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Kobe University Repository : Kernel90...

Date post: 01-Mar-2021
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Kobe University Repository : Kernel タイトル Title 日本語OPI における対話型タスク : 発話を引き出すタスクの構 (Dialog-type Task in Japanese OPI : Mechanisms to Extract Utterances) 著者 Author(s) 山内, 博之 掲載誌・巻号・ページ Citation Learner Corpus Studies in Asia and the World,3:87-98 刊行日 Issue date 2018-03-12 資源タイプ Resource Type Departmental Bulletin Paper / 紀要論文 版区分 Resource Version publisher 権利 Rights DOI JaLCDOI 10.24546/81010120 URL http://www.lib.kobe-u.ac.jp/handle_kernel/81010120 PDF issue: 2021-07-28
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Page 1: Kobe University Repository : Kernel90 OPIは「対話型」のタスクに基づくコーパスではあるのだが,それが本物の「対話」なのかと言うと, そうであるとは言いにくい。テスターが誘導するという条件に基づいて成り立つ「対話」となっている。これが短所の①である。短所の②は,4点の長所とちょうど裏腹の関係にあるもので

Kobe University Repository : Kernel

タイトルTit le

日本語OPIにおける対話型タスク : 発話を引き出すタスクの構造(Dialog-type Task in Japanese OPI : Mechanisms to ExtractUtterances)

著者Author(s) 山内, 博之

掲載誌・巻号・ページCitat ion Learner Corpus Studies in Asia and the World,3:87-98

刊行日Issue date 2018-03-12

資源タイプResource Type Departmental Bullet in Paper / 紀要論文

版区分Resource Version publisher

権利Rights

DOI

JaLCDOI 10.24546/81010120

URL http://www.lib.kobe-u.ac.jp/handle_kernel/81010120

PDF issue: 2021-07-28

Page 2: Kobe University Repository : Kernel90 OPIは「対話型」のタスクに基づくコーパスではあるのだが,それが本物の「対話」なのかと言うと, そうであるとは言いにくい。テスターが誘導するという条件に基づいて成り立つ「対話」となっている。これが短所の①である。短所の②は,4点の長所とちょうど裏腹の関係にあるもので

日本語 OPIにおける対話型タスク

一発話を引き出すタスクの構造一

山内博之(実践女子大学)

[email protected]

Dialog-type Task in Japanese OPI

-Mechanisms to Extract Utterances—

YAMAUCHI Hiroyuki (Jissen Women's University)

概要

OPIはテストであるので,被験者の最高の発話パフォーマンスを引き出せる構造になっている。あ

らかじめ定められた質問群を被験者にぶつけるのではなく,被験者の発話を聞き,そのレベルを逐

次判定しながら,被験者のレベルに合わせた質問(タスク)を次々に与えるのが, OPIのインタビュ

一方法であり,それによって,被験者の最高の発話パフォーマンスを引き出すことができている。た

だし,OPIには,テスターの高度な熟練が必要であるという面と,話題に関する配慮が不十分であ

るという面がある。OPIを学習者コーパスの作成に利用する際には,そのような OPIの長所・短所

を十分に考慮することが重要である。

キーワード

対話型タスク, OPI,KYコーパス,話題,機能

1. はじめに

本論文では,被験者の発話を最大限に引き出すための OPIの仕組みについて述べる。被験者

の発話を最大限に引き出せるという OPIの特徴は,OPIを利用したコーパスにもそのままの形で

引き継がれている。また,本論文では, OPIの弱点であると思われる点についても述べ, OPIと

OPIを利用した学習者コーパスの作成に関する提言を行なう。

2. OPIを利用したコーパス

2 .1 0 PI (Oral Proficiency Interview)とは

まず,ここでは OPIについて解説する。0PI (Oral Proficiency Interview)とは, ACTFL

(American Council on the Teaching of Foreign Languages)によって開発された,外国語の

口頭能力を測定するためのテストある。テスターと被験者が対面して l対 lで行ない,時間は最長

30分である。判定は,「初級」「中級」「上級」「超級」の 4段階であるが,これらのうち,「初級」「中

級」「上級」には,それぞれ「下」「中」「上」というサプレベルがある。つまり, OPIによる判定のレベ

ルには,低い方から順に「初級ー下」「初級ー中」「初級ー上」「中級ー下」「中級ー中」「中級ー上」

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Page 3: Kobe University Repository : Kernel90 OPIは「対話型」のタスクに基づくコーパスではあるのだが,それが本物の「対話」なのかと言うと, そうであるとは言いにくい。テスターが誘導するという条件に基づいて成り立つ「対話」となっている。これが短所の①である。短所の②は,4点の長所とちょうど裏腹の関係にあるもので

