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F Beyond ohmy littlegirl01 h20 f - Fujimi...

Date post: 24-Jun-2020
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オー・マイ・リトルガール! 汐見舜一 プロローグ 「未来の嫁を紹介します」 「ほんの出来心だったんだ。ただ俺は、ちょっとばかし彼女をからかって やろうと思っただけなんだ。彼女がとってもとってもとってもキュートで チャーミングでラブリーだったから、俺の中のリトルクレイジィボーイが騒 ぎ始めて、そんで、彼女の困った顔が見たくなって――。 君たちなら分かってくれるはずだ。俺が俗にいうロリコンってやつであれ、 あくまで良性のそれであることを! ロリコンには二種類あって、一つは悪 性のロリコン――これはいけない、実にいけない輩で、幼女に欲情し、とも すれば心の中のリトルクレイジィボーイのくびきが外れ、あんな行為やこん な行為に及んでしまう。 そしてもう一つは良性のロリコン――これは悪くない、悪いはずがない。 幼きエンジェルを守護天使のごとく見守り、悪の汚れた指先から全身全霊で 守りぬく。欲情なんてもっての他、言語道断である! そして俺は後者、良 性のロリコンであることを、君たちは知っているはずだ。 さぁ君たち、今すぐゴミを見るような目をやめるんだ。俺は悪くない。俺 は彼女に指一本触れていないし、卑猥な知識を吹き込んだりもしていない。 さぁ君たち、今すぐ中指を立てるのをやめるんだ! 俺は悪くない!」 そんな俺の熱弁を聞いても、俊 しゆ んご と玲 れい は軽蔑の眼差しをひかえることはな かった。
Transcript
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オー・マイ・リトルガール!

汐見舜一

プロローグ 「未来の嫁を紹介します」

「ほんの出来心だったんだ。ただ俺は、ちょっとばかし彼女をからかってやろうと思っただけなんだ。彼女がとってもとってもとってもキュートでチャーミングでラブリーだったから、俺の中のリトルクレイジィボーイが騒ぎ始めて、そんで、彼女の困った顔が見たくなって――。 君たちなら分かってくれるはずだ。俺が俗にいうロリコンってやつであれ、あくまで良性のそれであることを! ロリコンには二種類あって、一つは悪性のロリコン――これはいけない、実にいけない輩で、幼女に欲情し、ともすれば心の中のリトルクレイジィボーイのくびきが外れ、あんな行為やこんな行為に及んでしまう。 そしてもう一つは良性のロリコン――これは悪くない、悪いはずがない。幼きエンジェルを守護天使のごとく見守り、悪の汚れた指先から全身全霊で守りぬく。欲情なんてもっての他、言語道断である! そして俺は後者、良性のロリコンであることを、君たちは知っているはずだ。 さぁ君たち、今すぐゴミを見るような目をやめるんだ。俺は悪くない。俺は彼女に指一本触れていないし、卑猥な知識を吹き込んだりもしていない。 さぁ君たち、今すぐ中指を立てるのをやめるんだ! 俺は悪くない!」

 そんな俺の熱弁を聞いても、俊しゆ

吾んご

と玲れい

は軽蔑の眼差しをひかえることはなかった。

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「結ゆう

城き

五さ つ き

月よ。貴様が良性のロリコンであり、不埒な行為に及んでいないなどということは分かっているのだよ」俊吾はあぐらをかいて、腕組みをしながら厳かに言う。「しかし、問題はそこじゃない。問題は、貴様が幼き天使のピュアな恋心を弄

