Title The Great Gatsby にみられる Romanticism : "TheEve of St. Agnes"との比較を中心に
Author(s) 平井, 智子
Citation Osaka Literary Review. 35 P.106-P.118
Issue Date 1997-02-10
Text Version publisher
URL https://doi.org/10.18910/25380
DOI 10.18910/25380
rights
Note
Osaka University Knowledge Archive : OUKAOsaka University Knowledge Archive : OUKA
https://ir.library.osaka-u.ac.jp/repo/ouka/all/
Osaka University
TheGreatGatsbyに み ら れ るRomanticism
-"TheEveofSt.Agnes"と の 比 較 を 中 心 に 一
平 井 智 子
1
Fitzgeraldの 批 評 に お い て 、TheGreatGatsbyの 主 人 公Gatsbyと
TenderIstheNightの 主 人 公DickDiverは 、 頻 繁 に比 較 され続 けて きた。
しか し、 両 者 が対 等 な 関 係 に 併 置 さ れ る こ と は少 な く、 概 して、Dickは
「英 雄 」Gatsbyの 引 き立 て役 と して扱 わ れ、 「Gatsbyは 偉 大 な 英 雄 で あ る
が、Diverを 英雄 と呼 ぶ こ と はで きな い」 と い う意 見 が主 流 と な って い る。
表 面 的 に両 者 の 生 涯 を と らえ る な ら、Gatsbyは 成 り上 が り の密 造 業 者 、
Dickは 自 己犠 牲 に よ り精 神 分 裂 症 の女 性 を 回復 させ た 精 神科 医 で あ り、 ど
ち らか と いえ ば、Dickに こそ ヒー ロ ーの名 が ふ さわ し い。 そ れ を覆 す よ う
な、Gatsbyの 英雄 性 と は いか な る もの で あ ろ うか。
最 近 のGatsby批 評 の多 くは、Gatsbyを と り ま く外 的 世 界 に焦 点 を あ
て て い る。 と くに90年 代 に入 って は、 た とえ ば、 資 本 主 義 経 済 の興 隆 、 大 都
市 の 機 能、 性 の境 界 の解 体 な ど にっ いて 、 緻 密 で 示 唆 的 な論 文 が 発 表 され て
い る。 つ ま り、Fitzgerald作 品 を論 じる際 の も っ と も ポ ピ ュ ラ ー な 二 項 対
,立で あ る 「夢 と現 実 」 の、 「現 実」 の側 面 が 注 目 され て い る、 と い え る。 こ
れ にた い し、 本 論 は、 「な ぜGatsbyは 英 雄 と呼 ば れ るの か」 とい う出 発 点
に明 らか な よ うに、Gatsbyの 内 的世 界 、 す な わ ち 「夢 」 の面 に 目を向 け る。
た だ し、 これ は、 現 在 の 潮 流 に否 定 的 な 意 図 に よ る も の で は な い。The
GreatGatsbyと い う作 品 の 醍醐 味 は、 あ くま で も 「夢 」 と 「現 実 」 の ふ た
っ の世 界 の せ め ぎ あ い に あ る。 現 在 「現 実 」 が 鋭 く論 じ られ て い る反 面 、
「夢 」 の部 分 は、5、60年 代 の批 評 で 「ア メ リカ ン ・ ドリー ム」 の 一言 で片 づ
106
平井 智子107
け られ た ま ま にな って お り、Gatsbyの ・英 雄 性 につ い て も、 「ア メ リカ ン ・
ヒ ー ロ ー」 と い う言 葉 の も と に不 問 に さ れ て い る 感 が あ る。 も ち ろ ん 、
Gatsbyと い う人 物 を包 括 的 に論 じる な ら、Hawthorn以 来 の ア メ リカ ン ・
ロマ ンス の 流 れ は無 視 で き な いが、 こ こで は、 あ え て 、 「ア メ リカ」 と い う
枠 組 み の 中 で は と らえ られ な いGatsbyの 英 雄 性 を 考 え て み た い。
Gatsbyが 「現 実 」 と はあ らゆ る点 で対 照 的 な 「夢 」 を体 現 した人 物 で あ
る こ とは、 伝 統 的 な ものか ら非 常 に今 日的 な もの まで 、 あ らゆ る批 評 にお い
て、 つ ぎの 一 言 で 表 現 され る。 す な わ ち 、`romantic'で あ る。 以 下 は そ の
数 例 で あ る。
Almost predictably, the object of Gatsby's romantic quest, Daisy
Buchanan, comes to us in a double way.'