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「上級ー下」「上級ー中」「上級ー上」「超級」という 10段階があるということである。

OPIは,面識のない被験者に対して行なうのを前提としている。テスターの目の前に見知らぬ外

国人が座り,テスターは様々な質問を投げかけることによって,自らに与えられた 30分の間に,そ

の被験者の口頭能力が 10段階のうちのいずれであるかを決定する。これが, OPIなのであるが,

30分以内のインタビューで,ある一定以上の信頼性を保った上で,被験者の口頭能カレベルが

10段階の中のいずれであるかを決定するというのは,そう簡単なことではない。ACTFL公認の

OPIテスターになるためには,4日間のワークショップに参加し,さらに,ワークショップが終わって

からも,担当のトレーナーに自分が行なったインタビューの録音を聞いてもらい,コメントをもらった

りしなければならない。

2.2 OPIの活用法

OPIは口頭能カテストではあるのだが,口頭能カテストとしての利用は案外少ない。その理由は,

1人の被験者の能力を測定するために最長で 30分もかかってしまうという実用「生の低さにあるの

ではないかと思われる。もしある日本語学校に 70人の新入生が来たとして,プレースメントテストと

して全員に OPIを課したとすると,最長で 35時間もかかってしまう。それなら,たとえ多少妥当「生

に欠けたとしても,ペーパーテストで能力を測定してプレースメントを行なう方が賢明な選択である

と言えよう。

現在,OPIの利用方法として最もメジャーなのが,学習者コーパスとしての利用である。日本語

OPIを利用したコーパスには,筆者が知る限りでは,「KYコーパス」「ドイツ語話者日本語学習者

話し言葉コーパス」「日本語学習者会話データベース」の 3つがある。

2.3日本語 OPIを利用したコーパス

KYコーパスとは,日本語 OPIの 90人分のインタビューを文字化して作成したデータのことで

ある。中国語母語話者・英語母語話者・韓国語母語話者がそれぞれ 30人ずつであり,その 30人

の内訳は,初級 5人,中級 10人,上級 10人, 超級 5人となっている。KYというネーミングは,そ

の作成者である鎌田修氏と筆者(山内)の頭文字からとったものである。なお,KYコーパスは作成

者からの配布によって使用が可能になるので,使用を希望される方は,筆者まで E メール

([email protected])でご連絡いただきたい。

ドイツ語話者日本語学習者話し言葉コーパスは,被験者の母語をすべてドイツ語とし, 45名分

のインタビューを文字化したものである。45名の内訳は,初級・中級・上級がそれぞれ 15名ずつ

である。ちなみに,ドイツ語話者日本語学習者話し言葉コーパスは,http://germ an -opi.jpn.org/

よりダウンロードが可能である。

日本語学習者会話データベースは,国立国語研究所によって作成されたもので, 339名分の

OPIの文字化データが含まれている。日本語学習者会話データベースは,国立国語研究所の

HPよりダウンロードが可能である。

異なる学習者コーパス同士を合体させて使用することは,普通は不可能だが,OPIを利用した

Page 4: Kobe University Repository : Kernel90 OPIは「対話型」のタスクに基づくコーパスではあるのだが,それが本物の「対話」なのかと言うと, そうであるとは言いにくい。テスターが誘導するという条件に基づいて成り立つ「対話」となっている。これが短所の①である。短所の②は,4点の長所とちょうど裏腹の関係にあるもので

