見せ た年の年末に,社 員に報 いるべ

く一律15万 円のボーナスを支給 した。このボーナスは国内,海 外に勤務する日本人社員だけ

が対象であワ,外 国人社員 は対象になっていない。また,こ の総合商社では,社 長のメッセ

ージや企業の動向などを社内のTVネ ッ トワークを通 じて伝えられる。海外のオフィスにも,

これらが送られ るが,日 本語のみで流 され,英 語では補足的に内容が要約 されて文書で配 ら

れる程度である。

わか りに くい業務

1980年 代初頭 に現地化 「アメ リカニゼーション」を推進 した米国三菱商事では,総 合商社

の実像が不明確であ り,総 合商社の業務が理解 されないために,ビ ジネススクールの卒業生

な どの良い人材 を採用することに苦労 したという。例 えアメ リカニゼーションとい う現地化

の方向が示 されていて も,総 合商社の業務および総合商社のなかでの自分のキャ リアパスが

わか りに くいために,米 国人にとって総合商社 は勤務する企業としての魅力は薄い。このこ

とは,米 国三菱商事の米国人にか ぎらず,総 合商社の海外店に一般的にあてはまる。

日本人社員は,採 用されてか ら本社,国 内支店,海 外支店のローテーションを一定の周期

で繰 り返 しなが ら,有 形無形の知識 とノウハウを蓄積 していく。本社採用の日本人社員の置

かれた環境 は,ま さに柔軟で広 い視野からの思考が可能な商社マンを作 り上げてい く。

商社の社員に求められる幅広い守備範囲は,マ ネジメン ト・レペルでも変わらない。現地

法人の社長から事務所長まで海外店の トップは,ビ ジネス と同等に管理の機能をもたされて

いる。①本社の代表 として現地政府や 日本の在外公館 との折衝,② オフィスのマネジメン ト,

③現地の企業や 日本企業 との良好な関係の維持,④ 日本人社員の管理 とコーデ ィネー ト,⑤

国会議員など日本か らのVIPや 顧客の接待などが主な役割である。トップに求め られる資質

は,オ フィスで扱われる無数の商品に関する知識の把握ではな く,部 下やオフィスをマネジ

メン トする能力と様々な業務の調整能力である。 これらは,長 い経験の中から養われると考

えられている。

このような幅広い業務は,職 掌 として明確 に記述することが困難である。総合商社の業務

が,外 部から見て非常にわか りにくいように,社 員個人の動きや業務 もまた理解 しづ らい と

いえる。

4.顧 客 適 合一 日本人と日本語が合理的一

現地人化 と英語化は,総 合商社がこれまで何回も取 り組んできた経営課題である。すべて

の総合商社が,20年,30年 も前か ら,こ の課題 をかかげて努力してきた。 ところが,そ の試

みはいずれ も所期の成果をあげずに終わっている。なぜか。

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われわれは,前 節で,日 本人 と日本語の理由として6つ を指摘 した。この うち,日 本本社