If the object of his affection was shallow and false, his love was
deep and true. His romantic love confronts reality and leads to
his destruction.2
In this way Gatsby's romantic vision of Daisy is given universal
validity as an act of the creative imagination.3
ま た 、 本 文 中 で も、Nickが 読 者 に 初 め てGatsbyを 紹 介 す る 箇 所 に
romanticと い う言 葉 が 使 用 され、`romantic'は 主 人 公Gatsbyを 端 的 に
表 現 す る に有 効 な形 容 詞 と して、 ま るで 呪 文 の よ うに唱 え 続 け られ て い る。
しか しな が ら、 こ の言 葉 が あ ま り に多 用 さ れ 、 「Gatsby=romantic」 の 図
式 が 固 定 さ れ る一 方 で 、romanticと い う言 葉 の 意 味 は あ ま り に 多 様 で 、
Gatsbyと い う人 物 は この と らえ が た い言 葉 に 遮 られ、 ぼ ん や り と霞 ん で い
る。
OEDに よ る`romantic'の 定 義 は、 「1)冒 険 と恋 を モ チ ー フ と し た ロマ
ンス の さ まざ ま な特 性 を もっ」、2)以 下 は そ こか ら派 生 した もので 、 「2)非
現 実 的 な、3)日 常 や 実 用 性 を超 え て い る、4)imaginationと 深 い 関 連 性
1・8ユ 鰭艦 讐 犠 、う蕩 盤钁鑼 聖を もっ 、 ロ マ ン主 義 の 流 れ を くむ 」、 と な る 。 批 評 家 の 中 で はRichard
Lehanが 、`romantic'の 比 較 的 明 確 な 定 義 付 け を して い る 。("The
romanticunfoldingofselfisinseparablefromtheromanticbelief
thattheuniverseisaliveandthatfulfillmentisaprocessof
growth."4)さ ら にLehanは 、KeatsのOdeに 謳 わ れ たNightingale
を喚 起 す る言 葉 をDaisyが 用 い て い る こ とか ら、 「Daisyこ そ がGatsby
のromanticismの 中核 を な す 」 と述 べ 、 「Daisyを 失 っ てGatsbyの
romanticismは 消 滅 す る」、 と結 論 づ けて い る。 こ こに 、 「GatsbyはKeats
風 のromantistで あ り、 彼 のromanticismを さ さ え るNightingale
と して のDaisyが 去 る と き、Gatsbyのromanticismはrealityの 前 に
敗 北 す る」 と い うGatsby批 評 にお け る定 番 の 図 式 が 見 られ る 。 しか し こ
れ は、TenderIstheNightの 批 評 で い わ れ る 「DickDiverは 、 作 品 の タ
イ トルの 出 典 と な っ たKeatsの`OdetoaNightingale'に あ る よ う な
romanticismを 追 求 しよ うと したが 、 妻Nicoleに 去 られ、 き び しい 現 実
の な か で 敗 北 す る 」 に あ ま り に も似 通 っ て お り、romanticな 特 質 は
Gatsbyの 存 在 の 中心 で あ る よ う に いわ れ る に もか か わ らず、 これ を も って
して は、Gatsbyは ヒー ロー で あ りDickは ヒー ローで は な い、 とい う両 者
の差 異 を証 明 しえ な い。
しか し、Gatsbyのromanticismは 、 考 慮 に値 しな い程 度 の もの で あ ろ
うか。Lehanの 考 え る よ うに、romanticな 思 考 とは限 りな い成 長 の信 奉 で
あ るな らば、 この作 品 は終 結 部 分 に至 る まで 、 そ の よ うな前 向 き な信 念 が 貫
か れ て い る よ うに思 わ れ る。
Gatsby believed in the green light, the orgastic future that
year by year recedes before us. It eluded us then, but that's
no matter — tomorrow we will run faster, stretch out our arms
further... And one fine morning —
So we beat on, boats against the current, borne back cease-
lessly into the past.5
平井 智子 109
「Gatsby=romantist」 とい う図 式 は さて お き、Gatsbyのromanticism
とDaisyの 連 結 に無 理 が あ る の で は な い だ ろ うか 。
II
Gatsbyのromantieismを 論 じる に あ た り、 本 論 で もKeatsの 詩 を 取
り上 げ る。 冒 頭 に上 げ たParkinsonの 論 に代表 さ れ る よ う に 、TheGreat