コーパスの場合には,それが可能である。たとえば,KYコーパスにはドイツ語母語話者のデータ

は収録されていないが,中国語・英語・韓国語のみでなく,ドイツ語を母語とする被験者についても

調べたいのであれば, KYコーパスとドイツ語話者日本語学習者話し言葉コーパスを合体させて使

用すればよい。また,KYコーパスとドイツ語話者日本語学習者話し言葉コーパスだけでは,デー

タ数が不十分だと考えるのであれば,さらに日本語学習者会話データベースからデータを持って

来て,合わせて使用すればよい。

なぜ,このようなことが可能なのかと言うと,いずれのコーパスにおいても,発話データの採集方

法が同一だからである。当たり前のことではあるが,OPIを利用したコーパスにおける発話データ

の採集方法は,すべてOPIのインタビュー法に基づいている。しかも,データ採集者,つまりテスタ

ーは,その方法に関する徹底したトレーニングを受けているわけである。もし研究者自身が OPIテ

スターであるなら,自分自身で行なった OPIのインタビューを文字化してデータに加えてもよい。こ

のように,データをどんどん連結して使用できることは,OPIを利用したコーパスの大きな利点であ

り,特徴でもある。本稿では,OPIを利用したコーパスを一括して,「OPIコーパス」と呼ぶことにす

る。

2.4 OPIコーパスの長所と短所

OPIコーパスの長所と短所を箇条書きにしてまとめると,次の(1)のようになる。

(1)長所:①被験者の最高のパフォーマンスが引き出されている。

②被験者の発話能力が明示されている。

③インタビューの構成が標準化されている。

④インタビュアーが十分にトレーニングされている。

短所:①真の意味での「対話」であるとは言いにくい。

②インタビュアーには,高度の熟練が必要である。

OPIコーパスは,もともとは OPIというテストであるので,長所の①と②については当然のことで

はある。テストであるから,被験者の最高のパフォーマンスが引き出されるような工夫が施されてい

るし,テストの結果である発話能力についても,「初級ー下」から「超級」までの 10段階のレベルで

表示されている。しかも,この判定には,かなりの信頼性があることが期待できる。

なぜ,高い信頼性を期待できるのかと言うと,長所の③と④にあるように,インタビューの構成が標

準化されており,さらに,インタビュアーも,OPIテスターの資格を取得するまでの過程において,

十分なトレーニングを積んでいるからである。

その一方で,OPIコーパスには短所も存在する。テスターと被験者が会話をしながらインタビュー

を作り上げていく OPIコーパスは,「対話型」のタスクに基づくコーパスであると考えられる。しかし,

被験者からテスターに対して自発的に話しかけることは基本的にはなく,ロールプレイ部分を除け

ば,テスターが質問を発し,被験者がそれに答えるという「Q→A」構造で成り立っている。だから,

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OPIは「対話型」のタスクに基づくコーパスではあるのだが,それが本物の「対話」なのかと言うと,

そうであるとは言いにくい。テスターが誘導するという条件に基づいて成り立つ「対話」となっている。

これが短所の①である。

短所の②は,4点の長所とちょうど裏腹の関係にあるものである。長所の①②を具現化すべく,

標準化されたインタビューの構成(③)が設定されているのだが,どんなレベルのどんな被験者が

目の前に来たとしても,標準化された構成を守ってインタビューを行ない,そして,被験者の最高の

パフォーマンスを引き出して,高い信頼性を保ちつつ判定を行なうというのは,そう簡単なことでは

ない。高い熟練を要することである。

3. 話題と機能によるインタビューの分割

3.1「Q→A」という構造

次に,OPIコーパスの実際のデータがどのようになっているのかを示す。OPIのインタビューは,

話題と機能によって支配されている。テスターは,目の前にいる被験者の発話内容に耳を傾けつ

つ,かつ,それぞれの発話のレベルも測定しつつ,話題と機能を適切に設定してインタビューを進

めていく。

前項で,OPIのインタ ビューにおけるやりとりが,テスターが質問し,被験者が答えると

いう「Q→A」形式になっている ことを述べた。OPIのインタ ビューにおいては,「Q→A」

のQとなるテスターの質問が,テスターの意図した話題と機能とによって形作られており ,

その質問に対して被験者が答えるという構造になっている。つまり ,被験者の答えは,テス

ターに要求された話題を扱っていなければならず,かつ,機能についても,たとえば「説明

する」「比較する」「意見を言う」など,テスターによって要求されたものになっていなけれ

ばならない。被験者がまったく違う話題を話し始めたり ,要求された機能を遂行していなか

ったりした時には,多くの場合テスターは,やや言い方を変えて同じ質問を繰り返すこと

になる。

OPIのインタ ビューとは,テスターと被験者によって作られる「Q→A」の集合体であ

り,したがって,テスターが繰り 出すQがどのようなものであるかを探っていけば,そのイ

ンタ ビューの全体像がつかみやすくなる。そのためには,テスターのQに話題と機能のタグ

を付け,その実態が見えやすくなるよう工夫する必要があるだろう 。

3.2話題と機能のタグ付け

では,次に,どのような話題タグと機能タグをテスターのQに付けるかという ことを考え

る。

まず,話題についてであるが, OPIのインタ ビューにおいては,いきなり持ち出すことが

できる話題とそうでない話題とがある。たとえば,「出身はどちらですか。」のような「出身

地」に関する話題は,いきなり持ち出しても特に不自然ではない。しかし,「郷土料理の作

り方を教えてもらえませんか。」のような「料理の作り方」に関する話題は,いきなり持ち

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出すとかなり不自然である。「出身地はどこですか。」と質問することで会話を始め,そこか

