No.27 2016年4月１日発行 モーリス・シュバリエが創唱した歌に「パリは永遠に（Paris sera toujours paris ）」がある。発表されたのは一九三九年の十一月。同年九月にはドイツ軍がポーランドに侵攻し、第二次世界大戦が勃発。翌年六月十四日にはドイツ軍がパリに無血入城する。ちょうどその狭間の時期だ。そんな時代の不穏な空気感、ナチスドイツに対する恐怖と嫌悪、やがて訪れる不幸な時代を暗示し、しかしどんな事があっても永遠の都パリは変わることがないと、高らかに歌っている。この曲を初めて歌ったのは、数年前のパリ祭。軽快なテンポ、明るいメロディであるから、オープニングのシーンで使われた。そして、昨年二度目の来日公演を行ったZAZ もアルパム「PARIS 」の中で歌っていたことから、僕自身も昨年十月十七日の草月ホールでの自分コンサートでこの曲を取り上げた。その約一か月後の十一月十三日、パリで同時多発テロが起こる。パリに住む知人たちは幸いにもその全てが無事であることは伝え聞いていたけれど、中には実際に会って元気でいることを確認したい友人もいたし、何よりも事件後のパリの街がどんな空気感でいるのか、自分の肌で感じてみたかった。「いつ何が起こるかわからない。危倹だからj と、当然のことながらパリを訪れる観光客は激減。二月という最も寒い時期でもあったが、二月十一日からの一週間、パリに行って来た。実際に訪れたパリは、少しも変わらぬパリだった。以前とは違うなと感じたのはふたつ。まずは街中での荷物検査が厳重だったこと。劇場、美術館、デパートなどでは、必ず入り口でカバンの中を碗認された。しかし、それほど厳しいものではなかったし、何かをとがめられたり、没収されるようなことはなかった。もうひとつは、三人一組で巡回する軍人の姿をよく目にしたこと。肩から機関銃を下げているのだが、日常的に武器に触れ合う経験が無いせいか、そういったものを目にしても、緊張感や恐怖を感じないのは日本人ならではの問題点か…。一方、空港での出入国の際も荷物検査が特別厳しいということはなく、怖いこと、嫌な思い、困ったことなど何一つない一週間であった。それからさらに一か月。三月十八日に隣国ベルギーのブリュッセルでイスラム国のテロ実行犯が拘束され、その四日後の二十二日に空港と地下鉄で、またも卑劣な無差別テロが起きた。世界中を包むこの嫌な空気感は、いったいいつになったら晴れるのだろうか？人類の理性が勝り、一日も早く平和な世界が築かれることを、そして多くの人々が芸術の都、美食の都、永遠の都パリを、モーリス・シュバリエが愛したパリを、再び訪れる日が来ることを切に祈るばかりだ。（筆者はシャンソン歌手）1 ▲高木椋太氏