GatsbyとKeatsの 詩 が比 較 さ れ る際 に取 り上 げ られ る の は、`Odetoa
Nightingale'で あ る が、 こ こ で は、Fitzgeraldが 、 「Shakespeareを 含 め
て英 語 で書 か れ た もの の中 で 、 最 も豊 か で 、最 も官 能 的 な イ メ ジ ャ リー を含
ん で い る」 と述 べ た`TheEveofSt.Agnes'と の比 較 を行 う。
ま ず注 目す べ き は、 「無 謀 な求 愛 者 が 仲 介 者 の手 を借 りて 堅 く守 られ た 至
高 の女 性 を得 よ う とす る」 と い う両者 に 共 通 す る枠 組 み、 典 型 的 な ロマ ンス
の 原型 で あ る。Porphyroが 城 の 奥 に厚 く守 ら れ たMadelineを 手 に 入 れ
るよ うに、 若 き 日 のGatsbyは 高 値 の 花 で あ る女 性 、"Highinawhite
palacetheKing'sdaughter,thegoldengirl(p.115)"と 呼 ば れ る
Daisyを わ が もの に しよ うとす る。 この あ らす じが ロマ ンスの型 であ る ため、
多 くの 批評 で は、 こ こ まで の レベル でGatsbyをromantistと して い るの
で はな い だ ろ うか 。 興 味 深 いの は、 「Daisyに 手 を触 れ る権 利 が な い か ら こ
そ彼 女 を 手 に いれ た」 と本 文 中 に は っ き り と述 べ られ て い るよ うに、Gatsby
が 自分 のromanticな 行 動 につ いて 意 識 的 で 、 意 図 的 に ロ マ ンス の 型 を 実
践 しよ う と して い る点 で あ る。
PorphyroはMadelineを 求 め 屋 敷 の 奥 の 彼 女 の 寝 室 へ 入 り 込 む が 、
Daisyに 対 す るGatsbyの 情 熱 も、 彼 女 の家 に、 さ らに は、 彼 女 の 寝 室 に、
結 びっ け られ て い る。
It [Daisy's house] amazed him — he had never been in such a
beautiful house before. But what gave it an air of breathless
TheGreat(7atsbyに み られ るRomanticism110-"TheEveofSt .Agnes"と の比 較 を 中 心 に一
intensity, was that Daisy lived there — it was a casual thing to
her as his tent out at camp was to him. There was type of
mystery about it, a hint of bed rooms upstairs more beautiful
and cool than other bedrooms.... (pp. 141-142)
Daisyの 人 物 像 にっ いて、 か つ て の批 評 で は、 彼 女 が あ ま り に も奥 行 き
の な い俗 人 で あ り、Gatsbyの 純情 に値 しな い失 敗 作 で あ る、 とい う意 見 が
多 く見 られ た。 しか し、Gatsbyは 、Daisyの 「人 格 」 と い う近 代 的 な概 念
の対 象 を求 め て い る とい うよ り、 娘 を奪 う た め堅 く守 られ た家 に侵 入 す る と
い う ロマ ンス の形 式 の踏 襲 を、Daisyに 出 会 った 当 初 か ら重 視 して い る よ
うで あ る。
ま た、 「富 と愛 と い う矛 盾 す る もの が この小 説 の 中心 に存 在 す る」 と い う
意 見 も従 来 あ る が、 この ふ た っ の 要 素 もGatsbyのromanticismに と っ
て は そ れ ほ ど相 反 す る もの で は な い。1918年 の ア メ リカで は、 中 世 イ ング ラ
ン ドの よ うに禁 断 の存 在 と して武 力 に よ って 守 られ た処 女 な ど存 在 す る はず
は な く、 それ に相 当 す る もの は、 財 力 に よ って 貧 しい若 者 か ら隔 て ら れ、 求
愛 者 に取 り囲 ま れ て い るDaisyの よ うな娘 と い うこ と に な る。
月 の夜 、 人 目 を避 け て 恋 人 の 屋 敷 の 外 に た た ず むPorphyroの ご と く、
Gatsbyも 月 の光 を 浴 びな が らにDaisyの 家 の傍 らの 茂 み で 、 神 聖 な る見
張 りを続 けて い る。
Beside the portal doors,
Buttressed from moonlight, stands he, and implores
All saints to give him sight of Madeline,...6
He[Gatsby] put his hands in his coat pockets and turned back
eagerly to his scrutiny of the house, as though my presence
marred sacredness of the vigil. So I walked away and left him
standing there in the moonlight — watching over nothing.