ら故郷の話になり ,たまたま,そこに有名な郷土料理があるというような話にでもなれば,

「では,その郷土料理の作り方を教えてもらえませんか。」というように聞くことが可能に

なる。 しかし,会話の初めにいきなり「郷土料理の作り方を教えてもらえませんか。」と聞

くことには無理がある。

このようなことから, OPIのインタビューで扱う話題には,まず,いきなり持ち出しても

不自然ではない話題があることがわかる。これを「基本話題」と名付ける。たとえば,「出

身地」は基本話題の 1つである。そしてもう lつ,いきなり持ち出すことはできないが,基

本話題から始まった会話が展開し,たまたまそこに派生的に出現したから扱えるという話

題がある。これを「派生話題」と名付ける。たとえば,「料理の作り方」は派生話題の 1つ

である。そのため,話題に関しては,基本話題と派生話題という 2種類のタグを準備するこ

とにする。

次に,機能についてであるが, OPIテスターは,「上級レベルの機能」と「超級レベルの

機能」の 2種類を,インタビューの時にはいつも意識している。インタビューは,最初は,

1文で答えられるような簡単な質問から始めるが,被験者のレベルがさらに上だとわかれば,

段落で答えなければならない質問や複段落で答えなければならない質問を投げかけるよう

にする。これらを, OPIでは「突き上げ」と呼んでいるが,「突き上げ」がうまくできるか

否かは,いいテスターであるか否かの試金石の 1つとなるものでもある。段落で答えさせ

るためには,たとえば「説明する」という機能を被験者に課すことになり,複段落で答えさ

せるためには,たとえば「意見を言う」という機能を被験者に課すことになる。

以上より,話題に関するタグとしては「基本話題」と「派生話題」の 2種類を,機能に関

するタグとしては「上級レベルの機能」と「超級レベルの機能」の 2種類を設定することに

する。そして,次の (2) のように, 4種類の括弧を用いて,これら 4種類のタグを書き分けて

いくことにする。

(2)【】:基本話題(いきなり持ち出しても不自然でない話題)

[]:派生話題(基本話題から派生した話題)

〈〉:上級レベルの機能

《》:超級レベルの機能

3.3KYコーパスの CS03のインタビューの構造

ここでは, OPIコーパスの1つであるKYコーパスの中のCS03というデータを例に,話題タグ・機

能タグがどのように付されていくのかを見ていくことにする。なお,CS03の「C」は「Chinese」,つま

り中国語母語話者であることを表し,「S」は「Superior」,つまり超級話者であることを表している。

「03」は単なる番号であり,特別な意味はない。CS03は30分弱のインタビューであるが,「Q→A」

のQが要求する話題と機能にタグを付けていくと,インタビューの全体像は次の(3)のようになる。

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(3) 【導入の話題】→【出身地】→【来日の理由 ・目的】→【現在の身分】→[大学時代の専門]→

[中国文学と日本文学]〈比較〉→【休日や暇な時間の過ごし方】→[出身地の名所]→[台

湾と中国の関係]《意見》→[台湾の国会議員]《意見》→[環境問題]〈説明〉《意見》→[来

日時の身分]→[留学]《助言》→【家族】〈説明〉→[映画]〈ストーリーテリング〉→[未婚の母]

《意見》→[クウェートとイラクの問題]《意見》→【RP:友達に禁煙を勧める】→【RP:歓迎パ

ーティーでスピーチをする】→【終結の話題】

このインタビューの冒頭は「名前を教えてください」というようなテスターの問いかけで

始まり, これを 【導入の話題】とした。次に 【出身地】【来日の理由 ・目的】についてテスター

が問いかけ,さらに【現在の身分】を問うた時に,話がそこから深まって,[大学時代の専門]という

派生話題が登場する。そして,被験者の専門が文学であったということから,[中国文学と日本文学]