もてあそ

んでいるということだ」 その点はついては、俺も反論の余地がなかった。「そうだじぇ。オイラたちが言いたいのは、つぅまり、お前の根本的な人間性についてさぁ」玲は、歯と舌がミラクルスイートな飴玉でできてるんじゃないかってくらい甘ったるい声でしゃべる。コイツの見た目がミラクルビューティフルな美男子じゃなかったら、今ごろ八つ裂きにしてやっているところだ。 ま、なにはともあれ、「君たちの言い分はもっともだ。俺は悪いやつだ。狙ったわけではないとはいえ、一人の幼きエンジェルの世界観を歪め、あまつさえ、純粋無垢なハートを翻弄してしまったことは、ああ、万死に値するさ。でも、でも……」「そうとも。貴様は万死に値する。だから今ここで死ね」「そうだじぇ。今ここで死ぬか、全裸でアツアツのアスファルトに寝転がるか、どっちか選びなぁ」「くっ……!」 ダメだ。コイツら、あくまで俺を人類の敵と見ている。「それじゃあダメなんだ! 俺がいまこのタイミングで死んだら、それこそ彼女の心にふさがらない風穴を開けることになるし、全裸でアスファルトに寝転がってわいせつ物陳列罪で逮捕されたら、それこそ彼女の心にふさがらない風穴を開けることになる」 その言葉を聞いて、俊吾と玲は少し困った表情になった。 この好機を逃してはならない。ソッコーでたたみかける。「経緯がどうであれ、今この瞬間にも、彼女の誤解は思春期男子の性に関する知識のように着々と膨れ上がっており、一秒でも早い解決が望まれるわけであり、そのためにも、君たちの協力が必要なんだ。俺のためではなく、彼

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女のためだと思って、どうか力を貸してほしい。事が解決したあかつきには、しかるべき罰を受けるから!」 俺の話をマジメに聞いていた二人はやがて、座卓の上のショートケーキにはじめて手をつけた。これは彼らの肯定の所作である。彼らは、気を許した相手の前でしかものを食べない習性があり、それは喧嘩でギクシャクした場合にも適応される。 俺が少しでも彼らのご機嫌をとるために購入したショートケーキがみるみる減っていく。どうやら彼らは腹が減っていたらしい。 そもそも俺が、貸主の不動産屋すら顔をしかめるオンボロ四畳半アパート  (とはいえ風呂トイレ付きで日当たり良好)に二人を呼び出し、助けを乞うような事態に陥ったのは、とある少女と出会ってしまったがためだ。

 一週間前のことだ。俺は大学の帰り道、ふと公園(魚の骨を模した不気味な遊具があることから、地元住民は『ほねほね公園』と呼んでいる)によった。青空でも眺めながら、コーラを飲んでしゃれ込みたいと思ったからだ。 俺は最近見つけた駄菓子屋のような商店で、ビンのコーラを二本購入してから公園のベンチに向かった。コーラはビンで飲むのが良い。なぜならカッコイイから。 ベンチに腰掛け、意味深に青空を見上げる。まるで、死んでいった戦友を想う戦争の英雄のように……。 コーラをグビグビやっているうちに、俺は気付いた。いつのまにか隣に人が座っていることを。そしてその人物が、俺をじっと見つめていることを。 俺は心臓が高鳴った。言いようのない高揚感を味わった。だって――。 その人物は、ミラクルキュートな少女だったのだから! クリクリした大きな目。陶器のように白い肌。艶

つや

やかな黒髪は、後ろで結ってポニーテールにしてある。

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 俺のDNAに刻み込まれたロリコンミトコンドリアがザワザワし始めた。誤解されては困るが、性的な感情はなかった。誓ってなかった。「……な、なに? 俺の顔になにかついてるのかな?」 なるべく優しい声で尋ねてみた。「日本にも存在するのですね、ビンに入っているコーラ。映画でしか見たことありませんでした」「ほぅ。『ウエスト・サイド物語』とか?」「?」 少女は俺の言っていることが分からないようだった。「飲む?」 奇しくも俺はコーラを二本買う習性があったから、一本は手つかずで残っていた。「え、いいのですか?」 俺はバッグに常備している栓抜きを取り出して、コーラの栓を取ろうとしたのだが、不意に『ウエスト・サイド物語』のワンシーンを思い出してしまい――。「見ててね」 俺はそう言ってベンチから立ち上がり、すぐ後ろにある手

摺すり

に向かった。道路と公園を隔てるためのものだ。 ちょうど公園の角あたりにベンチがあるから、手摺の角もすぐそこだった。 少女はベンチの背もたれに覆いかぶさるような体勢で俺を見ていた。 俺はコーラの栓を手摺の角に叩きつけ、見事栓だけを吹き飛ばした。コーラを一滴も零すことなく! 少女は初めなにが起きたのか分かっていなかったらしく、キョトンとしていた。でも、栓のなくなったコーラを手渡すと「あ! お兄さん、蓋

ふた

を開けたのですねさっき! すごい!」と言って拍手してくれた。 俺は感動した。まず、俺のしたことが伝わったこと。そして喜んでもらえたこと。そしてなにより、「お兄さん」と呼ばれたこと!