(pp. 138-139)
平井 智子 111
自己 を ロマ ンス の ヒー ロー に仕 立 て 上 げ よ う とす るGatsbyのromantic
questに と って 、Daisyは 恰 好 の 獲 物 、Porphyroに と って のMadelineの
よ うな存 在 と いえ る。 また、Daisyを 守 る固 い殻 、 す な わ ち富 と い う 障 壁 を
突 き破 る行 為 が、Porphyroの よ う な ロ マ ン スの 主 人 公 に な る た めの 不 可 欠
な条 件 で あ れ ば、Gatsbyの 手 段 を選 ば な い金 儲 け は、 十 分 に正 当化 され る。
III
この よ うにDaisyを ロマ ンス の ヒ ロイ ンに な ぞ らえ る の は 、 「Daisyに
romanticismを 付 与 しす ぎ る と、Gatsbyを ヒ ー ロ ー と して 位 置 づ け る こ
とが 困難 に な る」 と述 べ た こ と と矛 盾 す るよ うに み え るか も しれ な い。 こ こ
か ら、Gatsbyが 自 らのromanticismを 全 うさせ る に あ た って は理 想 的 な
対 象 物 で あ るDaisyが 、 自身 で はromanticismを 完 全 に 体 現 す る こ とは
で き な い と い う問 題 を 、DaisyとMadelineの 類 似 と微 妙 な ず れ を と お し
て述 べて い きた い。
ま ず 、 こ のMadelineとDaisyが 奇 妙 に重 な る の はつ ぎ の 点 で あ る。
Gatsbyが 戦 場 に去 っ たの ち のDaisyと 彼 女 の 周 囲 で くりひろ げ られ るパ ー
テ ィの描 写 は、Madelineの 屋 敷 で 聖 ア グ ネ ス祭 前 夜 に催 さ れ る祝 宴 を 連 想
させ る。
All night the saxophones wailed the hopeless comment of the `Beale Street Blues' while a hundred pairs of golden and silver
slippers shuffled the shining dust. At the grey tea hour there
were always rooms that throbbed incessantly with this low,
sweet fever, while fresh faces drifted here and there like rose
petals blown by the sad horns around the floor. (p. 144)
Full of this whim was thoughtful Madeline:
The music, yearning like a God in pain,
112TheGreatGatsbyに み ら れ るRomanticism-"TheEveofSt .Agnes"と の 比 較 を 中 心 に 一
She scarecely heard: her maiden eyes divine,
Fixed on the floor, saw many a sweeping train
Pass by — she heeded not at all:...'
Daisyの 周 囲 で は に ぎや か パ ー テ ィー が 開 か れ 、 一 晩 中 もの 悲 しい 音 楽 が
鳴 り響 き、 華 やか で は あ るが 無 個 性 で っ か み ど こ ろの な い 人 々 、 「床 の 上 を
あ ち こ ち と 漂 う バ ラ の 花 び らの よ う な 」 宴 客 た ち が 集 っ て い る 。`St .