について〈比較〉をさせるという質問をしている。このインタビューでは,ここで初めて〈比較〉という上

級の機能が登場する。

インタビューは,ここで基本話題に戻り,【休日や暇な時間の過ごし方】を尋ねている。その後,

[出身地の名所]という派生話題に移り,さらに,話題が[台湾と中国の関係]となった時に,《意見》

を聞くという超級の機能が登場する。そして,この質問の後も,超級レベルの機能が続いていく。テ

スターは,ここまでのインタビューで,この被験者が「上級ー下」以上であることを確信したのであろ

う。

インタビューの最後の方にある【RP:友達に禁煙を勧める】【RP:歓迎パーティーでスピーチをす

る】の「RP」というのは,ロールプレイを課したことを意味している。ロールプレイの話題及び機能は,

それぞれ「友達に禁煙を勧める」と「歓迎パーティーでスピーチをする」である。ロールプレイにおけ

る話題は,基本話題であるとも派生話題であるとも言いにくいところではあるのだが,普通,ロール

プレイはいきなり課すものであるので,とりあえず,基本話題とし, 【】という括弧を使用した。また,

ロールプレイについては,【】の中に,話題のみでなく,機能もわかるように記述した。

ちなみに,CS03のみでなく ,KYコーパスの超級話者 15人分すべてのインタビューデ

ータに,話題タグと機能タグを付けてみたが,基本話題タグと機能タグについては,その内

容が次の (4)に限定されていた。

(4)【】 :【家族】【学校】【帰国後の予定】【休日や暇な時間の過ごし方】【今日の予定】【現在の身

分】【出身地】【趣味】【スポーツ】【住んでいる場所】【専門】【テレビ】【 日課】【 日本に来て

困ったこと】【 日本の印象】【 日本の生活】【来日 】【来日の理由 ・目的】【来日前の身分】

〈〉:〈説明〉〈比較〉〈描写〉〈手順〉〈ストーリーテリング〉

《》:《意見》《仮定》《反論》《助言》

言語において,まず,その機能は有限である。そのためか, (4)に示されたように,上級

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の機能については〈説明〉〈比較〉〈描写〉〈手順〉〈ストーリーテリング〉という 5種のみに,そして,超

級の機能については《意見》《仮定》《反論》《助言》という 4種のみに,出現が限定されていた。また,

話題については,初対面という前提であれば,いきなり持ち出せる話題は限られてくるので,(4)に

示された【家族】【学校】【帰国後の予定】等の 19種しか現れなかったのであろう。その反面,たった

15人分の OPIであっても,派生話題には様々なものがあった。さらに,機能及び基本話題とは異

なり,インタビューが増えれば増えるだけ,派生話題のバリエーションも増えていくであろうことが予

想される。

筆者自身,これまでに数百人の OPIのインタビューを聞いたことがあるが,同一のインタビューと

いうのは,もちろん一切なかった。被験者が変われば,インタビュー内容も大きく変わるのであるが,

このようにして見てみると,被験者によって変化し得るのは派生話題のみであると言えるようである。

(5)に示した約 20種類の基本話題と約 10種類の機能が OPIの土台として存在し,ほぼ無限と思

われるほどバリエーションのある派生話題を,その土台の上に受け入れているのであろう。

4. OPIにおける対話型タスクとは

4.1 OPIのダイナミズム

OPIのインタビューは,テスターと被験者が織り成す「Q→A」の集合体である。3.では,テスター

が発するQの話題と機能について見てきたが,ここでは, Qの動的な側面について見ていく。

テスターが発するQをタスクであると考え,それを,テスターと被験者のやりとりというダイナミズム

の中でとらえて図式化すると,次の図 lのようになる。

ロニー1

□]→□□一ロ図 1OPIの手順

まず,テスターは,被験者に対して「質問」という形のタスクを投げかける。その際の質問の話題・

機能については, 3.で述べたとおりであるが,被験者は,質問によって要求された話題・機能の発

話を行なう。テスターは,その発話を聞き,話題・機能は適切か,また,その発話の正確さがどうで

あるか等を総合的に判断し,その発話の判定を行なう。具体的には,その発話が上級(あるいは超

級)としてふさわしいものであったか否かというような判定を行なう。

そして,その判定結果を考慮しつつ,次のタスク(質問)を被験者に投げかける。たとえば,直前

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の発話の話題・機能が上級の水準を十分に満たすものであったとすると,次のタスク(質問)は,話