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 俺にリアル妹がいたならば、このシチュエーションで萌えることはなかったかもしれないが、あいにく存在しないので、遺憾なく萌えることができた。 脳内では百人以上の妹と同居しているのだが、彼女らはみんな俺をゴミのように扱う。「飲んでいいですか?」「もちろんだとも。君のために買ったんだからね」「私のために?」「そうさ」「ありがとうございます!」 ホントかわいいのさ。俺は幸福に満たされていた。「でもお兄さん、どうして私がここに来るって分かったのですか? 私はお兄さんより後に来たから、お兄さんは未来を知っていないとコーラを二本買えませんよね?」 俺はここで、意地悪がしたくなった。少女をちょっとからかってやろうと思った。「俺はね、未来から来たんだよ」「ええ !?」「未来から来たから、君がここに来ることが分かっていたのさ。だからコーラを二本買っておいたんだ。君のためにね」「すごい!」 少女はランドセルを背負っていた。つまり小学生。見た感じは五年生か六年生くらいで、事実彼女は六年生だった。 小学生といえど高学年にもなった子が、まさか未来人なんて信じるわけがない。今どき幼稚園児だって信じない。だから、少女が本気で食いついてきたときには面食らってしまった。でも、すぐに悟った。この純粋無垢で優しそうな少女は、俺のオフザケに付き合ってくれているのだと。 俺は嬉しくなって、コントを続けることにした。「すごいだろう? お兄さんのいる時代はね、そんなに遠い未来じゃないん

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だけどね、自由に過去に行ける機械が開発されているんだ。タイムマシンだよ。お兄さんはタイムマシンに乗ってこの時代に来たんだ」「すごい!」と少女は叫んだ。「あ――未来人なら、もしかして、私の将来を知っていますか?」「もちろん知っている」「教えて下さい! 私はなにになっていますか?」「ふふふ……聞いて驚かいでね?」「はい! 多分驚くけど驚きません!」「君は……」 これが、俺のおかした大失敗だ。「お嫁さんになっている……」 俺の罪だ。

「俺のお嫁さんにね」

 ああ、なんて馬鹿なことを言ってしまったんだ俺は。 でも、この時の俺は、テンションが上がり過ぎていて冷静な判断ができなかったんだ。 でも、でも、でも、誰が予想できる? 六年生にもなった子が――

「お兄さんは未来の旦那さんなのですね! すごい!」

 ――未来人の存在を、おいそれと信じてしまうなんてさ――

 紆う

余よき

曲よく

折せつ

の末、俺は次の日も、その次の日も、公園で彼女に会うことになった。

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 たわいないお喋しやべ

りをして、近くのコンビニでアイスを買って食べて、彼女が授業で上手くできないというサッカーの練習をしたりして、楽しく過ごした。でも、日を追うごとに、罪悪感は膨れ上がっていった。 初めは、俺の方がからかわれていると思っていた。コントがまだ続いていて、その延長線の延長戦で俺をからかっている、そう思っていた。 しかし甘かった。 少女はどうやらマジで、俺が未来から来た旦那さんだと思っているようなのだ。純粋無垢なんて言葉じゃ到底収まりきらないほどのイノセントを、彼女は持っていた。 早くあれは嘘だったと言わなければ――。「未来の旦那さんなら、お兄さんて呼ぶのはやめますね。五月くんって呼んでもいいですか?」「もちろんさ!」 ちくしょう! 俺はどこまで彼女を騙し続けるんだ! でも、はにかんだ笑顔を浮かべた美少女に「五月くんて呼んでもいいですか?」なんて言われてみろ。YESと返すしかない。これは日本中の五月くんに共感してもらえるはずである。「五月くんも私のことは名前で呼んで下さい。私、白羽ミチルっていいます。ミチル、って、呼んでもらっても、いいですか?」「もちろんさ!」 ああ! 俺はクズだ、大罪人だ、打ち首獄門だ! でも、ちょっと頬を赤らめてモジモジしている美少女に「ミチル、って、呼んでもらっても、いいですか?」なんて言われてみろ。YESと返すしかない。これは世界中の男子に共感してもらえるはずである。 ああ、どうしよう……この人本気だよ……なんでこんな話を信じるんだよ。いったい今までどんな教育を受けてきたんだよ……。「ミチルは、サンタクロースって信じてる?」「サンタさんはお父さんですよ。五月くんは信じているのですか?」

