現代天文学III 宇宙の進化物理部門 羽部朝男
前回
• 宇宙の膨張について• 一様等方宇宙の仮定から膨張宇宙モデルを求めた
天文学に関する書籍で、 入門書、あるいは読み物的なものを紹介して
宇宙進化の謎 谷口義明 (ブルーバックス)
宇宙論入門―誕生から未来へ (岩波新書) 佐藤 勝彦
宇宙論入門 バーバラ・ライデン
シリーズ 現代の天文学 日本評論社最近の宇宙物理学の成果
今回• 膨張宇宙はどんな進化をすると考えられるのか
• いまの宇宙の構成要素にもとづいて考えて見る
• 歴史的にどう分かって来たのかは述べない
膨張宇宙モデルについて
• 宇宙の膨張の観測的証拠• 銀河の距離と後退速度の比例関係
• 宇宙の広がり • 一様等方宇宙モデル• 宇宙の膨張の仕方
v = Hr,
前回までのまとめ
v
c=
�� �0�0
,v
c⇠ 0� 1100
=3
H = 70km/s/Mpc
6一般相対論的宇宙モデル
•
a:宇宙のスケールファクター、Λ:宇宙項(ダークエネルギー) ρ:宇宙の平均密度、k:宇宙の曲率を表す定数
12ȧ2 � 4�G⇥a
3
3a= �1
2kc2 +
�c2a2
6
この式はΛ=0なら地上で物体を投げ上げたときの運動を表す式と同じ,宇宙膨張(a)は減速する
Einstein方程式を一様等方宇宙に適用するとFriedman方程式が得られる
宇宙項があると宇宙は加速膨張する曲率は平坦か正か負であり、宇宙の膨張にも影響
M =4�⇥a3
3
時空の歪みについてdx = cdt (dx)2 = (cdt)2
(dx)2 � (cdt)2 = 0 ds2 = �(cdt)2 + (dx)2
ds2 = �(cdt)2 + a2(dr)2
1� kr2/R2
光がdtの間にdx伝わる
時空が歪んでいると
たとえばブラックホールは
一様等方宇宙は
=3
ds2 = gtt(ct,�r)c2dt2 + gxx(ct,�r)dx2
=3
ds2 = �(1� 2GMrc2
)(cdt)2 +1
(1� 2GM/rc2) (dr)2
の関係から
アインシュタイン方程式について• ポアッソン方程式の相対論版
(@
2
@x
2+
@
2
@y
2+
@
2
@z
2)� = 4⇡G⇢
時空の歪み:リッチテンソル リーマンテンソル
ニュートン重力を決める式
=3
ds2 = �(1� 2GMrc2
)(cdt)2 +1
(1� 2GM/rc2) (dr)2
� = �GMr
質量Mの重力ポテンシャル
熱力学第一法則
• 内部エネルギーea^3の変化は,外から加えられた熱エネルギーと仕事に関係
• 熱力学第一法則はアインシュタイン方程式に組み込まれている
• 宇宙のある領域の大きさをa^3とし,その変化をd(a^3)で表わす
=3
d(ea3) = Tds� PdV = Tds� Pd(a3)
光について• 光の温度=黒体放射の温度
=3
�max = 2.89/T mm
3000K は1μm=10,000Å912Åは水素の電離光子の波長
(Wienの変位則)
光について• 光(黒体放射,温度T)の内部エネルギー密度eと圧力 =3
P =e
3
=3
d(eV ) = �PdV熱力学第一法則より断熱なら
=3
V de + edV = �e3dV
=3
V de = �4e3
dV=3
de
e= �4dV
3V
,
=3
e � V �4/3 = (a3)4/3 = a�4
=3
e = acT 4
,
,=3
ln e = �43
lnV + const.
膨張宇宙の光の温度の変化
=3
e � V �4/3 = (a3)4/3 = a�4
=3
e = acT 4
=3
T � a�1
以下のふたつの関係から
宇宙背景放射の温度はスケールファクターに反比例する
=3
�max = 2.89/T=3
� � a
波長はスケールファクターに比例する
宇宙背景放射
温度ゆらぎのマップ宇宙背景放射のスペクトラム
T = 2.7Kの黒体放射
宇宙の構成要素から宇宙の進化を考えてみる
• 宇宙は真空なのか?