題をやや抽象化し,機能をより難度の高いものに設定する必要がある。あるいは,直前の発話の内

容によっては,だいたい同じレベルの抽象度の話題で,同じレベルの機能の質問をもう 1度繰り返

すのが妥当だということもあり得る。前項では,テスターのQ(質問)が話題と機能によって形作られ

ると述べたが,どのような話題・機能を選択するかは,直前の発話を聞き,それを即座に判定するこ

とによって瞬間的・反射的に決めなければならないことなのである。

4.2 OPIにおける対話型タスク

したがって,OPIにおけるタスクがどのようなものであるかを定義づけるとすると,「被験者の発話

を聞いてレベルを判定し,その判定を考慮しながら瞬間的に課すタスク」ということになる。このよう

に,テスターと被験者の対話というダイナミズムの中で発せられるタスクこそが,OPIの対話型タスク

である。

3. では, OPIテスターは,約 20種類の基本話題と約 10種類の機能を質問の中に自由に織り

込めるようにする必要があることを述べた。それが,無限とも思えるバリエーションを持つ派生話題

を扱うための基礎だったわけであるが, OPIテスターは,それだけでな<, 「①被験者の発話を聞

き,②そのレベルを判定し,③それによって次のタスク(質問)を考え,④被験者に課す」というプロ

セスをインタビューの中でよどみなく行なうということもできなければならない。それが, 2.4で述べた

ような,被験者の最高のパフォーマンスを引き出すことにつながっていく。

5. OPIの弱点とその対応

5.1名人芸としての OPI

以上,発話抽出法としての OPIの特徴を見てきた。特に,その長所に焦点を当てる形で特徴を

述べてきたわけであるが,もちろん,発話抽出法としての OPIには短所もある。まず, 2.4で述べた

「真の意味での『対話』であるとは言いにくい。」と「インタビュアーには,高度の熟練が必要である。」

がその代表例である。しかし,この 2つは,かなり直接的に,その長所の裏返しにもなっていること

が, 3.及び4.の解説から明らかであろう。OPIにおける会話は,明らかにテスターによって誘導され

ており,真の意味での「対話」であるとは言えない。しかし,それによって,話題や機能が周到にタス

クに組み込まれ,被験者のレベルとタスクのレベルがうまくマッチすることにもつながっている。また,

そうするためには,どうしても,ある程度,高度な熟練が必要になってもくるだろう。現時点での OPI

は,誰にでも模倣可能な標準化された技術と言うよりは,その習得にはある程度以上の修練が必

要になる名人芸であると言った方がふさわしいのかもしれない。

5.2超級のインタビューで扱われている話題

しかし, OPIには,名人芸でもカバーできていない原理的な不備がある。それは,インタビューを

行なう際の話題の選択についてである。ACTFLが発行しているマニュアルの記述に基づき,テス

ターを養成するワークショップ等では,「OPIにおける話題は『具体的・個人的 vs.抽象的・専門

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的』という図式でとらえられ,初級から上級までは『具体的・個人的』な話題を扱うことができればよ

いが,超級話者は『抽象的・専門的』な話題が扱えなければならない」というように,トレーナーによ

って説明されている。 なお,マニュアルには,「政治は超級の話題である」とか「美容 •健康は上級

の話題である」とかといった記述は一切なく,具体的にどの話題をどのレベルで扱うかは,テスター

の判断に任されている。

では,実際に, OPIテスターたちがどのような話題を扱っているかを観察してみたいと思う。次の

表 lは,KYコーパスの超級話者 15人分のデータにおいて扱われていたすべての派生話題を,

話題の分野別に分類したものである。基準として使用した話題分類の分野は,山内編(2013)によ

るものである。山内編(2013)では, 8110語の実質語を 100の話題に分類し,その 100の話題を

16の分野に分類している。ここでは,その 16の話題の分野を分類の基準として使用した。

表 1KYコーパスの超級インタビューで扱われている派生話題

山内編(2013)における話題分類 超級インタビュー

言語活動 領域 分野 話題 (15名)で扱われ

た派生話題の数

サバイバ 生活 文化 「食」など 10話題 14

八/ 人生 •生活 「町」など 16話題 37

人間関係 「家族」など 8話題 1

学校・勉強 「学校(小中高)」など 6話題 26

ポストサ 人文 芸術・趣味 「音楽」など 13話題 7

バイバル 宗教・祭り 「宗教」など 2話題

゜歴史 「歴史」の 1話題

゜社会 メディア 「メディア」など 2話題 7

通信・コンピュータ 「通信」など 2話題

゜経済・消費 「買い物・家計」など 8話題 5

産業 「工業一般」など 8話題

゜社会 「事件・事故」など 4話題 , 政治 「政治」など 7話題 15

自然 ヒト・生き物 「人体」など 5話題 3

自然 「気象」など 5話題 4

サイエンス 「算数・数学」など 3話題

゜KYコーパスの超級話者 15人分のインタビューにおいて使用されていた派生話題の総数は

128であり,それら 128が具体的にどのような分野に属する話題であったのかということが,上の表

lでは示されている。

これら128の派生話題は,超級話者のインタビューで使用されたものであるので,その大部分は

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「具体的・個人的」なものではなく「抽象的・専門的」なものでなくてはならない。しかし,表 lを見る