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 サンタクロースは信じていないらしい。未来人の方がよほど胡う

散さん

臭くさ

いと思うのだが……。 そんなこんなで一週間が経ってしまった。 俺が未来人なんていう設定は、冷静に考えれば、いや、冷静に考えなくても矛盾だらけであることが分かる。なのに、ミチルは一切疑わない。俺の言葉をすっかり信じ込んでいる。 はぁ……。 俺は葛藤に葛藤を重ね、ついにヘルプを呼ぶことにした。自分一人の知力では、この局面を乗り切れないと判断した。もう猫の手に握られた藁

わら

にでも縋すが

りたい気分だった。 宮

みや

沢ざわ

俊吾と夏なつ

目め

玲は、俺の数少ない友人だ。 宮沢俊吾――コイツは頭がいい。なぜ俺と同じ大学にいるのか時折分からなくなるくらいに――。 見た目の特徴としては、かなり背が高い。俺が小柄だということもあるが、俺は俊吾と立ち話をするときは見上げる必要がある。俊吾の長身を見慣れているせいか、スカイツリーを間近で見ても高いと感じなかった。そして、銀縁メガネの奥で光る切れ長の目は、いかにも出来るやつって印象を与える。しかし、意外とモテない。 夏目玲――。コイツは頭が悪い。なぜ俺と同じ大学にいるのか時折分からなくなるくらいに――。 見た目はミラクルビューティフルで、アイドルグループに混じって踊っていても違和感を覚えないだろう。カッコイイというよりカワイイという印象を与える男で、大学祭で女装を披露した際には、客のスケベ野郎共から次々と交際を申し込まれた豪の者だ。身長は俺より俄

然ぜん

低くて、そのことを言うと怒る。――この男、美男子なのにモテない。大学の女子からはぜんぜんモテないのだ。きっと頭が悪いせいだろう。「五月よ。貴様の言い分は理解した。僕は協力するにやぶさかでない」「オイラも、まぁ、協力してやらないこともないじぇ。とりあえずケーキも

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う一個くれよ」 俺は、黙って自分の分のケーキを玲に差し出した。「あ、ずるいぞ! 僕にも半分よこせ!」「イチゴはオイラのだじぇ!」 どうやら二人はとてつもなく腹が減っているらしい。コイツらは貧乏なので、平

へい

生ぜい

より食費を極限まで節約しているのだ。その倹約ぶりは有名で、彼らこそがガウタマ・シッダールタの生まれ変わりであると提唱する者が現れたほどである。 そしてかく言う俺も、貧乏である。

 次の日、月曜日。 授業があるので大学に赴いた。 教室の最後列窓際に腰かけて、窓の外を意味もなく意味深に眺めてみる。 時計台の針が四時四四分を示しているが、今はまだ午前中である。時計台の時計は三ヶ月ほど前から壊れている。しかし、修理される気配はなく、いよいよ秘密結社の陰謀を疑わずにはいられない。「おはよう」 とつぜん声をかけられた。俺の体は反射的にこわばる。「お、おう。おはよう……」 声をかけてきたのは八

ツつざ

崎きか

薫おる

。小、中、高、そして大学も一緒になってしまった腐れ縁だ。 みんなは俺らのことを幼馴染のアツアツカップルだねぇとか言うのだが、俺たちは付き合っていないし、そんな感情もない。むしろ俺はこの人物が苦手なのだ。 そりゃあ、ルックスはバツグンさ。俺なんかが軽々しく喋っていいのか疑問に思うほどに――。