中心の経営,日 本本社の非国際性,日 本的マネジメント,日 本人の特性は,総 合商社に固有

な ものではな く,製 造 ・非製造の 日本企業に,そ の程度に差はあって も,一 般的にあてはま

る。他方,日 本企業との取引とわか りに くい業務は,総 合商社にとくに強 くみられる特徴の

ように思われ る。

日本人と日本語の理由として,総 合商社の業務がわか りにくいことを理由にあげるひ とが

少な くなかった。あるひと(総 合商社の元役員)は,総 合商社の業務のわかりにくさを 「グ

チャグチャな業務」ζ表現 していた。たしかに,総 合商社の業務には 「グチャグチャ」の表

現がふさわ しい非定型的な業務が多い。では,非 定型的な業務は, .日本人 と日本語 を必要 と

す るのだろうか。非定型的な業務では,日 本人 と日本語に優位性があるのだろうか。外国人

が英語 を使 うと,非 定型的な業務を遂行できないか。

反証 をす ぐにあげることができる。新市場の開拓,新 製品開発,新 しいビジネスモデルの

構築,国 際研究開発,ベ ンチャー企業への投資業務,国 際合弁企業,映 画製作,大 規模な国

際的イベ ント(た とえばサ ッカーのワール ドカップ)な どを,外 国人は英語を使って行って

いる。これ らの業務で日本人がとくにす ぐれているとはいえないのではないか。

われわれは,総 合商社の日本的国際経営マネジメン トの理由として,「 日本企業 との取引」

をいちばん重視 したい。

さきにみたように,総 合商社の取引相手の大半,お そらく8割 から9割 の取引において,

す くなくとも一方は日本企業 である。 日本企業 との取引では,日 本人 と日本語が適合的であ

る。現地人 と英語のほうが,不 適合である。ここで,取 引相手のうち売 り先企業(顧 客)が

とくに重要であると指摘 したい。多 くのビジネスで売 り先企業(顧 客)が 強い交渉力をもつ

からである。総合商社が購入する場合,サ プライヤー企業(日 本企業であっても)は 総合商

社に買って もらいたいから,総 合商社の外国人が英語で取引 しても,対 応する。他方,総 合

商社が製品を売 り込む場合,顧 客(売 り先企業)は 総合商社に合わせて くれない。総合商社

のほうが顧客に合わさなければならない。顧客が 日本企業であれば,日 本人が日本語を使っ

て取引 しなければならない。「お客様は神様」である。

その売 り先企業(顧 客)の 多 くは日本企業である。国内取引 と輸入では,顧 客は日本企業

である。これが,全 取引の3分 の2近 く(62%)を 占める。三国間取引のなかには,売 り先

が実質的に日本企業(日 本企業の海外子会社など)で あるケースがあ り,こ れを考慮すると,

顧客が 日本企業であるケースは全体の3分 の2を こえるにちがいない。

総合商社において 日本人が中心になって 日本語 を共通言語としているのは,つ まり総合商

社の日本的国際経営マネジメン トは,顧 客適合のためである。 これが,わ れわれの結論であ

る。

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総 合 商 社 31

顧客適合論は,旅 行会社,海 運企業,都 市銀行,証 券会社など総合商社以外の非製造企業

にも,そ の妥当性の強 さには差があるか もしれないが,基 本的には妥当する。たとえば,旅

行企業で も,総 合商社 と同 じように,海 外子会社の社長はほぼ全員が 日本人であり,ま た国

際的 コミュニケーションはほとんど日本語でなされている。この理由は,顧 客である海外旅

行客のほぼ全員が日本人であるためである。(今 西,2001)