と,「人生・生活」「学校・勉強」という分野の,どちらかと言うと「具体的・個人的」であると思われる話

題が多く,この 2つだけで全体の約半数を占めることになっている。次に多いのが「文化」と「政治」

である。ちなみに,山内編(2013)では,「文化」「人生・生活」「学校・勉強」という分野は,「サバイ

バル」の言語活動で用いられる分野であると分類されている。KYコーパスの超級話者 15人のイ

ンタビューで用いられていた話題の分野として多かったのは「文化」「人生・生活」「学校・勉強」「政

治」の 4種であるが,これらのうち,「ポストサバイバル」に属するとされるのは「政治」のみである。

日本語 OPIテスターは,おそらく,ほぼ全員,日本語教師である。日本語教師は文系出身者が

多く,理系や社会科学系の話題に疎いことが多い。そのため,理系や社会科学系の「抽象的・専

門的」な話題で突き上げていくことを,つい避けてしまっているのではないだろうか。それが,OPI

において扱われる話題分野の偏りとして,表1に現われているのではないかと思われる。日本語教

師たちに理系及び社会科学系の知識のリテラシーが必要であるということが,その根底にはあるの

かもしれないが, OPIのシステムとしても,インタビューにおいて,話題のバリエーションが保証され

る仕組みが必要なのではないかと思われる。

このような OPIの弱さを, OPIコーパスも直接的に引き継いでしまっており,その点が OPIコー

パスの大きな問題点であるとも言える。OPIコーパスの先駆けである KYコーパスは, 1999年に公

開されて,すでに 1000人近い使用者がおり, KYコーパスを使用した研究も多数発表されている。

しかし,語彙習得に関して目を引くような研究は,管見の限りでは皆無であると思う。KYコーパス

は,収録されているデータ量がそう多いわけではない。にもかかわらず,話題に関するコントロール

も現実的には行なわれていないわけであるから,必然的に語彙習得の研究には使いにくいものに

なっているのであろう。

6. まとめ

最後に,まとめとして,OPIの弱点をカバーできる発話抽出法を提案したい。OPIの弱点をカバ

ーできる発話抽出法とは,ロールカードバンクと質問文バンクを作成し,それを利用して発話抽出

を行なうというものである。ロールカードバンクと質問文バンクがすでにできあがっているというわけ

ではないのだが,その雛形となり得るものはすでに存在しているので,ここではそれらを紹介する。

まず,ロールカードバンクについては,前項でも挙げた山内編(2013)に収録されているものが

ある。山内編(2013)には,次ページの表 2のような形でロールカードが収録されている。山内編

(2013)では,8110語の実質語を 100の話題に分類しているのであるが,それぞれの話題には,

ロールカードが 15種類ずつ掲載されている。表 2は,100話題のうちの 1つである「食」について

のロールカードである。表 2の横の列は,ロールカードが扱うタスクの難易度を表している。最上段

の列のロールカードは,単語しか発話しなくてもタスクが達成できるものである。そして,次の列は

単文、その次の列は複文を発しなければタスクが達成できないもの,さらにその下の列は段落を発

しなければタスクが達成できないもの,最下段の列は複段落を発しなければタスクが達成できない

ものとなっている。そして,表 2の縦の列は,ロールカードが扱う言語活動の領域を示している。職

Page 12: Kobe University Repository : Kernel90 OPIは「対話型」のタスクに基づくコーパスではあるのだが,それが本物の「対話」なのかと言うと, そうであるとは言いにくい。テスターが誘導するという条件に基づいて成り立つ「対話」となっている。これが短所の①である。短所の②は,4点の長所とちょうど裏腹の関係にあるもので

業領域の言語活動とは,この表で言えば,「食」という領域の職業人でなければ行なわない言語活

動である。一方,私的領域の言語活動は,「食」という職業には就いていない一般人が行なう言語

活動のことである。私的領域(場所)は, 一般人が「食」に関する場所に行って,「食」に関する職業

人と行なう言語活動のことであり,私的領域(人)は,一般人同士が「食」という話題で行なう言語活

動のことである。

表 2山内編(2013)に集録されている「食」話題のロールカード

職業的領域 私的領域(場所) 私的領域(人)