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 薫は、大きな吊り目が特徴的な美女である。髪は肩にかからない程度に短く、麗しき首筋を無料で公開している。寝不足なのか、目元には少しクマがあるが、それすらも萌えポイントにしてしまうほどの魅力を、彼女は持っている。 彼女を見て、恐怖を覚える者なんて本来いてはならないのだ。事実、彼女に寄ってくる野郎どもは後を絶たない。そんな完璧なビジュアルの持ち主なのだ薫は。 でも、よく見てみると、薫の目は普通じゃないのである。なんというか、獲物を虎視眈々と狙っていてチャンスが訪れるも「今は生かしておいてやる。お前はまだ食うに及ばない。もっと強くなってから、再び私の前に現れてみろ」とでもいいたげな目をしているのだ。なにもかもを見透かして、やる気になれば目で相手を殺せるような、比喩的な意味じゃなくて、本当に目からビームを出して相手を焼き殺してしまうような、そんな、そんな目をしている――。「隣いい?」「お、おう……」 薫は俺の隣に腰かける。「五月さぁ、最近付き合い悪いよね」「え?」「聞こえなかった? 最近付き合い悪いよね、そう言ったの」「つ、付き合いですか?」「一緒に帰ろうって誘っても、断るじゃない」「ああ、そうかな? ごめん……あはは……」 薫はやたら俺と帰宅したがる。これを普通の人間ならば、気があるとでも思うだろうが、それは違う。「最近ほねほね公園でよく遊んでるあの子、誰?」 見られていたか。でも、当たり前だ。だって、俺と薫はご近所さんだし、ほねほね公園も家から近いのだから。

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「親戚の子だよ。家が近いんだ……」「ふぅん」 マズイ。彼女の「ふぅん」は、「ダウト」と同義なのだ。つまり、俺の嘘がばれているということ。 額から汗が噴き出るのを感じる。エアコンが稼働していないのが恨めしい。薫は汗をかいていない。「そんな暑い?」と言って薫は首を傾げる。「今日は涼しいと思うけど」「いやぁ、朝飯の激辛カレーが今になって効いてきちゃってさぁ……あはは……」「ふぅん……」 薫の邪

じや

眼がん

が俺を捉える。いよいよ俺は死を覚悟する。 薫の邪眼がどれほど恐ろしいか――。 邪眼に睨

にら

まれたとある生徒は、三日三晩高熱にうなされ、その後体中にハチミツを塗りたくって「僕プーさん」とわめき散らしながら町中を駆け回ることになった。という夢を見たという。 俺は動

どう

悸き

を鎮めるために、ポケットからメントス(ミント味)を取り出し、食べるッ。 やはり心を落ち着かせるにはメントスが一番だ……ほら、ごらん? 僕の心臓がみるみる静まっていくだろう? 二個食いなんてしたら、きっと心臓が止まってしまうよ――。 けっきょく動悸がまったく鎮まらないまま講義を受けることになった。 薫は授業終了まで一言も喋らなかったが、ノートをバッグにしまって席を立ったあと、「なにか悩みがあるなら、相談しなよ」 と冷たく言い放った。 これはつまり、「私に隠し事は通用しない。黙っていても無駄なことだ。無駄なんだから素直に報告したまえ低脳野郎」という意味だ。「い、イエッサー……」

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 俺は力なく敬礼する。 薫は怪

訝げん

そうな顔をして教室を出て行った。 それにしても、薫とは本当に長い付き合いなのに、慣れない。実に慣れない。 そもそも俺が薫の内なる悪魔を見たのは、小学生の時だった。

 単刀直入に言うと、俺は小学生のとき薫にいじめられていた。 薫は誰もが認めるヨイコチャンだった。礼儀正しくて、仲間想いで、マジメで、運動もできて、それはそれは模範囚、いや、模範生だった。 しかし、ある日突然彼女は本性をむき出しにした。 俺はその日、掃除の時間に使う三角巾を家に忘れてしまった。掃除の時間は三角巾をつけなくてはいけない決まりがあって、忘れると先生から怒られる。俺は怒られたくなかった! だから、給食のときに使うテーブルクロスを二つに折って、三角巾に偽装して装備したのだ。作戦は完璧だった。先生すらも気が付かなかった。しかし――。「五月くんが、給食のテーブルクロスを三角巾にしていました。汚いと思います」 薫のやつ、帰りの会の『委員会からのお知らせ』の時間を利用して、俺の完璧な偽装を暴露したのだ! 周囲は俺を「うわぁ汚ぇ」「五月くん、揚げパンの粉こぼしてたよね? それをかぶるなんて……」「なんとも稚

拙せつ

な策なり」などと謗そし

った。 俺は憤慨した。ホームルーム中は拳を握りしめて耐えていたけど、帰り道、俺は薫の前に立ちはだかって抗議した。「お前! よくも俺をコケにしたな!」「あなたが悪いんじゃない? 忘れたならきちんと忘れたって言わないとダメ」