Agnes'に お いて も一 晩 中 奏 で られ る調 べ が繰 り返 し描 写 さ れ 、 豪 華 な 装 い
を した ひ とっ の 集 合 体 と して の宴 客 た ち(`revelry')が 、`Numerousas
shadows'と 描 写 され る よ う に、華 や か に、 しか し、 ぼ ん や り とMadeline
の まわ りを踊 って い る。 この踊 る宴 客 の様 子 は、 双 方 と も にそ の 足許 に焦 点
を当 て た 描 写 に な って い る。 ま た、 宴 果 て 眠 るDaisyの ベ ッ ドの 傍 ら の 床
に脱 ぎ捨 て られ た夜 会 服 は、Madelineの 寝 室 に忍 び込 ん だPorphyroが
発見 す る`emptydress'(空 の ドレ ス)を 思 い起 こさ せ る。
さ らに最 も共通 して い るの は、Madelineが 聖 ア グ ネ ス の奇 跡 に よ って 、
将 来 の夫 の姿 、visionを 夢 に見 る こ とを 切 望 す る よ うに 、Daisyも ま た 自
分 の人 生 が 決 定 され具 体 化 さ れ る こと を切 望 して い る。
And all the time something within her was crying for a
decision. She wanted her life shaped now, immediately — and
the decision must be made by some force — of love , of money, of unquestionable practicality — that was close at hand .
That force took shape in the middle of spring with the arrival
of Tom Buchanan. (p . 144)
Madelineの 夢 のvisionは 、 現 実 のPorphyroと して文字 どお りincarnate
す るが、Daisyの 切 望 も、KatheleenParkinsonの 指 摘 の よ う に、 将 来 の
夫 の 出 現 に他 な ら ず 、TomBuchananと い う現 実 の 男 性 と して`take
shape'(具 体 化)す る。
っ ぎに、 この類 似 の か げ にみ られ るDaisyとMadelineの 差 異 をみ て い
平井 智子 113
く。 上 記 の 引 用 に あ る よ う に 、 聖 ア グ ネ ス の ま じな い に心 を う ば わ れ た
Madelineは 、 に ぎ や か な音 楽 も耳 に は い らず 、 華 や か な 客 た ち の 姿 に 目 を
止 め る こ と もな く、 終 始 一 心 に その 信念 を貫 く。 い っぽ うDaisyは 、 流 行
の音 楽 や 華 や か な 人 々 に心 を奪 わ れ て、Gatsbyの 帰 還 を 待 っ決 心 を 捨 て 去
る。 さ らに、MadelineがPorphyroと 結 ば れ た 直 後 、 永 久 に 消 え 去 って
しま うの に た い し、Daisyは 彼 女 の願 いがTomと い うか た ち で 具 現 化 し
た の ち、1922年 と い う5年 後 の世 界 に まで 存 在 し続 けな けれ ば な らな い。
`romanticmoment'と は、Madelineの よ う に持 続 す るimaginationの
強 い力 で現 実 を 超 え たvisionを 喚 起 し、 自己 を そ れ と同一 化 す る 瞬 間 の こ
とで はな い で あ ろ うか 。Keatsの 詩 に お い て は 、 この 瞬 間 の 後 に は殺 伐 た
るrealworldへ の 回帰 が運 命 づ け られ て い るが 、Madelineは 、 こ の 瞬 間
の後 この世 界 に 長 く と ど ま る こ とを しな い。imaginationの 力 を もた ず 、
visionの 成 就 した後 の世 界 に とど ま るDaisyは 、Madelineに な り き る こ
と はで きな い。 彼 女 は、Gatsbyのromanticismを 喚 起 す る媒 体 と な り え
て も、 み ず か らがromanticな 存 在 に は な り え な い。MadelineとDaisy
を比 較 す る と、 両 者 の 重 な る部 分 に は、 ロマ ン スの ヒロイ ン とい う外 形 の共
有 が み られ 、 そ の差 異 、 っ ま りDaisyの 失 敗 に は 、 よ り深 い レベ ル で の
romanticism、 内 的 経 験 と してromanticismを もち え る能 力 の有 無 が 見 え
て くる。
IV
`St.Agnes'に お い て、 も っと もromanticな 人 物 と は、Porphyroで な
く、 強 いimaginationの 力 を もっMadelineで あ る。DaisyはMadeline
に な る こ と は で き な い が 、TheGreatGatsbyに はDaisyとMadeline
の 差 異 を う め る他 の 人 物 が 存 在 す る。 そ れ は 、 主 人 公Gatsbyで あ る。
GatsbyとMadelineの 類 似 は、 っ ぎ の よ うな点 にみ られ る。
聖 ア グ ネ スの 加 護 を 一 心 に願 い、 横 た わ るMadelineは 奇 妙 な 、 半 覚 醒
・14ヱ 鰭艦 讐 儷 、う暢 盤爨職 辞一
半睡眠状態に陥る。
Soon trembling in her soft and chilly nest,
In sort of wakeful swoon, perplexed she lay.