他方,製 造企業には顧客適合論はあまり妥当しない。消費財の企業の場合,海 外子会社の

顧客はほぼ海外の個人である。生産財の企業で も,顧 客の中心は外国企業である。日本企業

の海外子会社が主要な顧客である企業があるか もしれないが,そ の数は多 くない。製造企業

の海外子会社の顧客は,基 本的に現地人 と現地企業である。

以上,総 合商社 は日本企業 を中心的な取引相手にしているから,日 本人が 日本語 を使 って

取引をすることは理にかなっている。総合商社にとって,日 本的国際経営マネジメントは合

理的である。

では,長 年にわたって試み られて きた総合商社における現地人化 と英語化は,何 だったの

か。必要性のないことを目標にかかげて,そ の実現 をめざしてきたのだろうか。

経営 トップが,社 内の共通語 として英語 を使 う方針 を打 ち出 しても,そ の方針は聞き流さ

れて,い っこうに実行 されない。海外店の経営幹部に現地人を登用すべ しという現地人化が

打ち出されて も,現 地人化 はいっこうに進展 しない。これは,じ っさいにビジネスを行う実

務者が,日 本企業を相手のビジネスでは,と くに日本企業が顧客(売 り先企業)で あるとき

には,日 本人と日本語のほうが適合的であることを知っているので,ト ップの方針は,耳 で

は聞いても,実 行にうつ さなかった。実務家のこの対応は合理的だったのではないか。

5.日 本人 と外国人が英語で経営一 某商社の鋼管 トレー ドー

事業 と経営の概要

ある総合商社(以 下,A社)の 鋼管 トレー ドは,ヒ ュース トン(米 国),ロ ン ドン(英 国),

シンガポール,バ ンコク(タ イ),パ ース(オ ース トラリア)に 設置された海外5ヶ 所の販売

拠点(海 外店)に よってグローバルに展開されている。

鋼管パイプを専門にあつか う海外店ネッ トワークの構想は,世 界中で鋼管 トレー ドにたず

さわる担当者を集めた1990年 のヒュース トン会議から始 まった。非H本 人 も多数参加 して英

語で行われた会議は,鋼 管 トレー ドの 日本人担当者には,あ る種のカルチャー ・シ ョックで

あった。英語で討議 される会議では,鋼 管パイプのサービスへの本格的な取 り組みとい う新

しい動 きへの意欲 と刺激がみ られた。会議は以後毎年,東 京に場所を移 して開催 されている。

鋼管パイプの トレー ドの顧客は,エ クソン,モ ービル,BP,シ ェルな ど欧米のオイル ・

メジャーが主体であり,世 界で も顧客の数は限定されている。東京本社の機能は二つある。

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32 第187巻 第3号

一つは,投 資家 として海外店(現 地法人)へ の投資とリターンを監督 し,本 社の連結決算へ

の貢献 を最大化す ることである。 もう一つは,日 本の鉄鋼メーカーとの関係 を維持すること

である。鋼管パイプは日本のメーカーだけではな く,フ ランス,ア ルゼンチン,メ キシコ,

イタリアでも製造されてお り,海 外の拠点はそれぞれ独自に鉄鋼 メーカーからパイプを仕入

れ,顧 客に販売 している。た とえばオース トラリアの現地法人では,ア ルゼンチン ・メーカ

ー(世 界最大手のテナ リスグループ)の 製品を主 としてあつかっている。 しか し,日 本の製

品は品質で海外メーカーの商品より優れてお り,日 本の鉄鋼メーカー(住 友金属など)の 製

品をあっかう意義は大 きい。A社 がオイル ・メジャーを顧客 としたビジネスに参画で きるひ

とつの理由はここにある。サプライヤーや顧客に関する通常の情報は,そ れぞれの拠点で蓄

積 されて,各 拠点間で交換 される。 日本本社 も,こ と鋼管パイプのビジネスについては,世

界のネットワークの一拠点にすぎない。

A社 の鋼管 トレー ドにおいては,英 語が使用 され,ま た非日本人が活躍 している。共通言

語 としての英語は,10年 ほど前から関係者間で浸透 していた。顧客対応は もちろんのこと,

ビジネス情報 は関係者間で即時にシェアされ る必要があることか ら,通 常の社内文書やコミ

ュニケーションは英語が基本になっている。非 日本人が入 らず日本人の担当者だけの会議で

さえ,会 議用の資料や議事録はすべて英語である。議事録を世界の関係者に英語で配布 して

情報を共有するためには;日 本語から英語への翻訳が無駄な作業 となるからである。現地法

人設立の東京本社への申請も英語で行われる。国内のサプライヤー(日 本の鉄鋼企業)と は,,

本社の日本人が日本語で取引を進めるが,最 近 では文書の一部は英語になりつつある。顧客

である外国企業からの英語のメールや資料 をそのまま日本のサプライヤーにもってい くこと

も珍 しくない。

顧客のサプライ ・チェーン ・マネジメン トを請負 うサービス分野への本格的な進出は,英

国のアバディーンにおいて,フ ィリップス ・ペ トロリアムとの長期契約の締結に成功 したと

きか ら開始 された。石油 ・エネルギー業界での経験が豊富なアメ リカ人社員をスカウ トし,

ヒュース トンからアバデ1一 ンの支店長に任命する。同氏は,A社 のいちばん早期の非 日本

人支店長の一人である。後 には,シ ンガポールの事業会社を経て,豪 州の事業会社の社長に

起用 している。

なお,鋼 管 トレー ドの5つ の海外店の うちオース トラリアをのぞいては,日 本人が トップ

である。

外国人社長 と英語の理由一 顧客適合論の例証一

総合商社では,ト レー ドは一般的 に日本人によって日本語で行われている。 ところが,A

社の鋼管 トレー ドは,う えでみたように,日 本人 と外国人が英語で行っている。なぜか。

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総 合 商 社 33

その理由は,顧 客がオイル ・メジャー という外国企業であるからである。オイル ・メジャ

ーに売 り込むには,日 本人が とくに有利 であることはない。日本語は通用 しない。 したがっ

て,オ イル ・メジャーを相手にするときには,日 本人 と外国人が英語で取引をしなければな