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「うぐぐぐ……よくも、よくもっ!」 俺は我を失っていた。心の中のアルティメットビーストが鮮血を求めていた。 俺は拳を振り上げて駆け出した。相手は女子だとか、そんなモラルは吹き飛んでいた。「オラぁぁぁぁぁぁ!」 渾身の右ストレートを放った。が、しかし――。 拳は空を切った。「な !?」 薫は紙一重で拳をかわし、俺の背中に名状しがたいチョップのようなパンチのような掌

しよ

底うてい

のような突きのような攻撃を食らわしてきた。「げふぅうう!」 俺は倒れた。完敗だった。 うつ伏せの状態で見上げると、薫が絶対零度の冷たい目で俺を見下ろしていた。あれは人間の目じゃなかった。 ちなみに、見上げたときに薫のスカートの中のパンツが見えてしまった事実は、墓場まで持っていくつもりだ。水色だった。「女相手に殴りかかってくるなんて、五月くん、男としてどうなの?」 俺はなにも言い返せなかった。「もし五月くんがこんなことする人だってみんなが知ったら、どうなるかな?」「まさか、また帰りの会で言いふらす気か!」「どうしようかなぁ」 悪魔を見た。この日、俺は、悪魔を、見た。「お願いだ、言わないでくれ! なんでもするから!」「なんでも?」「そう、なんでも!」 薫は頬に手をあてて、首を傾

かし

げながらしばらく考え込んでいた。きっと脳

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内では「死刑」「拷問」「強制労働」「セルフ羞しゆ

恥うち

プレイ」といったワードが次々と生まれては消え、生まれては消えしていたに違いない。「じゃあ五月くんさぁ、私の言うことを、どんなことでも一回聞いてくれるチケットちょうだい。今はお願いしたくなくて、また後でお願いがしたいの」「……い、イエッサ―」 俺はランドセルの中からノートを取り出して、ページをちぎって必要事項を明記のうえ、彼女に手渡した。 それが『なんでも言うこと聞くチケット』だ。 それからのこと、彼女はなんども「チケット使う」と言って俺を体育館裏だとか公園だとか自宅に呼び出した。でも、いつも最終的に「やっぱりいいや、また今度にする」と言って終わるのだった。 俺は日々ビクビクしていた。いつ「さぁ死んでちょうだいな」と言われるかも分からない状態で落ち着いて生活できるはずがない。 彼女はことあるごとに揚げ足をとってきた。その度に俺はクラスの笑いものになった。 彼女は満足そうだった。俺が嘲笑されるのを見て、ニヤニヤとデビルスマイルを浮かべていた。 確かに、三角巾の件で苦汁をなめたその日以降、暴力を受けたり、直接的に悪口を言われたりすることはなかった。でも、これはれっきとしたイジメである! 弱みを握り、心を弄

もてあそ

ぶ行為がイジメ以外のなにであるというのか! 授業中もよく目が合った。彼女は、さて次はどんな風にしてイジめてやろうかな? みたいな目をしていた。その度に俺は戦

せん

慄りつ

したものだ。 そして、大学三年生になった今でも『なんでも言うこと聞くチケット』は使用されていない。 そんなこんなで、俺は完全に薫恐怖症になってしまっている。

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 俺は帰路をたどっているが、ほねほね公園による必要がある。俊吾と玲との合同作戦があるからだ。いや、作戦がなくとも、ミチルと会うためによっていただろうが。 ミチルは一人でブランコに揺られていた。 俺が声をかけると、目が潰れるくらい輝かしい笑顔を見せてくれた。 俺はミチルと会話しながらも、公園を囲む灌

かん

木ぼく

の奥からひょっこり頭を出してこちらを眺めている俊吾と玲との目配せを怠らない。作戦開始のタイミングを申し合わせているのだ。彼らは、俺の合図を今か今かと待っている。「私、将来のために頑張ってお勉強しているのです!」とミチルは言う。「へぇ、なんの勉強?」ミチルの夢はなんだろう。幼稚園の先生とかお花屋さんとかが似合う気がする。 ミチルはえへへと照れた笑いを浮かべながら、ランドセルから『ゼクシィ』を取り出した。「! ……あ、ああ……ミチルは、雑誌を作るお仕事に就きたいのかな?」 俺は声が裏返ってしまった。そんなはずはないと思いながらも、一