Until the poppied warmth of sleep oppressed
Her soothed limbs, and soul fatigued away,
Flown, like a thought, until the morrow-day;...8
Gatsbyも ま た、 自分 の将 来 にっ い て の突 拍 子 もな い想 像 を描 き なが ら、 こ
の よ うな`wakefulswoon'を 経 験 す る。
The most grotesque and fantastic conceits haunted him in his
bed at night. A universe of ineffable gaudiness spun itself out
in his brain while the clock ticked on the washstand and the
moon soaked with wet light his tangled clothes upon the floor.
Each night he added the pattern of his fancies until drowsiness
closed down upon some vivid scene with an oblivious embrace.
For a while these reveries provided an outlet for his imagina-
tion... (p. 95)
Madelineの 場 合 の よ うに ベ ッ ドの傍 らに は脱 い だ衣 服 、 そ して 、Daisyの
寝 室 に は欠 けて いた 、romanticismの 象 徴 、`St.Agnes'で は全 編 を 通 じ
重 要 な モ チ ー フ とな って い る、 月 の光 、 が こ こに あ る。
と こ ろで、Gatsbyに お け るMadelineの 夢 のvisionと の 同 等 物 、 彼 の
imaginationが 生 み 出 し たvision、 彼 が こ れ か ら 自 己 と一 体 化 す べ き
visionと は、 い った い何 で あ ろ うか 。 こ のvisionの 正 体 をDaisyと す る
と ころ に、 先 ほ ど述 べ た よ うな誤 解 が生 じ る と思 わ れ る。
Daisyに 出 会 うは るか 以 前 、17歳 のJamesGatsは 、JayGatsbyと い
う名前 を、 そ して、 それ を もっ に ふ さ わ しい人 物 像 を想 像 す る こと によ って、
さ き ほ どの よ う なimaginationに か りた て られ た 神 秘 的 な 瞬 間 、realと
unrealが 交 錯 す る 瞬 間 を経 験 して い る。Gatsbyのvisionと は、Daisyで
平井 智子 115
は な く、 こ のJayGatsbyと い う人 物 像 で はな い だ ろ うか 。Gatsbyの 生
涯 と は、 こ のvisionの 具 現 化 の歴 史 、 自 らが そ のvisionを 演 じる こ とに
よ り、 っ ね にvisionに 形 を与 え 自 己 を同 一 化 して い く過 程 で あ る と思 わ れ
る。
も う一点 、GatsbyとMadelineのimaginationの 類似 点 と して 、 宗 教
的 な 側 面 を あ げ て お き た い。BernardBlackstoneは 、`TheEveofSt.