らない。

このように,A社 において日本人と外国人が英語を使って鋼管 トレー ドを行っていること

は,外 国企業が顧客の ときには日本的国際経営マネジメン トはみられないことを明らかに し

ている。A社 の鋼管 トレー ドは顧客適合論の例証 といえる。

A社 の鋼管 トレー ドの事例は,ま た,さ きに総合商社の 日本的国際経営マネジメン トの理

由としてあげた5つ の理由(第1番 目にあげた日本企業 との取引をのぞ く)と の関連で も興

味深 いひとつの事例 といえる。A社 の鋼管 トレー ドでは,日 本人 と外国人が英語を使って仕

事 をしているが,こ の事例か ら,5つ の理由は現地人化 と英語化にとっての障害であるがそ

の障害は克服が可能であること,ま た,克 服することが鋼管 トレー ドにとっては合理的であ

ることを示 している。

ところが,第1番 目の 日本企業 との取引という理由は,た しかに現地人化 と英語化を実現

するうえの障害であるが,こ の障害を克服 して現地人化 と英語化 を推進すると,日 本企業 と

の取引 というビジネスを行 ううえでマイナスになる。 したがって,A社 の鋼管 トレー ドの よ

うな外国企業が顧客である取引ではなく,総 合商社の主要な取引である日本企業 との取引を

中心 に考えると,総 合商社の トレー ドが 日本人 と日本語によって行われていることは合理的

であるといえる。

このように,総 合商社の日本的国際経営マネジメン トの理由の うち,第1番 目にあげた日

本企業 との取引という理由は,他 の5つ の理由とはちが うのである。 日本企業との取引が取

引の大半であること,と くに日本企業が主要な顧客であることが,総 合商社の日本的国際経

営マネジメン トのいちばん重要な理由であると思われる。

本 稿 は,科 学研 究 費補 助金 をえて行 われ た研究 「非製 造企業 の 国際経 営 一総 合 商社 と海運企 業 一」

(研究代 表者 ・吉原英樹,研 究分担 者 ・星 野裕志,平 成13年 度 一14年 度,課 題 番号13630138)の 成

果 の一部 で あ る。

1こ の研究 で は主要 な デー タ と して,1999年3月 期 まで のデ ー タを使用 す る。 ひ とつの 理 由は,

有 価讃 券報 告書 総覧 の記 載情 報 が1999年3月 期 まで は充 実 してい るが,2000年3月 期 か らは記 載

内容が 変更 され簡 略化 され たため に,わ れ われ に必要 な情報 の い くつか が記載 され て いない。 っ

ぎに,わ れ われ の研 究 テーマ で あ る国 際経営 マネ ジメ ン トは,短 期 間 にはげ し く変化 す る性格 の

もの ではな い。 その ため1999年 時 点の デー タで も古す ぎるこ とに はな らない。 なお,デ ータの い

くつ かは,高 橋悦 夫(元 住 友 商事,現 甲子園大 学教 授)の デー タ を利 用 させ て もらって い る。

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2戦 後 長 く総合 商社 は10社 だ った。 安宅 産業 が倒 産 して か ら9社 にな った。 さ らに,現 在 は兼松

がぬ けて8社 に なって い る。 その8社 は,伊 藤忠 商事,三 井物産,丸 紅,三 菱 商事,住 友商事 ,

日商岩 井,ト ーメ ン,ニ チメ ンで あ る(1999年3月 期 の売上 順,単 独決 算)。われ われ の研究 で は,

兼松 を研 究 対象 にふ くめ てい る。主 な理 由 は,兼 松 は1999年3月 期 まで総合 商社 で あ った こ とで

あ る。 われ われ の研 究は総 合商社 の ご く最 近 の うご きだ け を対象 に してい るわ けで はな く,遠 く

は戦 前期 か ら,近 くて も戦後 初期 か ら現在 に至 る長期 の総合 商社 の うご きを対象 に して い る。 こ

の2つ の理 由 に,わ れわれ 研究者 の個 人的 な理 由を加 え るこ とをゆ る して いただ きたい。 わ れわ

れ2名 が所属 す る神 戸 大学経 済経 営研 究所 の建 物 は兼松 記念館 であ り,こ れ は,兼 松 の寄付 に よ

ってで きた もの であ る。

3J.W.チ ャイ は2001年6月 に本 社の 副会 長 を退任 して顧 問(理 事)に 就 任 した。 また,米 国 の

伊藤 忠 イ ンター ナ シ ョナル の会長 に は留 ま るが,経 営 の第一線 か らは退 き,ア ドバ イ ザー に なる。

英 国 にあ る伊 藤忠欧 州 の会長 か らは退任 した。 チ ャイの後 任 と して,米 国の伊 藤忠 イ ンターナ シ

ョナ ルの社 長(最 高経営 責任者)お よび英 国の伊 藤忠 欧州 の社 長(最 高経 営責任 者)に は と もに

日本 人が就 任 した。

4プ ル ム は2002年6月 に本 社 の取締 役 を退任 した。

参 考 文 献

石 田英 夫(1984)「 三 菱商事 株式 会社(B)一米 国 三菱 商事(MIC)の ア メ リカニ ゼ ーシ ョンー」石 田英

夫 『ケ ース プ ック国 際経営 の人 間問題 』慶 慮 通信,1984年,271-303頁

今 西珠 美(2001)『 旅行企 業 の国際経 営 』晃 洋書 房

吉 原英樹(1987)「 国際 的 に見 た総合 商社 の経 営 史」 『国民 経済 雑誌 』第156巻 第6号,1987年12月

吉 原英樹(2001)『 国際経 営(新 版)』 有 斐閣

「米 国 三井物 産 」(1994)『 日経 ビジネ ス』1994年1月31日

「コ ミュニ ケ ーシ ョン ・ツール と しての英 語 」特 集 ・商社 と英 語,座 談会 『日本 貿易 会 月報』2000

年8・9月 合併 号,569号,12-21頁

「イ ンター ネ ッ ト時代 の商社 と英 語 一棋 原稔三 菱 商事会 長 に聞 く一」 『日本 貿易会 月報 』2000年8・

9月 合併 号,569号,22-28頁


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