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つまり,なにもないのか
現在の宇宙の構成要素
•宇宙背景放射 2.7Kの物体からでる光のスペクトル
•元素(核子と電子)水素,ヘリウム,炭素,酸素,窒素,鉄
•ダークマター •ダークエネルギー
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宇宙の元素組成比
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理科年表元素の割合は核融合の進み具合と考えられるヘリウムの割合は他の元素と比べてとても大きい
宇宙膨張と核子の数•核子とは,原子核を構成する陽子と中性子の総称
•核子数は核融合反応でも変化しない •現在の宇宙の核子数は1m^3あたり0.24
•断熱圧縮ならガスの温度と体積の関係は
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nn � a�3
T � V �(��1) � a�3(��1)
光について•光は電場と磁場の波 •光はエネルギーと運動量を持った粒子 これを光子と呼ぶ
•光子は質量を持たない •光子がエネルギーをもつと重力源となる •宇宙膨張に影響することもある
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光子の数
• 宇宙背景放射の光子の個数密度=3
e = acT 4光子のエネルギー密度:=3
ac = 7.6� 10�16J/m3/K4
=3
h� � 1.5kT=3
nphoton � e/(h�) � 7� 108m�3
宇宙の物質密度
• k=0でΛ=0のときの密度(臨界密度)
12ȧ2 � 4�G⇥a
3
3a= �1
2kc2 +
�c2a2
6
=3
H =ȧ
a= 70km/s/Mpc
=3
12H2 � 4�G�
3= 0
=3
� =3H2
8�G=3
�crt = 9.7� 10�30g/cm3
レポート• 宇宙の臨界密度を求めなさい
• バリオンは臨界密度の4.6%とすると,1立方mあたり水素原子何個になるか求めなさい
=3
�crt = 9.7� 10�30g/cm3
=3
0.269/m3
宇宙膨張と宇宙背景放射•宇宙背景放射の光子の個数密度 n は,膨張とともに変化
•宇宙背景放射の光子のエネルギーは
•宇宙背景放射の温度は
22T � a�1
n � a�3
� � a h� � hc/� � a�1 nh� � � � a�4
nh⌫ / T 4
ダークエネルギーとダークマターと物質と光
•ダークエネルギー:その密度は宇宙膨張によらない
•ダークマター密度は宇宙膨張とともに減少 •核子の個数密度も宇宙膨張とともに減少 •光子の個数密度も宇宙膨張とともに減少
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時間エネルギー
密度
青:ダークエネルギー 茶:ダークマターと核子 赤:光子のエネルギー
ダークマター候補だったニュートリノ
• 梶田さんが今年のノーベル物理学賞• ニュートリノに質量があることを実験で示した
• ニュートリノが質量を持つと,重力と弱い力を及ぼすのでダークマター候補だったが,さまざまな実験事実から推測される質量がかなり小さいので候補ではなくなった
過去の宇宙の 宇宙背景放射の温度と諸反応
•過去の宇宙ではaが小さく,その分宇宙背景放射の温度は高い
• aが1/1,100以前,T>3000K 水素は電離,この頃に水素が中性化(この時期の光が宇宙背景放射)
• aが1/1,000,000,000以前,T > 10^9K, 核融合で水素からヘリウム(このころにニュートリノの大量発生)
• T>10^10K,電子陽電子対生成 25
• T>10^15K,レプトンやクォークからウィークボゾンの生成
• T~2x10^15k,質量の獲得(ヒッグス機構)
•それ以前は,素粒子は相対論的で質量を持っていない
• T>10^16Kはいまの素粒子理論で扱えない26
光子と物質•物質反物質の対消滅で二つの光子 •例:電子陽電子対消滅 •この逆も起こる そのためには光子のエネルギーが粒子のエネルギーより大きいこと
•電子:0.5x10^10K •陽子:10^13K •ヒッグス粒子:10^15K 27
プランクの時間
•宇宙の半径~時間x光速が量子力学の対象となる時期
• t~10^-44秒,T~10^23K •量子重力理論の世界 •時間と温度の関係は,一般相対論的宇宙モデルと光子の物理学を使って推定
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一番小さな時間
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宇宙の進化
ビックバン(NASA)
膨張宇宙の組成
星 1000億個
インフレーション
38万年
現在の宇宙年齢137億年
ダークエネルギーとダークマターが大半
構造形成•水素が中性化する時代までは,ほぼ一様な宇宙だった(38万年)
•その後,宇宙の構造が形成された •構造の形成はダークマターの密度揺らぎの成長による
•ダークマターの密度揺らぎは宇宙背景放射の温度揺らぎとして観測
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宇宙の進化
ビックバン(NASA)
膨張宇宙の組成
星 1000億個
インフレーション
38万年
現在の宇宙年齢137億年
ダークエネルギーとダークマターが大半
まとめ•現在の宇宙の構成要素から,過去の宇宙では宇宙背景放射の光のエネルギーが卓越
•水素が中性化する時代までは,ほぼ一様な宇宙(38万年),それ以前に物質の進化
•その後,宇宙の構造がダークマターの密度揺らぎの成長により形成
•星や銀河は構造形成の過程で形成 •来週は星のお話
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