Agnes'を 括 弧付 きのromanticな 詩 と述 べ、 そ の 根 拠 が`religiousnote'
(宗 教 的 な色 彩)に あ る と して い る。9一 方 、Gatsbyと は`Godby'(神 の
子)を 意 味 し、Gatsbyと い うvisionの 実 現 は神 の 意 志 の 実 現 で もあ る。
He was a son of God — a phrase which, if it means anything,
means just that — and he must be about His Father's business,
the service of a vast, vulgar, and meretricious beauty. (p. 95)
お と め
純 潔 の守 護 聖 人 に捧 げ た処 女 の祈 りが 肉 体 の愛 へ と昇 華 す る不 思議 な 融合
が 、Keatsのromanticismを 高 め る こ と は あ っ て も傷 っ け る こ と が な い
よ うに、Gatsbyの 一 連 の奇 妙 な言動 、世 俗 の 美 へ の奉 仕 は、 彼 のroman-
ticismの 中 で は神 の 意 志 か らはず れ る こ と はな い。 両 作 品 と も に、 と もす
れ ば`vulgar'に な りが ち な 要 素 が 宗 教 的 な 色 彩 と融 合 し たromanticism
が み られ、 この点 で もGatsbyをKeats風 のromantistと 呼 ぶ こ とが で
き る。
V
そ れ で もGatsbyをromantistと 呼ぶ こ とに た い して い くっ か反 論 が あ
が るで あ ろ う。 反論 を 仮 想 しなが ら、Gatsbyに よ るKeats風 のroman-
ticismの 成 就 を再 確 認 す る。
た しか にGatsbyのimaginationが 描 き出 すvisionは 、romanticと
呼 ぶ に は滑 稽 で 見 当 違 い な もので あ る。JayGatsbyと い う人 物 像 は、 三 文
116The、 讎 鯉 ツA瞬、戦 罅 鑁墨職 匹
冒険 小 説 か ら抽 出 さ れ て お り、romanticが す ぎてburlesqueに 転 ん だ と
もいえ る陳 腐 な面 を も って い る。 に もか か わ らず 、 最 終 的 に はそ の滑 稽 さ が
払 拭 され る の は、 前 出 の神 の意 志 と い う正 当化 と、 ロマ ンスの信 奉 の 異 常 な
まで の 強 力 さ、intensityが あ るた め で あ る。
Gatsbyは 、 自 らが ロマ ンス の ヒー ロー に な ろ う とす る だ け で な く、 ロ マ
ンスに ふ さわ しい舞 台 が 現 代 に存 在 しな い とな る と、 自 らの手 で そ れ を 仕 掛
け よ うす る。 彼 は、RonaldBermanに よれ ば 、 「曲 解 さ れ た 中世 ロ マ ン ス
の 非現 実 的 な雰 囲 気 を醸 し出 す 」 と い う中 世 的 な シル エ ッ トを もっ大 邸 宅 を
購 入 し、Madelineの 館 の パ ー テ ィー の よ うな盛 大 なパ ー テ ィー を開催 す る。
作 品 中 で 詳 細 に 描 写 さ れ る 二 回 の パ ー テ ィ ー で 、`TheEveofSt.
Agnes'と 同 様 に真 夜 中 に 月が 最 も高 く昇 って い る の も、Gatsbyの 徹 底 し
た ロマ ン スへ の執 着 を裏 付 け る。
Gatsbyの 死 は、romanticismの 敗 北 と読 み と る こ と も可 能 で あ る が 、
MadelineとPorphyroの 館 か らの逃 亡 と同様 に、romanticな も の を う け
い れ な いrealworldと の決 定 的 な決 別 と もい え る ロマ ンス の主 人 公 にふ さ
わ しい終 末 で あ り、romanticなvisionの 究 極 的 な完 成 と考 え る こ と も可
能 で あ る。
最 期 の 場 面 で、 月 は高 く昇 り、Gatsbyの 屋 敷 の前 に立 っNickは 、 これ
も`romanticmoment'と いえ る、 初 め て 新 大 陸 と対 面 す る船 員 た ち の 驚
嘆 の瞬 間 を思 い描 く。 そ して 、 「た と え 流 れ に過 去 へ と押 し戻 され よ う と、
そ の流 れ に逆 らい なが ら前 に漕 ぎ続 けて い こ う」 と決心 す る ことで、Gatsby
のromanticismを 自 らの 内的 世 界 に と り こみ、 こ こに両 者 の世 界 の 融 合 が
完 了 す る。Gatsbyの 一 連 の 行 動 がvisionの 具 現 化 で あ る よ う に、Nick
の語 り もま た 当 初 は謎 に満 ち た主 人 公Gatsbyに 肉付 け(incarnate)し て