単 あなたはレストランの店員で レストランで案内係が人数 昨日あなたは餃子をたくさ

語 す。お客さんにある料理の やたばこを吸うかどうかなど ん食べました。友達に何個

値段を聞かれました。答えて について尋ねています。答 食べたか聞かれました。答

くださし\) えてください。 えてください。

単 あなたはレストランの案内係 レストランで食事が終わりま 友達があなたの食べている

文 です。人数やたばこを吸うか した。デザートの注文をし お菓子を見ています。勧め

どうかなどについて聞いてく てください。 てください。

ださし\)

複 あなたはレストランのホール レストランで店員が持って この前友達に作ってもらっ

文 係りです。ランチセットが売り きた料理が,注文したもの た料理の中で,おいしかっ

切れたので他の料理を薦め と違っていました。とりかえ たものの作り方を聞いてくだ

てください。 てもらってください。 さし\

単 あなたはエスニックレストラン あなたは食事つきの寮に 以前に食べておいしかった

段 の店員です。あなたの国の 入寮しました。寮母に,自 料理の名前が思い出せま

落 伝統的な料理を出したら,そ 分の国の食の習慣につい せん。友達にその料理の特

れがどういう料理なのか聞か て説明し,自分に合った食 徴を話して,名前を教えても

れました。材料や調理法など 事を出してもらえるよう,お らってください。

を教えてあげてください。 願いしてください。

複 あなたは貿易会社の社員で あなたが食べた食品に農 農業技術の発展や輸入食

段 す。あなたの国の珍しい食 薬が混入しており,健康面 品の増加によって,季節を

落 べ物を日本へ輸出したいで で被害を受けました。その 問うことなく何でも食べられ

す。その食べ物の魅力や価 食品を作った会社のサー るようになりました。その功

格を説明し,交渉してくださ ビスセンターに行って,ど 罪について友達と話し合っ

し‘゜ のような被害を受けたのか てください。

説明し,治療費・慰謝料な

どを要求してください。

山内編 (2013)には, 100話題のすべてについて表 2のような形で 15種類ずつのロール

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Page 13: Kobe University Repository : Kernel90 OPIは「対話型」のタスクに基づくコーパスではあるのだが,それが本物の「対話」なのかと言うと, そうであるとは言いにくい。テスターが誘導するという条件に基づいて成り立つ「対話」となっている。これが短所の①である。短所の②は,4点の長所とちょうど裏腹の関係にあるもので

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カードが示されており ,合計で 1500種類のロールカードが掲載されている。

次に,質問文バンクについては,中山他 (2017)に掲載されているものを紹介する。中山他

(2017)には,山内編(2013)と同じ100話題について,3段階の難易度に分類された質問文が 2

セットずつ掲載されている。次の(5)は,そのうちの「食」話題についての質問文のセットである。

(5)Al: あなたの好きな食べ物は何ですか。What'syour favorite food?

A2: あなたはどのくらいの頻度で料理をしますか。Howoften do you cook?

Bl: あなたの好きな料理の作り方を話してもらえますか。Couldyou tell me how to make

your favorite dish?

(5)の 3つの質問文の冒頭にある「Al」「A2」「Bl」は,CEFRにおけるレベルを表しているのだ

が,「食」という同じ話題で,Al→A2→ Blというように質問していくことを想定すると,それはまさに

OPIのインタビューそのものでもある。中山他(2017)には,このような質問文のセットが 100の話

題にそれぞれ2つずつ,合計で 200セット用意されている。1つのセットには 3つの質問文が含ま

れているので,掲載されている質問文の合計数は 600である。

ここに示した山内編(2013)と中山他(2017)のロールカードバンク・質問文バンクを利用して会

話テストを作成すれば,話題のバリエーションという点では配慮の行き届いたテストが作成できるの

ではないかと思われるが,いかがであろうか。また,それに基づいて作成する学習者コーパスも,話

題という点では配慮の行き届いたものになるのではないかと思われるが,いかがであろうか。

引用文献

中山誠ー・JacobSchnickel・Juergen Bulach・山内博之 (2017)『脱文法 100トピック実践英語

トレーニング』東京:ひつじ書房.

山内博之(2013)(編)『実践日本語教育スタンダード』東京:ひつじ書房.


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