いち

縷る

の望みを捨てられなかった。ミチルが「はい! そうなのです!」と言ってくれることを願った。「違いますよ。なに言っているのですか五月くん。お嫁さんに決まっているじゃないですかぁ。五月くんと結婚する日までに、いろいろ知っておかなくちゃならないので、本を読んで勉強しているのです」 オーマイゴッド! 罪深き我を許したまえ……。 俺はメントスを食べて心を落ち着かせようとするが、いまだかつてメントスを食べて心が落ち着いたことはない。 ミチルよ。どうして君はそんなに純粋なんだ? 君の両親はどんな人なんだい? ちゃんとした教育を受けているのかい? ああ、俺は心配だよ。知

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らないおじさんがお菓子をくれると言うだけで君はフォイフォイとついていくだろう。ああ、俺は心配だよ。心配できるような立場じゃないけど、俺は完全に騙している側だけど、それでも、心配だよミチル……。 ミチルは『ゼクシィ』の中の一ページを俺に向ける。「このドレス素敵じゃないですか? 私これで結婚式したいなぁ……あ! でも五月くんに無理をさせるようなことはしませんよ! お金がなかったら籍を入れるだけでもいいのです! 私、面倒な女にはなりたくないのです!」 そんな気遣いができる子がなぜ、俺みたいな詐欺師に引っかかっているんだ?「だから、結婚式は無理してやらなくてもいいですからね?」「いやダメだ。ちゃんと式は挙げよう。お金のことは心配しないでくれ。そのドレス、きっと似合うよ」 馬鹿か俺はぁぁぁぁ! なぜ罪を重ねるんだぁー! ついに引き返せないところまで来てしまったか! ――いや、諦めるにはまだ早い。 俺は天に向かってグっと背伸びをした。これが作戦開始の合図である。 俊吾と玲が動いた。公園入口からこっちに向かってくる。「んっふっふっふっ。ついに追い詰めたぞ五月くんよぉ! 今日という今日はキッチリと耳揃えて金返してもらうぜ(棒読み)」「兄貴ィ、コイツ、いっちょ前に女連れてますぜぇ? 女と遊ぶ余裕あんなら働けって話っすよねぇ(棒読み)」 俊吾と玲は台詞を忘れないよう、手の甲に書き記された文字を見ながら喋っている。「くっ……! しつこいやつらだ! わざわざ未来から追ってくるとはな!」 俺はプロ顔負けの迫真の演技をする。あまりに上手すぎて、俊吾と玲は笑いをこらえるような表情になっている。「ぷ、ぷふふふ……ふ、ふふ……と、とにかくだ。未来も過去も関係ない。

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金は金なのだ。過去に来たからって、利子が減るわけではないのだよ。分かったらとっとと金を出すんだ(棒読み)」と俊吾は言う。「ない! 金は一銭もない!」「ジャンプしてみぃ、ジャンプ(棒読み)」と玲が言う。「お前の借金はもはや五億まで膨れ上がってるんだぜぇ? 生命保険じゃまかないきれないぜぇ? 奥さんにもあの世にいってもらうことになるぜぇ? はっきり言っておくが、お前は奥さんを一生幸せにすることができない人間のクズさ。奥さんには苦労しかかけない、正真正銘のクズなのさぁ(棒読み)」 作戦はシンプル。ミチルに愛想を尽かしてもらうのだ。俺が借金まみれのド底辺男で、なおかつ強

こわ

面もて

(?)の借金取りに日々追われる生活をしていると思わせれば、さすがのミチルも怖

お じ け

気づいて退いてくれるだろう。 俺は、ミチルにすべてを嘘だったと言う勇気はない。だから、せめて嫌われることで、この件を解決しようと、三人で話し合って決めたのである。もちろんできるならば嫌われたくない。でも、仕方ないのだ。嫌われるのは、いたいけな少女を騙した罰として、受け入れる。なんとか受け入れる。 そう、だからミチル、君は今すぐ逃げるんだ。こんなやつの妻になるなんてまっぴらごめんだよ、っていう風に今すぐズラかるんだ。「五月くんをいじめないで下さい!」 ミチルが俺の前に出て、両手を広げる。俺をかばっているのか?「さっきからお金お金って、そんなにお金が大事ですか? いいです! 私が頑張って働いて、いっぱい稼いで、それをゼンブあなたたちにあげます! だからもう五月くんをいじめるのはやめて下さい!」 俊吾と玲は完全にビビッている。おい、押されるなよ。「……あ、ああん !?」俊吾が設定を思い出し、無理やりすごむ。「こ、このお可憐なお嬢様……いや、この女