い く過 程 とい え 、 この 作 品全 体 がKeatsの 詩 に み られ る、 想 像 ・具 体 化 ・
一 体 化 と い う一 連 のromanticな 作用 に 乗 っ取 って い る こ とが わ か る。
RichardLehanの 批 評 は 、 そ の タ イ トル`TheLimitsofWonder'
に 明 らか な よ う に 、Gatsbyの 運 命 が 敗 北 で あ る こ と 、 夢 が 現 実 に 、
平井 智子 119
romanticismがmodernismに 圧 倒 され る こ と を、TheGreatGatsbyの
主 軸 と と らえ て い る。 しか し、Keatsのromanticismと い う観 点 か ら眺
め る な ら ば、Gatsbyの 一 連 の行 動 は あ ら ゆ る 点 でromanticな 意 図 に さ
さえ られ 、 最 終 的 にそ のromanticismは 貫 徹 さ れ て い る。 段 階 的 に追 って
い くと まず 、 そ の行 動 が形 式 と して の ロマ ンス と一 致 す る、 それ は偶 発 的 な
もの で な くGatsby本 人 に よ って 意 図 的 に仕 組 ま れ て い る、 こ の ロ マ ン ス
の主 人 公 た る べ きJayGatsbyと い う人 物 はromanticmomentに 生 成 さ
れ たimaginationの 産物 、 す な わ ち、visionで あ る、 身 を持 って ロマ ン ス
を実 現 させ る とは そ のvisionに 自己 を 同一 化 させ る こ とで あ り、 最 終 的 に
GatsbyとNickの 共 同作 業 に よ ってJayGatsbyと い うvisionが 結 晶
し、`TheGreatGatsbyはromanticの 側 に 傾 いて い る、 と考 え られ る。
Gatsbyは 時 代 遅 れ のromanticismを 保 持 し続 け た最 後 のromantist
で あ り、 最 終 的 に 自 ら の う ち に 沸 き起 こ る笑 い に の ま れ て し ま うDick
Diverはromanticismを 貫 徹 で き な か っ た 、 と い う の が 、TheGreat
GatsbyとTenderIstheNightの 決 定 的 な相 違 で あ る。 そ れ ぞ れ の 作 品
は 「最 後 の 田 舎 者 」 と 呼 ば れ たFitzgeraldが 、modernの 波 を ま と も に う
けな が らか ろ う じて前 に進 んで い た時 期 と、 完 全 に波 に押 し返 され て し ま っ
た時 期 を 象 徴 して い る とい え る。
注
1 Roger Lewis, "Money, Love, and Aspiration in The Great Gatsby"
in New Essays on The Great Gatsby, edited by Mattew Bruccoli
(Cambridge: Cambridge University Press, 1985), p. 44. 2 Dan Seiters, Image Patterns in the Novels of F. Scott Fitzgerald
(Michigan: UMI Research Press, 1986), p. 80. 3 Kathleen Parkinson, F. Scott Fitzgerald: The Great Gatsby
(London: Penguin Books, 1987), p.44. 4 Richard Lehan, The Great Gatsby: The Limits of Wonder (Boston:
Twayn Publisher's, 1990), p.61.
5 F. Scott Fitzgerald, The Great Gatsby (London: Penguin Books,
118TheGreatGatsbyに み られ るRomanticism
-"TheEveofSt .Agnes"と の比 較 を 中 心 に 一
1984),p.171.以 下 この作 品 か らの引 用 は この版 に よ りペ ー ジ数 のみ を 記 す。
6 John Keats, "The Eve of St. Agnes" in Keats: The Complete
Poems edited by Miriam Allot (London: Longman Group Ltd.,
1970), 11. 74-76.
7 ibid., 11. 55-59.
8 ibid., 11. 231-239.
9 Bernard Blackstone, "The Eve of St. ' Agnes" in Twentieth
Interpretations of THE EVE OF ST. AGNES edited by Allan
Danzig (New Jersey: Prentice-Hall, Inc., 1971), p. 40.