あま

ァ! このロクデナシをかばうつもりかですかぁ? そうなのかですかぁ?」「夫を守るのは妻の務めです!」ミチルは毅然と答える。「う、うう……しかしだねぇお嬢ちゃん。この男はドブでバタフライでもし

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ているのがお似合いな男なんだじぇ? こんなやつと一緒になっても幸せになれないじぇ? むしろ最低な人生を送ることになるじぇ?」「構いません!」ミチルは即答する。「それでも構わない! 五月くんと一緒なら、私は幸せです!」 俊吾と玲は黙り込んで、ミチルをじっと見つめる。 無言が続く。ミチルはじっと俊吾と玲を睨み続ける。 こんなにカラスの鳴き声が大きいと感じたことはない。 やがて、「……ふ、ふふふ……あははは……あははははははは! ミチルちゃん、その言葉が聞きたかった!」いきなり俊吾が笑いだし、わけの分からないことを言う。どういうことだ?「なるほどなぁ。ミチルちゃんの愛は本物ってことかぁ」玲はうんうんと頷いて、俺の方を向き、「五月ィ、いい人を持ったなぁ」 ……は? おいおい、なに心打たれてるんだ! 作戦を遂行しろ!「ミチルちゃん、五月をよろしくお願いします」と言って俊吾は頭を下げる。「よろしくだじぇ。オイラたちは本当は、未来幸福審議委員会の者なんだぁ。愛が本物かどうかを調べるために、未来からやって来たエージェントなんだぁ」と言って玲はドヤ顔をする。 勝手に設定を変えるな! なんのつもりなんだ!「はい! ゼッタイに五月くんを幸せにしてみせます!」 ミチルはビシッと背筋を伸ばして答える。「アディオスアミーゴ!」「また会おうじぇ」 俊吾と玲は一仕事終えた感じで公園を出て行った。俺は放心状態。「未来には不思議な人がいるのですね」 ミチルは満面の笑み。 いよいよ、いよいよいよいよ、俺は引き返すことができなくなってしまった。

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「貴様らぁ! いったいどういうつもりだぁ! ミチルに失望を抱かせるどころか、絆がまた一段と強くなってしまっただろうが!」 俺は俊吾と玲を家に呼び出し、どなりつけた。「だ、だってよぉ……ありゃあ本物だじぇ……モノホンのラヴだじぇ。それにしても、本当に天使みたいな子だったなぁ……」「五月よ。僕たちにできることはもうない。僕たちは精一杯やった。ところで五月よ、よく考えてみたまえ。ミチルちゃんだっていずれは大人になる。するとおのずと貴様が嘘をついていたことを悟るだろう。その頃になれば、彼女だって大人的な鷹

おう

揚よう

さを身に付けているだろうから、きっと笑って許してくれるさ――。貴様は、サンタクロースがいないと悟ったとき、父親を憎んだり、フィンランドを爆撃してやろうと思ったりしたか? しなかっただろう? それと同じさ。な?」 な? じゃねよこの野郎! 貴様らに貢いだケーキを返せ!「いったいこれからどうすればいいんだ……」 俺は全身の力が抜けていくのを感じる。「とにもかくにも、今はミチルちゃんを大切にしてやれ」俊吾はカップに注がれたコーヒーをすする。「笑って嘘を許してもらえるくらいに仲良くなってしまえ。むろん、ふしだらな行為は許さんがな」 俺は天井を仰いだ。 俊吾の言う通りかもしれない。嘘のショックを超えるくらい、仲良くなってしまえば、もしかすると――。「ところで五月ィ。今日はケーキないのかぁ?」 そう言って玲はニヤつく。「調子に乗るんじゃない!」 俺は渾身のバーストデコピンを食らわした。

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 玲は絶叫して畳の上を転げまわった。


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